H23 年度報告書 - 電気通信大学 大学教育センター

H23 年度報告書 - 電気通信大学 大学教育センター
電気通信大学
全学教育・学生支援機構
大学教育センター
年度報告書
平成24年3月
電気通信大学
巻 頭 言
大学教育センター長 田中勝己
平成 22 年 4 月の IE 学部、研究科の改組と同時に大学教育センターは「企画開発部門」
「教
育推進部門」
「教育課程部門」の 3 部門構成へと組織を変更し、
「学生支援センター」
「アドミ
ッションセンター」とともに「全学教育・学生支援機構」を構成し、学生の教育と支援を行う
重要な組織と位置づけられた。IE のみならず IS 研究科から部門員の選出を行い、学部教育に
関しては IE 研究科との 6 年一貫教育に係る連携性と 4 年制学部として見たときの独立性と完
結性、大学院教育における IE 研究科と IS 研究科との連携など、
「機能別分化」と「教育の質
保証」というキーワードによる電気通信大学全体を俯瞰する見地からの検討と審議を行う。
構成を新たにした大学教育センターにおいて今年度関わった重要な事項として、
「企画開発部
門」におけるTA制度の検討、国際科目の検討、e-ラーニングの状況、カリキュラムマップ検
討、卒業生アンケート、
「教育推進部門」におけるFD諸活動、特に教職員支援のための連続講
演会と学生対応ワークショップの企画、
「教育課程部門」における共通教育部との連携、を挙げ
ることができる。それぞれについては各部門における報告書の中で御欄頂きたい。
特に、カリキュラムマップはカリキュラムの客観的評価の意味合いと具体的な改善を可能と
する仕組みを大学自体が持ち、外的な評価に対する客観的説明、証左検証システムとして提示
できる意味で重要なテーマと捉えている。時間は掛かるがシステムの中身と構成、目的を満足
する仕組みを検討すべく改善に向けた議論継続を期待する。地道で成果を示しにくい教育を実
質化する、それを自ら証明するという矛盾した難題を課す外圧に対し、充分な説明責任を果た
して行くために避けては通れない施策の一つであると確信している。
組織改編された大学教育センターにおける諸活動が本学の教育の実質化に貢献すべく特に 3
部門の連携については再検討と検証が必要であろう。活動内容については議論されており、今
後はそれらの内容が規程に記載された内容と照らし合わせ、規程等の修正も必要となろう。
「企
画開発部門」は大学教育センターの意思、方針を決定する中枢機能として、部門間の連携を図
る意味からも重要な位置づけがなされ、その運営には特に留意すべきであろう。この 2 年間で
特に活発になった「教育推進部門」の活動についてはその継続に関わる検討が必要であろう。
「教育課程部門」の諸活動については再検証が必要と判断している。見方を変えて、
“日本全体
あるいは世界の高等教育を視野に入れて活動している大学教育センターは殆ど無い。センター
が自分の大学のことしか考えなくなったら日本の高等教育の方向性を誰が探求し示すことがで
きるのか?”
(例えば、
『IDE 現代の高等教育』の No537 の「一滴」(2012 年 1 月号 p.54))と
考えると、特に国立大学における大学教育センターの日本の高等教育における位置づけの再認
識も必要と感じる。
アドミッションポリシー、カリキュラムポリシー、ディプロマポリシーの管理を連携して行
う必要から全学教育・学生支援機構の機能と位置づけが重要視される。大学教育センターの立
ち位置についても教職員の更なる議論と努力による改善を祈念します。
平成 24 年3月吉日
目
巻頭言
大学教育センター長
第1部
平成23年度活動報告
第2部
第3部
次
田中
勝己
(1) 企画開発部門・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
(2) 教育推進部門・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
(3) 教育課程部門・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
各WG等からの報告
(1) TA制度検討WGからの報告・・・・・・・・・・
5
(2) 国際科目検討WGからの報告・・・・・・・・・・
9
(3) eラーニングとの連携検討WGからの報告・・・・
10
(4) カリキュラムマップ調査の集計・・・・・・・・・
14
(5) 卒業生アンケートについて・・・・・・・・・・・
20
FD活動報告
(1) 「学生による授業評価」について・・・・・・・・
25
情報理工学部・電気通信学部
大学院情報理工学研究科/電気通信学研究科・・
25
大学院情報システム学研究科・・・・・・・・・
37
(2) 学術院新任教育系職員研修について・・・・・・・
44
(3) 大学セミナーハウス新任教員研修について・・・・
48
(4) 成績評価分布について・・・・・・・・・・・・・
53
(5) 公開授業について・・・・・・・・・・・・・・・
59
(6) 教職員支援のための連続講演会について・・・・・
64
(7) 学生対応ワークショップについて・・・・・・・・
159
(8) 基礎学力・基礎体力調査について・・・・・・・・
164
(9) 技術英語FD講演会について・・・・・・・・・・
165
(10) 英語FD活動について・・・・・・・・・・・・・
169
(11) FDセミナーについて・・・・・・・・・・・・・
174
大学教育センター構成員一覧・・・・・・・・・・・・・・・・
177
第1部
平成23年度活動報告
平成 23 年度 企画開発部門活動年次報告
企画開発部門長
田中勝己
企画開発部門はディプロマポリシー(DP)
、カリキュラムポリシー(CP)の管理、教育カ
リキュラムの企画立案などを目的とし、IE,IS を包含した電気通信大学としての学部、大学院
全体をも俯瞰した教育の実質化とその質保証を自ら証明するシステムを構築するための大学全
体を見渡した議論が求められている。大学教育センター3 部門の部門長も部門員として参加し、
部門間の連携を図る機能をも併せ持つ大学教育センター中枢の重要部門である。
本年度、本部門にて集中して審議を行ってきた事柄として以下を挙げる。
(1) TA制度の検討 (詳細は当該WGよりの報告を参照)
TA 制度に関わる問題点の整理とその解決策についての検討、と教育効果を担保するシステ
ム作りとその構築方法の提言を目的として「TA 制度検討 WG」を設置し、検討を行った。
WG主査:田中
(2) 国際科目の検討 (詳細は当該報告を参照)
国際科目の整備を国際化の見地から検討する WG を設立し、教育科目の国際化について検討
を行うこととした。
WG主査:鈴木勝先生
(3) 学内e-ラーニング環境の整備について (詳細は当該報告を参照)
学内における様々な状況と環境下で行われているe-ラーニングおよびコンピュータ支援教
育システムについて、e-ラーニングセンターとの連携、環境構築の方向性について提言を
行った。
WG主査:中村淳先生
(4) カリキュラムマップについて (詳細は当該報告を参照)
教育の実質化を担保するための評価システムとして、カリキュラムマップ案を作成し、昨年
度各学科、部会に回答を依頼した。その結果について解析を行い、評価法、因子について検
討を行い、改善に向けた方向性を探索している。
担当:桑田正行先生
(5) 卒業生アンケートについて (詳細は当該報告を参照)
継続的で系統的なアンケートを計画し、その一環として卒業生、大学院修了生対するアンケ
ートと就職関係のアンケートとともに行った。
☆企画開発部門会議記録
第 10 回 平成 23 年 4 月 18 日(水)10:40-12:00
第 11 回 平成 23 年 5 月 31 日(水)16:20-17:50
第 12 回 平成 23 年 7 月 7 日(金)13:10-14:30
第 13 回 平成 23 年 10 月 4 日(火)13:10-14:30
第 14 回 平成 23 年 11 月 9 日(水)10:40-12:00
第 15 回 平成 23 年 12 月 8 日(月)10:40-12:00
第 16 回 平成 24 年 1 月 6 日(火)13:10-14:30
第 17 回 平成 24 年 2 月 14 日(火)16:15-17:45
1
WG主査:桑田正行先生
平成23年度教育推進部門活動報告
教育推進部門長 阿部公輝
教育推進部門は、ファカルティ・ディベロプメント、教育環境の整備、その他教育に関
わる調査を通じ、本学の教育活動の推進に寄与するとともに、教職員が日常の教育活動の
中で出会う悩みの解決を支援し、学生のよりよい学びに貢献することを目指す。本年度は
次の活動を行った。
1.教育活動のモニタリングと改善
本学では、学生の学習姿勢、講義など教員の教育活動に対する学生の評価などを知るた
め、学期ごとに、学生による授業評価アンケート調査を行ってきている。本年度も引き続
き教育推進部門において前学期と後学期で実施した。今年度はとくに、本調査結果を教育
活動における教員支援につなげるための検討を行なった。また、成績評価分布の調査・分
析から成績評価の検証を行なった。
2.研修プログラムの提供
授業改善に必要な基礎的知識、シラバス設計法、大学教授法の基礎、メンタルヘルスな
どの研修を、新任教員をはじめとする学内教員に提供した。また、授業の工夫に資するた
め、また、教員をエンカレッジする意味で、学生から高い評価を得ている授業を、実践例
紹介の形で公開した。さらに、広く社会との関係において大学教育は何ができるかについ
て、社会学、教育学、心理学それぞれの分野の第一人者を招いて連続講演会を開催した。
本年度は大学セミナーハウスのご協力により、講演会には学外から多くの参加者があった。
3.学生対応における教職員支援
双方向の学びを通して学内のリソースがつながり、学生の学びの支援がいっそう充実す
ることを目指し、3回にわたるワークショップを実施した。ワークショップでは、本学学
生相談室のカウンセラーから実際の相談事例を紹介してもらい、心理臨床の専門家による
進行と助言により、実際の例を通して学生の発達への支援の考え方、方法、連携のあり方
等について学んだ。
活動に当たり、学内外の諸先生皆様からたくさんのご協力をいただいた。連続講演会で
は、ご多忙の中、東京大学大学院教育学研究科の本田由紀先生、中釜洋子先生、くらしき
作陽大学の有本章先生にお越しいただき、すばらしいお話しを賜った。また、ワークショ
ップでは、元日本大学文理学部心理学科教授の佐藤誠先生と臨床心理士の阿部愛子先生に
たいへん懇切なご指導を賜った。講演会の実施においては、公益財団法人大学セミナーハ
ウスの荻上紘一先生と池田茂氏にはたいへんお世話になった。広報では、大学セミナーハ
ウスと(株)キャンパスクリエイトにご協力いただいた。また、さまざまな面で学内の多
くの先生方からお力をいただいた。教務課の皆様には本部門の活動を支えていただいた。
ここに感謝の意を表す。
2
平成23年度教育課程部門活動報告
教育課程部門長
鈴木 勝
大学教育センター教育課程部門は以下に掲げる4項目を主な活動として、教育システムを
カリキュラムの視点から運営し、教育活動の充実を図ることを目的としている。
1.
カリキュラムポリシーに基づくカリキュラムマップの作成に関すること。
2.
カリキュラム編成に関すること。
3.
授業科目担当の調整に関すること。
4.
その他、学部・大学院との連携による授業の円滑な推進に関すること。
平成22年度4月には電気通信学部および研究科が、情報理工学部および同研究科へと
改組され教育カリキュラムの大幅な変更が行われた。現在、1年および2次学生は情報理工
学部に在学して新しい教育カリキュラムでの学習を行い、また3年次以降の学生は電気通信
学部の教育カリキュラムでの学習を行っている。また大学院である情報理工学研究科では博
士前期課程は2年次まで在学し、本年度3月に修了生を出す。後期課程では1、2年次学生
は情報理工学研究科に在学し、3年次以降の高学年の学生は電気通信学研究科としての学
習カリキュラムでの学習である。なお、情報システム学研究科は平成19年4月に再編成が
行なわれた。このような状況での現在の教育カリキュラム重要な課題は、情報理工学部お
よび同研究科のカリキュラムに関しての円滑な運営である。
情報理工学部および同研究科の教育カリキュラムはそれぞれの改組提案において確定さ
れており、年次進行により実施される。情報理工学部では3年次の必修科目として「技術英
語」が設定されており、本年度はその実施のための準備が行われた。また、平成22年度に就
業力養成事業に採択されたこと、平成23年度では概算要求「イノベイティブPBL」お
よび理数学生育成支援事業「UECパスポートプログラム」に採択された。これらの採択
により、次年度以降にいくつかのカリキュラム変更等が実施される。
本年度の教育課程部門では、情報理工学部および同研究科の教育カリキュラムの2つの重
要課題を取り上げ、 WGとして①「国際科目検討WG」(主査 鈴木 勝教授)、および ②
「言語自習室検討 WG」(主査 樽井 武教授)を立ち上げて、その検討を行った。これらの検
討事項は、本学の基本方針である学生の国際性を育成と密接に関連する。以下に、それぞ
れのWGの役割等について記載する。
「国際科目検討WG」
情報理工部では学生の国際性を養う科目として、総合文化科目および専門科目に国際科
目を開講する。この科目は学部教育の国際化方策の一環として、本学と国際交流協定を締結
している機関から受入れている短期留学生とともに受講する英語で実施する授業科目である。
また、情報理工学研究科では留学生の受講を容易にするとともに、日本人学生が英語で学
習できるように英語による授業科目が開講されている。
3
本WGは、学生の国際性を育成のために、学部の国際科目と大学院の英語で開講する科目
のあり方等を検討することを目的として設置した。本WGの答申は既に企画開発会議に提出
されている。
「言語自習室検討 WG」
現在、言語自習室では e ラーニング教材等の学生への提供と自習スペースの開放を行っ
ている。その運営は共通教育部総合文化部会に属する(有志の)教員を中心としたグループ
により行われているが、教育カリキュラム等の関連を含め、その位置づけは明確ではない。来
年度は情報理工学部の3年次に「技術英語」が開講され、広い意味での語学教育のカリキュ
ラムが大きく変化すし、今後は言語自習室の役割と位置づけを明確にすることは重要となる。
本WGは、語学教育における言語自習室のあり方とそれに伴う運営について検討すること
を目的として設置した。本WGの答申は本年度中に提出の予定である。
4
第2部
WGからの報告
TA 制度検討 WG 報告
TA 制度検討 WG
主査
田中 勝己
TA 制度検討 WG の報告として、WG 設置の経緯、背景、WG からの答申について報告する。
1.WG 設立に至る経緯
第 9 回大学教育センター企画開発部門会議(平成 23 年 2 月 23 日開催)にてセンター長から「本
学におけるTA(制度)の確立に向けて」同部門にて審議依頼がされた。内容は以下。
=経緯と背景=
平成 22 年度より教員の一元化による学術院の設置により、TA経費が大学教育センターに一
括して配算され、IE,ISへのTA経費の配分について検討を行い、大学教育センター「企画
開発部門」においてIE学部、IE研究科、IS研究科全体に関する「TA経費使用のガイドラ
イン」ならびに「TA経費の申請について」答申を行った。この基準に従って、学部、研究科か
ら申請頂いた平成 23 年度のTA雇用計画に対して、各科目へのTA雇用の可否について審査を
行い、その結果をIE学部教育委員会にて報告を行った。
=目的=
TAに関しては、その確保に多くの困難と支障を伴っている現実とともに、質の保証(教育シ
ステムの必要性)
、
院生等がTAをすることに対する研究室指導教員の理解不足など多くの問題が
存在する。TAを教育システムの一貫と捉え、
「TA(制度)による教育の質保証とその検証方法」
を目指して『TAとその制度はどうあるべきか』を検討し、TA(制度)を積極的に「本学の教
育システムに実効的に取り込む施策」が求められる。大学教育センター「企画開発部門」におい
て、進め方、WGの構成などを検討頂き、学内におけるTAの諸問題について検討を加え、改善
方法とともにTAセンターなどの方策の提案とその実現に向けた対応をお願いしたい。
2.WG 答申
上記の審議依頼に基づき、平成 23 年度の企画開発部門において『TA制度検討 WG』を設置し、
中間答申【平成 23 年 6 月末日】最終答申【平成 23 年 10 月末日】を纏めてきた。
3.最終答申の審議、了承、報告の経緯
・平成 23 年 10 月 4 日
大学教育センター「企画開発部門会議」 審議・了承
・平成 23 年 10 月 19 日 大学教育センター「企画開発会議」 審議・了承
・平成 23 年 10 月 20 日 全学教育・学生支援機構運営委員会 報告
・平成 23 年 11 月 14 日 学部教育委員会 報告
4.今後について
TA 制度についての最終答申に基づき、大学教育センターでは企画開発部門に阿部(浩)先生
を主査とする『TA センター設計 WG』を設置し、TA 支援室(仮称)設置とその業務内容の検討
を行っている。
5
*TA 制度の最終答申について以下に掲げる。
TA 制度について
最終答申
1.背景
旧大学教育センター教育企画部における活動の一つとして、TA の意義と目的、TA 雇用に際し
ての責任などに関する内容で、TA を勤めることになる院生のみならず担当科目の教員を対象と
した「TA 研修」が毎年開催されてきた。参加した学生の意識向上が見られる一方で、研修会へ
の参加が学生の主体性に任され開催時間の制約などにより参加者は極めて限定的である、院生の
みで教員の参加がほとんど無い、研修の内容が実際に TA の補助する科目の多様性に対応できな
い等、研修の実効性に関して問題点が指摘されてきた。平成 22 年度の情報理工学部、同研究科
の改組とともに新体制の大学教育センターが設立された。学内の TA 経費が一括して大学教育セ
ンターに配算され、その裁量が委ねられたことに伴い、同センター企画開発部門に TA 経費検討
WG を設立し、TA をつけるべき科目の基準等の検討を行い答申が行われた(
「TA 経費配分検討
WG 答申」
:平成 22 年 10 月 1 日、阿部浩二 WG 主査)
。この答申に従って大学教育センターに
おいて裁定を行い、
平成 23 年度の授業科目について TA をつける科目を暫定的に決定するに至っ
た。この TA 経費検討 WG の答申の最後に TA センター(仮称)設立の必要性が提言されている。
以上の経緯から、大学教育センターにおいて TA 制度の検討について諮問(
「本学における TA
(制度)の確立に向けて」平成 23 年 2 月 23 日、大学教育センター長)がなされ、同センター第
9 回の企画開発部門会議において審議の結果、TA 制度の検討を行う事が承認され、同部門に TA
制度検討 WG(仮称)を設置することとした。
この WG の目的は、1)教育の実質化のための補助的ではあるが教育効果を確実に確保するため
の1手段として認識され、
かつ高等教育において容認された制度としてのTAの意義を再確認し、
本学における TA に関する問題点の整理とその解決策について検討すること、2)教育効果を確
保し最大限に高めるためのシステム作りとそのシステム構築方策について提言を行うこと、であ
る。
TA 制度検討 WG(仮称)では、問題点と検討事項、問題解決の方策等について審議を行い、
TA センター(仮称)の設立提言などを骨子とした内容の中間答申を平成 23 年 6 月に纏めるに至
った。中間答申で検討を行った項目について更に検証を行い以下最終答申として報告する。
なお、通常「学部生による教育補助」は SA と略称されるが、本答申では広義の TA と呼ぶこと
とし、TA の対象として大学院生に学部生を含めて検討を進めることとした。
2.TA(制度)に関する問題点
TA に関わる喫緊の問題として、
『基礎教育、共通教育など全学に関わる科目に対する TA の確
保が困難』という事実を踏まえ、当該 WG ではこの問題の解決策を出発点として TA に関わる諸
事について審議を行った。
最終的に以下の 5 項目についての検討が重要であるとの結論に達した。
○教育効果向上のための TA の質と量の担保方法
○(基礎教育、共通教育など全学に関わる科目を補助する)TA を集める(応募者獲得)方策
○TA に関わる作業をどこ(組織)が責任を持って運営、管理するのか
6
○当該組織の所属と在り方(その組織と大学教育センターとの関係)
○当該組織の構成メンバー
なお、
(全学に関わる科目以外の)各科目の TA についての確保方法等については、以降検討を加えて
いくこととした。
3.審議、検討した事項、および提言
1)TA センター(仮称)の設立
TA 経費検討 WG(上述)の答申では、以下に記載した業務を行う組織として TA センター(仮
称)の必要性が謳われている。TA 制度検討 WG(仮称)においてもこの精神を尊重し、TA セ
ンター(仮称)設立について審議、検討を行った。
*TA 制度の運営・管理
*TA 経費の申請、審査
*TA の教育及び講習
このうち、初めの 2 つの項目「*TA 制度の運営・管理」と「*TA 経費の申請、審査」につ
いては TA センター(仮称)で行うことが適当と判断した。特に『学内の TA 経費の配算と裁
量』は最終的には大学教育センターで審議、決定することとなるが、平成 24 年度の TA 経費配
算に向けてその裁量に向けた実質的な議論と検討を行う実務組織は平成 23 年度内にはすでに
設立されていることが必要となる。また、当該 WG では2.で述べた TA に関する喫緊の問題点
『基礎教育、共通教育など全学に関わる科目に対する TA の確保』を最も優先する検討課題と
捉え、この課題解決策として列挙した 5 項目を検討する組織としても TA センター(仮称)を
想定できると結論した。以上の理由より、TA センター(仮称)を平成 23 年度内に設立し、平
成 24 年度より実質的な活動を可能とする体制整備を行うよう提言する。
2)TA に関する教育啓発システムの構築
TA 経費検討 WG の答申における第 3 項目「*TA の教育及び講習」に関連して、TA を行う
院生とともに TA を雇用する教員に対して、その意義、心構えなどについて講習・教育を行う
必要性が指摘されている。これは従前の「TA 研修」の精神を引き継ぐものであり、教育の実
質化に関連して TA を活用する制度について、その実効性を担保するシステムの一つとして投
影される。この一連のシステム構築実現をめざし、TA の教育と講習に関して以下の検討が必
要と結論する。なお、この検討については TA センター(仮称)が行うことが相応しい。
+TA 教育とその内容、方法
+TA 講習会の内容と開催時期
上記の*で記した3項目に加え、TA 制度の問題点として○で記した 5 つの項目についても TA
センター(仮称)で検討を行うことを想定している。しかし、TA 制度の問題点として○で記し
た 5 つの検討項目は必ずしも TA センター(仮称)のみで解決できる性格のものではなく、他の
組織にも検討が委ねられ、全学的に問題が解決されるべきであると判断される。これら5つの検
討項目に加え、TA センター(仮称)の業務内容、名称、組織の位置づけと TA 制度全般に関する
制度設計については大学教育センターにおいても検討を行うことが必須である。
次に TA 制度一般に関して審議、検討を加えた事項と提言について記載する。これらの実施・
運用を行うに際し、その組織、システムの検証とその方法については大学教育センターでの議論
7
を要する。
3)
「学部生による教育補助」の(TA としての)積極的活用
学部 4 年生(場合によっては 3 年生)による学部 1,2 年次の基礎教育、共通教育への教育補
助を制度として積極的に取り入れることが必要である。
4)学生間の連携・継続性を重視した TA を継承できるシステムの構築
学部生から大学院に至る「教えられる立場」を経験、理解した上で「補助する立場」
「教え
る立場」へ移行する継続的で連携性の確立された、学生による自主的な教育補助システム構築
が必要である。
5)TA に関する表彰制度の導入
基礎教育と共通教育の科目については表彰制度を導入すべきと判断する。その理由として、
共通した教育内容による教育が行われること、共通した基準で各 TA の評価をしやすい点を踏
まえ、優れた貢献、成果を上げた TA を表彰することにより基礎教育に関わる TA を確保する
方策とすることが可能となることによる。同時に、共通教育に関わる TA へ Incentive を与え、
更に Encourage することができるとの判断による。
なお、TA(制度)の問題点に掲げた、○TA を確保する方策、○TA の質と量を担保する方
法、については多くの解決策が検討されるべきであり、ここで掲げる表彰制度はその一例であ
ることを付記する。
6)弾力的運用が可能な TA 制度とその設計
基礎教育科目、専門教育科目、情報理工学研究科、情報システム研究科など、それぞれのカ
リキュラムの特色を活かした弾力的な運用が可能な TA 制度の設計を検討する必要がある。
最後に、早急に大学教育センター企画開発部門にて審議を要する事項として、以下に再掲する。
・TA センター(仮称)の業務内容、名称、組織の位置づけ、構成員
・各検討項目について、検討を行う組織と実施組織、ならびに検証組織と検証法
平成 23 年9月
TA 制度検討 WG メンバー
主査 田中 勝己
阿部 浩二
内海 彰
桑田 正行
鈴木 勝
末廣 尚士
8
国際科目検討WG報告
教育課程部門長
鈴木 勝
本学の基本方針として学部教育では学生の主体性・国際性・倫理観を育成する教育の実
践と、大学院教育では国際化を積極的に推進した社会や技術を先導する人材の養成が掲げ
られている。国際科目検討WGは、本学の教育の国際化の視点から、学部での「国際科目」と
情報理工学研究科では、「英語で開講する科目」のあり方に検討することを目的に、平成22
年度に設置された。WG 主査は教育課程部門長
鈴木 勝,WG メンバーは村松 正和、桐
本 哲郎、鈴木 雅久である。本 WG はメール審議を中心に意見交換をして、本年度 11 月に
「国際科目群の科目整備・大学院授業の英語化に関するWG」からの提言を企画開発部門
会議に提出し、語句の修正を行い企画開発会議にて提言が了承された。国際科目検討 WG
での議論の要旨と提言の内容を以下にまとめる。
現在、情報理工学部では国際化方策の一環として、本学と国際交流協定を締結している
機関から受入れている短期留学生とともに受講する英語で実施する授業科目として「国際科
目」が設置され、総合文化科目と専門科目(全学で20科目)の開講が予定されている。また、
大学院教育においては、情報理工学研究科では、「英語で開講する科目」を設定し、教育カ
リキュラムの国際化を進めている。教育の国際化には本 WG が検討している教育科目群の整
備のみならず、全学的な視点から国際化の方向性を推進する体制の構築が必要であるとの
意見が出された。しかし一方で、学部・大学院教育における国際科目,および大学院授業の
英語化に限っても,現在,その企画・運営体制が明確になっているとは言い難いとの結論で
あった。
上記の議論に基づき、本 WG は、本学の教育カリキュラムの国際化をさらに進めるにあたっ
ての第一段階として国際科目および大学院授業の英語化に関する企画・運営体制を整備す
る必要があると考え、以下を内容を提言した。教育カリキュラムの国際化に企画・運営責任を
持つ教員グループ(学科・専攻から1名(以上)、共通教育部およびその他を代表する教員に
より構成)を共通教育部内に設置すること、また、その業務は、1)学部における「国際科目」の
企画・運営,2)代学院における「英語で開講する科目」の企画・運営、3)その他、必要な事項
でとするものである。
以上、本 WG の提言が本学の学生教育の国際化に貢献することを期待する。
9
e ラーニングセンターとの連携検討WG報告
(学内 e ラーニング環境の整備について)
e ラーニングセンターとの連携検討 WG
主査 中村 淳
中期計画において「Web によるシラバスの閲覧など学習支援情報の提供や、自立的学習や
FD活動を支援する e-ラーニングの活用等の環境を整備・充実する」が示されたことを受け、
昨年度に引き続き平成23年度の年度計画においても「e-ラーニングを利用した授業改善につ
いて検討を行う」ことが定められた。あわせて「Web によるシラバスの閲覧など学習支援情報
の提供について整備・充実を図る」ことも新たに定められた。大学教育センター企画開発部門
下に設置された「e ラーニングセンターとの連携検討 WG」では、昨年度に引き続き、学内 e
ラーニング環境の最適を念頭に、まず(1)学内の e ラーニング環境の実態の把握と、
(2)問
題点の整理、
(3)シラバスシステムをはじめとする学内 Web システムについての改善検討、
を行った。
1.学内の e ラーニング環境の実態
1.1 e ラーニングセンター
学内には、e ラーニングの実質的なセンターとして、e ラーニングセンター(平成21年度
までは「e ラーニング推進センター」
)が設置されている。e ラーニング推進センターは、文部
科学省の平成 16 年度「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(略称:現代 GP)
」の e-Learning
部門での採択を契機に、平成 17 年 4 月から正式に発足し現在に至っている。e ラーニングセン
ターは、e ラーニング実践環境を全学向けに提供・展開するとともに、e ラーニングに関する研
究開発も行っている。本学の学生が、いつでも(anytime)
、どこでも(anywhere)
、インター
ネットを利用して学習できる自律的学習環境を提供することはもちろん、コンテンツ作成用機
材の貸し出しや、フォーラム・セミナー、初心者向け講習会なども行っている。
e ラ ーニング センタ ーでは LMS (Learning Management System) と して、商 用
の”WebClass”を使用しながら、
(1)講義資料(コンテンツ)の公開(MS-Word, MS-PP, LaTeX, pdf など種々のフォーマッ
トに対応)
(2)ブラウザ上での試験の実施と解答の例示(主に選択式問題)
(3)学生の履修状況(ログイン時間、回数や、演習の実施状況、成績など)の管理
(4)通常講義での使用の他、予習・復習用、補助教材、休講時の自習用などでの利用
などが、比較的簡単な操作で構築できるようになっている。
1.2 非商用システムによる e ラーニング環境
WebClass とは異なるシステムを利用したサーバも学内(e ラーニングセンター「外」
)で
立ち上がっている。大学教育 GP「コア・カリキュラム教育の質保証」のもとに環境整備が進
む情報系科目(1年次「コンピュータリテラシー」など)では、LMS として、商用ソフトで
はなくフリーソフトウェア(GNU GPL)の”Moodle”を導入している。システム維持に実質年
数百万円かかる WebClass とは異なり、”Moodle”ではシステム本体は無料で動作の改変(カス
10
タマイズ)も可能である。また、Web ベースシステムなので OS の種類に依らない特徴も持つ。
ただし、フリーウェアのため専門知識を持った技術者(担当者)が常時サポート・管理・シス
テム維持をする必要がある。
なお、前述「コア・カリキュラム教育の質保証」GP の物理系科目(1年次「物理学概論
第一、第二」
)では e ラーニングセンターの WebClass を用いた統一管理を実施している。ま
た、教育 GP 用に教材サーバ(MC サーバ)が、LMS とは独立に設置されている。これは現在、
学生向けではなく、教員間の教材・情報共有用として使われている。
1.3 学科ローカルサイトで提供される e ラーニング環境
旧知能機械工学科では、2年次、3年次の学科共通必修科目の一部について、演習問題、
試験問題の解答解説、授業内容の要点要約や補足説明資料等を、Web ページ上に公開している。
学生は、自由に資料の利用が可能である。
旧電子工学科では、電子工学実験(2年次第一、3年次第二)の e ラーニングサーバが立
ち上がっている。特別な LMS は使用せず、基本的な HTML ベースの教材提供ではあるが、実
験課題の目標や要点、実験方法や実験器具の使用方法・規格などの他、考察内容のヒント、Web
上仮想実験(シミュレーション)などを、系統的に提供している。レポート提出などに関する、
各教員からの連絡事項やお知らせなども随時更新される。20年近くに及ぶ運用実績があり、
全国の電子工学実験 Web サイトのひな形としての評価も高い。
その他、基礎科学実験(1年次全学科必修科目)など、他の実験・演習科目でも、教材提
供のサーバが独自に立ち上げられている。
1.4 その他(教員個人ベースの教材提供)
各教員が、個別に授業用の「Web ページ」に教材を置いたり、場合によっては学生のアク
セス調査なども実施しており、これらも、広義の「e ラーニング」教材・サイトに位置づけら
れる。また、情報基盤センターでは、教育用システム上に教員の教材を公開するための領域が
用意されており、情報基盤センターを利用する授業を中心に、教員個人あるいは情報系実験科
目の教材・コンテンツが用意されている。しかし、残念ながら e ラーニングセンター、大学
GP 等の組織外に置かれる、
こうした教員個別の e ラーニング教材サイトの数をはじめとして、
運用実態の全貌ついては、事実上、掌握不可能な状態にある。
2.学内の e ラーニング環境の問題点
最も大きな問題点は、
(教員個別サイトも含めた)学内 e ラーニング環境の運用が統一的・
系統的に管理されていない、ということに尽きる。これが原因で
(1)Web 上の e ラーニング環境へのアクセス
(2)シラバスとの連携
(3)学務情報システムとの連携
(4)情報基盤システムとの連携
が悪く、利用者である学生・教員双方とも手軽に利用できる環境が整っていない。結果として
e ラーニングセンターも(位置づけとしては「センター」を謳ってはいるものの)実質的な「セ
ンター」の役割を果たせていない。
11
e ラーニングサイトへのアクセス性:
ユーザの立場から見た各種 e ラーニングサイトの使い勝手の悪さは、例えば学内 e ラーニ
ングのトップフロントである e ラーニングセンターの WebClass トップページへのアクセスが
悪い、ということに象徴されている。大学トップページに用意されている「在学生の方」タブ
内のメニューからは、WebClass にログインできるサイトへのリンクをはじめ、他の e ラーニ
ングサイトへのリンクも存在しない。WebClass をはじめとして、他の e ラーニングサイトへ
も、学生は何らかの方法で、あらかじめ知らされたサイトアドレスに直接アクセスしなければ
閲覧することができない。また、WebClass は学外からの利用も可能であるが、情報系部門で
運用する
「コンピュータリテラシー」
のサイトへは今のところ学外からはアクセス不能である。
Anytime, Anywhere の精神、個人情報との切り離し:
学生が授業内容を知ることができるのは、
「シラバス」である。シラバスには、教員が用意
する e ラーニングサイトへのリンクを張ることが可能であるが、現在(教員自身が編集可能な)
この「シラバス」は、ログインが必要な学務情報システムの内部に存在する。学務情報システ
ムは学生の個人情報を管理することを目的とするシステムであり、そもそも公開を前提として
いる「シラバス」との整合性は悪い。
「教材」は必ずしも完全公開である必要はないが、履修学
生が「いつでも」
「どこでも」利用できる e ラーニングの特徴を活かすためには、個人情報が同
居するサイトに置かれることは望ましくない。教員側から見ても、自分の教材にアクセスする
ために、学生の個人情報があるサイトを経由して教材にアクセスする必要があるとなると、プ
ロジェクターを用いた授業や情報基盤センター演習室のコンピュータ画面共有などによる授業
は、個人情報保護の観点から望ましくない。
3.学内の e ラーニング環境構築の方向性
学生の視点からは、数ある e ラーニングサイトへの統一的な窓口が必要となろう(いわゆ
る「ポータル(窓口)サイト」
)
。学生は、大学の Web 資源へは、基本的に大学トップページ「在
学生の方へ」
からたどる。
このタブ内に用意されるコンテンツの見通しを良くする必要がある。
この際、学生の個人情報を含むアクセス制限領域と、カリキュラム内容・シラバスなど公開を
前提とする領域(完全公開領域と、履修者などの特定のユーザ限定領域に分けられる)との明
確な線引きが必要である。ユーザの必要度に合わせたウェブサイトコンテンツ構築は理論もあ
り、その道の専門家の意見も取り入れるべきであろう。これは、e ラーニングセンターのみの
問題ではなく、入試・広報課、情報基盤センター、教務課情報管理係を含めた、大学 Web 資源
の抜本的な見直しを必要とするものである。ただし、これには時間・予算・人的資源が必要で、
喫緊の学生のニーズに応えるためには、場当たり的な対応もやむを得ない部分もある。例えば、
「e ラーニングサイト(あるいは教材サイト)
」への統一的あるいは系統的なアクセス経路を示
すために、学内サイト高位の場所に e ラーニングポータルサイトを設置するだけでも、学生の
みならず教員にも見通しの良さを与えるであろう。これにより、例えば、
(1)教材の重複の回避
(2)複数クラス開講科目の授業内容統一
(3)教育資源の再利用による負担の軽減
など、教員側の利便性も進むと考えられる。そこで、本年度は、大学教育センターで把握でき
ている各種 e ラーニングサーバのポータルサイトを設置することとした。これにより、少なく
とも学生にとってのユーザビリティは向上するはずである。
12
また、e ラーニングサイトには、現在「複数ある LMS からのアクセス」
、
「直接アクセス
(URL アクセス)
」
、
「シラバスからのアクセス」と、アクセス経路が授業科目により統一感が
ないが、
「時間割」に e ラーニングサイトあるいはシラバス(オープンアクセスサイト)へのア
クセス機能を持たせることができれば、
(1)履修科目選択の際の利便性
(2)一般国民、受験生へのカリキュラム内容の公開(コースツリーやカリキュラムマップ
とも連携)
などの促進、ひいては、教員本人の、授業内容のブラッシュアップへの意識向上にもつながる
と考えられる。
ただ、長期的視点に立てば、学内 Web サイトの根本的見直しが必要であり、中期計画レベ
ルで、大学教育センターがリーダーシップを取りながら、入試・広報課、教務課、e ラーニン
グセンター、情報基盤センターを横断する「e ラーニング資源の系統的利用・管理方策検討チ
ーム」を立ち上げ、詳細な検討を開始する必要がある。その際、
(1)e ラーニングの本学における位置づけ
(2)e ラーニング導入によりどのような教育効果を期待するのか
(3)学生、教員は e ラーニングに何を期待(要望)しているのか
を(再)定義、
(再)確認することが望まれる。
大学教育センター企画開発部門
e ラーニングセンターとの連携検討 WG
桑田 正行 准教授
鈴木 勝
教授
中村 淳
准教授(主査)
13
カリキュラムマップ調査の集計
大学教育センター 桑田 正行
1.
はじめに
カリキュラムマップ検討 WG の答申に基づいて,授業科目がカリキュラムマップ(CM)因子
(A. 専門的学力:理数基礎力,工学基礎力,専門展開力,B. 社会人基礎力:問題解決・自己
開拓力,コミュニケーション能力,技術者教養力)について,
◎ … 大いに関連し,当該科目の最重要な目的である
○ … 関連があり,当該科目の目的の一つである
△ … 目的として挙げてはいないが,当該科目の受講によって副次的に身に付く
無印 … 当該科目とは関連がない
という観点から調査が行われた。
その調査結果の集計方法を検討し,集計した結果と今後の方針について報告する。
2.
集計方法と結果
カリキュラムマップ調査結果を,◎を 3 点,○を 2 点,△を 1 点で数値化して集計した。
上級科目 68 科目中 56 科目回答,技術英語は回答なしであった。
なお,大学院連携科目(専門科目),自由科目(M 科,S 科)は調査されていないので集計対象科
目から除外する。また,留学生用科目は今回は除外する。これら除外した科目は一般学生の卒
業所要単位ではないので,集計結果の検討にあまり影響はない。
2.1 集計区分
集計単位の科目区分を次に示す。
(1) 総合文化科目:人文社会科学,言語文化,健康・スポーツ,理工系教養,上級,国際,全
体
(2) 実践教育科目:初年次導入,倫理・キャリア,技術英語,全体
(3) 学科共通科目:理数基礎,
(留学生用科目は集計の対象から除外)
(4) 総合情報学科:学科専門基礎,メディア情報学コース,経営情報学コース,
セキュリティ情報学コース,全体
(5) 情報・通信工学科:学科専門基礎,情報通信システムコース,電子情報システムコース,
情報数理工学コース,コンピュータサイエンスコース,全体
(6) 知能機械工学科:学科専門基礎,先端ロボティクスコース,機械システムコース,
電子制御システムコース,全体
(7) 先進理工学科:学科専門基礎,電子工学コース,光エレクトロニクスコース,
応用物理工学コース,生体機能システムコース,全体
科目区分ごとに開講科目数が異なり,授業科目の時間数・単位数が異なるので,単に集計し
ただけでは科目区分間での比較ができない。したがって,科目数や単位数時間数を加味した集
計が必要となる。ここでは,以下に示すいくつかの正規化を行った。
14
2.2 科目数で正規化
科目区分ごとの集計を集計した科目数で正規化して比較してみる。この処理によって各科目
区分の特徴が明白になる。
結果のレーダーチャートの傾向は後述の単位数での正規化と同じなので図は省略する。
2.3 単位数で正規化
科目区分ごとに集計する際に,単位数で重み付けをして集計し,集計結果を科目区分での総
単位数で割ることにより,科目区分ごとに単位数当たりの得点を算出した。
結果を図 1.1~図 1.8 に示す。
2.4 卒業所要単位数での重み付けによる基準モデルの作成
単位数で正規化した結果は科目区分ごとの単位当たりの得点となっているので,これに科目
区分ごとに卒業所要単位数を乗じれば,各学科の卒業時のカリキュラムマップ得点が得られる
(基準モデル)。
各学生の履修状況からカリキュラムマップ得点を算出して,この基準モデルと比較ができる。
集計した結果,各学科でのコースごとの差異はほとんどないので(図 2.1 参照),学科間の差
異を比べるために各学科の第一コースを取り出してまとめてみた。結果を図 2.2 に示す。
J 科のメディア情報学コースと M 科の先端ロボティクスコースはほぼ重なっている。
2.5 授業時間数による重み付けが必要である。
授業科目により授業時間数が異なる。時間数により能力の育成度は異なるはずである。
そこで,
科目区分ごとに集計する際,単位数と時間数の両方で重み付けをして集計してみた。
時間数に関する正規化をどのように行うべきか,行う必要があるのかについては,まだ結論
に達していない。
結果を図 3.1~図 3.8 に示す。科目区分の特徴が明確になっている。
3.
今回の調査の問題点と今後の検討事項
今回の調査のカリキュラムマップ(CM)因子は,簡易的なものである。ディプロマポリシー
(DP)を策定し,その DP から CM 因子を抽出して,再度調査をする必要がある。
また,授業担当者が CM 因子との関連度について,単純にチェックしただけである。本来は
カリキュラムポリシー(CP)を考慮して,科目区分ごとにその科目区分全体でのカリキュラム課
程をまとめる立場の者が CM を作成すべきである。
その際,次のことも考慮する必要がある。
(1) 各科目区分として達成すべき能力は何であるか。
(2) 不足している部分の補足はどうするか。他の科目区分に一任してよいのか。
(3) 実際にそれらの能力が身に付いたかの評価方法はどうするか。
(4) 成績の評価方法は妥当か。
15
4.
CM 集計結果の活用
活用については,大学教育センター年度報告書(平成 23 年 3 月の「系統的アンケート検討 WG
報告」で述べたが,ここに CM に関連する部分を抜粋して修正したものを示す。
4.1 卒業時の調査(教育の質保証:DP の達成度と CP との整合性)
教育の成果は,DP の達成度で評価できる。ここでは,DP に対応した本学の教育目標を調査
項目として考え,これらの教育目標の達成度を数値化して評価することにする。質保証の目標
として,学士力,社会人基礎力といった社会的な要請を考慮する必要がある。
これらの教育目標は,さらに下位の教育目標からなると考えられる(CM 作成で明確化)。ど
のレベルの教育目標で調査するかは今後の検討事項である(報告書では目標 1~11 を示した)
。
身に付けるべき能力因子とそれを構成する下位能力を明確化することにより,CM に示され
た各授業科目の因子の数値化も可能となる。
(1) 学生による自己評価と DP の可視化
各目標がどの程度身に付いているか(できるか)をアンケート調査する。
〔選択肢〕 4:十分,3:かなり,2:ある程度(多少),1:ほとんどない
結果はレーダーチャートで可視化する。
さらに,これらは主にどの科目(区分)で身に付いたと考えられるか調査するとよい。
(2) 教員による評価と DP の可視化
学生による自己評価と同じ調査項目で,教員による評価を行う。
定量的な評価は困難であるので,実施は今後の検討課題とする。しかし,次の(3)で置き換
え可能である。
(3) データ処理による成績からの評価と DP の可視化(妥当な CM の存在が前提)
CM から各授業科目で育成される各 CM 因子との関連性を数値化 (◎:3,○:2,△:1,無
印:0)して,その授業科目の成績 (S:4,A:3,B:2,C:1,D:0) で重み付けすることにより,
その授業科目で育成された CM 因子を得点化する。これをすべての履修科目で総計する。
なお,総計する際,各授業科目の単位数でなく時間数で行う。厳密性を考えると,授業科
目の成績は,CM 因子ごとに定量化する必要がある(このことを各教員に要求するのは非
常に困難である)。
このようにして育成される CM 因子の定量化を行い,レーダーチャートで可視化する。
この結果と(1)の結果の相関を分析することにより,学生側と教員側の双方向の評価が可能
となる。
(4) 全体での個人の位置付けの可視化
全体(全学,学科,課程)集計結果と個人の結果をレーダーチャートで可視化することによ
り,学生は自分の状況を把握できる。
(5) 学科の標準モデルとの比較の可視化
学科ごとの標準モデルはあり得るか。コースの標準モデルは。①と②の違いはあるか。
① 必修科目だけの成績で,すべて A(モデル 1)についてレーダーチャートを作成する。
② さらに選択科目の履修モデルを設定して,必修科目と選択科目の成績で,すべて A(モ
デル 2)についてレーダーチャートを作成する。
これらのモデルと学生のレーダーチャートの形の比較をする。
報告書の時点では以上のように記したが,今回の集計結果からは学科ごとの標準モデルは作
成可能である。
16
4.2 在学中の調査(教育の質保証,単位の実質化:CP の妥当性・整合性)
DP を具現化する CP に基づいて作成されたカリキュラムの妥当性・整合性を,CM をもと
に調査する。また,従来の学生による授業評価を授業改善の観点から実施する。満足度調査
については別記。
(1) CP の DP 充足度年次推移調査
CM 調査を開講年次ごとに累積集計することにより,DP 充足度とカリキュラムの学年配
置の整合性を評価できる。
(2) 学生の修得度年次推移調査
学生の単位修得状況調査を年次ごとに実施することにより,修得度の年次推移がわかり,
CP の学年配置の妥当性を評価できる。
(3) 成績評価の妥当性調査
教育の質保証・単位の実質化の観点から,CM 因子と関連付けられた授業で育成されると
した学習到達目標(能力因子)の達成度を評価できる成績評価になっているかどうかをチェ
ックする必要がある。
(4) データ処理による成績からの評価
卒業時の調査と同じ。
5.
おわりに
カリキュラムマップ調査をいくつかの観点から集計した。また,今回の調査の問題点と今後
の検討事項を示した。さらに,カリキュラムマップ調査の集計結果の活用について述べた。
17
18
19
卒業生アンケートについて
大学教育センター 桑田 正行
1.はじめに
本学は平成 16 年に国立大学法人となり、在学生、卒業生、修了生が社会からどのように評
価されているかが、今までにも増して問われるようになった。そこで、本学が社会で一定の役
割を果たし発展していくために、卒業生・修了生のから意見を聴収し、それを学生への指導の
改善に反映したいと考え、平成 18 年にアンケート調査を実施した。平成 22 年度の改組の際に
は、それらの意見も参考にした。前回の調査から 5 年が経過したので、前回の調査との比較を
考慮して同じ調査項目で実施した。
2.アンケート調査の概要
2.1 調査対象者
学部卒業後 2 年、6 年、10 年および 14 年経過した卒業生と、博士前期課程終了後 4 年およ
び 8 年経過した修了生、2639 名を対象とした(前回は 2894 名)
。
表1 調査対象者の区分
区分
卒業・修了後経過年
卒業・修了年
出身大学等
人数
1
学部卒業後 2 年
平成 20 年度(平成 21(2009)年 3 月) 卒
学部だけ
385 名
2
学部卒業後 6 年
平成 16 年度(平成 17(2005)年 3 月) 卒
学部だけ
410 名
3
学部卒業後 10 年
平成 12 年度(平成 13(2001)年 3 月) 卒
学部だけ
487 名
4
学部卒業後 14 年
平成 8 年度(平成 9(1997)年 3 月) 卒 学部だけ
595 名
5
修士修了後 4 年
平成 18 年度(平成 19(2007)年 3 月) 修
他大学部卒
72 名
6
修士修了後 4 年
平成 18 年度(平成 19(2007)年 3 月) 修
本学学部卒
57 名
7
修士修了後 8 年
平成 14 年度(平成 15(2003)年 3 月) 修
他大学部卒
354 名
8
修士修了後 8 年
平成 14 年度(平成 15(2003)年 3 月) 修
本学学部卒
279 名
2.2 調査方法
調査用紙(設問と回答記入欄)と返信用封筒を郵送し、回答を返信用封筒で本学に郵送して
もらう。なお、Web 上での回答もできるようにした。
(1)郵送時期: 平成 23 年 8 月下旬
(2)回答期限: 平成 23 年 9 月末(調査用紙が届いてから1ヶ月)
(3)調査用紙は3種類(前回との変更点:業種の分類、句読点・用語の統一)
(a) 電気通信大学卒業生アンケート調査(2011 年度)
、(b) 電気通信大学大学院修了生
アンケート調査(2011 年度)
、(c) 電気通信大学就職関係アンケート調査(2011 年度)
本学の学部だけを卒業した場合には(a)と(c)の用紙を、大学院だけを修了した場合には
(b)と(c)の用紙を、本学の学部を卒業しかつ本学の大学院を修了した場合には(a), (b), (c)の
用紙を同封した。
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(4)回答数: 郵送(卒業生 79 名、修了生 31 名)
、Web(卒業生 63 名、修了生 36 名)で、
卒業生 142 名(前回 424 名)
、修了生 67 名(前回 214 名)
。
※前回は、郵送分(卒業生 116 名、修了生 37 名)が少なかったため研究室で把握して
いる卒業生・修了生に Web 回答を追加で依頼した。
3.アンケート結果
回答数が少ないこともあり、前回同様に卒業・修了年次によらない全体での集計をした。
表2 博士課程への進学率(参考)
電通大前期課程 他大学前期課程 電通大後期課程 他大学後期課程
今回
前回
今回
前回
今回
前回
今回
前回
学部卒
50.0% 20.3%
4.9%
4.5%
7.5%
1.5%
大学院修了
1.5% 11.8%
0.0%
0.9%
3.1 電気通信大学で学んだことが、現在のキャリア形成にどのように役立っているか
設問(5)の集計結果を前回と比較できるように下表3にまとめた。
設問(5)
:学部(大学院)時代に電気通信大学で学んだことが、これまでのキャリア(仕事)
でどのような点で有益でしたか? 当てはまる項目の番号すべてに○をつけてください。
表3 設問(5)の集計結果
学部卒回答率 院修了回答率
選択肢
今回
前回
今回
前回
1 より高度な理工系の基礎を身につけていることが,業務で役立っている。
73.9% 60.8% 40.3% 38.2%
2 専門科目の授業内容が,業務を支える基礎となっている。
42.3% 39.2% 26.9% 27.4%
3 専門科目以外で,業務に役立っていることがある。
21.8% 17.2%
4 卒業論文研究・ゼミで研究・学習した経験や方法が,業務の遂行に役立っている。
57.7% 49.5%
3 修士論文研究・ゼミで研究・学習した経験や方法が,業務の遂行に役立っている。
76.1% 69.3%
4 修士論文研究・ゼミで研究・学習した内容自体が,業務の遂行に役立っている。
25.4% 28.3%
5
他分野・他業種の人々との論理的なコミュニケーションをとりやすいことが,業務を促進させている。
23.2% 18.2% 26.9% 18.4%
6
プログラミングその他のコンピュータ利用技術が高度に優れていることが業務に活きている。
42.3% 44.8% 37.3% 32.5%
7 論理的に筋道が通ったプレゼンテーションができることが業務に有利である。 35.2% 24.3% 47.8% 38.2%
8 新しい科学や技術の原理を理解し,判断し,利用できるので,業務を円滑に遂行できる。
18.3% 20.0% 13.4% 21.7%
9 データ処理や解析を高度に行なうことができるので,業務に有利である。
21.8% 27.6% 19.4% 21.2%
10 様々な現象に対して高度にモデル化ができることが,業務の助けとなっている。
9.2%
11 その他
9.2%
8.7%
7.5% 15.1%
3.0%
以下、紙面の都合で学部卒の回答結果をもとにまとめる。
3.1.1 専門科目は現在のキャリア形成にどのように役立っているか
表3から、学部では前回以上に「基礎学力と卒業研究を重視している本学の教育方針を支持
している結果となっている。大学院修了生も前回以上に「論文研究・ゼミで研究・学習した経
験や方法」が役立っていると回答している。また、本学が重視している論理的なコミュニケー
ション・プレゼンテーション力が役立つとの回答も増加している。
21
3.1.2 専門基礎科目は現在のキャリア形成にどのように役立っているか
回答者 142 名中 51.0%が役立つ科目を書いている。数学関係 48.8%、物理関係 29.8%、情報
関係 22.6%、基礎科学実験 15.5%となっている。在学中には重要性が把握しにくいが、社会に
出て仕事に従事する際には役立っていることを裏付ける「業務で知識がない人に教えることが
あるので基礎が身についていることが重要である」
「技術職の為、
これが無いと仕事にならない」
といった回答があった。
3.1.3 総合文化科目は現在のキャリア形成にどのように役立っているか
設問4の「学部時代に履修して有意義だった科目」に、前回同様に特になしや無回答が語学
科目で 62.7%、一般教養科目で 72.5%にも達する。しかし、設問7・8の回答で語学力不足を
痛感していることから、
キャリア形成に向けての語学教育の必要性をもっと強調すべきである。
業務は他分野・他業種・多文化の人との関わりで行うので、外国語でのコミュニケーション、
外国語の文書の理解、ものごとの考え方や人間についての教養科目は役立っている。英語は専
門科目のようなものとの意見もあった。設問のあいまいさからか授業科目以外(学園祭実行委
員、サークル活動など)の回答もあった。
3.2 卒業生の評価による電気通信大学のカリキュラムの諸問題
3.2.1 卒業生の見た電気通信大学の教育の特徴
設問6
「他の大学と比較して,
電気通信大学の教育の特徴と考えられることは何でしょうか。
」
では、無回答 19.7%、特になし 0.7%、他大学を知らない 9.9%の 30.3%を回答数から除外。
前回同様「専門に特化している」という回答が顕著で 33.3%であるが、その面視野が狭いとい
う意見 3%を含む。
「
(入学は優しく)進級・卒業は難しい。教育の評価が高い。学生の質は上
がる」といった肯定的な意見が 10.1%ある。
「実用的である。即戦力としてみなされる。社会
的評価が高い」4.0%。
設問7
「学部時代にもう少し勉強をしておけばよかったと思うことは何でしょうか?」
では、
86.3%が科目名等をあげている。この中で英語を含む語学力が 38.7%と前回同様に多い。これ
は次の設問8の不足しているスキルを反映している。
設問8「現在の仕事で,不足していると思われるスキルがありますか?」では、71.2%があ
ると回答している。このある回答を対象に比率を求めた。前回同様に英語および語学力の不足
が顕著で 27.7%に達している。学士力や社会人基礎力で求められている、プレゼンテーション
能力 10.9%、コミュニケーション能力 5.9%、ディベート・ディスカッション力 4.0%と続き、
起業精神 4.0%もある。回答ではカリキュラムに起因するとは明記していないが、今後はカリキ
ュラムマップを踏まえた教育評価が必要である。
3.2.2 電気通信大学生のキャリア形成への意識とカリキュラムの適合性
(1)インターンシップ・キャリア形成教育への関心
設問11「キャリア教育の必要性について」では、意見記入回答者 71.8%の内、39.6%が有
意義と回答している。その中で 3 年次開講の意見 4 名もある。
22
(2)電気通信大学生のキャリア形成に果たす大学の教育力
教育力としては、社会的な要請を踏まえた本学の教育目標の達成が問われる。次にまとめて
記述する。
4.おわりに
本学の教育目標である
(1) 数学・物理系基礎学力を身に付けている。専門知識・技術を身に付けている。(2) 学ん
だ知識を応用できる科学的思考能力を身に付けている。(3)(文書作成、口頭発表等を通じ
て)正確かつ論理的に情報を伝えることができる。(4) 他人の意見や考えを聞き、理解する
ことができる。また、それに対して意見を述べることができる。(5) コミュニケーション能
力(挨拶、マナー、プレゼン力、傾聴力、討論力など)を身に付けている。(6) 外国語力(読
み・書き・話す・聞く)を身に付けている。(7) 主体的に問題を発見し解決する能力を身に
付けている。(8) 計画的に課題に取り組む能力を身に付けている。(9) キャリアについて考
え、取り組んでいる。(11) 科学者・技術者としての倫理意識を持っている。(12) 国際基準
を満たす基礎学力の上に、技術者として実践力に富む、就業力を身に付けている。
が達成されるように教育の実践と評
価を行うことで、今回の調査にあっ
た現在の仕事で不足しているスキル
について育成可能である。この教育
の実践により、社会で要請されてい
る学士力や社会人基礎力の育成も可
能となる。
付録
1.卒業学科
卒業学科名
情報通信工学科(C)
電子情報学科(C)
情報工学科(J)
電子工学科(E)
知能機械工学科(M)
機械制御工学科(M)
量子・物質工学科(F)
電子物性工学科(F)
システム工学科
人間コミュニケーション学科
比率
13.4%
7.0%
14.8%
20.4%
7.0%
11.3%
7.0%
10.6%
4.2%
4.2%
2.業種
調査の業種については前回とは業
種名が一部異なっているが、できる
だけ比較できるように右表にまとめ
た。
学部卒回答率 院修了回答率
業種名
農業・林業・鉱業・建設業
食料品・飲料・繊維
印刷関連
化学・石油
鉄鋼・非鉄・金属
今回
前回
今回
前回
0.7% 2.4% 1.5% 0.5%
0.0% 0.9% 0.0% 0.5%
2.8% 0.2% 3.0% 0.9%
2.8% 0.5% 3.0% 1.4%
2.8% 0.5% 6.0% 0.5%
はん用・生産用・業務用機器
5.6% 2.4% 0.0% 2.4%
電子部品・デバイス・電子回路
0.7% 4.7% 6.0% 5.7%
電気・情報通信機器
13.4% 27.6% 14.9% 31.1%
輸送用機器
9.9% 5.0% 7.5% 6.1%
その他製造業
8.5% 4.2% 7.5% 1.4%
電気・ガス・熱供給
4.2% 1.9% 4.5% 1.4%
情報通信
28.9% 25.7% 26.9% 25.5%
運輸・郵便
1.4% 1.2% 0.0% 0.9%
卸売・小売
0.7%
0.0%
金融・保険
1.4% 1.4% 3.0% 1.4%
不動産・物品賃貸
0.0%
0.0%
学術研究・専門技術サービス
0.7% 0.5% 0.0% 0.5%
宿泊・飲食サービス
0.0%
0.0%
生活関連サービス・娯楽
0.0% 2.8% 0.0% 2.8%
教育・学習支援
2.1% 6.6% 3.0% 8.0%
医療・福祉
0.0% 0.9% 0.0% 0.5%
その他サービス業
3.5% 2.1% 6.0% 1.4%
公務(国家・地方)
2.1% 2.8% 1.5% 2.4%
その他
7.7% 2.4% 4.5% 0.9%
無職
0.0% 0.2% 1.5% 0.0%
無回答
0.0% 0.2% 0.0% 1.9%
23
第3部
FD活動報告
学生による授業評価アンケート
~集計結果と教員支援の視点からの検討~
対象:情報理工学部・電気通信学部・大学院情報理工学研究科・大学院電気通信学研究科
教育推進部門長
阿部公輝
1.はじめに
学生による授業評価は、その背景に 1990 年代から始まる大学審議会答申があり、導入の目
的としては、目標の達成状況・業績の評価と、学生の意見から改善の方策を探る教育改善の 2
つがあった[1]。本学では、学生による授業評価アンケートの目的は、学生の学習姿勢を知るこ
と、および、講義など教員の教育活動について学生側の視点から調査し、教育活動の改善や教
員に対する教育支援につなげることとしている[2]。
本学では、学生による授業評価は平成 8 年度から始まり、平成 13 年度から電気通信学部の
全授業科目に対して(平成 21 年度からは大学院電気通信学研究科の全授業科目に対しても)
実施してきている。平成 22 年度の情報理工学部/情報理工学研究科への改組に伴い、現在、
新カリキュラム(学部1・2年次、大学院)と旧カリキュラム(学部3・4年次)が並存して
おり、アンケートは新旧全授業科目に対して実施している。
本報告では、主要なアンケート項目について、今年度の授業評価の集計結果をこれまでと比
較して示す。さらに、結果のフィードバックについて、とくに教育活動における教員支援に視
点をおいて検討する。
2.授業アンケートの集計結果
アンケートの問 1 から 7 は、テクニカルな授業の方法に関するものである[2]。ここでは、授
業の予習・復習・レポート等に当てた 1 週間あたり平均時間(学部では問 8、大学院では問 10)、
授業の目的に応じた知識、考え方、技能等を身に付けることができたか(学部では問 9、大学
院では問 11)、総合的にみてこの授業は良かったか(学部では問 10、大学院では問 12)の設
問について、集計結果を末尾の図に示す。これらの設問は、カリキュラム設計の妥当性を表す
とともに、教員活動への支援が適切に行われているかのモニタリングとして重要である[2]。図
には新組織開始の平成 22 年度前学期から平成 23 年度前学期まで、新(学部1・2年次、大学
院)と旧(学部3・4年次)を分けて示す。
1 週間の授業時間外学習時間は、これまでの調査結果と同様、きわめて短い。
「自習はしない」
が 2 割、30 分未満が 3 割、30 分から 1 時間が 3 割である。この傾向は本学のみで見られる現
象ではない。教員と学生との相互交流の増進や、TA を活用した集中履修など、抜本的な改善
が必要であろう[3]。知識・考え方・技能の獲得は、「できた」と「ややよくできた」で 4 割程
度、授業満足度は、
「よかった」と「ややそう思う」が、6 割程度である。統計的には新カリキ
ュラムと旧カリキュラムにおける学生の傾向に大きな変化はない。学部と大学院のあいだにも
25
顕著な違いは見られない1。
実験科目では、レポート作成に多くの時間を要している割に、知識・考え方・技能の獲得は
十分でなく、満足度も高いとは言えない。また、図には示していないが、個々の授業・担当者
によって統計的バラつきがある。とくに、授業に満足しているかの問に「そう思わない」と「あ
まりそう思わない」と答える学生の合計が、科目によって半数を超える場合がある。
3.結果のフィードバック
1)本学の現状と他大学の例
本学では、主要なアンケート項目の集計結果を大学教育センターウェブサイトに公開してい
る[4]。また、学生から良い評価を得ている授業については、実践例として公開し、担当者をエ
ンカレッジしている[5]。個別教員に対しては、担当した授業の集計結果を、自由記述欄ととも
に知らせているが、改善は教員の自主性に委ねている。
今後実施が比較的容易と思われることとしては、個々の教員が自分の授業の状況を全体の中
で比較しやすいように、結果を数値化して示すことがある。また、統計データについても、現
状のように年度報告により半年前までの結果を公表するのでは遅い。アンケート実施後、速や
かな公表が望まれるところである。
他大学では、学生による評価と教員による評価を同時に行う[6]、学生からの評価に教員が答
える形の教員の所見を求める[7]などがある。本学でも検討してよいことと思われる。
2)教員支援の視点からのフィードバック
大学教員の主な職務は学生への教育と学習支援である。本部門が担うべき役割「教育の推進」
は、大学教育のあるべき方向や教員の職務のあり方を示すこと、および、教員が職務を果たし
やすくするため、教員へ支援を行なうことであるといえる。ここでは、アンケート結果のフィ
ードバックについて、とくに教育活動における教員支援に視点をおいて検討する。
大学の教員には、研究を担保しながら良い教育・学習支援を行なうことが求められている。
しかしながら、世界的に研究志向の強い流れの中で、教育と研究とを両立させることはきわめ
て困難な現状がある。研究論文を生産することが死活問題であり、
「教育の質の向上」や学習支
援の重要性をよく認識する教員ほどジレンマに陥り、ストレスを抱えることになる。この問題
は構造的要因によるものであり、教員個人の努力のみで解決できるというものではない。根本
的には教育と研究との両立へ向けた制度的誘導が必要である[8]。
一方、学生の側に立てば、彼らは契約のもとにサービスを受ける権利を持つ。大学は、彼ら
から苦情があれば、それに応え、制約の下でどのように改善できるかを示し、実行する必要が
ある。これは社会的責務であるといえる。
しかしながら、現状では、社会の側には求めている教育の質向上が一向に進まない苛立ちが
あり、教員の側ではわかっていてもできないことに対するストレスが生じている。このような
状況では、教員の個別事情を考慮した支援をしつつ、並行して、支援の事例を基に、構造的な
問題を指摘し、ローカルには解決が難しいことを社会に知らせる必要がある。ここで、個別支
1
2010 年度前期のみ、大学院に顕著な違いが見られる。
26
援としては、何が問題でどうすれば困難を緩和し本人の力を発揮できるか、ともに考え、実行
してみることが考えられる。これをここではコンサルテーションと呼ぶ。さらに、心理的側面
からの支援(カウンセリング)もセットで考えられるべきと思う。このような支援を通じ、構
造的問題の根本的解決への努力と個別的支援を、同時にかつ継続して行なうことは意味あるこ
とと思う。誰に対してどのように支援するかについて、学生による授業評価と関連づけてもう
少し具体的に考えたい。
はじめに講義科目について考える。授業に満足しているかの問に「そう思わない」と「あま
りそう思わない」と答える学生の合計が半数を超え、自由記述欄に具体的な苦情の記述があり、
さらにそのような指摘がその教員の担当科目全体にわたって共通する場合、このような教員に
対しては、苦情解決と教員支援の双方の観点から、何らかの対応をする必要があると考えられ
る。対応としては、まず担当教員へのインタビューや、場合によって専攻長との協議、さらに
担当教員へのコンサルテーション、カウンセリングを行なうことが考えられる。対応において
は、十分な素養と経験を持つ専門家が、常に当事者の側に身を置き、連携をとりつつ慎重に行
なわなければならない。
演習実験科目に対しては、講義科目との関連、内容、実施方法のほか、リソースの制約、担
当者の配置など、複雑な問題があると思われる。問題把握には、自由記述欄が参考になるので
はないかと思われる。対応も担当者のみでなく、担当グループへのインタビューや、コース教
育委員との協議が必要となる場合もあると考えられる。
4.おわりに
学生は、大学において、青年期の発達課題を達成し、社会で役割を持てるようになるため、
学習や経験をしたいと望んでいる。一方で、科学技術万能の価値観が揺らぎ、方向を見失った
感のある社会において、若者に対しては、適応力だけでなく、問題を分析し進むべき方向を示
すことのできる力が求められている。高等教育機関としての大学は、学生と社会双方からの期
待に応えるべく努力しなければならない。その中で、大学教職員が気分良く職務を果たしてい
くためには、社会の中の組織の観点と個人の観点の両面から教員支援が必要である。どんな支
援を誰に対してどのように行なうかを検討するための一つの資料として、学生からの授業評価
アンケートは役立つと考えられる。
参考資料
[1] 天野智水,南部広孝,“わが国の国立大学における学生による授業評価の展開,”広島大学
高等教育研究開発センター大学論集,第 35 集,2005.
[2] 阿部公輝,“学生による授業評価アンケート,” 平成 22 年度電気通信大学大学教育センタ
ー報告書,2011.
[3] 小笠原正明,
“学生の学びと教職員の職務をどのように支援するか~初年次教育から卒業研
究まで~”平成 22 年度電気通信大学大学教育センター報告書,2011.
27
[4] http://www.edu.uec.ac.jp/
[5] Brian Kurkosky,“公開授業(授業実践例の紹介):大学院技術英語,” 平成 23 年度電気
通信大学大学教育センター報告書,2012.
[6] 森和夫,福嶋司,竹内道雄,梅田倫弘,間下克哉,
“授業評価アンケートによる講義の検討,”
東京農工大学 大学教育ジャーナル,Vol.1,pp.27-48,2005.
[7] 立教大学,“2010 年度学生による授業アンケート報告書,”2010 年度「学生による授業ア
ンケート」実施委員会,2011.
[8] 有本章,“研究と教育の両立と統合を考える―国際比較を基にして―,” 平成 23 年度電気
通信大学大学教育センター報告書,2012.
28
講義(昼)
【学部:問8、9、10/大学院:問10、11、12についての集計結果】
旧:電気通信学部/大学院電気通信学研究科
新:情報理工学部/大学院情報理工学研究科
29
講義(夜)
30
実験(昼)
31
実験(夜)
32
体育(昼)
33
体育(夜)
34
大学院
35
実施状況
【学生による授業評価の実施状況】
電気通信学部/情報理工学部
実施時期
2010年度前期
2010年度後期
2011年度前期
調査対象
638
622
639
科目数
回収
612
591
575
回収率
履修(延)
95.92%
95.02%
89.98%
学生数
回答
39,017
34,385
36,633
25,473
22,723
23,429
回答率
調査方法
65.29% マークシート
66.08% マークシート
63.96% マークシート
電気通信学研究科/情報理工学研究科
実施時期
2010年度前期
2010年度後期
2011年度前期
調査対象
113
72
115
科目数
回収
107
65
104
回収率
履修(延)
94.69%
90.28%
90.43%
36
4,588
1,847
4,635
学生数
回答
3,224
1,043
3,370
回答率
調査方法
70.27% マークシート
56.47% マークシート
72.71% マークシート
平成 23 年度大学院情報システム学研究科
「学生による授業評価」報告書
平成 23 年度 IS 研究科教務委員会
本報告書では,大学院情報システム学研究科(以下,IS 研究科)の FD 活動の一つである「学
生による授業評価」の結果を報告する. IS 研究科では,基礎科目と呼ばれる科目と通常の専
門科目で別のアンケートを実施しているのでそれぞれ分けて述べる.
1. 専門科目授業アンケート
1.1.
アンケートの目的
アンケートの質問項目には,
回答選択肢から選んで回答する項目と自由記述する項目がある.
前者の回答は主に時系列変化を見るために集計され,その結果は IS 全体の教育の現状を把握
するための一材料として利用される.また,個々の教員が自身の担当する科目を自己評価する
際の一材料としても利用される.一方,後者の自由記述回答については,IS 教員全体にとって
有益と思われる回答を集めて教員全体で情報共有するようにしている.本報告では,主として
前者の集計結果について報告する.
1.2.
集計結果
以下に,授業アンケートを始めた平成 21 年度前期から本報告書執筆時点までに集計の得ら
れた平成 23 年度前期まで,半期ごとの集計結果を質問項目ごとに示す.なお,グラフ上で示
す値は,科目ごとに算出した回答割合の全科目間における相加平均である(どの科目の受講生
も同数と見なす正規化を適用した値)
.
1. シラバスと実際の講義内容は合致していたか(回答を1つ選択)
グラフより,
「シラバスに合致していない」と回答した割合は年々減少してきている.この
点から,シラバスと実際の講義の間の整合性がとられつつある傾向が伺われる.一方,
「シ
ラバスと実際の講義が合致しているかわからない」との回答については,減少傾向ではある
ものの,依然として 2 割ほどが存在する.これには学生側の問題(シラバスを読んでいない/
読みが不十分)と,
講師側の問題(シラバスの不備)の 2 つの側面が影響していると推測される.
37
2. 授業の出席回数(回答を1つ選択)
出席回数については大幅な変動は観察されず,安定的に 9 割前後を維持している.
3. 履修した理由(複数選択可.自由記述欄あり)
本項目以降では複数選択を可能とし,予め用意された項目以外の回答については,自由記述
欄への記述するよう促している.
上記の結果より,主に分野や内容に対する学生自身の興味が,講義履修の引き金となってい
ることが伺われる.これに対して,自由記述欄に「単位取得のため」など,消極的理由を記
載する学生は極めて少ない(「その他」選択者のうちのごく一部).以上より,多くの学生は
自らの興味,あるいは研究からの関連性/必要性に基づいて講義を選択しており,学生のニー
ズに適した講義が適切に実施されていることが伺われる.
38
4. 進行方法などについてよかった点(複数選択可.自由記述欄あり)
構成・ストーリーについて,徐々に改善している傾向が伺われる.本アンケートでは学生が
記載したアンケート用紙が,匿名化された状態で各講師に返却されることになっている.そ
して各講師は毎学期終了後,全てのアンケート用紙に目を通して,選択項目と記述内容とか
ら学生の意図を斟酌し,講義内容や進行方法の改善を行っている.構成・ストーリー項目の
改善傾向は,この授業改善が効果を発揮しつつある状況を示しているものと推測される.
5. 講義から得られたこと(複数選択可.自由記述欄あり)
割合として「知識・技術」の習得が減少し,
「考え方や発想方法」の習得の増加が目立つ.
先行きが不透明な社会情勢に対して,未来を切り開く力として,発想力を重視するようにな
った結果ではないかと推測される.
1.3.
まとめ
今回のアンケート集計結果では,専門科目の講義は学生のニーズに適した内容で行われてお
り,同時に講義に対する学生の積極的な姿勢が伺われる結果となった.また,講義の構成・ス
トーリーに関する評価が年々高まっており,本アンケートを通じた講義改善が機能しているこ
とが伺われる.今後はさらにデータを蓄積しつつ,IS の規模にフィットした肌理の細かい教育
へのフィードバック手法について検討をしていくことが望ましい.
39
2. 基礎科目授業アンケート
2.1.
基礎科目とは
IS 研究科は情報システム学という IT(情報技術)時代の複合領域を対象とした独立研究科
である.そのため,対応する学部を持たず,電気・情報・数理・機械・教育・社会・法律など
極めて多様な出身学部の卒業生を修士課程から受け入れ,高度な研究教育を行うことを目的と
する.そのためには,各専攻の扱う領域に応じた基本的な知見を,多様な背景を持った入学者
が短期に習得できるよう,カリキュラム上の支援を行うことが必須である.これを目的とした
科目が,
「基礎科目」と呼ばれる.具体的には,IS 研究科の各専攻(MS,SS,NS,FS)につ
いて,主に専攻横断で基本的内容の講義を対象とした基礎科目1と,当該専攻の専門的内容の
講義・演習を主体とした基礎科目2が設けられている.受講対象者は,所属専攻で基本的とさ
れる内容に相当する学部の出身者でない者を中心に,指導教員と科目実施教員の相談の下で選
抜される.基礎科目1,2で行う内容は,専攻教員の合議の上,毎年更新される.一方で,講
座内で行われる基本教育も重要であるため,共通講義としてどこまでの内容を,どの程度の深
さで,どの程度の人数の学生を相手に行うべきか,自明ではない.また,基礎科目2の中には,
4つ程度の専門的な演習課題を設置し,
そのうちのいくつかを選択して演習とする形態もある.
そのため,2008 年度以後,授業アンケートや実施結果の反省点などを記録し,年単位で継続性
のある適切な講義となるように教務委員会が主導している.
2.2.
今年度の基礎科目アンケートについて
上記の背景に立って,2008 年度より引き続き,FD 活動の一環として基礎科目のアンケート
を実施し,実施記録を作成した.標準的なアンケート項目は,講義の難易度(講義開始時点と
講義終了時点)
,講義の計画性,講義の有用性,などの立案,実施,検査,分析,の項目に分け
て行っている.
2.3.
アンケート実施結果のとりまとめ
上記のアンケートを,各基礎科目担当教員(実施責任者として准教授または教授1名,実施
細目ごとに実施教員2ないし4名の助教)が受講者全員に実施した.回収したアンケートを元
にして,科目担当者内で議論していただいた.議論した項目は,受講人数,講義の具体的な内
容,今年の問題点,改善策の検討,成績の採点方式(実施形態が多様なため一律な採点方式に
はならないが,同一科目で毎年大幅に異なることは好ましくない)
,の各項目とした.また,ア
ンケート結果については,単純集計を行わず,アンケートの主要な質問項目について多かった
回答をあげてもらい,学生の受け取り方の傾向を記録した.表1に各基礎科目担当教員がまと
めた平成 23 年度前期の報告の一部(部分的に要約)を掲載する.なお,各基礎科目の内容及
び目標は次の通りである.
MS 基礎1(受講者数:17 名)
映像や音声処理,ロボットを含むアクチュエータ制御などメディア情報処理を行う上で重要
な「線形システム論」
,および,メディア情報の解析手法としての「多変量解析」について,そ
40
れぞれの基礎的内容を講義と演習を通して理解する.
MS 基礎2(受講者数:27 名)
情報メディアシステム学の要点は,
「人間」
,
「情報システム」およびそれらの「インターフェ
ース」である.本講義では,具体的なシステム構築を題材とした講義と演習を通じて,これら
の問題に関わるシステムの設計や問題の解決に必要な基礎的な知識や技術の習得を目標とする.
SS 基礎1(受講者数:23 名)
データの種類,加工と記述方法,統計的推定と仮説検定など,統計学の初歩について学習す
る.
NS 基礎1(受講者数:16 名)
情報系の数学的理論や手法を学ぶ上で必要不可欠な論理,集合,離散数学,確率論の基礎に
関する講義と演習を行う.
FS 基礎1(受講者数:11 名)
情報システム学研究科におけるコンピュータ科学領域の基盤に相当する講義を行う.同領域
における学部相当カリキュラムを主体として短期にその概要を把握することにより,コンピュ
ータ科学領域以外の学部出身者によるコンピュータ科学領域での大学院活動を容易にすること
を狙う.
FS 基礎2(受講者数:14 名)
情報システム基盤学専攻に入学した学生の基礎力強化を目的とし,研究遂行に必要となるコ
ンピュータに関する基礎的な知識と文化を,プログラミングを中心とした演習を通じて教育す
る.
2.4.
まとめ
基礎科目は IS の特徴である多様な学生の受入れを支えるために非常に重要な役割を果たし
ている.講義の実施形態は多岐に渡り,また様々な工夫がなされている.しかし,個々の学生
に応じたきめの細かいサポートがやはり大切であり,TA などを含む十分な人的資源を確保す
ることが今後ますます重要となると思われる.
以上
41
表1:基礎科目授業評価報告(抜粋)
基礎1
MS
実施形態と
 受講者全員が PC を持参し,講義を聞きながら,その内容をその場で演習
その利点
 学生の理解度を確かめながら授業を進めることができた
本年度の問
 学生がつまずきやすい作業では,教員2名では手が回らず,授業が中断することがあった.
題点と改善
 TA 制度を有効に使うことにより,よりきめ細かいケアが可能な体制を作ることがスムー
策
ズな授業の遂行に有効であると考えられる.
 教員の専門分野がそれぞれ異なっているため、本専攻としての基礎知識を多岐にわたって
実施形態と
その利点
習熟することができる。
 1 教員あたりの学生数が 10 人前後と少人数のため、学生が実験装置に触れる機会が多く取
基礎2
MS
れ、また、きめの細かい指導が可能である。
 学生の希望に基づいて受講するテーマ(教員)割り当てを決定するが、希望が特定のテー
本年度の問
マに偏りがちであった。
題点と改善
 学生が希望するテーマが特定のテーマに偏りがちなため、より幅広いテーマを設定する。
策
 各学生への個別対応を十分に行えるようにするため、TA の数は、今年度と同数かそれ以
上になるように増強する。
 e ラーニングシステム上で講義を進める.学習者同士での提出課題のピアレビューを行う.
実施形態と
基礎1
SS
その利点
本年度の問
題点と改善
 学習者同士がピアレビューを行うことにより,学習者に積極的な参画を促すとともに,他
の学習者の課題から学ぶこともできる.
 e ラーニングシステム上でのレポート提出の手順を受講者が正しく理解しておらず,レポ
ートアップロードにまつわる問題が発生した.
策
 ガイダンスシステムの利用手順をより丁寧に説明する.
実施形態と
 黒板に板書しながら講義を進めたので,学生はノートを書きながら理解するので,論理的
その利点
な議論に集中しやすいと思われる.
基礎1
NS
 演習の際は,受講者を2つのグループに分け,学生もれなく,演習課題が当たるようにで
きた.課題の発表にはプロジェクタを利用したので,時間配分がうまくいった.
本年度の問
 初等論理学を難しく感じる学生,高等数学までしかやっていない学生への対応
題点と改善
 個々の学生のレベルにあわせて与える問題を変更し,学生にはそれなりの達成感,理解度
策
実施形態と
をもってもらうことが大切.
 当該分野で良書とされる教科書・参考書を用いた講義を主体とし,少人数で行っている。
また,演習を宿題として出し,講義終了後に随時質問を受ける形を取った。非情報系学科
その利点
出身者で,本講義を必要とする者を中心に受講者を絞り,少人数に対して講義・演習を実
施した結果,受講者からの質問に適切に対応することが出来た。
基礎1
FS
 C 言語プログラミングの初歩的な導入,SPIM の利用や機械語プログラムのやり方の導入
など,リテラシー部分の対応が課題となっている。
本年度の問
題点と改善
 今年度は個別に対応すること,情報リテラシーを扱う講義(FS 基礎 2)の受講を呼び掛ける
ことで,これら課題に対応できたと考える。講義の初期段階でリテラシー部分の補助的な
策
説明を行うことや,課題に関してプログラミングのヒントをより多く解説するなどの改善
を行って行きたい。
42
 ガイダンスとクラス分けテストの後に,受講者全体をテストの成績に応じて3クラスに分
けた.各受講生が無理なく最大限のスキル向上を達成でき,今後の研究活動で必要となる
共通スキルを身につけてもらうことができる
実施形態と
その利点
 本年度はペアを組んで講義中に演習を行ってもらった.協力しながら取り組むことで内容
の理解を深める演習が実施でき,少人数クラスの利点を活かすことができた.
基礎2
FS
 各クラスが少人数であったため,教員が各受講者の理解度を講義/演習中にリアルタイムで
把握することができた.特に,少人数クラスは受講生にとって質問のしやすい環境である
ため,教員が受講生の理解度を把握するのに適していた.
本年度の問
 (下位クラスの)受講者全体の傾向として,講義/演習内容の理解を定着させる目的で,参
考書(と学習項目のキーワード)を提示して復習/自習を促してもあまり効果がなかった.
題点と改善
策
 受講者の復習/自習を促すために,毎回の講義時に前回の講義習内容の理解を試す小テスト
を実施する等の方策が考えられる.
43
平成23年度学術院新任教育系職員研修
FD Seminar for New Faculty Members of Academic Institute of UEC
大学教育センター教育推進部門 (学内研修)
企画者・報告者:Shi Jie (史傑) 教授(共通教育部総合文化部会)
日時:平成3年8月1日(水)9:00~13:30
会場:第一会議室、ハルモニア
1. 9:00am - 9:05am
開会スピーチ(Opening Speech)
福田喬理事 (Prof Fukuda,Trustee of UEC)
2.
9:05am – 9:15am
参加者紹介(Introduction of Participants)
3. 9:15am – 9:45am(Lecture 1)
授業の設計(Instructional Design)
桑田正行部員(Prof Kuwada)
4. 9:45am – 10:15am(Lecture 2)
研究室の管理運営と研究指導(Laboratory Management and
Supervision of Student Research)
武田光夫教授(Prof Takeda)
5. 10:15am – 10:45am (Lecture 3)
メンタルヘルス(Mental Health)
田中健滋准教授(Prof Tanaka)
休息 Break 10:45am – 11:00am
学長と写真撮影(Photo-taking)
6. 11:00am – 11:30am (Lecture 4)
学 長 講 演 : 電 通 大 の ビ ジ ョ ン (President’s speech: The
Visions of UEC)
7. 11:30am – 12:00pm (Lecture 5)
教育研究技師の自立を目指して(To Achieve Autonomy as
Technical Supporting Staff for Education and Research)
44
三橋渉 教育研究技術職員部長
(Prof Mitsuhashi, Director of the Department of
Technical Services)
8. 12:00pm – 12:30pm
事務の紹介(Introduction of the Administration systems
of UEC)
教務課 事務手続き(Academic Affairs Office:
Administrative procedures)
学生課 学生なんでも相談室(Student Affairs Office:
Counseling Office for Students)
財務課
公 的 研 究 費 の 不 正 防 止 (Financial Affairs
Office: How to avoid abuses of public funds)
9. 12:30pm – 12:40pm
修了書授与(Certificate Awarding Ceremony)
田中勝己 大学教育センター長 (Prof Tanaka,
Director of the Center for Education and Research
of UEC)
アンケート収集 (Collection of Feedback)
10. 12:40pm – 13:30pm
昼食会、感想など(Lunch; Reflection)
11. 閉会 (Closing)
梶谷誠 学長 (President Kajitani)
参加者名簿
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
佐藤 好幸
鈴木 陽介
入江 英嗣
保木 邦仁
中橋 誠
策力木格
高田 哲司
久藤 衡介
清水 亮介
阪田 紫帆里
新谷 隆彦
田口 智清
鈴木 淳
荒堀 喜貴
市野 将嗣
桃井 恵美
和田 紀子
小林 利章
IS-MS
知能機械工学専攻
IS-NS
先端領域教育研究センター
共通教育部
IS-NS
総合情報学専攻
共通教育部
先端領域教育研究センター
フォトニックイノベーション研究センター
IS-FS
知能機械工学専攻
IS-NS
IS-FS
総合情報学専攻
情報基盤センター
実験実習支援センター
研究設備センター
45
助教
助教
准教授
特任助教
准教授
助教
准教授
准教授
特任准教授
特任助教
准教授
助教
助教
助教
助教
教育研究技術職員
教育研究技術職員
教育研究技術職員
学術院新任教育系職員研修のアンケート結果
Summary of the Feedback on FD Seminar for New Faculty Members
of Academic Institute of UEC (Aug 1, 2011)
1.
Reasons for coming to this seminar:
2.
How do you rate today’s seminar in general?
3.
How do you rate the usefulness of teaching- and research-related lectures (教育研究関係の講義)?
4.
5.
How do you rate the usefulness of administration-related lectures.
What topics below do you want to listen to more, given the chance . Please circle as many as
appropriate.
授業の設計 (Instructional Design)
B. 研究室の管理運営と研究指導 (Laboratory Management and Supervision of Student Research)
C. メンタルヘルス(Mental Health)
D. 教育研究技師の自立を目指して (To Achieve Autonomy as Technical Supporting Staff for Education and Research)
E. 事務手続き (Academic Affairs Office: Administrative procedures)
F.
学生なんでも相談室 (Student Affairs Office: Counseling Office for Students)
G. 公的研究費の不正防止 (Financial Affairs Office: How to avoid abuses of public funds)
A.
6.
If there are other topics (than Q5 above) that you think should be included in such a seminar for new
teachers, please add them below (その他).


科研費の応募書類の書き方のポイントなど(採択されやすい書類の書き方)
企業との共同研究のはじめ方について
46
7.
What do you think about the design of today’s seminar? Please circle as many as appropriate.
8.
What do you think of the period of time when this seminar is held? Please circle as many as appropriate.
9.
What do you think about the design of today’s seminar regarding the short-lecture style? Please circle as
many as appropriate.
10. What do you think about the design of today’s seminar regarding F & D (food and drinks)? Please circle as
many as appropriate.
Why do you think so? Could you give some explanation for the above choices you made?







(For F) If dinner Konshinkai was to be held, I don’t mind paying for it by myself.
(For G) I don’t really care about this issue. Either way is ok with me.
This is a good idea because I've got opportunity to talk to new people
With eating lunch, we can make better communications
無料の昼食はあまり良いことではないと思いますので、昼食費を払ってもいいと思います。(D & F)
必須とは思わないが、あっても良いものと考えているため
有用な話が多かったが、途中で終わってしまったものが多かったのが残念です。
11. For better FD activities in future, please share with us what you think the best aspects of today’s seminar are.
 学長の発表がメッセージがあり良かったです。





All
Mental health lecture
具体的ではないが武田先生の話は参考になった。
教員が当たり前としてやっていること、立ち上げ時期のことを教えて頂けたこと
I believe that it would be better if F&D are given in the evening with beer!(wine, etc)
12. For better FD activities in future, please share with us what you think the weakest aspects of today’s seminar
are.





もう少し要点をまとめて発表していただけると良かった方が数名いました。
教育、発展に関する内容をふやしたらどうか、教育学の知識は教育に必要かと。
Several presentations are stopped by overtime.
一方向であること、聴衆からどんな内容について聞きたいか、事前に Survey してもよいのではないか。
事務的な説明はなくても良いと感じました。
47
第 1 回新任教員研修セミナー参加報告書
教育推進部門 中村仁
2011 年 9 月 5 日~7 日にかけて、八王子セミナーハウス(東京都八王子市)で開催され
た第 1 回新任教員研修セミナーに参加した。内容は座学(講義)とワークショップからな
る。講義としては、大学の成長戦略の紹介から、現代学生の気質・特徴、そのような学生
向けの授業方法・関わり方、シラバス作成のノウハウ、授業運営方法などの大学運営に関
わる多くの項目が用意された。初日と 2 日目の最後にはグループ討論を行い、参加教員が
実際に抱えている講義実施上の問題を共有・解決するためのワークショップや、各自のシ
ラバスの自己・相互診断、仮想授業の実施計画書の作成・発表を行った。最終日は「大学
教員に必要な資質とは」というテーマで、パネル討論が実施された。実質 2 日間のセミナ
ーとしては内容が濃く、またカリキュラムマップ作成など、大学・学部・学科全体で議論
すべき内容の紹介も含まれていたため、大学院修了直後の新任教員にとっては消化不良の
側面があったかもしれないが、個人的には非常に有益なセミナーであった。
参加教員の多くが私立大学所属であり、また分野も所謂文科系・理科系から、資格取得
が主目的である医療・看護系など幅広く、従って講義内容等も(私学向けの)一般論であ
るために、理工系単科大学である本学の FD 活動にそのまま適用することは困難であるが、
本学の新任教員研修などに活かすべく、大学教育センターなど学内関連組織での議論に活
用したい。以下に、各講義・ワークショップの概要を実施順に紹介し報告とする。
【講演 1:大学の成長戦略を考える】
今後 30 年にわたる日本の GDP の推移、OECD 加盟国内での進学率の状況・学部学生の
年齢分布など、世界における日本の大学の置かれた位置に関して紹介された。特に日本の
大学では 20 歳以上の学部入学者が少ないことがあげられた。私立大学の定員充足率(大規
模の大学では充足、中規模以下の大学は不足)も報告され、大学の入学者確保と大卒未就
労者支援の観点から、従来の社会人枠ではなく、生涯学習制度に加えて、就業のための入
学・就学支援(の検討)が必要だと感じた。
文科系(講演では「法文系」と紹介)学部教育に関して、世界的に事務系の仕事効率に
おいて日本人の作業効率の低さが指摘された。日本企業が生産拠点を海外にシフトしてい
る現状で重要な問題であり、文科系学部教育で論理的思考能力の養成が求められている。
文科系大学でそのような教育が可能となると、金融関係などの就職先(製造業以外という
意味)が文科系大学出身者に移ることになり、理工系大学としても他人事ではない。
その他、限られたリソースを有効に使用するための複数大学のコンソーシアムの提案な
どが紹介された。
48
【シンポジウム:現代学生論】
1.学生のニーズを引き出す
近年の大学生の多くは、学部・学科を選択する際に、その内容(学科間の差異)を理解
して受験・入学してきてはいない。アドミッションポリシーなどは見たことがないという
学生が多い。そのような入学学生のニーズ(学生が大学で何を学びたいのか)を引き出す
方法として、法政大学で実施している、学生による学生支援事業が紹介された。在学学生
による PBL 形式の内容で、参加学生にやりたいことを見つけさせる内容である。「本当に
支援が必要な学生が参加してくれない」という問題は残されている。
2.困難を抱える学生の理解のために
社会的にも大学においても近年増加しつつある発達障害に関して、明星大学での事例が
紹介された。発達障害は大学入学後に判明するケースが多く、また複数の障害(アスペル
ガーと LD(学習障害)など)を併せ持つ学生が多いため、その対応は通常の教員では困難
である。明星大学の例では、診断書をもった発達障害学生数が最近 3 年で 3 倍以上(病気
と認識され、診断を受ける学生の数そのものが増えた)である。法改正に伴い、大学でも
発達障碍者に対して十分な教育環境を提供することが求められている。明星大学では専用
の支援プログラムを立ち上げ、対応を始めている。プログラムに参加する発達障害の学生
は、その障害があることは公にはしていない。しかし、授業中のデジカメ使用などの学修
支援を通して他の学生に伝わってしまう。そこで、学修支援を学生グループで実施し、そ
のグループメンバーには障害のあることを伝え協力要請をすることが多い。
3.ハラスメント・フリーの学園生活を目指して
ハラスメント自体の明確な法的定義(どこからがハラスメントか、という具体的な行為
に対して)はない。相手が迷惑と感じたかどうか、が判断基準であり、これ自体が混乱の
もとであるが、この状況を認識した上で、学生・教職員に対応する必要がある。
【講演 2:今どきの学生向け授業、今どきの学生との関わりのために】
首都大学東京を例に、今どきの学生の気質について紹介された。大学進学率は 1960 年代
が 2 割弱であったのに対して 2008 年は 6 割弱(大学全入時代)であり、大学入学試験は(入
学)学生の質保証の役割を果たせなくなりつつある。最近の学生の特徴として学力低下に
加え、授業外学習(自習)時間が極端に少ないことがあげられた。しかし自習時間の確保
と週 10 コマ履修が両立するのか疑問に感じられた。
今どきの学生の評価(満足度)の高い授業として、インターンシップ(建築学科 2 年生、
建築現場の体験)が紹介された。工学部学生にとって、卒業後の自分像をイメージさせる
ことが重要であるとのことだった。個人的には、受け入れ企業からのコメントが知りたか
った(製造業へのインターンシップは、企業側は単なる負担増と見られることも多い)。
専門課程の授業方法に関して紹介された。専門課程(学部 2 年次以上)では、基本的に
最先端のトピックスを扱うことが多いので、全て power point というケースが多い。板書時
49
間がないため、講義プリントは配布することになるが、この点に関しては質疑応答で賛否
両論がでた。また、power point の講義資料の作成に長時間をとられるという意見もあり、
個人の状況によって本質から外れる危険があり、むやみに電子ツールの使用を推奨するこ
とには問題があるという意見に収束した。
大学教員は研究に重きを置くべきであるが、教育(特に学部教育)をおろそかにしては
いけない。教育には相当の時間・苦労が要求されるが、
(講演者の経験として)良い教育を
すると、良い学生が卒研生として研究室を希望してくるので、結果として研究室のレベル
が上がり、研究レベルが上昇する、とのことである。
【講演 3:授業の計画・実践・評価・改善~シラバスを中心に~】
弘前大学で長く FD 活動に関わってきた土持教授によるシラバス作成上の注意点と学生
参加型の授業実践例が紹介された。
シラバスは、北米では(1 科目当り)10 数ページにわたる授業計画を示したもので、現
在日本の大学で用いられているものは十分ではないとの指摘があった。シラバスは学生と
の間の契約書に相当し、原則として授業内容・進め方はシラバスから外れてはいけない。
北米ではシラバス作成に(初めて開講する科目の場合)半年以上を要する。指導方法に関
しても記載するので、改組などで学生層が変化すれば、シラバスは書き直す必要がある。
必要に応じてシラバスを改訂していくことは重要であり、弘前大学ではその PDCA サイク
ルに学生を参加させた(教員 30 名、学生 10 名を 5 つのグループに分けて作業する)
。授業
内容が現在の学生の学力・コースカリキュラムに合っているか、学生とともに検証するこ
とにより、教育効果を高めることが狙いであり、非常に上手く運用されている。
また学生参加型授業の実践例が紹介された。
・クリッカーの利用:学生の集中力持続時間を考慮して、クリッカーなどを利用して授
業開始後 25 分頃を目安に「目を覚めさせる」
。
・自習課題と採点指針の作成:授業では毎回課題を課し、授業外学修時間を確保すると
ともに、課題についてのルーブリック(採点指針)を作製し、課題提示と同時に学生
に配布する。このルーブリックを出来るだけ具体的に示すことで、結果として全提出
課題の完成度が上がる(これが目的)。課題のみでは成績の優劣がつけられない状況
にし、試験で優良可の判断をする。課題の内容として、授業の中身を再確認させるも
のは良くない。授業で習得したものを利用して回答できるものがよい。
例:この授業で学んだ「XYZ」を用いて、最近の話題である「123」について応用
できる事柄を述べなさい
・学生による試験問題の作成:毎回の授業の際に、その範囲内での試験問題案を学生に
作成させ、提出させる。実際の試験では、その中から一部を必ず出題する。これによ
り、「学生が授業を疑問形で聴くようになる」、「ポイントが何か考えながら聴くよう
になる」というメリットがある。
50
・コンセプトマップの作成:今の学生は単元ごとに理解・記憶することは得意であるが、
15 週の内容を有機的に結びつけることは苦手であるので、それをマッピングさせる。
【私の授業】
「今、なぜ学生参加型授業なのか」
「大人数教室での効果的な授業運営方法」という 2 つ
のテーマで講演があった。
学生参加型授業の目的の一つとして、学生の「参画力」育成が紹介された。最近の情報
社会において、情報を持っているのは当たり前となり、その情報から知識を創造する力が
求められている。参画とは、知識が広まる参集(出席、視聴、記録)、認識が深まる参与(発
信、交流、生産)の次のステージとして位置付けられ、企画、実行、伝承を通して意識が
高まる段階と定義される。学生「参画」型授業では、学生が授業の企画段階から関わるこ
とになり、このタイプが向いている授業とそうでないものが明確に分かれると感じた(1 年
生前期にスタートする基礎教育には向いていない)
。また、シラバスの話題同様、一講義の
デザインというよりは、学部・学科のカリキュラム全体を通して考えなければいけない話
題であるとも感じた。
「大人数教室での効果的な授業運営方法」では、エンターテイメントとしての授業方法
(いかに学生をひきつけるか)が紹介された。これに関連してワークショップ「授業を描
く」では、Kolb による 4 つの学習タイプを紹介した。すなわち CE(具体的学習、Concrete
EXPERIENCE)、RO(内省的観察、Reflective Observation)、AC(抽象的概念、Abstract
Conceptualization)、AE(積極的体験、Active
Experimentation)であり、これらを数
値化し、それぞれの学生に適切な学習タイプを求めることが出来る。
授業ではそれぞれのタイプ別の授業を実施することが理想であるが、大人数教室ではそ
れは不可能である。そこで、同一の授業で 4 タイプ全ての学生の集中力を持続させること
を目的とし、導入、問題提起、事例紹介、振り返り考察、まとめなどの各段階において、4
つの授業タイプをバランスよく混在させることが重要で
ある。
「授業を描く」の後、参加教員 8 名程度毎を一つのグ
ループとし、学部 1 年生の教養科目を想定した仮想授業
(15 週の 1 回分)の授業計画を作成、発表した。写真は
報告者(中村)が参加したグループの授業計画である。
取り扱いテーマ(情報倫理)を決め、その回の到達目標
(著作権および著作物の取り扱いを理解する)に従って、
導入、展開、まとめについて付箋を用いて案を寄せ合う。
展開では、学生の理解度に応じて、複数の展開案を用意
する(例えば、事例を変えて「往復」する)
。各要素に対
して、4 つのタイプ(CE、RO、AC、AE)が満遍なく織
51
り込まれているか、確認した。
【パネル討論「大学教員に必要な資質とは」
】
大学教員には教育と研究の両方での成果が求められているが、現実としてそれが可能で
あるのか、パネラー教員の現状(経験)を元に討論された。過去に教育現場で尽力した多
くの教員が、研究活動に割ける時間が実質なくなっていること、新任教員の多くが教育(授
業準備を含めて)のために多くの時間が必要であり、且つ、
(一部の教員は)大学からも研
究よりも教育を優先するよう要請されていることが意見としてあがった。
現在日本では大学教員になるための資格はないが、海外では大学教員資格を導入してい
る国もある(PGCHE(イギリス)、UTQ(オランダ)など)。基本的に教育に関する内容の
資格試験・研修であり、研究者としての資質は(博士の学位を取得していることが前提で
あるので)問われていない。日本ではこの動きはまだない。
キャリアパスとして現職を考える際、研究業績が重要になる。予算・時間のない中でも、
共同研究なども積極的に行い、業績を上げることが重要との指摘があった。現実には、そ
れがわかっていてもなかなか出来ない新任教員が多いように感じられた。
【講演 4:新任教員への呼びかけ】
学校教育法における大学の位置付けと、果たすべき役割(学位を出すこと=学位取得に
相当する学生を輩出すること)について、法律の文面と併せて確認した。さらに、新任教
員が採用される際に「何を期待されて採用されたのか」を再度確認するようコメントがあ
った。すなわち、
・自分が所属する学部・学科の教育カリキュラムを再度確認し、その中のどの科目(群)
の担当教員として採用されたのか見直す
・その際、自身の研究業績が担当可能能力の審査材料として用いられたことを再確認
する
ということである。パネル討論の内容とつながるが、大学教員に採用される際に評価され
た能力は、多くの場合研究業績であって、学部・大学院教育にその能力を活かすことが期
待されている。そのことを念頭に置き、パネル討論でコメントされた研究業績を上げるこ
とも重要で、バランスのとれた教員に育ってほしい、と激励された。
52
成績評価分布について
教育推進部門 久野 雅樹
教育推進部門は、教育改善部が 2006(平成 18)年度から継続的に行ってきた成績評価分布
の検討を昨年度から引き継いで、今年度も成績評価の現状把握と改善のための作業と議論を行
った。今年度の年度計画は、
「大学教育センターを中心として、引き続き、成績評価分布の調査・
分析から成績評価の検証を行う」というものである。
以下に、成績評価分布の現状報告を中心として、今年度の活動の概要を示す。
(1) カリキュラム改変前後の成績評価分布の検討
教育推進部門では、成績評価分布全般について検討を行っているが、まず、昨年度からの大
きな課題として、カリキュラム改変の前後での動向調査について報告する。
電気通信学部と電気通信学研究科は、昨年度入学生から、それぞれ情報理工学部、情報理工
学研究科に変更され、学科・専攻の構成、教育プログラムも大幅に変わった。そうした変化の
時期にあって、成績評価分布が適切な状況にあるかどうか調べた。なお、大学院と夜間主コー
スはクラス1当りの受講者数が少ないことから、本稿では、昼間コースの授業をとりあげて、カ
リキュラム改変の前後の状況を示す。
具体的な調査として、改変前の 2009 年度と改変後の 2010 年度、2011 年度(それぞれ前期
分)について、以下の限定を加えた上で、成績評価分布を分析した。
・学生は昼間コースの新入生に限る(2 年次以上の学生の再履は含めない)
。
・科目は、新旧 2 つのカリキュラムでほぼ対応がとれるものに限る。
具体的には、言語文化基礎科目Ⅰ、理数基礎科目、専門基礎科目、初年次導入科目
の区分に属する科目に限った。
成績評価分布で最初に確認すべきこととして、各科目で評価区分(秀・優・良・可・不可)
の分布がおおよそそろっているか、ということがある。これについて、評価のガイドラインで
は、
「成績評価の分布を、
「秀」は単位修得者(不可は含まない)の上位 10%程度まで、
「秀」
と「優」を合せたものを 40%程度までとすることを原則」としている。このガイドラインは、
評価の公平性、厳正性を担保するために、
「秀」および「優」の高評価区分に、おおよその分布
上限を設定するもので、10%、40%という数字は、これまでの本学での評点分布状況にほぼ合
致するとともに、他の大学での分布基準ともだいたいあうものとなっており、厳しすぎず、甘
すぎずという値である。
まずクラスごとの「秀」
(評価区分の最上位のもの)評価の割合を表 1 に示した。この結果
から、カリキュラム変更の前後で、
「秀」の割合は、2009 年度より 2010 年度、2011 年度のほ
1
科目と担当者(複数可)をセットにしたもの(たとえば、
「教員AのX学」
)
。特定担当者によ
って、ひとまとまりとして運用され、通常、特定時限、特定教室で実施される(演習等では複
数教室を使う場合もある)
。ひとつの科目が複数のクラスから成ることもある(たとえば、
「教
員Aのクラスと教員Bのクラスから成るX学」
)
。成績評価分布を集計する際の基本的な単位と
なる。
53
うがガイドラインに近いものとなっている。10%以下の割合が、2009 年度は 68.8%であった
のに対し、2010 年度は 76.7%、2011 年度は 73.8%となっている。その一方で、
「秀」を全く与
えないクラスは、2009 年度の 11.2%に対して、2010 年度は 6.7%、2011 年度は 8.5%と少なめ
である。さらに、今年度は、
「秀」率 20%以下に 95%以上のクラスが該当し、40%を越えて「秀」
を与えるクラスはゼロである。これは一昨年度、昨年度よりも「秀」区分の分布が平準化した
ことを示している。学生の積極的な学習活動を促すために、
「秀」は乱発にならないように、し
かしきちんと出すような授業が望ましいが、そうした趣旨に照らして、カリキュラム変更後、
改善していると言える。
次いでクラスごとの「秀または優」の割合を表 2 に示した。
「40%以下」で見ると、2009 年
度が 47.2%、2010 年度が 57.5%、2011 年度が 66.1%で、後の年度のほうがガイドラインに近
いものとなっている。
「20%超、40%以下」の区分で見ても、2009 年度の 40.8%に対して、2010
年度は 48.3%、2011 年度は 56.8%であり、全体として成績評価分布がガイドラインに合致す
る部分で平準化してきているととらえられる。
以上のように、カリキュラム改変後の 1 年次生に関して、全体として「秀」や「優」を出し
過ぎていないこと、しかし「秀」がゼロということも少ないことが明らかになり、ガイドライ
ンにおおむね沿った成績評価が行われていることが確認された。
このように評価の水準がそろってきているのは、表 3 に示した、クラスごとの評価平均2を見
てもわかる。今年度は、評価平均が 3 以上の(評価が甘い可能性がある)クラスがゼロになり、
1.5 以上 2.5 未満の狭い範囲に 85.6%のクラスが属する結果になっている。
このように成績評価分布がクラス間で均等化してきていることについては、個々の担当教員
の努力によるものだけではなく、関連部会等での組織的な対応が効果を挙げていると考えられ
る(教育推進部門の会議でも、その旨の報告があった)
。
なお、昨年度、今年度と全般的には改善が進んだとはいえ、
「秀」の割合と「秀または優」の
割合とでは、ガイドラインとの合致度にやや差があり、
「秀」に限った割合のほうが、ガイドラ
インに近い(厳しい評価を行っている)結果になっている。
「秀」評価に厳しめの運用が行われ
ている理由として、現行ガイドラインの前に試行した「秀はクラスの約 5%以内」という基準
がなお影響した可能性がある。
「上位 10%程度まで」という現行規定は、
「秀」がゼロという判
断を排除するものではないが、今年度で「秀」がゼロのクラスがなお 1 割近くあるという状況
は、改善の余地があるだろう。
2
「秀」
「優」
「良」
「可」
「不可」にそれぞれ、4、3、2、1、0 を与えて、評価対象者全員の評
価を平均したもの。電気通信大学では、学生個人の評価平均(GPA)の算出もこの数値化によ
っている。
54
表 1 クラスごとの「秀」評価の割合(単位取得者中、昼間コース、1年次前期)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
2009 年度 (n=125)
2010 年度 (n=120)
2011 年度 (n=118)
秀の割合 (%)
度数
% 累積% 度数
% 累積% 度数
% 累積%
────────────────────────────────────────
1. 0
14 11.2 11.2
8
6.7
6.7
10
8.5
8.5
2. 0 < ≦ 5
27 21.6 32.8
35 29.2 35.8
36 30.5 39.0
3. 5 < ≦ 10
45 36.0 68.8
49 40.8 76.7
41 34.8 73.7
4. 10 < ≦ 20
30 24.0 92.8
19 15.8 92.5
26 22.0 95.8
5. 20 < ≦ 40
7
5.6 98.4
7
5.8 98.3
5
4.2 100.0
6. 40 < ≦ 60
1
0.8 99.2
2
1.7 100.0
0
0.0 100.0
7. 60 < ≦ 80
1
0.8 100.0
0
0.0 100.0
0
0.0 100.0
────────────────────────────────────────
表 2 クラスごとの「秀または優」評価の割合(単位取得者中、昼間コース、1年次前期)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
2009 年度 (n=125)
2010 年度 (n=120)
2011 年度 (n=118)
秀・優の割合(%) 度数
% 累積% 度数
% 累積% 度数
% 累積%
────────────────────────────────────────
1. 10 < ≦ 20
8
6.4
6.4
11
9.2
9.2
11
9.3
9.3
2. 20 < ≦ 40
51 40.8 47.2
58 48.3 57.5
67 56.8 66.1
3. 40 < ≦ 60
45 36.0 83.2
32 26.7 84.2
26 22.0 88.1
4. 60 < ≦ 80
15 12.0 95.2
17 14.2 98.3
12 10.2 98.3
5. 80 < ≦100
6
4.8 100.0
2
1.7 100.0
2
1.7 100.0
────────────────────────────────────────
表 3 クラスごとの「評価平均」(不可を含む、昼間コース、1年次前期分)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
2009 年度 (n=125)
2010 年度 (n=120)
2011 年度 (n=118)
評価平均値
度数
% 累積% 度数
% 累積% 度数
% 累積%
────────────────────────────────────────
1. 1.0 ≦ < 1.5
3
2.4
2.4
5
4.2
4.2
3
2.5
2.5
2. 1.5 ≦ < 2.0 43 34.4 36.8
51 42.5 46.7
59 50.0 52.5
3. 2.0 ≦ < 2.5 53 42.4 79.2
46 38.3 85.0
42 35.6 88.1
4. 2.5 ≦ < 3.0 23 18.4 97.6
14 11.7 96.7
14 11.9 100.0
5. 3.0 ≦ < 3.5
3
2.4 100.0
4
3.3 100.0
0
0.0 100.0
────────────────────────────────────────
55
(2) 成績評価の妥当性の検討
成績評価の分布がガイドラインに沿った形で適当に散らばっていても、それが見かけ上のも
のであったら、意味がない。高い成績評価を受けるべき学生が実際に高い評価を得て、逆に低
い評価を受けるべき者が低い評価となった結果として、成績評価分布が構成されていることが
必要である。そうした評価の妥当性を検証する作業のひとつとして、今年度は、昨年度に引き
続き、複数の科目で行われる評価相互の関連を調べた。
具体的には、次のような点を確認した。
・同種の科目の間の相関
英語力、数的能力といった言い方からもわかるように、英語、数学といった特定分野に属す
る科目同士であれば相関があるのが自然である。
・特定科目と「それ以外の科目の評価平均」
全体的な学力(学習態度等を含む)があると考えられるので、ある科目の評価と「全ての科
目」の評価の平均(これはほぼ GPA に相当する)との間には相関があるのが自然である。
ただし、
「全ての科目」には、相関をとる対象科目も含まれるので、そのままの評価平均で相
関を求めると実質よりも高いものになってしまう。これを避けるために、評価平均は当該科
目を除いた科目で求めた。また、経年的な変動も調べたいので、用いた科目は(1)と同様、カ
リキュラム改変の前後でほぼ対応がとれるものに限った。
評価の相関の結果は表 4 に示した。
まず「同種科目の組み合わせ」による相関で、英語 2 科目では、この 3 年間で、ほぼ同水準
で中程度の相関(.419~.510)が見られた。数学 3 科目の 3 通りの組み合わせでは、いずれも
2009 年度の相関より、2010 年度、2011 年度のほうが数値が大きく、高めの相関(.541~. 758)
が出ている。これは、数学の科目で昨年度以降、成績の評価方法を整備・改善していることが
影響していると考えられる。
次に、
「特定科目と「それ以外の科目の評価平均」
」の相関でも、数学の 3 科目で 2010 年度、
2011 年度の数値が 2009 年度よりもやや大きくなって .621~.700 の高めの値となっている。
数学以外の科目では、3 年間をとおしてほぼ同じ程度の相関となっている。3 年間の相関が英
語の 2 科目で.412~.528 と中程度であるのは、
「評価平均」が理数系科目を中心とすることを
考えれば了解できるものである。数学と英語を除いた、物理学、化学、コンピュータリテラシ
ー等では、評価平均との相関が.522~.650 という中くらいないしやや高めの値となる。
以上のように、特定分野であるいは全体での高学力者が、個々の科目でも高い評価を得る傾
向があることが確認され、成績評価の妥当性がある程度、裏付けられた。
56
表 4 評価間の相関係数(かっこ内は人数)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
科目対
2009 年度
2010 年度
2011 年度
──────────────────────────────────────
同種科目の組み合わせ
英語 2 科目(Spoken , Written)
0.449 (702)
0.419 (696)
0.510 (678)
数学演習第一 線形代数学第一
0.266 (727)
0.671 (725)
0.689 (696)
数学演習第一 微分積分学第一
0.570 (728)
0.744 (709)
0.758 (695)
線形代数学第一 微分積分学第一 0.256 (727)
0.552 (703)
0.541 (695)
特定科目と「それ以外の科目の評価平均」
Academic Spoken English I
0.412 (703)
0.461 (698)
0.463 (680)
Academic Written English I
0.496 (703)
0.470 (698)
0.528 (678)
数学演習第一
0.581 (728)
0.649 (726)
0.700 (696)
線形代数学第一
0.429 (727)
0.633 (718)
0.621 (696)
微分積分学第一
0.519 (728)
0.675 (703)
0.662 (695)
力学概論
0.643 (220)
-
-
力学第一
0.609 (503)
-
-
力学第一演習
0.558 (371)
-
-
物理学概論第一
-
0.601 (716)
0.625 (696)
化学構造論
0.637 (715)
-
-
化学概論
-
0.595 (718)
0.642 (695)
基礎科学実験A
0.642 (389)
0.650 (357)
0.619 (347)
基礎科学実験B
0.578 (338)
0.577 (360)
0.629 (348)
コンピュータリテラシー
0.522 (727)
0.635 (717)
0.528 (696)
──────────────────────────────────────
(3) 成績評価分布のフィードバック
これまで、教育改善部および教育推進部門では、成績評価分布について様々な集計・分析を
行い、それをもとに現状把握と改善への提言を行ってきたが、個々のクラスの成績評価分布の
状況を関係する学科、部会等にフィードバックする仕組みが弱かった。単発的なフィードバッ
クや、部会等からの個別的な要望に応じての情報提供にとどまり、組織的・継続的な取り組み
として改善の余地があった。
そこで教育推進部門では、昨年度から、この成績評価分布のフィードバックを行う仕組みに
ついて検討を重ねている。フィードバック法としては、ウェブ上で、学科、部会等の区分ごと
に各学期の各クラスの成績評価分布データを保持し、パスワードで閲覧制限を行い、関係教員
が利用できるようにする、という形態を想定している。今年度は、フィードバック・システム
の概要について議論するとともに、持続的にフィードバックを行おうとしたときの技術的な問
題点について洗い出しを行った。今後、さらに検討を継続し、まず、カリキュラム改変後の科
目の一部についてフィードバックを試験的に実施し、システムの本格運用に向けて準備を行う
予定である。将来的には、学務情報システムの機能として、容易に集計、フィードバックが行
える仕組みができると望ましいと思われる。
57
(4) その他、および今後の課題
成績評価の調査・議論に基づく教育改善への試みのひとつとして、2011 年 8 月 1 日(月)
の学術院新任研修において、大学教育センターの桑田正行准教授が「授業の設計」と題する講
義の一部で、成績評価に関して解説した。
そのほか、学生による授業評価、個々の学生の履修パタンと成績状況との関連を調べる作業
を進めている。また、日本語力テストと成績評価の関連を調べる作業も継続中である。さらに、
個々の学生の状況を把握して指導に生かせるような資料としくみを提供することを念頭に、各
種の議論を行った。
今後、成績評価を、より実質的なものとしてゆくために、成績評価をしかるべき準拠枠、特
にカリキュラムマップとの関連で考える必要があり、そのための議論が進行中である。また、
応用的な観点として、成績不振学生への対応、卒業率向上、あるいは学習意欲向上といった一
般的事項や、国際化、飛び級、短縮終了、キャップ制といったテクニカルな事項との関連を意
識しつつ、成績分布や GPA の活用・運用を考えてゆく必要がある。
58
公開授業(授業実践の紹介)報告
教育推進部門長
阿部公輝
アカデミアのみならず広く社会において、研究・技術開発・生産活動を行う上で、英語は地
球規模の交流手段として重要である。大学においても、専門分野の内容を英語で理解し表現す
る手法を習得することの必要性が認識されている。昨年度の改組に伴い、大学院情報理工学研
究科で技術英語が必須科目として設定されたのは、このような背景があってのことである。
われわれ教員は、それぞれの専門分野で日常的に英語を用いて教育・研究活動を行なってい
る。また、研究室で学生に対し英語による論文発表の指導をしている。しかし、大学院技術英
語のようにプログラムとして専門英語を教える経験はこれまでなかった。このような科目を効
果的に実施するには、方法論を学び、良い例を知り、経験を積むことが有効である。また、こ
とばの専門家と各分野の専門家との協働が必要である。
本企画では、今後の大学院技術英語のより効果的な実施につなげていただくことを目的とし、
昨年度開講された授業「大学院技術英語」に対する学生による評価のうち、とくに評価が高か
ったクラスについて、その方法や実施内容を公開した。
------------------------------------------------------------対象科目:大学院技術英語
実践例提供者:情報・通信工学専攻 Brian Kurkosky
日時:平成23年7月8日(金)16:15~17:45
主催:大学教育センター
場所:東3号館 301 室 (マルチメディアホール)
司会: 情報・通信工学専攻/大学院技術英語運営 WG 芳原容英
プログラム
1) はじめに:授業の目的と概要
2) ビデオによる授業の実際の説明と討論
3) まとめと今後の課題
参加者:30名
59
コーディネーター
司会者と実践例提供者
実践例の紹介
質問する参加者
会場の様子
主催者挨拶
60
Introduction
授業実践の紹介∼大学院技術英語
This presentation gives an overview of the Graduate Technical English that I taught
! 大学院技術英語(I専攻情報通信システムコース)
! 34
first-year masters students in 2011.
areas: wireless communications, cognitive radio, networks, circuits for
communications, information compression, space science
! Research
Brian M. Kurkoski
Class Theme
[email protected]
Prepare students for the “international” conference environment
! class content is based on activities that we researchers do:
! writing papers, writing peer reviews, giving presentations, talking informally
about research, making research web pages
! emphasize production: writing and speaking
University of Electro-Communications
Tokyo, Japan
University of Electro-Communications
Tokyo, Japan
Friday, July 8, 2011
Brian Kurkoski, UEC, Technical English
Graduate Technical English:
Course components
My Background
2007
2008年度
後期
Graduate
Technical
English A
前期
Graduate
Technical
English B
2009年度
後期
Graduate
Technical
English A
前期
Graduate
Technical
English B
後期
Graduate
Technical
English A
2010年度
前期
2011年度
後期
前期
専攻
専攻
アドバン
アドバン
スコース
スコース
後期
2012年度
前期
Writing
! Write a research web page
! Write a 400-word extended abstract
! Text for presentation slides
! Writing a peer review using “Virtual conference”
Speaking
! Oral presentations:
! on-line practice
! in-class final presentation
! mandatory audience questions
! Coffee-Break English
! In-class pronunciation
Reading/Listening
! Use freely-available audio for listening
! Related text for reading
! WebClass-based homework
後期
My research area is information theory and communication theory
! Information theory is a branch of applied mathematics
! Papers tend to be formal, with emphasis on mathematical validity. Experiments are
computer simulations.
I am a researcher.
! My teaching goal is “effective communication of research”.
! Target: student production should be:
! grammatically correct,
! understandable and in conventional style
! I discourage bad style, even if it is common
! Research must be clearly explained, well enough that I can understand
Brian Kurkoski, UEC, Technical English
Lecture Theme
Homework
Writing
50%
Presentations
30%
Reading/
Listening
20%
Brian Kurkoski, UEC, Technical English
3 /18
2011 Schedule (adjusted for 2012 proposal)
Lecture
2 /18
4 /18
Outline of Today’s Presentation
How to submit homework
1
Introduction. Writing: Research web page
Make a research web page
PDF file on Webclass
2
Reading/Listening: Compressed sensing
Audio Listening with exercises
Webclass
3
Writing: Paper outline and motivation
Abstract Version 1 (1-3 sentences)
Webclass
4
Reading/Listening: World’s information capacity
Audio Listening with exercises
Webclass
5
Writing: Background - General Facts
Abstract Version 2 (150 words)
Webclass
6
Reading/Listening: Pseudorandomness
Audio Listening with exercises
Webclass
7
Writing: Background - Previous Research
Abstract Version 3 (300 words)
Webclass
8
Presentations: Slide design
Slides for a 5-minute presentation
PDF file on Webclass
9
Writing: Thesis
Abstract Version 4 (400 words)
Virtual Conference web site
10
Spoken versus Written English
Re-write informal English sentences formally
Webclass
11
Presentations: Scripts
Record your presentation practice
Presentation Recorder web site
12
The peer-review process
Write two peer reviews
Virtual Conference web site
13
Final Presentations
14
Final Presentations
15
Final Presentations
Final project: revise your paper according to
peer review comments
Webclass
1. Writing:
! Revision,
! Outline of Extended Abstract, model and sample abstracts
! Teaching materials. Example: Passive and active voice
2. Listening/Reading. “Compressed sensing”
! Video of from class
! Sample: listening to audio
! Slow audio
3. Peer-review: “Virtual conference website”
4. Coffee Break English
5. “Presentation Recorder” web-based software and demonstration
Brian Kurkoski, UEC, Technical English
61
6 /18
資料:model and sample abstract
1. Writing: Revision
1. Writing
Outline of Extended Abstract
Main writing project: Extended abstract of student’s research, 400 words
! Each week, revise and expand
Lecture
! This
is how I was taught to write
papers by my PhD advisors
! In this class, students make 4 versions
of an “extended abstract”
! about 400 words
Abstract version
Content added
3
Abstract Version 1 (1-3 sentences)
Motivation
5
Abstract Version 2 (150 words)
Background - General Facts
7
Abstract Version 3 (300 words)
Background - Previous Research
9
Abstract Version 4 (400 words)
Thesis
11
Abstract Version 5 (400 words)
Revise only - submit for peer review
15
Final Abstract
Final project: revise according to peer review
Papers should follow this outline:
1. Motivation (exordium) — motivate the reader
2. Background - general facts (narratio)
3. Background - previous research (narratio) — helps to establish novelty
4. Problem at hand — weakness of previous research
5. Thesis (divisio) — Hypothesis or other contribution of this research
This outline is derived from the Arrangement canon of classical rhetoric
Ver. A
150 words
Corrections
Ver. B
300 words
Corrections
Brian Kurkoski, UEC, Technical English
8 /18
Ver. C
資料:Video: Compressed sensing
資料:Active and Passive voice
1. Writing
2. Listening/Reading
Teaching Material Sample
Emphasize listening skills
! In 2010, I used this textbook
! it has a CD for listening
! Unfortunately, exercise answers are given. Mechanical engineering. 3000 yen.
This year I developed my own listening exercises
! audio is from podcasts with engineering content
! “Compressed sensing”
! “Pseudorandomness”
! “World’s information capacity”
By correcting students’ papers, I can better understand areas for
improvement
! How to naturally translate Japanese to English? Problem words:
! 向上
! ∼という問題
!
計算量
! による
! When
to use “characteristic”?
! correct non-standard sentence patterns
! When to use passive voice and active voice in technical writing?
As a result of these trends, I have developed various materials to improve
students’ writing
Listening resources (1-2 minute extracts)
! “Science Friday” (National Public Radio, USA)
! “In Our Time” (BBC4, UK)
Reading (I heavily re-wrote)
! AMS What's Happening in the Mathematical Sciences
! IEEE Spectrum
! Wikipedia
Brian Kurkoski, UEC, Technical English
Brian Kurkoski, UEC, Technical English
9 /18
10 /18
資料:audio. reduced speed audio
2. Listening/Reading:
3. Peer Review/Virtual Conference System
Compressed sensing — listening exercise
Capable students should submit to high-level conferences
! acceptance depends upon evaluation by peer reviewers
! Lecture on peer review process (Prof. Yagi)
The “Virtual Conference” is on-line paper submission
and review web system
8.2.3 Listening Level 2
Sentence 4: ELLENBERG: What can you do besides (11) _______________them
all? What you can do is this: You take the (12) _______________and you put
them in (13) _______________of 10. You take (14) _______________from
the 10 men, you (15) _______________them, and you do the syphilis (16)
_______________ on that.
Peer-review form: diverse research areas - hard to evaluate technical merit
Sentence 5: Most of those (17) _______________batches are going to come out
(18) _______________. That is, it's '''sparse''' in the population.
Peer review form (2011)
A. Organization of paper
1. No name on the paper
2. No section headings
Sentence 6: Prof. ELLENBERG: But of course, every time one of those (19)
_______________ comes up (20) _______________, then you take those 10
men and (21) _______________ them individually. But as you can imagine,
what you've done is (22) _______________ reduced the number of (23)
_______________ that you do.
3. Has section headings, but organization can be
improved
4. Clearly organized
B. Based upon your technical knowledge, how difficult is the
paper to understand?
1. Hard to understand
2. Some parts are hard to understand
SILVERMAN: The lesson - gather less information, not more.
Brian Kurkoski, UEC, Technical English
3. Most is easy to understand
11 /18
4. Easy to understand
62
C. Give a summary of this paper. (100 words)
D. Make a suggestion, make a comment or ask a question of
the author. (100 words)
For example:
* Was the motivation, research goal, or practical
application not clear?
* Was there something that you did not understand?
* Positive comment: what did you find interesting?
資料:Coffee Break Eng. Video
3. Overview of Virtual Conference Review
4. Coffee Break English
Web site
(HotCRP
conference
management
software)
At “international” conferences, you meet other researchers
! Opportunity to informally discuss research
! Chatting during the coffee break between sessions
Review
This year, I started “Coffee Break English”
! During lunch, students come to my office (usually in pairs)
! Informally discuss students’ research
! Bring your lunch, I’ll be eating mine
! I ask questions like this:
Review
PDF
PDF
1 Teacher
1. Set up web site (admin)
2. Set submission/review
deadlines
3. Create review form
4. Announce deadline
2 StudentAuthor
1. Create an account, set
real name and advisor
name
2. Upload PDF file
Brian Kurkoski, UEC, Technical English
3 TA
1. Delete duplicate
submissions
2. perform reviewer
assignment (automatic
feature available)
3. Teacher checks!
4. Email review requests
4 StudentReviewer
1. Download paper and
read it
2. Submit review on
line
!
What are you working on?
!
Did you get any results yet?
!
What problem are you trying to solve?
During the meeting:
! one student “scribe” takes notes; switch roles
After the meeting:
! Scribe enters notes in Coffee Break English wiki
! Sometimes I recorded the conversation, then emailed file
5 Teacher/TA
1. Read student reviews
(checking reviewers
English)
2. Notify studentauthors of “results”
Something of an experiment — how to improve students’
conversational ability? Use notes for future lessons?
13 /18
Coffee Break English wiki
5. Presentation Recorder:
Web-Based Presentation Practice
5. Presentation Recorder:
Web-Based Presentation Practice
Practice is key to giving good presentations
Practicing by yourself is fairly difficult
! I tend to mumble and stop speaking, because no one is listening
! In-class presentations is extremely time consuming
Anybody can make an account and try it
http://lit49.ice.uec.ac.jp/PR/
I wanted an easy method for students to submit oral presentations on-line
! Record presentation from computer microphone
! On the web and easy to use, like WebClass
! PowerPoint, YouTube, downloadable software, etc. all have limitations
No such software exists (as far as I could tell)
Arash Asareh (PhD student) and I developed software to record presentations:
1. Student uploads presentation to web site (PDF format)
2. Student records voice for each slide; can re-record
3. Instructor listens to audio, provides feedback
Brian Kurkoski, UEC, Technical
English
Completely
web based
Brian Kurkoski, UEC, Technical English
15 /18
Summary
The Future: Can I Help You?
I am teaching “how to communicate research”
! 50% writing. Speaking, listening, presentations are also important.
! I am interested in the students’ research, and want to understand it
! our interest in research is our motivation
Teaching writing of papers:
! I have many materials that I have developed
! I hope to work with you, improve materials, develop new ones
Other courses can use the “Virtual Conference”. Easy to set up software
! Hobara/Tarui EI Program also used the Virtual Conference this year
I have developed teaching materials on writing
! Some are useful
! Some need to be further developed
Presentation Recorder:
! A new way to help students with speaking
! It can be adapted to uses you might be thinking of
! Other projects that record from a microphone?
I use software when it helps me achieve a teaching goal:
! Students experience the paper submission process with “Virtual
Conference” web site
! Collect “Coffee Break English” ideas using a wiki
! WebClass for simple question-answer evaluation
! Encourage presentation practice using “Presentation Recorder” web site
Brian Kurkoski, UEC, Technical English
16 /18
Presentation slides and other materials are at:
http://www.lit.ice.uec.ac.jp/kurkoski/te/fd/
Brian Kurkoski, UEC, Technical English
17 /18
63
18 /18
教職員支援のための連続講演会報告
~仕事と教育、研究と教育、学びの支援における協働~
教育推進部門長
阿部公輝
人間にとって、既成の枠組みを理解しそれに適応することは必要であるが、十分でない。多
様な価値観を認め、さまざまな人々と影響を与え合い、不適切な仕組みや部分を分析し、改善
を提言し、実行できることが望ましい。そのために大学教育は何ができるかについて、本連続
講演会では、社会学、教育学、心理学それぞれの分野の第一人者からお話しを伺い、考えを深
める。
学生は昨今の「シューカツ」において、採用に至るまで相当数の不採用の通知を受け続け、
自分の価値を否定され続ける。教育と仕事の接点としての新卒就職には、現在の社会の問題が
集中的に現れている。連続講演会第1回では、社会学的視点からこの問題を捉え、教育と仕事
の接続において、大学は何ができるかを考える。
今日の大衆化した大学では、志向、能力、環境の異なる多様な学生が入学してくる。自立を
最大の発達課題とする青年期にあり、卒業後この錯綜した社会へ進路を定めていくことになる
彼らは、それぞれ個別の事情を抱えている。このような学生への学びの支援は、多面的になら
ざるを得ない。第2回では、教育の一環としての学生の発達の支援、心理臨床家との連携、お
よび、学生とともに教職員自身も成長する可能性などを視野に、考えを進める。
好奇心のもと、分析と統合を道具とし、既成のものとは異なる新しいものを導くことを研究
とするなら、研究は人間の基本的な営みであろう。このような経験を学生と共にすることは、
教育機関の重要な役割と言える。しかし、これまで大学では、研究は教育と対立的に捉えられ
てこなかっただろうか。第3回では、研究とは何か、教育とは何か、両者はどう融合されるべ
きかについて、歴史的に、また各国の例を参考に考える。
------------------------------------------------------------日時:第1回 平成23年10月25日(火)16:00~18:00
第2回 平成23年11月11日(金)16:00~18:00
第3回 平成23年12月
9日(金)16:00~18:00
主催:国立大学法人 電気通信大学 大学教育センター
共催:公益財団法人 大学セミナーハウス
場所:東3号館301室(マルチメディアホール)
題目・講師:
第1回:「大学と仕事との接続をめぐる現状と課題」
東京大学大学院教育学研究科比較教育社会学コース教授 本田由紀氏
第2回:「現代社会を生きる大学生の教育支援・心理支援
~関係ネットワークづくりという視点からの要請」
東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コース教授 中釜洋子氏
64
第3回:「研究と教育の両立と統合を考える―国際比較を基にして―」
くらしき作陽大学・作陽音楽短期大学学長 有本 章氏
講師略歴
本田由紀氏
専門は教育社会学。日本労働研究機構(現労働政策研究・研修機構)研究員、東京大学
社会科学研究所助教授を経て現職。博士(教育学)。著書に、『若者と仕事』、『多元化す
る「能力」と日本社会』、『教育の職業的意義―若者、学校、社会をつなぐ』、『軋む社会
―教育・仕事・若者の現在』など。
中釜洋子氏
研究テーマは思春期・青年期の子どもとその家族のための心理援助。東京大学カウンセ
ラー、東京都立大学助教授、上智大学助教授を経て現職。博士(教育学)。著書に、『心
理援助のネットワークづくり』(共著)、『教師のためのアサーション』(共編著)、『家族
のための心理援助』(共著)など。
有本 章氏
研究テーマは大学改革、大学教授職、学問的生産性、大学評価、FDなどに関する比較
社会学的研究。大学・高等教育論、教育社会学。教育学博士。大阪教育大学教授、広島
大学高等教育研究開発センター長、比治山大学高等教育研究所長を経て現職。著書に、
『変貌する日本の大学教授職』、『変貌する世界の大学教授職』、『大学人の社会学』、『大
学教授職とFD』など。
65
教職員支援のための連続講演会第 1 回
講演題目「大学と仕事の接続をめぐる現状と課題」
実施日時 平成23年10月25日(火)16時 ~ 18時
場所 東3号館301号室 (マルチメディアホール)
講演者 東京大学大学院教育学研究科比較教育社会学コース教授 本田由紀氏
参加者 教職員計73人
------------------------------------------------------------司会(阿部)
:皆さん、こんにちは。今日は学外からも多くの方にご参加いただきまして、どう
もありがとうございます。私は電気通信大学の大学
教育センターで副センター長をしております、阿部
と申します。今日は司会をさせていただきます。主
催は、電気通信大学大学教育センターです。昨年も
このような連続講演会を開きました。今年は大学セ
ミナーハウスから、共催というかたちでご協力いた
だいております。それでは、はじめに電気通信大学
の梶谷誠学長にごあいさつをいただきます。よろし
くお願いします。
梶谷:皆さん、こんにちは。今日は例年より人が多いような気がします。それもさっき阿部さ
んからご説明がありましたように、大学セミナーハウスが今年から共催をしてくださるという
ことになって、いろいろなところに広報していた
だいて近隣の大学からもご参加をいただいている
んだと思います。大変ありがとうございます。
私たち教職員は学生に勉強しろと言っているん
ですが、教職員も勉強しなければいけないという
ことで、本学では毎年3回ほど教職員支援のため
の連続講演会というのをやっておって、今年は今
日が初めてですね。第1回目であります。今日は
うちの教育担当の理事、それから副学長2人が勉
強に行っています。国大協主催の研修会に行っています。理事も勉強をしています。学長もと
きどき研修会があって勉強に行っております。職員の皆さんも、ぜひ、学生に勉強をしろと言
うだけではなくて、ご自分も勉強をしていただきたいと思います。
ここに八王子セミナーハウスのパンフレットが袋の中に入っていますけども、ぱっと見てい
たら「職員が変われば大学が変わる」と。この職員というのは事務職員のことのようですけど、
今は職員というと実は教員も入るんですね、本当は。これは「職員が変われば大学が変わる」
と書いてあるけども、職員が変わらなければ大学は変わらないということです。
私はこういう立場にあって、いろいろ責められるのですが、いつも内心思っているのは、そ
66
んなこと言っても、学長がどうこうしろと言ったって、どうにもならないんだと。職員の人が
ちゃんとその気になってくれなきゃ、大学は変わらないんだと思っている。それがここに書い
てあるので、しめしめと思って。大学が変われば社会が変わる、社会が変われば人が変わると
いうことだと思いますので、話を聴いたら、何かそれを糧にしてご自分を変える、行動を起こ
すということにつなげていただければありがたいと思います。
今日は、本田先生に来ていただきました。たぶん、話は有り体に言えば学生が就職していく
わけで、それと大学との関係だろうと思います。今、本学でも、
「電通大は就職がいいんだろう」
と言われますけど、実は非常に苦戦をしておる。例年に比べるとここ数年ものすごく大変なの
です。その大変さが、就職難というか企業がなかなか人を採ってくれないということもあるけ
ど、実はそれだけではないんです。学生が変わっちゃった、親も変わっちゃった、企業も変わ
っちゃっているんですね。日本人の学生なんか、いらないと、外国の学生を取ってしまえばい
いんだというふうに変わってきた。このように、世の中がものすごく変わってきていると。そ
れをわれわれ職員も認識をして学生の指導をやらないといけないというふうに、非常に大きく
変わってきている。その辺について、本田先生がちゃんと学問的に研究された成果がお伺いで
きると期待しております。最後までよろしくお願い申し上げます。
司会:それではさっそく本田先生にご講演いただくのですけれど、お話をしていただく前に、
ちょっと本田先生のご紹介をさせていただきます。本田先生はスライドにもありますが、東京
大学大学院の教育学研究科比較教育社会学コースの教授をされています。先生は本当にたくさ
んの著書を出されておりまして、例えば『多元化する「能力」と日本社会』というご著書は、
第6回大佛次郎論壇賞奨励賞を受賞されています。それから、私が本田先生を今回お呼びした
いなと思ったのは、先生は、いろいろ発言をされているんですが、常に若者の側に立った視点
で、
広範な調査もされて詳細なデータ分析をされたうえで、
いろいろな提言をされております。
今日は4時 15 分からという変な時間になっておりますが、電気通信大学では、ほかの大学
もそうなのでしょうけど、第5限で、ここはけっこう皆さん空いているだろうということがご
ざいまして、設定いたしました。学生を中心とした教育研究活動に、私たちは向かっていくと
いうことで、今日は「大学と仕事の接続を巡る現状と課題」というテーマで、本田先生にお話
をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
本田:ただいまご紹介いただきました本田と申します。今日はお招きいただきまして、ありが
とうございます。今日は「大学の仕事の接続を巡る
現状と課題」
ということでお話ししたいと思います。
お手元にこれから前に映し出しますパワーポイント
と同じものをすべてプリントアウトして配っていた
だいてありますので、
そちらを照らし合わせながら、
お手元のは備忘として使っていただきたいと思いま
す。お手元の資料にありますように、今日はある程
度長期的に、過去数十年間の日本社会の変化の中で
今大学教育が今どのような位置付けにあり、そうい
う俯瞰的な見方からすると、今何が必要とされているかといったようなお話をしていきたいと
67
思います。
私は何回言われても悪い癖が治らないのですけど、
お話ししたいことがたくさんありまして、
いつも多すぎる内容を持ってきてしまっております。今日も1時間くらいお話しさせていただ
くのですが、61 枚のシートがあるという、ちょっとやってはならないことをやっております。
ただその中で多くの部分は、私が申し上げていることの根拠としてのデータを示せるようなシ
ートがかなり多くを占めておりますので、筋書きのほうに時間を使わせていただきまして、中
のデータやグラフなどは幾つかぽんぽんと飛ばしながら終わりたいと思います。それでもかな
り、すでになっておりますけど。早口になってしまうと思いますけれども、なにとぞお許しい
ただければと思います。
では内容に入っていこうと思いますが、最初に社会変化の見取り図ということで、非常にざ
っくりとした見取り図ではありますけれども、戦後日本社会がどのような段階を経てどう変わ
ってきたか、今どこに私たちは立ち至っているのかということについて、ちょっと振り返って
おきたいと思います。
いきなりややこしいグラフが出てきておりますけども、
このグラフは見ておわかりのとおり、
横軸に時間の流れを取り、縦軸にパーセンテージや実数を取りながら、長期的に入手可能な社
会的事象を一度にここに書き入れていったものです。ここに赤い縦線が2本入っておりますけ
れども、これが戦後日本社会を時期区分する際の境界に当たるところです。2本ありますが、
左側は 1970 年代前半で、右側は 1990 年代の初頭ということで、すぐおわかりいただきますよ
うに、左側は石油危機、右側はバブル経済の崩壊の時期に当たっております。
こんなふうに縦線を入れてみると、日本社会の3つの時期というのは、次のシートに目をや
っていただきますと、そのまま経済成長率の推移と対応しています。これは経済成長率の平均
ですが、オイルショックまでは平均 9.1%という、今の中国のような非常に高度な経済成長を
達成していたわけですけど、それはオイルショックを経てガクッと下がります。下がりますけ
ど、平均 3.8%ということで安定的な成長を達成していた時期というのが、1970 年代の後半か
ら 1980 年代いっぱいでした。1990 年代の初頭にバブルが崩壊しまして、そのあとまたガクッ
ともう一段階下がりまして、マイナス成長の年は全然珍しくないと。
この最後の非常に印象的なのは、言うまでもなくリーマンショックのあおりを意味している
わけですけど、このあと 2009 年、10 年は、ぐっぐっと少し回復を見せ始めたところで今の震
災が起こりましたので、おそらくもう一度落ち込むことが予測されるわけです。
このような階段を一歩ずつ降りるようなかたちで、戦後日本社会の経済は変化を遂げてきま
した。それに対応するようなかたちで、先ほどの図に戻りますけれど、さまざまな社会的事象
にも変化は見られます。この2本の縦線の左と右で、幾つか折れ線や棒グラフに屈曲が生じて
いることは、ぱっと見て取っていただけると思います。左側の線を境とする屈折よりも右側の
線をきっかけとする屈折のほうが顕著であるということが、視覚的に見いだしていただけると
思うのです。
何がここで大きく曲がったかというと、
一つはこの大変目立ちますのが、
完全失業者数です。
バブル経済の崩壊後、それまでの時期よりも明らかに大きな失業者数が日本社会の中に溢れる
ようになりました。もう一つ目立つのは、下をはっているこの水色の線ですけれど、これは貯
蓄非保有世帯比率ですから、文字どおり貯金が一銭もないような世帯の比率を示しています。
それも、増えてきている。
68
もう一つここの下のほうをはっているのは生活保護世帯数ですけれど、データを更新しなけ
ればならないのに、バタバタしておりましてできておりませんので、申し訳ないのですけれど
も、
これはこのあともぐっと伸びておりまして、
新聞報道でご覧になったと思いますけれども、
今、戦後直後の混乱期の非常に貧困の度合いが高かったころに匹敵するくらいに生活保護世帯
数に達するほど。明らかにぐっと伸びてきています。
今申し上げた3つのこと、つまり失業者数が増えてきている、貯金がない世帯が増えてきて
いる、生活保護世帯数も増えてきているといったような現象は、この日本社会を物質的に成り
立たせていくための基盤の底が抜け始めているということを表しています。
もう一つ目立ちますのが、このような物質的な生活の基盤の底が抜け始めていると同時に、
こちらでは大学、短大の進学率が 1990 年代に入ってくると伸び始めるといったような、ある
意味矛盾するような出来事が 1990 年代に入って顕著に起きているわけです。ここのあいだの
矛盾というか、齟齬と言いますか、ということが、今大学から仕事の世界に出ていこうとする
若者に集中するようなかたちで起きているということを、これからお話ししていきます。
このグラフの下に2本太い矢印が書いてあります。これは何かと言いますと、日本の社会の
構成員の中で2つ人口規模の大きい世代があるわけですけど、それらの世代のライフコースを
上のグラフに合わせるかたちで書き込んでみたものが下の矢印です。2つの世代のうちの一つ
は、言うまでもなく団塊世代です。第二次世界大戦が終わった直後に生まれた方たちですけれ
ども、1947 年生まれというふうに仮に置きますと、彼らが高校を出たのは 47 年足す 18 歳で
すから、1965 年ですね。4年制大学は 22 歳でだいたい卒業しますので、1947 年に 22 を足し
ますと 69 年ですね。
この団塊世代は非常に人口規模が大きいのですけれども、彼らが高校や大学を出た時期とい
うのは、先ほどグラフで見たように非常に高度成長が著しい時期だったわけです。この時期と
いうのは今とはもうまったく逆な感じで、人手があっても、あっても足りない、もっと欲しい。
求人難という言葉が、新聞に踊るような時期だったわけで、この人口規模の大きい世代という
のは、時代がそういう時代ではなかったとすれば、この世代からすでに大量の失業者が発生し
ていたはずですけれど、おりしもというか、たまたまというか、高度経済成長期のころに彼ら
は学校を離れていましたので、非常にスムーズに労働市場に入っていくことができていた、そ
ういう世代です。
もちろん彼らの中には、例えば集団就職で東北から出てくるといったような厳しい中での就
職をされる方もいましたけど、それでも就職自体は、まあできていた。そういう世代なわけで
すね。
彼らが 20 代のころにオイルショックが起きます。その後の安定成長期を彼らは 30 代あるい
は 40 代前半という年齢で過ごしていたわけです。ここで安定成長期がどういう時代だったか
ということに関して少し言葉を付け足しますと、ここでオイルショックのあとに失業者が増え
始めます。この失業者の増加をできるだけ抑えるために、そのオイルショックを契機として政
府と産業界がいわば結託して取った方策というのは、企業の中にできるだけ従業員を抱え込ん
で解雇しないようなかたちで、企業の中で相対的に人手が少ない部署に回していくかたちでや
っていこうというような、ある種の合意があったわけです。
例えば雇用調整助成金という、
震災後に新聞で見ることが非常に多い制度がありますけれど、
これもオイルショック後に政府が賃金の肩代わりをしながら、それでも解雇しないように企業
69
に従業員を雇い続けてもらうという、そういう制度だったわけです。つまり、企業の中に囲い
込む。囲い込むけれども、企業の中ではぐるぐる回ってもらうといったような方策がオイルシ
ョック後に取られたということは、実はこのちょうど安定成長期にいわゆる日本的雇用慣行と
呼ばれるような、日本独特の人の雇い方、働かせ方というものが、いわば成熟期を迎えた。こ
の時期に最も広がり、かつ典型的なかたちで社会に根を下ろしていたということが言えるわけ
です。
その日本的雇用慣行のもとで、この働き盛りであった団塊世代というのはそれを支えるよう
な働きをしていたわけですね。ときには単身赴任を命じられたり、あるいは 1980 年代の後半
というのは過労死という言葉が初めてできたころでもあります。日本的雇用慣行というかたち
で労働者を抱え込みながらも、
だんだん減量経営というのが進む中で社内での競争であるとか、
あるいは働かせ方の厳しさは高まっていたわけです。その中で過労死ということも出てくるわ
けですが、その主な担い手として団塊世代は頑張っていらしたわけですね。
その団塊世代の方々が 40 代半ばのころに、バブル経済が崩壊します。その後、団塊世代の
方たちというのは 50 代にさしかかっているわけですけれど、この 50 代というのは日本の年功
的に上がっていく賃金体系のもとでは最も人件費が高くなる時期です。最も人件費が高くなる
50 代に、この人口的に規模の大きい団塊世代が達していたということは、バブル経済崩壊後の
長期不況期において、彼らの人件費負担が、企業の回復というものの一つの重石になってしま
っていたという指摘が労働経済学者の中からもあります。
団塊世代の方たちは、2007 年に 60 歳という定年の年齢を迎えるはずであって、2007 年問
題ということが指摘されていたわけですけれども、ちょうどこのころ、政府は年金支給年齢の
繰り上げが始まるということで、65 歳までは雇うようにという指示を出します。かなり多くの
企業は、全部が全部ではありませんけれど、多くの企業はそれに従って 65 歳まで契約とかい
ろいろ雇用形態を変えながらも雇い続けていたわけですけれども、その結果、この 1947 年生
まれの方というのは 2007 年で 60 歳ですから、2012 年、ちょうど来年 65 歳を迎えられて労働
市場から退出されることになります。
今の新規大卒労働市場が、おそらく 2012 年あるいは 2013 年度にやや回復を見せるであろう
といった予測がなされているんですけど、それはこの団塊世代の方たちが 65 歳を迎え、大量
に労働市場から出て行かれるということを背景としているということは言えると思います。
もう一つ人口規模の大きい世代というのは、団塊ジュニア世代です。団塊ジュニア世代とい
うのは、団塊世代の子ども世代も大量に含まれておりますけれども、1970 年代前半に生まれた
人たちとに言われます。仮に 1972 年生まれというふうに置きますと、この 1972 年という生ま
れ年は端境期であって、むしろ学歴が低い人のほうが高い人よりも就職が有利であったいう非
常に珍しい世代ですね。と言いますのも、72 年に 18 歳を足しますと、彼らが高校を出ていた
のは 1990 年でバブル経済の絶頂期でした。当時の新規高卒求人倍率というのは、今の9倍く
らいの求人数があったんですね。若年人口がこれから減るということを見込んで、企業が非常
に大量の新卒の正社員を採用していたのが、このバブル経済の直前の時期だったわけで、この
時期に新規高卒者として就職していた人は、そこに潜り込むことができていたわけです。
ところが、四年制大学にまで進学してしまいますと、72 年足す 22 ですから 1994 年になり
ます。1994 年になりますと、とっくにバブル経済崩壊のあおりが新規学卒労働市場にも現れて
おりまして、この 1994 年卒ぐらいというのがいわゆるロストジェネレーション、就職氷河期
70
あるいはその超氷河期の一番開始期、はしりの世代というふうに言われています。この 1972
年生まれというのがちょうどその端境の世代になるということは、この 1972 年よりあとに生
まれた若者たちほぼ全てにとって、彼らが高校や大学の教育機関を離れて出ていった先の労働
市場、出ていった先の社会というのは、このように、もう回っていく基盤の底が抜け始めた社
会であるというわけです。
年齢で言いますと、今 40 歳未満の若い方というのは、ほぼ全てがこういう状況の中で苦汁
をなめていることをわかっていただきたいのですが、何であえてこういうグラフ、図をつくっ
たかというと、年長の方々の中に、わしたちは裸一貫で貧しい中から頑張って日本を豊かにし
たのである、それに引き換え今の若者はなっとらん、根性がない、やる気がないといったよう
なことをしばしば聞くんですけれど、いや、そうではないと。努力をされたと思いますけど、
日本社会が上げ潮だったころに就職されて、その後の安定成長期に企業に入ってこられたわけ
で、そういう時代の中で生きてこられたということを年長の方にはわかっていただきたいので
す。今の若者たちは、それとはまったく違う時代の中で、それに直面しながら生きているとい
うことをご理解いただきたいなと思ってつくったようなグラフです。
日本は、このような3段跳びの3段階の変化を経てきたわけですけれど、そのうち前半2つ
に当てはまる、いわば社会の回り方に関するモデルとして私がつくってみた図がこれです。こ
れを私は戦後日本型循環モデルと呼んでおります。この高度経済成長期からそのあとの安定成
長期にかけて日本社会に成立していたこのようなモデルの特徴、ほかの先進社会には見られな
いような大きな特徴というのは、教育と仕事と家族という3つの異なる社会領域のあいだに太
い矢印、しかも一方向的な矢印が成立しており、ある社会領域がそこのアウトプットを次の社
会領域に注ぎ込むといったようなかたちで、この3つの領域のあいだに極めて完結したかたち
で循環が出来上がっていたということが、戦後日本型循環モデルの特徴です。
その中身について、具体的にどういうことかと言いますと、まず教育を終えれば新規学卒一
括採用という他の国には例を見ないような珍しい採用慣行に乗って、大半は正社員になること
ができていたわけです。この新規学卒一括採用というのは、大学に在学中にしばしば教員や大
学のキャリアセンターなどの手助けを借りながら就職活動をして、
在学中に内定を取っておく。
3月に卒業式に出て4月1日に入社式に出るということで、大学や高校など正規の学生生徒で
あった時期と企業の正規の従業員である時期とのあいだに、時間的な隙間というものがほぼま
ったくない。そういう教育から仕事へのトランジションの在り方というのが、新規学卒一括採
用です。
これが日本社会に広がったのは、もともと当時はまだ規模が少なく非常な高学歴者であった
大卒などにおいては新規学卒一括採用があったわけですけれど、それが非常に幅広い層に広が
ったのは、やはり高度経済成長期でした。先ほど申しましたように、人手があってもあっても
足りなかった時期ですから、学校の出口で待ち構えていて卒業者を全部さらって、企業の中に
持ち込むようなかたちで企業が採用行動を取ったということが、この新規学卒一括採用の時代
の背景になっていたわけです。それは言い換えれば賃金が安く、しかも頭が柔軟で可塑性に富
むような新規学卒者に対する労働力需要というものが、高度経済成長期、安定成長期にかけて
は非常に高かったという背景があったわけですね。
この矢印に乗って正社員になったとすると、正社員になっても、もちろん企業規模であると
か就いた仕事によって、賃金には差というものがありました。けれども一応正社員になってお
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けば、普通に働いていれば、そうそうクビにはならない。また普通に働いていれば、だんだん
賃金というものは上がっていくものだということが確実に見込めるというのが、それこそ日本
的雇用慣行の特徴だったわけです。ここにありますように、そういうかたちで将来が保障され
ていたわけですね。
その保障の見込みに基づいて、
結婚して子どもをつくることができていた。
つまり、家族をつくることができていたわけです。
家族をつくると、主な働き手としての父親が、だんだん上がっていく賃金というものを家族
に持ち帰る。そしてパートに出たりしながらも家族を支える主な存在であるところの母親が、
それを受け取って、さまざまな消費行動によって家族をだんだん豊かにするような役割を担っ
ていたわけですね。三種の神器と言われたりするようなもの、あるいは乗用車であるとか、家
そのものであるとかを買い換えたりして、だんだん家庭生活を豊かにしていくような消費行動
を担当するのが主に母親でした。また、母親は単に父が持ち帰る賃金を消費に使うだけでなく
て、次世代の子どもの教育費に非常に熱心につぎ込んでいました。
そうせざるを得ない事情というものはありまして、それはもうよくご存じのことと思います
けれども、日本という国は政府が教育に支出する費用が極めて少ないということで知られてい
ます。
これは最近のデータですけれども、
どこかでご覧になったことがあるかもしれませんが、
青い線が学校教育費の対 GDP 比の合計です。それを私費負担つまり家計や個人が負担する部
分と、公的支出、つまり政府、国や自治体が負担する部分に分けて、それぞれの GDP 比を示
すとこういうふうなグラフになります。日本はここにあります。日本の公的支出は 3.4%でこ
れだけの国が並んでいる中で最低です。日本よりも経済発展が遅れている国もある中で、日本
は最低です。日本はギリシャとかスロバキアと最下位争いを続けているのです。このように日
本の政府というのは、学校教育に、高等教育となるともっとひどいのですが、投入する支出を
非常に節約してきた。それを補うかのように、私費負担がぴょんと高くなっています。
それでも 1.5%ぐらいではないかと思われるかもしれませんが、実はこのグラフには、予備
校であるとか塾であるとかお稽古事であるとか、そういう学校外教育への支出というものは含
み込まれていません。実はそこに大変高いお金がかかり、かつそれは非常に広範な家庭がやっ
ているわけですね。ということで、それをここに足しますと、さらにぴょんと上がるわけで、
韓国や米国に匹敵するか、それを上回る水準になることは確実です。というように、政府が支
出を惜しんでいるぶんを代わりに担うようなかたちで、日本の家族は子どもの教育に費用を注
ぎ込んできました。
もう一つ重要なのは、費用だけではなく、日本の母親は子どもの教育に対しておしなべて高
い意欲というものを注ぎ込んできた、そういう存在でもあったということですね。ここに教育
ママという言葉が書いてありますけれど、教育ママという言葉は 1960 年ぐらいに日本のマス
メディアに初めて登場し、そのあと何回も繰り返し登場するのですが、そこにおいては教育熱
心すぎる母親をからかうような記事が多かったわけですけれど、当時の 1960 年代にちゃんと
した社会調査で教育ママになる確率というものを、さまざまな家族の特性によってどれくらい
異なるかを調べた研究があります。
それを見ると、例えば家族の収入であるとか父親、母親の学歴によって教育ママになる度合
いというのは、統計的に差はありません。つまり、どのような貧しさ、あるいは豊かさの家族
であっても、あるいはどのような学歴の親であっても、おしなべて教育ママである。
つまり、お母さんが中卒であれば、うちの子は高卒にしてやりたい。自分は中卒で悔しかっ
72
たら、子どもは高校に入れてやりたいと思う。お母さんが高卒であれば、子どもは大学に入れ
てやりたい。親が大卒であれば、もっといい大学に入れてやりたいということで、子ども世代
に自分たちよりももう一歩上の教育達成をしてもらいたいという意欲が共有されていたが故に、
どのような社会階層の家庭であっても母親が教育ママになる確率は同等であったということが、
当時の研究から明らかになっています。
振り返ってみれば、
「ちびまる子ちゃん」であれ「ドラえもん」あれ、国民的なアニメと呼ば
れるものにおける母親の振る舞い方というのは、必ず「のび太、宿題はやったの?」と子ども
を叱咤激励し、勉強に向かわせる行動を取るのが日本の母親だったわけですね。それが、教育
ママという言葉で言われていたわけです。
このように教育と仕事と家族というもののあいだに緊密な循環関係が成り立っていたという
ことと表裏一体なのですが、日本の政府というのは、公共事業だとか産業政策、その中には原
発も含まれていたわけですけれど、それによって何とか全国に仕事が成立するような役割さえ
していれば、教育に、あるいは家族に直接に支出することは非常に抑制することができていた
わけですね。
このように説明しますと、戦後日本型循環モデルは何てよいものだろうと思われるかもしれ
ません。
効率的で政府は小さいし、
素晴らしいではないかと思われるかもしれないんですけど、
でも実はそれが全然そうではないということが重要なことです。
と言いますのも、このモデルが成立したオイルショック前後、だいたい 1970 年ころに、さ
まざまな諸問題、そのうちのいくつかは今に至るまで続いているような日本固有の社会問題が
噴出します。それらの問題は比喩でいうと、このような社会領域を結ぶ一方向的な矢印があま
りにも賢固に成立してしまったが故に、その矢印が生えている根元の領域のいわば養分を吸い
取って枯らしてしまう、空洞化させてしまうといったようなイメージでとらえることができる
ような社会問題が多々起こり始めます。
例えば教育と仕事の関係については、いい成績を取って、いい学校や大学に入って、いい会
社に入る。そのために勉強するのだといったような、いわゆる外発的動機付けという ものが
教育の世界を支配するようになります。その結果、例えば受験競争の早期化であったり、その
反面としての落ちこぼれ、落ちこぼしであったり、あるいはストレスによる不登校や校内暴力
であったり、あるいはそれを押さえつけるための管理教育であったりといったような、いわゆ
る教育問題というものがどっと指摘され始めるのが 1970 年ころです。戦後日本型循環モデル
が成立した当初と、同じ時期なわけですね。
同様に仕事と家族の関係に関しても、家族を養うためには大過なく勤め上げなければならな
い。企業の中に労働者を抱え込んで失業を防ぐというやり方が選択されたわけですので、企業
からの指示というものを労働者は自分の雇用を守るためには受け入れなければならないといっ
た働き方というものが、1970 年代から 1980 年代にかけて日本社会に広がります。
つまり妻子を養う、食わせるためには組織に言われることは受け入れなくてはならない。今
までやっていた仕事とまったく違う部署に飛ばされても、あるいは大事なはずの家族とまった
く離れて単身赴任を命じられても、それは企業の包括的人事権のほうが優勢なのであって、従
業員側からはノーと言えないということが判例によっても積み重ねられるようなかたちで、日
本の働く人々は組織に従属するような働き方をどんどん強めていくわけです。
それで先ほども言いましたけれど、過労死や過労鬱や過労自殺といったものが現れ始めます
73
し、それ以前にも嫌な言葉ですけれど、社畜であるとか会社人間であるとか、組織の中の自分
の立場を守るためには、例えば法律に違反することも指示されれば受け入れるといったような
働き方というものが、日本社会に広がっていた。
また家族と教育に関しては、親側があまりにも子どもの教育に熱心になりすぎたということ
が親と子の関係に亀裂を入れたり、それ以前に父親は主に仕事の世界に住んでおり、子どもは
主に教育の領域に住んでおり、
母親のみが家族に専従するようなかたちになっていましたので、
一応家族メンバーとしては、父、母、子というかたちで家族を構成していましたけれど、その
中で家族独自の親密性であるとかプライベートな時間や関係性というものの形成が不全である
ような状況というものが、やはり 1970 年代から 1980 年代にかけて多々指摘されるようになり
ます。それを体現しているのが、当時の家族内で起きたさまざまな事件、例えば主に子どもの
教育達成が思うようにならないことを原因とするような、子が親を、親が子を殺害するような
事件というものが 1970 年ころから増え始めるということと、当時の小説や映画やテレビドラ
マなどの作品において描かれていた家族というのは、ほぼ全てのように空洞化していく家族で
あったということです。
「金曜日の妻たちへ」もそうですし「岸辺のアルバム」といったような、
家族というものの不成立ということが、繰り返し日本の作品のモチーフになっていたわけです
ね。
このように、いわば各領域をつなぐ矢印が自己
目的化してしまったが故に、それぞれの社会領域
の本来の意味や意義、何のために勉強するのか、
学ぶことの本来の面白さや意味は何なのかといっ
たようなことであるとか、自分が一生をかけて追
求したい仕事や専門性というものは何かといった
ようなことや、人を愛して一緒に住むということ
は何なのかといったようなことを全て置き去りに
したまま、とにかくこの循環がヒートアップするようなかたちで回り続けていたというのが、
高度経済成長期からの後半から安定成長期にかけての日本社会であったというわけです。つま
り、この循環構造は一見効率的に見えながら、多大な問題を含んでいたということを申し上げ
たいわけです。
ところが 1990 年代に入ってバブル経済が崩壊したあとになりますと、このような循環構造
そのものが成り立たなくなります。最初に起きた変化は、仕事の世界に起きたものです。仕事
の世界において、バブル経済のころに過剰採用していた正社員の負担と、もう一つは、団塊世
代が 50 代に達したことによる人件費の負担というものがダブルで企業に襲いかかったことに
よって、企業はバブル経済崩壊後に新規学卒者の正社員採用というものを抑制せざるを得なく
なります。
代わりに非正社員を活用し、正社員の中にも従来どおりの正社員と名ばかり正社員と呼んで
よいような、大変労働条件の悪い正社員を区分するようなかたちで従業員の中に層で分けて差
をつくり出すようなかたちで日本の企業は対応します。
もともと3つの社会領域が緊密につながれていましたので、1つの領域が変化すれば、その
変化は他の領域にも直接に影響を及ぼします。つまり言うまでもなく、教育を終えたからとい
って、こちらの比較的堅牢な矢印に乗れる層も、もちろん残っていますけれども、ここで点々
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で書いてある矢印がもう一本現れているのは、もうボロボロになり始めた矢印ですね。大変危
うい、もろい矢印というものが、このバブル経済崩壊後に現れ始めたということを意味してい
るわけなのですけれど、教育を終えても劣悪な仕事にしか就けないような若者というのがぐっ
と増加し始めるわけです。
また、仕事の世界でもこのように格差が生じていますので、当然持ち帰ることができる賃金
にも差がある。例えば非正社員の場合、正社員に比べて大変賃金水準が低い。これもほかの先
進諸国と比べて、
明らかに日本の場合は正社員と非正社員のあいだの賃金格差が大きいが故に、
かつ男性が働いて家族を食わせるものだろうという、いわゆるメールブレッドウィナーモデル
という規範そのものが強いことによって、そのあいだのギャップ、齟齬により、男性の非正社
員はなかなか結婚相手と見なしてもらえない。そういう非正社員が増加したことによって、日
本の晩婚化や非婚化、
あるいはさらには少子化が進んでいるということについては、
指摘が多々
あるところです。
家族が形成できないような若者も増えていますし、何とか家族が形成できたとしても、仕事
の世界から持ち帰ることができる収入に差がつき始めていますので、家族が次の世代である子
どもに投入することができる費用や意欲に関しても差がつき始めている。
一方には、このような社会状況の変化を薄々見て取って、これまでよりも一層教育熱心にな
って、子どもを、この細くなった堅牢な矢印に何とか入れ込もうとして、あらゆる面で全方位
的に過剰なほど教育熱心になる親というものも現れています
一方で、子どもに何かしてやりたくても費用面でもほかの面でも、やってやる余裕がないよ
うな家族というのも現れ始めています。
本当に家計を成り立たせるのに精いっぱいであったり、
母親自身が夕方から夜にかけて仕事をしていたりするような場合は、子どもに何かしてやりた
くてもやれないような、そういう時間的な資源すらないような家族というものも増えてきてい
る。このように、家族のあいだの差が広がることによって、こういう矢印の差が現れ始めてい
るわけですね。
このように、ぼろぼろの矢印が現れ始めたことによって、この循環からぽろぽろこぼれてし
まうような個人というものが随所に現れています。例えば印象的なのは、年越し派遣村に集ま
ってきたような人であったり、あるいは私は最近調査を始めているんですけど、児童養護施設
の子どもたちは、家族の支えが不十分でないが故に児童養護施設に入っている。そうなると、
教育達成も低くなりがちである。そうなると安定した仕事にも就けないというように、この循
環構造の中からこぼれ落ちがちで、若年ホームレスの中には養護施設を出て苦汁をなめて、住
み家も失ったような人が含まれているというリポートも上がってきている。このように黒い丸
で書いてありますけど、支えもなく孤独に、貧困に耐えるような個人というものが明らかに現
れてきている。
このように循環構造が転換しているその時期に、日本の政府が、特に自民政権の末期ですけ
れど、どういう選択を取ったかというと、自助努力や民間活力が素晴らしいのだということを
掲げて、これまでも希薄であったセーフティネットを一層切り下げる方向の選択を取った。そ
のためにいっそう何も守ってもらえないような人たちが増えてきたというのがその後の状況で
す。
私たちは今、このような状況の中にいるわけです。その中で、大学というのは教育システム
の上部にあるわけです。このような社会状況を何とか改善していくために教育システムや大学
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教育には何が必要なのかといったような観点で考えていく必要があるであろうと思います。場
当たり的な近視眼的な対応だけをしていては、むしろ問題を深める方向に行くのではないかと
いうことを危惧して、こういう見取り図を置いたうえで何がというふうに考えていくことが必
要かなと思って、ちょっと長くなりましたけど、最初の総論の部分をつくってみたわけです。
これから各論に入っていきます。先ほども仕事の世界については申し上げましたけれど、も
う少し詳しく日本の仕事の特徴について説明させていただきますと、ここに「日本の労働の現
状」と書いてあるシートがありますけれど、申し上げたいことはだいたいここにまとめてあり
ます。たくさん並んでいるグラフはその傍証ですので、飛ばし飛ばし行こうと思います。
日本の労働、特に若い人では、一つは比率的に、正社員が減って非正社員が増えているとい
うことが観察されます。それは例えばすぐ次の中教審のグラフにおいても、どんなデータを見
ても明らかに観察されることですけれども、このような正社員と非正社員の量的な変化だけじ
ゃなくて、そもそも日本の正社員と非正社員というものの質的な面が大変日本独特であるとい
うことについて踏まえておく必要があります。そうでないと、とにかく正社員に突っ込んでお
けば若年雇用問題は解消されるといったような振る舞いを日本の政府は取りがちです。でもそ
れでは何の構造的な打開にもならない、正社員の働き方にも大きな問題があるのだということ
をもう一回確認しておく必要がある。
この「ジョブなきメンバーシップ」と「メンバーシップなきジョブ」というのは、すみませ
ん、引用がここは抜けていますけれど、濱口桂一郎さんという労働法学者が本で指摘されてい
ることです。余談ですけど、今日その方とすれ違いまして、すごくびっくりしたんです。その
濱口さんの言葉を借りているわけですが、日本の正社員は「ジョブなきメンバーシップ」
、片や
日本の非正社員は「メンバーシップなきジョブ、あるいはタスク」といったような表現ができ
るとおっしゃっているわけです。
何のことかと言いますと、ジョブなきというのは、日本の正社員というのは、これこれこう
いう仕事の、これこれこういう分量を担当するために私は雇われますといったような、ジョブ
をベースとした契約性というものが大変希薄です。
これは世界的に見て大変珍しいやり方です。
世界標準は、ジョブベースです。日本の場合は、雇用契約書自体が配られないことも、手渡さ
れないこともあるのです。契約書に例えばちょろちょろっと職務内容が書いてあっても、組織
に入ったあとの変更や追加ということは、いとも簡単に生じます。個々人が担うジョブの輪郭
というものがあいまいであるということを、この「ジョブなき」という言葉で表しているわけ
ですね。
それに対して、ある組織に属します、その正規の従業員ですといったような意味がメンバー
シップです。企業に所属しており、その所属がなかなか失われないという意味では、メンバー
シップのほうは大変強固であるのが、日本の正社員です。逆に、日本の非正社員はメンバーシ
ップは大変希薄です。
つまり有期雇用であったり、
期限が来る前でもクビになったりしやすい。
組織のメンバーシップを恒久的に確保しますといったような保障というのは、大変希薄なわけ
です。でも担当する仕事内容は、ある程度明確である場合が多い。
ただその担当する仕事内容は職場によってさまざまです。ジョブと呼べないほど細分化され
てしまっている単純な作業である場合も多いです。
つまりタスクと呼んだ方がいい場合もある。
工場の中でまだ機械化されていない部分について、機械の代わりとして延々と同じ作業をする
ためにだけに雇われているような、生産現場の非正社員というものがあるわけですね。そうな
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るとそれはジョブとは呼べない、タスクを担うための存在ということになるわけです。
このように、正社員と非正社員が片や「ジョブなきメンバーシップ」
、片や「メンバーシップ
なきジョブ」というかたちで、両極端な、まったく逆の働き方であることによって、いずれに
ついても、非常に問題があるというのがここで申し上げたいことです。
まず「ジョブなきメンバーシップ」である正社員のほうですけれど、それに伴うひとつの問
題として、参入制限が非常に強固だということがあります。これは企業側が「あなたはわが社
のぴかぴかのメンバーシップを与えてあげるに足りる人ですか」といったような基準でもって
採用の際に人を判断しようとするということですけれど、そのハードルは大変高いということ
ですね。
一番そのハードルにとって阻害要因になるのが、これまでの人生の中でメンバーシップが不
完全であった時期を持っているということで、これは大変ネガティブなレッテルになります。
不完全なメンバーシップというのは、例えば失業や、あるいは引きこもりであったり、非正社
員であったり、ある組織のぴかぴかの、私はこういうものですと名刺に書けるような所属がな
いような時期を過ごしてきた人間に対して、新たにわが組織のメンバーシップを与えてよいの
かということに対して、企業は非常に消極的になります。
経営者とか人事担当者の方にヒアリングに行ったりすると、こういう言葉で語られますね。
「いや、そういう人は自由な働き方が好きなんじゃないかな。うちにしっかり骨を埋めて貢献
してくれるような働き方ができるか、ちょっと心配だね」といったようなことを企業の方はお
っしゃるわけです。それはこれまで不安定な時期を過ごして来られた方に対して参入制限が強
いということを意味しているわけです。
言うまでもなく、今内定がなかなか取れなくて卒業に至ってしまった大学生などが、わざと
留年して卒業を延長したりすることの背景には、何とか大学のメンバーシップを確保しておか
ないと、それを失ってしまって就職活動することが極めて不利になることを、彼らは知ってい
るからということがあります。
しかし、参入制限を突破して、この「ジョブなきメンバーシップ」の世界に入ったとしても、
やはり問題はいろいろあります。もっとも大きい問題は、職務範囲が不明確であるが故に、ど
んどん仕事が降ってくるということです。あるいは、これまでやったこともない仕事でも押し
つけられるといったようなことに対する歯止めは、はっきり言ってないです。日本の企業にお
いては。これまで経理課長だった人が「いや、ちょっと人手が足りなくてさ」というそのひと
言で人事課長も兼ねさせられたりするようなことというのは、簡単に生じるわけです。その辞
令ひとつで、仕事は倍以上に膨らんだりします。
「いや、君のためだからさ」と言ったりもしま
す。
「君に期待してているからさ」と言われながら、仕事の範囲や責任がどんどん増えていった
りして、結局、疲弊して辞めていったような例が、研究者として調査した内容にだけでなく私
の個人的な知人の中にもあとを絶たないんですね。
大変苦しく思っているところですけれども、
そういうことが起きてしまう。
割と優秀で柔軟性に富み責任感が強いような人ほど、仕事がどんどん降ってきて、そうじゃ
ない人のところには仕事が降っていかないといったような、明示化されないような仕事格差み
たいなものが簡単に起きるわけです。人を見ながら職務範囲を決めたり、職務範囲の外縁その
ものが曖昧だったりして、
ある部署の中でアメーバ状に担当が入り組んでいいたりするわけで、
そうなると、例えばワークライフバランスといったようなかたちで、定時に帰って、その替わ
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りにワークシェアリングをして人を増やしましょうといったこともやりにくいわけです。その
人がやっている仕事の外縁がアメーバのように伸びているわけで、それを代替できる、シェア
することができる人を代わりに雇うということが難しくなっているわけです。大変属人的な仕
事のやり方が強いというのが日本の企業の特徴です。その結果、長時間の重労働になりがちで
ある。
一方、非正社員の苦境というのは、言うまでもなく、雇用が不安定で、いつでも切る対象と
して雇われているわけですから、賃金水準も極めて低く、かつ、育ててくれるような手段も企
業は取ろうとしないわけですね。その時期だけ、仮に雇っているだけの存在ですから。という
わけで、
「ジョブなきメンバーシップ」と「メンバーシップなきジョブ」という両極端な働き方
が、正社員と非正社員のいずれに対しても、ある意味非人間的な働き方をもたらしてしまって
いるというのは、重要なことです。単に正社員に若者を突っ込んでおけば何とかなるといった
ような問題では、もうないのだということをご理解いただきたい。
もう一つ、さらに気が滅入るようなことを申し上げますけど、それはこのように両極端な働
き方である正社員、非正社員のいずれに関しても、生産性というか収益を上げることが世界的
な競争構造の中でどんどん難しくなっている中で、法律や人権を簡単に踏みにじるような雇い
方というものをする企業が増えてきています。
ブラック企業という言葉を聞かれたことがあるかもしれませんけれど、
「うちは労働基準法は
やっていないから」とか、
「うちでは残業代は基本給に含まれているから」とか言う経営者が珍
しくないということは、事実です。労働相談をやっているような弁護士の方のレポートでは、
本当に笑い事ではないひどい事例が報告されています。割と新しめの企業、ベンチャーみたい
なかたちで新しく事業を始めた方たちが、そういう法律的な知識がないままに事業を立ち上げ
たりしているので、本当にやりたい放題であるということが多々聞かれます。
このように、とにかく日本の労働は、日本固有の要因と、それにかぶさってきている世界経
済に由来するような要因が嫌なかたちで相混ざり合うことによって、大変荒れた状況にありま
す。
あとはデータなんですけれども、駆け足でいきます。非常に読み取りやすいグラフばかりで
すので、持ち帰っていただいて眺めていただければと思います。非正社員の中で高学歴化が進
行している。日本の正社員と非正社員の賃金構造はまったく別もので、非正社員は上がりませ
ん。いくら勤続を重ねても上がりません。教育訓練期間も正社員と非正社員のあいだには大き
く差がありますし、あるいは一度非正社員になると、正社員への転換というのは大変難しい。
正社員の長時間労働も大変進行しています。ここでは週 60 時間以上働いている正社員男性
の割合を示しています。週 60 時間というのは過労死ラインです。つまり、週 60 時間以上働い
ている方が亡くなった場合には、過労死認定されます。つまり、いつ死んでもおかしくない働
き方で働いている正社員男性というのが、だいたい4人に1人に近い割合に達しているわけで
すね。60 時間ですから、休みが週に1日だけでほかの6日間は 10 時間働いているといったよ
うな働き方です。そう申し上げると、何かあまり珍しいような気がしないとお考えかもしれま
せんけれど、そのような国は少なくても先進諸国の中では日本ぐらいであるということを、次
のグラフで見ていただけると思います。
これは 50 時間で切っていますけど、これだけの国が並んでいる中で、日本は 50 時間以上働
いている正社員労働者の割合は 28.1%で、この中でトップですね。ダントツです。それに続く
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のがニュージーランド、アメリカ、オーストラリア、イギリスといったような英語を話す国、
いわゆるアングロサクソン系の市場競争を重視する国が来ますけれど、そういう国でもだいた
い2割前後ですね。ヨーロッパ諸国になりますと、だいたい5~6%です。
ヨーロッパにおいては労働者の法的な権利が大変確立されているということと、労働者側の
権利意識も強いということで、サービス残業したりしないし、させないといったような環境が
整っている。どの国も今、経済的に厳しい状況にありますけれど、どの国も厳しい中で、日本
という国は、そういうグローバルな厳しさの中で特にまずい選択をすることによってグローバ
ル化に対抗、乗り切ろうとしているように見えます。
ただし、日本やここに書いてある国よりも、経済的な発展の度合いがもっと遅れている国を
書き込みますと、そういう国はもっと長時間労働が多かったりします。日本はそういう経済的
な途上国の特徴を引きずったまま、なんとか経済的に先進国の仲間入りをしているようなふり
をしておりますけれど、まだそういう途上国の残滓というか特徴というものを色濃く残してい
る社会であるということが、このグラフからわかります。
正社員の賃金は上がっていく構造をしておりますけれど、その上がっていく度合いが、どん
どん低くなっている。若手の正社員は長時間労働に苦しみながら、今の中高年ほどの収入が将
来得られる見込みというものは、どんどん下がってきているということで、それが彼らのこの
ような心身に対する病の背景にあるといったような指摘もあります。赤いほうが精神障害とし
て労災請求された数ですね。青いほうが脳・心臓疾患で、書いてありますように、精神障害の方
の6割が 30 代以下です。若い方というのは、比較的肉体が頑健なぶん、精神のほうにきつさ、
つらさというのを反映してしまいがちだということがわかります。
次のグラフは、先ほどブラック企業と申しましたが、ある NPO が若者に対して採ったデー
タによりますと、ここに雇用形態を分けて書いてありますけれど、いかなる雇用形態であって
も、やや差はありますけれど、だいたい2人に1人は職場で違法な処遇を経験しています。違
法な処遇の1位は残業代不払い、2位は有給休暇を取らせてもらえないということ、この2つ
がトップに来ています。
違法行為に遭遇した若者に対して、
「あなたはそのときにどうしましたか」とさらに聞くと、
7~8割の若者は「何もしなかった」と答えます。
「なぜ何もしなかったのですか」とさらにた
たみかけてこの調査で質問をしているのですけど、その結果を見ると、違法だとは知らなかっ
たというのも一部はありますが、多くは違法だと薄々はわかっていたながらも、でもそこで声
を上げると職場の雰囲気が悪くなると思ったとか、人間関係にひびが入ると思ったとか、ある
いは、どこの企業でもこのようなものだと思った、変わり映えしないだろうと思ったとか、自
分には到底変えることなどできないと思ったとか、要するに、タイトルに書いてありますよう
に、諦念なんですね。どこに行ってもこのようなものだろうとか、こういう企業を選んだ自分
が悪いのだといったようなことによって、
あきらめてしまっている若者が多い。
それによって、
また悪循環的にブラック的な働かせ方をする企業が増えていってしまうといったようなことが
さまざまに指摘されています。以上が仕事側の問題です。
今見てきましたように、仕事の世界は大変荒れておりますが、大学教育、教育システム全体
についてもそうです。今日は大学教育に絞ってお話ししますが、大学教育の場合も問題がたい
へん山積みの状況にあります。
このシートに申し上げたいことが言葉でまとめてあります。あとはデータですけれど、これ
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は申し上げあるまでもなく皆さんもよくご存じのことの確認になってしまうかもしれませんが、
1990 年代に入って、大学生というものは増加してきています。また大学進学率も上昇してきた
ことによって、大学では学生のあいだに多様化と格差化が一層進行しています。日本の大学教
育は 1990 年代に入る前からピラミッド構造をしていましたけれど、その頂点部分の選抜性は
まだ維持されたままに、裾野を広げるようなかたちで、このピラミッド構造が拡張されている
というのが 1990 年代に起きていることです。
まだ一部にはその競争が入試の際に高い基準を課すような大学もありますが、例えばある私
立大学は、入学時のリメディアル教育としてアルファベットの覚え直しとか、割と簡単な四則
演算の授業をしているということで、それが2ちゃんねるなどでバカ大学とそしられたりして
いますけれど、そういう対処をせざるを得ないほど、大学生の中は多様化している。日本の大
学は私立が多いことが特徴です。私立の大学というのは経営体ですから、何か厳格な、例えば
国家的な基準を課して、それ以下の学生は入れませんといったような行動を取れません。経営
を成り立たせていくことが、彼らにとっては必要だからです。
そうなると、入り口管理も難しいわけですね。厳密な入学者選抜をおこない、この基準でも
って切りますといったようなことを言っていられないような私立大学というのも増えてきてい
るわけです。つまり、もう選抜が機能していない、ほぼ無選抜で志願すれば入っていけるよう
な私立大学も増えてきている。
また、そういう大学では、大学の中で厳密な成績
評価をおこない、基準に達しなければ卒業は認めら
れませんねといったようなことも、なかなかいいに
くい状況があります。つまり、どんどん入れて、ど
んどん就職して出ていってもらわないと経営が成り
立たないような私立が多いわけです。私立だけでは
ないかもしれませんけれど、そういう大学が多い中
で、入り口の質保障も出口の質保障も、どちらも機
能不全になりがちです。
また 1990 年代に入って、大学の設置基準が緩和されたりしたようなこともありまして、分
野の融合や学際化、学問の境界のあいまい化や、あるいはそれとは逆にいっそう細分化して、
何かに特化した学校をつくりますといったような、タコつぼ化みたいなものも進んでおり、ボ
ヤッとあいまいな学科と非常に特化した学科が入り乱れているような状況にある。
高校生たちの進路選択のやり方を見ていると、今なお合格可能性を重視した進学先決定がお
こなわれていますので、入れる大学で一番偏差値がいいようなところに滑り込もうとするよう
な行動様式というのは、全然変わっていない。そうなると、これを学びたいからこの学部に行
くといったようなことは難しいわけで、とにかく入ってみたけれどもこんなことをやる学部と
は思っていなかったとか、理工系で多いのが、こんなに実験が多いとは思わなかったとかとい
うことによって、その後の不適応を起こして引きこもったり中退をするといったような大学生
も増えてきている。
一方で大学を出たあと就職が厳しくなってきていますので、文科省の指示のもとキャリア教
育を行ないなさいということが設置基準にまで書き込まれるような、今の時代のわけですけれ
ど、キャリア教育として何がおこなわれているかというと、これもあとでお見せしますが、非
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常に多様です。大学によっても多様ですし、一つの大学の中でもいろいろなものをひっくるめ
てキャリア教育と呼んでいたりする。いったい何なのかということが、よくわからなくなって
いる。
往々にしてありがちなのは、とにかく就職試験を突破してもらうための就活対策のようなキ
ャリア教育が、
特に私立の大学にはたくさん観察されます。
本体の大学の教育課程というのは、
まったく従来のままで、外部から就職予備校の講師やコンサルタントを呼んできたりして、面
接の際の答え方であるとか女の子に対して就活の際のメイクを指導する講座を開いているよう
な大学もあります。こういう本体の教育課程の外側に外部から講師を呼んできてぽこぽこと付
け足すようなかたちで、これでキャリア教育をやったことにしましたといったようなことにし
ている大学というものが、たくさん見られる。
本体に組み込んでいる場合もあるのですが、ある私立の大学では就活ゼミと題したゼミがあ
るのです。そこでは何をやっているかというと、面接の際に自分が個性的な人間であることを
アピールするための奇特というか奇抜な行動を取ることがそのゼミな課題になっています。例
えば、これはあまり奇抜でなくてむしろ陳腐になっているかもしれませんけれど、自転車で日
本を縦断してみるとか、あるいは公園で、寝袋で寝泊まりしてホームレスの方と仲良くなって
みたり、通りかかる方々にとにかく名刺を交換してもらうとか、意味がわかりませんけれど、
そういうことをすることによって、自分の個性を証明するということを強要する、それでもっ
て単位を出すような、そういうゼミさえあるというリポートが上がってきている状況がある。
全部ひっくるめて見ると、大学生といったとしても、それはいったいどういう意味内容を持っ
ているのかということが、日本ではもうほとんどわからなくなりつつある、混沌状態である。
全体としての大学教育の質の保証といったものが、今不成立というか形骸化するような状況に
なっているわけです。
時間が足りなくなりそうで、今非常に慌てているんですけれど、この辺りはもうご存じのグ
ラフだと思いますので飛ばします。大学の学生数も増えてきているわけですね。今、四大卒の
就職者が新規高卒就職者数よりも多くなるような状況があるわけですが、その中で、大学入試
も多様化しており、推薦入試や AO 入試も増えてきている。特定のセンター試験であるとか学
力試験による選抜だけではなくなってきているわけです。
私立大学のなかには定員割れの学校が非常に増えています。これも生々しいグラフですが、
どんどん最近になるほど定員割れの大学が増えています。若年人口が減っていることからして
当然です。学部名称数の推移が非常に印象的ですが、学部の名称がすごく増えてきている。こ
こに変わった名称の学位の例があります。このようなカタカナが多くて、これまでなかったよ
うな名称を持つ学部が新しく生まれつつあります。
こういうなかで重要なのは、日本の教育の、私が職業的意義と呼んでいるものがずっと低い
ままであるということです。キャリア教育による表層的な対処しかなされておらず、大学教育
そのものが職業の場面でどう有効であるかといったことに関しては、日本はいろんな国際比較
データで見ても、おしなべて大変数値が悪いです。
これは世界青年意識調査ですが、水色が中等後教育ですから、短大、専門学校も含み込んで
いますが、それを含めてこれほど低いわけです。これはヨーロッパと日本の比較調査です。一
番日本でがくっと下がっているのが職業における大学知識の活用度です。
これは、大学側の問題と仕事の世界における「ジョブなきメンバーシップ」であることの問
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題が相まってこういう結果をもたらしているわけで、大学側のみの責任とは言えないかもしれ
ませんが、とにかく大学と仕事のあいだが接合していないということは確かです。
これは私が作ったグラフですが、横軸に職業的意義をとり、縦軸に人間形成的レリバンス、
人格形成のために役立ったとか、そういう回答の比率を採り、出身分野別に散布図を描きます
と、この辺りが職業的レリバンスも、人間形成的レリバンスもいずれも低い分野になっていま
すが、一番低いのは社会科学系です。人文科学系も低い。ただ、理工もわりと低い。この3つ
は日本の大学生のなかで占める比率が大きい分野ですが、その3つがいずれも職業的レリバン
スも人間形成的レリバンスも低いということが危惧されるところです。
例えば社会科学や人文科学で私立のマスプロと呼ばれるような大学においては、大教室で数
百人単位の授業しかなされていないようなところもありますから、そういうところの実態が反
映されていると推測されますが、そういう要因も踏み込んだうえで、レリバンスが低いという
ことが明らかです。
こういう実態に対して、若者の側は、もっと職業に必要な専門的知識や技能を学校生活を通
じて教えてくれればよかったと考えています。これは大学だけではなくていろいろな教育機関
も含まれていますが、若者全般にもっと自分に武器となるような職業的知識があればよかった
のにという思いは強いということが描かれています。
次はキャリア教育について、これは松高政さんという方がまとめたものですが、今大学にお
いてキャリア教育と呼ばれているものには、これぐらいのバリエーションがある。これは全部
広い意味でのキャリア教育と呼ばれているのであって、本当に拡散しています。この川喜多喬
さんは法政大学の先生で、大変口の悪い方ですが、今のキャリア教育の問題点として、ここに
書いてあるようなことをご著書のなかで指摘されています。
次のグラフは労働政策研究・研修機構の調査結果ですが、大学においてキャリアを担当して
いらっしゃる方に調査した結果ですが、教員の積極的協力を求めたいとか、キャリア教育につ
いての正規の授業科目を設置拡大したいといったことがこの調査の 2006 年時点では一番大き
な課題とみなされています。つまり、キャリア教育を推進しようとしても大学の本体の教育は
堅く閉ざされていて入り込めない感じを担当者の方は受けていらっしゃる。教員の方はキャリ
ア教育に無関心の場合が多いことが、この調査からわかります。
このように大学教育に大きな問題があります。本当に気が滅入る話ばかりで申し訳ないので
すが、仕事の世界も荒れている、大学教育も荒れている。そのあいだの接合に関しても独自の
諸問題が多々ある。日本の大学生の就活は本当に問題が多いと私は考えています。早期化・長
期化・煩雑化・不透明化した就職活動が大学教育を受ける権利を阻害し、学生にとっても多大
な時間や金銭、精神的な負担をもたらしている上に、留学に行きにたがらないといったような
内向き化をもたらすという指摘が数多くあります。私もいろんな調査結果などから指摘してい
る者の1人です。
一方、1990 年代後半から就職活動においてもインターネットが非常に普及するようになりま
す。いわゆる就活サイトと呼ばれるものに、まず登録するのが就活の第一歩であるといったよ
うな事態が始まるわけですが、そうなると就活サイトは平原のような、非常に広い範囲の人が
同じ平面のなかで応募することができるようなツールなわけです。
それによって、例えば 30 人しか採用しない企業に 3,000 人が応募したりします。3,000 人を
30 人にするために、企業はざくざくと多段階の足切りによって狭めていって、多段階の最終に
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あたる重役面接などによって決めていくわけですが、その結果、切られ切られしていく若者が
数多く出てきています。大企業への応募というのはボトルネック化しているのに、そこへの応
募をむしろ誘うような機能を就活サイトが持ってしまっている。
もう一つ、よく指摘が上がっているのが保護者の就職観です。名前がある企業への就職を子
供に望む志向がすごく強いと言われます。この原因としては、今の大学生の保護者の方たちが
就職活動をされていたのは、だいたい 1980 年代であっただろうと思われます。そのころは安
定成長期で、かつバブル期に向かうころでしたから、かなり就職はよかった時期である。当時
は大学生も今ほど多くなかったですから、今の大学生の親世代の就活は全然今とは違っていた
わけです。非常にのんびりしていたし、今より規模の大きい銘柄企業に行ける確率は非常に高
かった。その親が自分の経験した就職を子どもに期待しがちである。
あとは中小零細企業にブラック企業が多いことは確かですので、それを避けるという意味で
できれば大企業をということになると思いますが、そこで採用の少ない企業規模に応募が集中
する事態が起きている。
一方、内定がないままに大学を出てしまうと、その人は新卒採用の対象でもなく、経験者の
中途採用の対象でもないというかたちで、
非常に不利になりがちであるということがあります。
この点を緩和するために、昨年の夏に日本学術会議の大学教育の分野別質保障に関する検討委
員会が出した報告書の第3部において、大学と職業との接続検討部会、卒後3年間は新卒とみ
なしてくださいという提言をしています。
実はそれは、かなり政府に採用されていて、政府は3年までは新卒にということを少なくと
も言うようになっています。あるいは、卒後3年以内の人を採用した場合には助成金を企業に
支払うといったやり方も始めています。この問題を緩和するために3年間を新卒にみなしても
らうということだけが一人歩きしてしまっているきらいがあって、その提言を出した、私もメ
ンバーだった委員会の人間としては、大変複雑な気持ちでいるというのが現在のところです。
国際的にみても、日本の新卒就職の特異性は明らかです。このように国際比較で見ると、ほ
かの国では在学中に就職活動を始める人もいますが、それは卒業直前の話であったり、在学後
に始める人も半分ぐらいいて、つまりどちらでもいいような状況があるのに対して、日本では
9割までが卒業までに始めている。しかも就職活動は数年前と比べても、現在のほうがいっそ
う早期化している。
ただ、
こういうことが問題になり始めているが故に、
日本経団連が変革するとおっしゃって、
広報活動は 12 月からにすると今年は改革がなされたわけですが、単に広報活動の時期が短く
なっただけであって、面接開始はやはり4月です。つまり、非常に弥縫的で姑息な対応であっ
て、むしろこれは学生にとって厳しいことになっているのではないかと思います。
私は企業に対して厳しいことを言い過ぎですが、いろいろ腹が立つので、時間もないのに言
ってしまいますが、実はついさっき、来る途中の電車のなかでツイッターを見ていたら、トヨ
タが内定者に4月から 10 月まで留学させてあげるよと言っているそうです。あほちゃうかと
思いまして、というのも、4月に内定を出しますよね。出した子に半年間、トヨタのお金でア
メリカに留学にやらせてあげると。いったい本来所属していた大学の4年生前半の授業や卒論
や卒検に向けての指導をなんだと思っているんだと。しかも、罪滅ぼしだと言っているそうで
す。それほどに企業側の問題は多いということです。
採用基準もコミュニケーション能力や意欲、メンバーシップを与えてあげるにたえるかどう
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か、大変あいまいな基準でなされがちであって、いったいどういうことを研究してきたか、何
が研究テーマか、どういう力をしっかり身につけているかを、具体的に見ようとしないわけで
す。それによって、ミスマッチも生じていますが、企業側は今のところ採用の方式を変えよう
としていない。
次は私どもの研究室が採ったデータですが、駆け足でみると、社会科学系の公私立大学のな
かで入試難易度によってαとβの2つに分けてみましたが、それによって学生のタイプに関し
て、どういうご家庭の出身かに関しても、非常に大きな違いがある。
大学側の対応を見ても、左側のグラフで明らかですが、βグループの大学はついてこられな
い学生が多いので、きめ細かく対応しようとしている。しかし、そういう大学側の対応をもっ
てしても、やはりαとβでは内定獲得率にははっきりした明らかな違いがある。βグループの
内定率を左右しているのは、実は大学側が何をやってあげたかではなくて、この辺がつらいと
ころですが、趣味の団体に入っていたか、企業のインターンをやったかどうか、部・サークル
活動、アルバイトといった大学教育に関係ない課外活動の活発性によって内定獲得率が決まっ
ている。αはそれらによってほとんど差がありません。入試難易度が高い大学のなかではあま
り差がないことがこのデータからわかります。ここに調査からわかることを文字でまとめてい
ますので、すみませんがこれはあとで見ていただけますでしょうか。
仕事の世界も、大学の世界も、その接点においても問題ばかりですが、いったいどうするの
だということについて、これはついさっき申しあげた日本学術会議が昨年夏に出した報告書に
掲載されている図です。私はその第3部会の幹事でしたので、これは私が作った図です。この
図が報告書に掲載されていますが、上が現状で、下が目指すべき方向ということで、モデル的
に示してあります。今の大学教育は、教育の職業的意義が希薄であって、しかも就職活動が大
学教育の中に食い込んでしまっている。卒業までに内定が得られて正社員になれたかどうかに
よって、そのあとの職業キャリアが別々のルートに分かれるというのが今の非常に問題が大き
い状況です。
これをどのように変えていくかということで、非常にややこしい図であれもこれもと書き込
んでいますが、一つはやはり大学教育は職業的意義、つまり学んだことが職場で、職業の現場
で、
有効性を発揮する度合いをこれまでより高める必要はどうしてもあるだろうと思われます。
これまでの大学が、いわば学術専門に閉じこもって安閑としていられたのは、それでも卒業生
に就職があったからです。でも、いまやそのような状況ではなく、非常に厳しい状況におかれ
る卒業生が増えているなかで、それを大学側が放置していいのか。大学側が引き受けるべき責
任も多々あるのではないか、そこを考えていく必要があるだろうということが一つです。
職業的意義を向上させるためには、もちろん学内の教育課程も大事ですが、就労体験や社会
体験などが教育課程のなかに組み込まれることは有益だと思います。就活の一環としてのイン
ターンシップではなく、学んだ分野、当該分野のことを学外で実践するというかたちで、教育
の一環としての体験活動は組み込まれてもかまわないであろうと考えます。
就職活動は、やはり大学教育において学費を払った分の教育を学生がちゃんと受けることが
できるようにするためには、
もっとずっとあとに私は遅らせるべきだと思っています。
たぶん、
フィージブルなのは、卒論や卒業研究が終わった卒業直前の2月ぐらいから始めて卒業後にず
れこんでもかまわないようにするというのが一番望ましいことだと思っています。これは個人
的な意見です。
84
あとにずれこんだとき、卒業後において中途半端なメンバーシップの状態にある若者が、特
に不利になるということの不利さの度合いは緩和されるということが一つあります。
それから、
そもそもメンバーシップを与えてあげるか、メンバーシップに足りるかどうかといったような
採用基準そのものを変革していかなければ、日本の正社員と非正社員が両極端になっているよ
うな働き方の問題はいかんともしがたいということです。構想している方向性は、正社員と非
正社員という区分が無意味化するほど、専門的な知識や技能にに即して、ジョブの単位で仕事
がなされるような労働市場を、正社員、非正社員のあいだにまたがるかたちで、ある意味、人
為的に作っていく必要があるだろうというのが、この学術会議の結論です。
これについては、たとえばジョブ型正社員、つまり担当する仕事の範囲ははっきり決まって
いるけれども正社員といったような、ほどほどのメンバーシップとほどほどのジョブの輪郭を
兼ね備えたような新しい働き方を作っていこうという構想そのものは、今、各所から挙がって
います。でも、企業側がリラクタントです。企業側からすると、これまでの正社員と非正社員
を適宜組み合わせたほうが短期的に見れば効率的だったりするわけです。でも、働く側にとっ
ては、すごくしわ寄せが大きい。自分の担当範囲はここまでですという自己主張を持つ従業員
を今の企業は望んでいません。そこをどう突破していくかが今大きな課題になっているわけで
す。
もう一つは、一回出たら教育の世界に戻ってこないという、一方向的な矢印になっているの
も日本の特徴ですが、他の先進諸国では、もっとリカレントな流れが広がっている。何度でも
学び直しが可能で、職業的意義のある教育を受けてまた労働市場に戻っていけるような、双方
向的な往還を作っていく必要がある。さらに、卒業後の職探しの段階で不安定になる若者を支
えるためには、さまざまなセーフティネットが構築される必要があるという構想を図に書き込
んだのがこれです。
職業的意義とはなんだということについて疑問をお持ちだと思いますので、それについて書
いてあるのが次のシートです。これはあくまで私の考えですが、大学教育の職業的意義とは、
もちろんメイク講座やマナー講座といったような表層的なものではなく、大学の教育課程の本
体のカリキュラムのすべてに関わるもの、すべてに及ぶものだと思っています。
言い換えれば、すべての科目のシラバスの一部として、その授業内容がいったい卒業後のど
のような職業的場面、あるいは社会的場面で、どのような大学のあとの彼らの生涯に生かされ
るかといったようなことが、書かれているということです。今日、この授業で学ぶ内容は、こ
ういう場面でこう生きるはずであるとしか書けませんが、そういうイメージなのです。
この適用可能というのは、単に直ちに、実務として実践的に役立つという意味ではなくて、
ある職業分野の来歴、どうしてそういう仕事ができあがってきて、今どういう働きぶりであっ
て、それは今後どういうふうに展望されるのかといった俯瞰的な見方と、その職業分野が抱え
ているさまざまな問題について、批判的な検討や建設的な改善も考えることができるような見
方を含むものとして考えています。例えば原発村を作るような原子力関係の教育をするのでは
なくて、原子力発電というものがどのようにして戦後日本社会において政策的に推進されてき
たか、どういう問題があって、将来的にはどの方向に進んでいくことが不可欠なのかといった
ようなことまで視野を広げるような、そういう教育内容を想定しているわけであって、単に産
業界の歯車を量産するような大学教育を考えているわけではまったくないということです。
現状のキャリア教育との違いは、文科省が定義するところのキャリア教育は、職業観・勤労
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観、つまり額に汗して働くことの素晴らしさといったような道徳的側面と、基礎的で汎用的な
能力を形成するものであるとされています。その基礎的・汎用的能力とは、コミュニケーショ
ン能力であったり、問題解決能力であったり、いかなる場面でも柔軟に立ち回ることができる
ような、そういう力を文科省は考えているわけですが、私が言っている職業的意義とは、ある
分野別の知識や、そこで学ぶ技術などに基盤を置いていることが大きな違いですその知識内容
や技術、スキルの内容のレリバンスを吟味していくことが大学教育にとって必要なのだという
ことが私が申しあげたいことです。
さらに説明を追加すると、職業的意義には2側面あります。適応と抵抗と書いてあります。
適応とは、今その労働市場や職場で求められているものを十全に満たすような要求に対して学
生の側が合わせていくという方向の側面ですが、もう一つの抵抗とは、先ほどブラック企業と
もいいましたが、働かせ方や職務内容に関して、非常に非効率であったり、法律に違反してい
る場合も多いわけです。その場合にちゃんと建設的に、それはこうしたほうがいいです、それ
は違いますねといったように建設的な批判の力を持てるようにしていくことが抵抗の力です。
このどちらかだけでは、若い人はつぶれてしまいます。職場に合わせよう、合わせようとし
ても、あるいは、嫌だとばかり言っても、今の労働市場の要求の前で卒業人たちはつぶれてし
まいますので、その両方の、自分を環境に合わせる、あるいは周りを自分が正しいと思う方向
に合わせることを、ある意味使い分けることができるような、理想論的ですが、少なくとも目
指すべき方向性としては、それを考える必要があると思います。
また、単に個々の学生が適応力と抵抗力を持てば済むことではなくて、抵抗力や適応力を発
揮するためには、いずれの場合も人との共同を通じてでなければできない。個人単位で周りに
合わせようとしたり、抵抗しようとしても、そんなことはできない。人と連携しなければ、切
磋琢磨することも、あるいは職場を是正することもできないんだということまでひっくるめて
伝えていく役割の、少なくとも一部を大学教育は担う必要があるだろうと考えています。
ここで申しあげたいのが、適応に関する概念として私が作ったのが、
「柔軟な専門性」という
概念です。
「柔軟な専門性」というのは語義矛盾のようですが、flexibility と specialty をくっ
つけて flexpecialty という造語を作りました。何を意味しているかというと、日本という社会
においては、専門性というと、専門バカとか、非常に硬直的で融通が利かなくて、頭が硬いよ
うな人間像が日本社会では強いです。一方で、資格信仰と言われるように、何かの専門性をか
っちり身につけていけば一生食いっぱぐれがないといったような、堅い専門性の裏面でもあり
ますが、専門性信仰みたいなものもあるんですね。専門性を否定したり、あるいは逆に信仰し
たりといった考え方が日本社会では強すぎるのを、なんとかもみほぐすために作った概念がこ
れです。
本来、専門性というのは、特定の専門性を切り口にしてさまざまな世界にアプローチしたと
しても、そこから広げたり、隣接分野にずらしたりしながら、非常に普遍性や共通性が高いよ
うなスキルに至ることができるもののはずです。最初の入り口として専門性を位置づけ、それ
を膨らますほうへ、広げるほうへ持っていくという、動態的な動きのことを flexpecialty と呼
んでいるわけです。
今の変化の早い世の中で、ある専門性に固執していてもつぶれます。かといってキャリア教
育という言葉で言われるような、言われたことはなんでもできるようなスーパーマンに誰もが
なれるわけではありません。素晴らしいコミュニケーション能力と素晴らしい問題解決能力に
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よって、どのような場所に派遣されてもそこで素晴らしい業績を上げることができるような人
間は、
いるかもしれませんが全員ではありません。
そうなると堅すぎる専門性ではないような、
でも足がかりになるような専門性を与え、そこから世の中に歩み入っていき、状況に応じて自
分を緩めたりしながら合わせていくような力が必要であろうと思うのです。その際に必要な概
念として「柔軟な専門性」という言葉を使ってみました。
これをカリキュラムにおいても、あるいは卒業後の仕事の進み行きにおいても、こういうモ
デルで考えたほうが生きやすい面があるのではないかと真剣に考えて提唱しています。
もう一つは、大学教育課程をどのように作っていけばいいのか。大学教育の本体全体に染み
渡ったものとして職業的意義を構想すべきであると申しあげました。そのときに、いったいど
のようにすればいいのだろうと思います。私自身も自分が属している大学に関して、どうした
らいいのだろうと考えているところです。私は教育学部に属していますが、東大の教育学部と
いうのは哲学もあり心理学もあり、社会学もあり、脳生理学もあったり、非常に学際的です。
さらに、それぞれの学問分野がいろんな対象を相手にしています。私の分野である教育社会学
も幼児、学齢期、大学生、あるいは大人といったいろんな対象層に対して研究をしています。
こうした Discipline と Subject の組み合わせによって、それぞれの授業内容ができていると思
いますが、そこにもう一つの縦軸、上にいく軸を組み合わせてみたらどうだろうかというのが
私が考えていることです。
これは実は私が属している学部用に作ったものです。カリキュラム改革検討委員会がありま
して、そこでの提案で作ったものですが、これとこれだと非常に平板なものになりますので、
もう一つそこに3つ目の縦の軸を入れました。deliberation は熟考、つまり文献を読んだり先
行研究にあたったり、これまでの積み重ねられた知識を渉猟して、よく考えることです。次に
investigation は言うまでもなく自分でこれまでの知識の蓄積を踏まえて、自分で調査や実験を
通じてデータを採るような作業に入っていくのが investigation です。その際の方法論も
discipline 別に違ってくると想いますが、とにかく investigate できるような技能を与える。そ
して investigate した結果を人々に広く目にしてもらえるものとして、presentation というの
は論文であれパワーポイントであれワークショップであれ、さまざまな発表形態があると思い
ますが、presentation のための力をつけてあげる必要がある。
もう一つ、これがなかなか難しいのですが action という段階を想定しています。deliberation、
investigation、presentation を踏まえて自分が得た知識の塊が本当に社会的に使えるものなの
か、有用なものなのかを action で試してみる、社会の範囲に食い込んでいくというような段階
です。そこまで念頭において、縦軸をできるだけ上に上に伸ばしていくような方法で、ある学
部や大学の教育課程全体を構想するということが、大学教育のバランスを点検するうえでは重
要かなと思います。
縦軸の下の方ばかりだとダメだと思うんですね。action が社会や仕事とのレリバンスがもっ
とも強いところですので、上に伸びるような授業が確保されているかが、各学部の中での一つ
の基準、ものさしになるかなと思います。
以上は大学側で対応するとすればという話ですが、
もちろん仕事の世界に問題はおおありで、
ジョブ型正社員といったような働き方の世界標準に近づけるかたちでの働き方の変革をしない
と、もう日本はガラパゴス化して生き残っていられる状況ではないということを私は考えてい
ます。そういう意見の人は多いと思いますが、なかなか世の中は動かないですね。
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もう一つは、教育内容の構築と、教育の場の提供に関して、産業界と大学のあいだの双方向
のやりとりが、これまでよりも作られていく必要があると思っています。分野によってはすで
にできていますが。これまでの戦後日本型循環モデルにおける教育と仕事の関係は、教育を終
えて仕事の世界に出ていくという一方向的な矢印でした。
。一方向であるということは、教育と
いう領域が仕事という領域にある意味従属することを意味していたわけですが、仕事の世界か
ら逆に教育のほうに伸びる、こちらに向かう矢印がもっと作られるべきである。
それは教育内容に関してこういうことをというような、
スーパーマンを作ってくれといったよ
うなことではなくて、もっと具体的に内容別に分野別に産業界側が要求を出してもらい、それ
は大学側で受け入れられる部分と受け入れられない部分があると思いますから、当然すりあわ
せは必要になると思います。あるいは、就業体験の場を提供してくれるとか、双方向のやりと
りというものを教育と仕事のあいだに作っていく必要があるだろうということです。リカレン
ト教育もそこに含まれるわけです。就職活動も、やはり是正していく必要があると。
すみません、大幅に伸びてしまいました。質疑の時間を確保すべしと伺っていたのですが、
申し訳ありません。これで終わりです。
司会:大丈夫ですか、先生。本当に盛りだくさんで非常に深いところもカバーされていて、大
変示唆的な知見と提言であったかと思います。今日いらっしゃっている皆さんは外部の方もだ
いぶいらっしゃって、それぞれ聞かれていて、うん、これはちょっと別だとか、それはすごい
近いとか、こういうことはどうだろうかとか、いろいろご質問があるかと思います。ご質問の
時間があまりないのですが、先生、少し時間をいただいてよろしいでしょうか。そんなことで、
どうぞ。
A:どうもありがとうございました。改革の内容のご提言のところ、大学教育の職業的意義の
点ですが、前のほうの学生の大学教育についての意見を聞くと、武器となるような職業的知識
がもっと欲しかった、そういうものをもっと大学の教育のなかで提供してほしかったという意
見が強いとありましたね。それが先ほどのあとの分野別知識や技術に基盤を置いた、表層的で
はない本来的なキャリア教育をというご提言につながっているということはよくわかりました。
就労体験や社会体験なども組み込む重要性もわかりました。最後のところの層を4つ積み重ね
た図で構造化するというキューブのこともわかりました。
それで、分野別知識や技術に基盤を置いて本来的な意味でのキャリア教育を大学教育そのも
のの中に組み込むというときですが、おっしゃったような、例えば歴史的に俯瞰するような視
点を教育のなかで身につけさせる、専門的な技術、専門的な知識を提供しながらも、そういう
視点を養えるような教育を提供するということが一つの眼目だったと思いますが、それは従来
だと大学教育についての議論でいうと、本来的な意味でのリベラルアートではないかという気
がするんですね。
ということは、
リベラルアートとか、
リベラルアーツというものを今日のご議論のなかには、
その用語、その言葉は出てこなかったと思いますが、それをやはり一方では分野別知識や技術
に基盤を置いた教育のなかで、もう一度そういうものをリバイタライズするというか、そうい
うことが本来でいうならキャリア教育にも必要だということなのではないかという気が、伺い
ながらしました。ご意見を伺えればと思います。
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本田:今日はリベラルアーツとか教養教育、共通教育についてはほとんどお話ししない内容に
なりましたが、それが必要ないと言っているわけではなくて、やはりくさび形というか、初年
時は比較的多く、あとになるほど共通教育の分量が減るかたちでのカリキュラムの、よく高等
専門学校はそういうくさび形のカリキュラムで知られていますが、そういうかたちが望ましい
のかなと思っています。ただ、教養と専門がまったく別のものとして分離している状況はたぶ
ん問題だろうと思っています。
教養教育とは、悪くするとまったく関連のないバラバラの科目が教員の好みに従って散りば
められていて、適当にピックアップして、例えばある授業では中世ヨーロッパにおける都市の
構造を学び、次の授業ではまったく全然関係ない内容を学ぶというようなつまみ食いをして、
結局なんだったんだろうということになりがちな危険を秘めているのが教養教育かなと思って
います。それでもいいという見方もあるかもしれませんが、私はそれを防ぐために、ある意味、
専門教養といったもの、専門分野に関する教養、たとえばエンジニアリングということに立脚
して、その分野からより広い世界を照らし見たときどうなるのかといったような、専門に絡め
た教養を専門教育の一つの構成要素として含み込むことが、まったく別ものになりがちな専門
教育と教養教育というものを架橋するためにも必要かなと思います。専門から広げていくかた
ちで普遍的な知識に至ることができるのだといったような。
私がなぜこういうことを申しているかというと、ある例があるからです。九州の工業高校で
伝統建築コースがありまして、そこは一番関連性が強い仕事は宮大工です。つまり、釘を使わ
ない、金属を全然使わないような木組みで精巧に五重塔みたいなものを造っていくような手技
をしっかり教えているところなのですが、そういう手技だけ教えるのではなくて、近隣の国立
大学の工学部の建築学科の先生に来ていただいて、木でものを造るということの歴史、世界的
な広がり、あるいはそれがどのように芸術の分野に関わっているか、エコロジーや生態系とど
う関わっているかといったような、木でものを造ることから広げて、ものすごい広がりのある
授業をしてくださっている、そういう例が実際にあります。
そのようなことは、実はすべての分野で可能だろうと思います。だって、世の中はすべてつ
ながっていますから。そういう授業を設定するなり、あるいはすべての授業が何かそういう発
想を、すごい広がりじゃなくても、やや広がるでもかまわないけれども、単にこのことだけ覚
えておけばいいからといったような授業ではなく、これがどういう世の中の編み目のなかで位
置を占めているか、こう伸びる、ベクトルだけでもはらんでいる授業をすればだいぶ違うので
はないかと思いつつ、こういう絵を描きました。
B:素晴らしい講演ありがとうございました。すべてごもっともだなとお聞きいたしました。
と申しますのも、私自身、正規雇用も非正規雇用もブラック企業の勤務も経験してまいりまし
たので、まったくごもっともだなと思います。最後に先生がご提言なさっておられた働き方を
世界標準にというのをすごく納得しましたが、残念ながら私も民間企業に勤めて、企業という
のはどうしても得がないとやらないのではないかという、どうしても目先の利益を追求してし
まうというのが、特に日本の企業は強い傾向があるように思いますが、その辺のところについ
て先生のご提言を。
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本田 たしかにそうだと思います。私はかなり何年も前から同じようなことを提言しています
が、企業側の動きがものすごく鈍いのですね。どうしたら動いてくれるのか、実のところはっ
きりとわかりません。法律で規定するという方法は一つあると思いますし、もう一つは、得が
ないとやらないようなものを出すことによって自然に動くようになるということはあると思い
ます。たぶん、そっちのほうに動かざるを得ないと思うのは、グローバル採用です。これは企
業は今盛んに言うようになっていて、それはやるようになっています。
そのとき、世界から優秀な人材を集めようと世界各地に拠点を作って、そこで現地採用した
としても、日本企業の拠点は人気がない。ほかの国の企業のほうがずっと現地の人を生かすよ
うな採用をしています。外から雇って日本国内に来てもらう場合にも、独特な働き方、メンバ
ーシップとしての強い貢献、全身全霊的な貢献を求めるような日本企業は、外国人にとっても
う魅力がない。このことによって、さすがに企業も変わり始めるかなというのがあります。
もう一つは一番最初に言いましたが、戦後日本型循環モデルの下でそれを担って成功してこ
られた団塊世代が、これから労働市場から出ていかれます。私はそれで少し変わるかなという
期待があります。いろんな調査データを見ていると、団塊世代だけではなくて、50 代ぐらいま
では、まだ団塊的な発想が強いんですね。40 代半ばぐらいになると、狭間の世代でちょっと揺
れ始めます。40 代でも、より年長の世代に期待するか、より若い方に期待するかで、かなり違
いますが、その辺りでグレーになります。
ロストジェネレーションの世代であるところの 40 歳未満の世代は、かなり考え方が変わっ
ています。でも、彼らは人口規模があまり大きくないということと、それだけに権限などを手
にしていないことによって、まだ彼らが世の中を大きく変えるには至っていない。変化の萌芽
はいろいろ見られます。でも、年齢が高く人口規模が大きくて力も強くて頭の古い方たちが上
のほうにどかっといらっしゃることが日本の変化を遅くしている理由であって、どのように守
備よく退場していただくかが大きな課題だと思っています。
B:ありがとうございます。
C:本学のキャリア教育部会に所属しています。今日は非常に面白いお話を聞かせていただき
ましてありがとうございます。そこに出ている柔軟な専門性とか大学教育課程の構造化という
のは、私も共鳴するところがあるので、またいろいろ議論させていただければと思います。先
生のそういったご提案に似た事例が、日本の大学教育においてあるかどうか、あるいは、ある
種国際標準化みたいな動き、海外の動きとか、海外から見たキャリア教育の観点など、どう思
われますか。
本田:キャリア教育というか、先ほどの職業的意義ある教育という言葉を使ってよろしいでし
ょうか。ということであれば、私はどちらかといえば社会調査データの分析の方に慣れていま
して、個別の大学の実践でどこが新しいことをやっているかをまだつぶさに見知ってはいませ
んので、そこはお答えできなくて申し訳ありません。有名なのは金沢工業大学とか、国際教養
大学とかがあります。あまり規模が大きくない大学で、かつ専門分野、国際教養大学は英語と
いう意味では専門ですが、学問分野には特化していないかもしれませんが、独特な試みをされ
ていらっしゃるのは出てきていると思います。それぐらいしか、今のところ申しあげられませ
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ん。申し訳ございません。
D:本学キャリア教育部門に所属しています。今日は非常に興味深いお話をありがとうござい
ました。大学と産業、社会との接続というところから、少し逆の方向になるかと思いますが、
実際に社会につないでいくとき、大学でやるべきことが非常に多くなっていると思います。一
方で、大学に入る段階、先ほど入り口管理、出口管理という話もありましたが、入り口の段階
で本来高校までに考えておかなければいけないこと、身につけておかなければいけないことが
考えられないまま、いわゆる大学に入ることだけが目標になっていて入学してくると。そうい
った学生たちを受け入れて、それを育てあげて社会に出していかなければいけない。学習力も
保障しなければいけないというところで、非常につらいところがありますが、本田先生自身は
高校までに何をやっておけばいいのか。本来は高校までで将来のことを考えて、そのうえで大
学を選ぶ、学部を選ぶ、これがあるべき姿ではないかと思います。その辺り、どうお考えでし
ょうか。
本田:高校についても問題はいろいろあって、高校についての調査もしていますが、今の日本
の高校は、大学同様にすそ野を広げるような上下の格差が大きくなるとともに、いわゆる専門
高校はごく一部であり、かつどちらかというと社会的に低く位置づけられがちです。4人に3
人までが普通科にいて、普通科のなかでものすごい学力の格差がある。彼らの進路選択がどう
やってなされているかというと、おっしゃったとおりで、結局のところ学力水準に応じた合格
可能性というのが最大の進路選択の基準であり、それを補うために高校でもキャリア教育をや
れという圧力を文科省がかけてきています。でも、進学校の高校ほどそういうことは無視して
入試対応に時間を使いがちですし、普通科の中位から下位の高校におけるキャリア教育は、や
っぱり数日間の職場体験や社会人の方の講話を伺うとか、外の世界をちらっと見る、というも
のに過ぎなくなっています。
私がそこで提唱しているのは、高校段階から柔軟な専門性に近いような、すごく狭く堅くか
つ袋小路ではないようなある分野の選択を高校段階でもっと広い範囲の子にしてもらったほう
がいいのではないかということです。これは前々からしている提言です。専門高校が日本では
非常に地位が低く見られがちで、数も少ないので、その拡張も考えていますが、今どこの自治
体も財政難です。また専門高校は、日本では専門性がそんなに強くないですが、それでも普通
科よりは強いことによる不適応が出てきています。
今、いろいろ考えているのが、普通科のなかでも一定の専門的な教育は導入できるはずだ、
できるだろうということです。普通科専門コースというのはご存じかと思いますが、普通科の
中でも専門コースは作れます。専門高校に比べれば専門科目数は少なかったりしますが、それ
でも高校生にとっては専門性に対してかなり意義ある体験ができているようです。
今、普通科福祉コースというところに調査に入っていますが、ここが非常に面白いです。福
祉コースで、例えば卒業までに資格を取るといったようながっつりとした専門性までは無理で
すが、さまざまな実習もし、学校内での知識や実習と、学校外での実習も込みの授業をやって
います。目標は福祉マインドを伝えるということに置かれています。困っている人がいる、苦
しんでいる人がいる。そのとき当事者の立場に立って、すっと手が出るような、あるいはすっ
と手の上手な出し方みたいなことを福祉コースの教育を通じて伝えている。実はそれがかなり
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成功しています。
これは今フィールドワークに入っている高校の特徴かもしれませんが、面白いのが進路選択
です。全員が全員介護福祉士になっているということは全然ないんです。福祉の領域のことは
わかったと。いろんな人に手を差し伸べることの重要性はわかった。やってみたうえで、やっ
ぱり私は、それは大事なのはわかるけど、子どもが好きなんだということで、福祉からずれて
保育に行く子がいます。
あるいは、福祉科を出て高卒で鉄道会社に入って車掌さん、駅員さんになる人がいます。こ
こですごく生きるんですね。つまり、介助が必要な、体が悪い方というのは駅にも者内にもた
くさんいます。そういうときにとても役に立つ。あるいは、大学に進んで工学部に行く子もい
ます。介助の機械を作りたいんだそうです。といったように、福祉というところに一回身を置
いて、浅い、本当に基礎的なことですが、学ぶことによって、視野や志望がが狭く固まってい
くわけではないんですね。
「この分野についてはなるほどわかった、だったら自分はこっちへ、
こっちへ」と、まさにこの図のように彼らは進路選択をしています。
そういうことを考えたとき、そんなにものすごく密度が濃くなくても、高校段階である一定
分野のことを伝えておくのは有効ではないかと思います。福祉なら福祉マインドで、工業であ
ればものづくりの精神となるかと思います。これも工業高校とかへ行くと、何か足らないもの
があったりしたとき、ちょこちょこと木材や金属を曲げて作る仕草であるとかが身についてい
る。それはものすごい素晴らしいエンジニアではありませんが、そういう基礎が入っているこ
とが、たぶんそのあと大事なんだと思います。それが、工業高校から、あるいは工業コースか
ら工学部に進むのを本人が望んでするのであれば、一番発展性があると思います。
でもそうじゃないにしても、さっき言ったようにボトムを生かした複数専門的な発想である
とか、柔軟に変えていくことも可能であるといったような、そういうアーティキュレーション
の仕組みを高校から大学のあいだに作ることが、精神主義的なキャリア教育を叫ぶことより、
よほど実のある政策ではないかと思いますが、
なかなかそこは動いてくれない状況があります。
D:ありがとうございました。われわれの大学でいえば、例えば高専からの編入生というのは、
今ご提示いただいたようなパターンに近いかと思います。ありがとうございます。
司会:あと一つだけ、いかがでしょうか。
E:首都大学東京に所属しています。ジョブ型正社員について本田先生が世界標準に近づけな
いとガラパゴス化する、それじゃダメだと言い切られたことには共感を覚えました。他方で日
本学術会議の文書では、それを読んだのがだいぶ前なので記憶があいまいかもしれませんが、
読んだときに受けた印象としては、ジョブ型正社員は、非正規雇用とコアな正社員の中間的と
いうのか、つまり、なんとなくみんなが従来型の正社員よりよい職として選びそうな感じがむ
しろしないように読めたような気がします。つまり従来型の日本企業のあり方はあまり全面否
定しない文章の書きぶりのなかでそうなっていたような印象を受けました。これが私の誤解で
あるかどうかということと、一つは本田先生ご自身はどう考えられているか。つまり、私は従
来型の正社員よりも、よりよい処遇であるというぐらいのものにならなければ、ジョブ型正社
員はおそらく先ほど本田先生がおっしゃったようなグローバル人材にならないような気がしま
92
すが、どのようにお考えか教えてください。
本田:学術会議の報告書は大人数ですり合わせるかたちで書きましたので、そこでの書き方と
私個人の意見とはやや開きがあります。
かなり抑制した書き方をしていると思います。
つまり、
受け入れられるような、報告書の常ですが、書き方をしていると思います。
報告書の書きぶりの抑制のしかたほどではないにしても、私も同意せざるを得ないと思うの
は、ジョブ型正社員が従来型の正社員よりよいものといきなり思ってもらえるかどうかは、そ
れについては、なかなかそうはいかないだろうと思っています。現状を打開する策としてジョ
ブ型正社員を導入するとして、一番のソフトランディングは、次のようなことです。今の契約
社員や派遣社員の中で、特定のジョブに就いていらっしゃる方はいます。例えばインターネッ
トサイトの管理運営や職場のなかである特定の業務を担うために派遣や契約のかたちで働いて
いる方がいらっしゃいますが、少なくともその人を、その仕事があり続ける限りは無期雇用に
してくださいというのが、一番実現可能な、手近にある変革です。
もしそれが実現されたとしても、それは素晴らしい働き方ではないかもしれません。でも何
が素晴らしいか。今、従来型の正社員より「良く」しようとおっしゃいましたが、何を「よい」
とするかの基準そのものが多様化しています。最近、勤務地限定型社員であるとか、わずかで
すがジョブ型正社員も出てきています。それをあえて選ぶ人もいます。どこでも転勤可能な従
来型の正社員ではなく、ある限定的な働き方を持って良しとする人もいる。その人たちの選択
肢をもっとちゃんと作ろうと。契約社員、派遣社員ではなくて、一応は終身雇用まではいかな
いかもしれないけれども、無期雇用としての身分の保障ぐらいはしてくださいよというのが、
実のところ考えていることです。
それが移り変わっていくときの初発の形態は、契約社員の無期雇用化とかになるかもしれま
せんが、もっとよい、もっと賃金などの面でもよいとみなされるジョブ型正社員も、これから
出てくるだろうと思います。一部にはもうあります。
例えば医療関係の専門職で正社員雇用されている方はジョブ型正社員ですね。彼らは外部労
働市場があるので、ある組織に不満があるのに居続けるという選択はしなくて済んでいます。
あとは企業に雇用されている弁護士であるとか、ジョブ型正社員的な働き方は大学の先生方も
そうかもしれませんが、けっこう探せば今でもあるわけです。それをもっと広い民間の、いわ
ゆる事務的な働き方のなかに広げていったほうがいいだろうということですから、いきなりよ
りよい素晴らしいものとして作るのは難しいだろうと思っています。
司会:どうもありがとうございました。それでは時間もだいぶ過ぎましたので、大学教育セン
ター長の田中先生から閉会のごあいさつをいただきます。よろしくお願いします。
田中:どうも長いあいだありがとうございました。だいぶ話が盛況で、本田先生のものすごい
アクティブな話に感動しました。今日は学外からもたくさんの方に来ていただいています。こ
れは本学の大学教育センターが主催した講演会ですが、大学セミナーハウスの共催ということ
で、いろいろなところからご参加いただきました。お礼申しあげます。どうもありがとうござ
います。
いろいろな話を伺っていて、今日も学長の命令で理事と一緒に勉強させられに行っていたの
93
ですが、
そのなかでもずいぶん就業ということで話がありました。
日本の教育や就職の状況は、
日本の常識は世界の非常識になっているということが非常によくわかりました。そういった部
分を今日本田先生も話をされていたと思います。外国ですとイギリスや北欧の大学生は 20%か
ら 40%ぐらいが大学へ入る前に職業経験があるということだそうです。それに対して日本は
19 歳という若い年で大学に入って職業経験が全然ない。そういう状況のなかで卒業する前に就
職活動をしなければいけないという、非常に世界基準から外れているような状況になっている
と、今日ずいぶん再確認させていただきました。
本田先生の話にもありましたように、
企業が変わる必要があるのではないか。
それとともに、
人も変わる必要があるのではないかと感じました。大学にとっての使命は学生を教育して社会
に出すことですから、高度職業人と言われている flexibility と specialty の造語、柔軟性がある
専門性を持った人材を大学は輩出して、それが企業を変えて社会を変えてということを大学の
使命としてやっていかなければいけないのかなと感じました。
今日、
皆さんにお集まりいただきまして非常に有意義な講演会を開催することができました。
本田先生、皆さん、本当にありがとうございました。最後に講演者の本田先生にもう一度拍手
で。
司会:これをもちまして連続講演会第1回を終了します。どうもありがとうございました。
94
大学と仕事の接続をめぐる
現状と課題
本田由紀
社会変化の見取り図
(東京大学大学院教育学研究科教授)
戦後日本社会の変化と二つの世代
[理想の時代]
[虚構の時代]
[不可能性の時代]
60
400.0
350.0
50
300.0
生活保護世帯数(万世帯)
40
完全失業者数(万人)
250.0
大学・短大進学率
30
200.0
製造従事者比率
専門・管理・事務従事者比率
150.0
販売・サービス従事者比率
20
男性30~34歳未婚率
100.0
貯蓄非保有世帯比率
10
50.0
0
高校
卒業
大学
卒業
30歳
50歳
40歳
2007
2005
2003
2001
1999
1997
1995
1993
1991
1989
1987
1985
1983
1981
1979
1977
1975
1973
1971
1969
1967
0.0
1965
1947年
生まれ
60歳
団塊世代
団塊ジュニア世代
高校
卒業
1972年
生まれ
大学
卒業
30歳
教育への公的支出の少なさ、
家計への依存の大きさ
戦後日本型循環モデル
政府
自営等
産業政策
非正社員
正社員
・長期安定雇用
・年功賃金
父
新規労働力
賃金
家族
教育
子 教育費・教育意欲
母
・新規学卒一括採用
・高い若年労働力需要
・公的な教育支出の少なさ
・「教育ママ」
95
戦後日本型循環モデルの破綻
政府
何の支えもなく孤独
に貧困に耐える個
人の増加
自営等
非正社員
産業政策
離学後に低賃金で
不安定な仕事に就
かざるを得ない層の
拡大
個人
周辺的正社員
セーフティネットの
切り下げ
中核的
正社員
新規労働力
賃金や労働時間など
の条件が劣悪化
賃金
母
母父
教育
教育費・教育意欲
家族
仕事の問題
子
教育費・教育意欲の家庭間
格差の拡大
日本の労働の現状
• 正社員比率の減少、非正社員比率の増加
• 正社員:「ジョブなきメンバーシップ」
→強固な参入制限、職務範囲の不明確さ、それに伴
う過重労働・長時間労働
• 非正社員:「メンバーシップなきジョブ(タスク)」
→有期雇用と低賃金、教育訓練の手薄さ
• 正社員/非正社員いずれにも進行する現象:世界
的コスト競争と産業構造の変化(高付加価値化・
サービス化)により利潤獲得が困難になる中で、法
律や人権を蹂躙する働かせ方が増大
若年労働市場の変化
出典:中央教育審議会キャリア教育・職業教育特別部会「今後の学校におけるキャリア
教育・職業教育の在り方について(第二次審議経過報告)」データ集、2010年5月17日
非正社員の高学歴化の進行
10
雇用形態間の時間賃金格差
雇用形態別・年齢別 時間賃金
3,000
2,500
2,000
1,500
正社員
非正規社員
1,000
短時間労働者
500
0
出典:「連合・賃金レポート2009」
出典:厚生労働省『平成21年版 労働経済白書』
12
96
雇用形態間の教育訓練機会格差
雇用形態間の移動障壁
雇用形態別 教育訓練機会
非正社員の雇用形態別 正社員への移動率
45.0
40.9
2007
41.9
40.0
38.3
77.2
Off-JT
35.0
30.6
29.7
30.0
37.9
31.9
2006
72.2
25.0
転職者中の比率
非正社員
20.0
正社員
雇用者中の比率
16.6
18.3
2007
15.0
計画的OJT
45.6
13.1
12.1
12.2
10.0
32.2
2006
7.4
5.0
4.1
5.0
53.9
0.0
0
10
20
30
40
50
60
70
80
パート
90
アルバイト
派遣社員
契約社員
嘱託
その他
※過去5年間に転職を経験した者
データ出所:総務省「平成19年 就業構造基本調査」
出典:厚生労働省「能力開発基本調査」
13
正社員の長時間労働化の進行
14
海外と比べても異常な日本の長時間労働
年齢階級別週間就業時間が60時間以上の「男性の正規職員・従業員」の割合(年間就
業日数200日以上)
25
22
22
22
23
22 23
21
20
20
19
18
18
15
15
15
14
12
%
12
11
10
2002年
11
10
9
8
2007年
7
5
0
15~19歳 20~24歳 25~29歳 30~34歳 35~39歳 40~44歳 45~49歳 50~54歳 55~59歳 60~64歳 65歳以上
「総務省 平成19年就業構造基本調査 結果の要約」3頁
15
心身を病む正社員の増加
正社員の年功賃金の変化
労働災害請求数の推移
1000
938
819
952
819
816
800
700
931
869
900
742
690
656
600
524
500
300
脳・心臓疾患
447
400
精神障害
341
265
200
100
0
13年度
14年度
15年度
16年度
17年度
18年度
19年度
※精神障害の約6割は30代以下。
出典:厚生労働省「平成21年版
労働経済白書」
厚生労働省「脳・心臓疾患及び精神障害等に係る労災補償状況(平成19年度)について」
17
97
違法な処遇の遍在
諦念の遍在
雇用タイプ別 違法な処遇の経験
雇用タイプ別 違法な処遇に対して
「何もしなかった」比率
70.0
58.4
60.0
53.7
90.0
51.3
80.0
50.0
44.0
72.1
73.0
77.3
66.7
70.0
40.0
60.0
50.0
30.0
40.0
20.0
30.0
20.0
10.0
10.0
0.0
0.0
中核的正社員
※有意差なし
周辺的正社員
パート・アルバイト
中核的正社員
他の非正社員
※有意差なし
POSSE「若者の「仕事」調査」(2008年実施)
周辺的正社員
パート・アルバイト
他の非正社員
POSSE「若者の「仕事」調査」(2008年実施)
大学教育の現状
• 大学数の増加、大学進学率の上昇に伴う大学・学
生の多様化と格差化
• 経営上の理由から「入口管理」(厳密な入学者選
抜)と「出口管理」(厳密な成績評価)が困難
• 分野の融合・学際化(曖昧化)と細分化(蛸壺化)の
共存
• 合格可能性を重視した進学先決定がもたらす学生
の入学後の不適応
大学教育の問題
• 職業観形成に偏るキャリア教育や表層的な就職対
策、やはり仕事や社会生活への「意義」の希薄さ
→全体として「大学教育の質保障」が不成立
98
【変わった名称の学位の例】
●情報アーキテクチャ学
●コミュニティ振興学
●ホスピタリティ・ツーリズム学
●人間環境マネジメント学
●アジア太平洋マネジメント学
●ソフトウェア情報学
●バイオニクス学
●メディア表現学
●カルチュラルマネジメント学
日本の大学教育の活用度の低さ
日本の教育の「職業的意義」の低さ
図17 大学教育の「職業的意義」の国際比較
学校教育の意義として「職業的技能の習得」を挙げた比率
(国別・最終学歴別、「第6回世界青年意識調査」)
5
80
4.5
70
(スコア)
50
%
40
30
a.職業における大学知識の活用
度
b.満足のゆく仕事を見つける上で
役立つ
c.長期的キャリアを展望する上で
役立つ
d.人格の発達の上で役立つ
4
60
後期中等教育
中等後教育
3.5
3
20
2.5
10
2
0
データ出所:吉本圭一「大学教育と職業への移行」『高等教育研究』No.4,2001
日本労働研究機構『日欧の大学と職業』調査研究報告書No.143,2001
99
30
専攻分野による「職業的意義」の違い
若者は「職業的意義」の低さに不満
図19 2つのレリバンスに関する大学専攻分野の位置づけ
(大学を最終学歴とする者)
図20 学校生活を通じてもっと教えて欲しかったこと
(複数回答)
2.4
芸術(9)
2.3
70
60
家政(14)
2.2
%
40
2
30
20
1.9
10
教育(43)
2.8
・
本田由紀「高校教育・大学教育のレリバンス」谷岡一郎他編
『日本人の意識と行動』東京大学出版会、2008年
正社員
パート・アルバイト、派遣、請負
求職者
無業者
その他
2.6
教えてもらいたいことはない
2.4
先輩の就職先
2.2
フリーターや無業者のリスク
2
職業的レリバンス
ハローワークの利用法
1.8
就職活動のノウハウ
1.6
読み書きや算数 数学等の基礎学力
1.4
各職業の賃金・
労働時間等の条件
1.2
職業の選び方
1.5
労働者の権利等、必要な基礎的情報
保健(28)
各職業の内容
社会科学(195)
1.6
職業に必要な専門的知識 技能など
0
人文科学(78)
1.7
・
理工(119)
1.8
社会人としてのマナー
人間形成的レリバンス
50
2.1
専門学校生
資料出所:(株)UFJ総研「若年者のキャリア形成に関する実態調査」(2004年厚
生労働省委託調査)、厚生労働省『平成20年版労働経済の分析』118頁
31
大学におけるキャリア教育の問題点
に関する指摘
大学におけるキャリア教育の内容
• 川喜多喬「学生へのキャリア支援:期待と危惧と」上西
充子編『大学のキャリア支援』(経営書院、2007年)
1)就職技法偏重
2)安易な適職選択
3)視野を狭める自己分析
4)物見遊山気分の職業知識教育
5)続く職業能力教育蔑視
6)本人を責める職業倫理教育
7)狭義のキャリア教育ではできない積極態度教育
◆広すぎる概念、雑多
な課題
・導入教育,初年次教育
・ソーシャルスキル・トレー
ニング
・基礎教育
・就職対策
松高政、進研アド『BETWEEN』2004年12月号
教員の協力・授業科目拡大が
キャリア教育の課題
大学と仕事の接続の現状
• 早期化・長期化・煩雑化・不透明化した就活
が大学教育を阻害し、学生にとっても多大な
時間的・金銭的・精神的負担と「内向き」化を
もたらす
• 就職サイトの支配、保護者の就職観がもたら
す大企業へのボトルネック
• 新卒採用と経験者中途採用の狭間で未経験
既卒者の就労機会が大幅に限定
労働政策研究・研修機構『大学生の就職・募集採用活動等実態調査Ⅱ』調査
シリーズNo.17,2006年
36
100
大卒者の増加と
卒業後の進路の不安定化
企業規模別 大卒求人数・就職希望者数・求人倍率
800,000人
700,000人
卒業後の進路別 大卒者数の推移
600000
600,000人
4.50
4.00
3.50
3.00
500,000人
500000
2.50
400,000人
400000
死亡・不詳の者
2.00
左記以外の者
1.50
専修学校・外国の学校等入学者
臨床研修医(予定者含む)
200,000人
進学者
200000
就職者
1000人
未満 民間企業就職希望者数
1000人
以上 求人数
1000人
以上 民間企業就職希望者数
300,000人
一時的な仕事に就いた者
300000
1000人
未満 求人数
1.00
100,000人
0.50
0人
0.00
1000人
未満 求人倍率
1000人
以上 求人倍率
100000
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
1989
1988
1987
1986
1985
0
文部科学省「学校基本調査」
リクルートワークス研究所「第27回 ワークス大卒求人倍率調査」(2011年卒)
37
出身大学による格差化の進行
日本の新卒就職の特異性
(非正社員・未定)
労働政策研究・研修機構、2006、『大学生の就職・募集採用活動等実態調査結果
Ⅱ』JILPT調査シリーズNo.17.
大学の就職担当者から見た
新卒就職の問題点
就職活動の早期化
■2004年頃の就職活動スタイル
7月
10月
2月
業界研究
企業研究
OB・OG
訪問
3月
説明会
4月
選考
内定
企業との接触
■現在の就職活動スタイル
7月
インターンシッ
プ
2月
オープンセミナー
社員交流会
3月
説明会
4月
選考
内定
企業との接触
労働政策研究・研修機構『大学生の就職・募集採用活動
等実態調査Ⅱ』調査シリーズNo.17,2006年
41
101
38
早期離職をもたらす
採用時のミスマッチ
曖昧で抽象的な採用基準
新規大学卒・大学院卒の採用の際の重視項目別企業数割合
企業規模
企業規模計
新規大学卒・
大学院卒を採
用内定した企
業
専門
的知
識・
技能
一般
常
識・
教養
学業
成績
創造
性・
企画
力
語学
力・
国際
感覚
理解
力・
判断
力
行動
力・
実行
力
熱
意・
意欲
コ
ミュ
ニ
ケー
ショ
ン能
力
図12 若手社員の早期離職の原因(企業回答)
協調
性・
バラ
ンス
感覚
健
康・
体力
その
他
(%)
無回
答
[19.6]
100
20.5
32.1
9.2
12.2
3.2
25.9
31.0
64.0
35.1
30.9
15.8
3.7
0.5
[94.1]
100
19.9
14.0
1.6
16.5
3.7
24.9
51.7
62.0
62.0
26.8
5.6
1.9
0.6
0.0
10.0
20.0
30.0
40.0
42.3
採用時のミスマッチ
42.0
36.4
職場環境への不満
5,000人以上
22.5
入社後の配属への不満
1,000 ~ 4,999
人
[81.2]
100
18.5
21.6
5.5
13.3
3.5
25.1
39.3
62.7
54.7
34.0
10.2
2.2
0.9
300 ~ 999人
[64.3]
100
20.2
31.0
10.5
9.4
5.0
24.7
32.0
63.2
44.0
32.5
15.5
1.2
0.9
100 ~ 299人
[33.8]
100
18.6
33.7
13.1
12.7
3.2
24.8
28.2
67.8
30.8
29.6
17.4
3.6
0.5
30 ~ 99人
[ 9.0]
100
23.4
34.5
5.3
13.3
1.8
28.1
30.5
60.5
27.6
30.7
16.2
6.1
0.2
19.1
賃金への不満
19.1
休暇・労働時間への不満
16.1
キャリア形成への不満
8.6
その他
データ出所:厚生労働省「雇用管理調査」(2004年)
50.0
個人的理由(健康・家庭の事情
等)
データ出所:経済産業省「社会人基礎力に関する調査」(2005年)
早期離職率の高止まり
新規大卒者の3年目までの離職率の推移
社会科学系大学生調査結果より
45
調査概要
入試難易度による学生層の相違
大学グループ別 中学3年時校内成績
• 調査対象:全国16大学(国公私立)17学部(法学系、経済・商
学系、社会学系)の1年生1131名・4年生755名、計1886名。
• 調査時期:2010年10月~12月
• 調査方法:教員経由で集団ないし個人での自記式。
• 調査項目:大学教育、大学生活、高校教育、進路など。
• 加工変数
0%
10%
αグループ
2.6 6.0
βグループ
10.8
20%
30%
40%
18.6
50%
60%
70%
29.9
17.9
中の下
90%
100%
42.8
38.6
下の方
80%
中くらい
22.0
中の上
10.8
上の方
・大学グループ:入試偏差値53以上=αグループ、52以下=βグループ
大学グループ別 卒業高校の大学進学率
・「英語力」スコア:英会話力と英語読解力の自己評価(いずれも4段階)の
和(α=.769)を度数分布に即して3段階に区分
0%
・「人間力」スコア:「自分の意見を筋道を立てて人に説明する」「必要だと
感じたら自主的に行動する」「いったん引き受けたら最後までやり遂げる」
など10項目の自己評価(いずれも4段階)の和(α=.802)を度数分布に
即して3段階に区分
10%
αグループ
βグループ
30%
40%
50%
60%
53.9
18.5
95%以上
102
20%
29.7
80%以上95%未満
70%
24.5
25.3
60%以上80%未満
40%以上60%未満
80%
90%
12.5
14.7
40%未満
100%
5.2 4.0
11.8
入試難易度による学生層の相違
入試難易度による大学教育の相違
大学グループ別 大学で受けた授業
大学グループ別 父最終学歴
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
0.0
100%
40.0
60.0
80.0
大学グループ別 大学生活
0.0
100.0
55.1
23.6
5.4 3.1
58.2
5.5
協力して研究や作業を進める授業
(受けた)
専修学校・各種学校
45.1
7.0 3.4
36.2
2.4
77.8
基礎的な学習技法の授業(受けた)
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
77.9
仕事に役立つ知識・技術を学ぶ授業
(受けた)
12.7
19.9
21.4
18.5
15.0
興味あることについて自主的に勉
強
66.2
100%
社会問題に新しい視点が得られる授
業(受けた)
600万円以上800万円未満
85.7
85.5
1000万円以上1200万円未満
20.9
30.7
22.3
15.3
5.6 5.1
78.0
1200万円以上
αグループ
αグループ
βグループ
10%
20%
男
30%
40%
50%
60%
60.1
女
70%
5.8
69.4
全体
63.5
男
6.4
90%
6.4 5.8
15.6
2.0
3.1
16.3
5.2 3.7
15.9
4.4
43.3
80%
1.7
100%
39.8
全体
7.2
42.5
2.4
6.6
33.7
1.8
34.9
βグループ
大学グループ別・大学生活の諸要素別
内定「あり」の比率(就職活動をした4年生)
民間企業へ内定(正社員)
民間企業へ内定(派遣・契約社員)
100
公務員へ内定(正職員)
90
教員・警察官に内定(正規職員)
公務員・教員へ内定(非常勤・臨時教員)
80
70
パート・アルバイト
女
αグループ
内定獲得と関連する要因
自営業・家業を継ぐ
35.2
69.1
66.2
20.7
21.4
ボランティア・NPO活動などを重視
βグループ
大学グループ・性別 卒業後の予定進路(4年生)
0%
64.1
66.7
労働に関する授業(受けた)
4年生の進路決定状況
47.3
アルバイトを重視
800万円以上1000万円未満
βグループ
56.8
64.8
部・サークル活動を重視
400万円以上600万円未満
12.5
51.0
48.0
授業で学んだことは将来仕事に役
立つ
58.2
47.2
外国語の授業(たくさん受けた)
78.2
68.3
大学生活に満足
75.3
33.9
400万円未満
αグループ
62.7
61.1
37.8
49.5
親しく話せる教員がいる
53.4
進路や目標に対する適性を診断する
授業(受けた)
大学グループ別 保護者年収
0%
58.4
62.4
大学院
その他
80.0 100.0
80.1
73.7
41.4
興味のもてる授業が多い
4年制大学
4.6
60.0
65.9
短期大学・高等専門学校
βグループ
40.0
仕事に役立つ知識・技術の習得を
大学は重視
高校
3.0
20.0
幅広い教養を身につける授業を大
学は重視
29.0
毎回出席をとる授業(たくさん受けた)
中学校
αグループ
20.0
専門学校へ進学
60
大学院へ進学
50
40
大学グループ・性別 内定獲得状況(4年生)
47.4
45.4
9.0
8.4
αグループ
調査からの知見
求められる対処
103
重視
重視
所属
所属
大学のゼミ・ 習い事・資格 ボランティア団 趣味の活動 企業等のイ 部・サークル アルバイト
演習
予備校
体・NPO
の団体
ンターン
活動
6.6
• 大学グループによって学生層はかなり異なる
• βグループでは、出席確認、学習技法の指導、仕
事への有用性、適性診断、親しく話せる教員な
どによって学生を大学生活にひきつけるための
努力や配慮をしている。
• 内定率は大学グループによってかなり異なる。
• 特にβグループでは、企業インターンへの参加や
部・サークル活動、アルバイトに力を入れていた
ことが、内定率と関連している。
所属
所属
所属
低
「英語力」スコア
非重視
12.2
「人間力」スコア
非重視
27.5
外国語の授
業
最初から就職活動をしていない
非所属
内定をもらっていないが就職活動を中止・延
期した
非所属
7.4
16.7
非所属
10.9
23.1
非所属
28.8
中
0
非所属
内定をもらっておらず現在も就職活動中
3.8
10
内定をもらったが現在も就職活動中
高
6.4 3.2
7.8
5.1 7.0
8.2
20
内定をもらい就職活動を終了した
8.2
72.0
44.7
8.5
10.4
低
6.4
9.2
中
4.3 6.1
30
100%
高
80%
75.5
全体
全体
60%
69.9
女
女
40%
少し
男
男
βグループ
20%
たくさん
αグループ
0%
βグループ
対処の方向性
【現状】
大学教育の職業的意義とは
※日本学術会議報告書より
大学教育
仕事
• Not「資格取得講座」「就職用メイク講座」「ビジネス
マナー講座」etc.
• But教育課程の「本体」すべてに関わるもの。
正社員
教育の職業的意義が希薄
非正社員
無業
• 各科目のシラバスの一部として、授業内容が直接
的・間接的に適用可能な職業や職業場面が記載さ
れているというイメージ
就職活動
【目指すべきあり方】
仕事
大学教育
• 「適用可能」というのは、単に実践的に役立つという
意味でなく、ある職業分野の来歴・現状・将来を俯
瞰的に見渡し、批判的検討や建設的改善を考える
ことができる見方を含む。
(正社員)
専門的な知識・技能に応じて
処遇がなされる労働市場
教育の職業的意義を向上
(非正社員)
就職活動・適職探索
就労体験・社会体験
など (時期・期間は多
様でありうる)
• 現状の「キャリア教育」との相違は、分野別の知識
や技術に基盤を置いていること。
リカレント教育
セーフティネットの構築
(生活支援と職業訓練・就職支援)
55
教育の職業的意義の二側面
「柔軟な専門性」という方向性
• 仕事への〈適応〉:職業に関わる知識・技能、「柔軟な専門
性」
58
flexpecialityの
模式図
• 仕事の問題状況への〈抵抗〉:労働法および労働者の権利に
関する知識と実践方法、建設的批判と変革の力
参考:ムーア&ヒューズ(2003=2011)inスタル&サンダース編『学校と職場
をつなぐキャリア教育改革』学事出版
機能主義的アプローチ/批判的アプローチ
専門D
専門C
「批判的な教授法は、職場の構造は既定のものというより社会的に構築
されたもので、そのあり方をめぐる意見の対立や潜在的な欠点があり、
そしてただ追従すべき対象でなく、あり方を問い直して変更しうるものと
みなしている。」(193頁)
一般的・共通的・普遍的
知識・スキル
専門E
専門F
専門B
専門A
• 上記はいずれも、個人が個々別々に身につけるべき力とい
うよりも、様々な人々との協働を通じて追求・実現すべきもの
であることを伝える必要
こうした「柔軟な専門性」が形成され尊重される制度的環境を教育や仕事の
58
世界で整備してゆく必要。
57
大学教育課程の構造化
産業界・政府に必要な変革
Mode of
Commitment
(取り組み方)
• 仕事の世界において、正規・非正規間で両極
端になっている「ジョブ」と「メンバーシップ」の
バランスの回復を通じた適正な働き方の拡大
action
ex.人材要件を明示した「ジョブ型正社員」
presentation
• 教育内容の構築と「教育の場」の提供に関す
る大学との連携を拡充
・教育内容と関連するインターンシップ、入学前や
investigation
Subject
(対象)
deliberation
就学中の就業・社会活動休学制度の拡大
・就労後のリカレント教育の拡大と処遇への反映
Discipline(学問分野)
・教育内容に関する業界団体や職業団体との継続
的対話
※各科目が1つないし複数個のキューブに該当する
※特に垂直軸の広がりが「柔軟な専門性」に資する
104
就職活動の是正
• 教育と仕事の接続における内容的関連の強化と時
間的余裕(試行の余地)の拡大
・在学中の就職-採用活動を抑制ないし禁止し、卒業後に
じっくりと行なう就職-採用活動へ(→既卒者差別の防止に
もつながる)
• 卒業後の適職探索期間における若者への支援の
拡充
・個々の大学および地域の大学間で連携した就職支援
・大学以外の支援機関への所属・登録の普及
・就労支援(相談・教育訓練)および生活支援などのセーフ
ティネットの拡充
105
教職員支援のための連続講演会第2回
講演題目「現代社会を生きる大学生の教育支援・心理支援
―関係ネットワークづくりという視点からの要請―」
実施日時 平成23年11月11日(金)16時 ~ 18時
場所 東3号館301号室 (マルチメディアホール)
講演者 東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コース教授 中釜洋子氏
参加者 教職員計44人
------------------------------------------------------------司会(阿部)
:皆さん、ようこそおいでくださいました。きょうは雨で、この会場にいらっしゃ
るにもたいへんだったと思いますけれど、どうもありがとうございます。私は、電気通信大学
の大学教育センターの副センター長をしております阿部と申します。教育推進部門というとこ
ろを担当しております。どうぞよろしくお願いいたします。
きょうは、つたないですけれど、司会をさせていただきます。教職員支援のための連続講演
会の第2回を開催したいと思います。まずはじめに、梶谷学長にご挨拶をいただきます。よろ
しくお願いいたします。
梶谷:皆さんこんにちは。きょうは寒いところをありがとうございます。本学と大学セミナー
ハウスの共催による、私たち教職員の勉強会、第2回目が開かれましたこと、関係者の皆様方
のご尽力、ご協力に心から感謝を申し上げたいと思います。外部からも 10 数名の方がご来場
なさってますので、ちょっと宣伝しておきますと、電気通信大学は高度コミュニケーション社
会というものを掲げて、それに貢献するということをビジョンとしています。これは人と人だ
けではなく、人と自然、人と社会、それから人と人工物の間のコミュニケーションを豊かにす
る、そのことがすべての人々が心豊かに暮らせる社会になるんだ、ということを軸にして、い
ろんな教育研究活動をやろうとしている訳です。何よりもまず我々の大学の教職員の関係、あ
るいは学生との関係、教育はそもそもコミュニケーションだと思うんですね。どのようにした
らそういうコミュニケーションが豊かになるか、ということが最大の課題だと思います。なか
なか難しいので、こうやって勉強会をしております。きょうは臨床心理学の専門の中釜先生に
お話をうかがえるということで、大変楽しみにしております。最後までご清聴いただければあ
りがたいと思います。よろしくお願い申し上げます。
司会:今、梶谷先生もおっしゃいましたが、この連続講演会は今年度は大学セミナーハウスと
の共催となっています。きょう来られている外部の方も、そういう広報があってのことかと思
っております。ここで大学セミナーハウス館長の荻上先生にご挨拶をと思います。よろしくお
願いします。
106
荻上:ただいまご紹介いただきました大学セミナーハウスの館長をしております荻上でござい
ます。本日は、電気通信大学の教職員の皆様、加え
て、かなり遠方からご参加いただいた方もたぶん 10
数人いらっしゃるかと思いますが、遠くは京阪神か
らもおいでいただいていらっしゃると思います。ほ
んとにありがとうございます。
電気通信大学は3連続講演という素晴らしい企画
をお立てになって、梶谷先生のほうから、大学セミ
ナーハウスもそれに加われという話をいただきまし
た。我々としては、大変ありがたいことです。企画は全部電通大がやっていただいて、我々は
それの宣伝をしたというようなことかと思います。
ご存じのように、大学セミナーハウスというのは、八王子に約 45 年前に大学の共同利用機
関として建てられまして、宿泊研修施設として、いろいろな機会に学生の合宿、セミナーその
他にご利用いただいております。
この企画については、電気通信大学という理系の大学が、文系の先生方をお招きして3種類
の講演をしていただくという、非常に素晴らしい企画だと思います。どうしても理系の大学と
いうのは、もの作りのほうに専念してしまって、あまり文系のことに普段接する機会が多くな
いのではないかと思います。昨今、大学は大変難しい状況にあります。昔は、大学生は勝手に
勉強するもの、勉強しない奴は本人が悪い、先生は立派な研究をして、それをもとに好き勝手
に講義をしていればそれで済んだという、我々が現役の時代は大体そんなもんだったかと思い
ます。今、非常に多様な学生が大学に入ってくるようになって、そんなことは到底言っていら
れなくなっている。そんなことをしていると大学で何が起きるかわからないという、そういう
状況の中にあって、こういった企画は非常に有益なものだと私も期待しております。きょうは
聞かせていただくのを楽しみにしてまいりました。これから、大学はますます難しい時代に入
って行くのではないかと思いますけれども、こういったところで得られた知見を有効に生かし
ていただいて、電気通信大学並びにご参加いただいている各大学が、ますます発展していく際
にお役立てていただければというふうに思っております。どうも本日はありがとうございまし
た。
司会:今日第2回の講演会では、中釜先生にお話ししていただきます。今日は先生のスライド
にもありますように、学生の教育支援、心理支援、支援のネットワーク作りという視点からど
んなことが必要とされるか、というお話をいただきます。第1回との関連を言いますと、第1
回も第2回も中心は学生です。学生と社会との関係というのが第1回でしたが、今回はずっと
下のほうに降りて行って、多様な学生、個別の一人ひとりの学生に対しどのように発達を支援
するかということを考えます。支援は連携をせずには難しいだろう、そういう視点からのお話
をいただく予定でございます。
中釜先生は、
東京大学大学院の教育学研究科の臨床心理学コースの教授でいらっしゃいます。
教育の面ではもちろん、家族に対する支援を非常に密に実践されて来られました。私は『心理
援助のためのネットワークづくり』というこの本に大変感銘を受けまして、是非、中釜先生を
107
お招きしたいと思いました。ネットワークづくりというキーワードで、きょうはお話がうかが
えるかと思っております。どうぞ、よろしくお願いいたします。
中釜:皆さんこんにちは。中釜でございます。本日はお招きをありがとうございました。また、
阿部先生にはご丁寧なご紹介をいただき、大変光
栄に存じます。わたくしが大学教員として仕事を
始めたほんとに初期に教えをいただきました荻上
先生にも聞いていただくということで、緊張して
おります。会場の先生方が今お知りになりたいと
ころにうまく合えばいいと思いながら、用意して
きたスライドに沿ってお話させていただきます。
5月に阿部先生がわざわざ大学に訪ねてきてく
ださいまして、今の学生たちの非常に多様なニー
ズっていうんでしょうか、ニーズがすごく広がっているところを、臨床心理学的視点から話し
てみてはどうかというお話をいただきました。
おそらく、理系の先生方からみると、臨床心理学というのはまだまだ発展途上の学問であり、
非常にあいまいなところもあるんですね。わかっていないこともたくさんある。むしろそれを
売りにした学問でもありまして、一つずつの事例により知見を積み上げていくのが臨床心理学
だったりしますので、そのあたりのことも少し入れて、当然プライバシーに配慮しながらでは
ありますが、私が担当した事例、あるいは、スーパーバイザーとして見聞きすることなどの力
も借りながら、この時間が豊かになるといいな、というふうに思っています。どうぞご協力い
ただければと思います。
タイトルからまいります。先ほど阿部先生からもご説明くださいましたが、ネットワーク作
りは一番厄介な仕事かもしれません。一人の人と付き合うことは、まだまだやれないことでは
ないんですが、関係のネットワークを作るということは、イメージで言いますと、底引き網で
もいいですし、もっとずっと小型の地引網でもいいですが、なんかそんなものを社会の中に張
っていこうという仕事になります。もっとも基本的な安全を守るための仕事、地道でいつもは
見えないところに時間とエネルギーを割いていこうという勧めにもなるかと思います。1時間
を使って、どうしてそれが力になっていくのか、あるいは、どうしてそれが今の時代に求めら
れていて、そこにエネルギーを注ぐ機能が欠けていて、だからやらなくてはいけないのか、と
いう話をさせていただくのが、私のお役目かと思っております。
最初に、本日の狙いを整理してみます。私の専門が臨床心理学、中でも家族療法とか、家族
心理学に拠って立っていますので、
そこから見えてくる現代社会を生きる学生たち、
学部生と、
それから大学院生たちですね。彼らの発達的な課題を改めて考えてみます。
二つ目は若者の変化です。従来の考え方ですと、大人はある意味確立されたもの、もう出来
上がった存在であるとされます。先生方も充分感じていらっしゃると思うのですが、この完成
体が本当に完成体なのか、ここが少し変わってきています。生涯発達全体を見渡す必要がある
と言われていることをひとつおさえておきましょう。
それから、何十年か前に作られた発達論は、あまり長く遠い将来まで見通すことがやっぱり
108
なかったのですね。ところが、今の時代、社会全体が変わってしまいました。ですので、大人
たちのほうも、変わっていくということを覚悟しなくてはいけないのではないか、それをふた
つ目の付け足しのような形で書いてみました。
若者の変化は、文化、社会的変動を背景に生じたもので、私たち大人もその同じ波の中にい
るというところで、お話を続けたいと思います。
次のスライドですが、これは、お若い方はご存じないかもしれません。歌謡曲のタイトルに
『あなたならどうしますか』という、なんかそういうのがありましたが、ちょっとしたブレイ
ンストーミングのつもりですね。想像してみてください。心理学の人間は、アンケートを取る
のが大好きです。たくさんの方がお集まりでしたら、手でも挙げていただくと、どのあたりの
意見が多いのかってのがわかっていいのですが、こんな学生に対して、先生方だったらどうし
ますか?スタッフの方だったらどんなふうに対応しますか?という形で進めてみようと思いま
す。
次のような場面で、あなたならどうしますか?どんな疑問や感情を抱くか想像してみてくだ
さい。教職員として対応するとすれば、対応しやすさはどのあたりでしょうか?非常に対応し
やすいとお感じになる場面もあるかもしれませんし、自分にとってはやりにくい、どんなふう
に対応するのかイメージが付きにくい、そもそも、けしからんという思いが出てくる例もある
かもしれません。一緒に見ていきましょう。
まずA男さん、男子学生のお母さんですね。入学式終了直後、事務室の電話がけたたましく
鳴り響きました。中年女性の声でたずねられました。電話に出たら中年の方が出られたってこ
とですね。
「第二外国語は何を選択したらいいでしょうか?」学生支援スタッフが「ご本人は何
を勉強したがっていますか?」とたずねると受話器の向こう側で、
「あなたは何をやりたいのか
って聞いてるわよ」
、若い声で「そんなこと言われたって急にはわからないよ」というやり取り
の声が聞こえる。いかがでしょうか?様々な大学、いわゆる偏差値の高い大学、あまり高くな
い大学関係なく、いろいろなところから聞こえてくる声をもとに作った例を挙げています。引
き続き見ていきましょう。
B子さんですね。教授がレポートの提出が遅れたB子さんを呼び出しました。期限は過ぎて
いますが、特別な事情があれば、数日の遅れは大目にみてあげたいと考えてのことでした。遅
れた理由をたずねると、B子さんはしばらく無言になり、その後、泣き始めました。言葉で言
ってくれないとどうしたらいいか何も判断できないとあなたは伝えますが、B子さんは、ただ
ただ泣き続けています。話をしてくれないっていう状況ですね。
次はC輔さん。男子学生さんです。ゼミのリーダー格の院生から、相談を受けました。修士
に入ったばかりのC輔さんが、女子学生に電話やメールを送り、しつこく追い掛け回している
のだそうです。
女子学生は異様に怖がってこれ以上続くなら然るべきところに訴えるというし。
C輔さんには繰り返し注意しても、悪いことをしているという自覚がまったく無いようで、こ
んな事態は初めてだったゼミリーダーの院生さんが、どうしたらいいか悩んでしまった。その
挙句、先生のところに相談に来たという例です。
「先生、一度、C輔さんを呼んで、先生のほう
から注意してくれませんか」と、たずねられた、ということです。非常に不思議、こんなにも
のを考える力があるはずのC輔さんが、小学生でもわかることをどうしてわかってくれないの
か。そんなところですね。
109
4番目の例。D太郎さんの今度はご両親です。これも男子学生さんにしてみました。D太郎
さんが心身不調で授業に出られず、その年の留年が決まりました。成績表が自宅に届き…。ご
本人にだけ成績がゆくというほうが、今、大学の対応としては少ないですね。自宅に届きまし
た。初めてそのことを知ったD太郎さんのご両親が、大学にやってきました。ひどくご立腹な
様子で、
「留年なんて考えられない。高額な授業料をどぶに捨てているようなものだ。授業に出
ないなら、すぐにもやめるべきだ。息子にもきつく言い渡してきましたから」と言い放ち、早
速退学の手続きを取ろうとしています。
シュミレーションですのでね、少し考えてみようというところです。四つほど、例を挙げま
したが、いかがでしょうか。先生方、スタッフの皆様によって、思い浮かべる対応が異なるか
もしれません。私自身は、臨床心理学的なスタンスに立ち、学生相談の実践もやってきていま
すので、そこで一般的とされる価値観を携えて学生と対応するということが多いですが、次の
スライドには、現代、対応をめぐって、次のような考え方が存在するんじゃないかという、代
表的な3つを挙げてみました。
まず、ブルー色は、プラス面をとらえれば、凛とした考え方です。一理も二理もある。例え
ば、こんなことを言います。
「大学生は、判断力を持った大人である」
。それから、
「人間という
のは、厳しさの中でこそ生きるための大切な資質が育つ。そんな簡単なところで手を貸してし
まうと、可能性をむしろつぶしてしまいかねない」
。また、
「大学は義務教育とは違う。だから、
学生本人の選択に周りの人が余計な口をはさむべきでない。卒業しなければならないというこ
とでもない。自分が選択して、何かを手に入れたいために、学びたいものがあるから、大学に
来る。学びたいものが不明瞭になった場合、わからなくなった場合は、何年かかったっていい
じゃないか」
。このように続いて行きます。こういう考え方のグループが存在します。
次に真ん中に書かれたものですね。時々上の考え方とぶつかる考え方ですが、こうなってい
ます。
「現代の若者の経験不足は、非常に多くの学生が共有する傾向である。とすると、経験不
足の若者とやり取りをし、それとなくより望ましい方向、
(この望ましい方向というのは見つけ
出すのがとても難しいのですが、
)そこへ教え導くというのが大人の役割ではないか」と。学生
の状況は多様化している、彼らが求めている支援も非常に多様化している、ひとつひとつに丁
寧に応えていこうじゃないかという考え方ですね。
1番目と2番目は、ずいぶん以前から、おそらく 1980 年代、90 年代くらいからぶつかって
きた歴史があります。ぶつかりは、グループ同士のぶつかりといった単純なものとして考えな
いほうがよいでしょう。一人の人間の中に、両方の考えがあります。そして、どっちがいいん
だろう、今はどっちのスタンスに立つべきだろうかと、選択が非常に難しいなか、個々人がや
ってきたと思います。
比較的最近、3番目の考え方が出てきます。
「投資した額に見合うサービスを要求するのが
当然の権利である。契約に見合ったものを提供し、それ以上でも以下でもない。契約以上をや
る必要はないが、以下であるのは責められてしかるべきである。対価に見合ったことをすべき
である」と。合理的といえば合理的な考え方ですね。これに名前を付けるなら、消費者中心主
義の考え方と言えばよいでしょうか。教育という営みは神聖なものだというのが、1番目、2
番目の考え方にはセットでついているものです。それをどの程度認めるかは、個々の場合で変
わってくると思いますが、3番目は、よく言えばプラグマティック、悪く言えば投資に見合う
110
ものを得ようという非常に現実的な考え方であり、消費者がサービスを要求しているという教
育観につながっていきます。
この3つの考え方が共存しているところが、おそらく現代の難しさだと思います。とりわけ
学校教育における難しさです。大学はまだまだ影響が一番ゆっくり進んでいる場ですが、3つ
の考え方の荒波に早くも揉まれているのが、小学校の先生たちですね。かつては、先生として
尊敬されてしかるべき、大変多くのものを持っている、たくさんの人がなろうと思ってもなか
なかなれない、こういう価値観とセットでお仕事することが可能だったところから、だんだん
権威の維持が難しくなってきた。それが、高等教育へと上がってきている訳ですね。中学の先
生方、高校の先生方、そして大学へ、私たちが今後、どんな形でどのような影響を受けていく
か。さらには、弁護士の先生、お医者さん、そして政治家の先生たちも、選ばれた権威ある人々
と疑わなかった社会の価値観が、大きく揺らいでいると思います。
大学の現状を眺めますと、成果至上主義となります。その一方で、目の前の学生たちにもう
少し細やかな目を向けますと、非常に千差万別であるとわかってきます。知的能力もまちまち
です。知的能力でレベルをそろえるのは、それでもまだやり易いですね。もっとまちまちなの
が、社会性の発達と呼ばれるもの。この面が非常に優れていて発達が高度に進んでいる学生か
ら、経験がなくて発達していない、あるいは、いろいろな働きかけがあってもなかなか発達が
進んでいかない学生というように、大変大きな幅があるというのが現状です。
先ほど申し上げたことを別の言葉で言い換えますと、あるタイプの価値観はこうですね。わ
が子が大事であればあるほど谷底に落とし、それによって強くなっていってもらいたいという
ライオンふうの育て方。大学教師にも職員にも、そして、親御さんの中にもこういうタイプが
いらっしゃいます。
こういう価値観と共存しているのがヘリコプターペアレント。日本ではモンスターペアレン
トと言われることが多いのですが、モンスターイコール怪物ですから、こちらはあまりよろし
くない言葉だとは私自身は思っています。明らかに、困った人たちというネーミングです。諸
外国にはヘリコプターペアレントという名前があるんですね。どんな親たちかというと、子ど
もたちにべったりとは近づかない。プライバシーが大事だっていうことは御存じなので、遠ま
きに見ています。上空を旋回していて、下のほうで大事なわが子、あるいはわが学生に、何か
トラブルがあったりしますと、するするするっと縄梯子で降りてきてやり取りをしてくれる。
ここは自分の手を貸さなければいけないとなると出てきてくれる。用事が終われば、つまり、
ある働きかけができると、そのまままた縄梯子でするするすると離れていってくれる。手厚い
ケアとも考えられます。たいてい見ている。目を離している訳ではない。こういった親御さん
のことをヘリコプターペアレントと呼びますが、これについての功罪論は喧々諤々ですね。両
方存在します。大事な構えだという論もあります。その一方で、いつまで続けるつもりなんだ
ろう、何歳になって変わっていくとよいだろうということが現代は非常にわかりにくいところ
です。
抽象的な言い方をしている限り、あまり迷いは生じません。簡潔でありながら、丁寧でサポ
ーティブな教職員の対応が、学生の今日を支え、明日の方向性を指し示していく。大原則では
それほどの迷いがないのですが、じゃあ、具体的にどうするのと、簡潔でありながら丁寧でサ
ポーティブって何なのかというところが、いつも難しいです。
111
もう一つ質の違う例を示させていただきます。親子のひと時の会話から、ですね。カウンセ
ラーとしてご一緒させていただいた親子の面接例ですが、青年は、うーん、だいたい、30 代の
前半とご理解下さい。非常に優秀な青年です。お話を聞いているととっても面白くて、いろい
ろ斬新なことにチャレンジしていく。理系的なセンスが非常にある方で、コンピューターを駆
使することが得意。そういう青年ですが、ある時点から何か歯車が狂うかのように、不安が強
く登校できなくなり学校教育に乗れずに、大卒資格を取るまでにエネルギーと時間をかける必
要のあった方と理解いただければと思います。
気持ちの繊細な青年であり、繊細であるだけに、自分に自信が持てない。それから、周りの
人たちが、自分に寄せてくれる好意的なものより、自分を責める批判的な目に敏感で、うまく
批判をはじけず、
自分を守れないままずぼーっとその場にい続けてしまう。
人と一緒にいると、
自分の大事なものが壊されてしまうんじゃないかと思う部分がこころの中に育っている。身構
えるために時々外に出られなくなるというような、そんな状態を抱えている方だと思ってくだ
さい。
何年かカウンセリングを続けてきた後の会話です。青年本人のカウンセリングと、ご両親の
カウンセリングと、青年とご両親とカウンセラーが同席する4人の面接をときどき混ぜて行っ
てきました。親御さんと同席すると、いい関係を持ちたいと願っているのに一番緊張し混乱し
てしまうという残念な状況が認められたので、3種類の面接を混ぜてやってきました。ご本人
の面接、親御さんの面接、それから、4人で一緒に会う面接。
3種類目の面接は、最初は短時間から始めて少しずつ話が長く続くようになり、時間をかけ
た挙句と言ったらよいでしょうか、この青年が、ふうっとため息をついて昔のことを、ちょっ
と自分がつらかったことを、話し始めたという一コマですね。具体的にはですね、小学校時代
の出来事について言及したんですが、
「あの時、ふっと思い出し、あんなことあったよねと言っ
てみたくなったんだ」とあとで青年は言っていました。
「言ってみたくなった、今だったら言え
るかなと思って言ってみた」というのが、青年の説明でした。
いろんなものを作ることが好きな彼は、小学生時代にその萌芽があって、一部屋にこもって
何時間もかけながら、創作活動、ものづくりをしていたそうです。それを見て親御さんは、
「無
駄なことをして。それより学校の勉強をしてくれればいいのに、なんで何時間もご飯も食べな
いでいてこんなものを作っちゃうのかしら、うちの息子は」と思って、大きな音を立てて部屋
に入って来ては、
「もうやめなさい」と言って、作っているものを投げ捨ててしまった。そんな
ことが何回か繰り返されていて、その時の記憶に彼が触れたというやりとりでした。
子供は子供で切ない思いをいっぱいしてきていますし、親御さんも悲しい思いをいっぱいし
てきていますので、私としては昔の行為を責めるような面接にはしたくなく、両者で何かを話
し合えればいい、振り返られればいい、振り返る機会が持ちたいと思うんですが、親御さんの
言い分はこんな感じですね、
「本当は親はそんなことしたくないのよ。子供のために心を鬼にし
てわざとやっているに決まっているじゃないの。そんなこともあなたには伝わっていなかった
の」とお母様はおっしゃる。お父様も同じことを言いました。
「確かにね、覚えているよ、その
頃のことは。結構ぶつかっていたもんね。でも、ぶつかった後で、ニコニコ笑っていたじゃな
いかお前も」と。そんなやり取りですね。
他者についついサービスをしてしまう親御さんであり、青年も同様であり、ですので、当時
112
も怒りをそれほど長く表現し続けられなかったっていうことが、両者ともにあるんだと思いま
す。すると、この青年がですね、
「あの頃は自分の事情しか見えなかったもの。親の意図なんて
まったく伝わらなかったよ。何故だか全部隠すようになってしまった。隠したものをのぞかれ
て、破り捨てられて。また、念入りに隠して、何とかたまったもの、ようやくためたものをま
たのぞかれて。その繰り返しだったよね」と。青年がここまではっきり自分の気持ちを言えた
のは初めてだったので、私もはっとしました。
親御さんのほうには、後ろめたい気持ちがありますので、まっすぐ受け取ることがなかなか
できないですね。親には厳しい言葉と感じられたらしく、話の腰を折るような言い方で、
「でも
あの時は仕方なかったのよ」とおっしゃっていました。私からは、
「こういう発言をめったにし
ない彼なので、今の言葉は、何も弁解せずそのまま受け止めてみませんか」と親御さんにはお
勧めしました。
その回の面接の最後のところで、親御さんはこんなことをおっしゃいました。
「何人もの人
に相談したんですよ、私の母親仲間に。
『どうしたらいいのかしらね。うちの子、ほんとに根詰
めるのが得意でね、やり始めたら何時間も勉強しないしご飯も食べないでやっちゃうのよ』と
話をすると、
何人ものお母さん仲間が、
『そういう時にはね、
乗り込んでいっちゃえばいいのよ。
壊しちゃえばいいのよ』とアドバイスしてくれた。それで、そんなものかなー、と思ってやっ
ちゃったところもあるんです」と。
わざわざ長い時間を使ってご紹介させていただいたのは、今、良識と呼ばれるものが壊れて
いる、と言ったらよいでしょうか、各世代が井戸端会議ふうに集まって、
「どうしたらいいかし
ら、この場面困ったわね、親としてあるいは大人としてどう対応したらいいかしら」というと
ころで出てくるアドバイスが、残念ながらあまり信用できないのです。無責任な意見がとても
多くてですね。
「子供にいうこと聞かせちゃえばいいんじゃない」とか、
「子供は判断力がない
んだから」とか、
「いいのよ、もっと大事なことがあると教えてあげたんだから。一旦通常ルー
トからずれたら二度と戻れなくなっちゃうから。その方がよっぽど子供には可哀そうなことな
んだから。幼稚園から小学校高学年、中学くらいまでは、親が強気になって、心を鬼にして、
子供の将来のためにこっちの方が大事なのよって見せてあげなくちゃダメなのよ」
。
こんなこと
を伝え合う大人たちの文化があることを、ちょっと聞いていただきたいと思いました。
大人の影響を強く受けすぎない若者たちももちろんいてくれます。足腰の強い子どもは、親
とのいろいろな衝突を笑い話に吹き飛ばして大人になっていくことができる。そうでない場合
は、周囲の大人たちから受けた影響を何年にもわたって抱え続け、自分で修正していくことに
なった例を、ご紹介した場面から、感じ取っていただければと思います。
では、先に進みましょう。今どきの大学生の発達課題の再考です。よくよく言われているこ
とであり、すでにお分かりのところだろうと思います。
まず押さえておきたいのは、青年期はその昔には存在しなかったということです。青年期が
誕生してからもう何十年も経ちますが、近代社会以降に誕生した発達段階です。かつては子供
時代が終わると、すぐ成人期に入りました。もっと以前の子供たちは、大人の小型版で、大人
と同じものを着ていた。ようやく子供時代が保障されるようになり、そのあとですね、青年期
が、迷ったり考えたり、実際の社会に出る前に費やせる時間が1年、2年、大学4年間と出て
きたということです。
113
現代は青年期が長期化しています。青年期の始まりを 10 歳とさせていただきました。余り
に早いんじゃないかと思われるかもしれませんが、思春期の訪れです。初潮や、男子の場合に
は精通や声変わりが早まっていますので、10 歳として、おわりは 35 歳あたりですね。この間
の発達課題は、アイデンティティの確立です。よく使われる言葉ですね。アイデンティティと
いう概念が出てきたのも、1960 年代です。親からの自立であり、職業を選ぶという課題でもあ
り、それからもう一つは、ジェンダー。男としてどうしていくか、女としてどう生きていくか
という構想を固める時期です。また、何を大事に生きていくか、価値観を固める時期でもあり
ます。
さて、このアイデンティティですが、2つの構成要素があると言われます。1つはコミット
メント、関わるということですね。自分が足をつっこむ、選んだという意識を持っているとい
うこと。それからもうひとつは、アイデンティティ選びにあたってためらいの時期があったほ
うがいい。迷って、本当にこれでいいのかなという時期を入れましょうと。迷いの挙句に選む
のがアイデンティティですが、現代のアイデンティティ論で言いますと、青年期に一回選ぶん
ですね。やっぱり選ぶんだと思います。青年期に選んだものが果たして何年続くか。昔はその
ままずーっと行くと考えられていました。今は、持って 10 年か、15 年でしょうか。そこでも
う一度選びなおしの時期が訪れます。20 代後半に一度選んで、だいたい 30 代終わりから 40
代に入るぐらいのところで、もう一度これで良かったのかと迷って選び直し、それで終わるか
というと、これまた違うんですね。また 10 年ぐらい経つと、何らかの意味でまた選びなおす。
それは職業を選びなおすという形に表れる方もいらっしゃいますし、もう一つ、価値観の選び
なおしという形になる場合もあるわけです。
現代の若者の代表的な臨床例に、ひきこもり、鬱、アパシー、パラサイトシングルなどがあ
ります。名前をあげてみて、いかがでしょうか。共通項を考えてみるなら、社会との関わりの
弱さでしょうか。個として元気に生きられているか、活き活きしているかという問題ももちろ
んあります。が、鬱といっても、現代では、ゲームをしている時は楽しそうとか、友達とやり
とりしてる時にはなにかにこにこ笑ってた、でも診断してみると怠けじゃなくて、鬱的な症状
だというふうになってきていますので、生活全般がグレーという訳ではないんですね。とりわ
け社会と関わるという、自分を世の中に出していくというところで、つまづき、進みが悪くな
っているという問題が現代を代表する臨床例と捉えることができます。
スライドの次の行には、2つほどちょっと食い違うことを書いてみました。これは、私が痛
感していることでもあり書いてみたんですが、ひと昔前の日本社会の特徴はですね。私たちが
若者世代だった頃と思っていただきましょうか。今から、20、30 年ぐらい前、どんどん伸びて
いく、全てが型どおりに伸びていく時代です。祖父母世代から、親世代、もっと大きくなり青
年世代になるにつれて、どんどん大きくなる。何が一番象徴的かというと、先ず挙がるのが、
身長ですね。それから、今もなおこの傾向が続いているのは、足の長さですね。これは間違い
ないですね。体重となりますと、事情がちょっと違ってくるんですね。女性の場合を考えてみ
ますと、青年世代が一番体重が軽かったりしますのでちょっと違います。
夢や人生の可能性、これはどうでしょう。少し前まで、例えば四半世紀前までは、日本の社
会はこれらもやはり大きくなっていたんですね。祖父母世代から、親世代、若者世代へ、抱く
夢や可能性もまたどんどん大きくなっていっていた。
114
ところが高度経済成長が終わってしばらく経ち、成熟社会になって何年かが経つと、親世代
を抜いていくことが、今の多くの若者たちにはおそらく不可能です。親が獲得したソーシャル
ステータス、あるいは、親御さんが一年間にどのほどの年収を得て暮らしていたか想像してみ
る。若い世代の身になって想像してみる。大丈夫、大丈夫、親よりもっと自分は上を行けると
誇らしく思うこと、これはもう嘘なんですね。あまりこういうことは実現できなくなってきて
いる。
もっと前の時代であれば非常に簡単でしたね。例えば、我が家で、わが家系の中で初めて大
学教育を受けたのはあなたたちの世代であるという称号をもらうこと。でも大学教育は、親の
代からすでに受けています。すると次は大学院に行く、大学院の修士、博士に行く、行って博
士号を取る。こういったことで若者たちは、自分に誇りを感じ、アイデンティティを達成して
いた、親から自由になったと思うわけですが、これが今、なかなか難しい。そういう若者世代
になってきていることを押さえておきたいと思います。
身長と脚の長さだけはまだまだ上の世代を軽く追い抜いていきますが、それ以外のものが容
易に超えられなくなってきている中で、どうやって大人になるかという課題を抱えているんで
すね。
現代の若者は、アイデンティティの対人関係の発達のところで一番多くの問題を示していま
す。続いて、この対人関係の発達について考えてみましょう。
対人関係がなぜ取り結びにくくなってきたかということですが、発達の条件が充分整ってい
るだろうかということを見てみましょう。対人関係がどんな経験によって進むかというと、ひ
とつは親との関係ですね。家庭の中での人間関係。親だけでなく祖父母世代、兄弟も入れたも
のを思い浮かべてください。家庭の中での人間関係。それから、もうひとつ、それを取り巻く
もっと広い関係、友人たちとの関係、この両方によって成長すると言われています。
対人関係の発達を考えるときに紹介する3つの言葉があります。自分たちの世代がどんな経
験を積んできたか思い出していただきながら、現代の若者や今の子供たちはどうなのかという
ところに軽く思いを馳せてみましょう。
最初の友人関係の発達は、まずギャングエイジと呼ばれます。小学校3、4年生の頃といわ
れています。ギャングという名前がついている、ちょっとだけ悪いことをする集団が子ども達
の中に作られるんですね。これ以前には、悪いことをしようと考えることもなかった子供たち
が、
3年生くらいになるとちょっと親の目を盗んでとか、
ほんとは禁じられているけれどとか、
みんなでやるから怖くないとか、そんな感じになって、5、6人の子供たちが集まっていろい
ろやる。何かしでかすところに発達的な意味があるということで生まれた概念です。典型的に
は男の子集団に認められます。
例えば、学校が終わって自転車に乗って、
「さあ、みんな、これから隣町の公園に行こうよ。
自分たちの公園じゃもうつまらないから、今日は隣町の公園まで行くんだ」と。誰かが先頭き
って、少しスピード違反をするとかですね。5時には帰らなければいけないと門限を守ってい
る時期から、チャイムがなったから急いで帰らなきゃ、に変わり、
「5時に帰ってこなきゃ駄目
よ」と、お母さんから何度も言われながら遅れる姿へと変わってゆくんですね。これがちょっ
とした悪いことです。このレベルのささやかな悪いことですね。
そして、もうひとつちょっとした悪いことの例。公園に咲いている雑草をちょっと取ってみ
115
た。でも心痛みますよね。
「生きているものをちょっと取ってみた。綺麗だから摘んでみた。う
ちに帰ってきて廊下に置いたまま忘れちゃった。すぐに枯れちゃった。ああ、取らなければ良
かったなあ」というあたりでギャングエイジの体験が満たされていきます。少しだけ悪いこと
をして、オーバーに言いますと悪の香りを知ってゆくという感じですね。純粋培養でなくなっ
てゆく。
ギャングエイジ時代の友人とのつながりでは、身体を張ることが大切です。
「一緒だね。私も
やるから、あなたもやるね」という一体感。
「いち抜けた」は、ちょっと許しがたいようです。
例えば、私自身の体験としては、勇気を試すっていうので、高いところからぴょんと飛び降
りて、この辺を怪我していまだにその傷が残っているという体験がありますが、そんな感じの
ことです。親御さんに知られると、
「とんでもない。何でそんな危ないことしたの」という高さ
から、
「私も飛び降りたからあなたも出来る」と言い合って、
「いち抜けた」人は少しだけいじ
められました。数日間かバカにされるくらいには。次は頑張って身体を張って挑戦する、だか
ら、仲間だと認められ直す。こんなギャングエイジが、友人関係の最初のステージとして存在
します。
次のステージに進みます。今度はチャム、親友ができる時代です。これは、中学生あたりで
す。男の子にもこういう時代がありますが、典型的には女の子集団を思い浮かべていただくと
いいと思います。いつも一緒にいていつもしゃべっている。この時代の少女たちはよく言いま
すね。
「誰もわかってくれなくても、何々ちゃんがわかってくれる。言わなくたっていいんだも
の。いるだけでいいんだもの」
。それから、
「味方でいてくれる」
。ここではですね、何かをやら
なくてもいいんです。Do というより、存在する Be という関係を経験するといわれています。
そばにいてくれるという関係です。これにはただ、注意すべき点もありまして、意見が違うと
まずいと感じるため、隣の友人がちょっと間違ったことを言っても、
「わかった。私にはあなた
の悲しみがわかるから、これは本当はいいことじゃないと思うが、わかった。一緒に家出をし
てあげる」なんていうことも時々起こったりしています。ですので、発達に危険がつき物です
が、
今のような危険性もはらみながら、
私たちは親友関係を経験していく流れになっています。
3番目のステージは、ピア関係です。これは、高校終わりぐらいから従来は大学生で達成と
いわれてきましたが、違う考えの人たちと付き合うのが面白くなっていく段階に進んでいきま
す。この典型例は、恋人を見つけることでもあります。自分と性別も違う、今まで暮らしてき
た環境も違う人に魅せられて、自分の人間としての幅が広がっていく。
この3種類の人間関係を経て、私達は家族という非常に小さな集団から抜け出して更に大き
な社会を考えるようになります。日本のこの先の発展を考えることから、私とは直接のつなが
りのない違うところで生きている人たちの苦しみや悲しみに想像力を巡らすところに進んでい
くと、従来は言われていたわけです。
現代も生物学的な発達、つまり私達の身体面的が求める発達はそうそう変わらないんだと思
いますね。それがスライドの左側に書いた流れです。ところが結果が変わってきたことをここ
では申し述べたいのです。人間関係の機会が減ってきた。
調査によりますと、子供たちは今でもいろいろなグループでギャングエイジ的なことをたく
さん試みるのだそうです。例えば、週3回塾に行く道で寄り道をしたり、禁じられている駄菓
子屋さん風のお店で買い物をしてみたり、そんなことはよくやってくれている。何が違ってき
116
たかというと、ギャングエイジが成り立つために必要な、いつもいる5、6人の仲間がそんな
に会えない関係になっているんだそうです。みんなまちまちに習い事があり、まちまちに塾が
あり、見ていると何人かで遊び、かつてからやっていたように、寄り道したり、ぺちゃくちゃ
しゃべっていたずらを試してみたりというのはあるんだけれど、それはたまたまその日に用事
がなくて一緒になった子供たちの、必然性のあまりない集まりだった、ということがわかって
きます。そうすると、ギャングエイジの発達が不十分になる。それから塾が過熱して送り迎え
までされると、塾帰りにギャングエイジをちょっと楽しむことももうできなくなってくる。
そうしますと子供たち、チャム関係に進むのも恐る恐るになるんですね。堂々と「私の親友、
何とかちゃんだもの。だから何とかちゃんが行くとこには私は一緒に行くんだもん」と言う人
は少なくなってくる。で、ピア関係ってところにはなかなか行かない。大学生も、ピアを楽し
むよりはギャングみたいな関係を楽しんでいるんじゃないか、そんなふうにしか見えない、と
よく言われますね。一緒に集まって、とにかくカラオケを歌いまくるとかですね。受験が終わ
って大学に入学した後で、一晩夜を徹してカードゲームに興じるとか。そんな形で一体感を味
わうことのほうが、やりがいを見出され安心感を覚えるという大学生たちが非常に増えてきて
いるといわれています。
友人関係と掛け合わせる要因として親子関係がありますね。ギャングエイジの時代には、う
ちに戻れば濃密な家族関係があります。その前は子供には家族関係だけなんですが、
「出かけて
くるね、行ってくるね」というところで、親の目が届かないような子供だけの論理で生きられ
るような時間が何時間もあるようになって、帰ってくると、子供たちが切り替えて、我が家の
かわいらしいいい子、いい男の子、いい女の子になった。この切り替えを味わえていた。ギャ
ングも低調になり、親も忙しいですから、そんな体験がちょっと難しくなってきていることが
ひとつですね。
それからチャムの時代に入って親より親友になっていく。一番つらくなった時に、何を打ち
明けるか、誰に打ち明けるか、誰に助けてもらうかというところで、迷わず親友という時代に
進んでいったわけですが、ここが進まないんですね。親子関係が濃密ですので。身体の発達っ
ていうのがもっと早い年齢から起こるようになっていますので、子供たちが心の不安を感じて
いる。チャムというのは思春期を迎える時代ですので、内心、子供は非常に不安をかかえてい
ます。それを親友関係が守ってくれるという仕組みがあったのですが、そこが親友関係に守ら
れず、代わりに親が一緒に守ってくれるという感じになる。そこで親離れ子離れがさらに難し
くなってしまうという流れがあります。この問題のひとつの乗り越え方は、恐らく友達みたい
な親子関係になることだと思います。それを多くのご家族が実際にやっています。どうせずっ
と仲良く行くんだから、友達の代わりの機能になっちゃう。これは恐らくいい解決方法なんで
すね。現代的にはいい解決方法。ただ親子ですのでね、いかんせんずーっと似たような価値観
できた間柄ですので、多様性に触れる機会がこのやり方では損なわれることになります。
親御さんの心のうちを見れば理由があるわけです。子供をよく知り、親密にかかわりたいと
いう理由があります。どうしてかと考えてみますと、危険を避けたいわけですね。子供が何枚
かのクッションの上に立っているスライドを入れましたが、下で支えているクッションが全部
小さくなってしまうと、上に乗っかっている人がふらふら、ゆらゆらしてしまいますので、そ
うじゃなくてちゃんと土台を固めてあげたいと思う。この一番下に書きました社会のクッショ
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ンが大きく頑丈であればいいのですが、今はここも非常に心もとないものになっています。社
会のクッション、言い換えるなら社会構造全般、それから家族を取り巻く人間関係、とくに友
人関係が作り上げてくれるクッションが弱いので、親が担う役割を強くしようとする。すると
子供たちの揺れの危機は防ぐことができるんだけれど、残念ながら親のクッションが小さくな
っていく可能性が少なくなってしまう。
先取りして社会のクッションが弱く小さくなってきたといいました。そこのところを専門的
な言葉でもう少し押さえておきましょう。エコシステムの変化といわれる部分です。いろいろ
なところで言われていますのでよくお分かりだろうと思いますが、超高齢化社会になり若者が
2050 年には何人もの高齢者を支えていく時代になっていきます。3人に1人が 65 歳以上とい
う時代に、これはもう確実に入ってまいります。
国際化、かたや国際化ですね。国際化とセットで必ずついてくるのが価値観の多様化。価値
観の多様化といってもいいし、見方を変えると価値観の均質化ということもできます。ローカ
ルな文化が少しずつ崩れてしまい、世界のさまざまなところに同じお店があり、同じものが良
しとされる社会になっていくという変化も同時に起こっています。
さらに、最初にお話しました、消費者中心主義の蔓延化です。サービスを受ける人が中心に
いて、その人が望むことをしっかりと聞き叶えていこうという社会の力動が働いていく。その
結果といったらいいでしょうか、これらの進行の傍らでといったらいいでしょうか、弱体化す
る地域社会というものがあります。まとめていうなら、例えば顔が見える範囲の何組かの家族
がいて、十数人かの大人たちがいて、その大人たちがちょっとずつ関心を寄せて見守ってくれ
ていた生活空間がなくなっていって、まったくの他人からなる、どこの誰かもわからないよう
な社会に出てゆくか、あるいは大人が2人とか3人、せいぜい4人ぐらいしかいなくて、そこ
は非常に濃密な、密度の高い、そして新しいものが生まれる可能性が少ない家族と言う人間関
係が若者たちを取り囲んでいる、そんな社会になってきたという変化を押さえましょう。
家族の中で進む変化もあります。なかなか結婚しない晩婚化、子供の数が少ない少子化とい
うことが言われます。先ほど家族の中のメンバーだけから変化を生み出すのが難しいというお
話をしましたが、唯一家族の中で変化を引き起こす力があるんですね。それがおそらく離婚で
すね。家族全体を変えてしまおうという動き。その集団を生かしたまま、同じような規模の他
の集団と付き合いながら少しずつ刷新していくことが難しくなっているので、家族という単位
を一気に壊し、家族を変えてしまおうという離婚率の上昇という問題が片方では出てきている
とまとめていただくといいでしょうか。
さてこのあたりで、家族心理学が提唱する人間理解をご紹介することになります。先ほど、
社会の変化を説明させていただきました。異質な人と付き合っていくのがなかなか難しくなっ
てきている。家庭の中に閉塞され生きている人たちが増えてきているというところです。でも
その家庭の中を見てみると、ずっと同じまま、同じ価値観でいくというようにはいかないです
ね。一番小さな集団の中で、一見同じような価値観を持つと見えた人たちが実は大きく違って
いると気づかれると、一気に何かが壊れることへ向かいます。わずかな違いにも弱い、それが
現代の特徴と捉えられます。
そこで思い出していただくといいのが、こんな言葉ですね。
『羅生門効果』という言葉があり
ます。家族心理学から二つの理解をご紹介していきますが、最初の一つがこの『羅生門効果』
118
です。倫理学の専門用語でもあるようです。英語の家族療法辞書を開くと、ラショウモンエフ
ェクト(rashomon effect)と出てきますね。面白いなと思います。私は家族療法を勉強しにアメ
リカに行っていた時期があるのですが、その時、教わった先生が、
「これは日本の言葉だ。知っ
ているか?」と説明してくれて、しかもその方が敬意をこめてですね、
「日本は、現代という時
代を生き残るベストな方法、ベストな文化を持っている国かもしれない」と言いながらこの言
葉を伝えてくださったんですね。最初は何を言われているのかよくわからなかったんですが、
黒沢明監督が映画にした、あの羅生門の話です。
小説でいうと『藪の中』
、ご存じの方も多いと思いますけれど、ある高貴なご夫妻がですね、
山の中を旅していて、そこに盗賊が襲いかかってお金を盗る。金品を盗るとともに何を血迷っ
たか、女性の方を襲うという事態になって、その挙句、殺人事件に発展したという、悲しい話
です。
その殺人事件を巡って、妻、盗賊、そして亡くなった夫ですが霊媒師さんによってその霊が
呼ばれて、三人がその殺人事件について語るという映画です。
映画の中では、3人がそれぞれ非常にクリティカルな、大事な場面についてですね、思いが
いっぱいこもった説明をしてくれます。長い物語をそれぞれに展開します。ところがみんなが
言うことが全部違う、そんな話ですね。一例を挙げると、奥様は「自分は非常につらい目にあ
った。救いを求めて夫を見た。そしたら夫が今まで見たこともないような、ちょっとこう自分
をさげすむような、そんな目で見ていた。あー、こんな関係では私はもう生き続けられないと
思い、夫を殺して私も死のうと思った。でも夫を殺したところで、死ねなかったんです。私は
死にきれなかったんです」と言って、その場に泣き崩れた。
盗賊も自分が殺したと言い、夫は自害したという。聞いてる人たちが本当にそういうことが
起こったろうと思うぐらい、それぞれの言い分が込もったストーリーを3様に聞かせてくれた
という映画ですね。
お白洲の場なんですが、お白洲の場のはじで見ていた無学な農民が、最後に「ああ、人間っ
てすごいもんだな。人間って心の中ではいろんなことを考えていて、それがこんなにばらばら
なのに一緒に生きてるんだ」と、そんな感じのことを語って消えていくという、そういう映画
です。
海外の方がこれを見て、これがこの先の社会を生きるために必要な価値観だと言って、羅生
門効果と名付け、
家族心理学の核をなす概念としました。
真実は多元であるという考え方です。
どれか一つには決まらない。
私たちはそれぞれ自分の価値観を抱えて、
「これが正しいでしょう。
ここにこそ大事なものがあるでしょう」と思いながら、相互にやり取りをする。
ぶつかるときは、たいていどちらが正しいのか、そのあなたの言い分のこの部分が間違って
いるんじゃないかというところで争います。ところがですね、羅生門のストーリーにに戻って
みると、あの時のあなたの見方は違っていたなんて言われたって、私たちの人生は取り戻せな
いですね。その見方に基づいて細部にわたるまで納得のゆく物語が一人ひとりの心の中に作り
上げられていて、その後の人生が引き続き展開しているわけですから。家族カウンセリングの
場面で非常によく認められる事態です。
きょう最初にお話させていただいた青年にとっては、お母さんが自分の大事なものを壊した
というのは破壊的ダメージだったようです。お母さんにしてみると、それは自分の子供に対す
119
る教育的な働きかけのひとつだった訳ですね。それを今、
「ここが間違っていたんでしょう」と
か、
「あなたの趣味がちょっと偏ってたのよ」なんて言われたって、私たち、もう人生をやり直
すことはできないですね。
では何ができるかというと、かつてはてんでバラバラなことを考えていたかもしれないけれ
ど、その時点まで掘り起こして相手の言い分を聞くと、その後何年かにわたり、それから現在
も、相手がどんなことを考えながら横にいるのか、それなりにわかってくる気がする。これを
実現したいんですね。これが実現できれば一緒に生きてくことが可能になるでしょう。何もど
ちらかに一方に軍配をあげる必要はありません。
ぜひ一本化したいというご家族もなかにはいらっしゃいます。誰かが間違っているに違いな
い、だから正しいことを教えてほしいとカウンセラーに迫ります。ですが、いろいろ話し合っ
て最後に何が出てくるかというと、全部が生き残る中間点を見つけることができるといいです
ねという合意です。
言い方を変えるなら、相手の見方を自分の心のはじにでも入れておくことができるようにな
ると、共存が可能になる。それからつながることが可能になっていく。そんな状態に至るため
に、何回も時間をかけてやり取りすることが必要であり、その際のコツは、我が国が見出した
と諸外国の方たちが言ってくれているこの考え方ですね。
羅生門効果を使うことだと思います。
次のスライドは見にくいかもしれませんね。お手元の資料も小さくて見づらいかもしれませ
んが、羅生門効果のからくりを異なる角度から図示したものです。考えたのはアメリカの心理
学者たちです。とても簡単な図なので例えを使って説明をさせてください。
親御さんへの心理教育として説明する仕方ですが、人間にかかるストレスは2種類あるとい
うことを述べています。
真ん中のこの黒丸、串刺しになっているお団子みたいなのが人間ですね。この人が左から右
へと時間軸を進んでいきます。生まれてから死ぬまで。個人心理学では、このお団子だけが独
りで旅路を進むと考えます。でも現代風に人間関係を重視して言うと、お団子だけじゃなくて
お団子を取り囲んでいる周りの複数の輪っかが、一緒に進んでいくと考えるのが家族心理学で
す。
例えるなら、色々な人と結んだ人間関係が輪っかになって私たちを取り巻いているという理
解でもいいですし、背後霊がいるという理解でもいいですし、背後霊じゃ嫌なら守護霊でもい
いですが、いろんなものが私たちを見ている。取り巻く一番身近な輪っかは、核家族。次が拡
大家族、
それから友人や同僚、
近隣の人たちが構成するより大きな集団に囲まれて生きている。
囲まれて生きていくのにはいいことがいっぱいあります。孤独でなくなります。ですが、マイ
ナスもあって、私たちが背中にリュックか何か背負いながら時間軸を進んでいるというイメー
ジを思い浮かべていただきますと、そのリュックの中に、この取り囲んでいる周りが、いろん
なものをリュックの中に入れてくるんですね。
リュックの中身はいろいろだと思ってください。
中に入れてくれたものが非常にいいものもあれば、いらないのに、断ったのに入っているもの
もある、という話です。
例えば核家族がリュックの中に入れる荷物。家族関係に暴力が紛れ込む家族で育った場合は
「気を付けたほうがいい。そろそろ誰かが怒り出し手が出るかもしれない」という警告、そん
なものがリュックの中に入り込みます。
120
もう一つ挙げておきましょう。鬱というもの。核家族から入れられた荷物として、メンバー
の誰かが鬱を患っているとする。一人の足で生きている人とだけ暮らしてきた場合は楽なんで
すが、
そうじゃないこともたくさんあって、
誰かが誰かの面倒を見なくてはならない家族関係。
これにはいいこともあるけれど、あなたの自由にばかりは生きられないんだ、という教訓とし
てリュックの中身になっていきます。
拡大家族からも同様です。
拡大家族が大事な上着を入れてくれたり、
傘を持たせてくれたり、
そういう場合もありますが、傘一本あれば足りるのに、雨合羽も入れられ長靴も入れられ、荷
物がてんこ盛りという場合もありますね。
家族の中にあって、
代々受け継がれていく荷物です。
いいものもいっぱいあります。レガシー(legacy)といわれるいいものもあるし、それから根拠
がないのに確信され、いい聞かされてきたこと、家族神話といいますが、
「家の中から一歩外に
出ていくと、世の中の人はみんな、あなたの足を引っ張ろうと思っている」というメッセージ
だったりするわけですね。そういったものがいっぱい入っている。ですので、縦方向のストレ
スは、
この真ん中のお団子の個人が背負っているリュックの中にはいっているたくさんの荷物、
最初はおそらく善意でみんなが入れてくれた荷物とでも捉えてください。適切な装備のリュッ
クを背負っている人もいれば、
重すぎるリュックを背負わされている人もいるということです。
リュックを背負った人間が進んでいきます。そこで出会うもう一つが水平的ストレスです。
進んで行く道はなだらかな箇所ばかりでなく、発達段階をえいやと乗り越えていきます。階段
が出てきたらそれを上がっていくようなイメージです。誰もが上がる階段もあります。小学校
に入学する、中学受験をする。そして大学に入る。誰か好きな人を見つけて家を出ていくなど、
みんなが通る発達段階という水平的なストレスもありますし、
味わう人と味わわない人がいて、
そこで経験が 100%分かれてしまう、個人差があるストレスもあります。誰かが悪いわけでは
ないですが、たまたま経験しなければならなかった、例えば、家業の倒産とか、離婚という事
態だったり、あるいは家族メンバーの誰かが病気を患うことだったり。そういう水平的なスト
レス、私たちが歩いていく道の真ん中に横たわり、行く手を妨害する岩のようなストレスを経
験することもあります。
私たちの人生は、この二種類のストレスの掛け算です。入れられた荷物がどんなものか。た
またま私たちに用意された道のりがなだらかなものかかなり急であるか。少し前の時代には、
みんなが同じことを経験するという面を強調してラ
イフサイクルのお話をすることが多かったのですが、
今の時代、わかってきていることとして、リュック
の中身も違う。リュックの中身以前に、個人の構成
要素である知的能力、身体的な能力、ここも千差万
別である。発達の可能性自体にも相当の個人差があ
る、と捉えるようになってきています。
ですので、荷物の重さに個人差があり、進んでい
く道のりの険しさの個人差も大いにあるので、その
点を理解しながら、有利な条件で歩いている人たちにはそれを楽しんでいただき、そうでない
場合は二種類のストレスの両方を見直す。もし道のりが険しいのであれば、何人かが集まって
きて道を舗装してあげる、大きな障害物をどかしてあげるなど、周りからも手を貸してあげな
121
がら進む。それから、内的な作業もありますね。リュックの中に入っている荷物が重すぎるの
であれば、一度見直して不要なものはそこに置いていこうと働きかけながら、この荷物は持っ
てゆきたいという整理をつつがなくやっていこうと。
異なる価値観の人々が共存するために、どんなことを支援するとよいか、改めてまとめてお
きましょう。無駄な干渉はしない方がいい、下手なおせっかいをするのは時代遅れと考え、外
部のサービスに頼ろう、支援の専門職化を目指せばいい、という意見もあります。
ところが、本当にそうでしょうか。サービス化、専門職化を目指した挙句、現代の問題が山
積状態だと再三申し上げてきました。非常に大きな砂漠化した集団か、たいへん密な、密すぎ
る小集団への二極化が起こったので、中くらいのコミュニティーを再建しようという動きが必
要になってきているのです。
個人は関係に取り巻かれて生きています。ネットワークに取り巻かれて生きていくわけなの
で、小さすぎず大きすぎない、みんなが顔を知りあっているようなネットワークの再編が、求
められている次第ですね。
これが最後のスライドです。学生の教育支援、心理支援として、一番何をやるべきかという
と、関係ネットワークの充実に力を貸しましょうという結論です。大学時代が最後といえば最
後のチャンスですね。セーフティーネットが張られる最後の場所になります。4年間ないし6
年間を過ごす間に、かつての考え方からするとおせっかいに見えるかもしれないが、社会への
着地までを見通して、多様な学生たちのために相談窓口も多様に用意して、部局別の相談室、
キャンパス別の相談室から、全学の相談室。心理相談をすればいいのか、就職相談をすればい
いのか、学習相談をすればいいのか。遊んでいるように見えるかもしれないんだけれど、その
学生の窓口は一番これがいいと、形態もいろいろに工夫してゆきます。教育としてかかわって
いくのがいいグループ、仲間づくりに手を貸すのがいいグループ、個別に静かにじっくり話を
聞くのが一番いい援助になるグループ、まちまちな支援のメニューを備えるふうになってきて
います。あえて 10 分、20 分の短いカウンセリングにすることもあります。
お時間をいただき、いろいろお話させていただきました。地盤が、確実に、ゆっくりいろい
ろなレベルで動いてきたということだと思います。ですので、よって立つ土台が異なると前提
してみてください。目の前の学生たちは、私たちとは異なる経験をいろいろ積み重ねてきてい
る。時代が違いますので経験が違う、彼らが私たちと結ぶ関係も違ってくるということです。
お勧めは、
「異文化を楽しむようなつもりで」となります。容易な仕事ではないですが、やり
がいはあるはずです。次世代を担う彼らですから、どうせなら4年間を最大活用してもらいた
い。学生たちは、先生方とのやり取り、スタッフ・仲間とのやりとりを通して、中規模の人間
関係を、もしかすると大学で初めて味わうのかもしれません。
暫定的な結論になりますが、なかなかエネルギーのかかる仕事です。ですのでこちらも一人
で抱え込まないようにしましょう。こちらもネットワークで支援する。専門家もいますし、時
間を限って分担して支援するのがよいと思います。可能であればコラボレーションで、コラボ
レーションの基本は楽しむことができるといいですね。経験による違いが少なくなく、私たち
が自然に「わかった」
、
「そうだよね」と思い難くなっているので、たくさん説明を受けて話を
聞き、ああなるほどと思いを馳せることが繰り返されるといいだろう、今求められているネッ
トワークづくりが進むのではないかということを結論にさせていただきます。少し時間がかか
122
ってしまいました。ご清聴ありがとうございました。
司会:先生、どうもありがとうございました。家族心理援助の実践や、我々がネットワークづ
くりを進めるときに非常に示唆的なものをいろいろと含んだ講演を拝聴しました。質問の時間
を取りたいと思いますので挙手をしていただければと思います。
どうぞよろしくお願いします。
A:本学の学生の場合、コミュニケーションといっても、コンピューターとかそちらのコミュ
ニケーションが発達している可能性があって、その辺はどういう考え方をしたらいいでしょう
か。あるいは、どういう影響があるのかというのも心配ですね。その中でネットワークができ
ていく。今お話しのネットワークとどういう関係になるのか心配ですね。
中釜:はい、ご質問ありがとうございます。別種のコミュニケーション能力ですね。初期には、
本来の人間関係への貢献度は低いだろうと考えられていたんですね。ところがその後わかって
きたことがあって、今は、コンピューターを介した別種の人間関係は、半分ぐらいは代替機能
を担えると考えるようになっています。
例えば引きこもりの学生さんの社会復帰を考えますと、ネットワークを利用してコミュニケ
ーション取っている方のほうが、回復率が高いですね。親御さんは、コンピューターばかりや
っているのでやめさせたいという方が多いですが、ネットワークもやらない方、まったくやら
ない方がいらっしゃいます。本当に一人ひきこもっているより、遠く離れて誰だか顔をみたこ
とがない人だったとしても、人間関係を持っているほうが社会に出るところにつながっていき
やすいです。
おっしゃったように偏ってはいるんですね。偏っていますので、ネットで人間関係を持てる
なら友達だって作れるんじゃないと言いたくなりますが、そういうところに行くのには少し時
間がかかります。小学校時代に友達がいた青年が引きこもった場合は可能性が高いと私たち思
いますが、それと同じで、パソコンをやっている、パソコンで発信することができている、こ
れはいいぞと私たちは思いますね。
ただ、実際の人間関係とは距離がありますので、カウンセラーの前に現れるまでに時間がか
かったりいたしますし、先生方ご存じなように、ネット上のコミュニケーションには特有の危
険もいっぱいあります。
A:もうちょっといいですか?そちら側でネットワークができているというとき、現実の世界
とネットワーク先との関係とはどうなりますか。
中釜:そちら側でできたネットワークがやっぱり助けてくれるんですね。就職の可能性を見つ
けるとか、ネット仲間が勇気づけてくれるとか。新しい研究で面白いのがあるんですが、自殺
サイトを訪れる学生たちは何をしているかというと、自分よりもっと苦しい人たちを励ました
りもしているそうなんですね。
それによってお互い生き続けようと思えたり。
こういうことが、
私たちが考えたこともないような可能性が山のようにあります。悪いだけではありません。た
だ、繰り返しになりますが、危険性もあるんですが。誰かが入らないと、その悪い方向に惹か
123
れないように危険性を時々防いであげないと、悪い方に行っちゃうことがあると理解していた
だくといいかもしれません。
世の中一般でよくやられるように、もうすっかり断ちましょう、1日2時間、それが守れな
い場合はプッツンって線を切ってしまう大人もいますね。ネットばっかりやっているから、1
日2時間といってもいうこと聞かないので切っちゃいました、とご報告くださることがあるん
ですけれど、それは破壊的でしかないと思います。
A:どうもありがとうございました。
中釜 いいご質問、ありがとうございました。
司会:電気通信大学では、そういうコミュニケーションをしていながら学校にはあまり来ない
という学生がいるかもしれないですけど、ちょっと安心したんじゃないですか?結構いるんで
すね。
A:もうちょっといいですか?親御さんがやめさせると言っていたんですが、ネットワーク使
わせないとか、そういうふうにすると逆効果になるかもしれないということですか。
中釜:ありますね、それは。あると思います。じゃあ、ネットワークだけ持っているからいい
方向に簡単に行くかというと、それほど簡単なものではないですけれど。先ほど最後のところ
で言葉足らずに言わせていただいた、異文化を楽しむつもりで、というのは、今ご質問くださ
ったのが一番いい例だと思います。どんな媒体であっても、他者とのやり取りの中に光るもの
はやっぱりあるんですね。孤独にいるよりは、人とやり取りする中で見いだせるものがあり、
大人の目には性関係に発展するとか、利用されるとか、そちらの世界が非常に危険なものとし
て見えるので、不安が高まると断ってしまおうとするんですが、今可能になっていることの、
ほんのわずかかもしれないけど、いいところを伸ばしていくという発想から、多くのことが生
まれるっていうところでしょうか。
B:私たち一般教員の場合は、学生から深刻な相談を持ち込まれるということはあまりないん
ですけれども、広い意味では相談に類するようなことを学生と会話することがありますね。先
ほどの短時間相談というのは一定の効果を持っているというお話がありましたけれども、我々
は普段、そんなふうに学生がなんかちょっと言ってくるような時のやり取りというのも、広い
意味ではこの短時間相談になりうるような気がするんですね。そういう時に、我々のほうもい
ろんなことを承知しておいて、基本的には、まず学生が何を求めてきているかということを考
えられるようにすることが大事だと思います。そういう時に心掛けておいた方がいいというこ
とがありましたら、アドバイスをいただければと思います。
中釜:ありがとうございます。アドバイスではないですが、今先生が言ってくださったとらえ
方がものすごく重要なことだと思いながら聞かせていただきました。カウンセラーのもとで行
124
われている短時間相談のなかに、今おっしゃったように、ほんとになんでこんなことをわざわ
ざカウンセラーに相談に来るんだろうというレベルのことがたくさん紛れ込んでいます。話を
してくれてこちらが真面目に聞き、
「へー」とか「これは面白いね」と感想をいうくらいですが、
そうすると満足して帰っていってくれますね。大事にされたとか、自分の言い分が聞くに値す
るものだと思えること。そういう意味で、非常に立派な社会的な活動をされている先生方に受
け止めていただいたら、学生たちのやる気はぐいと上がると思いますね。これは間違いのない
ことだと思います。
耳を傾け合う経験はどんどん少なくなっていますので、言い方を変えると、かつては仲間同
士でできたのかもしれないですが、その場が無くなっているので、いきなり先生のところに来
ちゃったりとか、なんでこんなレベルのことを教員に話すのか、というふうにびっくりなさる
こともあると思うのですが、地盤が変わってきたので、いろいろなところに求め、いろいろな
形で足りないものを補っているのだとご理解いただくと非常にありがたいです。
B:すみません、もう一つうかがわせていただきたいのですが、学生とのやり取りの中で、こ
の一年間の後半の時期となりますと、学生の就職にかかわることをいろいろ教師のほうも心配
して気をもむわけですね。そうすると、どこまでその学生の就職活動に立ち入ったらいいか、
具体的にはゼミ生の場合ですけれども、ということがあるんですね。割と早い時期に、今の時
期、時代ですからそれなりの苦労はしますけれども決まっている学生と、同じゼミの中でもば
らついてくるわけですね。
だんだんみんなが決まってきているのに自分はなかなか決まらない、
たくさん回らなきゃならないという悩みを抱えている学生たち、今でも決まらずに回っている
学生もいるという状況なっていますね。そういう時に、あまりこちらがいろいろ聞くのもかえ
ってプレッシャーになるということもありますし、といってほっておくのもやっぱり心配だと
いうことがあるので、その辺どうかかわったらいいのかご指導いただければと思います。
中釜:とても難しい問題意識を持っていらっしゃるなあと感じながら聞かせていただきました
が、私自身困っていることなので、どうしたらいいでしょうか。先生方からいろいろご意見い
ただきたいというのが本音のところです。
お話させていただいたことを引っ張ってきて、今の問題を捉え直しますと、学生たちの友人
関係の発達がギャングやチャムに留まっているので、違いに弱いんですね。いっぱい存在しま
すよね、違うなんてことは。A君は就職決まったけれど、B君は決まっていない。それから、
C君は恋人できたんだけど、D君はずっと独り身だ、なんていうのはもう昔から存在したこと
で、かつては異質性も抱えて友人関係を保っていましたが、今の人たちは、何か違いが見える
とすぐに関係を切っちゃうところがあると思うんですね。せっかく出来たネットワークがプッ
ツンプッツン消えてしまうことになるので、同世代の仲間関係にゆだねておけないとおっしゃ
る感じのことが出てくるのだと思うんですね。
どうも友達同士では話していないみたいだ。孤独に自分だけ決まってないって思っているみ
たいだ。なので、教師としてちょっと聞いてあげようか、でもはたしてこれは教師の仕事なの
か、と思いますね。その昔だったらみんな自分で決めていた、まるで過保護な親みたいなこと
をやらなくてはいけないのか。友人関係のネットワークの中で何か動きが見えれば、私たち教
125
員はやらないと思うんですね。
言い換えますと、先生方にやっていただくのがベストなのかどうか私にはよくわからないの
ですが、今のところ、他ではなされていないのが事実です。友人関係ではなかなかなされない。
親がそこに入って行くのは止めたほうがいいでしょう。また逆行してしまいますので。濃密な
小さな子供時代の親子関係に戻ってしまいますので。すると、一番良識のある、知的にも社会
を知っているという意味でもモデルになる方に係わっていただくのがいいだろうと思います。
大学教員だけでなく、もっといろんな職種が増えていくよう検討が必要なのかもしれませんけ
れど。
司会:そういう心配をされるB先生はとてもお優しいんだな、だから学生もきっと話に来るん
だろうなと思います。電通大では、就職については、就職支援室もですけれど目黒会という同
窓会がありまして、そこは学生のことをよく聞いてあげて、あちら側につなげるというような
活動がしっかりなされている印象を受けております。他に何かご質問は?どうぞ。
C:どうもきょうはありがとうございました。私の理解の仕方が悪かったのかもしれませんけ
れど、相談で中間点を見出すというお話をいただいたかと思います。その中間点の見いだすこ
との難しさがあるかと思うんですけれども。妥協でもないと思うし、かといって腑に落ちない
ことには、何かどうもならないような感じがするのですね。お互いにもやもやした感情が残っ
ちゃうとこれは中間点じゃないのかなと感じるんですけれども。先生、もう少しご説明いただ
ければと思って、質問させていただきました。
中釜:ありがとうございます。時間のことも気になって、すっと飛ばしてしまったところです
が、
おっしゃるように中間点が一番難しいですね。
人間関係は同じ意見の時はハッピーですし、
違う時には大体みんなが恐れて違いを見せないようにするというのが、現代強くなっている傾
向ですので、違いを見せつつ、このあたりで折り合おうね、というのが大変難しいというのは
おっしゃる通りだと思います。
どんなふうに言えばいいでしょうか。簡単な例をあげてみますと、私が日々行っている家族
カウンセリングの中にいろんな例があるんですが、例えば親御さんが「本当にあなたは何も要
求しなかったね」というとします。母が娘に「あなたはいつも、私が買ってきてあげたものを
見せると、いらないって。プイってして。お姉ちゃんは喜んでくれるんだけど、あなたはあん
まり喜ばなかったよね」と、そんなことをいう。その娘さんが「そんなことないよ、なんでそ
んなこというの?私はいろんなもの欲しかったけど、いろいろ我慢して、うちも大変だったし
経済的にも大変なのが分かったから、だから言えなかったんだよ。唯一、部活を頑張りたいっ
て言ったあのときだって、運動部だからお金がかかるんだけどいいかなって、ずっと我慢して
きたからこのくらいは許してくれるかなと思って言い始めたら、おかあさん、すぐに部屋を出
て行っちゃったじゃない。私の言うことを聞こうとしなかったでしょう」
。こんなやりとりをし
ていくのが家族カウンセリングなんですね。
やりとりの最中はもやもやしますが、言わないのはもっともやもやしますので、先ずは言い
ましょうよと誘います。言った瞬間はお互いにちょっと傷ついたり。そこから始まるのがどち
126
らが正しいかという先ほどの議論なのですが、それを繰り返していきますと、両者の物語はも
のすごく見事に、細部にわたってまで作り上げられているとわかってきます。
ですので、少しずつ詳しく語っていただき、
「そうなんだ。ああ、あの時のことなのね」と、
例えばお母様がいいますね。
「私は聞きたくないから席を立ったんじゃなくて、
あのときだって、
ほら、向こうからおばあちゃんが呼んだじゃない。だから、そちらに行ったのよ」となり、カ
ウンセラーが間に入って娘さんに、
「あなたが言いたかったことは、確かに受け止めてもらえな
かったようだね。でも、あなたが言ったように、お母さんが話を聞きたくなかったというのは
どうやら誤解みたい。そこだけはいい?」とまあ、こんなやりとりを繋げていくということで
すね。
非常に細かい話ですが、一番小さな単位の関係の信頼感はこんなことの繰り返しで出来上が
っていますので、大人の目から見ますと、些末な非常に小さな、なんていうんでしょう、こだ
わりみたいなところですが、そこを述べ合っていきます。一つずつ述べていくと、小さいうち
何にも要求しない子だと思っていたが、実際はそうじゃなかったらしいと別の可能性に思いを
馳せることが出来るようになります。そこが中間点だと思います。もう一つ、言葉を足します
と、誰かの認知の修正ではありません。認知はそのままに、新しい視点が付け加わり、細かく
深くなると、多少はすっきりする地点が出てくるのだとご理解ください。
司会:あと一つくらいでよろしいですか?一つ二つ。あ、どうぞ。
D:対人関係の発達というタイトルのスライドのところで、ギャング、チャム、ピア、と経験
してきたのがどんどん後ろに行って、今は大学に入ってギャングの時代になってくるというお
話が大変興味深かったです。要するにそのピアのところが遅れてしまって、異なるものに対し
てなかなか手が出せない。僕も最近の学生さんたちを見ていて、例えば新しいことに興味を持
とうとしないと思っていたんですが、そういう経験を経てきてないからそういうところになか
なかふみ出せない。それが理由なのかなと、きょうは納得しました。
それとは質問は別で、
今、
国策としてグローバル化ということがすごく強く言われています。
グローバル化っていろんな意味があって、ワールドワイドなグローバル化という意味もあるで
しょう。それとは別に、自分とは違うインターディシプリナリと言うか、違う専門とのコミュ
ニケーションを入れていきましょうということも、たぶんずいぶん強く言われてきているんで
す。そのために、私も自分の研究室の学生には、関係ないことも勉強しなさい、自分の専門だ
けでないこともやる、あるいは英語で発表しろとか、外国にどんどん行くというようなことを
無理やりやらせたりもしているんですけれども。そういうギャング、チャムというのを経て来
てないというところで、いきなりその国策として言われているグローバル化を我々の視点で学
生にやってしまうのは、もしかしたら危険なことなのかなと、ちょっと今思ったりしました。
その辺のことをもしご意見があったらうかがいたい。ギャングとかチャムに相当するところ
を、もしかすると大学でそういう場を与えてあげなければいけないのだろうかということも思
いました。教育の現場で例えばこんなことをやったらいいとか、もし何かアイデアがあったら
是非教えていただきたいんですけれども。
127
中釜 はい。二つとも大きなご質問だと聞かせていただきました。グローバル化って本当に
おっしゃる通りのような気がします。個々のもの、小さな単位のものを殺してしまって、全体
が薄くなっていくというグローバル化もあるし、それから異質性の対話というものも、本当は
それがとても大事なんですが、あるだろうと思います。切り分けがなかなか難しく、取り組ん
でいることは果たしてどちらに行くんだろうか、なんてことを具体的なレベルでは迷ったり問
うたりしてやってゆくことになるんでしょうね。
先生がおっしゃったように、
学生たちは経験を積んできていない。
本当にそうだと思います。
ですので危なっかしさがいっぱいあるんですが、私たちが持っていない経験はしていて、別の
面でものすごく発達している。最初のご質問に戻りますと、自室にこもりながら世界全体の情
勢をつかむなんていう、私たちが小さい頃には考えもしなかったようなことをやれてきている
学生なので、我々が想像だにしない能力もたぶん秘めているだろうと。是非、両方に目を向け
ていただきたい。もしかすると危険なことなのかもしれません。海外に行って、本当に不適応
になって戻ってくる学生もいるので、マイナスもあるかもしれず、あるいは私たちの価値観か
ら見るとたくさん不足しているんだけど、偏りながら何かすごく大きなものをつかんできたと
いうこともまた出てくる時代なんだろうと思いながら聞かせていただきました。
そのための大学の試みとしては、きょうこちらに伺う途中で拝見したあのコミュニケーショ
ンの広場…。ごめんなさい、名前を忘れてしまいました。コミュニケーションの広場をわざわ
ざ大学の中に、この建物の前にお造りになったということを学長先生にうかがいました。そう
いったことが、地味ではあっても一つ一つの取り組みなんだなあと思いながら、この建物まで
に歩いてきたというところでした。
司会:ありがとうございます。まだまだ、きっと、この機会にと思ってらっしゃる方もいらっ
しゃると思うんですけれど、6時になってしまいましたので、最後に大学教育センターのセン
ター長の田中先生に閉会のお言葉をいただいて、終わりにしたいと思います。よろしくお願い
します。
田中 大学教育センター長の田中といいます。きょうは皆さんお集まりいただきましてありが
とうございました。中釜先生、きょうは非常に重要なお話をありがとうございました。実は、
私も教員免許を取るときに心理学とかずいぶん授業に出たんですが、このような授業を受けら
れれば良かったなあと思います。具体的にカウンセリングの話やテープを聞いて、こういう場
合にはこうするああするという話をずいぶん講義で受けたんですが、きょうのお話のように学
生や社会がずいぶん変わっていて、そういう状況をたぶん授業で教わっていれば、ずいぶん変
わったんじゃないかなと思います。若いころに先生の授業を受けたかったなあと思いました。
きょう先生から、社会との付き合い、それから学生が夢を持ってない持てない現状、対人関
係が変化してきて集団を形成しにくいという話、学生ひとりひとりが多くのストレスを抱えて
いるんだということを伺って、なるほどと思いました。
私は、実は自分の子供のことも考えました。果たして親としてどういう教育をしてきたのか
なあとずいぶん考えました。一つは子供とは野球をしなかったことで、子供は野球ができない
のは親父が野球してくれなかったからだといわれると、それはつらいんですね。学生さんのこ
128
とを意識して現状を知るということが重要なんだな、最後の砦が大学なのかな、というふうに
思いました。研究室で学生さんと付き合うのは、グループで今までできなかったところをみん
なで補っていくような、最後の機会でもあるのかなと強く感じました。
さらに、我々一人だけで問題を抱える必要はなく、ネットワークで対応することで、問題が
ある学生さんも、何人かの先生方で見ていれば対応が変わるのではないかと思いました。
私も実は研究室で困っている学生がいました。それはどういう学生かというと、コミュニケ
ーションができないんですね。一生懸命指導するんだけれど、ちょっと難しいことを言うと大
学に来なくなってしまう。来てもらうとそこで話が始まる訳ですけれども、どういう係わり方
をしたらいいのかってことが、
非常に困りました。
きょうは家族カウンセリングのことを伺い、
学生さんの家族のこととか、そういうことも含めて考えていかなければいけないと強く感じた
しだいです。
きょうは第2回目の連続講演会ということで、中釜先生にお話をいただきました。案内にも
ある通り、本学大学教育センターと大学セミナーハウスの共催ということになっています。き
ょうはセミナーハウスの館長の荻上先生に来ていただきました。いつもいろいろな勉強会など
で勉強させていただいております。どうもありがとうございました。
電気通信大学は理系の大学ですけれども、理系と文系の先生方が意外に仲良く相談をする、
うまい人間関係ができている大学であると思います。それからこれは自慢でもあるんですけれ
ども、
一人一人の教員が非常に教育に熱心であるということですね。
中にはライオン型の先生、
それから一方ではヘリコプター型の先生、いろいろおられるわけですけれども、様々な形で学
生のケアをしていければいいのかなというふうにきょうは思ったしだいです。
本センターでは、阿部副センター長のもとでこういう講演会を開催させていただいておりま
す。きょうは、多数遠くからもお集まりいただきまして、本当にありがとうございました。以
降もこういう企画を続けていきますので、
皆様のご協力と、
それからご参加を歓迎いたします。
これで私の最後の挨拶とさせていただければと思います。どうもありがとうございました。
司会:きょうは雨の中、中釜先生においでいただき、多くの方にご参加いただき、ありがとう
ございました。大学セミナーハウスの皆様のご協力に感謝いたします。それではこれで第2回
を終わります。3回目は12月ですが、今度は『研究と教育』というテーマでいたしますので、
その回も是非おいでください。きょうは本当にありがとうございました。
129
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19-2 本田先生 電通大プレゼン.pdf
2011年11月11日
主催:電気通信大学、共催:大学セミナーハウス
中釜洋子@東京大学
心理学(とりわけ臨床心理学・家族心理学)の立場
から、現代社会を生きる学生(学部生・大学院生)の
発達課題の再考を試みる。
若者の変化だが、文化・社会的変動を背景に生じたこ
とでもあり、大人もまたその波の中にいる。
Ⅰ:あなたならどうしますか?
Ⅱ:いまどきの大学生の発達課題再考
Ⅲ:変動する社会とは
Ⅳ:家族心理学における人間理解
Ⅴ:ネットワークづくり
`
`
`
<A男さんのお母さん>
入学式終了直後、事務室の電話がけたたましく鳴り響
きました。
中年女性の声で尋ねられました。「第二外国語は何を
選択したらいいのでしょうか?」 学生支援スタッフが
〈ご本人は何を勉強したがっていますか?〉と尋ねると、
受話器の向こうから、「あなたは何をやりたいのかと
聞いてるわよ」「そんなこと言われたって、急にはわか
らないよ」というやりとりの声が聞こえてきます。
次のような場面で、あなたならどうしますか?
どんな疑問や感情を抱くか、想像してみて下さい。
教職員として対応するとしたら、「対応のしやすさ」は、
1~5のうちのいくつですか?
大変対応しやすい・・・普通・・・大変対応しにくい
1・・・・・・2・・・・・・3・・・・・・4・・・・・・5
<B子さん>
教授が、レポートの提出が遅れたB子さんを呼び出しまし
た。期限は過ぎていますが、特別な事情があれば数日
の遅れは大目に見てあげたいと考えてのことでした。
遅れた理由を尋ねると、B子さんはしばらく無言になり、
その後、泣き始めました。言葉で言ってくれないとどうし
たらよいか何も判断できないとあなたは伝えますが、B
子さんは、ただただ泣き続けています。
130
<C輔さん>
ゼミのリーダー格の院生から相談を受けました。修士に
入ったばかりのC輔さんが、女子学生に電話やメール
を送り、しつこく追いかけまわしているのだそうです。
女子学生は異様に怖がり、これ以上続くなら然るべき
ところに訴えると言うし、C輔さんには繰り返し注意し
ても悪いことをしている自覚は全くないようで、どうした
らよいか悩んだ挙句、あなたのところに相談に来たそ
うです。「先生、一度、C輔さんを呼んで、先生の方か
ら注意してくれませんか」と尋ねられました。
`
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<D太郎さんの両親>
D太郎さんが心身不調で授業に出られず、その年の留
年が決まりました。成績表が自宅に届き、初めてその
ことを知ったD太郎さんのご両親が大学にやってきま
した。ひどくご立腹の様子で、「留年なんて考えられな
い。高額の授業料を溝に捨てているようなもの。授業
に出ないならすぐにも辞めるべきと、息子にもきつく言
い渡してきました」と言い放ち、さっそく退学の手続き
を取ろうとしています。
大学生は判断力のある大人だ。
厳しさのなかでこそ、生きるための大切な資質が育つ。
大学は義務教育ではないのだから、学生本人の選択に、
周りの人が余計な口をはさむべきでない。
`
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経験不足の若者とやりとりし、それとなくより望ましい方向
へ教え導くのが大人の役割。
多様化するニーズに応えることがますます求められている。
`
成果至上主義
学生も千差万別(知的能力・社会性の発達)
わが子を谷底に落とすライオン風「大学教師」や「職員」が
今なお一方の極にはたくさんいれば
ヘリコプター・ペアレント風「大学教師」や「職員」もたくさん
いる
何がベストかは誰も決められない中で。。。
教職員の簡潔でありながら丁寧でサポーティブな対応が
学生の今日を支え、明日の方向性を指し示してゆく。
投資した額に見合うサービスを要求するのは当然の権利。
契約に見合ったものを提供し、それ以上でも以下でもない。
ある家族面接のひとコマから
親:「本当は親はそんなことしたくない。子どものために
わざと心を鬼にしてやっているに決まっているじゃな
い。そんなこともあなたには伝わっていなかったの?」
子ども(青年):「当時は自分のやりたいことしか見えて
いなかったもの。全く伝わってなかったよ。なぜか隠す
ようになって、隠したものを覗かれて破り捨てられて、
また念入りに隠れて、何とか貯まったものを覗かれて、
その繰り返しだったよね」
131
`
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近代社会以降に誕生した発達段階
青年期の長期化(10~35歳)
アイデンティティ確立
(自立、職業選択、性役割意識、価値観の確立)
アイデンティティ=コミットメント+迷いの時期を経て
選ぶ
多角的な検討の末に。
臨床例: ひきこもり、うつ、アパシー、パラサイトシングル、
フリーター、二ートなど。
`
祖父母世代<親世代<青年世代 わが国の身体発達
親世代を超えるのが容易でない、成熟社会の若者たち
cf:戦後の高度成長期の子ども達の夢
`
ギャング・エイジ
`
`
チャム関係
ピア関係
ギャング・エイジ
小学校3~4年、5~6人のちびっ子ギャング
(ほんの少しだけ悪いことを)一緒に身体を張ってやる
`
チャム(親友)
中学生女子が典型、2~3人でお喋り
理解してくれる、味方についてくれる、そばに居てくれる
`
ピア(仲間)
異性でも異なる年齢の人とも、違うから面白い
家に戻れば緊密な家族関係
避けたい例
`
親より親友
ふらふらゆらゆら
いやいや、なんといっても
頼りになるのは親でしょう。
親友関係にも恐る恐る進む
`
`
緊密すぎる親子(母子)
十分にはギャングを楽しめない
`
対人関係の発達条件は十分に整っているだろうか?
対人関係:親との関係と友人関係の両方により成長する
`
親子であり大人同士でもある
こうありたいと望む例
娘・息子
母親のクッション
異質な関係に容易に開かれない
親離れ・子離れが難しい
対人関係の発達
父親のクッション
社会のクッション
親子関係の変化
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132
超高齢化社会 2050年には3人に1人が65歳以上
平均寿命の伸び 83歳(男性80歳、女性86歳)
国際化
価値観の多様化
消費者中心主義
かたや弱体化する地域社会
家族の中ですすむ変化
非婚/晩婚化・少子化・核家族化・個人化、離婚率↑
1.3名
3%、2.7組に1組
`
羅生門効果 : rashomon effect
家族療法や倫理学の専門用語
映画[羅生門」 芥川龍之介作 「藪の中」より
極めて社会構成主義的な人間観
`
多元的真実が関係づくりの出発点
私たちは、どちらが正しいかをめぐり争い合うものだが。
そもそも真実は一つに限らない。
ただし、ひとつ屋根の下で暮らすなら、
バラバラすぎない方が楽。
`
無駄な干渉をしないほうがよい
下手なおせっかいするのは時代遅れ
サービス化、専門職化を推進すればよい
・人種やジェンダー、階層意識
垂直的ストレス
社会的偏見や貧困
・社会的共同体の消滅、過剰労働、
余暇の喪失
・家族のなかにあり、代々受け継がれてゆくもの、
情緒的パターン、家族神話、秘密、心理的遺産や喪失
より大きな社会
近隣や職場や友人関係
`
・家庭内の暴力、依存関係、抑うつ
・個人内のもの: 遺伝的情報、生得的能力、知的能力
`
拡大家族
核家族
時間軸
→→→→果たして本当にそうなのだろうか?
水平的ストレス
・ 発達上の変化(予測できる変化)
`
ライフサイクルの移行
・ 予測できない変化
`
不慮の死や事故、慢性疾患, 失職や倒産、
学校をベースにしたコミュニティの再構築など
関係のネットワークに取り巻かれて生きる個人
歴史的事件
戦争や経済不況や自然災害など
個人に降りかかるストレス
`
`
`
`
`
関係ネットワークの充実を目指して
セーフティネットが張らされた場で4年間、ないし6年間を
過ごす
就職先を見つけ社会に着地するまでを視野に入れる
多様なニーズに応えるために、相談窓口を多様化する
部局別、キャンパス別の相談室、全学の相談室
心理相談、就職相談、学習相談
形態など
授業(心理教育)、グループ相談、個別相談、
あえて短時間相談やオープンルームでの相談
→→→協働で進める教育支援・心理支援へ
133
1.依って立つ土台が異なるかも知れないと前提する。
`
2.これまでの経験がいろいろ持ち込まれると前提する。
`
`
3.異文化体験を楽しむような心持ちで。
`
4.容易な仕事でないが、やりがいはあるはず。
次世代を担う若者の精神的健康向上のために。
どうせなら4年間を最大活用するほうがよいから。
青年の何よりの財産になるだろうから。
`
→→→求められる大学とは?
一人で抱え込まない。
こちらもネットワークで支援する。
支援の専門家もいれば、副次的な支援者もいる。
コラボレーションしたいし、コラボレーションが必要。
違いも少なくなく自然体の自分による共感が難しい例も
多々あるかもしれない。
その場合は、Informed empathy
説明に基づいた共感を使うことで目の前の
学生の現実に近づけるようになるだろう。
参考文献
中釜洋子・齋藤憲司・高田治編著 2008
『心理援助のためのネットワークづくり―<関係系>の心理
臨床』 東京大学出版会
ご清聴どうもありがとうございました。
平木典子・中釜洋子・友田尋子編著 2011
『親密な人間関係のための臨床心理学』 金子書房
中釜洋子 2008
『家族のための心理援助』
134
金剛出版
など
教職員支援のための連続講演会第3回
講演題目「研究と教育の両立と統合を考える―国際比較を基にして―」
実施日時 平成23年12月9日(金)16時 ~ 18時
場所 東3号館301号室 (マルチメディアホール)
講演者 くらしき作陽大学・作陽音楽短期大学学長 有本章氏
参加者 教職員計45人
------------------------------------------------------------司会(阿部)
:きょうは、3回の連続講演会の最後になります。
「研究と教育の両立と統合を考
える」というテーマです。私は大学教育センターの副センター長をしております阿部と申しま
す。よろしくお願いいたします。はじめに学長の梶谷先生にごあいさつをいただきます。
梶谷 本日は寒い中お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
きょうの講師の有本先生は、倉敷から遠路はる
ばるお越しいただきまして、誠にありがとうござ
います。きょうは第3回で、テーマが研究と教育
ということですが、私が現役の、今も現役なんで
すが、教育研究に携わっていたときのことを考え
ると、両方共中途半端に終わってしまったという
気がしています。現在は、教育をちゃんとやって
くださいと皆さんにお願いしている立場ですけれ
ども、お願いされている立場では、いつもこれは
悩みの多いところだと思います。きょうは有本先生のお話で、ご自分のこれからの活動になん
らかのヒントを得ていただければありがたいと思っております。大学としても、教員が教育に
よろこんで携われるようにいろんな仕掛けも努力したいと思っておりますので、私のほうも、
きょうの有本先生のお話を参考にさせていただきたいと思っております。有本先生、どうぞよ
ろしくお願いいたします。
司会:有本先生にお話しいただく前に、先生をご紹介いたします。パワーポイントにもありま
すとおり、有本先生はくらしき作陽大学の学長先生でいらっしゃいます。先生は 1941 年のお
生まれでしたね。先生のご専門は、高等教育論、教育社会学、もう少し具体的に言いますと、
私が有本先生をお呼びしたいなと思ったところですが、大学教員の社会的役割とか、教育と研
究の関係などについて、比較社会学的研究をされています。日本国内の歴史的なものと、それ
から国際的比較を非常に綿密になされてます。先生のご出身は広島大学で、そこで教育学博士
の学位を取られたあと、大阪教育大学の教授、それから広島大学の高等教育研究開発センター
のセンター長をなさいました。さらに広島で COE の拠点リーダーもなさったあと、比治山大
学の高等教育研究所の所長をされていました。その後、くらしき作陽大学からぜひということ
で学長をなさっています。今はそのようなお忙しいお仕事の中いらしていただきました。きょ
135
うは先ほど申しましたように、
「研究と教育の両立と統合を考える-国際比較を基にして」とい
うテーマでお話しいただきます。先生は、
『変貌する日本の大学教授職』という本を書かれてい
ます。これは、
「日本の」ですが、今年「世界の」という本を出されました。きょうのお話は、
その内容が中心になるのかと思っております。では先生、どうぞよろしくお願いいたします。
有本:ただいまご紹介にあずかりました有本でご
ざいます。どうぞよろしくお願いいたします。学
長の梶谷先生、ご挨拶いただきまして、私の話に
ご期待をいただいているということで、それに沿
うようなお話ができるかどうか自信がないですけ
れども、ひとつよろしくお願いいたします。
それから、阿部先生には先ほどご紹介にあずか
りましたように、私がかねがね主張していること
について、ちょっと関心を持っていただいたかなということで、非常にありがたく思っており
ます。きょうのテーマのようなところは、必ずしも主流でないかもしれませんが、私は主流で
あるべきだというふうに思っているところがありますので、その辺をご理解いただいていると
いうことならば、非常に感激するところでございます。
先ほどご紹介されたとおり、私は日本の高等教育研究をしている方々の中では比較的古い時
代から高等教育をかじってきたということはあると思います。1960 年に大学に入り、大学の2
年生のときから高等教育に関心を持ちました。私の先生がちょうどシカゴ大学から帰られて授
業を受け、大学の4年の卒業論文は高等教育でした。アメリカを中心にしてですが、カレッジ・
エントランスエグザミネーション・ボードというものがありまして、日本で言うと大学入試セ
ンターみたいなものの歴史が 60 年ぐらいあのころありました。日本は入試地獄とかいわれて
いる時代でしたので、非常に関心を持ってそういうことをやったのが最初でございます。それ
から博士コースのときに、マートンの科学社会学の研究というのをやりました。その中で知識
社会学や科学社会学から高等教育の研究をしないといけないと思いまして、これが現在でも続
いているというところがあります。その辺の問題意識がありまして、科学社会学の本を書いた
ときも、アカデミック・プロフェッションというものをライフワークとしてやりたいと書きま
した。今もそういう流れの中でやっています。
私も 70 歳になりましたので、昔だったらもう引退してもいい歳です。今ごろは 100 歳ぐら
いまでやる人がおられますので、70 歳というのはまだはなたれ小僧かなと思って、もう少しや
りたいと思っています。なかなか思うようにいかないところがありますけれども。
あとになりますと忘れますので、最初にちょっと紹介しておこうと思います。今、私は国際
比較研究を 19 カ国でやっています。日本版で『変貌する世界の大学教授職』というのを今年
玉川大学出版部というところから出しました。それから、オランダにシュプリンガーという本
屋さんがございまして、高等教育関係のところを集中的に出しています。そこから『ザ・チェ
ンジング・アカデミー』
(変貌する大学)という本を出します。副題は「大学教授職の国際比較」
というものです。今のところ少なくとも 10 巻ぐらいにはなるかと思います。ジョージワシン
トン大学のカミングス先生と私が編集代表者で、現在2巻、3巻が出ております。どうぞ読ん
でいただければと思います。19 カ国参加というのは、1992 年にカーネギー財団がやったのに
136
続いて大きな規模でございます。今の世界の大学教授職はどうなっているかということを、意
識調査を基に見る場合は、これが一番最先端でございます。そういう意味で、日本におきまし
ても参考になると思います。
きょうは、大学や高等教育について専門的に研究されている先生も、あるいは私が前から存
じ上げて親しくさせていただいている先生方もお見えになっていますので、私が言うことは、
多少批判的に受け止めていただけるかもしれません。後でご議論をいただけたらと思います。
ということで始めさせていただきます。内容はここに書いておりますとおりでございます。
まず研究の枠組みをお話しします。次に 1992 年と 2007 年の調査の比較をします。2007 年の
は、今申しました CAP 調査です。チェンジング・アカデミック・プロフェッションの略です。
きょうお話しする内容のデータは 19 カ国のものです。それから研究志向の特質というのを話
します。それから研究生産性の動向。それから、なぜ研究志向へ収斂してきているかというこ
と。最近 15 年間のトレンドを見ますと、15 年前はそうでもなかったんですが、最近は世界的
に研究志向へ向かってきているわけですね。日本はもともと研究志向で、教育志向のほうへな
かなか向かわない。教育と研究を両立するというのが私は大事だと思っていますが、どうもそ
ういうふうにいかないような状況がございます。このことと世界と比較したときに何がいえる
のかを、データに即して見てみようということになります。ということで、最終的には研究と
教育の統合ということを言います。私は 21 世紀の大学はここで終わったんでは駄目だと思う
のです。やっぱり学生の学習力とか学習をサポートすることですね。ここのところを入れて統
合して行かないと駄目だと思います。まだそこまで全然行っていません。特に日本はその辺が
弱いので見直していかないといけません。そういったことを少し詳しくお話をさせていただく
という展開になります。
これが研究の枠組みでございます。知識の機能を見てみますと、大学の諸活動は、理解、発
見、伝達、応用、それから統制、というようなものからなります。大学組織の基本的な活動は、
知識の活動を基にした学事、アカデミックワークです。その内容は、学習、研究、教育、サー
ビス、管理、運営ということになります。学習も入るのかというご疑問があろうかと思います
けれども、われわれ教員も職員も、全員まず学習しておるわけですね。学習は大前提です。管
理運営も入れているのは、大学は知識をコントロールする側面に関わっているからです。ここ
まで入れて広く見ます。学事の中心は車の両輪である研究と教育です。研究と教育というもの
が、両輪であって、これがバラバラに分離して分解していきますと、あまりよろしくないです
が、傾向としてはそういうふうなことがあるということが出てまいりますので、そこを問題に
します。
フンボルトが論文に書いていたものが翻訳されております。エドワード・シルズが 1910 年
に翻訳したものを基にしてみますと、フンボルトはやはり研究と教育を統合すると言ったわけ
です。1810 年頃ベルリン大学が作られたときすでに言われていたとか、いや 1910 年になって
初めて出てきたとか、100 周年のときに出てきたとか、いろいろ論争がありますが。今日は、
「フンボルト理念」ということで、まず研究と教育を統合することを問題にします。
先ほど言いましたが、学習まで入れて研究と教育と学習の R-T-S 連携、R-T-S nexus、これ
はバートン・クラーク先生が、比較的新しい論文で言っています。私は2年間イェール大学の
彼のところで客員研究員をしておりました。本も2冊ほど翻訳をしていて、彼の伝記を書こう
137
かなと思っています。その先生がそういうことを言いました。
彼はフンボルト理念とスカラーシップ再考ということを書いております。19 世紀の例えばア
メリカのハーバード大学についてはいろいろ書かれておりますけれども、教師が教科書を読ん
で、学生は暗唱をするわけですね。その日に家に帰って暗唱して、あくる日にきちっと記憶し
ているかどうかを先生が監督するわけです。だから、先生は研究しなくてもよく、監督だけし
ていればよかったようですね。それを先ほどのベルリン大学で学位を取って帰ってきた人たち
が、
そんなことをやっていたら大学ではないということで反対し改革しようと思ったのですが、
改革できないで、最終的にはみんな辞めたり追放されたりするんです。監督をしている人から
脅かされるわけです。勉強しないで、研究しないで、とにかく監督をして給料をもらっていた
わけですから。研究をして、研究した成果を授業の中で学生に教えるというふうに持っていき
ますと、地位を脅かされる訳ですから、もう絶対反対する。
ハーバードの場合は、エリオットが 31 歳ぐらいで学長になります。その人が 1860 年代に、
エレクティブシステムという選択制を入れて、
学生は指定された科目だけを取るのではなくて、
自分で選択して取ることができるようにした。だから先生を選択することもできる。というこ
とは、そこで初めて学問を大学の授業の中でやっていくということになるわけですね。実際に
学生に研究をさせるわけですから、先生は研究もしないといけない。学生も先生と同じように
研究しないといけない。だから、図書館で本を見て今の課題についてやる、あるいは外に出て
フィールドでやってくる。このようなことを入れようとしますけれど、なかなか最初はできな
かった。今は大体それに近いことをみんなやっているわけです。1人の先生がいろいろな科目
を全部、小学校の先生のように教えるということは、大学ではもうないですね。それぞれの専
門について研究をしていない先生は駄目だということになりますから、研究をやっているかや
っていないかということによって昇任とか採用もありうるということに、だんだんと変化して
いったことになります。
アメリカで 1876 年にジョンズ・ホプキンス大学・大学院をつくったときに、アンダーグラ
デュエイトはそのままにしておいて、大学院を研究とか専門職の場にしました。アメリカはそ
のように2つに分けて、
すみ分けをして、
研究と教育を統合するというシステムを作りました。
そのとき、大学の先生は研究をしないといけないということになりました。当時はエリート段
階でしたけれども、学生も研究するべきだというフンボルト理念が少し継承されたということ
があります。
ドイツでも、当時は勉強する学生はごく一部で、ほとんどは勉強しないで決闘とか遊んだり
という学生が多かったわけですから、フンボルトの生きている時代でも、学生が研究するとい
うのはなかなか難しかったようです。だから、フンボルト理念は一般論としては通用しないと
いう考え方もあります。ましてや今日のように大衆化した段階の学生さんは、もっと研究する
のは難しくなっている。だからフンボルトの理念は通用しない、古いという考え方は当然出て
くることになります。
あとで結論のところでそうなるのですが、ちょっと先に言っておくとすれば、こういうユニ
バーサル化段階の大学においてフンボルト理念というのはもう成り立たないかということにな
りますと、だからこそ成り立つと言えるんじゃないかと思います。なぜかというと、大学の先
生が教育だけやるのでしたら、これは小学校の先生と同じです。研究を担保して教育をやるこ
とによって、自分のやっている専門領域の最先端のことを研究しているという迫力をもって授
138
業に臨むことができます。学生に創造力とか問題解決力とかいうようなものをつけようとすれ
ば、先生がそういうものを持っていなかったら伝わっていかない。そういう意味で、今の大衆
化した学生諸君を触発し迫力を持って教育をしていけば、そこが育つ、あるいは育てないとい
けないんじゃないか。まず先生が研究と教育を統合する、研究をしながら教育をきちっと統合
してやっていくという観点が必要になってくる。学習のところまで言うともっと時間がかかり
ますけれども、そこまでいけば一番いいことではないかと思います。そういったことは、この
19 世紀のところではまだ過渡期であるということです。
潮木先生が書いておられますように、そういう文脈で言えば、ドイツで研究と教育を統合す
るようなことを入れたということは、高等教育の歴史、大学の歴史から言えば、極めて画期的
なことです。だから、ハーバード大学も変わっていきました。明治の初めのベルツの日記に書
いてありますが、日本の学生は、先生が話していることを全部写して、ノートをたくさんとる。
そして試験のときにそれを吐き出すというのが勉強だと思っていた節があるわけです。ベルツ
は、そのことを日記の中で批判しています。日本では科学が育たない、科学の樹の実のところ
だけを覚えてですね、科学の根のところは日本では育たないような勉強の仕方をする、それで
はいけないということを言っています。このように詰め込み型の暗唱型の教育になっていたと
いうことが分かります。世界的にそういうことがあったのが、だんだんと変わって今日に至っ
ている。その間に、研究と教育を統合することがだんだん薄れてきたという面があるのではな
いか。そのことをここに書いております。
この 2007 年の調査にはオランダは入っていません。2008 年、2009 年にオランダが入る。
これと 1992 年のカーネギーの調査を比較しております。1992 年のカーネギーの調査には、香
港を含めて 14 カ国が参加しました。あのときはボイヤーさんが理事長だったのですが、1991
年に 14 カ国全員がプリンストンに集まって、朝から晩まで集中的に議論して原案を作りまし
た。一番最初から参加したのは、ウルリッヒ・タイヒラー、ピーター・マーセン、ファン・フ
ークト、私。韓国からも来ておられましたね。
ドイツ型というのは研究志向型で、オランダ、日本、ドイツ、韓国、スウェーデン、イスラ
エルの6カ国。アングロサクソン型というのは研究・教育半々志向で、アメリカ、イギリス、
オーストラリア、香港の4カ国。ラテンアメリカ型というのは教育志向で、チリ、アルゼンチ
ン、ブラジル、そしてロシアの4カ国であったと言えます。
この真ん中のアングロサクソン型というのは、教育・研究半々志向でバランスが取れていま
すから、こっちのほうへ将来的には行くのかなと思っていたのですが、実際には行きませんで
した。15 年たってどうなったかというと、この 2007 年のところでございます。
ここでちょっと説明が要ります。こちらの 13 カ国は先進国、アドバンスト・カントリーで
す。こちらはエマージェント・カントリー、後発国と訳しておりますが、その言葉が適切かど
うか、発展途上国でもいいですけれども。先発国と後発国というふうに分けて比較をしており
ます。略語で書いております。先進国 13 カ国は、カナダ、アメリカ、フィンランド、ドイツ、
イタリア、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、イギリス、オーストラリア、日本、韓国、香
港です。後発国6カ国は、アルゼンチン、ブラジル、メキシコ、これはラテンアメリカですね、
それから南アフリカ、中国、マレーシアです。
全体平均を見ますと、研究志向の先進国、教育志向の後発国というふうになります。先進国
139
では、研究志向の比率が 25 パーセントほど高いということになります。研究志向の高い国は、
ノルウェー、イタリア、日本、オーストラリア、カナダ、韓国、イギリス、フィンランド、ド
イツ、香港、オランダ、ポルトガル、アルゼンチンの順になります。逆に教育志向の高い国は、
メキシコ、アメリカ、中国、南アフリカ、マレーシア、ブラジルという順序になります。
これらの中で、ラテンアメリカ諸国はいぜんとして教育志向であるということになります。
アングロサクソンの中では、アメリカのみが教育志向を強めた。イギリスとかオーストラリア
とか香港は半々志向だったのですが、研究志向のほうへ傾いたということがいえます。2007
年において研究志向の強い国は、ノルウェー、イタリア、日本、オーストラリア、カナダ、韓
国、ドイツなどです。この中で、1992 年においても研究志向が強かったドイツと日本と韓国は
2007 年でも依然として研究志向の傾向が強いということがいえます。
ノルウェーとイタリアは、
新しく参加した国です。オーストラリアは、アングロサクソン型の半々志向から研究志向へ傾
いていっている。イギリスもそうです。
なぜこの 15 年間に研究志向が強くなり教育志向が弱まったのかという問題があります。あ
とで検討します。
今申し上げていたところです。世代別ではどうかというのを簡単に見ます。全体に年配のほ
うが若手よりも研究志向性が高い傾向がありますが、それほど差はありません。日本も年配が
85 パーセント、若い人たちは 83 パーセントが研究志向ですので、ほとんど拮抗しています。
先進国と後発国の間では、年配も若手も先進国の方が研究志向は大きいといえます。若手のほ
うが年配よりも研究志向であるという国もございます。カナダ、フィンランド、オランダ、ノ
ルウェー、韓国、アルゼンチン、メキシコにそういう傾向があります。
これは、スカラーシップ、学識・学問と訳したりする部分ですけれども、これが何を指すか
ということを見ています。独創的研究を指すというのが、先進国で 73 パーセント、後進国で
58 パーセントですから、先進国の方が独創的研究と見る傾向が強いことが分かります。日本も
77 パーセントになっています。その次に社会への知識の応用、それから自己の専門分野の主要
な働きを理解すること、こういうところです。先進国では独創的な研究が重要であることが、
これから分かります。後発国のほうは、純粋研究から応用研究へ、あるいはマイケル・ギボン
ズ風にいいますと、モード1からモード2に行っているということが分かります。その動きは
先進国よりも後発国のほうが活発であることがこの結果から分かります。日本はほぼ先進国型
のデータが出ているといえます。
専門分野によって違いがあるかというのをここでは見ております。文系は人文科学、社会科
学などです。理系というのは自然科学、工学、技術、医学。理系は研究志向が強いことが分か
ります。先進国のほうが割合は非常に高いですが、全体として理系の研究志向が強い傾向があ
ります。
このように国際的に見て理系は研究志向が強いのはなぜか。それは文系より理系のほうが、
研究へ向かいやすいということによります。ここは理工系が中心だと思いますので、その背景
がよくお分かりになるかと思います。ちょっと書いておりますように、物理学や数学という学
問領域は専門分野のコード化が高い学問領域だと思います。私が学位論文で書いたロバート・
キング・マートンの著書にも出てくるんですが、マートンとハリエット・ズッカーマンという
人が書いた論文がそれにあたると思います。理系の例えば物理学ですと『フィジカル・レビュ
140
ー』という雑誌がありますね。これを審査するときに審査員の誤差が少ない。ということは、
どなたが審査をしてもそんなにぶれないという傾向があることです。
それに対して文系の学問領域というのは、ハードじゃなくてソフトの領域ですが、審査員の
ぶれが非常に大きい。イデオロギーのようなものがかなり入ってくるので、10 点満点で8点つ
ける人もいるかと思うと2点をつける人がいて、
平均は5であってもぶれが大きい傾向がある。
だから、文系では何遍も審査をしないといけないということが起こってくるわけですね。この
ように、コード化やレフェリーシステムの中の違いが反映していると思います。
理系のほうが普遍主義、文系のほうが特殊主義という違いがあるかもしれない。理系では、
世界が同じ土俵で客観的に評価ができるようなところがあるわけですね。例えば、英語の論文
で書いて覆面審査をすれば、どこでやっても大体同じような評価が出る。ところが文系のほう
は、まず書く言葉が国によって違いますので、その差が出てきます。同じ土俵でなかなか審査
ができないというようなことがあります。理系型の文化・風土・雰囲気が、現在の動向の中に
は強く出てきているといえると思います。だから、理系型の構造に収斂しつつあるということ
になります。
したがって、理系のほうが文系よりも学問的生産性は高い傾向があります。あるいは大学ラ
ンキング、こういうようなものが強まってくる。2003 年から上海交通大学とかロンドン・タイ
ムズとか、トムソン研究所がずっとやっているランキングがあります。これを見ると、世界の
10 傑とか 100 傑とか 200 傑とかが出てきます。どこの国のどこの大学がそれに入っていると
か入っていないとか。私も審査員をやってくれとアンケートが来て、日本の審査をやったこと
があります。そうやって、世界中にそういうのを送って審査をしている。だから信憑性がかな
りあるでしょうけれども、人間が審査をするシステムですからバイアスもかかるわけです。し
かし、さっき言った論理で、理系のほうは比較的同じ土俵で世界的にやれる。文系のほうはな
かなか難しいということはあるだろうと思います。ランキングというようなものも、理系を中
心にどこの大学でも強まってくる傾向があると思います。
研究の特質を先進国と後発国で、理論志向と応用・実践志向と商業志向というふうに分けて
見てみますと、応用/実践志向というのが一番高い割合を示しております。日本は 69%ですね。
世界の平均が先進国で 68%、後進国で 73%ですから、日本の 69%というのは、大体先進国の
平均と同じということになります。それから、基礎/理論志向が先進国で平均 57%、後進国で
平均 59%ですが、日本は 66%でかなり高い。それから社会改良志向というのが先進国 42%、
後発国 58%。日本は 31%ですからかなり低いということがいえます。それから、商業志向と
か技術移転志向のようなところは、先進国 17%、後進国 27%ですが、後発国より日本は低く
て 22%になっております。したがって、応用・実践志向が先進国も後発国も最高である。つま
り先ほど申しましたように、モード1よりモード2のところへだんだんと移行していっている
ことが、ここから見えると思います。
研究活動の類型は、先進後進両グループでほぼ同等の比率です。研究結果や発見を含む論文
を書くこと、つまり独創性を重視する類型が、先進国 70%、後発国 64%。日本は 81%で、独
創性を志向しているということがうかがえます。
研究資金関係の論文も日本はかなり高い。それから実験調査等の用意も日本はかなり高いで
す。実験調査等の実施も日本は 70%で、先進国 45%、後発国 41%に比べると高いということ
になります。研究チームや研究助手の院生の監督をするというのが日本は先進国とほぼ同じで
141
46%になっています。
こういうふうに見ますと、独創性を重視するところが研究活動の類型では高いということが
出てきます。
出版形態は先進国のほうが後発国よりも、あらゆる項目で肯定的な回答をしている。特にピ
アレビューは 82%と 65%。
日本は 62%ですから先進国の中では非常に低いことが分かります。
なぜ日本はピアレビューが低いのか。これはカナダ、イギリス、オーストラリアが最高で、中
国、ブラジル、マレーシアなどが最低です。そういう意味で言えば、日本はピアレビューのと
ころでは立ち遅れているのではないかということになる。なぜ立ち遅れているかを全体的な流
れから見ると、日本は自己点検・評価が弱い傾向があるのではないかなと思います。
現在、機関別認証評価が第2ラウンドに入ります。7年間ずつやっています。第2ラウンド
は他者評価とか第3者評価の見直しです。学位授与機構とか基準協会とか日本高等教育評価機
構とかがやっているやり方を少し簡素化し緩めて、自己点検評価をもっと強くしていかないと
いけないというふうに言っています。そうすると、大学側がピアレビュー的なやり方をもうち
ょっと強めていかなければならないことになってきます。ところが、1991 年のいわゆる大綱化
のとき自己点検・評価を導入し、7年間やって 1998 年の大学審の答申で自己点検評価ができ
てないので第3者評価に移しましょうといって、現在の機関別認証評価までたどり着いたいき
さつがあります。日本は7年間やって失敗したわけです。アメリカは1世紀ぐらい自己点検・
評価、
アクレディテーションをやってきた文脈で見れば、
7年間で日本ができる訳ないですね。
10 何年たって、もう一遍失敗したところへ返してやりましょうというトーンになりつつあるの
ではないかと思います。そうすると、もっと自己点検評価、ピアレビューをしっかりやってい
かないと、また失敗しますね。つまり、大学側が相当覚悟して取り組まないといけない。
こういうようなことを背景に見てみますと、なぜピアレビューが日本は先進国で見ると非常
に低いのかということはある程度分かると思います。
研究活動は教育活動を強化するのかどうかという面白いことがここに書いてあります。これ
はなかなか難しいんですけれども、先進国と後発国の平均値の相違はほとんどないです。日本
も同じです。79%ぐらいです。肯定度が高いということは、研究が教育に貢献することを示唆
しています。80%に近いですから、研究は教育を強化しているということになります。
その度合いが高い国は、韓国、カナダ、イタリア、ノルウェー、メキシコ、ブラジル、日本
も平均値よりもかなり高いです。その度合いが低い国は、南アフリカ、マレーシア、中国、フ
ィンランドです。この度合いが高い国と、研究志向の高い国、教育志向の高い国については、
これは後で申します。研究と教育の両立性が高い国と低い国については、日本、中国、オラン
ダ、ドイツ、マレーシアは両立性が低く、日本は特に両立性が低いです。
それから、研究生産性を比較します。研究生産性が高い国は、韓国、香港、日本、イタリア、
ドイツ、オランダ、中国。日本は研究教育生産性が高い国です。研究生産性が低い国は、南ア
フリカ、メキシコ、アルゼンチン、アメリカ、フィンランド、ポルトガル、ノルウェー、カナ
ダ、イギリス。さっきの世界ランキングからいうとアメリカとイギリスがトップレベルのとこ
ろに全部入るのに、研究生産性からいうと、なんでアメリカとイギリスが低いのか、私にはよ
く分からないところがあります。後で多少の解釈はしますけれども。
詳しく言いますと時間がないのでまとめて言いますと、研究が教育を強化するとする国の中
142
で研究志向が高い国は、韓国、イタリア、ノルウェーです。研究が教育を強化するとする国の
中で教育志向が高い国は、メキシコとブラジルです。研究が教育を強化するとする国の中で研
究と教育の両立性が高い国は、韓国、ブラジル、メキシコ、ノルウェー、イタリア、カナダで
す。研究と教育の両立性が高いとする国のうち、アルゼンチン、アメリカ、南アフリカを除く
すべての国が、研究が教育を強化するとする国に該当するといえます。研究が教育を強化する
とする国の中で両立性の低い国はありません。以上総合しますと、研究と教育の両立性が高い
国は、研究が教育を強化すると考える割合が高いということが、ここのデータからは出てきま
す。
次に国別の研究生産性の比較です。学術著書・学術誌論文は、日本は 83%で先進国 70%に
比べてかなり高い割合になります。学会での発表は、日本は先進国の中では低いです。それか
ら、補助金プロジェクトの研究報告とかモノグラフでは、やや日本は高い。新聞や雑誌の専門
的論文を書くというところは、日本は平均的で 28%です。著書では日本は 53%ですから、先
進国の 27%、後発国の 21%に比べると非常に高い割合になっております。先進国の中では学
術誌論文や著書が、日本が最も高いということになります。
どうしてそうなっているのかは分かりませんが、生産性がないタイプがかなり存在します。
先進国で 20%、後発国で 31%、特に中国で 54%も論文を書いてないというデータが出ていま
す。他方、韓国1%、イタリア2%、日本6%、ノルウェー10%、アメリカ 10%などは、全然
論文を書いてない人が少ないということになります。
研究生産性の動向です。論文数でいいますと、先進国が後発国より多く、先進国平均 7.2、
後発国平均 4.4 です。日本は 9.2 で非常に多く、上から3番目になっております。日本はよく
論文等を書いているということになります。平均以上は、先進国の中で韓国、香港、日本、イ
タリア、ドイツ、オランダ、後発国の中で中国の7カ国です。
出版量の平均値を年配と若手で比較しています。先進国の年配と若手では、11.1 と 5.8 です
から、年配者のほうがたくさん論文を書いている。日本は 13.7 対 11.9 ですから、ほとんど同
じぐらいですね。
ほかの国に比べると、
若手がよく論文を書いているということが分かります。
日本は、先進国の年配、先進国の若手、年配者と若手のすべてで、生産性の高い国に入ってお
りますので、国際比較では若手も年配者も高い生産性を示しています。
ここで生産性とは学問的生産性、アカデミック・プロダクティビティのことです。アカデミ
ック・プロダクティビティの中には、リサーチ・プロダクティビティのほかにティーチング・
プロダクティビティ、サービス・プロダクティビティというようなものが入ってくると思いま
すけれども、ここで見ているのは論文を中心にしたリサーチ・プロダクティビティのみです。
今までの議論を踏まえて、研究志向の理由は何かということと、なぜ 15 年間に教育志向が
減少して、研究志向が増加したかということを見ます。事例として日本を取り上げています。
日本には研究志向の伝統的風土があります。戦前は先進国の研究の強いドイツモデルを移植し
ました。お雇いの外国人も連れてきました。それから講座制を明治 28 年に東京大学に入れま
した。後の国立大学は帝国大学型に追随・追求しました。戦後も帝国大学追随型で研究大学志
向を追求している。国立大学もそうですけれども、私立大学もどちらかというと、そういう傾
向を持っています。ただし、今 780 大学がありますが、研究大学は5%とふつういわれていま
す。でも 40 はないと思います。実質的には 20、30 ぐらいで数から言ったら非常に少ない。ア
143
メリカは 4,000 ぐらい大学がありますから、5%で 200 ぐらい。カーネギー分類から言えばそ
うなります。東大の天野先生が、1980 年頃日本版のカーネギー分類を作られたときは、もうち
ょっと数が少なかった。今は大学の数が増えていますが、それでも 40 も研究大学があるかど
うか分かりません。
岐阜大学の学長をやられた黒木先生が分析されているように、国立大学で研究費を見ますと
東大をトップにして 10 位ぐらいまでが多く、後はすとんと落ちます。アメリカはあまり落ち
ないで、なだらかに行きます。日本は、トップだけがよくて後全部落ちるわけですね。そうい
う構造を日本は持っているところがあります。そういう研究志向型というのが実態としてでき
ていて、これは尖塔型のピラミッド構造を持っているということがいえると思います。
高等教育政策は、戦前は研究志向でしたが、戦後は両方志向のようなスタンスだったと思う
のです。しかしやっぱり研究志向ですね。最近の 91 年以降、ティーチングということをしっ
かりやれということで、
教育改革ということをやってきた。
データは持ってきませんでしたが、
絹川先生もよくご存知だと思いますけど、やっぱり研究を担保して教育をやりましょうという
ふうにはあまり書いてないですね。私は、政策的には、研究と教育を両立させる意味で、研究
を担保した教育をしっかりやろうと言えば、全国の教員の皆さんはやると思います。しかし、
教育をしっかりやってくれと言われると、意識的には日本は研究志向ですから、葛藤が起こっ
てなかなかうまくいきません。大学教員の葛藤招来というのは、そういうことでございます。
だから、日本の大学の先生は世界で一番葛藤が強い、ストレスが一番高いです。韓国、イギ
リスも最近は上がってきましたけれども、日本は 15 年たっても葛藤が非常に高い。それから、
研究ができないもどかしさが、特に若手の先生に非常に強く出てきております。イギリス、ア
メリカ、ドイツなどは、比較的若手に時間を与えて研究させています。日本は年配者と若手を
同じ役割構造にしていますので、若手は比較的研究ができないという不満が非常に強くなって
いる。ほかのデータで、そう見えるものがあります。これでは、国際競争に負けるのではない
かなと思います。日本も教育志向をきちんと上げていって、教育をやらないといけないことは
明らかです。と同時に、研究のところを担保しておくという政策は必要ではないかということ
になります。
なぜ、15 年間に教育志向は減少して研究志向は増加したかということです。1つは、研究パ
ラダイムというのが、19 世紀から支配的になったことです。ドイツ自身が、研究と教育を統合
しましょうといったのに、実際には研究志向になりました。それに追随した日本は、帝国大学
を中心にして研究志向になり、研究志向が強い構造になりました。研究パラダイムが大枠とし
ては続いているのではないかという見方が1つです。2番目は、実際に 15 年前に3つの分類
ができた。これを事実としてとらえ、なぜ、変化が起こったのかということを考えます。各国
の文化、風土、雰囲気というものが作用して、それぞれ違う道をとらせた、全体的には研究志
向の風土が働いたととらえる見方です。
アメリカは、例外的に教育志向の力学が働いているところがあります。アーネスト・ボイヤ
ーさんのスカラーシップ再考とか、先ほど言いました研究と教育を制度的にアンダーグラデュ
エイトとグラデュエイトにすみ分けをするようなところとか、そういうことがマッチしてアメ
リカ的なものができている。ランキングはアメリカ的風土ですが、こういうこともアメリカに
は同時に起こっていることがちょっと面白いです。
イギリスは 90 年代は研究志向でした。サッチャー政権の辺りで、研究中心と教育中心に大
144
学ランキングをつくって予算の傾斜配分をするというふうになりました。そこで教育中心に分
類された大学の側から反発が起こり、2000 年代に入ってまた研究志向の見直しというものをや
るようになってきました。ちょうどそのときに CAP 調査をやっていますので、研究志向が結
果に出たのだと思います。
ラテンアメリカは、メキシコ以外は教育志向から研究志向へ移っていっています。メキシコ
だけ、どちらかというと教育志向です。しかし、メキシコの先生たちに聞くと、いや、今は研
究志向に向かっていると言っています。この調査では、メキシコに教育志向性が出ますけれど
も、
実際にはメキシコもアルゼンチンもブラジルも、
ラテンアメリカは研究をしっかりやって、
先進国に追いつこうという政策です。経済発展をやるためには研究をしっかりやらなければな
らないという国策が、ここに現われてきているといいえます。
世界的に知識経済社会から大学市場を一元化する動きがあります。知識共同体から知識企業
体へどんどん移っています。アメリカもそういう傾向が非常に強い。行きつくところは、経済
的な効率や能率で大学を見るアカデミックキャピタリズムです。そういう動きがあることは間
違いないと思います。こういったことが作用しながら研究志向が強まってきているということ
です。
アメリカは例外かということですが、アメリカはオックスブリッジの伝統を入れて、アンダ
ーグラデュエイトにリベラルアーツ、教養教育を今も
残しています。専門教育と研究の2つですみ分けをし
て統合をするというシステムを世界で先駆けてつくっ
たということになります。しかし最近、研究パラダイ
ムが支配的なことを批判した、
「スカラーシップ再考」
の著者ボイヤーさんは、私も参加した調査でリーダー
をした人です。この本を私が日本語に訳したとき、日
本の読者にメッセージを送ってくださいと言って序文
を頼みました。序文が送られてきて原稿ができたときに先生は亡くなられました。こうしてア
メリカは、研究大学の動きがある中で教育のウエートが高いのは、研究大学的なところのサン
プルが少なかったのではないか、つまり、教育大学的なところのサンプリングが多かったのか
なと思えます。
教育と研究の両立性というのが一番大事です。このデータで見てみますと、CAP 調査では、
teaching and research
are
hardly compatible with
each
other という質問があ
りまして、先進国で 25%、後発国で 20%の教員がそう言っています。両立が難しいと。後の
75%は両立ができるということです。先進国の中ではそうです。後発国の中でも 80%できる
と。しかし、日本は 51%、過半数ができないと言っている。日本は突出してできないと言って
います。その次は 46%、中国です。日本は研究志向でできないと言っています。中国は日本と
違って教育志向でできないと言っています。そういう意味で見ていただきますと、日本は突出
して悪い、最悪です。そういうデータが出てきます。
それから、このデータは分野別に見ていますが、日本は、どの分野でも得点は 18 位になる
んです。だから、分野が違えば両立性ができるかというと、日本はそうじゃない。全部同じで
す。ということは、日本的な風土や、文化や雰囲気が共通して各分野に働いているのではない
145
か、ということです。専門分野で違いがあるなら、専門分野の文化が強いということになりま
すが、それ以上に大きな力が日本では働いている。130 年の日本の高等教育の歴史とか、先ほ
ど見たような流れとか、それから高等教育政策とか、その中に蓄積されてきた大学人の意識構
造とかといったようなものが総合的に働いて、今そうなっているというふうに言わざるを得な
いのかなと思います。
ただし、日本でもいろんな大学があります。研究大学と教育大学と、大きく分ければそうで
すが、実際には専門大学、教養大学、地域志向大学、生涯学習大学など7種類の種別の組み合
わせだと思います。サンプルをどこかに偏ってとれば、違う結果が出るかもしれない。われわ
れの調査では、92 年のサンプルと 2007 年のサンプルは同じです。一部組み替えたところはあ
りますが、
同じレベルの大学と組み替えています。
そういう意味では 92 年と 2007 年の調査は、
日本では少なくとも比較ができるということになります。
統合は可能かということです。総論的に言えば、フンボルト理念は世界中のシステムにおい
て存在しがたい。例外はありますけれども、全体的には研究志向へ分離分化していく傾向があ
り、統合の方向へ行ってないのではないかと思われます。コンパティピリティは結構高いので
すが、実際には研究志向が強まっていっているという現状があります。研究をすれば教育が強
化されるという割合も結構ありますが、実際には研究志向が強まっていると言えます。日本に
おける両立は最も困難であります。
今日お話ししたのは、研究と教育のところで、学習は入れていません。学習まで入れて考え
れば、もっと難しいことになります。クエスチョンマークを付けましたように、日本はもっと
も困難ですので、政策的にも、意識的にも、行動的にも、今から転換していかなければならな
い。今大学進学率は短大まで含めて 57%、ユニバーサル化段階です。韓国のように 80%にな
りますと、超ユニバーサル化が起こってきます。そうすると、偏差値的に言っても非常に多様
化した学生が入ってきます。学習力とか、学力とか、就業力とか、それも非常に多様化してき
ます。この学生1人1人をきちんと育てていこうとすれば、やっぱり、先生が研究を担保しな
がらいい教育をする。と同時に、学習力を引き出す。学生をきちんと学習できる存在にしてい
かなければなりません。この3つをうまくやれる先生が大学にいないと、教育だけやります、
研究だけやりますというのでは、研究所になったり、あるいは小学校になったりします。よく
ないと思います。
大学は何ぞやという問いをもしわれわれがするならば、この8世紀、800 年かけて大学が作
ってきたものを見なければならないと思います。最初の 600 年ぐらいは、ティーチングだけや
りました。スコラ哲学の範囲内で多少研究したとしても、実験や調査によって新しい創造的な
ものを作るということではありませんでした。19 世紀になってベルリン大学等ができて、大学
で実験をやり、研究をやり始めました。そこで、それまでの伝統の教育と、研究を統合しなけ
ればいけない、学生にも研究をしなさい、一緒に研究しましょうということをはじめて提言し
たわけです。ただしエリートの段階でしたので、批判もされていると思います。
現在、研究も教育も学習もパラレルに存在すべき状況になってきています。そのときに、そ
の統合性という点で見ると、非常に弱い。社会的にも統合性を弱める動きがある。これでいい
のだろうかというところで、私のお話しは終わります。本当はそれで終わってはいけません。
これから、どうするかということになります。やっぱり、文科省の高等教育政策は大局的には
146
ここを考えないといけないだろうと思います。世界的によく見てみて、日本の政策は間違って
いないか、きちんと見なければなりません。
まだいろいろとありますが、結論です。前に言ったことを書いてあります。多くの国で研究
志向が増大している動きがあります。今後は両立性の実現が乏しくなるとみなすのが現実的で
す。これは、19 カ国でもきちんと議論をしております。これから出すシリーズ本の中でも、教
育と研究の問題は中核的な問題ですので、議論をいたします。皆さんにもそういう議論を起こ
していただきたい。今、自己点検・評価の時代に回帰してきておりますので、この時期を失わ
ないように、きちんとそういうものを作っていくということだろうと思います。
政策も行政も、長いスパンで定着させるようにしなければなりません。7年間では到底でき
ないでしょう。だから、そういう風土を作らないといけない。そういう問題もいろいろあると
思います。
以上で終わらせていただきます。 ありがとうございました。(拍手)
司会:両立性の実現が乏しくなるとみなすのが現実的という客観的な国際比較と、15 年での変
化を考慮した調査の結果でも非常に難しいということがよく分かりました。
ここで、本学で先般紫綬褒章を受けられた植田先生を紹介します。レザーの関連での研究で
高い業績を上げてこられました。植田先生が紫綬褒章をいただいたときのご講演を拝聴したと
きのことですが、植田先生が最後にどうおっしゃったかというと、
「私は学生に教わっている」
と。今日の話の関連で言うと、研究と教育と、それから、学習というか、学生が育つというと
ころでのお話、そういうことについて、植田先生が1つ模範を示されたのではないかと思いま
す。両立は難しいというお話でしたけれど、植田先生にご感想というかコメントをいただけれ
ばと思います。植田先生、いかがでしょうか。
植田:阿部先生に出てこいと言われて不安だったんですけれども…。私は研究と両立させると
いうこととか、研究がないと教育ができないということには、いろいろと意味があると思って
います。私は割と研究者としてやってきましたので、その中でいうと、ちょっと違う感じを持
っています。
研究を通じた教育というのは、研究をやっている中で分かったこと、最先端のことを学生に
教えるということではないような気がしています。なぜ、研究をやりながら教育ができるかと
いうと、研究の場面では、先生も学生も同じなんです。分からないことをやっているんだから、
どっちも知らないことをやっているんだから、そこでは同じ土俵で同じスタートでやっている
わけです。われわれはある意味では間違うことは平気です。そういう意味で、物理の目的は知
識をトランスファーすることではありません。どうやって課題に立ち向かい、向かいながら間
違ったらどうたじろぐか、たじろいだけれども、それを、どう挽回するかということをずっと
一緒にやっていくわけです。その中で学生の優れたところが伸びていく。それでわれわれも学
びながらやる。そのように総合作用しながらやるというのが高等教育というか、研究を通じた
教育のような感じがしています。
ただし、私はこの専門家だからこれをやるというのは駄目です。研究の対象に乗らないとい
けません。つまり、馬に乗ってみなければできません。馬のいく方向に手綱を持っていくわけ
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ですから。研究も同じです。学生は千差万別で、その学生に合わせて教育をしないといけませ
ん。こういう形で教育すればいいということはあまりないと思います。非常に複雑だと思いま
す。
僕はロシア人の研究者をたくさん知っています。ある意味では友達です。ロシアの教育は確
かに詰め込み教育です。完ぺきに詰め込みです。教育重視です。だけど、そのロシアから独創
的な研究はいっぱい出る。ソ連が崩壊して、わあっとアメリカに行った。今アメリカの大学で
はロシア人だらけというところがいっぱいあります。そこでは全く専門を変えて、実験屋が量
子コンピューティング、理論屋に変わってやっています。こういう教育をしたからこうなった
というわけでも必ずしもないのですね。相手は人間なので、非常に複雑なことをやっている。
だけれども、同時に僕たちは水を飲ますことがなかなかできません。飲みたい水のところま
で連れていけますけれども、飲もうというのはやっぱり学生が考えることですから。われわれ
は、僕たちの弱点を見せる、先生が偉ぶらない。僕が一番気をつけますのは、どうしても経験
を経てくると、学生がアイデアを出すと、それは前に考えたから、あるいはそれは前にやった、
やってうまくいかなかった、だから、これはやってみたらできないことは分かっているんだよ
というようなことをすぐ言っちゃうわけです。それは昔の経験であって、もしかしたらできる
かもしれない。
もう一遍やっぱり、
失敗をしてみるということをやらないといけないわけです。
そういうことを僕はちょっと阿部先生に言ったら、あなたここに出て来いと言われたんです。
なかなか難しいことだと思います。
僕は、こういう教育学とかそういう現場に立ったことはないです。だけど、実はわれわれ教
員が現に学生を教えるところが現場なんですよね。きょう伺ったことの中で、分かりにくかっ
たのは、前後を調べた平均値みたいな国の統計です。それがどこまで現場の中の問題を引っ張
り出すことに有効なのか。国としての問題点は出るかもしれないけれども、われわれの大学で
解決しないといけないのは、
この大学で今起こっているこの教育をどうするかということです。
そのことから言えば、もう少し具体的な中身のところで議論しなければならない。全体のフレ
ームワークを変えたら物事が解決するというようなことは、教育ではないんじゃないかなとい
う気がいたしました。よく分からないんですけれど、すみません。
司会:この連続講演会は3回です。1回目も2回目もそうだったんですけど、個別性というか、
主体はどこにあるのかというと、学生のほうにあるんだという、そういう流れてずっと来てお
ります。今回、最後のところで、研究と教育と学習、これを統合するということはどういう意
味を持つのかということについて、これはきっと研究している人がいらっしゃるに違いないと
思いまして、それで、有本先生をお呼びいたしました。
有本先生、この流れの中で、どのようなコメントをいただけますでしょうか。きょうのお話
との関連でちょっとお話しいただければと思います。
有本:ありがとうございました。学習者が主体であるというのは教育では一番重要なことだと
思います。先の統計的に平均値的にいうと日本は研究志向です。しかし、私がいるような小さ
い大学では、研究をやりなさいというのは、かなり難しいです。研究をゼロにしないようにし
てくださいというのがせいぜいです。実際に先生たちが毎日やっているのは、ティーチングで
す。それも課内だけではなくて、課外に持ち出して特訓をやらないとできない。学生をどこへ
148
どれだけ就職させるかによって、すべてが決まるようなところがあります。 学生が入ったと
きに、非常に学力は多様化していますので、学習力も多様化しています。全部詰め込みでやり
ますと学生は伸びません。学習のニーズとか主体を尊重し、学生に目的や目標を立てさせ、励
ましながらやっていかないといけない。
ティーチングを主体にやらざるを得ない現実の中で、どうしたらいいかということを考えて
います。他方でそれと同時に、世界的な比較をして、どういう動きがあるかというのを見てい
ます。そこの間に結構ギャップがあります。
研究をやったからといって、すぐに良い教育ができるとは限りません。研究の最先端をぶっ
つけても、ほとんどの学生が分からないでしょう。だから、分かるように話をするように組み
立てていくのが教育です。たこつぼから出て、学生の成長発達段階、学習力、学力、そういう
ものを前提に、この人たちが大学を出て、30 年先、40 年先に、きちんと社会で生きていける
ようにする。そういうスパンで教育のカリキュラムを作っていかなければなりません。教育と
いうものはそういうものです。
研究だけやって教育ができるというものではありません。インテグレーション、統合がシス
テム的には非常に重要です。システム的にそこが大事です。大学それぞれの個性に合ったよう
なものを作っていかないといけないということになります。一般論とそれぞれの個性を作って
いくということは、連続性と同時に、それぞれオリジナリティーを出してやっていかなければ
ならない。ここのところが非常に大事で、今、先生は、その辺のことを先生の角度からおっし
ゃったと思います、私もそう思っております。ですから、実践が大事です。高等教育論を幾ら
やっても、議論をやっても、現実は理論通りいきません。
全国で高等教育の専門をやっていて学長になった人はあまりいません。私は今ボトムのとこ
ろから発信をしつつあります。今まではどっちかというと、目線が高かったんです。目線を低
くして、地域の社会に貢献をするような学生を受け入れて、彼らを送り出そうとしています。
今までの高等教育政策は、どちらかというと、そこのところに日が当たっていません。大学の
ほとんどが地方の小さい私立大学です。そういうところがつぶれていくということは、そうい
う人材が枯渇するということです。日本のこれからの発展はないということになります。
多くの大学が小学校化してきて、大学の先生はティーチングだけやればいいという考え方も
あるかもしれませんが、そうではなく、さっきのところにつなげていかないといけないという
ふうに思っています。
植田:ついでに追加させてください。世の中で一般に、研究と教育が相反するように見られて
いるところがありますよね。
僕は、
研究者は教育に対してネガティブでは全然ないと思います。
何のために研究やっているかというと、新しいこと、だれも見たことがないことをやって、新
しいを知識を得ますが、それと同時に、それをみんなに知ってもらいたいからやっているわけ
です。そのときに、1人の研究者ができることは限られている。一番効率的なのは、自分の分
身をつくって、この人がまたやってくれることなんです。だから、みんなニュートンの弟子で
あったり、アインシュタインの弟子であったりするわけです。同じように弟子をつくって、そ
れがネズミ算式に広がっていくことが一番効率のいいことですから。研究者は一個人だけでは
閉じないで。必ずそれは後につなげて、広げようとしていく内在的な要求があるんです。研究
と教育というのは、本来的につながるものだと僕は思っています。
149
司会:内在的にはそういう志向を個人個人は持っている。そうなんですけれど、現実はこうな
っています。これと関連するこことして、震災が福島の原発のようなことになぜなったのかと
いうこともあるような気がします。ほかに、どうぞ。
A:今のやりとりの中で有本先生のおっしゃった、先生の今のご勤務先の大学でのご経験とい
うのは、
まさにユニバーサル化した段階の大学の、
かなり広がっている状況だろうと思います。
そういう中で、先生がきょうおっしゃった学生の学習力をどう高めるかということです。大学
では、学問の精神や研究の方法がなんらかの形で反映されて、そういうものをベースに学生の
学習力の関与に役立つ。それが、将来世の中に出ていっていろんな場で、自分の人生も含めて
いろんな困難な状況にぶち当たったときに、困難を切り開いていける力になっていくのだろう
と思います。そういう可能性を提供できるのはやっぱり大学で、大学は大きい役割を果たすの
だろうと思います。
そこで、学生の学習力を高めるということの中に学問の精神とか方法とかというものをどう
いうふうに反映させていくかということについて、先生の長年のご研究や実践の中でお気付き
になっていることがありましたら、お教えいただければと思います。
有本:ありがとうございます。大学は全体的に、システム的に、組織的に、系統的にやる側面
と、実際には個々の先生が授業の学習過程の中で、1人1人の学生を覚醒させて、教育目的と
か目標のところへ導いていくという作業があると思います。その両方をやるということは、な
かなか今難しい。大体、勘やコツで経験的にやっている場合が多いので、ここをもう少し見え
るような形でやる。例えば、入学してくる学生は多様です。かなりよくできる学生もいるし、
非常に難しい学生もおります。例えば、どこかがやっている調査とか試験を受けさせますと、
この人は相当やらないと大学生レベルにならないというようなクラスから、あまり無理しなく
てもなれるというところまでいろいろあります。
この1人1人の現状をよくととらえるということが今できていません。どの先生がその学生
に対応しているかを見ることができるようになっていません。大学の入口から出口のところま
で、どういう先生がどういうカリキュラムで、どういう教育をしてやることによって、その学
生がどれだけ伸びたかということを見ないといけない。今は就業力とか、就職力とかいって、
出口のところの到達目標ということを問題にしますけども、本当は、人生 80 年、90 年、大学
を出た後どれだけ伸びるかということが大事です。
今の大学教育はそういう視点からなされていません。本当はそこで終わってはいけません。
出てから伸びる教育をしようと思うと、それだけの手間暇、それだけの教育が必要です。これ
を今本当に考えてやっているかというと、そこは弱いと思います。
例えば、偏差値のように点数的なものは出ます。それぞれの学生の値は全部得られます。こ
れを得たあとどういうふうにやっていくかということです。こういうところをこういうふうに
したらもっと良くなるとか、
そういうところまでいっていません。
これをやらないといけない。
就職が厳しいですから、いい学生をつくって、いいところへ出していくという実績が出れば、
また入口に帰ってきます。ところが、出口でうまくいかないから入口もうまくいかない。多く
の大学ではそういう苦労があると思います。
150
専門分野はそれぞれ違います。先生たちは専門分野の専門家ですから、それぞれの方法論を
もっています。難しい局面に直面したときでも、どういう方法論でやればそれを切り開いてい
くことができるかということを教えなければなりません。
さっきおっしゃったことは非常に大事だと思います。その先生がやっている先端のことや実
践している分野で、先生が考えていることを授業の中で学生にも分かるように、共通の土俵で
考えるように仕向けていくということが、迫力につながってくると思います。
それぞれの先生がこういうことをきちんと考え、セルフスタディーをしていく。自己点検評
価というのはそういうことだと思います。上からの他者評価があって、7年間に1回とか言っ
てますけれども、学科とか学部の評価を集団的にしていくだけで、個人個人は見ないというふ
うになっています。本当は、やはり、そこのところは変わってこないといけない。
研究の中でも、授業の研究のようなところ、ティーチングに関わるようなところをそれぞれ
の先生たちが関心を持ってやっていく必要がある。これは FD の問題です。日本では、FDは
アカデミック・プロフェッションを構築していくものだというところが非常に弱いです。プロ
フェッションを模索する以上、
研究と教育と学習を統合するということが出てくると思います。
それが欠落しているプロフェッションはあり得ない。
この間もセミナーがあって、アメリカから来た先生に、アメリカでは、ティーチングだけの
ような狭いプロフェッションとか FD を考えているのかと質問しました。答えは、そうではな
く、もっと広い FD を考えていると。イギリスとかアメリカは、アクレディテーションとかピ
アレビューというものを中心にして、その評価を作ってきていることが基本にあります。日本
は、そこが弱い。FD がアカデミック、プロフェッションと非常に関係があるということをも
うちょっときちんとやらなければいけない。研究、教育、サービスというものは、大学のアカ
デミックワークの中の根幹ですから、この問題と全部関わります。ここへ考え方を持っていか
ない限り、日本の大学教育は発展しないと思います。外から言われることだけやっていればい
いという感じでおりますから、何回やっても失敗を繰り返すことになります。ここが一番大事
なことです。きょう言いたかったのはそこのところをきちんとやるということです。
幸か不幸か、自己点検評価をしっかりやりましょうという雰囲気になってきつつあるようで
すから、チャンスではある。チャンスではありますので、どこの大学も同じだと思いますけれ
ども、そこのところにきちんと気が付いてやる。そして、電通大は電通ブランドを作る。うち
の大学はうちのブランドを作る。その大学でしかできないようなものを作っていけば、それが
質保証になります。知恵を出して、それが何かということをやっていかないといけないという
ことだと思っています。
A:補足の質問です。今、お話になりました学生1人1人の状況ですね、発達状況とか、そう
いうのをとらえてということでした。大学の中ではいろんなところと連携が難しくて、教師間
の連携でも横の連携でも、個人的に親しい中同士では情報をお互いに交換できたりしますけれ
ども、今の日本の大学では組織的にやるというふうにはなっていないと思います。そういうこ
とを奨励するような政策的なバックアップの動きというのはないんでしょうか。
有本:今年から、法律で大学の情報を公表しないといけないことになりました。公表するとい
うことは、数字で出るわけです。これは制度的にはある意味では強制力になります。出さなか
151
ったら、自信がないから出さないんだろうというふうに見られますから、比較的悪くても積極
的に出して努力をしていることを示していかないといけない。政策的にはそういうふうになっ
てきているというのが1つあると思います。
それから、データベースを作って、各大学のデータを共有するという動きも文科省にありま
す。アメリカでは、3つ4つ大きいテストがあり、これを受けてそのデータを公表しないと補
助金が出ません。
自己点検評価のように自分たちでやっていければ、そういうものは要りません。しかし、日
本は 130 年の歴史の中で、ずっと、どっちかというと行政とか文科省が指導したり監督したり
する流れになっています。急に自己点検評価をやりなさいといっても、やり方が分からない。
伝統がないわけです。まごまごして、もう7年間失敗している。こういうことから言えば、も
うちょっと時間をかけて自己点検評価を作っていかなければならない。
大学側もそこを作って、
うちの大学のいいものはこれですよと言って出していくしか方法はないんじゃないでしょうか。
言われてやると金太郎あめみたいにどうしてもなります。イギリスなどは大学学術会議で作
った質保証の基準を問題視しています。イギリスで調査してきた報告を聞くと、オックスフォ
ードやケンブリッジでは、そこでつくった基準を相手にしない、自分たちのほうが上をやって
いる。気にするのはポリテクニック。アメリカも大きいところはあまり気にしない。気にしな
いようなレベルに到達する、しなければいけないと思っている。それができないならば、全体
的にガイドラインを外から出していかざるを得ない。国際競争の時代、大学も AHELO のよう
なもので比較したとき、日本の大学は低い。日本の大学では宿題がないから学生は家に帰って
全然勉強しない、勉強時間が世界で一番低い、学力もしたがって上がっていない、なのに卒業
させているというようなことが分かってきます。
そういうふうにならないということが、これからの 21 世紀、各大学に問われています。自
分たちでやらないといけないという状況にあるということです。そこのところと、世界比較か
らいろいろ課題があるというところは、やっぱりつながっているだろうと思います。日本の大
学の物的質的施設の条件は、世界で一番悪いというデータが出ています。ストレスも高いけれ
ど先生たちは頑張ってやっているということが出ています。教育支出の対 GDP 比にしても一
番悪いです。OECD 諸国の中で、31 カ国の中で一番悪いです、0.5%ですから。
この辺を底上げしてきちんとやらないと駄目です。政府とか政策側にもうちょっと大学、高
等教育に関心を持ってやってもらわないと、悪い結果が出ます。その人たちが卒業して日本を
支えるわけです。ここが落ちてきますと、確実に落ちます。経済も駄目、それから、教育の質
も駄目、人材も駄目ということになれば、日本は終わりです。われわれも声を大にして、そう
いうことになりますからならないようにやりましょうということと、援助をお願いしますとい
うことを言わないといけないと思っています。
私もちょっと年を取ってきたので、あまり力はないんですけれども、言えるところは言おう
と思いますので、先生方もどうぞ、同じようなスタンスでお願いします。ここは東京ですから
近いんです。倉敷からは6時間かかります。ここはお膝元ですから、どんどん出していただけ
たらありがたいです。
司会:組織としての自発性と、制度的なこと、政策的なことと、いろいろ詳しく説明していた
だきました。だいぶ時間も過ぎましたので、まだまだご質問はあるかと思いますが、この会を
152
主催しております本学の大学教育センターのセンター長の田中勝己先生からごあいさつをいた
だいて、終わりにしたいと思います。先生、どうぞよろしくお願いします。
田中:きょうは、有本先生どうもありがとうございました。大教センターの主催ということで
ごあいさつさせていただきます。
大学のユニバーサル化、学生の多様化に伴って教育をどのように行うかということで、学習
力を高めようというお話でした。先生方の議論の中では、学生さんの学習力ということが随分
議論になっていたと思いますが、私自身は、教員も学習力が必要で、恐らくそういうことが教
育と研究をうまく結び付けられるんじゃないかなというふうに、聞かせていただきました。
「研究を担保にして教育を行う」ということが今日の先生のお話のエッセンスと思います。
うちの大学はどちらかというと、
「教育研究」と教育を先につける。教育と研究のどちらを先に
置くかは教員の意識によると思いますが、切っても切れない2つのキーワードをうまく関連付
けて話をしていただけたと思います。
有本先生は学長先生でおられるということで、自己点検評価とか質の保証とか、機能別分化
のお話しを伺いました。学長先生方は多分一番気にしておられることだと思います。有本先生
は 70 歳でおられるけれども、あと 30 年、100 歳まで頑張られるんだというメッセージに聞こ
えました。
この講演会は、教職員支援のための連続講演会として、大教センターで 10 月、11 月、12 月、
3回開催させていただきました。1回目は、教育と仕事の接続ということで、大学が何ができ
るかということをテーマに講演会をさせていただきました。2回目は、学生の発達の支援とい
う立場から教職員自身も成長する可能性がある、そんなことが必要だという話を伺いました。
3回目は、きょう先生方の議論の中でもお分かりになったと思いますけれども、教育研究、一
番本質的なところの議論がなされたように思います。
これで3回の連続講演会を終わりにさせていただきます。主催は大教センターでしたが、公
益財団法人の大学セミナーハウスから共催のご協力をいただいています。いろいろなサポート
をいただきましてありがとうございました。これからも連携を図りたいと思いますので、よろ
しくお願いします。簡単ですけれども、挨拶と代えさせていただきます。
最後に、有本先生に感謝の気持ちを込めまして、もう一度拍手で終わりにさせていただきた
いと思います。どうもありがとうございました。(拍手)
153
1. 研究の枠組み
2.
3.
有本
章
4.
くらしき作陽大学
5.
電気通信大学大学教育センター主催・大学セミナーハウス共催
講演会
於:電気通信大学
2011年12月9日
6.
7.
8.結論
1
• (1) 知識と学事
2
・知識=知識から構成さ
れる学事の基本要素
教師は教科書を読み学生は暗唱してきたことを考えると、ドイツの大学が
着手した教授-学習過程がいかに革新的かが容易に理解できる (潮木,1982,
pp. 11-13)
・学事=発見と伝達、
あるいは研究と教育と
いう主要機能=車の両
輪から成立
・連携と統合を達成する
意図は必要
この理念は、高等教育のエリート段階である19世紀のみではなく、高等
教育のユニバーサル段階に入った21世紀の大学においても必要。
フンボルト理念
R-Tの連携
この理念に反して、教育志向よりも研究志向は従来支配的であったし、
現在も世界の大学においてますます支配的になっているのではないか。
R-T-S の統合
3
4
Norway(83%)
Italy(77%)
Japan(71%)
Australia(69%)
Canada(68%)
Korea(68%)
UK(67%)
Finland(65%)
Germany(63)
Figure 1 : academics’ preferences in teaching and research
HK(63%)
orientations by country.
Netherlands (56%)
先進国=研究志向 (65%) >教育志向 (35%) 日本(71%;28%) Portugal(53%)
後発国=研究志向 (47%) <教育志向 (54%)
Argentina(51%)
Mexico(57%)
研究志向>教育志向→13カ国: Norway, Italy, Japan, Australia, , US(56%)
Canada, Korea, U.K. , Finland, , Germany, Hong Kong, Argentina,
China(56%)
the Netherlands, and Portugal
South Africa(53%)
教育志向>研究志向→6カ国: Mexico, U.S., China, South Africa,
Malaysia(53%)
6
Malaysia, and Brazil.
Brazil(53%)
• (1) 1992年調査における3類型の相違
a. ドイツ型=研究志向→6カ国
b. アングロサクソン型=研究・教育
半々志向→4カ国
c. ラテンアメリカ型=教育志向→4カ
国
オランダ、日本、ドイツ、
韓国、スウェーデン、イ
スラエル
アメリカ、イギリス、
オーストラリア、香港
チリ、アルゼンチン、ブ
ラジル、ロシア
5
154
Figure 2 Preferences in research at siniors and juniors (%)
sinors
79 81
75
68 70
71
80
78 79
77 75
87
84
70
62
55
Figure 3 Positive Views on scholarship (%)
83
75
70
67
juniors
85 83
75
74
100
70
60
54
53
53
51
45
58
80
62
55
48
44
49
43
45
52
60
49
40
41
20
0
• (1) Views on scholarship
CA
US
FI
DE
IT
NL
NO
PT
UK
AU
JP
KR
HK
Total
AR
BR
MX
ZA
CH
MY
Total
CA
US
FI
DE
IT
NL
N
O
PT
UK
AU
JP
KR
HK
To
tal
AR
BR
M
X
ZA
CH
M
Y
To
tal
Scholarship is best defined as the preparation and presentation of
findings on original research
76
69
57
71
73
75
90
73
67
67
77
78
81
73
53
37
60
64
53
78
58
Scholarship includes the application of academic knowledge in real-life
settings
68
81
84
71
60
46
62
77
70
74
75
83
79
72
78
85
86
76
81
83
82
Scholarship includes the preparation of reports that synthesize the
major trends and findings of my field
62
70
62
67
46
45
58
56
67
67
81
91
73
65
60
64
66
66
77
75
68
Figure 3=スカラーシップ観はグループ間に相違
Figure 2:世代別研究志向
・独創的研究(73%; 58%)日本(77%)
・社会への知識の応用(72%; 82%)日本(75%)
・自己の専門分野の主要な動きを理解 (65%; 68%) 日本(81%)
研究志向=年配世代(74%;52%) >若手世代 (70%; 49%) (両国グループに共通)
→日本(85%;83%)
→スカラーシップは先進国では独創的研究を示す。
→後発国においては、純粋科学から応用科学へ、モード1からモード2へと移
行しつつある (Gibbons, et. als., 1974).
以下の国は若手世代>年配世代
Canada, Finland, the Netherlands, Norway, Korea, Argentina, Mexico
7
8
Figure 4 Focus of interests in research at discipline (%)
90.0%
80.0%
• 物理学や数学を典型に専門分野のコード化が高い
70.0%
60.0%
• 世界の大学・大学教員は理系型の文化、風土、雰囲気に向
かって収斂しつつある
50.0%
40.0%
30.0%
20.0%
10.0%
0.0%
Australia
Canada
Finland
Germany
Hong Kong
Italy
Japan
Humanities and social sciences
67.7%
65.6%
59.7%
56.0%
63.1%
76.3%
65.6%
Natural sciences
70.5%
70.0%
71.4%
66.9%
68.8%
77.0%
74.7%
Korea, Netherlands
Republic of
63.9%
49.8%
72.0%
Norway
Portugal
United
States
42.3%
Argentina
Brazil
China
Malaysia
Mexico
South Africa
Averege
50.2%
United
Kingdom
64.8%
Average
81.5%
61.6%
51.6%
45.3%
39.5%
40.0%
38.9%
49.5%
42.7%
85.5%
56.5%
70.3%
50.4%
70.7%
60.7%
51.9%
53.0%
52.1%
46.8%
48.3%
51.8%
66.2%
Figure 4= 理系(自然科学・工学・技術・医学)の研究志向(71%;52%)
>文系(人文科学・社会科学)の研究志向(62%;43%)
→この傾向は南アフリカ以外すべての国に認められる。
→日本(74.7%;66.6%)
→理系は国際的に研究志向が優勢
したがって、理系の教員は高い学問的生産性、とくに研究生産性を示
し、世界大学ランキングを容易に受容する風土を形成しているのでは
ないか?
9
10
Figure 6 Types of research activities (%)
Figure 5 Character of primary research (%)
90
80
100
70
80
60
60
50
40
40
30
20
20
10
0
0
Basic/theoretical
CA
58
US
50
FI
58
DE
56
IT
58
NL
57
NO
69
PT
43
UK
56
AU
52
JP
66
KR
62
HK
58
Average
57
AR
49
BR
55
MX
55
ZA
50
CH
78
MY
65
Average
59
Preparing experiments, inquiries etc.
CA
61
US
42
FI
58
DE
59
IT
55
NL
37
NO
52
PT
37
UK
31
AU
38
JP
62
KR
61
HK
39
Total
49
AR
47
BR
40
MX
39
ZA
17
CH
36
MY
45
Total
37
Applied/practically-oriented
68
68
65
72
60
65
59
69
66
77
69
74
72
68
62
74
69
75
86
73
73
Conducting experiments, inquiries etc.
63
0
51
54
53
34
43
35
28
36
70
71
43
45
46
40
39
19
44
49
40
Commercially-oriented/intended for technology transfer
13
15
19
21
16
13
13
18
16
19
22
19
11
17
17
17
18
22
50
38
27
Supervising a research team or graduate research assistants
61
41
40
49
61
30
39
25
27
39
46
54
53
43
26
28
28
31
21
45
30
Writing academic papers that contain research results or findings
81
67
66
75
80
45
79
54
51
66
81
88
79
70
72
64
55
59
56
66
62
Socially-oriented/intended for the betterment of society
52
54
34
34
33
46
31
45
46
61
31
35
50
42
47
58
55
66
63
58
58
Involved in the process of technology transfer
17
13
26
17
15
8
12
12
11
14
13
13
12
14
22
9
11
13
16
18
15
Answering calls for proposals or writing research grants
67
50
52
55
70
32
74
23
39
50
69
90
63
56
53
42
31
33
54
55
45
Managing research contracts and budgets
58
30
31
44
43
13
37
19
25
37
45
65
52
38
18
22
18
18
13
39
21
Purchasing or selecting equipment and research supplies
52
32
39
43
58
10
34
29
23
30
68
46
42
39
33
29
33
16
23
46
30
No answer
13
23
17
15
4
50
11
37
44
29
6
0
16
20
16
29
38
28
21
19
25
Figure 5 :研究の性格=理論志向、応用・実践志向、商業志向
先進国と後発国の動向
Figure 6: 研究活動の類型→両グループはほぼ同等の比率
・応用/実践志向(68%; 73%)日本(69%)
・基礎/理論志向(57%; 59%)
日本(66%)
・社会・社会改良志向 (42%; 58%) 日本(31%)
・商業志向/技術移転志向(17%; 27%) 日本(22%)
→応用・実践志向は両グループで最高。
・研究結果や発見を含む論文を書くこと(70%; 64%)日本(81%)
・研究資金関係の論文(56%; 48%)日本(69%)
・実験・調査等の用意 (49%; 39%) 日本(62%)
・実験・調査等の実施(45%; 41%) 日本(70%)
・研究チームや研究助手の院生の監督(43%; 33%) 日本(46%)
11
155
12
Figure 8 Your research activities reinforce your teaching
83
83
74
70
73
83
71
76
79
75
79
85
73
77
78
81
83
65
70
69
74
Figure 8: 研究活動は教育活動を強化する
Figure 7: 出版形態→先進国が後発国よりも全項目で肯定的回答
先進国と後発国の平均値の相違は少ない(77%;74%)
→しかし、肯定度が高いことは、研究が教育に貢献することを示唆
→その度合いが高い国:韓国、カナダ、イタリア、ノルウェー、メキシコ、ブ
ラジル→日本(79%)も平均値より高い
→その度合いが低い国:南アフリカ、マレーシア、中国、フィンランド
・ピアレビュー(82%; 65%)日本(62%)
・所属機関と同じ国の同僚と共著(77%; 71%)日本(77%)
・外国での出版(58%; 46%)日本(42%)
・所属機関の使用言語とは違う言語で出版(56%; 43%)日本(74%)
→ピアレビューが全国目の中で最高の比率
13
14
Figure 9:国別研究出力→ 両グループの比較
•
•
•
•
•
先進国で顕著に
著書・学術誌の論文”(70%; 54%)
多い割合
学会での発表論文 (66%; 55%)
補助金プロジェクトの研究報告/ モノグラフ(37%; 33%)
新聞や雑誌の専門的論文 (27%; 23%)
単著・共著による著書 (27%; 22%)
15
16
(1) 国別著書・学術誌の論文
Figure 10 Articles published in an academic book or journal by
country (academic mean)
10.6
9.5
9.2
8.6
8.2
7.7
7.2
7.1
6.3
6.2
5.7
5.5
7.3
5.2
5
4.3
KR
HK
JP
IT
DE
NL
AU
UK
CA
NO
PT
FI
US
Total
CH
MY
4.4
BR
4.4
3.8
AR
3
3
MX
ZA
How about the amount of publication between two generations?
Total
Figure 11: 年配と若手の比較
Figure 10:国別著書・学術誌の論文
→先進国が後発国より論文数が多い( 7.2; 4.7)
7カ国は平均以上の研究生産性を示している:
・先進国= Korea, Hong Kong, Japan, Italy, Germany, and the Netherlands
・後発国=China
・先進国の年配と若手 (11.1;5.8) 日本(13.7;11.9)
・後発国の年配と若手 (6.3;3.4).
→先進国の年配における高い生産性: Korea, Germany, Australia, Japan and the
Netherlands
→先進国の若手における高い生産性:Japan, Korea, Italy, the Netherlands and Italy.
→年配者と若手の両方で高い生産性: Korea, Japan, and the Netherlands.
18
17
156
1. 研究パラダイムの支配→変化はその範囲内の部分的な現象
• (1) 研究志向の理由は何か
• 議論を踏まえると、2つの問題がある。
2.3類型が実在した事実→それでは、それらはなぜ15年間に変化したのか?
・ドイツ型=研究志向の圧力が持続
・アングロサクソン型やラテンアメリカ型=研究志向型への圧力が作用
・例外(アメリカ、メキシコなど)=教育志向への圧力が作用
→各国に固有な圧力が作用
研究志向の理由は何か ?
なぜ過去15年年間に教育志向が減少し、研究志向が増加したのか?
3.イギリスの事例:1990年代は研究と教育半々志向→2000年代
は研究志向
• 日本の事例研究
4.ラテンアメリカ(メキシコ以外):教育志向から研究志向へ変化
1.研究志向の伝統的風土
5.世界的に知識経済社会が大学市場を一元化する動き
→知識共同体から知識企業体への転換
2.高等教育政策との関係
3.大学教員の葛藤招来
20
6.米国は例外か→教育志向を強化→なぜか?
19
• 1.教育志向の長い伝統=中世以来の教養教育志向
• = Oxford and Cambridge were the most famous teaching universities
(Tapper and Palfreyman, 2011).
• 2.スカラーシップ再考( Ernest Boyer)
• =a concept of teaching to be located above research, and leading a
movement of reform for scholarship since the 1990s (Boyer, 1990).
・研究と教育の両立性に関する質問(CAP調査のみ)=
1992との比較不可
・研究と教育の両立から研究と教育の分化が過去15年間
に出現
• 3. Carnegie classification=約200 大学
research universities and the
rests are non-research, or teaching, institutions (Carnegie Council,
1976, Amano, 1984).
CAP調査で “teaching and research are hardly
compatible with each other”に賛成した教員は先
進国で 25%、後発国で 20% (Figure 12).
→日本は51%(最悪)
• 4.CAP調査のサンプリング
21
22
フンボルト理念は世界中のシステムにおいて存在し難い
日本における両立は最も困難
研究・教育・学習の統合は可能か?
日本???
23
24
157
(4)なぜ世界の大学教員は、過去15年間に、教育志向を減退
して研究志向を強化する方向に動いたのか?
・理由の一つ:大学ランキングの登場と関係。大学ランキ
ングのメカニズムはアメリカで開始され、グローバル化、市
場化、知識社会と呼応して、ほとんど世界中に拡大
(1) 学事の中で研究と教育は車の車輪。
• 二つの機能は必然的に葛藤を生じるので、両者の意図的、体
系的な連携は不可欠。
• 両者の連携を目指すフンボルト理念は近代大学において実現
すべき目的である。
(2)研究と教育の価値の統合は大学教員の意識に種々の類型がみ
られるという現実を踏まえると、きわめて困難である。
(5)教育と研究の両立はアメリカで辛うじて実現
・アメリカ:分化と統合を同時に行うシステムを世界最初
に制度化した。
(6) 多くの国で研究志向増大の動き
→今後は両立性の実現が乏しくなるとみなすのが現実的
( 3) 研究志向の増大にはいくつかの傾向。
・スカラーシップは純粋科学から応用科学へ移行中
・理系は世界的に研究志向に先行し、大学教員の意識は理系
の文化、風土、雰囲気へ収斂中
25
26
• ご清聴を感謝します
27
158
学生対応ワークショップ報告
教育推進部門長
阿部公輝
今日の大衆化した大学では、志向、能力、環境の異なる多様な学生が入学してくる。自立を
最大の発達課題とする青年期にあり、卒業後組織化管理化された社会へ進路を定めていくこと
になる彼らには、修学・進路(学業、就職)、心理・性格(適応問題、自己理解、アイデンティ
ティ)、対人関係(友人、異性、家族、研究室)、心身の健康、学生生活(経済問題、事故、課
外活動)など、さまざまな課題がある。
このような学生の学びの支援は多面的にならざるを得ない。教職員は、それぞれの持ち場で
の援助はもとより、他の教職員との協働、心理職や医師との連携が必要となる。
昨年度は、大学教育センターにより、心理職専門家による講演会が、また、保健管理センタ
ーにより、学生相談の初期対応のための講習会が開催された。今年度も学生の発達への支援や
連携に関する講演会が開催される。今年度はさらに、双方向の学びを通して学内のリソースが
つながり、学生の学びの支援がいっそう充実することを目指し、下記のように3回にわたるワ
ークショップを企画した。開催した各回のワークショップについては、後で報告する。
なお、ワークショップでは参加者・講師の間の相互交流を重視するため、参加は予約制とし、
一般参加定員は各回20名とした。
------------------------------------------------------------日時:第1回 平成23年10月28日(金)16時~18時
第2回 平成23年11月24日(木)16時~18時
第3回 平成23年12月16日(金)16時~18時
主催:大学教育センター、学生支援センター
共催:保健管理センター
場所:第1回、第2回
第3回
西 9 号棟 335 室(AV ホール)
東3号館 301 室 (マルチメディアホール)
内容・講師:
本学で学生相談にあたってこられた3人のカウンセラーに各回1人ずつ事例を提供していた
だき、スーパバイザーの指導のもと、ファシリテーターの進行で、実際の例を通して学生の発
達への支援の考え方、方法、連携のあり方等について学ぶ。
スーパバイザー
第1回、第2回、第3回:佐藤誠氏(元日本大学文理学部心理学科教授)
ファシリテーター
第1回、第2回、第3回:阿部愛子氏(臨床心理士)
事例提供者
第1回:工藤明人氏(臨床心理士・精神保健福祉士)
159
第2回:上田将史氏(臨床心理士・精神保健福祉士)
第3回:東海林則子氏(臨床心理士)
講師略歴
佐藤誠氏
1932 年生まれ。日本大学大学院文学研究科心理学専攻博士課程、東京大学医学部精神神経
科研究生修了。日本大学文理学部心理学科教授として、同大学本部学生相談室設立を主導
された。調布市にお住まいで、調布市教育相談室講師も務められた。著書「カウンセリン
グ辞典」
(共著、誠信書房)、
「学校問題ケースブック」
(共著、第二東京弁護士会)など多数。
阿部愛子氏
1950 年生まれ。日本大学大学院文学研究科心理学専攻博士前期課程修了、臨床心理士。東
京都教育相談センターアドバイザリースタッフ、東京都スクールカウンセラー。著書論文
「続電話相談の実際各論編」
(共著、双文社)、
「成人期の知的障害の子どもをもつ親の心理
変容」(教育臨床心理研究)など。
160
学生対応ワークショップ第1回
実施日時
平成23年10月28日(金)16時~18時
場所
西9号館335号室(AV ホール)
参加者
37名
一般参加:25名
招聘:学長、監事、学生支援センター長、保健管理センター精神科医
講師:佐藤誠氏、阿部愛子氏、工藤明人氏(本学学生相談カウンセラー)
コーディネータ:大学教育センター副センター長
教務課:4名
------------------------------------------------------------青年期の発達段階において、大学という環境で困難
に向き合っている学生を教職員はどのように支援して
いったらよいか、具体的な事例を基にご指導いただい
た。彼・彼女の人生は、ほかの誰のでもない彼・彼女
のものであること、支援は開かれているチャネルを見
出しそれを通じてということ、支援は連携なしに困難
であること、そのためには組織の整備が必要であるこ
と等々、たくさんの学びが得られた。また、初めての
試みの第1回ではあったが、組織の中で支援に関わる
人と人とが互いに知り合うという目標も、ある程度達
成できたと思う。
ワークショップ形式のため一般参加定員20名とし
たが、定員を超える申込みがあり、やむを得ずお断り
した方には次回参加をお願いした。
161
学生対応ワークショップ第2回
実施日時
平成23年11月24日(木)16時~18時
場所
西9号館335号室(AV ホール)
参加者
24名
一般参加:14名(監事を含む)
招聘:大学教育センター長、学生支援センター長、保健管理センター長
講師:佐藤誠氏、阿部愛子氏、上田将史氏(本学学生相談カウンセラー)
コーディネータ:大学教育センター副センター長
教務課:3名
-------------------------------------------------------------
上田先生の事例報告からは、先生が学生にとても丁寧に接してくださっていることがよく分
かった。阿部先生は事例を基に、参加の皆さんがお持
ちのさまざまな思いや疑問を引き出し、議論を導いて
下さった。佐藤先生のご指導で、参加者は次のような
貴重な知見をいただいた。
1)学生をラベルづけするのではなく、どんな学生
に対しても、彼/彼女のプラスのところが発揮
できるよう、丁寧に対応する。
2)学生は、教職員から優しいことばをかけられる
と、自分のことを気にしてくれる人が大学にもいると嬉しく思い、力が出せる。教職員
は、意識して日常的にこのように学生に接するとよい。
3)教員一人で抱え込まず、カウンセラーや精神科医と相談しながら対応する。そのために
直通電話(ホットライン)なども利用するとよい。
4)SST(Social Skill Training)など、社会を視野に入れた支援についてもご紹介いただいた。
参加の先生からは、
「学生を仲間として見る…」とのご発言があった。学生たちと対等な人間と
して向き合うことにより、私たち自身も成長でき、よ
り良く役割を果たせるとの思いを新たにした。
162
学生対応ワークショップ第3回
実施日時
平成23年12月16日(金)16時~18時
場所
東3号館301号室(マルチメディアホール)
参加者
27名
一般参加:16名
招聘:大学教育センター長、学生支援センター長、保健管理センター長
講師:佐藤誠氏、阿部愛子氏、東海林則子氏(本学学生相談カウンセラー)
コーディネータ:大学教育センター副センター長
教務課:4名
-------------------------------------------------------------
学生が開けているチャネルに敏感に応じ、そこを通して信頼関係を作ること、不登校学生に
対するアウトリーチ、支援に必須な連携、当事者中心の
情報共有などについて議論した。
3回のワークショップを通して、佐藤誠先生と阿部愛
子先生には、熟達した心理臨床家の立場から懇切なご指
導をいただいた。具体的事例を通して、教職員がふだん
感じている問題を多面的にかつ深く考えることができ、
両先生を媒介に、教員、職員、カウンセラー、医師が互
いに親しく話し合うことができた。
参加者からは次のような感想をいただいている。
1) 専門家から具体的なお話しを聞き、質問ができ、アドバイスをいただけた。自分の考え
を言うことができたのもよかった。
2) 学内の教職員と顔を合わせて親しく話し合うことができ、お互いが感じていることが分
かった。学科をまたいでいろいろな方と知り合えたので、学生のことで相談しやすくな
ったと思う。
3) 困ったときに、専門家や学内のいろいろな
人に相談できると感じて心強く思った。
4) このようなワークショップを、年間を通じ
継続して開催して欲しい。
今後、学生の学びをよりよく支援していくために
は、連携の促進とともに、教職員への臨床心理的
側面からのいっそうの支援が望まれる。
163
基礎学力・基礎体力調査報告書について
共通教育部長 鈴木 勝
基礎学力・基礎体力調査報告書は、学部 1 年次の基礎学力・基礎体力の状況を理解し、教育
改善に利用するために、平成13年度から毎年度、全学教員に配布している報告書である。報
告書の調査・分析および編集は、平成21年度までは大学教育センター共通教育部門が担って
きたが、平成22年度は4月の教員組織の変更に伴い、共通教育部の数学部会、自然科学部会、
健康・スポーツ科学部会、総合文化部会(英語)が行った。調査報告の内容および分析の詳細
は報告書を参照して頂きたい。調査内容は、数学(1年次演習を含む)、理科(物理・化学)、
英語および基礎体力である。ここでは、平成23年度の報告書の注目すべき点について簡単に
ふれる。
平成23年度は電気通信学部7学科から情報理工学部4学科・1課程へと改組され、これに
ともない入学試験の科目・配点等が変更された。昼間コースの入試では数学が入試配点で重視
され、また前期個別入学試験では理科では物理・化学の2科目の出題から物理または化学の1
科目の選択となった。一方、後期個別入学試験では入試配点は変更されているが、物理および
化学の2科目を課すことに変更はない。また、夜間主コースはこれまでの学科別から、AO入
試による先端工学基礎課程のみの1課程と変更となり、入学定員も180名から100名と削
減されている。本年度は3月の東日本大震災によって昼間コース後期日程試験が中止となり、
大学入試センター試験のみで選抜を実施した。この状況が新入生にどのような影響を与え、ま
た、それに対応する教育に求められていることを明らかにすることは重要である。
ここでは昼間コースの理科(物理・化学)について調査結果の一部を表1に示した。理科基
礎学力調査は4月時点で行っており前期日程と後期日程では理科の試験科目が異なる。本年度
は後期日程試験が中止となったにもかかわらず、前期日程と比較して後期日程の合格者の平均
点に大きな差がある。また、その傾向は平成22年度と大差はない。これは、前期日程と後期
日程では受験者の母集団が明らかに異なることを意味する結果である。
基礎学力・基礎体力調査に求められていることは、調査の分析に基づき入学する学生の学力
等を理解して教育改善を行うことである。本年度から学部 1 年次は12クラス編成となり大学
での学習状況を、調査結果と関係づけて理解することが可能となった。大学での学習状況を理
解することで、さらなる教育改善につなげることが今後の課題である。
表1.平成 23、22 年昼間コース理科基礎学力調査結果による平均点.
平成 23 年度
平成 22 年度
前期
後期
前期
後期
基礎(13 点満点)
5.89
6.79
5.97
6.74
物理(26 点満点)
14.6
15.9
13.9
16.1
化学(24 点満点)
14.4
16.1
14.7
15.8
(調査は基礎・物理・化学の3分野全てについて昼間コース全新入生を対象とした.)
164
技術英語FD講演会報告
大学教育センター長
田中 勝己
本学情報理工学研究科では「大学院技術英語」を必修科目として開講し、学部では平成
24年度より全学科において3年次前後期に必修の「技術英語」を開講予定である。この
ような背景で他大学、大学院において技術英語を担当しておられる教員を講師として招聘
し、大学教育センター主催とするFD講演会を開催した。以下に概略を記す。
*:実施日時 平成23年
*:場
6月20日(月) 13時30分~16時00分
所 東3号館301室 マルチメディアホール
*講演者及び講演題目
○津山工業高等専門学校 一般科目(英語)准教授 Eric Rambo 氏
'Teaching intermediate and advanced Technical English at
Tsuyama National College of Technology'
○筑波大学情報学群・法政大学情報科学部非常勤講師 時國滋夫氏
「技術英語の事例紹介と今後への提言(ESP を踏まえて)
」
*講演内容
Eric Rambo 先生には津山工業高等専門学校で作成した技術英語の教科書の内容紹介
とともに、どのように講義を進めているか、その実践例が説明された。教科書の内容が
一例としてエレクトロニクス分野などが扱われていることから、理系専門分野の教員の
参加が不可欠という認識が得られた。
時國先生には、筑波大学情報学群の修士課程ならびに法政大学情報科学部3年生対象
に行われている技術英語の実践例を紹介して頂き、講義の進め方と内容に工夫が必要で
あること、その具体例を提示して頂いた。博士課程のTAの協力など、きめ細かい補助
が講義の実質化には必要であることが再認識された。
*成果
教職員32名、学部生1名の33名の参加者があった。2名の講師の先生から実践に
基づいた充実した内容の講演が行われ、内容について活発な議論、討論が行われた。本
学情報理工学部3年次に来年度より開講される「技術英語」の内容、講義実践例につい
て共通の認識が得られたと考えられる。
165
講演の概略
1. 講師略歴
2. 2大学の情報科学系学科での英語教育
3. 事例紹介(すべて専門英語)
技術英語の事例紹介と
今後への提言(ESPを踏まえて)
•
•
筑波大学
法政大学
技術英語(2年生)とテクライト(大学院)
科学英語(2年生)とテクライト(3年生)
4. 今後への提言
筑波大学情報学群
法政大学情報科学部非常勤講師
時國滋夫
•
•
•
•
[email protected]
理工系英語教育の目的と目標レベル
何を教えるか(ESPの考え方)
さまざまな連携(同一科目間、異科目間、英語-専門間)
自律的英語学習者の育成
1
2
事例紹介1
筑波大学情報科学類の英語教育
1年生
教養英語
2年生
専門英語
英語基礎・
異文化と英語・
総合英語
Math for CS
週3回×3学期
必修
週1回×1学期
選択
専門英語
技術英語I
週1回(2コマ)
×1学期
選択
3年生
専門英語
技術英語II
集中・少人数
選択
4年生
専門英語
専門語学I,II,III
集中・少人数・
卒論関連
必修
対象学生
筑波大学2年生、選択、50人、レベル分けなし、修士課程TA一人
回数
週1回、2コマ連続、1学期(11回)
内容
・第1コマ:座学 科学技術分野で必要な英語力の基礎を固める。
科学技術分野での頻出単語を知る
特に注意が必要な文法事項を確認する
この分野特有の英語文書に触れる
この分野特有の英語短文の書き方を覚える
この分野の英語短文を音で聞き取る
身近なテーマでの2分間の会話をペアで行う
自分の趣味や興味ある事柄について英語で2分間発表する
電子辞書の使い方や発音記号についても触れる
・第2コマ: e-learning(アルク教育社の「IT時代の技術英語」)
で、語彙学習と短文ライティングを行い、同時に音読をさせる。
教科書
私家版テキスト、NHKラジオ講座テキスト『実践ビジネス英語』
3
4
事例紹介2
事例紹介1の続き
科学技術分野
での頻出単語
・加減乗除
・基本的な単語(面積、体積、変数、表、図)
・少しだけ難しい単語(性能、引数、誤差、振幅、分布、仕様、特性)
特に注意が必
要な文法事項
・可算名詞と不可算名詞
・冠詞(a, an, the)
・句動詞(look after, look for, look out)
対象学生
筑波大学大学院生、選択、15人(プレゼン)、50人(一冊読む)
博士課程TA一人
回数
週1回、1学期(10回)
内容
隔年で、プレゼンテーションと科学技術系英書購読を行う。
・プレゼンテーション
一般トピック(英語2分)、失敗事例(日本語2分、英語2分)、卒論
または修論(日本語5分、英語5分)
プレゼンを内容面、言語面、非言語面からとらえる。
場数を踏むことと、全体構成を練ること。
・科学技術系英書を一冊読み終える。
・関係代名詞の制限用法と非制限用法
・仮定法過去と仮定法過去完了
この分野特有
の英語文書
・取扱説明書
・エラーメッセージ
・研究論文
この分野特有
の英語短文の
書き方
「そのレバーを反時計回りに回してください。」
「この章では、Javaを利用してプログラムを書くことを説明します。」
一週間で15ページを読んできて、質疑応答する。時間に余裕が
あれば、取説、電子メールを書いたり、語彙、文法の復習を行う
教科書
5
Cryptography, Oxford, 2002
6
166
1
法政大学情報科学部の英語教育
事例紹介3
1年生
対象学生
法政大学3年生、必修、20人、レベル分けあり
回数
週1回、通年(15回×2学期)
内容
・科学技術文書を書くときの基本
・英語で書くときの決まり
・実際に英語で書く・話す演習
・取扱説明書
・電子メール
・プレゼンテーション(英語2分、日本語3分、英語3分)
・日本語と英語の特許文書を読む
・技術的内容について150ワード程度の英語要約文
教科書
『科学技術系の現場で役立つ英文の書き方』、講談社、2007
2年生
3年生
教養英語
英語理解
週1回×通年
必修
教養英語
英語表現
週1回×通年
必修
教養英語
時事英語
週1回×通年
必修
専門英語
科学英語
週1回×通年
必修
専門英語
テクニカル
ライティング
週1回×通年
必修
7
8
事例から見えてくる課題
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
事例から見えてくる課題の続き
4年間英語に触れ続ける(必修を増やす)
単年度に加え、4年間を通しての目標設定
大学院生にこそ英語教育を
(科学技術)専門の先生方の協力を請う
学生の英語へのやる気を高める
教養の英語では、高校までの英語を完全にする
e-learningの活用(特に語彙学習)
少人数のクラス編成(20人以下)
レベル分けの実施
10. TAを配置する
11. 英語の本を一冊読み切る
12. 音読は大学生にも必要
13. プレゼンは大学院の授業で
14. できるだけ英語を聞き喋る機会を
9
10
何を教えるか(ESPの考え方)
理工系英語教育の目的と目標レベル
z 何のために英語を教えるか?
z 卒業時にはどのレベルに達してほしいか?
z 英語のレベルをどう測るか?
z どのような観点から教える内容を決めるか?
z 理工系で総花的に英語を教えるか?
z 焦点を絞るなら何を教えるか?
私の考え方
‡ 人生を豊かにするため
‡ 知りたいことを英語で学ぶための基礎固め
‡ 英検準一級、TOEIC730点程度
私の考え方
‡ ニーズ分析・ジャンル分析が必要(ESP)
‡ 現場では英語総合力の勝負になる
‡ 英語力の構成要素を認識する
11
12
167
2
さまざまな連携
英語力の構成要素
z 目的と目標を達成するために連携が必要か?
z どのような連携?
4技能
・科学技術文書を英語で読む、書く
・継続的に少しでも英語を聞く、話す
文法
同一英語科目間の連携
異なる英語科目間の連携
(科学技術)専門の先生方との連携
語彙
私の考え方
‡ 英語教師間での定期的な話合いの場を作る
‡ (科学技術)専門の先生とも話す
間違えやすいところを 1.高頻度語
中心に
2.学術用語
3.専門用語
13
14
自律的英語学習者を育てる
参考文献1(英語全般)
z 英語の知識を教えればいいのか?
z 英語の学び方を教えるか?
‡ 田崎清忠編集(1995).『現代英語教授法総覧』
大修館 (¥3,780)
私の考え方
‡ 英語力の構成を伝える
‡ 必要な英語技能を獲得する手順を教える
‡ 教師が教えるのではなく、学生が英語を
使い、気づくことをうながす
‡ 小池生夫編集(2003).『応用言語学事典』
研究社 (¥11,550)
‡ 『英語教育』大修館 (¥800)
15
16
参考文献2(ESP)
参考文献3(語彙)
‡ Dudley-Evans, T. and St John, M. J.(1998).
Developments in English for Specific
Purposes. Cambridge. Cambridge University
Press
‡ 大学英語教育学会基本語改訂委員会編(2003).
『大学英語教育学会基本語リスト』大学英語教育学会
(¥800)
‡ 深山晶子編集(2000).『ESPの理論と実践』三修社
(¥3,465)
‡ 望月正道・相澤一美・投野由起夫(2003).
『英語語彙の指導マニュアル』大修館 (¥2,100)
‡ 福井希一・野口ジュディー・渡辺紀子編著(2009).
『ESP的バイリンガルを目指して』大阪大学出版会
(¥2,415)
‡ 相澤一美・望月正道編著(2010).
『英語語彙指導の実践アイディア集』大修館
(¥2,520)
17
18
168
3
平成 23 年度 英語 FD 活動 報告書
報告者: 総合文化部会 英語教室 FD 委員会
佐藤美弥子
I. 講演会
講師:
マーク・ピーターセン教授(明治大学 政治経済学部)
演題:
科学技術分野の英語論文を良くするために
日時:
平成 23 年 11 月 2 日(水) 午後 3 時~5 時
会場:
東 3 号館 301 号室
出席者数:192 人(教職員 47 人、院生 104 人、学部生 38 人、他大学からの参加者 3 人)
『日本人の英語』
『続 日本人の英語』
(岩波新書)をはじめとする多くの著書で一貫して、日
本人のための英語習得法を説き続けてきた講師マーク・ピーターセン教授は、一方で Japanese
Journal of Applied Physics (JJAP) 等の掲載論文の添削に精通し、応用物理学会では年に二回
「英語論文の書き方」講座を担当する実績の持ち主である。そのピーターセン教授が、電通大
有志の英語論文三編を添削した上で、行なった電気通信大学「特別」講演であった。以下、そ
の概要を記す。
講演概要
「正確さ」が必須である科学論文を執筆する際に、日本人が留意すべき点七つに聴衆の注意
を喚起することから講演は始まった。
169
これら「要注意七項目」は有志論文の「要約」を添削する際に詳述される運びとなっており、
論文の読者が最初に目にする、ゆえに極めて重要な、
「表題」が、いの一番に取り上げられた。
「表題」に盛り込みたい情報を効果的に提
示するには、どのような工夫が必要か、ピ
ーターセン教授は左の一例を解説した後、
電通大有志三名の「表題」の改訂案を、下
のように、示し、解説を加えた。
次に、有志論文三編の「要約」を一件ずつ論評した。そのうちの一件のみを紹介する。
170
ここでは、
「要注意七項目」の「1. 冠詞と数 a (an), the, 無冠詞;単数形・複数形」について、
この「要約」中の具体例を踏まえ、更に、より解りやすい以下の例を使って、解説がなされた。
他二件の「要約」の論評では、実例に基づき、
「要注意七項目」の 2. から 7. 迄が論じられ、
更に、読者(即ち、同じ分野の専門家)に提供する情報の選定を誤ると由々しい結果を招くこ
と、論文で使用する英語と口語表現の違い、stop や estimate 等の語についても詳しい説明が
加えられた。
約一時間半の講演の後、質疑応答に入ったが、相次ぐ質問と、それに続く熱気を帯びた議論
は、電通大聴衆が今回提供された情報に飢えていることを物語っていた。出席者数が、記録に
含まれない遅参者を加えると、優に 200 人を超えるという大盛況を本講演会が博したのは、需
要と供給とが一致したからに他ならない。
講演会終了後に回収したアンケート用紙には、
「論理的な説明に大いに敬服した」
「大変わか
りやすく納得のいく説明で、とても参考になった」
「ぜひ第2回目の講演会をお願いしたい」等
の感想が記されていた。
最後に、講演会後に寄せられたメールから、その一部を引用し、この報告書の締め括りとす
る。
171
(1)先日の講演会は盛況でしたね。大勢の聴衆が集まり、ビックリでした。それだけ英語表
現に悩んでいる人が多いということですね。冠詞の有無については私も分からないことが
多く悩みます。冠詞に関する発想のもとを知りたいです。言葉ですから数学のように体系
的説明はつかないでしょうが、なにか根本原理はありませんかね。まずはお礼まで。
(2)本日の FD、学生のみならず小生にも大変ためになりました。ほんとうにありがとうご
ざいます。技術英語がスタートして2年、まだまだ手探りですが、何とか学生さんたちに
は国際的な技術者の卵としての素養を少しでも早く身につけさせてあげたいとの願いは、
英語の先生方も同じであると感じました。いろいろな科学英語の授業のパターンがありま
すが、すべて大変参考になる故、ぜひこれからも今回のように良いかたをお呼びになると
同時に、より良い授業に向けてお話等できればと思います。*お化け探し。これ私も大変
重要だと思います。これは学生の英語のレベルに関係なく、やればできることですし、プ
ルーフリーディングする上でも大変大変負荷が減ります。
(3)先日はピーターセン先生を呼んで頂き、ありがとうございました。
本日の研究室ゼミで、先日の講義が話題となり、学生がおもしろい反応をしたのでお知
らせします。
まず、4年生の印象は、単数、複数や冠詞の使い方で文章の意味が大きく変わることを
はっきり指摘され、これまで漠然と適当につければよいと思っていたのが、そうではない
と分かった、という意見が多数から出ました。
一方、良くできる学生の反応は別で、東大の大学院に進学する学生は、ピーターセン先
生の本を3冊、それまでに読んでいたそうで、講義そのものはその内容の確認なので、自
分としては再確認だったと言います。
私が Countable と Uncountable をきちんと記している辞書は、オックスフォード現代
英英辞典だと云ったところ、彼に訂正されて、いまでは多くの英和辞書に C と U の区
別が書かれているそうです。時代は変わったのです、と教えられました。
また、修士2年生の反応は別で、彼らの中には、英語論文を書かないといけない、また
は書いた経験がある学生がいます。そのような学生は、今回の説明は大変役に立つという
反応です。
一方、英語論文を書くつもりがない学生は切実感がないので、それほど身近に感じませ
ん。
両者とも、英語が意外と理屈っぽい言葉だと云うことに驚いていましたが、その受け止
め方は正反対といえるかも知れません。
いずれにしても、研究室の学生には結構大きな印象を与えたようです。ありがとうござ
いました。今後とも頑張って下さい。簡単な報告まで。
172
II. FD ワークショップ
英語教室は、平成 23 年度 FD 企画として、I の講演会に加え、ワークショップも
従来通り開催する予定であり、以下が、その主旨と行程である。
主旨: ジャンル論に基づく英語教授法の一・二年次必修科目での徹底
日時: 2012 年 3 月 6 日(火)午前 9 時半~午後 12 時半
会場: 東一号館 705 会議室
行程: 9 時半~10 時 講演
主任「電通大カリキュラムにおける英語教育の役割」
10 時~10 時半
発表 I(20 分間の発表と 10 分間の質疑応答)
10 時半~11 時
発表 II(同上)
11 時~11 時 15 分 休憩
11 時 15 分~11 時 45 分
発表 III(同上)
11 時 45 分~12 時半
全体討論
173
電気通信大学FDセミナー活動報告
―
理数系共通教育報告会
―
共通教育部
伊東裕也・吉田博・鈴木勝
教育推進部門
中村仁・阿部公輝
昨年度の改組に伴い,1年次の理数系基礎科目では全学共通教育が実施されている.また、
入学試験科目が変更され(前期入試は理科1科目、後期入試は理科2科目)、受験者層が従来と
変化している可能性がある。学生の学力調査は、従来より入学時の基礎学力とその後の学習到
達状況・単位修得状況などの調査を実施しており、その結果は調査書としてまとめられている。
しかしその報告会は原則として科目や分野などを同じにする部会単位で開催されているため、
理数系基礎科目を担当している教職員間で共通認識を議論する場とはなっていない。そこで今
回、数学・情報・物理の各分野から、これら基礎科目の実施状況・成績などと,入学直後に実
施されている基礎学力調査との関連などに関して報告し,現在の共通教育の効果と課題ににつ
いて議論する場を設ける目的で、FDセミナーを以下の通り開催した。報告順に内容を簡単に
まとめる。
FDセミナー
理数系共通教育報告会(大学教育センター教育推進部門、共通教育部共催)
日時:5月10日(火)16:20~17:50
場所:総合研究棟3階マルチメディアホール(301)
報告内容のまとめ(報告順、敬称略)
【物理】報告者:中村仁(自然科学部会物理)
1年次物理系基礎科目(科目、担当教員、内容など)、H22年度入学者の理科履修状況、理
科基礎学力調査、1年次物理系基礎科目の成績と基礎科学力調査との相関などについて報告さ
れた。
理科基礎学力調査の結果、入学時の物理知識は,理科1科目の前期入試により大きくばらつ
くが高等学校での物理Ⅱの履修率は顕著に低下していない.更に、理科基礎学力調査の成績の
低い学生は、1年次物理基礎科目の成績が高い傾向にある。これは現在の物理系基礎科目が教
養的な内容となっており、入学前の物理Ⅱ履修の経験と学習意欲によるものと考えられる。逆
174
に、入学時の理科基礎学力調査で中間層の学生に、1年次物理系基礎科目の成績不振学生の割
合が高く、問題である。特に基礎科学実験Aと基礎学力調査との相関は弱く、物理基礎知識と
共に実験実施能力・レポート作成能力が求められていることが原因と考えられる。
H22年度から導入した統一試験、WebClassを利用した自習課題の提供、共通教科書による学
習内容の統一と、伝統的な板書型・クリッカー利用など自由な授業形態などについて報告され
た。自習課題として、単位修得のための学習到達度を示したことで、クラス間の成績分布に顕
著な差は見られなかった。
【数学】報告者:伊東裕也(共通教育部数学部会)
1年次数学系基礎科目(科目、担当者、教科書の統一、K課程の状況など)、基礎学力調査(数
学基礎学力判定試験・数学基礎テスト)の結果・年次推移、統一試験の実施状況、成績基準の
統一化について報告された。昨年度の理科入試科目の変更の影響は、数学の基礎学力調査には
影響は見られていない。K課程学生の基礎学力分布は以前の夜間主学生の学力分布とは大きく
異なり、社会人コースとインターンシップコースで分けて対応する必要がある(後者は従来の
夜間主に近い)。
教育GPの取り組みの一環として、数学演習統一試験の回数を増やし、微積、線形の統一試
験として利用した。統一試験の素点には演習講義の実施方法に依存する面があり(試験対策に
特化した講義など)、成績にどの程度反映させるか議論が必要である。
成績基準に一応の基準を設けたことは、学科混成クラス間での成績分布の差が小さくなった
ことに結びついた。しかし、クラス間の成績分布に差があることに必然性は無く、基準の内容
に関しては更に議論が必要である。
【情報】報告者:吉田博(共通教育部情報部会)
1年次学生に対して実施されているコンピュータリテラシー(前期)
・基礎プログラミングお
よび演習(後期)について説明があった。Moodleを導入した講義形態の説明があった(サーバ・
ネットワークトラブルにより一部省略)。両科目の成績分布・相関が報告され、リテラシーの単
位を未修得で且つ基礎プログラミングの単位を修得している学生数が相当にいるなどの問題点
が、既に認識され今後の検討課題であることが報告された。
175
大学教育センター構成員一覧
平成23年度
センター長 (企画開発部門長)
副センター長(教育推進部門長)
副センター長(教育課程部門長)
◎大学教育センター企画開発会議
センター長 (企画開発部門長)
副センター長(教育推進部門長)
副センター長(教育課程部門長)
IE学部・研究科教育委員長
IS研究科教務委員長
大学教育センター構成員一覧
田
阿
鈴
中
部
木
勝
公
己
輝
勝
教
教
教
授
授
授
田
阿
鈴
本
末
阿
吉
中
部
木
城
廣
部
永
勝
公
己
輝
勝
彦
士
二
努
教
教
教
教
教
教
教
授(副学長(全学教育担当):S)
授(I)
授(S)
授(I)
授(MS)
授(S)
授(NS)
和
尚
浩
〔副学長(全学教育担当)〕
・企画開発部門
部門長
部門員
田 中 勝 己 教 授(S)
阿 部 公 輝 教 授(I)
安 藤 芳 晃 准教授(I)
桑 田 正 行 准教授(I)
西
一 樹 准教授(K)
小 池 卓 二 教 授(M)
阿 部 浩 二 教 授(S)
鈴 木
勝 教 授(S)
中 村
淳 准教授(S)
田 中 健 次 教 授(SS)
・教育推進部門
部門長
部門員
阿
椿
久
伊
桑
中
Shi
野
入
・教育課程部門
部門長
部門員
鈴
柏
沼
桑
中
森
樽
部
島
江
公 輝
美智子
雅 樹
裕 也
正 行
仁
Jie
琢 也
英 嗣
木
原
尾
田
野
重
井
勝
博
之
行
司
一
武
野
東
田
村
昭
雅
正
和
功
177
教 授(I)
准教授(J)
准教授(J)
准教授(I)
准教授(I)
准教授(S)
教 授(共)
准教授(MS)
准教授(NS)
教 授(S)=共通教育部長
准教授(J)
教 授(I)
准教授(I)
教 授(I)
准教授(M)
教 授(共)
大学教育センター年度報告書(平成23年度)
報告書作成、発行
電気通信大学 全学教育・学生支援機構大学教育センター
〒182-8585
東京都調布市調布ヶ丘1-5-1
Tel:(042)443-5075/Fax:(042)443-5080
URL:http//www.uec.ac.jp/
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