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大学教育研究 三重大学授業研究交流誌
2013,第 21 号,29-33 頁
ものとひととの関係を考える
-修理・リサイクルの実践を通して-
松本金矢*・川村涼**・高森裕貴**・守山紗弥加***
2010 年8月、文部科学省の指摘により小学校および中学校の
1.はじめに
三重大学教育学部技術教育講座では、小学校教員を目指す学
「教科又は教職に関する科目」の共通開設は認められなくなっ
生を対象に必修科目『技術と生活 A~E』を開設し、技術教育の
た。本学部の開設科目を点検したところ、小学校免許のための
教科専門担当教員および教科教育担当教員が、それぞれの専門
「教科又は教職に関する科目」は『技術と生活 A~E』だけであ
的立場から、小学校段階における技術・ものづくり教育に必要
り、他の授業はほとんどが中学校の科目との共通開設であった。
な内容を検討し実践してきた。本稿では、機械工学を専門とす
この問題を是正するためにカリキュラム改革が行われ、小学校
る著者が開講している修理とリサイクルをテーマとした授業
の「教科又は教職に関する科目」は卒業要件から外された。以
『技術と生活 B』について、内容を紹介するとともに、小学校
上より、2011 年度入学生から、
『技術と生活 A~E』を履修する
段階でのものとひととの関わりの重要性について考察しようと
必要がなくなってしまったが、果たしてこのような対応でよい
するものである。
のであろうかというのが本稿の問題提起である。
修理やリサイクルに関する授業研究としては、岩本ら 1)が、ミ
図1は日本産業技術教育学会が調査した世界の主要国におけ
シンを修理し発展途上国に贈呈するというボランティア活動が
る技術教育の実態である。これによれば、多くの国において小
工業高等専門学校の機械工学の学習に適していると述べている。
学校1年生から高等学校3年生までの12年間に亘り技術教育が
また上田 2)は、車椅子のリサイクル(修理)を取り入れた中学校
実施されている一方で、日本だけが中学校の3年間だけという
技術科の授業を通して生徒に環境アセスメントの視点を育成す
貧弱な教育しか実施されていないことがわかる。その内容も、
ることが可能であると報告している。また中里 3)は、女子大学生
週1時間程度というきわめて薄弱なものである。技術立国とし
を対象に木材製品の手入れ・点検に関する調査の結果から、木
て世界に認められ、ものづくりをリードしてきた日本で、なぜ
材製品の修理に関する教育の必要性を訴えている。これらの先
このように技術教育が蔑ろにされているのであろうか。
行研究では、修理・リサイクルを取り入れた授業の有効性が示
されているが、その根底にあるものとひととの関係の重要性に
ついては言及されていない。
本研究では、松本が授業を実践し、川村・高森は主に授業に
参加しながら学生の実習指導補助を行い、守山が授業観察を行
った。本稿では、授業の背景や位置づけ・内容については松本
がまとめ、幼児期におけるものとひととの関係を守山が、また
アンケートの実施と学生の学びを川村・高森が担当した。
2.ものとひととの関係を考える技術教育
2.1 『技術と生活 B』の位置づけ
1999 年度に教員免許法が改正され、本学部の教員養成課程で
は「小学校専門科目」8単位を必修とし、
「小学校の教科又は教
職に関する科目」10 単位を各講座の専門性に応じた授業として
図1 世界の技術教育の実施状況
新たに開設することとなった。技術教育コースでは、
「生活科」
(日本産業技術教育学会パンフレット(2006)より)
や「総合的な学習の時間」等を対象とした『技術と生活 A~E』
第二次世界大戦後、資源の少ない日本はエネルギーや素材を輸
を AⅠ類学生の必修科目に指定した。
*
入して加工しそれを輸出することで外貨を稼ぎ、現在のような
経済発展を遂げてきた。欧米諸国では、Made in Japan の工業
三重大学教育学部
製品に席巻される中で、自国の産業を守るために工業に力を入
** 三重大学大学院教育学研究科 2 年
れ技術教育の充実を図ってきた。また発展途上国でも、日本の
*** 三重大学高等教育創造開発センター
ような経済繁栄を目指して技術教育に力を入れている。しかし
- 29 -
松本金矢・川村 涼・高森裕貴・守山紗弥加
日本では、技術の恩恵を享受しながらもその存在を忘れ、技術
体感的に知り、ものへの親しみや関心が醸成されていく。
とはお金さえ出せばいつでも手に入るものとして、それを生み
ところが、それらにはあまり言及されないまま、学校教育段
育てる努力を疎かにしてきた結果、技術教育は衰退の一途を辿
階に移入し、学校教育の中では各々がどのようにものと向き合
り、子どもたちの技術離れが深刻な問題となっているのである。
い、どのような認識枠組みや志向性を持って選択し、それらを
このような現状から、小学校段階からものとひととの関わりに
もとにした制作を行っているのかについて考える機会はほぼな
ついて考える教育の必要性が高まってきていると考える。
いと言える。ましてや、それらを教育されたり、それに対する
2.2 ものとひととの関わりの捉え方
指導を受けたり、ものについて子どもたちが互いに議論を交わ
では先述のような危機意識はどのくらい広まっているのかと
し合う機会も用意されていない。技術教育においても、生徒が
言えば、ものとひととの関わりについて考察している先行研究
自分自身のものに向き合う姿勢やものの捉え方と出会い直す契
はかなり乏しく、まずこの状況こそが、驚くべきかつ嘆かれる
機を提供することが必要だと考える。その中で、実際に生徒が
事態である。この現状が物語る問題として、次の二点が挙げら
ものとどう向き合い、どのように対話しながら学習し生活して
れよう。一つは、人間生活における〈もの〉という存在の軽視
いるのかということを追究する必要があろう。少なくとも、そ
である。現代社会はこれだけものに溢れ、いわゆる不自由のな
れらを意識した上で、ものづくりや専門内容の学習を位置づけ
い環境にあるがゆえに、それら豊富なものそのものについて考
ることが重要である。
える機会が圧倒的に貧困である。私たちは多くのものの中から
その点で、子どもともの・ひと・ことの関係を重視する幼児
自己にある何かしらの基準によって、様々な「ある(ひとつの)
教育分野における捉え方が、ひとつの指針を示してくれると考
もの」を選択し、所有し、使用しているが、その自己の基準を
える。幼児教育では、物体や素材と直接的に関わる経験が多く
見つめたり、そのものの理解を深めたりという機会をはたして
用意され、そのことが重視されている。特に様々なものに触れ
充分に持っていると言えるだろうか。
る機会がある造形活動においては、素材・材料としてのものの
もう一つは、そういった問題にどのようにアプローチすれば
持つ多様性や応答性という側面と、ものという語が意味する範
よいのかという方法が見えにくいことである。それは単なる研
囲の広さとその機能、という二点に象徴される捉え方の特徴が
究方法の未開拓という問題にとどまらず、ものをどういった存
指摘できる。
在として扱うかという大きな提言を含むと言える。ものの消費
前者は、例えば粘土を用いた造形活動では、粘土の質感や量
と使用に関わって、橋本ら 4)はデザインの視点から人のものに対
感、粘土というものの持つ特性である可塑性や応答性が多様な
する愛着について考察している。また新垣 5)は、子どもがどのく
〈こと〉を生み出す、という見方である。
らいものと関わり、ものから何を学んでいるのかという、ひと
後者は、幼児にとってのものとは物体(素材、材料)のみを
とものとのインタラクションを発達研究として行っている。一
指すのではなく、生活の中にあるものすべてが造形材料である、
方、技術教育においては、森山ら 6)7)がものづくりの製作学習に
という捉え方である。自身を取り巻くあらゆるもの(環境)を
おける作品への愛着形成について言及し、その形成要因や情意
感じとり、その性質や仕組みなどを感覚的に認識していく活動
の育成について明らかにしている。しかし、その上での具体的
が、やがてものを集めたり組み合わせたりする楽しみにつなが
な学習指導方法や教材開発は今後の課題だとしている。つまり、
り、自身の感受したもの(素材、環境)からイメージに沿って
「もの(について考えること)は大事である」という認識は共
加工や創作を行う。ここでいう「環境」とは自然環境だけでな
通して存在しているが、それらが具体的取り組みや検討にはな
く、人的環境も含まれる。友だちや先生、家族との関係性がも
かなか結びついていない現状が浮かび上がっている。
のの扱い方や関わり方と密接に結びついており、また逆に、も
そこで本稿では、技術教育に触れる前段階として、幼児期に
のを介して仲間意識等を築いていくのである。
おけるものとひととの関係に着目し、とりわけその関わり方や
このように、ものづくりやものとかかわる活動においては、
捉え方から示唆を得たいと考える。
「形づくられたものだけでなく、それらがどのような状況や関
2.3 幼児期におけるものとの関係
係性の中でなされているかという関係論的な観点で捉えること
この時期のもの体験、ものと自分との関係は、自他未分化で
が重要」であり、松本
9)はそれを、幼児の造形活動における関
あることがひとつの特徴と言える。しかし、ただわけもわから
係論的活動モデルとして提唱している。もの・ひと・ことをそ
ずものに対峙しているわけではない。幼児(期)なりのものへ
れぞれ個別に扱うのではなく、それらの連関こそがそれぞれの
8)
育ちを促すという捉えは重要である。そのようなひとやことと
が述べているように、この時期にものとの直接的な関わり-も
の固有の結びつきの中でこそ、ものへの愛着やものを大事にす
のを触る、つかむ、積む、並べる、転がすなどの活動-を繰り
る心も育まれていく。そしてさらに、その連関におけるものの
返していく中で色や形にこだわりを持つようになり、その関わ
存在・役割の考察や、ものそのものについての学習や考究が、
りから得た様々な情報が蓄積されていくことで、ものの特性を
技術教育には当然求められるだろう。
のこだわりや好み、選択基準のようなものが存在する。花篤ら
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ものとひととの関係を考える
これらの視点は、本授業の観察を通して、学生たちの様子か
これらの中で、特に討論や実習活動などの課題を含む第2回、
ら見えてきたことと共通する部分も少なくない。実際の授業場
第4回、第6・7回、第 12~14 回および第 15 回の内容につい
面で見られた学生たちとものとの相互作用についての記述は、
て、学生の様子や発言内容を中心に、詳細に検討する。
第3章にゆずる。
3.2 授業の詳細
3.授業内容
【課題1】修理経験の共有
3.1 シラバス
受講生がこれまでに行った修理の経験を語り、討論するとい
『技術と生活 B』のシラバスを表1に示す。
う課題である。修理の経験を問われると、修理経験自体だけで
第1回は本授業のガイダンスであり、授業の目標や授業内容
なく、ものを修理しようとする気持ちも乏しいことに気づいて
を確認するとともに、生活科との関連について説明する。第2
いた。討論の中で、ものへの愛着、自分自身の知識や技術の不
回は、これまでの修理に関する経験を受講生が発表し、その内
足、時間やお金の問題など様々な要因で修理を行う機会がなか
容について討論を行うものである。第1回において修理経験の
ったのではないかという意見が出された。他の学生と経験を共
内容や結果をまとめレポートするという課題を課しており、そ
有することで、自身の経験と比較して考えることができ、共通
のレポートを基に各自が発表し全員で共有した上で、修理に必
する問題点も明らかになった。
要な技能や心構え、修理することにより得られるものなどにつ
【課題2】不具合探し
いて討論する【課題1】
。第3・4回では、教員が用意した資料
教室内を見回して、不具合を 10 カ所以上見つけるという課題
を基に、故障をその原因等により分類する方法を説明し、実際
である。
「不具合」という言葉に対して学生は、
「ものが壊れて
に教室内に存在する不具合を発見・分類するという実習を行う
いるか故障しており、直ちに修理が必要な状態」と捉え不具合
【課題2】
。第5回では、メーカー保証と修理の関係や PL 法な
を探すことに苦労しているようであったが、
「生活に不便であり、
ど消費者保護の観点からの講義を行う。第6・7回では、家電
直した方がよい状態」というように表現を変えると、多くの問
製品の分解実習を行い、製品内部の構造や材料について調べる
題に気づくようになった。また、
「隣の部屋とのセパレーション
とともに、気付いたことを発表し、それらから考えられること
(隣の教室の声が聞こえる)
」
、
「DVD プレーヤーがテレビの下
を議論する【課題3】
。第8~11 回では、取扱説明書と修理に必
になく距離が遠い」など、自分たちの生活状況と結びついた〈こ
要となる資格、修理に必要な技術・知識について講義する。第
と〉へ着目が広がっていったのも特徴的であった。つまり、も
12~14 回では、学内施設を調査して不具合を発見し、修理計画
のそのものの故障が独立してあるのではなく、それが自分たち
を立てて実践する実習を行う【課題4】
。最後に、リサイクル・
にとって不具合や不便として認識されるには、当時者の生活ス
リユースについて考える機会として、近隣のリサイクルショッ
タイルや行動様式・特徴を含み込んだ〈こと〉の自覚が不可欠
プに出向き、店内調査や店員へのインタビューを行いレポート
であることがうかがえた。
学生たちは一つの教室で 50 カ所以上の不具合を見つけ、その
する【課題5】
。
ような不具合に適応しながら生活していたことに気づかされた。
表1 『技術と生活 B』シラバス
こういった気づきからも、ものを物(物体・物質)としてだけ
第1回
説明、目標の確認(ガイダンス)
ではなく、もの・ひと・ことのつながりの中で捉えることの必
第2回
修理経験の共有(発表・討論)
然性を実感する機会になったと思われる。
第3回
故障の発見と分類(講義)
【課題3】分解実習
第4回
故障の発見と分類(実習)
第5回
初期不良とメーカー保証(講義)
それらを分解し、用いられている材料や構造などで気づいたこ
第6回
製品の構造(家電製品の分解実習)
とを記録する実習で、次週にその内容を発表し、討論する課題
第7回
製品の構造(発表・討論)
である。分解を通して、ものについてよく知っているつもりで
第8回
取扱説明書と修理に必要な資格(講義)
実は十分には理解していなかったことが多いことに気づいた。
第9回
学内に廃棄されている家電製品を集め、グループに分かれて
修理に必要な技術・知識:変形・接合(講義)
生活の中で使用しているものでありながら、どこにどのような
第 10 回 修理に必要な技術・知識:塗装・洗浄(講義)
部品が使われていて、どのような構造になっているのか考える
第 11 回 修理に必要な技術・知識:道具・材料(講義)
ことはほとんどなかったことを自覚した。そのため、分解に積
第 12 回 修理の実践(問題発見・修理計画)
極的に取り組む姿勢が多く見られた。修理するためにはものに
第 13 回 修理の実践(修理実習Ⅰ)
ついて多くのことを知っている必要があることを改めて実感す
第 14 回 修理の実践(修理実習Ⅱ)
る大きな体験となったようである。
「分解」という行為を通して
第 15 回 リサイクルとリユース(調査)
実物に触れることで、ものの頑丈さと脆さ、複雑さと単純さな
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松本金矢・川村 涼・高森裕貴・守山紗弥加
ど、外見(完成品)の状態で抱いているイメージと、分解して
4.2 結果と考察
みて知る中身の実際とのギャップを肌で感じることになった。
【課題4】修理の実践
アンケートは5名(3年生3名、4年生2名)から回答が得
られた。
学内の設備を点検して不具合を発見するとともに、修理計画
問1については、
「修理という概念をとらえ直すことができ
を立て、実際に問題を解決するという課題である。課題2での
た。
」
「今あるものを直すだけではなく、より良く便利にするた
不具合に気づくことができるという力を用い、不具合の修理計
めに機能を付け足すという新しい考え方を身につけることがで
画を立てる際、まず必要なのは、この不具合は自分で直せるも
きた。
」
「他の技術科の授業では新しいものを作成する際に工具
のであるかという判断を行うことである。実際に修理活動に入
の使い方や美しく仕上げる技などを身につけたが、修理となる
ると、デザイン構想・設計段階でひとやことが学生たちのもの
とその知識・技以上のものが必要であると実感した。
」という修
の判断や決定の大きな要素となっていることがうかがえる場面
理の経験・修理に関する内容の回答が得られた。さらに、
「分解
がよく見られた。靴箱を改修したグループでは、自分を含むゼ
を経験することで、ブラックボックス化された中の構造を自分
ミ生たちの普段の使用形態・頻度、ものの扱い方に頭を巡らせ
がいかに知らないかを実感し、分解できてもそれを元に戻すの
ながら、必要な機能や必然の形を選び、設計していた。さらに、
はとても難しいと感じた。
」という記述があった。また、各テー
教卓の改修に取り組んだグループからは、校舎のイメージング
マの中でものとひととの関係を見直し、子どもの頃の自分とも
(環境との調和)や修理対象物を含む空間を自分たちの居場所
のとの関わりが今とは違っていたことを実感した学生もいた。
として考えたときに初めて浮かんでくる、固有の文脈にもとづ
成長の中でものとの関わりに慣れる一方、壊れたらまた買えば
いたアイデア発想が見られた。
よい、新製品が出れば古いものを捨てて買ってしまうといった
【課題5】リサイクルショップ調査
雑な関わり方に変化していることを本授業で実感したようであ
大学近郊のリサイクルショップを訪問し、品揃えや商品の特
る。
徴などを調査するとともに、店員へのインタビューを通して、
続いて問2の回答を見ると、
「修理の経験がある児童もいれば
リサイクル事業の役割や存在意義を考えるという課題である。
全くない児童もいると思われるため、経験のある児童からその
店内を詳しく調べることで、単なる客としての視点で考えてい
体験を聞き共有する授業方法もあれば、学習シナリオを用意し、
たリサイクルショップのイメージが変わった学生もいたようで
修理するという思考を作ることも1つの導入になるのではない
ある。リサイクルショップには、貴金属や高価な調度品以外に
か。
」という意見がみられた。さらに、
「児童に修理を行わせる
も、洗剤等の日用品から新品の家電製品のような生活に必要な
際には、教師には幅広い知識と技術が求められるが、一方で児
ものほとんどがそろえられていた。店員によると、車で遠くの
童と共に考え、工夫をしながら進めることもできる授業内容で
専門店に行くことができない地域のお年寄りのために仕入れら
もある。
」との回答が得られた。また、
「修理の体験をきっかけ
れているということであり、リサイクルショップが中古品販売
として成長する中で雑になってしまったと考えられるものとの
店というだけではなく、消費弱者に安くものを提供することを
関わり方を見直し、子どもたちにものへの愛着を見出させたい。
」
目的として成立してきたことがわかる。また、リサイクルショ
という意見もあった。
ップをインターネットオークションなどでの売買と比較すると、
これらの回答より、本授業は将来教員となる学生に小学校段
購入に際して実物を手に取り店員と相談する機会が与えられて
階からものとひととの関わりについて考える教育の必要性を感
おり、自分にとって本当に必要なものであるのか、良質なもの
じさせる良い機会となったのではないかと考えられる。
であるのかを考えるきっかけになるという差異がある。リサイ
問3については、
「分解したものの構造を考察し発表する際に、
クルショップへの訪問は学生にとって、経済活動全体を見つめ
他の班に実物をみせることでよりわかりやすくした方がよい。
」
直すきっかけになったようである。
「修理を行う時間をもっと確保してほしい。
」などの回答が得ら
れた。
4.アンケート調査
5.今後の発展
4.1 アンケートの概要
『技術と生活 B』受講生にアンケート調査を実施した。以下
の3項目について、自由記述で回答を求めた。
問1:受講生として感じたこと、気づいたこと、
学んだこと、
印象に残ったことなど
問3:学生の視点からの本授業の改善点
関する科目」として、これらをまとめた選択科目『技術と生活』
を開設することとした。教科専門担当の教員3人が実践する授
問2:将来小学校教員として授業を行う立場から感じたこと、
思うことなど
第2章で述べた通り、
『技術と生活 A~E』は廃止されること
となったが、小学校教員養成のための新たな「教科又は教職に
業で、それぞれの担当分は5回(10 時間)である。そこで『技
術と生活 B』の内容を整理・再編して5回の授業を行うことと
し、表2のようなシラバスを提案する。
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ものとひととの関係を考える
第1回~4回は、
『技術と生活 B』のシラバスと同じ内容であ
子どもたちのものへの興味関心の萌芽を、指導者・支援者が
る。
『技術と生活 B』の中心的な活動である修理実習は、計画か
見逃さず、それらを培い、伸ばしていく必要があるのではない
ら実習までを行うと3回の授業時間を必要とするため実践は困
だろうか。そのためには、指導者自身がものに向き合い、もの
難である。第5回は実際のリサイクルショップを訪問するので
の声を聴き、ともに時間を過ごす経験が不可欠である。教師に
はなく、教室内で模擬リサイクルショップを開設し、受講生同
は子どもたち本人にさえも未知の、自分とものとの関係と「出
士がもののやりとりを行うというものである。この実践の目的
会う」場や機会の創出と、そこでの学びを支援することができ
は、個人のものに対する気持ちを共有する場面を体験すること
るだけの知識や技能の獲得が求められよう。
にある。内容は、受講生自身が必要ではないが捨てられないも
のや思い入れがあるものを持ち寄り、物々交換会を行う。もの
参考文献
を実際に交換することが困難な場合は、写真や絵を用いて仮想
1) 岩本光弘他5名、国際協力を通じての機械総合教育 : 足踏み
的な交換を行う。自分が持ち寄ったものを、リサイクルショッ
ミシン修理のボランティア活動((7)ものつくり教育-XI)
、
プ役の学生にプレゼンし、ものに対する思い入れや使用価値に
工学・工業教育研究講演会講演論文集 平成 18 年度、
ついて説明する。商品を売る側、買う側両方の立場に立っても
pp.670-671、2006
ののよさを引き出したり、見出す練習をすることで、ものを購
2) 上田学、中学校技術科における環境教育の一試行 : 第1報
入するときにその価値や必要性について慎重に検討する態度が
廃棄車椅子のリサイクルを中心とした環境教育、大阪教育大
養われることが期待される。
学紀要 V、教科教育、Vol.42、No.1、pp.101-113、1993
3) 中里真之、木材製品の手入れ・点検からみた木材加工教育に
表2 『技術と生活』シラバス
ついて、東京学芸大学紀要第6部門、技術・家政・環境教育、
Vol.46、pp.31-36、1994
第1回 修理経験の共有(発表・討論)
4) 橋本英治他4名、モノに対する愛着の体系化、日本デザイン
第2回 故障の発見と分類(実習)
第3回 製品の構造(家電製品の分解実習)
学会、デザイン学研究発表大会概要集、Vol.45、pp.28-29、
第4回 製品の構造(発表・討論)
1998
5) 新垣紀子、人とモノのインタラクションの発達的研究、社会
第5回 模擬リサイクルショップ(実習)
イノベーション研究、Vol.2、No.2、pp.49-67、2007
6) 森山潤他4名、
「技術とものづくり」の学習における生徒の作
6.おわりに
小学校段階でものとひととの関係を考えるための授業『技術
品に対する愛着の形成要因~自由記述調査による探索的検
と生活 B』について、その内容を紹介し、受講生の学びについ
討、兵庫教育大学研究紀要、Vol.31、pp.143-150、2007
て考察した。また、本授業の意義を再考するために、ものとひ
7) 森山潤他3名、
「技術とものづくり」の製作学習における生徒
ととの関わりについての先行研究を調査し、日本の教育・研究
の作品に対する愛着の形成と情意的影響、兵庫教育大学研究
における現状と問題点を明らかにした。その上で幼児期におけ
紀要、Vol.35、pp.133-138、2009
るものとの関わりに注目することで、現在の学校教育にものと
8) 花篤實・岡田憼吾、新造形表現、三晃書房、2011
の関わりを重視した学習内容が必要であることを示した。また、
9) 松本健義、子どもの造形的表現活動における学びの活動単位、
授業での参与観察と受講生へのアンケートを通して、本授業内
容の評価を行った。
- 33 -
大学美術教育学会誌、Vol.41、pp.317-353、2008
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