呼吸様式の違いが立位時の身体動揺に及ぼす影響

呼吸様式の違いが立位時の身体動揺に及ぼす影響
2013 年度
修士論文
呼吸様式の違いが立位時の身体動揺に及ぼす影響
Influence of breathing technique on body sway
早稲田大学
大学院スポーツ科学研究科
スポーツ科学専攻
身体運動科学研究領域
5012A009-3
小野寺
亘
Wataru ONODER
研究指導教員:
矢内
利政 教授
目次
第1章
緒言---------------------------------------------------------------------------------------1
第2章
実験方法---------------------------------------------------------------------------------7
第3章
結果-------------------------------------------------------------------------------------22
第4章
考察-------------------------------------------------------------------------------------26
第5章
結論-------------------------------------------------------------------------------------39
参考文献-------------------------------------------------------------------------------------------40
謝辞-------------------------------------------------------------------------------------------------44
第 1 章
緒言
人 は 随 意 的 に 身 体 を 静 止 さ せ よ う と し て も 、姿 勢 を 維 持 す る た め の
筋 活 動 や 、 呼 吸 ・ 心 拍 な ど の 要 因 に よ っ て 身 体 に 微 細 な 揺 れ (身 体 動
揺 )を 伴 っ て い る (執 行 1958、 高 田 ら 1982、 山 本 1979)。 ア ー チ ェ
リーや射撃に代表される的を遠距離から狙い撃つ射的競技において
身 体 の 揺 れ は 照 準 ブ レ の 要 因 と な り 、身 体 動 揺 は 命 中 精 度 の 低 下 に つ
な が る と 考 え ら れ る 。ア ー チ ェ リ ー を 例 に 挙 げ る と 、男 子 競 技 に お い
て 一 般 的 に 用 い ら れ る 的 の 距 離 は 30m、 50m、 70m、 90m で あ り 、 最
も 高 い 点 数 を 得 ら れ る 的 の 中 心 部 は 3 0・5 0 m 用 の 的 で 半 径 4 c m 、7 0 ・
9 0 m 用 の 的 で 半 径 6 c m と な っ て い る ( 図 1 ) 。競 技 の 中 で 狙 い 撃 つ 的 の
中 心 部 は 肉 眼 で 正 確 に 視 認 す る こ と が 難 し い ほ ど 小 さ い た め 、僅 か な
身体の揺れであっても矢の命中精度は悪影響を受けると考えられる。
Keast & Elliott(1990)は ア ー チ ェ リ ー 競 技 に つ い て 、 身 体 動 揺 を 定 量
図 1
アーチェリーと的
1
化 す る 指 標 の
1 つ と し て 用 い ら れ る 足 圧 中 心 (COP: center of
pressure) 軌 跡 に 囲 ま れ る 面 積 が 大 き い 射 に お い て 的 中 時 の 点 数 や 競
技 者 自 身 の 射 に 対 す る 自 己 評 価 が 低 か っ た こ と を 報 告 し て い る 。し た
が っ て 、身 体 動 揺 を 抑 制 し 、姿 勢 を 安 定 さ せ る こ と は ア ー チ ェ リ ー な
どの射的競技におけるパフォーマンスを向上させるために重要と推
測される。
近 年 、人 の 身 体 重 心 高 は 腹 式 呼 吸 と い う 呼 吸 様 式 で 吸 気 を 行 う こ と
で 、胸 式 呼 吸 で 吸 気 を 行 う よ り も 低 く な る こ と が 明 ら か に な っ て い る
(屈 ら 2001、 丸 山 ら 2012)。 身 体 動 揺 は 身 体 重 心 高 が 低 く な る と 抑 制
さ れ る と 報 告 さ れ て い る た め ( R o s k e r e t a l . 2 0 11 、 執 行 1 9 5 8 ) 、 よ り
身体重心高が低くなる呼吸様式を用いて吸気した状態を維持するこ
とで立位姿勢での身体動揺を抑制することができるものと考えられ
る 。し か し な が ら 、先 行 研 究 で 扱 わ れ て い る 身 体 重 心 高 と 身 体 動 揺 と
の 関 係 は か な り 大 き な (10~60cm 程 度 ) 身 体 重 心 高 の 変 化 に よ る 影 響
を 検 証 し た も の で あ り 、呼 吸 様 式 の 違 い に よ っ て 生 じ る 小 さ な 身 体 重
心 高 の 変 化 (約 1cm 程 度 )が 身 体 動 揺 に 及 ぼ す 影 響 は 明 ら か に な っ て い
な い 。そ こ で 本 研 究 で は 、胸 式 呼 吸 と 腹 式 呼 吸 と い う 呼 吸 様 式 の 違 い
が身体動揺に影響を与えるかを呼吸様式間で異なる身体重心高に着
目して明らかとすることを目的とする。
人が立位姿勢を維持するためには身体重心を地面に投影した点が
両 足 に 囲 ま れ る 支 持 面 の 中 に 維 持 さ れ る 必 要 が あ る ( 長 谷 2006) 。 し
か し 、立 位 時 に 両 足 に 囲 ま れ る 支 持 面 は 小 さ く 、そ れ に 対 し て 人 の 身
体 重 心 は 身 長 比 で 地 面 か ら 約 54~56%( 阿 江 と 藤 井 2002)と 高 い 位 置
に あ る 。狭 い 支 持 面 に 対 し て 身 体 重 心 高 が 高 い た め 、人 の 立 位 姿 勢 は
少し傾くと身体重心を地面へ投影した点が支持面から出る状態にあ
2
る。立位時の身体重心は身体を支える支点となる足関節から約
30~50mm 前 方 に 位 置 し て い る た め (Gurfinkel et al. 1995)、身 体 に 作
用 す る 重 力 に よ り 足 関 節 に は 背 屈 方 向 の モ ー メ ン ト が 作 用 す る 。そ の
た め 、立 位 姿 勢 は 下 肢 背 部 の 筋 が 前 方 へ 体 が 回 転 す る の を 防 ぐ こ と で
維 持 さ れ て い る ( Wi n t e r e t a l . 1 9 9 8 , 長 谷 2 0 0 6 ) 。 こ の よ う な 姿 勢 の 制
御 が 絶 え ず 行 わ れ て い る た め 、人 は 随 意 的 に 身 体 を 静 止 さ せ よ う と し
て も 剛 体 の よ う に 静 止 す る こ と は な い 。人 は 静 止 し て い る つ も り で も 、
筋 活 動 や 心 拍 、呼 吸 な ど 種 々 の 要 因 に よ り 身 体 に 微 細 な 揺 れ を 生 じ て
い る (執 行 1958、 高 田 ら 1982、 山 本 1979)。 上 記 の よ う な 身 体 の 揺
れ (以 下 、 身 体 動 揺 と 呼 ぶ )を 、 人 の 姿 勢 制 御 の 出 力 と し て 計 測 ・ 分 析
す る こ と に よ っ て 、 種 々 の 知 見 が 得 ら れ て い る (大 西 と 土 屋 1986)。
身 体 動 揺 は 古 く は 目 視 で 観 測 さ れ た ( R o m b e r g 1 8 5 3 ) 。こ の 方 法 は 現
在 で も 立 位 時 の 動 揺 を 目 視 に よ っ て 確 認 す る Romberg's test と い う
神 経 学 的 な 試 験 と し て 臨 床 的 に 利 用 さ れ て い る (中 山 1987, Khasnis
& Gokula 2003) 。目 視 に よ っ て 観 測 さ れ て 以 来 、身 体 動 揺 を 定 量 的 に
計 測 す る 試 み が な さ れ て お り 、頭 部 の 動 揺 を 計 測 す る 方 法 や 、身 体 重
心の動きを計測する方法などを用いて身体動揺の定量化が試みられ
て き た ( 田 口 1 9 8 3 ) 。近 年 で は 計 測 機 器 の 発 達 に よ っ て フ ォ ー ス プ レ ー
ト (床 反 力 計 )を 用 い て 身 体 動 揺 を 計 測 す る 方 法 が 主 流 と な っ て お り 、
床 反 力 か ら 算 出 さ れ た COP が 身 体 動 揺 の 定 量 化 に 使 用 さ れ る (Clair
& Riach 1996)。 COP は 立 位 姿 勢 に お い て は 身 体 重 心 を 地 面 に 投 影 し
た 点 と ほ ぼ 一 致 す る と さ れ て い る (藤 原 と 池 上 1981)。 COP の 変 位 か
ら 計 算 し た 軌 跡 長 や COP 軌 跡 の 外 周 面 積 (COP 面 積 )は 身 体 動 揺 の 主
な 指 標 と し て 扱 わ れ 、立 位 姿 勢 の 安 定 性 評 価 や 平 衡 機 能 検 査 な ど に 用
い ら れ て い る (藤 原 と 池 上 1981、 中 山 1987)。
3
呼吸は肺に外気を取り込み、酸素を体内に取り入れる活動である。
呼 吸 で は 肺 の 拡 大 と 縮 小 に よ っ て 空 気 の 出 し 入 れ が 行 わ れ る が 、肺 自
体は拡大や縮小といった呼吸を発生させる動きを自力で行う能力を
持 た な い。そ の た め 、肺の 拡 大・縮 小 は 胸 郭 と 横隔 膜 の 動 き に よ る胸
郭 内 の 容 積 変 化 に よ っ て 生 じ る 。胸 郭 は 胸 椎 と 肋 骨 、胸 骨 お よ び 付 着
す る 筋 肉 と 筋 膜 で 構 成 さ れ 、下 方 に あ る 横 隔 膜 で 腹 部 と 区 切 ら れ て い
る 。胸 郭 は 呼 吸 の 際 に 、肋 間 筋 が 収 縮 と 弛 緩 を 行 い 、正 面 か ら 見 る と
骨 組 を 上 下 に 開 閉 す る よ う に 動 く 。ま た 、横 隔 膜 も 収 縮 と 弛 緩 に よ っ
て 上 下 に 動 く 。胸 郭 が 開 き 、横 隔 膜 が 下 降 す る こ と で 胸 郭 内 の 容 積 が
前後・上下・側方に広がり、肺に空気が流入する 。呼 気時は胸郭が閉
じ 、横 隔 膜 が 上 昇 す る こ と で 胸 腔 内 の 容 積 が 元 に 戻 り 、肺 中 の 空 気 が
排 出 さ れ る (図 2)(中 村 ら 2003)。こ の よ う な 胸 郭 や 横 隔 膜 の 動 き は 体
内 で の 臓 器 の 移 動 や 体 幹 部 の 変 形 を 伴 い 、身 体 の 質 量 分 布 の 変 化 を 生
じ る 。質 量 分 布 が 変 化 す る た め 、呼 吸 は 身 体 重 心 高 の 変 化 を 伴 う 。呼
吸と身体重心高に関する内容を扱った先行研究は少ないが、屈ら
(2001)や 丸 山 ら (2012)は 呼 吸 に 伴 っ て 身 体 重 心 高 が 微 量 (約 1cm 程 度 )
で あ る が 変 化 し 、呼 吸 様 式 の 違 い に よ っ て 身 体 重 心 高 が 異 な る 変 化 を
示 す こ と を 報 告 し て い る 。呼 吸 様 式 は 、呼 吸 時 に 体 幹 の ど の 部 位 を 膨
ら ま せ る か に よ っ て 分 類 で き 、胸 郭 の 動 き を 主 と し て 胸 部 を 膨 ら ま せ
る胸式呼吸と横隔膜の動きを主として腹部を膨らませる腹式呼吸に
大 き く 分 け ら れ る ( 浅 見 と 平 井 1 9 9 6 ) 。ま た 、前 述 の 屈 ら ( 2 0 0 1 ) や 丸 山
ら (2012) は 腹 式 呼 吸 の 吸 気 時 に 身 体 重 心 高 が 胸 式 呼 吸 の 吸 気 時 よ り
も低くなることを報告している。
4
図 2
呼吸の仕組み
身体動揺は身体重心高が低い条件で抑制されたことが報告されて
い る ( R o s k e r e t a l . 2 0 11 、 執 行 1 9 5 8 ) 。 R o s k e r e t a l . は 被 験 者 の 腰 か
ら 重 り を 吊 り 下 げ た 条 件 と 肩 に 重 り を 担 が せ た 条 件 を 設 定 し 、被 験 者
の 身 体 重 心 高 を 外 部 か ら 人 為 的 に 変 化 さ せ た 。そ の 結 果 、身 体 動 揺 は
身体重心高が高い条件に比較して低い条件で抑制されたことを報告
し て い る 。ま た 、執 行 は 立 位 姿 勢 や し ゃ が み 姿 勢 と い っ た 姿 勢 の 変 化
に よ る 身 体 重 心 高 の 変 化 に つ い て 実 験 を 行 い 、立 位 姿 勢 よ り も 身 体 重
心高が低くなるしゃがみ姿勢で身体動揺が抑制されたことを報告し
て い る 。こ れ ら の 先 行 研 究 よ り 、身 体 重 心 高 が 低 く な る 呼 吸 様 式 で あ
る 腹 式 呼 吸 に お い て 身 体 動 揺 が 抑 制 さ れ る 可 能 性 が 推 測 さ れ る 。し か
し な が ら 、上 記 の 先 行 研 究 は 約 10~ 60cm と い う か な り 大 き な 身 体 重
心 高 の 変 化 が 生 じ る 条 件 に お い て 行 わ れ た も の で あ る た め 、呼 吸 様 式
に よ っ て 生 じ る 1cm 程 度 の 小 さ な 身 体 重 心 高 の 変 化 が 身 体 動 揺 に 影
響を与え得るのかは定かではない。
5
屈 ら (2001) や 丸 山 ら (2012) は 呼 吸 に 伴 っ て 身 体 重 心 高 が 微 量 ( 大 き
く て 1cm 程 度 )で あ る が 変 化 し 、 腹 式 呼 吸 に お け る 身 体 重 心 高 が 胸 式
呼 吸 に 比 べ て 低 く な る こ と を 報 告 し て い る 。こ の 観 察 結 果 を 、身 体 重
心高が低い条件 で身体動揺が抑 制されたと 報告 した
Rosker et
a l . ( 2 0 11 ) や 執 行 ( 1 9 5 8 ) の 研 究 と 合 わ せ て 考 え る と 、身 体 重 心 高 が 低 く
なる呼吸様式である腹式呼吸において身体動揺が抑制される可能性
が 生 じ る 。 し か し な が ら 、 Rosker et al. や 執 行 の 研 究 は 、 お お よ そ
10~60cm 程 度 と い う か な り 大 き な 身 体 重 心 高 の 変 化 と 身 体 動 揺 の 関
連 に つ い て 行 わ れ た 研 究 で あ り 、呼 吸 様 式 に よ っ て 生 じ る 程 度 の 小 さ
い 身 体 重 心 高 の 変 化 が 身 体 動 揺 に 影 響 を 与 え る か は 定 か で は な い 。ま
た 、呼 吸 様 式 の 違 い と 身 体 動 揺 の 関 連 を 扱 っ た 研 究 は こ れ ま で に 行 わ
れ て お ら ず 、そ も そ も 異 な る 呼 吸 様 式 を 行 っ た 際 に 身 体 動 揺 が 変 化 す
る か と い う こ と が 明 ら か に な っ て い な い 。加 え て 、身 体 動 揺 に 影 響 を
与 え 得 る 要素 は 身 体 重 心 高 以外 に も 筋 活 動 や 呼吸 、心 拍 、精神・神 経
的 な 要 因 ( 執 行 1 9 5 8 、高 田 ら 1 9 8 2 、山 本 1 9 7 9 、R o s k e r e t a l . 2 0 11 、
長 谷 2006、 村 田 ら 2005)と い っ た も の が あ り 、 仮 に 呼 吸 様 式 間 で 身
体 動 揺 が 変 化 し て も 、そ れ だ け で は 身 体 動 揺 が 変 化 し た 要 因 が 身 体 重
心 高 で あ った と は 言 い 難 い。そ こ で 、本 研 究 で は、胸 式 呼 吸 と 腹 式呼
吸 と い う 異 な る 呼 吸 様 式 間 で 身 体 動 揺 が 変 化 す る の か 、及 び 呼 吸 様 式
間で身体動揺が変化した場合に身体重心高がその要因となっている
かを明らかとすることを目的とした。
6
第 2 章
実験方法
早 稲 田 大 学 所 沢 キ ャ ン パ ス の フ ロ ン テ ィ ア リ サ ー チ セ ン タ ー ( 11 0
号 館 ) 内 に あ る 実 験 室 ( 11 0 室 ) に お い て 実 験 を 行 っ た 。 実 験 を 行 っ た 部
屋 は 四 方 が 白 い 壁 に 囲 ま れ た 部 屋 で あ っ た 。 被 験 者 が 向 く 正 面 約 9m
前方の壁には窓があったがブラインドを閉じることにより室外の視
覚 情 報 を 遮 断 し た 。室 内 に は 種 々 の 計 測 機 器 な ど が 保 管 さ れ て い た が 、
実 験 中 に 被 験 者 の 視 野 に 稼 働 す る 機 材 は な か っ た 。室 内 は 明 る く 保 た
れ て お り 、被 験 者 が 試 技 を 行 っ て い る 際 の 光 源 の 点 滅 や 騒 音・振 動 の
無い状態で実験を行った。
被 験 者 は 男 性 20 名 と し た 。 被 験 者 の 年 齢 、 身 長 、 体 重 の 平 均 と 標
準 偏 差 は そ れ ぞ れ 23.6±2.7 歳 、 170.3±5.7cm、 65.4±7.3kg で あ っ
た 。実 験 の 中 で 呼 吸 様 式 を 使 い 分 け て 身 体 重 心 高 と 身 体 動 揺 の 計 測 を
行 う た め 、呼 吸 様 式 の 使 い 分 け が 可 能 で あ る こ と 、呼 吸 器 や 身 体 に 疾
患 や 障 害 が な い こ と 、実 験 当 日 に 身 体 動 揺 を 生 じ る 要 因 と な り 得 る 体
調 不 良 (二 日 酔 い や 睡 眠 不 足 )が 無 い こ と を 条 件 と し た 。 被 験 者 に は 本
研 究 の 目 的 と 内 容 に つ い て の 説 明 を 行 い 、実 験 参 加 の 同 意 を 書 面 に て
得 た 上 で 実 験 を 行 っ た 。ま た 、本 研 究 を 行 う に あ た り 、早 稲 田 大 学 の
「人を対象とする研究に関する倫理委員会」の承認を得た。
本 研 究 で は 身 体 動 揺 が 呼 吸 様 式 間 で 変 化 す る か 、呼 吸 様 式 間 で 生 じ
る程度の大きさの身体重心高の変化がその要因となるかを明らかと
す る こ と を 目 的 と し 、呼 吸 様 式 と 身 体 重 心 高 と い う 2 つ の 要 因 が 身 体
動 揺 に 与 え る 影 響 を 分 析 す る た め の 実 験 を 行 っ た 。実 験 で は 2 種 類 の
呼吸様式と 2 種類の身体重心高の条件を組み合わせた 4 条件について
7
身 体 動 揺 の 計 測 を 行 っ た 。呼 吸 様 式 は 胸 式 呼 吸 と 腹 式 呼 吸 を 条 件 と し 、
身体重心高は呼吸様式間で生じる変化と同じ大きさで身体重心高が
高 い 条 件 と 低 い 条 件 を 設 定 し た 。胸 式 呼 吸 と 腹 式 呼 吸 は 吸 気 時 に 呼 吸
様 式 間 で 身 体 重 心 高 が 変 化 し 、胸 式 呼 吸 に 比 べ て 腹 式 呼 吸 の 身 体 重 心
高 が 低 く な る た め (屈 ら 2001、 丸 山 ら 2012)、 重 り (2.5kg×2)を 被 験
者の肩から前後に吊り下げて身体重心高を呼吸様式間で入れ替えた
条 件 を 設 け る こ と で 、各 呼 吸 様 式 に そ れ ぞ れ 身 体 重 心 高 の 高 い 条 件 と
低 い 条 件 を 設 け た 。 4 つ の 条 件 に つ い て 以 下 に 記 載 す る (表 1)。
表 1
実験条件と内容
条件名
内容
胸式高条件
胸式呼吸で吸気を行った条件
胸式呼吸時の身体重心高が腹式呼吸時の身体重心高と
胸式低条件
同じになるように重りを肩から吊り下げた条件
腹式呼吸時の身体重心高が胸式呼吸時の身体重心高と
腹式高条件
同じになるように重りを肩から吊り下げた条件
腹式低条件
腹式呼吸で吸気を行った条件
実 験 に 先 立 っ て 被 験 者 の 胸 部 と 腹 部 に レ ス ピ ト レ ー ス (PRM-131C 、
A.M.I 社 製 )を 装 着 し て 吸 気 を 行 っ た 際 の 周 径 囲 変 化 を 確 認 す る こ と
で、被験者が胸式呼吸と腹式呼吸の使い分けができるかを判断した。
本 研 究 で は 図 3 の よ う に 、吸 気 時 に 腹 部 が 膨 張 せ ず に 胸 部 が 膨 張 す る
呼 吸 を 胸 式 呼 吸 、吸 気 時 に 胸 部 が 膨 張 せ ず に 腹 部 が 膨 張 す る 呼 吸 を 腹
式 呼 吸 と し た 。図 4 の 失 敗 例 の よ う に 胸 部 と 腹 部 が と も に 膨 張 し 、呼
吸 様 式 の 使 い 分 け が で き て い な い と 判 断 さ れ た 場 合 は 20 分 ほ ど 被 験
8
者にレスピトレースが計測した周径囲変化を見せながら練習を行わ
せ た 。吸 気 時 に 図 3 の よ う な 周 径 囲 変 化 に 近 づ く よ う に 練 習 を 行 わ せ 、
試技が行えたと判断した場合に実験を行った。
0.8
腹式呼吸
胸式呼吸
0.6
↑
0.4
膨張
v
0.2
胸部
0
腹部
収縮
-0.2
↓
-0.4
-0.6
図 3
周径囲変化
典型例
0.7
0.4
0.6
0.3
↑
膨張
0.2
↑
0.5
膨張
0.4
0.1
v
収縮
↓
v
0
収縮
-0.1
↓
-0.2
-0.3
0.3
胸部
0.2
腹部
0.1
0
-0.1
-0.2
図 4
失 敗 例 (左 : 胸 式 呼 吸 、 右 : 腹 式 呼 吸 )
9
身体重心高の条件を胸式低条件と腹式高条件で設定するためにリ
ア ク シ ョ ン ボ ー ド 法 (Hay 1993)に よ っ て 身 体 重 心 高 の 計 測 を 行 っ た 。
本 研 究 で 扱 っ た リ ア ク シ ョ ン ボ ー ド は 長 さ 197.1cm、 幅 60cm、 厚 さ
6 c m の 木 製 の 板 で あ っ た 。リ ア ク シ ョ ン ボ ー ド の 両 端 に 先 の と が っ た
支 点 を 取 り 付 け 、 一 方 の 端 を フ ォ ー ス プ レ ー ト (9281C、 KISTLER 社
製 )の 上 に 載 せ た 。 フ ォ ー ス プ レ ー ト が 計 測 し た 力 か ら 身 体 重 心 高 を
算 出 し た 。被 験 者 に は リ ア ク シ ョ ン ボ ー ド 上 で 両 腕 を 身 体 の 横 に 下 ろ
し た 仰 臥 位 を と ら せ 、リ ア ク シ ョ ン ボ ー ド の 端 に あ る 足 止 め 部 分 に 足
部 を 肩 幅 に 離 し た 状 態 で 足 底 を 密 着 さ せ た (図 5)。 図 5 の 状 態 で 一 度
息 を 吐 き 切 っ て か ら ガ ス メ ー タ ー (NDS-2A-T、 品 川 精 器 株 式 会 社 製 )
に 繋 い だ ゴ ム 製 の チ ュ ー ブ を 通 し て 吸 気 を 行 わ せ た 。吸 気 は 胸 式 呼 吸
と 腹 式 呼 吸 で そ れ ぞ れ 行 わ せ 、あ ら か じ め 計 測 し て お い た 各 呼 吸 様 式
に お け る 最 大 吸 気 量 の 50%を 試 技 時 の 吸 気 量 と し た 。
胸式呼吸と腹式呼吸の吸気時に計測した身体重心高は身体動揺計
測 の 際 に 、身 体 重 心 高 の 条 件 を 設 定 す る た め に 重 り を 被 験 者 の 肩 か ら
吊 り 下 げ る 高 さ の 算 出 に 使 用 し た 。被 験 者 が リ ア ク シ ョ ン ボ ー ド 上 で
吸 気 を 行 っ た 際 の 身 体 重 心 高 は サ ン プ リ ン グ レ ー ト 100Hz で 計 測 し
た 。呼 吸 様 式 間 で リ ア ク シ ョ ン ボ ー ド 上 の 被 験 者 の 位 置 が 移 動 す る こ
とを防ぐため、1 度の計測の中で各呼吸様式を交互に連続して行わせ
た 。胸 式 呼 吸 と 腹 式 呼 吸 は 各 3 回 ず つ の 計 6 回 行 っ た 。ま た 、身 体 動
揺 計 測 後 に 呼 吸 様 式・重 り の 位 置 が 身 体 動 揺 計 測 と 同 じ 条 件 で 吸 気 を
行 わ せ た 際 の 身 体 重 心 高 を 計 測 す る こ と で 、身 体 重 心 高 の 条 件 設 定 が
正しく行えていたかを確認した。
10
図 5
身体重心高計測
試技
身 体 動 揺 は フ ォ ー ス プ レ ー ト を 用 い て 足 圧 中 心 (COP)軌 跡 と し て 計
測 し 、C O P 軌 跡 の 外 周 面 積 を 身 体 動 揺 の 大 き さ を 表 す 指 標 と し て 用 い
た 。被 験 者 に は フ ォ ー ス プ レ ー ト 上 で 足 部 を 肩 幅 で 左 右 に 離 し た 状 態
で 立 位 姿 勢 を と ら せ 、一 度 息 を 吐 き 切 っ て か ら ガ ス メ ー タ ー に 繋 い だ
ゴ ム 製 の チ ュ ー ブ を 通 し て 吸 気 を 行 わ せ た 。吸 気 は 身 体 重 心 高 の 計 測
と 同 様 に 胸 式 呼 吸 と 腹 式 呼 吸 で 行 わ せ 、あ ら か じ め 計 測 し て お い た 各
呼 吸 様 式 に お け る 最 大 吸 気 量 の 5 0 % を 試 技 時 の 吸 気 量 と し た 。胸 式 高
条件、胸式低条件、腹式高条件、腹式低条件で試技を行い、被験者に
は 吸 気 完 了 後 に 吸 気 を 終 え た 際 の 状 態 を 保 ち な が ら 静 止 立 位 を 20 秒
間 維 持 さ せ た 。胸 式 低 条 件 と 腹 式 高 条 件 で は 身 体 重 心 高 計 測 で 得 ら れ
た身体重心高から算出した高さに重りが位置するように被験者の肩
か ら 前 後 に 紐 で 吊 り 下 げ た 。重 り の 高 さ を 調 節 す る 際 は 地 面 に 垂 直 に
設置したメジャーの隣に被験者を身体重心高計測と同じ足幅で立た
せ た 。メ ジ ャ ー を 指 標 と し て 被 験 者 の 身 体 の 前 後 に 吊 り 下 げ た 重 り が
同 じ 高 さ に な る よ う に し 、身 体 重 心 高 計 測 で 得 た 身 体 重 心 高 か ら 算 出
し た 高 さ に 重 り が 位 置 す る よ う 調 節 し た 。実 験 中 は 被 験 者 の 目 線 の 高
11
さ で 前 方 1.5m の 位 置 に 金 属 製 の ポ ー ル を 設 置 し 、 被 験 者 の 目 線 の 高
さ に 目 印 を 設 け た 。被 験 者 に は 吸 気 完 了 後 の 静 止 立 位 維 持 の 間 は 目 印
を 注 視 す る よ う に 指 示 し た 。被 験 者 が 試 技 を 行 っ た 際 の C O P 軌 跡 を 、
フ ォ ー ス プ レ ー ト に よ っ て サ ン プ リ ン グ レ ー ト 100Hz で 計 測 し た 。
各 条 件 を そ れ ぞ れ 5 回 ず つ 行 わ せ 、 合 計 20 試 技 分 の デ ー タ を 収 集 し
た。
身 体 重 心 高 と 身 体 動 揺 の 計 測 で は フ ォ ー ス プ レ ー ト の 信 号 を A/D
変 換 機 (Power Lab,A/D Instrements 社 製 )を 介 し て パ ー ソ ナ ル コ ン ピ
ューターに記録した。
実 験 中 に 被 験 者 に は レ ス ピ ト レ ー ス を 装 着 し て お り 、周 径 囲 変 化 を
観 察 し な が ら デ ー タ 計 測 を 行 う こ と で 、試 技 と し て 指 定 し た 呼 吸 様 式
が 行 え て い る か の 目 安 と し た 。デ ー タ 計 測 時 に 図 4 の よ う な 周 径 囲 変
化 が 見 ら れ 、呼 吸 様 式 が 行 え て い な い と 判 断 さ れ た 場 合 は 試 技 を 再 度
行わせた。
身 体 重 心 高 は 次 の 方 法 で 算 出 し た 。図 6 の 状 態 に お い て リ ア ク シ ョ
ンボードに加わる外力が左の支点 O まわりに生じさせるモーメント
の合計は 0 になる。そのため式 1 が成り立つ。
図 6
リアクションボードの重心位置の計算
12
(式 1)
𝐌𝐫 − 𝐅𝟏𝐋 = 𝟎
M は リ ア ク シ ョ ン ボ ー ド の 重 量 、F1 は 支 点 に 加 わ る 垂 直 抗 力 、r は 支
点からリアクションボード の重心までの距離、L は支点間の距離を表
す 。式 1 よ り 、支 点 か ら リ ア ク シ ョ ン ボ ー ド の 重 心 位 置 ま で の 距 離 は
式 2 によって表すことができる。
𝐫=
𝐅𝟏 𝐋
𝐌
(式 2)
リアクションボード上で人が仰臥位を取って全体が静止している場
合 は (図 7)、 人 と ボ ー ド に 作 用 す る 外 力 が 左 の 支 点 O ま わ り に 生 じ さ
せるモーメントの合計は 0 になる。そのため、式 3 が成り立つ。
図 7
人の重心位置の計算
𝐌𝐫 + 𝐁𝓵 − 𝐅𝟐𝐋 = 𝟎
(式 3)
B は 人 の 重 量 、 ℓ は 支 点 か ら 人 の 重 心 位 置 ま で の 距 離 、 F2 は 人 が 板 に
載 っ た 際 に 支 点 に 加 わ る 垂 直 抗 力 を 表 す 。式 3 よ り 、板 の 支 点 O か ら
人の重心位置までの距離は式 4 によって表される。
𝓵=
𝐅𝟐𝐋−𝐌𝐫
𝐁
(式 4)
式 2 、式 4 よ り 支 点 O か ら 人 の 重 心 位 置 ま で の 距 離 は 以 下 の 式 5 に よ
って求めることができる。
13
𝓵=
(𝐅𝟐−𝐅𝟏)𝐋
𝐁
(式 5)
式 5 によって得られた支点から人の重心位置までの距離に被験者が足
を 密 着 さ せ た 足 止 め か ら 支 点 ま で の 距 離 1 . 6 c m を 加 算 す る こ と で 、被
験 者 の 足 底 か ら の 身 体 重 心 高 を 算 出 し た ( H a y 1 9 9 3 ) 。得 ら れ た 身 体 重
心 高 は 各 被 験 者 の 身 長 比 (%)で 表 示 し た 。
実験で使用したフォースプレートは時間経過とともに計測される
値 が 徐 々 に 小 さ く な っ て い く 傾 向 が あ っ た 。こ の 傾 向 は フ ォ ー ス プ レ
ー ト に 40kg の 重 り を 10 分 間 載 せ た 際 に 確 認 さ れ た (図 8)。
図 8
フォースプレート計測値経時変化
典型例
フ ォ ー ス プ レ ー ト の 計 測 値 は 、計 測 開 始 後 少 し の 間 上 昇 し 、そ の 後 下
降に転じた。そして、5 分ほど経過してからはほぼ線形に下降を続け
た 。そ の た め 、本 実 験 で は 線 形 に 計 測 値 が 下 降 す る と 考 え ら れ る 部 分
を 計 測 に 用い 、計 測 値 の 補 正を 行 っ た 。補正 は 、計 測 開 始 前 と 計 測完
了後のフォースプレートに荷重がなされていない状態での計測値の
差 か ら 時 間 当 た り の 計 測 値 の 下 降 量 を 算 出 し 、計 測 値 に 対 し て 時 間 当
14
たりの下降量を加算することによって行った。
身 体 重 心 高 の 分 析 に は 解 析 ソ フ ト (Lab Chart7, A/D Instrements
社 製 )を 用 い 、 フ ォ ー ス プ レ ー ト が 計 測 し た 値 の 補 正 に は 表 計 算 ソ フ
ト (Microsoft Excel 2010, Microsoft 社 製 )を 用 い た 。 腹 式 呼 吸 時 に 計
測 し た 身 体 重 心 高 の 経 時 変 化 の 典 型 例 を 以 下 に 示 す (図 9)。 実 験 中 に
被 験 者 が 試 技 と し た 吸 気 を 行 っ た 際 、 吸 気 完 了 時 の 前 後 0.1 秒 間 の 平
均 値 と し て 身 体 重 心 高 を 算 出 し た 。ま た 、各 被 験 者 の 代 表 値 は 同 一 条
件 で 行 っ た 3 試 技 分 の 平 均 値 と し 、身 体 動 揺 計 測 で 重 り を 被 験 者 の 肩
から吊り下げる高さの算出に使用した。
図 9
身体重心高
15
腹式呼吸典型例
重 り を 用 い た 身 体 重 心 高 の 条 件 設 定 は 次 の 方 法 で 行 っ た 。リ ア ク シ
ョ ン ボ ー ド 上 で 図 10 の よ う に 人 の 真 横 に 重 り が の っ て い る 場 合 、 人
とリアクションボードに加わる外力が左端の支点 O まわりに生じさ
せるモーメントは 0 である。よって以下の式が成り立つ。
図 10 重 り に よ る 身 体 重 心 位 置 の 確 認
𝐦𝐡 𝓵𝐡 + 𝐦𝐰 𝓵𝐰 − 𝐅𝐋 = 𝟎
𝐦𝐀 𝓵𝐀 − 𝐅𝐋 = 𝟎
(式 6)
(式 7)
mh は 人 の 身 体 重 心 位 置 に か か る 重 量 、 mw は 重 り の 重 心 位 置 に か か る
重 量 、 mA は 人 と 重 り の 合 成 重 心 に か か る 重 量 で あ り 、 F は 支 点 に か
か る 垂 直 抗 力 で あ る 。 ま た 、 L は 支 点 間 の 距 離 、 ℓh は 支 点 か ら 人 の 身
体 重 心 位 置 ま で の 距 離 、ℓw は 支 点 か ら 重 り の 重 心 位 置 ま で の 距 離 、ℓA
は 支 点 か ら 合 成 重 心 位 置 ま で の 距 離 を 表 す 。こ の 2 式 よ り 、次 式 が 成
16
り立つ。
𝐦𝐀 𝓵𝐀 = 𝐦𝐡 𝓵𝐡 + 𝐦𝐰 𝓵𝐰
(式 8)
こ れ よ り 、重 り を 用 い て 人 と 重 り の 合 成 重 心 位 置 を 支 点 か ら ℓ A の 距 離
に 設 定 し た い 場 合 、 支 点 か ら 重 り を 置 く 位 置 ま で の 距 離 ℓw は 以 下 の
式で算出することができる。
𝓵𝐰 =
𝐦𝐀 𝓵𝐀 −𝐦𝐡 𝓵𝐡
𝐦𝐰
(式 9)
身 体 動 揺 計 測 で は 被 験 者 の 肩 か ら 重 り を 吊 り 下 げ る 高 さ と し て 、胸 式
呼 吸 と 腹 式 呼 吸 で 得 た 身 体 重 心 高 か ら 式 9 に よ っ て 算 出 さ れ た ℓw に
足 底 か ら 支 点 ま で の 距 離 1.6cm を 加 算 し た 値 を 用 い た 。
身 体 動 揺 は 被 験 者 の 足 圧 中 心 (COP)の 軌 跡 と し て 記 録 し た 。 フ ォ ー
ス プ レ ー ト に は 図 11 の よ う な 座 標 系 が 定 義 さ れ て お り 、4 つ の 力 セ ン
サ ー に 加 わ っ た 力 が x-y 平 面 上 で 計 測 さ れ る よ う に な っ て い る 。 4 つ
の セ ン サ ー か ら 得 ら れ た デ ー タ を 用 い て COP を 算 出 し た 。 フ ォ ー ス
プレート上の被験者の足底部から分散した圧力としてフォースプレ
ートに加えられた力を 1 つの合力とみなした場合の作用点座標を
COP と し て 算 出 し た 。 図 12 の よ う に 力 が 加 わ っ た 際 に こ れ ら の 力 が
x 軸・y 軸周りに生じさせるモーメントは以下の式であらわすことが
できる。なお、各軸の向きについて右回りのモーメントを正とする。
𝐛 × (𝐅𝐙𝟑 + 𝐅𝐙𝟒 − 𝐅𝐳𝟏 − 𝐅𝐙𝟐 ) + 𝐅𝐚𝐳 𝐚𝐲 + 𝐅𝐚𝐱 𝐜 = 𝟎
(式 10)
𝐚 × (𝐅𝐳𝟏 − 𝐅𝐙𝟐 − 𝐅𝐙𝟑 + 𝐅𝐙𝟒 ) − 𝐅𝐚𝐳 𝐚𝐱 − 𝐅𝐚𝐲 𝐜 = 𝟎
( 式 11 )
こ こ で Fz1・ Fz2・ Fz3・ Fz4 は そ れ ぞ れ セ ン サ ー に 作 用 す る 床 反 力 で あ
り 、F a x・ F a y・ F a z は フ ォ ー ス プ レ ー ト 上 に の る 被 験 者 が フ ォ ー ス プ
レ ー ト に 加 え た 合 力 の x 軸 ・ y 軸 ・ z 軸 成 分 を 表 す 。 ax と ay は Fax・
Fay・ Faz が 作 用 し た 座 標 を 示 し 、 a は 各 セ ン サ ー か ら y 軸 ま で の 距
17
離 を 、 b は 各 セ ン サ ー か ら x 軸 ま で の 距 離 を 、 c は x-y 平 面 か ら フ ォ
ー ス プ レ ー ト 表 面 ま で の 距 離 を 表 す 。式 1 0 と 式 11 よ り 次 の 式 が 成 り
立 ち 、 こ の 式 を 用 い る こ と で COP を 算 出 し た (日 本 キ ス ラ ー 社 フ ォ ー
ス プ レ ー ト 取 扱 説 明 書 )。
𝐚x =
𝐚×(𝐅𝐳𝟏 −𝐅𝐙𝟐 −𝐅𝐙𝟑 +𝐅𝐙𝟒 )−𝐅𝐚𝐲 𝐜
𝐚𝐲 = −
𝐅𝐚𝐳
𝐛×(𝐅𝐙𝟑 +𝐅𝐙𝟒 −𝐅𝐳𝟏 −𝐅𝐙𝟐 )+𝐅𝐚𝐱 𝐜
𝐅𝐚𝐳
(式 12)
(式 13)
身 体 動 揺 の 分 析 に は 2 種 類 の 解 析 ソ フ ト (Lab Chart7 ・ Image J,
National Institute of Health) を 使 用 し た 。 Lab Chart7 を 用 い て 算
出 ・ 表 示 し た COP の 経 時 変 化 の 典 型 例 を 以 下 に 示 す (図 13)。 被 験 者
が 試 技 の 吸 気 を 完 了 し て ガ ス メ ー タ ー の チ ュ ー ブ を 手 放 し 、腕 を 身 体
の 横 に 下 ろ し て 立 位 姿 勢 を と っ た 際 に 、ソ フ ト の 機 能 を 使 用 し て マ ー
ク を つ け た 。分 析 で は こ の ポ イ ン ト を 試 技 開 始 点 と し 、試 技 開 始 点 か
ら 20 秒 間 を 分 析 区 間 と し た 。 COP 軌 跡 は 分 析 区 間 内 の 全 COP 座 標
の 値 を 平 均 し た 点 を 軌 跡 の 中 心 と し て 表 示 し 、I m a g e J に よ っ て C O P
軌 跡 の 外 周 面 積 を 算 出 し た ( 図 1 4 ) 。各 被 験 者 の 代 表 値 は 同 一 呼 吸 様 式
で行った試技 5 回分の平均値とした。
18
図 11
フォースプレートの座標系
※ 原 点 O は x-y 平 面 上 に 位 置 す る
図 12
COP の 算 出
19
図 13
算 出 さ れ た COP の 典 型 例
※黒線で囲まれた色つき部分が外周面積
図 14
COP 軌 跡 典 型 例
20
リアクションボード法で計測した身体重心高の平均と標準偏差
は 、胸 式 高 条 件 に お い て 5 6 . 5 ± 0 . 6 % 、胸 式 低 条 件 に お い て 5 6 . 2 ± 0 . 6 % 、
腹 式 高 条 件 に お い て 56.7±0.6%、 腹 式 低 条 件 に お い て 56.1±0.6%で
あ っ た 。胸 式 高 条 件 と 腹 式 高 条 件 の 間 、及 び 胸 式 低 条 件 と 腹 式 低 条 件
の 間 に は 統 計 的 な 差 が 見 ら れ ず 、胸 式 低 条 件 と 腹 式 低 条 件 の 身 体 重 心
高が胸式高条件と腹式高条件の身体重心高よりも有意に低くなって
い た (p<0.01)。 胸 式 高 条 件 と 腹 式 低 条 件 は 重 り に よ る 身 体 重 心 高 の 調
節 を 行 わ な い 条 件 で あ っ た 。そ の た め 、胸 式 高 条 件 と 腹 式 低 条 件 の 身
体 重 心 高 が 重 り に よ っ て 身 体 重 心 高 の 調 節 を 行 っ た 腹 式 高 条 件・胸 式
低 条 件 と そ れ ぞ れ 差 が な か っ た こ と は 、重 り を 用 い た 身 体 重 心 高 の 調
整が呼吸様式間の身体重心高を入れ替えた条件である腹式高条件と
胸 式 低 条 件 の 設 定 を 正 確 に 行 え て い た こ と を 示 す 。以 上 よ り 、本 研 究
で は 異 な る 呼 吸 様 式 間 に 等 し い 身 体 重 心 高 の 条 件 を 設 け る こ と と 、同
じの呼吸様式の中で異なる身体重心高の条件を設けることができて
い た こ と が 示 さ れ た 。よ っ て 、胸 式 呼 吸 と 腹 式 呼 吸 と い う 2 種 類 の 呼
吸様式と呼吸様式間で生じる程度の身体重心高の高低という条件を
組 み 合 わ せ た 4 条 件 は 正 し く 設 定 で き て い た も の と 考 え ら れ る 。こ れ
より、実験の前提条件が満たされていたことが示された。
COP 面 積 に つ い て 身 体 重 心 高 の 高 低 と 呼 吸 様 式 に よ る 2 元 配 置 の
分 散 分 析 を 行 っ た 。交 互 作 用 が 見 ら れ た 際 の 下 位 検 定 は Tu k e y 法 に よ
る 多 重 比 較 を 行 っ た 。 統 計 処 理 に は 統 計 解 析 ソ フ ト (SPSS 12.0J for
Wi n f o w s , I B M 社 製 ) を 使 用 し た 。
21
第 3 章
結果
各 条 件 の 結 果 を 以 下 に 示 す (図 15)。 ま た 、 被 験 者 ご と の 結 果 を 表 2
と 図 16~19 に 示 す 。 COP 面 積 の 平 均 と 標 準 偏 差 は 胸 式 高 条 件 に お い
て 4 1 . 7 ± 1 8 . 1 m m 2 、胸 式 低 条 件 に お い て 3 1 . 9 ± 1 4 . 0 m m 2 、腹 式 高 条 件
に お い て 4 2 . 7 ± 2 4 . 6 m m 2 、腹 式 低 条 件 に お い て 2 5 . 7 ± 1 6 . 5 m m 2 で あ っ
た 。 呼 吸 様 式 間 で は 腹 式 低 条 件 に お い て COP 面 積 が 胸 式 高 条 件 よ り
も 1 6 . 1 ± 1 3 . 7 m m 2 小 さ い 値 を 示 し 、胸 式 低 条 件 に お い て 腹 式 高 条 件 よ
り も 10.9 ± 17.4mm2 小 さ い 値 を 示 し た 。 有 意 な 交 互 作 用 が 見 ら れ
(p<0.01)、 胸 式 低 条 件 と 腹 式 低 条 件 の COP 面 積 が 胸 式 高 条 件 と 腹 式
高 条 件 の COP 面 積 よ り も 有 意 に 小 さ く な っ て お り (p<0.01)、 胸 式 高
条 件 と 腹 式 高 条 件 の 間 、及 び 胸 式 低 条 件 と 腹 式 低 条 件 の 間 に は 統 計 的
な差が見られなかった。
*
*
*
70
*
60
50
40
COP面積
2
(mm ) 30
20
10
0
身体重心高
呼吸様式
高い
低い
胸式呼吸
図 15 COP 面 積
22
高い
低い
腹式呼吸
結果
*:p<0.01
表 2 COP 面 積
全被験者
23
120
100
80
COP面積
(mm2)
60
40
20
0
1
5
10
15
20
被験者
図 16 胸 式 高 条 件 COP 面 積
全被験者
120
100
80
COP面積
(mm2)
60
40
20
0
1
5
10
15
20
被験者
図 17 胸 式 低 条 件 COP 面 積
24
全被験者
120
100
80
COP面積
(mm2)
60
40
20
0
1
5
10
15
20
被験者
図 18 腹 式 高 条 件 COP 面 積
全被験者
120
100
80
COP面積
(mm2)
60
40
20
0
1
5
10
15
20
被験者
図 19 腹 式 低 条 件 COP 面 積
25
全被験者
第 4 章
考察
本 研 究 で は 、胸 式 呼 吸 と 腹 式 呼 吸 と い う 異 な る 呼 吸 様 式 間 で 身 体 動
揺 が 変 化 す る の か 、及 び 呼 吸 様 式 間 で 身 体 動 揺 が 変 化 し た 場 合 に 身 体
重心高がその要因となっているのかを明らかとすることを目的とし
て 実 験 を 行 っ た 。そ の 結 果 、身 体 重 心 高 の 低 い 条 件 で あ っ た 胸 式 低 条
件 と 腹 式 低 条 件 に お い て COP 面 積 が 小 さ く な っ た 。 以 上 よ り 、 呼 吸
様式に関わらず身体重心高が低い条件において身体動揺が小さくな
ることが明らかとなった。
胸式高条件と腹式低条件は重りを用いた身体重心高の調整を行わ
な か っ た 条 件 で あ り 、身 体 重 心 高 計 測 で 得 ら れ た こ の 2 条 件 の 身 体 重
心 高 は 呼 吸 様 式 間 で 生 じ る 身 体 重 心 高 の 変 化 を 示 す も の で あ っ た 。呼
吸 様 式 間 で 生 じ た 身 体 重 心 高 の 変 化 は 屈 ら (2001)や 丸 山 ら (2012)の 先
行 研 究 と 一 致 す る も の で あ っ た 。呼 吸 様 式 間 で の 身 体 重 心 高 の 変 化 は
約 0.4%で あ り 、 こ れ は 丸 山 ら の 研 究 に 見 ら れ た も の と 一 致 し た 。 ま
た 、身 体 重 心 高 の 条 件 設 定 の 際 に 重 り を 被 験 者 の 肩 か ら 吊 り 下 げ る 高
さの計算に使用した胸式高条件と腹式低条件の身体重心高について 3
回 計 測 し た 際 の 誤 差 を 算 出 し た 。 結 果 、 誤 差 は 胸 式 高 条 件 で 1.9mm、
胸 腹 式 低 条 件 で 1.4mm で あ っ た 。 こ れ ら は 胸 式 高 条 件 と 腹 式 低 条 件
の 間 の 身 体 重 心 高 の 差 よ り も 小 さ い も の で あ り 、本 研 究 で 用 い た 計 測
方法は呼吸様式間で生じた身体重心高の変化を計測できていたと考
え ら れ る 。そ の た め 、胸 式 高 条 件 と 腹 式 低 条 件 の 身 体 重 心 高 か ら 算 出
した高さに重りを吊り下げることで身体重心高を調節した胸式低条
件 と 腹 式 高 条 件 は 、重 り を 吊 り 下 げ る 高 さ つ い て 計 測 方 法 に 由 来 し た
26
誤 差 は 小 さ く 、本 研 究 で 得 ら れ た 身 体 重 心 高 の 低 い 条 件 で 身 体 動 揺 が
小さくなるという結果は信頼のおけるものであったと考えられる。
胸式低条件と腹式低条件という身体重心高の低い条件において身
体 動 揺 が 小 さ く な っ て い た と い う 結 果 は 、重 り を 被 験 者 の 腰 か ら 吊 り
下げた外部からの操作や立位からしゃがみ姿勢に姿勢を変化させる
こ と で 10~60cm ほ ど 身 体 重 心 高 が 低 く な っ た 条 件 に お い て 身 体 動 揺
が 抑 制 さ れ た と 報 告 し た R o s k e r e t a l . ( 2 0 11 ) や 執 行 ( 1 9 5 8 ) の 先 行 研 究
を 支 持 す る も の で あ っ た 。本 研 究 で 重 り を 使 っ て 身 体 重 心 高 を 調 節 し
た条件は呼吸様式を変化させずに身体重心高を胸式呼吸と腹式呼吸
の 呼 吸 様 式 間 で 入 れ 替 え た も の で あ っ た 。そ の た め 、 身 体 動 揺 に 影 響
を与え得る要素から重りによる身体重心高の調節に伴って変化した
の は 身 体 重 心 高 の み で あ っ た と 考 え ら れ る 。呼 吸 様 式 の み を 行 っ た 条
件と重りによって身体重心高を調節した条件のいずれにおいても身
体 重 心 高 が 低 い 条 件 に お い て 身 体 動 揺 が 小 さ か っ た こ と は 、呼 吸 様 式
によらず身体動揺が身体重心高の違いによって影響を受けていたこ
と を 示 す 。ま た 、身 体 重 心 高 の 高 い 条 件 と 低 い 条 件 の 間 の 身 体 重 心 高
の差は胸式呼吸と腹式呼吸の呼吸様式間で生じる身体重心高の差と
同 じ で あ っ た た め 、呼 吸 様 式 間 で 生 じ る よ う な 小 さ な 身 体 重 心 高 の 変
化 で あ っ て も 身 体 動 揺 に 影 響 を 与 え る こ と が 示 さ れ た 。よ っ て 、重 り
による身体重心高の調節が無い条件間で生じた身体動揺の変化は呼
吸様式間で生じた身体重心高の変化がその要因となったと考えられ
る 。加 え て 、呼 吸 様 式 に 関 わ ら ず 同 じ 身 体 重 心 高 の 条 件 間 で は 身 体 動
揺 に 差 が な く 、身 体 重 心 高 が 異 な る 条 件 間 の み で 身 体 動 揺 が 異 な っ て
い た 。こ の こ と は 、仮 に 姿 勢 維 持 の た め の 筋 活 動 や 呼 吸 、心 拍 、精 神 ・
神 経 的 な 要 因 (執 行 1958、 高 田 ら 1982、 山 本 1979、 Rosker et al.
27
2 0 11 、 長 谷 2 0 0 6 、 村 田 ら 2 0 0 5 ) と い っ た 身 体 重 心 高 以 外 の 要 因 が 呼
吸 様 式 間 で 身 体 動 揺 に 影 響 を 与 え て い た と し て も 、身 体 重 心 高 が 身 体
動 揺 に 与 え た 影 響 が 他 の 要 因 よ り 大 き い も の で あ っ た こ と を 示 す 。以
上 よ り 、身 体 動 揺 の 変 化 を 生 じ さ せ る 主 要 な 要 因 は 身 体 重 心 高 の 変 化
で あ り 、身 体 重 心 高 は 呼 吸 様 式 間 で 生 じ る 程 度 の 大 き さ の 変 化 で あ っ
て も 身 体 動 揺 に 影 響 を 与 え る こ と 、及 び 身 体 重 心 高 が 低 く な る 条 件 で
身体動揺が小さくなることが示された。
被 験 者 ご と の 身 体 動 揺 に 注 目 す る と 、 多 く の 被 験 者 の COP 面 積 が
身 体 重 心 高 の 低 い 条 件 に お い て 小 さ い 値 を 示 す も の の 、同 じ 条 件 に お
け る 被 験 者 間 で の COP 面 積 は 被 験 者 ご と に ば ら つ き が 見 ら れ た 。 個
人間での身体動揺は身長や体重という個人の身体的な特徴の違いに
よ っ て 異 な る こ と が 報 告 さ れ て お り (臼 井 1995、 Hue et al. 2007)、
Ku et al.(2012) は 身 長 あ た り の 体 重 に よ っ て 人 の 体 格 や 肥 満 度 を 表
す 指 標 と し て 広 く 用 い ら れ る BMI の 値 が 大 き い 人 は BMI の 値 が 小 さ
い 人 に 比 べ て 立 位 時 の 安 定 性 が 低 い こ と を 報 告 し て い る 。本 研 究 で 見
ら れ た 被 験 者 ご と の COP 面 積 の ば ら つ き も こ の よ う な 被 験 者 ご と の
身 体 的 な 特 徴 に 影 響 を 受 け た 可 能 性 が 考 え ら れ た た め 、実 験 で 得 た デ
ー タ に つ い て 被 験 者 間 で の 分 析 を 行 っ た 。被 験 者 間 の 分 析 は 、胸 式 高
条件・胸式低条件・腹式高条件・腹式低条件における被験者ごとの
COP 面 積 と 被 験 者 の 身 長 ・ 体 重 、 及 び 体 重 (kg)/身 長 (m)2 に よ っ て 算
出 し た BMI に つ い て ピ ア ソ ン の 積 率 相 関 係 数 を 用 い て 行 っ た 。 被 験
者 間 の 分 析 に 用 い た 被 験 者 の デ ー タ を 以 下 に 示 す (表 3)。
28
表 3 被験者の身体的特徴
分 析 の 結 果 、胸 式 高 条 件 で は COP 面 積 と 体 重 の 間 、 COP 面 積 と BMI
の 間 に 有 意 な 正 の 相 関 が 見 ら れ (p<0.01)、 胸 式 低 条 件 で は COP 面 積
と B M I の 間 に 有 意 な 正 の 相 関 が 見 ら れ た ( p < 0 . 0 1 ) 。ま た 、腹 式 高 条 件
で は C O P 面 積 と 体 重 の 間 、C O P 面 積 と B M I の 間 に 有 意 な 正 の 相 関 が
見 ら れ (p<0.05)、 腹 式 低 条 件 で は い ず れ の 項 目 も COP 面 積 と 相 関 が
見 ら れ な か っ た (図 20~22)。
29
y = 1.4445x-52.827
100
90
70
COP面積
(mm2)
90
r=0.583
80
y = 5.7848x-88.624
100
r=0.614
80
p<0.01
70
p<0.01
60
COP面積
(mm2)
50
40
60
50
40
30
30
20
20
10
10
0
0
40
60
80
100
15
20
BMI(kg/m2)
体重(kg)
図 20 胸 式 高 条 件
COP 面 積 と 体 重 、 BMI の 相 関
の相関
y = 4.3039x-65.104
80
70
r=0.593
60
p<0.01
50
COP面積
40
(mm2)
30
20
10
0
15
20
25
25
30
BMI(kg/m2)
図 21 胸 式 低 条 件
30
COP 面 積 と BMI の 相 関
30
140
y = 1.4993x-55.4
140
y = 6.0197x-92.904
120
r=0.446
120
r=0.475
100
p<0.05
100
COP面積
(mm2)
p<0.05
80
COP面積
(mm2)
60
80
60
40
40
20
20
0
0
40
60
80
100
15
20
25
BMI(kg/m2)
体重(kg)
図 22 腹 式 高 条 件
COP 面 積 と 体 重 、 BMI の 相 関
COP 面 積 と 体 重 、 も し く は BMI の 間 に 有 意 な 正 の 相 関 が 見 ら れ た こ
とは同じ条件内の被験者間で見られた身体動揺の違いが体重や体格
と い っ た 被 験 者 ご と の 身 体 的 な 特 徴 に 影 響 を 受 け て お り 、体 重 が 重 く
体 格 の 良 い 被 験 者 ほ ど 身 体 動 揺 が 大 き い こ と を 示 す 。一 方 で 、同 じ 条
件 の 中 で は COP 面 積 と 身 長 の 間 に は 相 関 が 見 ら れ な か っ た 。 そ の た
め 、身 長 は 同 じ 条 件 内 に お け る 被 験 者 間 の 身 体 動 揺 の 違 い に は 影 響 し
て い な い こ と が 示 さ れ た 。以 上 よ り 、同 一 条 件 内 に お け る 身 体 動 揺 の
被験者間での違いは被験者の体重や体格といった身体的な特徴に影
響を受けていることが明らかとなった。
被 験 者 の 一 部 に は 条 件 間 の 分 析 で 得 ら れ た 結 果 と 異 な り 、身 体 重 心
高 が 低 い 条 件 に お い て 身 体 動 揺 が 大 き い 被 験 者 が 見 ら れ た 。被 験 者 2 0
名 の う ち 、胸 式 高 条 件 と 腹 式 高 条 件 の い ず れ か よ り も 胸 式 低 条 件 と 腹
式 低 条 件 に お け る 身 体 動 揺 が 大 き か っ た 被 験 者 は 6 名 で あ り 、そ の う
ち 5 名が胸式低条件において胸式高条件もしくは腹式高条件よりも身
31
30
体 動 揺 が 大 き か っ た 。胸 式 低 条 件 は 重 り に よ る 身 体 重 心 高 の 調 節 を 行
っ た 条 件 で あ っ た た め 、胸 式 低 条 件 に お い て 身 体 動 揺 が 大 き く な っ た
理由として重りによる影響が考えられる。1 つは重りを取り付けるこ
と に よ る 見 か け 上 の 体 重 の 増 加 で あ る 。重 り を 取 り 付 け る こ と に よ っ
て 被 験 者 の 体 重 は 増 加 し た こ と に な る た め 、先 行 研 究 に よ る 報 告 ( H u e
et al. 2007)や 前 述 し た 個 人 間 の 分 析 で 明 ら か に な っ た よ う に 体 重 が
重くなることで身体動揺が大きくなった可能性がある。また、2 つ目
の可能性として吸気時に被験者の肩が上がっていたことが考えられ
る 。身 体 重 心 高 の 調 節 に 用 い た 重 り は 被 験 者 の 肩 か ら 吊 り 下 げ て い た 。
胸式呼吸は呼吸を生じさせる胸郭と横隔膜の動きのうち主に胸郭の
動 き に よ っ て 生 じ る 呼 吸 で あ る ( 中 村 ら 2 0 0 3 、浅 見 と 平 井 1 9 9 6 ) 。胸
式 呼 吸 の 吸 気 時 に 胸 郭 内 の 容 積 は 上 下・左 右・前 後 方 向 へ 広 が る た め 、
被 験 者 に よ っ て は 吸 気 に 伴 っ て 肩 が 上 が る と 考 え ら れ る 。肩 が 上 が る
と 肩 か ら 吊 り 下 げ た 重 り が 上 方 へ 移 動 す る た め 、結 果 的 に 実 験 時 に 被
験 者 の 身 体 重 心 高 が 実 験 設 定 よ り も 高 く な っ て い た 可 能 性 が あ る 。全
被験者のうち胸式低条件において身体動揺が大きかった被験者は 5 名
で あ っ た 。そ の た め 、影 響 が あ る 場 合 は 被 験 者 全 員 に 適 用 さ れ る と 考
えられる重りによる体重増加は一部の被験者の身体動揺だけが条件
間 の 分 析 と 異 な る 変 化 を し た 原 因 と は な ら な い 。ま た 、条 件 間 の 分 析
において身体重心高が同じ条件間では重りの有無にかかわらず統計
的な差が見られなかったことより重りによる体重の増加が身体動揺
に 影 響 し た と は 考 え に く い 。一 方 で 、吸 気 に 伴 う 肩 と 重 り の 高 さ の 変
化 に よ る 身 体 重 心 高 の 変 化 が 身 体 動 揺 に 影 響 し た と す る と 、こ の 場 合
の 身 体 重 心 高 の 変 化 は 被 験 者 個 人 が 行 う 吸 気 の 出 来 に よ る た め 、一 部
の被験者の身体動揺が胸式低条件で大きくなった理由としては重り
32
による体重の増加よりも吸気に伴う肩の上がりが生じた可能性の方
が高いと考えられる。
Wi n t e r e t a l . ( 1 9 9 8 ) は 立 位 時 の 人 の 身 体 重 心 の 動 揺 が 前 後 方 向 ( 矢
状 面 ) に 比 較 し て 左 右 方 向 ( 前 額 面 ) で 少 な い こ と を 報 告 し て い る 。加 え
て 、 Wi n t e r e t a l . ( 2 0 0 3 ) は 左 右 の 足 底 そ れ ぞ れ で C O P 軌 跡 の 計 測 を
行 い 、 左 右 足 そ れ ぞ れ の COP が 主 に 前 後 方 向 に 変 動 し て お り 、 左 右
方 向 の 変 動 は 僅 か で あ っ た と し て い る 。 こ れ か ら Wi n t e r e t a l . は 、 矢
状 面 (前 後 )に お け る COP の 動 き が 両 足 の COP の 前 後 の 動 き に よ る も
の で あ る こ と 、 前 額 面 (左 右 )に お け る COP の 動 き が 両 足 の 荷 重 比 に
よ っ て 規 定 さ れ て い る こ と を 報 告 し て い る 。 Prieto et al.(1996)は 左
右 方 向 の COP に は 加 齢 の よ う な 一 般 的 に 身 体 動 揺 が 大 き く な る 要 因
に よ る 変 化 が 現 れ な か っ た と 報 告 し て い る 。 ま た 、 白 戸 ら (1989)は 健
常人の身体動揺は前後方向と左右方向の動揺に相関関係がほとんど
見 ら れ な か っ た と し て い る 。こ れ ら か ら 、
身体動揺が大きくなる場合、左右方向の
身体動揺は影響を受けないか変化が小さ
く、変化が生じるのは主に前後方向の身
体動揺であると考えられる。前後方向で
見 た 立 位 姿 勢 の 仕 組 み の 説 明 に は 、 図 23
のような足関節を支点とした逆振り子モ
デ ル (inverted pendulum model) が 用 い
ら れ て い る ( Wi n t e r e t a l . 1 9 9 8 , 長 谷
2 0 0 6 ) 。逆 振 り 子 モ デ ル に お い て 力 学 的 に
安定した状態は、支点となっている足関
図 23 逆 振 り 子 モ デ ル
節の真上に身体重心が位置している状態
33
で あ る 。 実 際 は 、 立 位 時 の 身 体 重 心 は 足 関 節 か ら 約 30~50mm 前 方 に
位 置 し て お り (Gurfinkel et al. 1995)、 身 体 に 作 用 す る 重 力 に よ り 足
関 節 に は 背 屈 方 向 の モ ー メ ン ト が 作 用 す る 。そ の た め 、立 位 姿 勢 は 下
肢背部の筋が前方へ体が回転するのを防ぐことで維持されている
( Wi n t e r e t a l . 1 9 9 8 , 長 谷 2 0 0 6 ) 。 O k a d a ( 1 9 7 2 ) は 楽 な 立 位 を 取 っ て い
る場合であっても下腿三頭筋の活動量が他の筋に比較して多かった
と 報 告 し て い る 。足 関 節 を は じ め と し た 各 関 節 の 角 度 が 変 化 せ ず に 逆
振 り 子 モ デ ル で 身 体 重 心 高 が 変 化 す る と 、そ れ に 伴 っ て 足 関 節 を 支 点
と し た 身 体 に 作 用 す る 重 力 の モ ー メ ン ト ア ー ム の 長 さ が 変 化 す る 。身
体に作用する重力のモーメントアーム長が短くなると身体を前方に
回 転 さ せ る モ ー メ ン ト が 小 さ く な る 。そ の た め 、足 関 節 を は じ め と し
た関節角度が変化せずに同じ姿勢をとっていた場合は身体重心高が
低 い 方 が よ り 立 位 姿 勢 の 維 持 が 容 易 に な る と 考 え ら れ る 。 Wi n t e r e t
al.(2003) は 前 後 方 向 の 身 体 動 揺 で 見 ら れ た 揺 れ の 大 き さ と 足 部 の 踵
回りに生じるモーメントの大きさの間に高い正の相関があったこと
を 報 告 し て い る 。ま た 、S m i t h ( 1 9 5 4 ) は C O P の 前 後 へ の 動 き に 伴 い 足
関 節 回 り の モ ー メ ン ト が 変 化 し 、骨 や 筋 、靭 帯 な ど の 足 を 支 え る 構 造
へ の 負 荷 が 変 化 す る と 報 告 し て い る 。以 上 よ り 、身 体 重 心 高 が 低 く な
る こ と で 身 体 に 作 用 す る 重 力 の モ ー メ ン ト ア ー ム 長 が 短 縮 し 、身 体 を
前方に回転させるモーメントが減少して前後方向の立位姿勢を制御
す る 抗 重 力 筋 に か か る 負 荷 軽 減 に つ な が っ た こ と が 、身 体 重 心 高 が 低
く な る 条 件 で 身 体 動 揺 が 小 さ く な っ た 理 由 と 考 え ら れ る 。 Portnoy &
Morin(1956)は 身 体 重 心 の 僅 か な 変 化 が 筋 活 動 に 変 化 を 生 じ さ せ る と
報 告 し て お り 、呼 吸 様 式 間 で 生 じ る よ う な 大 き さ の 身 体 重 心 高 の 変 化
によっても同様の現象が起こっていたものと推察される。
34
本 研 究 で 設定 し た 胸 式 高 条 件、胸 式 低 条 件、腹 式 高 条 件 、腹式 低 条
件 の う ち 、胸 式 高 条 件 と 腹 式 低 条 件 は 重 り に よ る 身 体 重 心 高 の 調 節 を
行 わ な い 条 件 で あ り 、呼 吸 様 式 を 使 い 分 け る だ け で 行 え る 条 件 で あ っ
た 。 そ の た め 、 身 体 重 心 高 が 低 く な る 腹 式 呼 吸 ( 屈 ら 2001 、 丸 山 ら
2012)に よ る 吸 気 を 用 い る こ と で 、 立 位 時 の 身 体 動 揺 を 小 さ く で き る
こ と が 明 ら か と な っ た 。こ の こ と は 、身 体 動 揺 を 小 さ く す る 必 要 が あ
る 状 況 で 腹 式 呼 吸 が 有 用 な 技 術 と な り 得 る こ と を 示 し 、呼 吸 様 式 の 新
た な 有 用 性 を 示 す も の で あ る と 考 え ら れ る 。呼 吸 様 式 に つ い て 行 わ れ
た 研 究 は 腹 式 呼 吸 に 伴 い 副 交 感 神 経 の 活 動 が 亢 進 し 、リ ラ ッ ク ス 効 果
が 生 じ る ( 坂 本 2001)と い う よ う な 神 経 ・ 精 神 的 な も の が 多 く 、 呼 吸
そ の も の に よ っ て 生 じ る 身 体 重 心 高 の 変 化 (屈 ら 2001、 丸 山 ら 2012)
や本研究で扱った身体動揺のような物理的な現象について呼吸と関
連 さ せ た 研 究 は ほ と ん ど 行 わ れ て い な い 。し か し 、腹 式 呼 吸 に 伴 う 身
体重心と浮心の位置関係が変化することによる水泳パフォーマンス
向 上 の 可 能 性 を 示 し た 丸 山 ら (2012)の 研 究 に 見 ら れ る よ う に 、 呼 吸 に
伴って生じる物理的な現象がスポーツなどへ好影響をもたらす可能
性 が 考 え ら れ る 。本 研 究 で 明 ら か と な っ た 呼 吸 様 式 間 で 生 じ る 身 体 重
心高の変化が身体動揺に与える影響も身体動揺がパフォーマンスに
影 響 す る よ う な ス ポ ー ツ で あ れ ば 有 用 な も の と な り 得 る 。 Keast &
Elliott(1990) は ア ー チ ェ リ ー に お い て 身 体 動 揺 が 大 き い 射 は 点 数 や
選 手 の 自 己 評 価 が 低 か っ た と 報 告 し て い る 。ア ー チ ェ リ ー や 射 撃 の よ
うな的を狙い撃つ精密さが求められる競技においては腹式呼吸の吸
気によって身体動揺を小さくすることで競技中の照準ブレを軽減し、
パ フ ォ ー マ ン ス を 向 上 さ せ ら れ る 可 能 性 が あ る 。こ れ ら の 競 技 で 選 手
は 個 々 に 決 ま っ た 構 え を と る た め 、的 を 狙 っ て い る 際 に 姿 勢 を 大 き く
35
変 え て 身 体 重 心 高 を 下 げ 、身 体 動 揺 を 小 さ く す る こ と が で き な い 。一
方 で 吸 気 は 姿 勢 を 大 き く 変 化 さ せ ず と も 行 う こ と が で き る た め 、吸 気
に よ っ て 身 体 重 心 高 を 下 げ 、身 体 動 揺 を 小 さ く で き る 腹 式 呼 吸 は 姿 勢
を ほ と ん ど 変 え ず に 身 体 動 揺 を 小 さ く で き る 利 点 が あ る 。加 え て 、一
般 に 落 ち 着 い て い る こ と が 重 要 と さ れ る 射 的 競 技 で は 、先 行 研 究 で 扱
わ れ た よ う な 腹 式 呼 吸 の リ ラ ッ ク ス 効 果 ( 坂 本 2001)も 有 利 に 働 く と
考 え ら れ る 。そ の た め 、腹 式 呼 吸 は 射 的 競 技 に 応 用 す る こ と で 、的 を
狙う際に同じ構えのまま身体重心高を下げて身体動揺を小さくする
物 理 的 な 効 果 と 、呼 吸 法 に よ る リ ラ ッ ク ス と い う 精 神 的 な 効 果 の 両 面
か ら 競 技 パ フ ォ ー マ ン ス の 向 上 に 貢 献 す る 技 術 と な り 得 る 。以 上 の よ
うに呼吸をスポーツに有用な技術として応用できる可能性があるこ
と か ら 、本 研 究 で 得 ら れ た 知 見 は 呼 吸 様 式 と 身 体 重 心 高 、身 体 動 揺 の
関係を明らかにしたという点で価値のあるものであったと考える。
本 研 究 で 身 体 動 揺 の 大 き さ を 示 す 指 標 と し て 用 い た COP 面 積 は 計
測 さ れ た C O P 軌 跡 の 外 周 面 積 で あ っ た 。こ れ は C O P 軌 跡 に 囲 ま れ た
部 分 の 面 積 で あ る た め 、仮 に C O P が 大 き く 動 い て い て も C O P 軌 跡 に
囲 ま れ る 部 分 が 少 な い 場 合 は 面 積 が 小 さ く な り 、 逆 に 偶 発 的 に COP
軌跡が囲む部分が大きくなった場合は面積が大きくなる性質がある。
そ の た め 、C O P 軌 跡 の 外 周 面 積 は 場 合 に よ っ て は 身 体 動 揺 の 大 き さ を
過 小 あ る い は 過 大 に 評 価 す る 可 能 性 が あ り 、身 体 動 揺 を 定 量 化 す る 他
の指標を用いて本研究と同様の実験を行った場合は異なる結果が得
ら れ る 可 能 性 が あ る 。身 体 動 揺 を 定 量 化 す る 際 に 用 い ら れ る 主 な 指 標
に は 本 研 究 で 用 い た COP 軌 跡 の 外 周 面 積 の 他 に も COP の 軌 跡 長 や
COP の 前 後 ・ 左 右 方 向 の 最 大 振 幅 を 掛 け 合 わ せ た 長 方 形 の 面 積 (矩 形
面 積 )と い っ た も の が あ る (中 山 1987、 渡 辺 ら 1986、 伊 保 ら 1985)。
36
一 定 時 間 内 で 計 測 し た COP の 軌 跡 長 は COP が ど の よ う な 範 囲 を 移 動
し た か に よ ら ず COP の 移 動 速 度 に 依 存 す る た め 、 身 体 動 揺 の 大 き さ
よ り は 身 体 動 揺 の 速 さ や 激 し さ を 表 す と 考 え ら れ る 。C O P の 前 後 ・ 左
右 方 向 の 最 大 振 幅 を 掛 け 合 わ せ た 矩 形 面 積 は COP 軌 跡 の 外 周 面 積 と
同 様 に 身 体 動 揺 の 大 き さ を 表 す 。し か し 、矩 形 面 積 は 前 後・左 右 方 向
そ れ ぞ れ に つ い て 最 も 離 れ て 計 測 さ れ た 2 点 の COP の 距 離 を 掛 け 合
わ せ て 算 出 す る た め (図 24)、 COP の 偶 発 的 な 動 き に 面 積 が 大 き く 左
右 さ れ る (渡 辺 ら 1987)。 COP 軌 跡 の 外 周 面 積 は 偶 発 的 に 生 じ る COP
の 大 き な 動 き に よ る 影 響 が 矩 形 面 積 よ り も 小 さ い と さ れ (渡 辺 ら
1 9 8 7 ) 、本 研 究 で は 矩 形 面 積 に 比 べ て 外 周 面 積 に お い て 同 じ 被 験 者 が
同 じ 条 件 の 試 技 を 行 っ た 際 の 計 測 値 の 変 動 が 小 さ か っ た (表 4)。 以 上
よ り 、 身 体 動 揺 の 大 き さ を 評 価 す る に は COP 軌 跡 の 外 周 面 積 が 最 も
適 当 と 判 断 し 、 本 研 究 で は COP 軌 跡 の 外 周 面 積 を 身 体 動 揺 の 大 き さ
を評価する指標として用いた。
37
図 24
表 4
COP 軌 跡 の 外 周 面 積 と 矩 形 面 積
身体動揺の大きさを表す指標と変動係数
変 動 係 数 (%)
条件
外周面積 矩形面積
胸式高条件
32.1
39.4
胸式低条件
29.6
38.6
腹式高条件
33.4
41.2
腹式低条件
24.3
35.0
平均
29.9
38.5
38
第 5 章
結論
本 研 究 の 目 的 は 、胸 式 呼 吸 と 腹 式 呼 吸 と い う 異 な る 呼 吸 様 式 間 で 身
体 動 揺 が 変 化 す る の か 、及 び 呼 吸 様 式 間 で 身 体 動 揺 が 変 化 し た 場 合 に
身体重心高がその要因となっているかを明らかとすることであった。
実 験 よ り 、呼 吸 様 式 に 関 わ ら ず 身 体 重 心 高 が 低 い 条 件 に お い て 身 体 動
揺 が 小 さ く な る こ と が 示 さ れ 、呼 吸 様 式 間 で 生 じ る よ う な 大 き さ の 身
体 重 心 高 の 変 化 が 身 体 動 揺 に 影 響 を 与 え る こ と が 明 ら か に な っ た 。以
上 よ り 、呼 吸 様 式 間 で 生 じ る 小 さ な 身 体 重 心 高 の 変 化 は 呼 吸 様 式 間 で
身 体 動 揺 が 変 化 す る 主 要 な 要 因 と な り 、身 体 重 心 高 が 低 く な る 呼 吸 様
式である腹式呼吸において身体動揺が小さくなることが明らかにな
った。
39
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43
of
謝辞
本研究は指導教員である矢内利政教授のご指導の下で行われまし
た。矢内利政教授には、研究のアイデアや考え方、授 業、さらには日
頃 の 雑 談 に 至 る ま で 多 岐 に わ た っ て お 世 話 に な り ま し た 。研 究 と い う
も の に 関 す る 専 門 知 識 に 乏 し く 、客 観 的 に 物 事 を 見 る こ と が 不 得 手 な
私 に 丁 寧 な ご 指 導 を し て い た だ き ま し た こ と へ 、こ こ で 感 謝 の 意 を 表
します。お世辞にも出来の良い学生であったとは言えない私ですが、
学部のゼミのころから続けてご指導いただきありがとうございまし
た。
副 査 を 引 き 受 け て い た だ き ま し た 川 上 泰 雄 教 授 、な ら び に 志 々 田 文
明 教 授 に 感 謝 の 意 を 表 し ま す 。川 上 泰 雄 教 授 に は 全 体 ミ ー テ ィ ン グ な
ど で ア ド バ イ ス を 頂 い た 他 、授 業 で も お 世 話 に な り ま し た 。ま た 、研
究室のイベント担当であった私が時々お部屋に訪れた際も丁寧に対
応 し て い た だ き あ り が と う ご ざ い ま し た 。志 々 田 文 明 教 授 に は 学 部 時
代 の 卒 業 研 究 に 引 き 続 き 副 査 を 引 き 受 け て い た だ き ま し た 。分 野 の 違
う研究にも関わらず副査を引き受けていただきましたことをお礼申
し上げます。
現在カルガリー大学にいらっしゃる阪口正律さんにはフォースプ
レ ー ト で C O P を 計 測 す る た め の 方 法 を 教 え て い た だ き ま し た 。ま た 、
COP 算 出 に 必 要 な 機 材 固 有 の パ ラ メ ー タ ー 表 が 行 方 不 明 に な っ て い
た の を 見 つ け て い た だ き ま し た 。阪 口 正 律 さ ん の お か げ で 修 士 論 文 の
中で扱った計測を行うことができました。ここにお礼申し上げます。
博 士 課 程 の 丸 山 祐 丞 さ ん に は 学 部 時 代 の 卒 業 研 究 の 時 か ら 、様 々 な
面 で ア ド バ イ ス を 頂 き ま し た 。研 究 に 関 す る こ と か ら 人 と の コ ミ ュ ニ
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ケーションに至るまで多岐にわたるアドバイスをくださいましたこ
と に 感 謝 い た し ま す 。ま た 、丸 山 祐 丞 さ ん が 制 作 し た リ ア ク シ ョ ン ボ
ードを研究に使用させていただきましたこともここでお礼申し上げ
ます。
引っ込み思案な自分をいじり倒してくださったバイオメカニクス
研究室の皆様と、同期の木村君、谷 君、菱川君、田 村君にここでお礼
申 し 上 げ ま す 。人 と 話 す こ と が 下 手 で 常 識 知 ら ず な 私 の せ い で ご 迷 惑
を お か け し た こ と が 多 々 あ っ た と 思 い ま す が 、皆 様 の お か げ で 勉 強 に
な る こ と が 多 か っ た で す 。ま た 、同 期 の 田 村 君 は 同 期 の 中 で 一 人 だ け
自前の移動手段を持っていなかった私をしばしば車に乗せてくださ
りありがとうございました。
最 後 に 、私 を 生 れ て か ら こ れ ま で 支 え 続 け て く だ さ っ た 両 親 、家 族 、
親族の皆様に感謝いたします。
小野寺
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亘
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Thank you for your participation!

* Your assessment is very important for improving the work of artificial intelligence, which forms the content of this project

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