教育プログラム

教育プログラム

平成 17 年度 文部科学省委託

専 修 学 校 教 育 重 点 支 援 プラン e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの e ラーニング

教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

はじめに

リハビリテーション分野に限らず、 e ラーニング活用のニーズは社会的に高まっている。本

委員会では、リハビリテーション分野における養成教育や卒後教育に e ラーニングを活用

して、より効率的な教育活動ができるよう、現在教育界で注目されているインストラクシ

ョナルデザイン手法を用いて、教材開発・教授法・実施法に関する研究を行い、その効果

について検討を行なった。本報告書は委員会で検討および実施した内容を網羅している。

リハビリテーション分野以外の方々でも、これから e ラーニングを導入する学校は是非、

本プログラムを役立てていただきたい。

このプログラムを作成するにあたり、インストラクショナルデザインを導入している株式

会社国際電気セミコンダクターサービス様、 e ラーニング導入校の星城大学様、アットマー

ク国際高等学校様を視察し参考とさせていただいた。また、プログラムやコンテンツ開発

には防衛庁海上幕僚監部人事教育部の君島浩様および

NEC テレネットワークス株式会社

の原田典昭様、両名のインストラクショナルデザイナーのアドバイスをいただいた。ご協

力をいただいたことに心より感謝したい。

最後に、本プログラムの作成にかかわった各委員の皆様、アドバイスをいただいた各企業

の皆様に謝意を表する。

平成

18 年 3 月

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の

教育プログラム開発」プロジェクト事務局 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム iii

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

平成

17 年度

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発

および教授法の教育プログラム開発」のプロジェクト委員

委員長 徳重 稔

副委員長 松崎 英明

木村 孝

青山 克実

学校法人麻生塾

学校法人福田学園

麻生リハビリテーション専門学校

麻生リハビリテーション専門学校

西村 敦

高橋 泰子

大阪リハビリテーション専門学校

大阪リハビリテーション専門学校

君島 浩 防衛庁海上幕監部人事教育部

原田 典昭

NEC テレネットワークス株式会社

藤嶋 徳善

TAC 株式会社

佐藤 信也 株式会社イー・コミュニケーションズ

柴田 健二

浦山 昌志

栗原 良太

麻生教育サービス株式会社

株式会社

株式会社

IP イノベーションズ

IP イノベーションズ e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム iv

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

目次

はじめに

................................................................................................................................ iii

第1章

.................................................................................................................................. 1-1

プロジェクト概要

................................................................................................................ 1-1

1.1 事業の目的と概要 ................................................................................................. 1-2

第2章

.................................................................................................................................. 2-1

リハビリテーション教育分野の特徴

................................................................................... 2-1

2 リハビリテーション教育分野の特徴 ........................................................................... 2-2

2.1 リハビリテーション技術者の種類とその役割 ..................................................... 2-2

2.2 リハビリテーション業務の特徴 ........................................................................... 2-8

2.3 標準的な教育カリキュラム例............................................................................. 2-10

2.4 リハビリテーション教育現場教育に対する課題................................................ 2-64

3 章.................................................................................................................................. 3-1

インストラクショナルデザインの調査・分析とリハビリテーション教育への適用

...................... 3-1

3 インストラクショナルデザインの調査・分析とリハビリテーション教育への適用 .. 3-2

3.1 各種インストラクショナルデザインの調査 ......................................................... 3-2

3.2 インストラクショナルデザインのリハビリテーション教育への適用............... 3-21

第4章

.................................................................................................................................. 4-1

リハビリテーション教育におけるコース開発

.................................................................... 4-1

4 リハビリテーション教育におけるコース開発............................................................. 4-2

4.1 eラーニング化の方針決定要素 ........................................................................... 4-2

4.2 e ラーニング化の手法紹介と選定方法 ............................................................... 4-25

4.3 e ラーニングコース開発の流れ .......................................................................... 4-38

4.4 e ラーニングコース運用について....................................................................... 4-48

4.5 e ラーニングコース評価について....................................................................... 4-51

5 章.................................................................................................................................. 5-1

視察報告

.............................................................................................................................. 5-1

5.1 アットマーク国際高等学校視察 ........................................................................... 5-2

5.2 (株)国際電気セミコンダクターサービス視察................................................ 5-23

5.3 星城大学視察....................................................................................................... 5-49

第6章

.................................................................................................................................. 6-1

終わりに

.............................................................................................................................. 6-1

6 まとめ........................................................................................................................... 6-2 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム v

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム vi

第 1 章

プ ロ ジ

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

1.1

事業の目的と概要

リハビリテーションの分野では、最近学校や学部の新設が目覚しく、新しい教育の機会に

乗り出す学校も数少なくない。その中で、教育の内容を設計するために

ID(インストラク

ショナルデザイン)を導入し、かつその設計した教育内容をeラーニング化していくとい

うことにおいて、この分野はまだスタートしたばかりというのが現状ではないだろうか。

本事業では、リハビリテーション分野における学校教育や卒後教育に e ラーニングを活用

し、より効率的な教育活動ができるよう、現在教育界で注目されているインストラクショ

ナルデザイン手法を

( 注 1)

用いて、教材開発・教授法・実施法に関する実証研究を行い、その

効果について検討するものである。

1.1.1

事業の目的

リハビリテーションの養成過程には、以下の

3 つの課題がある。

① 養成を受ける学生の大半は文系の学生であるが、養成時に学習する医学・リハ

ビリテーション学には、生物や物理といった理系の講義内容が大量に含まれる。

特に医学用語は難解なものが多く、一度の聴講でその内容を十分理解するのは

困難なことが多い。

② 養成のうち実技演習に関しては、専任教員が担当して反復学習を十分させるこ

とができるが、特に基礎医学の講義に関しては、専任教員で担当することが困

難で学外講師に依存した教員構成となっている。したがって、基礎医学講義の

講義内容について、学生理解度を判定した上で、補講を自由に行える環境に無

い。

③ リハビリテーションを担うセラピストにとって、生涯教育は必要不可欠である

が、卒後教育を行う場合、学校から遠隔地に就職した卒業生に対する研修の供

与について地理的なハンディが存在すること、また子どもの養育や家族介護な

どの時間的制約が研修供与の妨げになることが、問題としてある。

今回の事業においては、上記の課題を解決する手立てとして、インストラクショナルデザ

イン手法(以下

ID 手法)を用いて e ラーニングを実施し、教材開発・教授法・実施法につ

いて、より効率的な内容を開発することを目的とする。

今回の事業で

ID 手法を用いるのは、麻生塾で 2 年前に導入した e ラーニングの利用者(教

員)から以下の声が上がったためである。

① 対面授業と比較して e ラーニングの学習効果は高いのか?

② e ラーニングの効果的な実施方法はどうすればよいのか?

③ e ラーニング学習における教員の役割や教授法などは、どうすればよいのか?

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 1-2

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

このような疑問を解決するためには、何らかの教育工学的

( 注 2)

な研究が必要である。教育工

学の専門家がいない専修学校においては非常に弱い点でもあるが、 e ラーニングという新し

い教育手法を導入するためにはこの研究は必須である。今回の開発で

ID 手法を取り入れた

のは、この教育工学的アプローチが必要であると実感したからである。

本事業はリハビリテーションに絞ってはいるが、他の分野でも応用できるものであり、e ラーニングに

興味を持っている多くの専修学校が活用できるものと確信している。

(注 1) インストラクショナルデザイン手法:教育を効率的かつ効果的に行うために、

企画、設計、開発、運用を行う方法論のこと。

(注2) 教育工学:アメリカ教育工学・コミュニケーション学会では「教育工学とは、

学習の過程と資源についての設計、開発、運用、管理、ならびに評価に関する理論と

実践である」と定義している。ID と類似した内容であるが、教育工学は初等中等教育

用、ID は高等・企業教育用に利用されるケースが多い。一般に教育を専門とする方は、

教育工学がなじみ深い。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 1-3

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

1.1.2

プロジェクト概要

ここでは、本プロジェクトの概要について記しプロジェクト全体像の理解とその主要な活

動について解説する。

1.1.2.1

教育プログラム開発について

教育プログラム開発は、実際の授業の教材開発を、

ID プロセスである分析→設計→開発→

実施→評価の手順を踏みながら行っていく。

【eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム】

① ID に関する調査

ID 手法は、国内外を含めて多くのものが存在する。各プロセスによって違い

があるため、調査を行う必要がある。

② 分析および設計

調査した ID を元に、リハビリテーションに適用できる内容を検討し、ID プロ

セスの分析と設計を行う。リハビリテーションは知識以外に運動技能も教育す

る必要があるので、分析は重要なプロセスである。検討に関しては、下記 2 名

のインストラクショナルデザイナー(以下 IDer)

( 注 3)

から助言をいただく。

君島 浩氏(防衛庁海上幕僚監部人事教育部所属)

原田 典昭氏(

NEC テレネットワークス株式会社 国際研修部所属)

CEP 社(米国)認定 CRI

( 注 4)

IDer

③ 開発、実施、評価手法の確立

ID プロセスの開発、実施、評価に関して検討を行う。効果的な画面構成か

ら教育を実施するときに必要なメンタリング、最適な評価を行うテストの作成

法など、リハビリテーションにあった内容を確立させる。

(注 3) インストラクショナルデザイナー(IDer :Instructional Designer)とは、イン

ストラクショナルデザインの専門家のことをいう。

(注 4))CRI(Criterion-Referenced Instruction)とは、米国でポピュラーな ID で本田

技研工業など多くの企業が導入している。

(注 5) CBT(Computer Based Test)とは、コンピュータを用いたオンラインテストのこ

とである。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 1-4

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

【教育プログラムに基づいたコンテンツ開発および教授例】

① コンテンツ開発

開発した教育プログラムに従って実際にコンテンツ開発をおこなう。開発した

コンテンツおよび教授例のサンプルを本報告書の別冊『教育プログラムに基づ

いたコンテンツ開発及び教授例』で報告する。

② e ラーニングでの実施および評価

開発したコンテンツを利用して学生に対して e ラーニングを実施する。学習終

了後は評価を行いフィードバックする。また、実施プロセスでは、CBT (注 5)

を用いて学習効果に関して評価を行う。

【ニーズ調査、実態調査、実地調査等各種調査について】

どの

ID でも、そのプロセスは分析・設計・開発・実施・評価と変わらないが、それぞれの

プロセスの内容は

ID によって大きく違ってくる。複数の ID の内容と特徴を調査し、それ

ぞれのプロセスごとに類型や必要な手法の整理を行い、教育プログラム開発の参考とする。

また、

ID を導入した学校や企業の調査を行い導入における効果も調査する。調査方法は ID

を実施している教育ベンダーにアンケート調査を行う。必要であれば、

ID を導入している

学校や企業の視察を行う。

(1) 実証講座等について

【学生対象の実証講座】

開発したコンテンツを用いて、学生に対してeラーニングで履修させ、コンテンツの評価を

行う。

【教員研修】

リハビリテーション校に所属する教員を対象として研修を行い、教育プログラムの内容

の検証と普及を行う。

(2) 開発成果をもとにした平成 18 年度の事業展開の予定

ID の分野まで踏み込んで研究・開発を行った内容は前例が無く、多くの専修学校で興味

も持っていただけると確信している。本プロジェクトの内容を広く知ってもらうため、e

ラーニングコンテンツの概要をホームページで公開するのはもちろん、学校法人麻生塾と

学校法人福田学園で事業終了後も開発したコンテンツなどの情報を継続して公開してい

く。麻生塾および福田学園は専修学校であり、e ラーニング活用のモデル校として機能

させて行きたい。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 1-5

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

<スケジュール表>

実施委員会

企画委員会

合同委員会

調査および分析

開発(教育プログラム)

開発(コンテンツ)

実証研修(学生対象)

実証研修(教員対象)

7月

8月

9月 10月 11月 12月

成果発表会

1-1 プロジェクトスケジュール予定

● ● ●

1月

2月

3月

<体制>

(1)実施委員会の構成

氏 名 所 属 ・ 職 名

徳重 稔 学校法人麻生塾

IT教育推進室 室長

松崎 英明

木村 孝

西村 敦

君島 浩

青山 克実

高橋 泰子

学校法人福田学園 生涯学習

Gリーダー

麻生リハビリテーション専門学校

理学療法学科

麻生リハビリテーション専門学校

作業療法学科

大阪リハビリテーション専門学校

教育局長

兼 エクステンションセンター長

大阪リハビリテーション専門学校

エクステンションセンター主任

防衛庁海上幕僚監部人事教育部

原田 典昭

NECテレネットワークス株式会社 国際研修部

藤嶋 徳善

佐藤 信也

浦山 昌志

栗原 良太

TAC株式会社 法人推進部

株式会社イーコミュニケーションズ 代表取締役

株式会社IPイノベーションズ 代表取締役

株式会社IPイノベーションズ

1-2 実施委員会メンバー

役割等

実施委員長

兼調査副委員長

実施副委員長

兼調査担当

プログラム開発担当

兼コンテンツ開発担当

プログラム開発担当

兼コンテンツ開発担当

プログラム開発担当

兼コンテンツ開発担当

プログラム開発担当

兼コンテンツ開発担当

プログラム開発委員長

(インストラクショナルデザイナー)

プログラム開発副委員長

(インストラクショナルデザイナー)

コンテンツ開発委員長

(コンテンツベンダー)

コンテンツ開発副委員長

(CBTベンダー)

企画委員長

(eラーニング教育ベンダー)

企画副委員長

(eラーニング教育ベンダー)

所属機関の

URL www.asojuku.ac.jp www.fukuda.ac.jp www.asojuku.ac.jp www.asojuku.ac.jp www.fukuda.ac.jp www.fukuda.ac.jp www.jda.go.jp www.ntwx.co.jp www.tac-school.co.jp www.e-coms.co.jp www.ipii.co.jp www.ipii.co.jp e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 1-6

第 2 章

リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン 教 育

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

2

リハビリテーション教育分野の特徴

昨今非常に注目を集めているリハビリテーション分野であるが、その教育機関が次々に誕生してい

てこれまで以上に、その教育手法や教育効果についての研究が熱心に検討されるようになってき

た。教育機関としては、その仕事内容と患者をとりまく環境を正しく理解し、適切なスキルを持つ人

材を生み出していかなければならない。

この章では、リハビリテーションを行うセラピストの教育カリキュラムや教育手法を評価していくため

に、その根本となる仕事の内容に注目し、求められるコンピテンシーを明確にし、現在のセラピスト

の標準的な教育カリキュラムを考察し、現状の教育実施上の問題や課題などを検討する。

2.1

リハビリテーション技術者の種類とその役割

リハビリテーションを行う技術者としてのセラピストには、関わる病気や障害の種類に応じてさまざま

な専門職に分類可能である。今回取り上げる 3 つの職:理学療法士(PT)、作業療法士(ST)、言語

聴覚士(OT)は、その中の一部でありその他数多くのセラピストや医療の周辺を支える職種が存在

している。今回のプロジェクトの成果は、この 3 つの職だけでなくすべてのセラピストの教育プログラ

ムにも応用が可能である。

さて、具体的な例として 3 つの職種とはどのような役割であるか、専門学校のメッセージの中にその

本質が語られているのでそれを題材に検討する。

(1) 理学療法士(PT)

理学療法士及び作業療法士法(昭和 40 年法律第 137 号)において理学療法は「身体に障害

のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行

わせ及び電気刺激、マッサージ、温熱その他の物理的手段を加えることをいう」と定義されてい

る。

また、「理学療法士とは、厚生労働大臣の免許を受け、理学療法士の名称で医師の指示のもと、

理学療法を行うことを業とする者をいう」となっている。

これは、リハビリテーションの中で重要な役割を担うことは当然として、いわゆる医学的な手段と

して医療の中で用いられていることを意味している。具体的な領域として、整形外科領域・呼吸

循環器領域・代謝疾患領域・脳血管障害領域・小児科領域とほとんどの臨床医学分野が対象

になっている。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-2

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

さらに手術後などの急性期から在宅まで、取り扱う患者様の状態も範囲が広いのが特徴であ

る。

最近では、医療のみならず保健・福祉領域さらにスポーツ領域、教育・研究領域とさらに拡大し

てきている。日本理学療法士協会では、平成 6 年に多様化・高度化する理学療法のニーズに

適切に対応し発展していくために 7 部門の専門理学療法士制度を創設した。理学療法に対す

る需要は今後もさまざまな領域で伸びていくことと考えられる。

(麻生リハビリテーション専門学校 河元 岩男理学療法学科長)

すなわち理学療法士の仕事としては、事故や病気、加齢によって基本的な運動能力が不全に

なってしまったり衰えてしまった患者の運動機能を回復するように手助けすることである。具体

的には、歩動作や車椅子の操作訓練、運動能力回復・治療のための体操指導などを行ってい

く。主に歩く、立つ、座るといった日常行動動作に必要な運動機能の回復を目的としている。

治療行為は一般的に次のようなステップで行われる。

① 医師の処方による依頼受託

医師が患者を診察し、リハビリが必要と理学療法士に必要な指示を受ける。

② 患者の評価

医師のカルテを基に、必要な情報を収集する。

病歴、生活状況、家族状況などをカルテだけでなく患者本人、そして家族を含

めた回りの人たちとコミュニケーションを取り治療に必要な情報として 整理する。

③ 治療方針の計画・決定

治療はセラピスト 1 人で行うものではないので、チームとして治療方針を話し合

い治療目標と実現のための治療プログラム(リハビリプログラム)の作成を行う。

④ 治療行為

計画に基づいて実際に治療を行う。このときに、その進行状況を示すカルテを

記録し、治療チームのメンバーだけでなく医師もその回復状況を把握できるよう

にしておくことも重要な業務である。

⑤ 治療行為の評価

リハビリ実施の状況を患者の状態変化などにより細かくモニターし、設定された

治療プログラムが適正であるかを評価する。必要であれば、治療方針・プログラ

ム を修正・変更し、より患者の実情にあった治療に変えていくことが大切である。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-3

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

重要なのは患者のリハビリ意欲を高揚させながら治療を進めていくことである。

同じ機能障害でも 1 人ずつ心の状況も異なっているために、個別に見極めること

に なる。

⑥ 退院指導

当面のリハビリ目標が達成されて退院、もしくは別の施設に移る場合は、患者と

相談してそのステップを進めていくことになる。

また実施する治療行為の内容により、作業がいくつかの種類に分類される。

⑦ 運動療法

患者が体を動かすことにより、筋力の回復や関節の動き滑らかにしたり、呼吸器

機能の回復を行ったり、姿勢矯正を行ったりする。

ストレッチなどによる関節稼動域運動、トレーニング機器利用による筋力増強運

動、軽負荷による筋力持続運動、反射神経・神経伝達などを回復させる協調性

回復運動、また直線歩行や片足立ちなどの訓練によるバランス運動などを行う。

これらの一部もしくは組み合わせにより、患者の運動能力を回復していくのが運

動療法と呼ばれる手法である。

⑧ 物理療法

温度(温熱、寒冷)利用、電気利用、電磁波利用などにより、幹部を直接刺激し

その部位の血液循環を改善したり、痛みを和らげたりするような治療方法であ

る。

これ単独でリハビリが完成するのではなく、いずれも運動療法と併用で行われる

ことが多い。

温熱療法としては、ホットパックやパラフィンを用いた幹部の温度を高めて血行

などを改善したりする。 捻挫や打身など障害の初期には熱が発生し痛みが 伴う

ことが多いが、この治療によりそれらを軽減することができる。

また低周波などの電気刺激を筋肉に与えることにより、筋肉の収縮を起こしたり

血行を改善したりする。

また水を使った治療や、マイクロはなどの電波を媒体とした治療により機能回復

を図る手法もある。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-4

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

いずれにしても人間の体の仕組みだけでなく、物理療法を行う機材、材料など

への理解・操作の習得なども必要な知識である。

(2) 作業療法士(OT)

作業療法士(Occupational Therapist)とは、身体的・精神的な障害を持った方を対象に、日常

生活や社会への適応能力の維持・回復・開発をはかる専門家である。

食事や入浴・着替えといった日常生活動作を行うための訓練・指導、創作活動あるいはレクリエ

ーション活動などを通じて身体的・精神的機能を高めつつ、きめ細かい自立への援助を行う。

(大阪リハビリテーション専門学校の案内より)

作業療法士が理学療法士と違うところは、主に治療の後期すなわち基本動作・機能の回復が

行われた後に、応用的な動作や社会復帰を目指す領域での治療を担当するところである。

それは患者の状況、復帰する方向の多様性を考えると非常にさまざまな対応が要求され、かつ

専門性が問われる困難な仕事であるといえる。

たとえば手芸、工作、スポーツなど遊びも含めた活動を通して、患者のリハビリ意欲を高めて機

能回復を行っていく医療行為である。対象者である患者もさまざまなケースが存在し、1 人です

べてに対応することは困難と思われるため、専門性を確立して得意分野での活躍が重要と考え

られる。

「作業」という言葉がさすものは、社会生活のなか普通に行われる操作・行動のことを指しており、

これらが滞りなく行えて社会復帰できるようになることが治療の目的となる。

このためには、単なる体の機能回復だけでなく日常生活のなかにいかに順応して生活ができる

ようになるかという精神的なサポートも深く関係してくる。したがって、単なる機能的な知識・理解

だけでなく、人間に対する理解力、信頼関係をつくる力など人間的な能力が必要となることはい

うまでもない。

治療行為のプロセスは理学療法士のそれに良く似ている。基本的には、医師からの指示を受

けてチームで計画を練り、チームで治療を行っていくパターンはほぼそのまま同じである。実際

の治療行為としては次のような作業を行っていく。

① 日常生活のサポート e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-5

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

毎日の生活の中で、患者ができることを増やしていく。単に寝起きだけでなく、食

事の支度をすることや、入浴など ADL(Activity of Daily Living)と呼ばれる行動

をできるように、計画し、サポートしてあげることである。

② 遊び、レクレーションなどによる機能回復

トランプ、将棋、囲碁などのゲームを使って気分転換、思考力回復などを図り更

にダンス、ゲートボールなど他の人との交流により、社会性や対人能力の回復を

目的として活動する。

③ 手芸・工作による創作活動

創作活動により、患者本人の意欲を高揚させ、達成感や充実感を味合わせる。

これにより治療活動を効果的に行い、患者の機能回復・社会復帰を実現しやす

くする。またこのようなプログラムを作成するだけでなく、活動が行いやすいような

雰囲気を作り環境を整えてあげることも重要な仕事のひとつである。

(3) 言語聴覚士(ST)

言語聴覚士(ST:Speech therapist)とは、音声・言語・聴覚さらには摂食・嚥下機能に障害のあ

る人の機能並びに能力の向上維持を図るため、検査・助言・指導その他の援助を行う専門職で

ある。平成 9 年 12 月に言語聴覚士法が成立し、平成 11 年 4 月より国家資格としての言語聴覚

士が誕生した。現在では全国で医療・教育・保健領域の幅広い分野で約 7,800 人の有資格者

が活躍しているが、まだまだ十分とは言えず、400 万人とも 500 万人とも言われる対象者に十分

なサービスができない現状にある。

麻生リハビリテーション専門学校では、次のような教育を行っている。

① 専門職としての「科学的態度」を持って、音声・言語・聴覚・嚥下機能の維持、向

上を図る知識と技術を養う。

② 専門職に従事する者として、適切な「倫理観と豊かな人間性」を持った言語聴覚

士を養成する。

③ 言語聴覚士である前に、当然身につけるべき「基本的マナー(社会性)と教養」

を高める。

これからの医療従事者は、機能障害だけに目を向けるのでなく、対象者の人生をも視野に置い

たリハビリテーションを目指す必要がある。その為には、ひとりひとりがよりよく生きていくための

能力の開発及び心理・社会的問題の解決など、人の苦しみや悩みに心を傾ける、人間性豊か

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-6

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

な言語聴覚士を育てる必要がある。

(麻生リハビリテーション専門学校 岡本 功学科長 )

言語聴覚士は、言葉や聞くことに障害を持つ患者に対して、生活に支障のない程度までコミュ

ニケーション能力を回復することを目的に治療を行うのが仕事である。言語能力に障害を持つ

ようになる原因は様々で、先天的な場合もあれば、事故や病気、加齢によって引き起こされる場

合も多い。リハビリを受ける患者の年齢、性別、状況も様々で言語聴覚士は幅広い対応能力と

深い専門性が要求される。

言語聴覚士の仕事も、理学療法士、作業療法士と同じようなステップで行われていく。医師の

指示の基に、治療計画を作り、チームでリハビリを行っていくために、チームワークが重要にな

ってくる。

具体的なリハビリ作業としては、言語能力のトレーニングを行ったり、嚥下障害の患者に対して

は、食べやすくなるようなさまざまな工夫を凝らしていくことが重要である。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-7

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

2.2

リハビリテーション業務の特徴

リハビリテーション業務としてのセラピストにはさまざまな職種が存在することは既に述べたが、これ

らの業務の特徴を再度検討することにより、教育カリキュラムの正当性や教え方の検討に役立つ。

患者さん相手の仕事であること

この職種の最も大切なポイントは、単なる会社の仕事とは大きく違っていて、相対する対象

が病気や障害を持っている患者さんであるということである。医師の指示のもとに動くとはい

え、あるときは医師よりも長い時間患者とともに過ごし、その機能を回復するために手助け

をする役割として考えれば、最も患者に近い医療従事者ということもできる。

患者の立場、そしてそれを取り巻くご家族を含めた方々と接する機会も多いため、技能の

みならず精神的な能力が非常に要求される職種であるといえる。特に患者は、病気により

身体的な能力だけでなく、精神的にも参っているケースもあるため、その応対には非常に

高いコミュニケーション能力が要求されるのである。

患者に触れて業務を行う

理学療法士、作業療法士は患者の体に直接触れながら仕事をする機会がおおい。そのた

め、単に言葉によるコミュニケーションだけでなく体を使って医療をすすめる業務になるの

である。もちろん体力が要求されるし、更に患者さんに触れることにより、精神的な安定をも

たらすような能力も要求される。

高度な専門性

医療に対する基礎的な知識と、専門分野における医療行為の具体的な知識・技能が要求

される。人間の体を対象とするために、まちがいは許されない。したがって、患者が安心し

て治療をうけられるにふさわしい能力を備えていることが最も大切である。(治療の内容によ

り、細かく専門分化しているので、すべてをカバーすることはできない。まずは任される専

門分野を決定し、その範囲での徹底的な専門性が問われる)。

絶え間なく学ぶ姿勢

医学や医療機器の進歩も目覚しく、一度技術を覚えたらそれで終わりではない。常に新し

い機器が開発され、新しい療法が考案されてくる。医療療法士は進歩する学問、技術に対

して、自ら学ぶ姿勢を貫き通す必要がある。それでなければ、医療現場における最も効果

的な治療を行うことが困難になるであろう。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-8

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

チームで仕事をする

すべての治療行為において、患者と一対一ではなく、医師、看護婦、他の療法士らといっ

しょに仕事をすることになる。したがって、チームワークが大切であり、かつ患者を取り巻く

環境、家族らとのコミュニケーションも必要になってくる。このようなことから、患者が置かれ

た環境の中で家族と治療チームの協力作業により、機能回復をすすめていかなければな

らない。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-9

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

2.3

標準的な教育カリキュラム例

各医療療法士の教育カリキュラムとして、今回の事業担当の専門学校で公表されていいる

カリキュラムを以下に提示する。

2.3.1

理学療法士の教育カリキュラム

① 大阪リハビリテーション専門学校のカリキュラム

履修科目

基礎分野

心理学、人間関係学、生命倫理学、地域福祉学、自然科学概論、情報処理、統

計学、医学英語、英会話、健康科学

解剖学、解剖学実習、生理学、生理学実習、運動生理学、機能解剖学、運動学、

専門基礎分野

運動学実習、人間発達学、臨床心理学、病理学概論、一般臨床医学、内科学、

整形外科学、神経内科学、脳神経外科学、精神医学 、小児科学、リハビリテー

ション概論、リハビリテーション医学

専門分野

実習

基礎理学療法学(理学療法概論・理学療法管理学・理学療法研究法)、理学療法

評価学(臨床運動学・理学療法評価学・理学療法評価学実習・理学療法障害

学)、理学療法治療学(運動療法学・運動療法学実習・物理療法学・物理療法学

実習・義肢装具学・義肢装具学実習・理学療法技術論・理学療法技術論実習)、

地域理学療法学(日常生活活動学・日常生活活動学実習・生活環境論・地域理

学療法学)、理学療法関連学(作業療法学概論・言語聴覚障害学概論・看護学概

論・画像診断学・臨床ゼミナール)

臨床実習(臨床実習)

選択必修

H・R、★福祉住環境学、★介護支援学、特別講義、ゼミナール

★印、いずれか 1 科目を必修選択

表 2-1 大阪リハビリテーション専門学校のカリキュラム

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-10

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

② 麻生リハビリテーション専門学校のカリキュラム

理学療法科

分野

基礎分野(14 単位)

専門基礎分野(26 単位)

科学的思考の基礎

人間と生活

教育内容

人体の構造と機能及び

心身の発達

疾病と障害の成り立ち及び

心身の発達

文章講座

解剖学Ⅰ

解剖学Ⅱ

解剖学実習

生理学Ⅰ

生理学Ⅱ

生理学実習

運動学

運動学実習

人間発達学

病理学

一般臨床医学

授業科目

心理学

倫理学

教育学

社会福祉学

情報処理

物理学

生物学

統計学

保健体育

英語

英会話(※)

医学英語

接遇実習 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-11

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

専門分野(53 単位)

保険医療福祉と

リハビリテーションの理念

基礎理学療法学

理学療法評価学

理学療法治療学

評価学演習

運動療法学

物理療法学

日常生活活動学

義肢装具学

義肢装具学演習

神経障害系Ⅰ

神経障害系Ⅱ

骨関節疾患系Ⅰ

骨関節疾患系Ⅱ

内部障害系

整形外科学Ⅰ

整形外科学Ⅱ

内科学Ⅰ

内科学Ⅱ

神経内科学Ⅰ

神経内科学Ⅱ

小児科学

臨床心理学

精神医学Ⅰ

精神医学Ⅱ

リハビリテーション概論

保険医療福祉制度論

理学療法学概論

生体力学

臨床運動学

理学療法セミナー

理学療法評価概論

評価学

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-12

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

地域療法学

見学実習

臨床実習

小児系

生活環境学

リハビリテーション関連機器

地域理学療法学

見学実習 (※)

臨床実習Ⅰ

臨床実習Ⅱ

表 2-2 麻生リハビリテーション専門学校のカリキュラム

両校のカリキュラムの違いを見てみると、基礎分野と専門基礎分野においては、似たような科目が

並んでいる。科目名のみで、内容の範囲、深さを単純に比較することはできないが、いくつか各校

の特徴がでるような科目も存在している。他のリハビリテーション校のカリキュラムも同様に調査した

が、ほぼおなじような構成になっている。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-13

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

2.3.2

作業療法士の教育カリキュラム

① 大阪リハビリテーション専門学校のカリキュラム

履修科目

基礎分野

心理学、人間関係学、生命倫理学、地域福祉学、自然科学概論、情報処理、統

計学、医学英語、英会話、健康科学

解剖学、解剖学実習、生理学、生理学実習、運動学、運動学実習、運動生理学、

専門基礎分野

人間発達学、臨床心理学、病理学概論、一般臨床医学、内科学、整形外科学、

神経内科学、脳神経外科学、精神医学 、精神医学 、小児科学、老年医学

専門分野

実習

基礎作業療法学(作業療法概論・作業療法研究法)、作業療法評価学(作業療法

評価学・作業療法評価学実習)、作業治療学(基礎作業学・基礎作業学実習・治

療学・治療学実習・作業療法技術論・作業療法技術論実習・日常生活活動学・日

常生活活動学実習)、地域作業療法学(地域作業療法学・地域作業療法学実習・

在宅ケア特論)、作業療法関連学(理学療法学概論・言語聴覚障害学概論・看護

学概論・画像診断学・臨床ゼミナール)

臨床実習、作業療法実習 ∼ 、臨床実習

選択必修

H・R、★アウトドア活動、★インドア活動、★福祉住環境学、★介護支援学、特別

講義、ゼミナール

★印、いずれか 1 科目を必修選択

表 2-3 大阪リハビリテーション専門学校のカリキュラム

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-14

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

② 麻生リハビリテーション専門学校のカリキュラム

作業療法学科

分野

基礎分野(14 単位)

専門基礎分野(28 単位)

教育内容

科学的思考の基礎

人間と生活

人体の構造と機能及び

心身の発達

文章講座

解剖学Ⅰ

解剖学Ⅱ

解剖学実習

生物学Ⅰ

生物学Ⅱ

生物学実習

運動学

運動学演習

人間発達学

疾病と障害の成り立ち及び 病理学

心身の発達

一般臨床医学

心理学

倫理学

教育学

社会福祉学

情報処理

物理学

生物学

統計学

保健体育

英語

英会話

医学英語

接遇実習

授業科目 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-15

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

専門分野(57 単位)

整形外科学Ⅰ

整形外科学Ⅱ

内科学Ⅰ

内科学Ⅱ

神経内科学Ⅰ

神経内科学Ⅱ

小児科学

臨床心理学

精神医学Ⅰ

精神医学Ⅱ

精神医学Ⅲ

保険医療福祉と

リハビリテーションの理念

リハビリテーション概論

保険医療福祉制度論

基礎作業療法学 基礎作業学

クラフト実習

レクリエーション実習

陶芸実習

木工金工実習

作業療法評価学

作業治療学

OT 概論

OT 評価法

OT 評価法演習

身体障害 OT Ⅰ

身体障害 OT Ⅱ

発達障害 OT Ⅰ

発達障害 OT Ⅱ

精神障害 OT Ⅰ

精神障害 OT Ⅱ

老年期障害 OT

高次脳障害

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-16

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

地域作業療法

義肢装具学

義肢装具学演習

リハビリテーション関連機器

日常生活活動Ⅰ

日常生活活動Ⅱ

地域作業療法学

職業前関連活動

見学実習 見学実習

臨床実習 臨床実習Ⅰ

臨床実習Ⅱ

表 2-4 麻生リハビリテーション専門学校のカリキュラム e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-17

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

2.3.3

レッスンプランと教育資料・評価の事例−1

麻生リハビリテーション専門学校 作業療法学科 青山 克実先生

レッスンテーマ:精神障害の構造と特性

∼生きづらさ、生活のしづらさって何?∼

◎ 障害とは・・・?

障害とは・・・

生活する上での不便さ、生きづらさがあるということ。

精神疾患、機能障害・活動制限などをどのような捉え方をするか・・・?

障害の大きさは何によって規定されるか・・・?

◎ 精神疾患の成り立ち

1) 生物学的疾病性と素因・準備状態、認知行動障害

環境ストレッサー・刺激

心理社会的ストレス

外発的動機

欲求・不安・希望など

内発的動機

フィルター障害

…焦点化と選択的注意の難しさ

認知機能障害:

実行計画、モニター

注意の障害(処理容量の狭さ)

情報の文脈的処理の障害(あいまいさが苦手)

記憶の体制化の障害(再生の悪さ)

ワーキング・メモリー(作業記憶)の障害

行動機能障害

認知

自発的な行動の枠組作りの障害(自発性の乏しさ)

セルフモニタリングの障害(場に不適切な行動)

脳神経伝達機構の失調、破綻、障害

ドーパミン仮説、セロトニン仮説

発症・再

神経発達障害仮説

脳神経伝達機構の脆弱性

行動・対応・対処

環境因子

・夫婦間の断裂と歪み(リズ)

・二重拘束説(ベートソン)

・高感情表出(ウイング)

High Expressed Emotion

・偽相互性(ウイン)

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-18

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

<統合失調症の行動特性>

認知障害と過覚醒

1 一時にたくさんの課題に直面すると混乱してしまう

2 受身的で注意や関心の幅が狭い

3 全体把握が苦手で、自分で段取りがつけづらい

4 話しや行動に接穂がなく唐突

5 あいまいな状況が苦手

6 場にふさわしい態度がとれない

7 融通がきかず、杓子定規

8 指示はその都度、一つ一つ具体的に

9 形式にこだわる

10 状況の変化に脆く、不意打ちに弱い

11 慣れるのに時間がかかる

12 容易にくつろがない、常に緊張している

13 冗談が通じにくく、堅く生真面目

常識と共感覚

14 現実吟味力が弱く、高望みしがち

15 世間的・常識的な思考や行動が取りにくい

16 他人の評価に敏感だが、他人の気持ちには比較的鈍感

17 自分中心に物事を考えがち

18 視点の変更がきかない

自我境界

19 話しに主語が抜ける

20 曖昧な自己像

21 秘密がもてない

時間性

22 あせり先走る

23 同じ失敗を何度も繰り返す

24 リズムに乗れない e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-19

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

2)

ストレス-脆弱性モデル

脳神経の脆弱性

心理社会的ストレス

防御弱い

防御機構

発症

それぞれの要因の相対的関係により

発症・回避かは規定される。

防御強い

薬物療法

対処技能

支援体制

心理教育

疾病の性質や治療、社会

資源、社会生活技能訓練

などの知識や行動の教育

回避

退

ストレス耐性

限界曲線

有効曲線

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-20

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

精神障害の構造

○疾病の共存→再発のしやすさを抱える

○後遺障害(認知行動障害)

個 人 因 子

① 内 な る 偏 見

② 本 人 の 特 性

③ 青 年 期 の 療 養

機 能 障 害

① 精 神 症 状

陽 性 症 状 : 幻 聴 、 妄 想 、 初 期 症 状 な ど

陰 性 症 状 : 引 き こ も り 、 無 関 心 、 感 情 の 平 板 化 な ど

気 分 症 状 : 抑 う つ 、 高 揚 気 分 、 焦 燥 、 不 安 な ど

② 認 知 行 動 障 害 : 記 憶 、 注 意 、 判 断 、 理 解 な ど の 障 害

○まとまった活動の障害 ○役割障害

←廃用症候群・青年期の療養・認知行動障害

*原則的に訓練による再獲得が可能

○社会的偏見の取り込み

→本人・家族・専門家

…できないという思いこみ

社会における障壁

→物理的、制度的、文化・情報、

環 境 因 子

① 社 会 的 偏 見

② 家 族 関 係

③ 経 済 面

( 障 害 年 金・生 活 保 護 な ど の 公 的 補 助 )

活 動 制 限 ( 能 力 障 害 )

生 活 障 害

① 日 常 生 活 の 仕 方 の ま ず さ

生 活 ス ケ ジ ュ ー ル の 維 持

食 事 、 服 装 な ど の 身 だ し な み 、 金 銭 管 理 、 療 養 管 理

社 会 資 源 の 利 用 な ど

② 対 人 関 係

人 付 き 合 い 、 挨 拶 、 他 人 へ の 配 慮 、 気 配 り

③ 仕 事 ( 就 労 障 害 )

疲 れ や す さ 、 要 領 の 悪 さ 、 学 習 の 困 難 、

仕 事 場 と 人 間 関 係 へ の 適 応 困 難

参 加 制 約 ( 社 会 的 不 利 )

① 対 人 ・ 地 域 交 流 対 人 ・ 地 域 交 流

② 就 労 及 び 社 会 的 役 割

③ 社 会 経 済 活 動

④ 住 居 確 保 の 困 難 さ

疾病・変調

脳神経における神経伝達機構障害

能力…できる、できない

実行状況…できていない、していないこと 。

◎ 生活のしづらさ・

生きづらさとは・・・

○生活のしづらさとは・・・?

→生活自体の不便さ

*生活していく上で必要な技能(こと)は・・・?

薬物療法の有効性の証明 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-21

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

→質問:その一つ一つにできない、やりづらさを感じている

“作業療法は自分自身の生活体験を直接生かせる”

☆活動の制限・生活障害:IADL 及び役割の障害~生活のしづらさ~

食事、金銭、服装などの問題を含めた生活技術の不得手

人付き合い、挨拶、他人に対する配慮、気配りなどの対人関係の問題

仕事場では、生真面目と要領の悪だが共存し、飲み込みが悪く、習得が遅く、

手順への無関心、能率、技術の低さが、協力を必要とする仕事に困難をきたす

安定性に欠け、持続性に乏しい現実離れ、生きがい

動機づけの乏しさ

生活の仕方の障害

・食事の仕方、金銭の扱い

・身だしなみ、社会資源の利用の仕方

・服薬の管理

人付き合いの障害

・人付き合いが苦手、社会常識不十分

・他人への気配りを欠きやすい、他人との協調困難

・自分の判断や評価がまとはずれ

働くことの障害

・作業能率低下、集中力持続力低下

・融通性に乏しい、疲れやすい

・習得が遅い、手順が悪い

まとめる力の障害

・臨機応変にいかない、気配りができにくい

・全体をつかみにくい、細かいことに拘りがち

・考えがかたくなになりがち

*その他

やりくり・・・時間、お金、ペース

集団・場・場所・・・基本的信頼感・安心感・自信

対処・問題解決能力・・・コーピング・スキル、社会生活技能訓練

支え・・・不足がち:もともと足りない、知らない、言えない

○生きづらさとは・・・

○疾病そのものからのきつさ

○生活上のさまざまな困難

○社会的偏見・内なる偏見

やりづらさを抱えながら生活

不安や緊張の中での生活

人との関係やつながりの不器用さや苦手さ、安心度の低

うまく解決できない、乗り越えられない、方法を

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-22

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

精神障害の特性

ケース①

統合失調症、38 歳、男性。26 歳で初発後、3 年間の入院により退院。今後の就労も視野入れてデイケア

に通所していた。デイケアでは特に問題行動もなく、特にほかスタッフや、メンバーと交流することもな

いが、与えられた課題を黙々とこなすタイプであった。デイケアにも慣れ、定期的な通所もできるように

なり生活リズムも安定したので、本人の希望する社会適応訓練(職親)へ導入した。事業所は喫茶店で、

週 4 日事業所に通勤するようになる。3 ヶ月がすぎ、事業所にも慣れてきたが、自転車で通勤中に転倒し鎖

骨を骨折し、しばらく職親は中断することになる。ケガがもう少し落ち着いてからデイケアに再度通所し、

その後職親に復帰する予定であった。

昼間は 1 人になる自宅にて療養していたが、

3) 5)

昼夜問わず自室にて大声で誰かとケンカするような独

語が頻繁に見られるようになり、生活のリズムも乱れ、身のまわりのこともほとんどしない状態になった。

母親と共に受診し、本人も納得の上で再入院することになった。入院後、薬物療法の処方変更し、作業療

法の処方が出された。以前入院していた時に参加していた、顔なじみも数名いるスポーツクラブに参加す

るようになる。

4)

入院後、居室のベッドに 1 人で休んでいるは同じような大きな声での独語はあるが、顔

なじみもいて

7)

本人も好きで得意なスポーツ活動中はまったく独語もなく、笑顔で参加している。

3)

生活

リズムも改善され、毎日の身のまわりにも気を配るようになり、病棟での独語も少しずつ少なくなった。

ケース②

A さん、48 歳、統合失調症。昭和 58 年から入院している長期入院の女性。入院当初は被害妄想・幻聴・

不眠・独語・易怒性により、積極的な薬物療法と精神療法を中心に治療する。陽性症状は沈静化し病棟内

の生活や行動にも特に問題なく過ごせるようになっていたが、家族の強力な反対と支援のなさから現在ま

で入院が長期化している。入院が長期化してくるにつれ

6)

意欲も低下し作業療法やレクリエーション活動

にも参加しなくなり、興味や関心も薄れ自閉的な生活を過ごしている。身だしなみに対しても無頓着で清

潔感に欠ける。人付き合いに対しても自分から積極的に話すこともなく、病棟でも目立たない存在で毎日

流されるように過ごしている。そこで、作業療法へ導入が検討され、OTR が面接から関わり、グループ活動

への導入に成功した。しかし、不器用さや動作の緩慢さからグループ内のリーダー的存在の患者さんから

1)

3) 4) 5)

急かされたり、うまくいかないことを批判されたりしているうちに参加も不定期になり、再び被

害妄想的な発言が目立ちはじめたので、薬物療法の処方を変更するなどして対処した。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-23

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

1)疾患と障害が共存する(疾患と障害の共存)

機能障害・活動制限・社会参加の制約などの生きづらさや生活障害は疾患から直接影響を受けて

いるものもあれば、生活経験や生い立ちなどから影響を受けているものもある。

統合失調症を例にとってみると、疾患自体は障害によって前後し、障害は疾患の変化によって左右

される。『疾患』と『障害』が同時に存在し、また、同じ次元で影響し合っている。

①疾患と障害が振幅を持ちながら同時に存在する

統合失調症と診断される状態にありながら、精神機能の障害、生活上の障害、社会参加の制約を同時

に持っている(たとえ幻聴や妄想が鎮静化していても、薬物療法を受けている、精神療法を受けている

状態)。仕事に対する疲労や環境から身のまわりのことや生活理リズム、仕事を続けることが困難にな

った場合に、幻聴や被害妄想につながり疾患自体も悪化しやすい。

②疾患が重くても障害が軽い場合もあれば、疾患は軽いけれども障害が重い場合もある

幻聴や被害妄想が強くても、日常生活に支障の無いケースもあれば、幻聴・被害妄想のような精神機

能の症状が鎮静化し疾患自体は軽くなっていても、生活経験や長期間疾患を持ち続けることなどから

生活障害が大きい場合もある。

③全般的精神機能不全を持続する疾患の状態を症状とするのか

障害として捉えるのか明確にすることが困難

幻聴や被害妄想は病気? 機能障害?

2)障害はそれぞれ独立して存在する(相対的独立性)

『精神疾患を持つというだけで、偏見を受ける・職場を失うなどの社会参加の制約をうける』

『精神疾患から直接受ける活動制限だけでなく、生活経験や生い立ち・環境からうける活動制限

がある』『幻聴などがあっても、生活に直接影響しない場合がある』など、それぞれの障害が独

立的に存在する。

3)障害は相互に影響する(相互の影響性)

なる。幻聴や被害妄想が大きくなることで、閉じこもった生活となり、外出や食事などの日常

生活がままならなくなる(活動制限)。』

それぞれの障害の変化によって他の障害も変化・影響を受ける。

4)障害は環境によって変化する(環境との相互作用)

「就職先に理解があるのか、ないのか」「家族と暮らすのか、単身生活なのか」「昼間の活動の

「近所に理解したおばちゃんがいるのか」「何でも話せる仲間がいるのか」「安心して過ごせる場

があるのか」など…。ケース①では、 顔なじみとのスポーツ という環境が安心感と現実的な関

わりを持つ機会となり幻聴が聞こえず本人らしく生き生きと過ごす場となった。

5)機能障害も固定されたものではない(障害の可逆性)

機能障害(幻聴・妄想など…)は活動制限や社会参加の制約、個人・環境要因によって、変

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-24

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

化する。ケース①②でも鎮静化していた幻聴や被害妄想が再燃し、その後さらに鎮静するとい

う障害が固定されていない。

6)長い入院によって失われる生活の力

・病院内でのマナーや常識が身につき社会性が欠如していく。

・社会との接点が多少なりともあっても社会の中のさまざまな仕組みが忘れられていくと同時

社会に出て行く不安なり抵抗は強くなる。

・日常生活上の能力ももちろん失われていく。

・入院生活=受け身的な限られた範囲での生活で、受け身的になりやすく、自主性の低下、

興味や関心の狭さなどから、『生活している実感』は薄れていく。

・陰性症状や高齢化

7)個人の健康な側面が障害を変える

自信が持てない患者さんの特技とするものを活動に取り入れ、誉められたりするうちに、自信

を回復し、生き生きと生活できるようになり、生活にリズムが生まれる。対人緊張が強いが黙々

とひとつの事を続けられるので、対人交流の少ない完全分業制の工場や福祉的就労の場につくこ

とができるなど、個人の健康な側面、趣味や特技を生かすことで生活障害は大きく減少する。

8)社会的偏見

統合失調症などと診断がつくだけで、社会的な偏見を受ける。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-25

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

∼資料:障害構造モデル∼

1) ICF: International Classification of Functioning, Disability and Health

心身機能・構造

Body Function & Structure

(Impairment)

環境因子

Environment Factor

健康状態(変調/疾病)

Health condition

(disorder/disease)

活動(活動制限)

Activity

(Activity Limitations)

参加(参加制限)

Participation

(Participation restrictions)

個人因子

Personal Factor

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-26

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

2)精神障害の 3 つの側面(1983;1996.大丸)

残存能力というよりは、本人の持っ

[健康の側面]

個人の能力、特性

ている能力。→特技、趣味、各資格

など

[病気の側面]

疾患と機能障害

[障害の側面]

生活障害、社会的不利

個人レベルの生活上の障害や社会生活上の不利益

など生活の障害の部分

→生活のしづらさ(生活の仕方、人付き合い、働く

こと、まとめる力)の部分

SC、幻覚妄想、思考障害など

障害を持つ人には常に 3 つの側面が存在するという考え方。障害のどの部分に対応しようとするのではなく、この 3 つの側面に、

同じに対応していくことが必要。この割合の中で、3 つの側面に対応し健康な部分を大きくしていくことも大切だが、健康な部分

(本人の能力)を生かし、障害の部分をカバーし、病気、障害の部分の割合を小さくしていく考え方。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-27

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

3)IMMD:Interaction Model of Mental Disablement(2000.山根)

疾患

心身の状態

(機能障害)

社会参加

(社会的不利)

日常生活活動

(能力障害)

個人因子

環境因子

心身の状態

(機能障害)

身体構造、身体や精神の機能の状態や特性。その制約が機能障害で病因や

発生形態にかかわらず、薬物の副作用、2次的なものを含む、身体構造ま

たは身体や精神機能の喪失や異常。

日常生活活動

(能力障害)

個人の日常生活に関連した身体的・精神的活動。その制約が能力障害で、

未経験、経験不足などを含む、個人レベルにおける活動の質的・量的支障

社会参加

(社会的不利)

個人の社会への関与の種類と程度。その制約が社会的不利で、職業や住居

の確保、社会資源の利用、所得、基本的な人権の行使社会的役割の遂行な

どの制限、制約、不利益など、社会レベルの障害

環境因子

個人の諸機能に影響を及ぼす自然環境、人工的環境、法律や社会制度を含

む社会文化的環境や人的環境。

個人因子

個人の諸機能に影響を及ぼす年齢、教育歴、経験、才能、性格、趣味、特

技などその個人の特徴

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-28

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

演習課題

ここで、以下の 2 人のケースを用いた演習で、実際の評価~目標設定までを少し体験して

みましょう!

① 心身機能及び作業遂行レベルの低下によるリハ目標での再入院となった女性の

A さん

② デイサービスに通所しているが、抑うつ的で交流も少なく、レクリエーションへの

参加もなく、唯一応じる散歩も“疲れた”とすぐにやめてしまう男性の B さん

【演習課題】

①まずは評価までの流れを確認してみましょう。

②情報収集・・・どのような情報を、どの程度ほしいのか・・・?

③作業療法アプローチの枠組み、進め方の大枠の決定

④なにを、どのように、何から評価するのか考えてみよう

⑤ICF の各カテゴリを整理し、問題点の優先順位を設定してみよう

問題点だけでなく、利点や利用できそうな資源は・・・?

⑥リハ目標・LTG・STG を設定してみよう

A さん、女性、73 歳

平成 13 年に脳梗塞後片麻痺にて治療及びリハビリテーション終了し、自宅にて療養し

ていたが、徐々に身体機能低下し、歩行不安定、ADL も介助を要する場面が多くなってき

た。自宅にて転倒し、左大腿骨転子間骨折し入院加療。骨折完治し、以降立ち上がりは可

能ながら歩行不安定で車椅子にて生活。本人も「歩けるようになって、早く家に帰りたい」

という気持ちも強く、在宅復帰を目的で作業療法が処方された。

B さん、男性、70 歳

大腿骨頚部骨折後、リハ目的でデイケアに通所され、約 3 ヶ月が経過しようとしてい

る。抑うつ的で他の通所者と交流も少なく、スタッフの声かけにもそっけない態度で笑

顔見られることも少ない。レクリエーションへの参加もなく、唯一応じる散歩にも 5

分も歩けば、 腰が重い 疲れた などとすぐに引き返してしまう。機能訓練でもすぐ

に 疲れた 痛い と腰部や股関節、膝関節の痛みを訴えることが多く、途中でやめ

てしまうことが多い。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-29

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

症例紹介

1.一般情報

氏名:

A 氏、女性、73 歳

住所:

F 県

介護度:要介護

3

利手:右

主訴:家に帰りたい、排泄と更衣を自立したい

入所日:

H16.5.28

身長:

144 ㎝ 体重:53 ㎏

2.診断と障害

現病名:脳梗塞後遺症、両変形性膝関節症、

左大腿骨転子間骨折、

高血圧症

障害名:左片麻痺

3.家族構成及び個人因子

(1)家族歴

○ ● ○ ○ ○ □ □

三女との関係良好で、退所後は三女との

2 人暮らしを予定している。

(2)職歴

土木関係(喘息のため辞め、その後は専業主婦)

(3)性格

頑張りや、頑固者

(4)既往歴

H9 洞不全症候群

(ペースメーカー埋め込み術後)

現病歴

H13 脳梗塞、両変形性膝関節症

H15 左大腿骨転子間骨折

高血圧症

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-30

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

(5)現在の状態

一般状態:現在は意識明瞭である。言葉はあまり発さないが、言語障害は認め

られない。移動は車椅子を使っている。左片麻痺であるが、左半身を障害物にぶ

つけたりするのはみられない。

(6)

CT 所見

左基底核から放線冠にかけて線上の陣旧性梗塞所見。右前頭葉皮質下にも梗塞の疑い

の所見。

4.全体像

1)第一印象

車椅子を使用し、ゆっくりではあるが、自走し、施設ケアマネージャとリハビリテーシ

ョン室に来室。体型は少し太っており、髪は白髪交じりの灰色で、起きてから整えている

様子はなかった。服装は清潔感があり、シャツに、ズボンをはいている。

挨拶をすると笑顔で返すが、頷くだけであった。担当になったことを伝えると、「こちら

こそよろしく」とこちらの顔を見て挨拶する。意識も清明で、こちらからの問いかけにも

しっかりと答え、協力的であった。声は小さく、話す速さはゆっくりで、返答までにやや

時間がかかった。「今日は天気いいですね」などの簡単な単語レベルや日常生活でよく使

用する会話は理解できている。しかし、単語が続き複雑な日常会話になると理解困難。理

解するまでに多少の時間がかかる。発音に関しては声がやや小さく、ゆっくりとした口調

で話しをする自分のいる施設がわかっていない。身振り手振りなどの動作は見られなかっ

た。

2)入院前の生活の様子

平成

13 年に脳梗塞後片麻痺にて治療及びリハビリテーション後退院。自宅療養続けて

いたが、平成

15 年、自宅にて転倒時、左大腿骨転子間骨折し加療。骨折完治後一旦退院

し、以降立ち上がりは可能ながら歩行不安定にて自宅で生活。本年

5 月在宅復帰を目的

に当院療養型病床群への入院となる。入院後は転倒の危険から車椅子使用している。

3)現在の生活状況

∼入院前の

ADL 状況聞き取りより∼

1)本人より

<食事>

車椅子にて、利き手で箸あるいはスプーンを使用しているが、口に運ぶ途中でこぼ

すことある。配膳はしてもらっていた。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-31

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

<整容>

・ 整髪:自分で髪を梳く程度はしていた。特に困ってない。

・ ・洗顔:右手で行っている。うまく水をすくえず十分な洗顔は行えていない。

・ 歯磨き:特に問題なく行っている。

<入浴及び清拭>

前は自分でどうにか入っていたが、今はホーム

ヘルパーさんに週

2 回手伝ってもらっている。

<更衣・上半身>

ボタンがやりにくい。大きなものな

らできるが、ブラウスのような小さなボタンはきたいけど着られない。

<更衣・下半身>

何かにつかまって、自分でしている。怖い時はベッドに寝てしている。

<トイレ動作>

家のベッドの横に準備してもらっているので、そこで自分でしている。

<基本動作>

立つのがきついけど、なんとか自分でできる。

<移乗>

〈車椅子からベッドへ〉

自分でするけど、時々家族に手伝ってもらう。

実際にやってもらうと・・・

フットレストは足、手を使い上に上げることはできるが、手すりを使用し立位

はとることができる。膝関節軽度屈曲、体幹は前屈で立ち上がる。左足を支点と

し方向転換するが、ふらつきが見られる。手すりを持ちながらゆっくり腰をおろ

す。移乗時の車椅子のブレーキ操作などの順序は間違いなくできる。

〈ベッドから車椅子へ〉

自分でするけど、時々家族に手伝ってもらう。

実際にやってもらうと・・・

体幹を前屈にし、右手で車椅子の左側のアームレスト、左手で右側のアームレスト

を持ち、体引き寄せるように膝関節軽度屈曲、体幹は前屈で立ち上がる。

左下肢を支点とし方向転換するが、ふらつきが見られる。アームレストを持ち替え、

右足を一歩出し、車椅子にゆっくり座る。フットレストは足と手を使いながら自分

で乗せることはできる。このとき左手はアームレストを掴み、落ちないように支え

ている。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-32

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

<移動>

自宅では手すりを使ってしていた。時々倒れそうになることもあって、一度転んで骨

折した。

4)余暇時間

特にすることもないので、自分の部屋でテレビを見るのが楽しみだった。

外出は自宅から通りまで遠くて、階段もあるのでほとんどしていない。家族にも危

ないと言われる。家族と話すことも日中はほとんどない。用事がある時と食事の時

に話すぐらい。

(5)生活環境

ベッドにいつも寝ている。ベッドの足側にテレビを置いてもらっている。ベッドの横

にはトイレもあるし、自分の物は全部、自分の部屋に置いてもらっている。

家族より

やっぱり、歩いたり立ったりするのが危ない。

1 人でしようとすることが多いし、心配です。お風呂はヘ

ルパーさんにきてもらって助かっていますけど、トイレなど

はベッドの横に置いているけど時々ガタンと大きな音が

することもあります。見に行ってみるとトイレには座って

ますけど、倒れそうになった壁に手をつくこともあるよう

です。

食事はだいたい自分でしますが、箸を使うのが下手でよくこ

ぼしています。スプーンで食べるように言うけど、本人が

嫌がるので・・・

着替えは自分でしているようですけど、ズボンは 1 人です

るのは難しいようです。髪もいつもボサボサで櫛を渡せば、

しぶしぶ整髪しようとするけど、ボサボサのままが多い。

洗顔も水で流す程度しかできないようです。

∼看護師・介護より∼

転倒の恐れが高いので車椅子にて過ごしてもらっている。

トイレや移乗・移動時はナースコール押すように説明して

いるが、なかなか理解できず、1 人でしようとする。入院 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-33

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

後から活気はさほどなく、同室の患者様たちとも会話する

ことは少ない。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-34

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評価項目及び結果(

A 氏)

1.A 氏∼ADL 観察より:入院後の様子(FIM:63/126 点)

<食事>

車椅子坐位にて前のめりの姿勢でとる。両前腕を台につき、利き手で箸あるいはスプー

ンを使用しているが、箸の使い方は挟みの動作が拙劣で、口に運ぶ途中でこぼすことある。

配膳すれば、それ以外は自立である。

<整容>

・整髪:くしをセッティングすれば自分で髪を梳くが、くしを通すだけで整っておらず髪は起

きたままの状態で、ボサボサである。トイレに行ったときなどには鏡を見て、押さえる程度

のことは行うなど、多少気にはなっている様子。

・洗顔:右手のみで行っている。顔に持っていく途中で、半分以上こぼれてしまう。十分な洗

顔は行えていない。

・歯磨き:特に問題なく行っている。

・手洗い:右手で蛇口をひねり、手指をこするように洗う。自分のタオルで拭く。

<入浴及び清拭>

身体の前面、両太ももの一部を洗う程度で、その他の部位は介助者が行っている。入浴は

機械浴で、入り口までは車椅子にて移動し介助によりシャワー・チェアーへ移乗。浴槽へは

電動リフトを使用している。

<更衣・上半身>

かぶりシャツに関しては、健側から腕を通し、続いて患側を通す。背中側を整えることが

できず、介助者が行う。ボタンは大きなものならできるが、ブラウスのような小さなボタ

ンは介助を要する。

<更衣・下半身>

つかまり立ちで行う。片手で手すりを持ち、膝より上からは上げることは可能であるが、ふ

らつきがあり不安定で転倒の危険性があるため、全介助で行っている。靴や靴下も全介助で

ある。

<トイレ動作>

片手支持で立位可能で、声かけにて方向転換はできる。ふらつきがあるため、自分で下衣及

びパンツの上げ下げはできない。

便座に座ると両手で手すりを持ち、位置を調節する、ティッシュは自分で取り、拭く。手も

自分で洗う。

<排泄コントロール>

尿意、便意はあるが、下剤使用。時折夜間に尿失禁、下剤使用のため便失禁あるため、日中

D パンツ、夜間は紙おむつを使用している。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-35

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

<基本動作>

寝返り、起き上がりは特に問題なく自立している。立ち上がりに関しては何かにつかまらな

いとできず、肘・膝関節は軽度屈曲し、体幹含め全体的に前傾姿勢である。椅座位、端座位

は安定しているが、上肢を足下まで持って行けず安定性に欠ける。

<移乗>

〈車椅子からベッドへ〉

フットレストは足、手を使い上に上げることはできるが、手すりを使用し立位はとることが

できる。膝関節軽度屈曲、体幹は前屈で立ち上がる。左足を支点とし方向転換するが、ふら

つきが見られる。手すりを持ちながらゆっくり腰をおろす。移乗時の車椅子のブレーキ操作

などの順序は間違いなくできる。

〈ベッドから車椅子へ〉

体幹を前屈にし、右手で車椅子の左側のアームレスト、左手で右側のアームレストを持ち、

体引き寄せるように膝関節軽度屈曲、体幹は前屈で立ち上がる。

左下肢を支点とし方向転換するが、ふらつきが見られる。アームレストを持ち替え、右足を

一歩出し、車椅子にゆっくり座る。フットレストは足と手を使いながら自分で乗せることは

できる。このとき左手はアームレストを掴み、落ちないように支えている。

<移動>

車椅子にて移動。自宅では手すり使用し自立していたが、骨折後よりふらつき見られ転倒

のリスクが高く、見守りと時に介助が必要であった。

*自宅までは通りから長い階段が続き、歩行能力の低下と介助者(三女)の介助力的にも通り

までの外出が難しい状況で。

<姿勢・バランス>

・坐位

〈静的〉安定している。背もたれがなくても、

20 分程は座位保持可能。頚部は中間位でやや

前方にきている。手指は軽度屈曲位にある。両手部は大腿部上にある。股関節は軽

度外旋し、膝蓋骨が外方にむいている。足関節軽度内反位、骨盤は後傾。

〈動的〉台の上で端座位、肘関節・手指は軽度屈曲位で大腿部上にある。足底は床について

いない。〉

(右側への外乱を加えた場合:不安定)

立ち直り反応、平衡反応は出現するも、すぐに保護伸展反応が出現。倒れそうだという

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-36

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

恐怖心からすぐに右上肢をつく。

(左側への外乱を加えた場合:不安定)

立ち直り反応は出現するも、すぐに平衡反応、保護伸展反応が出現。転倒への恐怖心か

らすぐに左上肢をつく。

(後方への外乱を加えた場合:不安定)

立ち直り反応、平衡反応、保護伸展反応は全て出現するが、立ち直り反応が出現すると

すぐに、恐怖心から体幹を過度に緊張させ、両上肢をつく。

(前方への外乱を加えた場合:安定)

前方へ倒れることへの恐怖心が強く、立ち直り反応が出現してすぐに平衡反応、保護伸

展反応が出現。

*静的・動的ともに非麻痺側臀部後方から前後側方への重心移動は可能である。前後左

右とも倒れない。

・立位

〈静的〉

6 秒立位可能。体幹前屈、骨盤やや前傾、頚部中間位、股関節軽度

屈曲・外旋位、肘関節・膝関節軽度屈曲位である。機能的には、持つと立位保

持可能であるが、下肢だけで体

・片手(右手)支持:

16 秒立位可能。体幹前屈、骨盤やや前傾、頚部中間位、股関節軽度屈

曲・外旋位、肘関節・膝関節軽度屈曲位である。前方の手すりにつかまる。左手でのつ

かまり立ちは、症例が「怖い」と言い、拒否される。機能的には

MMT の結果より、上

肢の筋力は左右差があまり見られないため、可能である。

・両手支持:

1 分 36 秒立位可能。体幹前屈、骨盤やや前傾、頚部中間位、股関節軽度屈曲・

外旋位、肘関節・膝関節軽度屈曲位である。前方の手すりにつかまる。

・背臥位

〈静的〉 頭頚部・体幹・下肢のアライメントは正中線に沿っている。しかし、左足背

面の浮腫による疼痛のため、マットを敷き、

5 ㎝程挙上されている。股関節は軽

度外旋し、膝蓋骨が外方にむいている。上肢は肩関節軽度外転、肘関節軽度屈

曲、前腕は回内位、手指は軽度屈曲、手部は腹部に置いている。

<上肢機能検査(STEF)>

右:

68 点 左:64 点

80 歳以上の平均点は 83 点、最低点は 66 点である。両手の reach に問題なく、前後左右へ

の体幹の重心移動も行えている。母指と指示での指腹つまみで小球を持ち続けて目的箇

所まで運ぶことが困難で、途中で落としてしまうことがある。また、金円板をなかなか

把持できなかった。離し動作は問題なく行えている。

<余暇時間> e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-37

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

他患者に対しては、自分から話しかけることはほとんどなく、食堂で席の近い方に話しかけ

られると、返答する程度である。耳が遠いため、横と前の方以外は、コミュニケーションし

ている場面は見られない。ベッドで過ごすことが多い。スタッフに対しては、きちんと自分

の訴えを言え、問題行動もない。

1 人で車椅子に移ろうとし、転倒しそうになったことがあり、今はベッド柵を固定し、車椅

子は使用していないときは廊下に置いている。今は、移乗の際の転倒を考慮しナースコール

にて介助要求が可能であるが、十分には理解できていない。排泄時のコールはあるものの、

その他の時間は自床にて、特に何する出もなく過ごしている。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-38

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

<生活環境>

4 人部屋である。ベッドは電動式であり、上半身を上げることができる。また高さも調節で

きる。ベッドは非麻痺側が壁側であり、麻痺側には直線の

2 点柵を上下に 2 つ設置してい

る。左側に寝返りして起き上がる。車椅子は使用するとき意外、廊下においてある。棚に洋

服などを入れている。ベッド周辺はきちんと整理されており、整然としている。トイレや居

室の場所など、日常に必要な情報はで混乱することは見られない。

S 氏

入口 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-39

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

2.身体機能 ⅰ)片麻痺機能テスト

麻痺側である左側の上肢・手指・下肢を測定。

上肢:

Br-StageⅤ

ROM 制限により、肘関節が完全に伸展しなかったが、分離運動は可能。

手指:

Br-StageⅤ 分離運動は可能である。

下肢:

Br-StageⅤ 分離運動は可能である。 ⅱ)

ROM−T(他動的,P=疼痛,単位:°)

上肢:座位で測定

肩甲帯屈曲

   挙上

   屈曲

   外転

   外旋

   内旋

肘関節屈曲

   伸展

前腕 回内

   回外

手関節掌屈

   背屈

   撓屈

   尺屈

10

20

165(P)

120(P)

75

60

120

-10

90

75

35(P)

35(P)

10

30

90

80

50

50

15

40

10

20

母指 撓側外転

   尺側内転

155(P)    掌側外転

125(P)    屈曲(MCP)

55

55

135

-10

   伸展(

   屈曲(

   伸展(

指屈曲(

MCP)

IP)

IP)

MCP)

 伸展(

MCP)

 屈曲(

PIP)

 伸展(

PIP)

 屈曲(

DIP)

 伸展(

DIP)

 外転

 内転

0

80

0

20

20

10

60

10

90

60

0

80

50

45

100

5

0

20

20

40

10

80

40

85

50

0

70

30

0

70

下肢:背臥位にて測定。

下肢

股関節  屈曲

     外転

     内転

     外旋

     内旋

膝関節  屈曲

     伸展

足関節  背屈

     底屈

   外がえし

   内がえし

(非麻痺側)

100(P)

15

10

15

20

110(P)

−5(

P)

10

25

10

(麻痺側)

110(P)

30

10

15

15

105(P)

−5(

P)

10

20

10

10

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-40

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト ⅲ)

MMT

握力:

L;6.0 ㎏ R;6.0 ㎏

上肢

屈曲

4

3 股

伸展

前腕

手 ⅳ)反射

腱反射

上腕二頭筋

上腕三頭筋

腕橈骨筋

膝蓋腱

アキレス腱

外転

内転

外旋

内旋

屈曲

伸展

回外

回内

掌屈

背屈

橈屈

尺屈

±

±

±

±

±

4

4

3

3

3

3

4

4

4

4

4

4

4

±

±

±

3

4

3

3

3

3

4

4

4

4

4

4

4

屈曲

伸展

外転

内転

外旋

内旋

屈曲

伸展

背屈

底屈

  下肢

4

4

4

4

4

4

右 左

3 3

4

4

4

3

4

4

3

3

3

3

3

3

R)

±

±

±

±

病的反射

ホフマン

トレムナー

ワルテンベルグ

バビンスキー

± ±

体幹

屈曲

回旋

L)

±

±

3

3 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-41

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト ⅴ)感覚

〈表在覚〉

・触覚

方法:背臥位で測定。顔面は横方向、上下肢は長軸方向に指で触れる。

結果:

(健側を 10 とした場合の症例自身の自己申告による患側の結果)

顔面:

10/10、上肢:10/10、下肢:10/10。

顔面、上肢、下肢ともに正常である。

・痛覚

方法:背臥位・閉眼にて、顔面、上肢、体幹、下肢をピンで刺激する。

結果:健側を

10 とした自己申告による患側の結果。

顔面:

9/10 軽度鈍麻

上肢:7

/10 軽度鈍麻

下肢:5

/10 中度鈍麻

〈深部覚〉

・位置覚

方法:

背臥位にて、患側を他動的に動かし、健側で 3 回模倣させる。

結果:

上肢:肩関節 3/3,肘関節 3/3,手関節2/3

下肢:股関節

1/3,膝関節2/3,足関節 1/3

全般的鈍麻である。

*運動覚は位置覚検査の結果から同レベルと判断し検査せず。

〈複合感覚〉

2 点識別覚

方法:背臥位・閉眼にて、顔面、上肢、体幹、下肢を体の長軸に沿って、2本のピン

で同時に刺激する。初めは

5 ㎝の間隔から刺激し、徐々に広げていく。5回行う。

結果:すべて

1 つと答え、消失である。 ⅵ)疼痛

安静時痛

(−)

運動時痛

(+):他動時に痛み(+)

主に両膝関節に疼痛の訴えがあり、左足背部に浮腫があり、圧迫をかけると痛みを訴える。

安静時にはなく、他動的・運動時のみの訴えである。 ⅷ)筋緊張(麻痺側=左、非麻痺側=右)

(上肢)方法:座位にて、他動的に左肩関節伸展・屈曲・外転、肘関節屈曲・伸展、手関節掌

屈・背屈運動をスピードに変化をつけながら行う。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-42

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

結果:正常である。

(下肢)方法:背臥位にて、他動的に股関節屈曲・伸展、膝関節屈曲・伸展、足関節背屈・底

屈運動をスピードに変化をつけながら行う。

結果:筋の受動的屈伸運動時に、一

定の抵抗が感じられた。筋緊

張はやや亢進している。

3)知的面 ⅰ)

HDS-R: 18 点/30 点(別紙参照)

減点項目:日時と場所の見当識、計算、

3 つの数字の逆唱、言葉の流暢性

診断基準から軽度の痴呆の疑いがある。 ⅱ)高次脳機能検査

肢節運動失行(−)

手指を順次屈伸・眼を開閉させるよう指示。結果、どちらも可能。

半側空間無視(−)

線分二等分課題において右に

0.7 ㎝偏位している(別紙参照)

MI(−)

4 つの課題において、問題なし。

病態失認(−)

病識の欠如はない。

構成失行(+)

二次元においては線分が多かったり,歪んでいる部分があるが,何の形かは理解で

きる.三次元においては、線の混乱、接点の不一致、図案の断片化・省略が見られ

る。「書けない」と言い、終了する。

着衣失行(−)

問題なし。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-43

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

*家屋調査より

階段(上り)

1∼84 段 手すり 右側

平面

10m 程度

85∼103 段 手すりなし

104∼135 段 手すり 左側

136∼139 段 手すりなし

140∼177 段 手すり 右側

玄関まで

8m 程度

道幅(最小)

65 ㎝

玄関の段差

31 ㎝

廊下の幅

82 ㎝

トイレ

段差 内側

9 ㎝

外側

3 ㎝

入り口

51 ㎝

便座の高さ

41 ㎝

居室

段差

5.5 ㎝

入り口

84 ㎝

ベッド

199×88

高さ

29 ㎝+ふとん

ベッドと棚との間 頭側

50 ㎝

足側

65 ㎝

浴室

入り口

57 ㎝

浴槽の深さ 内側

60 ㎝

外側

38 ㎝

浴槽の内径

59×94

持ち幅

8 ㎝

横の幅

18.5 ㎝

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-44

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

Ⅳ.作業療法計画

1.問題点の要約

1)

Impairment レベル

#1 下肢筋力の低下

#2 立位保持の耐久性の低下

#3 軽度の左片麻痺

#4 両変形性膝関節症による疼痛

#5 膝関節の ROM 制限がある

#6 リスク管理に対する認知力の低下

#7 麻痺側下肢の筋緊張やや亢進

#8 手部の筋力低下

#9 体幹の筋力低下

#10 上肢機能の低下

#11 軽度の痴呆

#12 高次脳機能障害(構成失行)

2)

Activity レベル

#1

ADL 低下(清拭、更衣、排泄、入浴)

#2 立位バランス低下

#3 歩行能力の低下

#4 移乗動作要監視

3)

Participation レベル

#1 家庭復帰困難

#2 家庭での自立生活困難

#3 生活範囲の狭小化

4)

Personal Factor

#1 土木関係(喘息のため辞め、その後は専業主婦)

#2 頑張りや

#3 頑固者

5)

Environmental Factor

#1 娘と二人暮らし予定(関係は特に問題なし、働いている)

#2 一戸建て平屋:住宅改修なし

#3 居住地域の不便さ(通りから玄関までの階段で、

20m 弱の距離)

2.治療目標

(1)リハ(最終)目標

・ 娘と同居にて在宅復帰 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-45

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

(2)長期目標(

2M)

・ 片手つかまり立ちの獲得

・ 立位保持耐久性の向上

・ 移乗動作の安定性向上

・ 更衣動作の自立

・ つたい歩きの獲得

・ 在宅に復帰しても行える趣味を見つける

(3)短期目標(

2W~3W)

・ 下肢筋力の増強

・ 立位バランスの安定

・ 排泄動作(便座への移乗、パンツの上げ下げ)の安定性の向上

・ 膝関節の

ROM 制限の改善

3.治療内容

(1) 起立訓練

目的:下肢筋力の向上、立位保持の耐久性獲得

方法:前方の平行棒につかまり、

10×5 回、起立する。

頻度:毎日(木、日曜日以外)

段階付け:徐々に起立している時間をのばしていく。

(2) 平行棒内での歩行訓練

目的:下肢筋力の向上、歩行能力の向上、

QOL の向上

方法:平行棒内で

1 往復×2 回歩く。

頻度:毎日(木、日曜日以外)

段階付け:両手での歩行訓練から、片手での歩行訓練へ。

(3) 歩行器での歩行訓練

目的:下肢筋力の向上、歩行能力の向上、

QOL の向上

方法:歩行器を使って、リハビリ室内を

1 周×2 回歩く。

頻度:毎日(木、日曜日以外)

(4) 関節可動域訓練

目的:関節可動域の維持、拘縮の予防、歩行能力の向上

方法:

OTS が他動的に下肢の ROMex を行い、股関節、膝関節、足関節の伸張運動を行う。

頻度:毎日(リハビリ訓練が終わった後)

場所:リハビリ室のマット or 居室のベッド

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-46

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

(5)趣味活動

他者との交流を図る。

方法:手芸(編物や裁縫)を提供し、余暇時間に行ってもらう。

頻度:週

2 回(水、金)13: 40∼14:30

場所:食堂

OTS の関わり:OTS は隣に座り、一緒に楽しむ。

同じテーブルの

O 氏がいつも編物を行っているため、一緒に活動する。O 氏がいつも編物

を行っているため、一緒に活動する。物品は症例に預かってもらう。

徐々に自分でも管理できるようになってもらう。

(6)両膝関節へのホットパック

目的:両膝関節の疼痛緩和

方法:関節可動域訓練の前に行う。

頻度:毎日(歩行訓練後

15 分間)

(7)筋力増強訓練

目的:下肢の筋力を鍛え、歩行での安定性を図る。

方法:仰臥位にて下肢全体の屈伸運動を行わせる。その際に

OTS が下肢全体に屈曲方向へ

の抵抗運動を

5 秒間加える。5 秒後に OTS は抵抗運動をやめ、症例の力に逆らわな

いように

する。この動作を

10 回行う。伸展も同様。5 ㎏の重りをつけて、座位

にて足踏み運動を

50 回ずつ行う。

頻度:毎日

場所:リハビリ室のマット or 居室のベッド

(8)パズル

目的:構成失行の改善

方法:

4 ピースから始め、徐々に増やしていく。

頻度:週

2 回(火、木)13:30∼14:00

場所:食堂

(9)移乗動作訓練

目的:安定した安全な動作を獲得することで、病棟内での介助量の軽減と、少しでも自立

した生活を目指す。また、転倒のリスクを減らす。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-47

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

方法:転倒の危険性を確認しながら、上下肢の位置を指導する。

頻度:毎日(

ROM-ex 施行時のベッドから車椅子、車椅子からベッドの移乗時に行う)

10)排泄動作訓練

目的:在宅復帰の際に

P−トイレの見守りレベル獲得へ

方法:居室内の

P−トイレで、パンツを上げる動作以外は、見守りレベルで実施する。手の

位置の確認、方向転換は口頭指示する。

頻度:毎日(日曜日以外)

11:00

場所:居室内

11)OTS の関わり

痴呆の進行を防ぐため、毎日会話の中で日付や季節、場所、一日の流れを確認する。対人

距離を約

1m とり、会話は短くて簡潔な言葉で話し、症例の尊厳・自尊心・自立心の尊重

を考慮した声かけをする。他患者とのコミュニケーションに関しては、仲介にはいり、交

流を促す。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-48

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

2.3.4

レッスンプラン事例−2

麻生リハビリテーション専門学校 理学療法学科 木村 先生

平成 17年度 臨床実習Ⅰ 事前セミナー

セミナーの目的

・ 臨床実習に向けて医療人としての態度・身なり等、資質面の再確認

・ 臨床実習Ⅰに向けての模擬体験

セミナーの到達目標

・ 医療人としての接遇を再確認する

・ 想定した疾患に対して、評価項目を列挙できる

・ 想定した疾患に対して、列挙した評価項目に関する検査測定を実施できる

・ 評価結果から問題点を形式的に抽出できる

・ 問題点から理学療法プログラムを形式的に立案できる

・ 上記の過程をレポートにまとめることができる(各個人・28 日 9:00 提出)

日程については別紙参照

注意事項

このセミナーから臨床実習はスタートします。

よって臨床実習の評価はこの時点から開始致します。臨床実習を行うに相応しい態度・

身なり等で望むこと。

自己責任で望んでください。

あまりに改善が見られない、状況がひどい場合には、実習中止も検討します。

2/23(水)麻生塾全体ミーティングがあるため教員不在。外部の方もくるのできちんとし

ておく。6F のみ利用可。辞める e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-49

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

7

8

9

10

11

12

13

14

模擬患者(SP)評価の流れ

症例の情報を提示(16 日(水))

別紙参照

グループにて評価項目選定等のうち合わせ

評価表・役割担当学生(検査測定・記録)

計画を詳細に決めておくこと

教員から事前の情報はありませんが、計画についてコメントは OK です

評価開始(22 日(火)午後から)

4 コマ(90 分×4)の時間の中で効率よく行うこと

情報収集・検査測定・統合と解釈まで担当卒業生と話しておくこと

レポート作成

レポート提出(28 日(月)の 9:10) ※レポートは個人別に提出すること

フィードバック等は各教員の指示に従って下さい。

教員名 学生名 症例

1

2

ラクナ梗塞による右片麻痺

両変形性股関節症に対し THA を施行した症例

3

4

5

6

脳血栓により右脳梗塞を呈した症例

右脛・腓骨遠位開放性骨折、左脛骨顆間隆起骨折

両膝変形性膝関節症を呈し TKA を施行した症例

脳梗塞、COPD、右大腿骨頸部転子間骨折

脳梗塞(右淡蒼球∼内包後脚)後左片麻痺

右被殻出血により左片麻痺を呈した症例

右 TKA

右大腿骨顆上骨折・右腓骨遠位部骨折・腓骨神経麻痺

左 THA

右脛骨プラトー骨折、右前十字付着部裂離骨折、膝蓋骨脱臼

脳出血後左片麻痺

脳梗塞後左片麻痺

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-50

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

15

16

17

18

19

20

脳梗塞(右前頭葉、中大脳動脈)の左片麻痺

右変形性膝関節症(TKA)

右被殻出血

肝性脳症左片麻痺

胃ガンを呈した脳出血後左片麻痺

転倒により左大腿骨頸部外側骨折 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-51

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

第1回 コアカリキュラム

・心臓の構造・機能について説明することができる。

インテークの部分

内部障害に対するリハビリはリスク管理だけではなくて生体の生化学的反応を捉えたアプローチができる

こと。また予防という観点からもアプローチできる。

生活していくためには長く動くことができなければ・・そのためには体力=行動体力+防衛体力

整形の例)HT のある大腿骨頚部骨折の症例

一般的には頚部骨折に対してアプローチをたてる。HT というリスクは考えるもそれだけで終わる。

5 年後 HT をベースにして脳出血が発生してしまった。

服薬でコントロールできて問題ない??HT に対するリハはない?

CO=SV*HR の理解

血液はどのくらい?

計算して考える

体重の 1/13

1 分間で全身をめぐると SV はどのくらいになる?

SV と HR の調節

心臓の血流の特徴を知っておく 収縮時は血行は停止→どうしてなのか?

心臓の動き A-V のパターン RA-RV-LA-LV の順で動くのではない

脈の見方 性別・年代の差を体験

リズム

強さ

血管の硬さ

それからどう考えるのか?

次回心電図の見方

メタボリックシンドロームについて自主学習

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-52

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

第2回 コアカリキュラム

・正常と異常の心電図の違いを判別することができる。

・心電図の波形と心臓の動きを関連付けることができる。

・異常心電図においての心臓の状態の理解とリスク管理ができる。

前回で心臓機能・構造については理解

再復習として正常心電図の波形と心臓の動きを関連付ける

*学習の効果判定-心臓の伝導系の理解ができていない

波形との関連付けから以下のことを学習する

P 波はどうしておこるのか

PQ 時間は・・

伝導時間の遅延は・・

QRS 波は・・

心室の収縮状態

ST 波は・・

定義的には収縮期であるが心臓の状態は収縮から拡張へ(脱分極から再分極へ)

T 波は・・

心室への血流の流れ込み

異常心電図の判別

判別は正常心電図が理解できていないと判別できない←内容理解の確認

最低限踏まえる不整脈の種類

心房粗動

心室粗動

心房細動 これらの特徴と発生機序を理解する

*発生機序を理解することによって波形の特徴をつかむことができる

心室細動

聴診

ポイント

理解の定着と確認で CD-ROM を使って波形の確認 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-53

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

息を止めてと息を吸いながら 呼吸音の区別

音の強弱を確認 それぞれの部位の音

性別の違い

HR の数の違いによる音の違い

聴診の配慮

あたためる 呼吸を止める 耳へのあてかた

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-54

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

コアカリキュラム

・代表的な心疾患を区別し特徴を理解する.

(心不全と虚血性心疾患)

・原因と影響する循環動態の関連付け理学療法時どのような反応がおこるのか考える

(リスク管理)

心不全の原因は・・

心機能の低下により生体にどのような影響?? Do2>Vo2=CO の低下

代償作用はどのようなもの??

4 つの作用の説明ができる→これが出れば HR の調節機構の理解ができているの判断

*循環にからめた説明!

用語の確認 うっ血−肺うっ血とは・・

心タンポナーゼ・・

説明はしていないので学生からの問いかけがあるか??→授業への反応の判断材料

質問がない場合には調べさせる 質問があれば説明する

先天性疾患・・

中隔欠損でどのような循環になり生体へどのように影響するのか

Fallot の四徴候

それぞれの疾患の対比させながら特徴を理解する。単なる暗記ではなく循環動態に関連付けて

理解を図るようにする.

虚血性心疾患・・ e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-55

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

もっとも理学療法として関わる分野であるため以前の授業の復習も行いながら進行する。

狭心症と心筋梗塞の違いは!→重要な概念であるため絶対理解事項

労作性とは・・どなんこと?どんな状態で発生するのかイメージを含ませる(具体的状況)

次回の授業のステップのために

このような診断名がついた場合はどのような評価を行うかを G 討議

疾患の概念の理解と理学療法プログラムのイメージの体験と関連付けの把握

具体的項目が列挙可能であれば症例からの検討を総論の後に組み立てて見る

このときに心臓と呼吸の関連性を予習として体験また一般的な計算方法などを

紹介し算出方法など(METs と Vo2max)←評価学演習で行った評価の意義の再確認

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-56

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

2.3.5

レッスンプラン事例−3

言語発達障害学 学習指導案

大阪リハビリテーション専門学校

指導者 髙橋泰子

1 日 時 平成

18 年 10 月○日 (8 時間分)

2 受講者 言語聴覚学科

1 年 40 名

3 単元名

WISC-Ⅲを使って言語発達障害児の言語発達を評価しょう

4 本単元について

(1) 受講者の実態について

受講者の多数は、これまでに言語発達障害の子どもに接する機会を持っている。しかし、その

言語発達障害が暦年齢と比較してどの程度の遅滞があり、言語の聞く・話す・読む・書くのいず

れに問題があるのか、また言語を支える非言語的な能力の発達状態などを客観的に評価した

機会を有するものは少ない。言語聴覚士の志す受講生は、これから行われる評価実習や臨床

実習で小児を対象とする臨床を体験する場合、それらの客観的評価は最小限説明できなけれ

ばならない。

そこで、この単元の学習により、子どもの発達を客観的に評価するための検査を実施し、得られ

た結果から子どもの現症と照会しながら解釈し、さらにはそれを保護者(小学校の教師)に説明

する力を養いたい。

(2) 単元のねらい

本単元のねらいは、次の5つある。

#1 WISC-Ⅲの理論的な背景を理解する。

#2 WISC-Ⅲを実施する技術を習得する。

#3 実施した検査を集計する。

#4 検査結果を解釈(考察)する。

#5 他の検査や行動と比較・照合して保護者・小学校教師に宛てた報告書を作成

する。

(3) ねらいとする価値について e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-57

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

学生が検査を実施する際、被検児からの質問や解答が出せない態度を見ると、ついつい必要

以上のヒントを出してしまいがちである。また、検査の結果を解説するときは、専門用語を使用し

たり、不安から高圧的な態度になることがある。保護者が子どもの障害が受容できない心理状

態であるにも拘わらす配慮のない言葉掛けをしてしまうことさえある。

検査の実施方法は、理論から正しく理解し、手順を身につけることにより自信がつく。そして、検

査結果を多面的に捉え、事例の子どもの現症と照会しながら理解することにより、結果を解釈す

る力が養われる。習得された知識と技術を元に、ヒトと専門職という立場から、保護者の気持ち

を受容しながら実態と今後の方針が説明できるようにさせたい。

なお、専門用語を誤って記憶しないために、平易な言葉で説明することで正しい理解を促進す

る。

(4) 資料について

小学校 3 年生 男児。人なつっこく、物怖じすることなくよくしゃべるが、多動的で学習が定着し

ない。漢字や計算ドリルは間違いなくこなすが、特に算数の文章問題になると四則演算のどれ

を使用したらよいかわからない。また、学校生活の中ではよく忘れ物をしたり、約束事を忘れて

しまう。学校の教師は個別に指導しているが、どのような指導が効果的であるか悩んでいる。ま

た、保護者も家庭での学習はどのようにさせれば良いのか悩んでいる。(資料:松本治雄・後上

鉄夫編著「言語障害」ナカニシヤ出版 2001 年 61-84pp)

そこで、言語聴覚士が WISC-Ⅲの検査を実施して、得られた結果から読み取れることを学校の

教師および保護者に説明する。という設定で学生に考えさせる内容である。

(5) 本単元の構成

本単元では、まず WISC-Ⅲの構成の概要を理解する。そして、検査の方法と手順を覚える。実

施した結果をまとめ、分析する。それを元に、他の検査や言語発達障害児の現症と比較・照合

し、検査の依頼者(保護者・小学校教師)に提出する報告書を作成できるようになるまでの指導

を行う。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-58

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5 指導計画

(全 8 時間 本時間7・8/8)

過程

時間

学習活動

1 ○知能を構成する因子を想起する。

・これまでに習得した検査を想起す

る。

WISC-Ⅲの知能の因子―ウェクス

ラーの知能の多因子説を想起する。

○検査の基本的な実施方法を理解す

る。

WISC-Ⅲの下位検査における例

指導者の支援・留意点

WISC―Ⅲの概要を説明する。

・ 知能検査の歴史的背景

(復習)

・ ねらい・目的・適応年齢

・ 準備物

(用具)

・ テストの内容

・ 実施方法

(概略)

・ 実施時間

・ テストの開始と打ち切り

の出し方、開始、打ち切りのルール

を理解する(上限と下限)

3 ○

2 人もしくは 3 人組で検査者と

被検査者役になって手順を習得

する(演習)

○ 構成されている

6 種類の言語性

検査と

7 種類の動作性検査にお

いて使用する検査用具と記録用

紙を準備する。

・ 下位検査の内容を理解する。

・ 下位検査の問題提示をする。

・ 記録用紙をヒントに、問題の

提示をする。

・ 補助検査の構成を知る。

・ 時間の測定をする。記録する。

○方法

(手順)

13 の下位検査の内容(含まれて

いる因子)

・ 下位検査の実施方法(教示の出

し方、ヒントの出し方など)

・ 記録の書き方

・ 被験児からの質問に対する応答

の仕方

・ 開始する番号が年齢によって異

なる場合の説明

・ 知的障害児の場合の開始番号 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-59

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

1 ○資料の検査記録をマニュアルに沿

って結果を整理する。

・ 生年月日から生活年齢を算出

・ 粗点の算出

・ 評価点に換算

・ 評価点の合計を算出

・ 評価点合計を換算表により

IQ

に換算

4 つの群指数ごとの評価点合

計を算出し、群指数に換算

・ プロフィール図に、各下位検

査の評価点をプロットする

・ 粗点から下位検査のテスト年

齢を求める。

・ 事例で示された結果を記録用

紙に記入していく

1 ○検査の結果から、言語発達の特徴

を判定する。

2 ○ 提示された問題について説明を

する

○ 他の班の解釈と自分の班の解釈

と比較する

○ 報告書を書く

○整理方法

・ 検査用紙の表紙に記入すべきこ

と項の確認

・ 生年月日から生活年齢の算出方

法の説明

・ 粗点から評価点、評価点合計、

IQ、群指数を求める方法の説明

・ 観察記録欄に言語・行動反応に

ついての特徴を記録する

・ プロフィール図の作成方法の説

・ 必要に応じて粗点から「テスト

年齢換算表」によって下位検査

のテスト年齢の求め方を説明す

○結果の解釈

(本時)

IQ についての判定

VIQ と PIQ の差(discrepancy)

4 つの群指数

・ プロフィール分析

○問題の提示(本時)

・ 班で話し合い、他の班の発表を

聞いて、過不足に気づかせる。

○報告書の書き方

・ 一般的な書式の説明

・ 専門用語を平易な表現で説明す

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-60

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

6 本時の学習

(1) 目標

・ 事実と推測(考察)とを区別して、検査の結果を解釈することができる。

・ 他者が理解できるように、適切な書式(構成)と表現で報告書を作成することができ

る。

(2) 展開

過程 学習活動 指導者の支援・留意点 備考

がないか、プロフィールが正しく作成

行い、その子どもの強い能力や

弱い能力についてさらに詳しく

鑑別診断をする。

4.各班で話し合う。

○プロフィールが正しく作成

できるているか、机間巡視して

できているかを確認する。 確認する。

2.本時のめあてを知る。

検査の結果を読み取る力をつけよう

3.次の

4 つについて判定を行う。

IQ について判定

○ 平均が

100、1 標準偏差が

15 であることを勘案して、

VIQ、PIQ、FIQ の判定を

行うように促す。

VIQ と PIQ の差の大きさを

VIQ と PIQ の差(discrepancy)

を調べる 元にして知能の特色を鑑別

診断する。特に両

IQ に有意 discrepancy がある場合

にはその原因を探ることを

促す。

4 つの群指数間に有意な差があ

るか否かを検討する。

○ 群指数間に有意な差がある

場合には、その原因を探る

④ 下位検査のプロフィール分析を ことを促す。

検 査 記 録

検 査 マ ニ

ュアル本 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-61

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

WISC-Ⅲの特性を①∼⑤に従い整理し、それに基づき事例の子

どもの能力を鑑別診断しよう。

① 言語性検査の種類が基本的には

5 種類となっているが、これ

らの検査からどのような能力が測定されるのか。

② 動作性検査の種類が基本的には

5 種類となっているが、これ

らの検査からどのような能力が測定されるのか。

VIQ と PIQ の discrepancy が有意な差を示している子ども

の知能特性をどのように鑑別診断したらよいか。

4 つの群指数間に有意な差をしめしている子どもの特性をど

のように鑑別診断したらよいか。

⑤ 下位検査のプロフィール分析はどのように行うか。

5.各班で話し合ったことを発表す

る。

○ 各班で解釈した内容に異な

る部分が生じたとき、解釈

した理由を問い、正答を導

く。

他の班の発表と比較して、不足して

いる点は追加記入しておく。

6.報告書を書く。

事実(結果)と推測

(解釈)を記載す

○ 要点を整理してクラス全員

の理解度を一致させる。

○ 一 般 的 な 書 式 例 を 提 示 す

る。

る。その際、学校での活動と照らし合

わせて説明を行う。

7.でき上がった報告書を指導者に提

出する。

○ 記入しなければならない事

項を確認する。

方法を伝える。

○ 専門用語の平易な表現の確

認をする。

○ 机間巡視して、適切な表現

○ 検査の練習を各自で実施す

ることを推奨する。

○ 検査用具の貸し出し方法を

説明する。

ワークシート①

板書

ワークシート②

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-62

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

(3) 評価

・ 正しく結果を集計し、プロフィールを作成できたか。

・ 提示された問題を適切に説明しているか。

・ 報告書の書式に沿って適切な文書が作成できたか。

・ 報告書は事実と推測を区別して記載できているか。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-63

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

2.4

リハビリテーション教育現場教育に対する課題

理学療法士、作業療法士を養成する専門学校は、3 年制と 4 年制があり、1 年の違いでカリキュラ

ムに差が生じる。ましてや、言語聴覚士を養成する専門学校には、入学時点で高校卒業程度と 4

年制大学卒業という条件の違いはあるにせよ、4 年制と2年制の差は大きい。

最終目標が国家試験の合格であるために、指定の期間に試験合格の実力を身につけなければな

らない。当然 1 年間もしくは2年間の余裕がある学校とは大きな差になってくる。

これまで見てきたように、医療系療法士は現場でさまざまなコンピテンシーが要求され、その育成

に当たってはさまざまな教育訓練がなされなければならない。しかし試験合格が重要視されるため

に、コンピテンシーの教育面がどうしても二義的になってしまう可能性が大であると思われる。 そ

の結果実習などの場でかなり厳しい状況に置かれているのが現状ではないだろうか。

また一定期間、学校からはなれて病院へ実習に行く場合に、学校からの定期的な教育、サポート

が途切れてしまうという問題もある。結局実習に行く前に、現場の状況に近い形で事前訓練を行う

ようなカリキュラムが規定されていないために、学生が実習の現場でかなり辛い立場になることも多

いようである。

① ID の必要性

学ぶことが医学知識を始め非常に多岐にわたり、かつ人間心理の理解やコミュ

ニケーション能力の醸成など課題が非常に多い中で、なんとかeラーニングなど

の手法がリハビリ教育において効果的に用いられる可能性はないのだろうか。

特にこれまで、ID(Instructional Design)手法を使ったカリキュラムの策定などの

作業が、日本ではあまり積極的に行われてこなかったために、教授独自のカリキ

ュラム開発、教授法などが主に執り行われており、確固とした教育方法論による

教材開発などが不十分であると考えられるのではないだろうか。

小・中・高校とは違って、専門学校、大学で教える場合には、教育方法論・教材

開発などの手法を習得する場が不足しているのが原因であると思われる。

② 時間などのリソース限界

教育現場では、教える教員の数、教える時間、限られた実習環境などで充分に

実習時間がなかったり、かつ個別の指導が行き届かない場合が多い。現実的に

すべてのシラバスを吸収できるほどの時間的余裕がないのが現状である。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-64

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

③ 人を対象にしたサービス

仕事相手が人でありかつ精神的にいろいろな問題をもかかえているケースの多

い人間であるために、その対応には非常に気を使い、かつ PT・ST・OT にも高い

人間性が要求されるであろう。

またチームワークを中心として、コミュニケーションが重要な仕事のひとつになる

場合、単に本を読んで知識を吸収する教育では現場にでて全く困ってしまうペ

ーパードライバーを育成するようなことにつながってしまう。

このような理由から、機能的・知識的な学習だけでなく、人との関わりの中で仕事

をしていくために、医療人としてのありかた、考え方を身につけさせることに苦労

している。したがって、このような人間性のところを単にeラーニングで教育のす

べてをサポートしようとすると限界があるはずである。

ただし限定的であれば、現在の問題である教育時間が足りないとか、紙の資料

だけでは理解しにくいなどの問題を解決する手段として、コンピュータを使った

教育が必要であると思われる。

④ 医療現場の不在

在学中に病院に実習に行くとは言っても、PT・ST・OT として習得できるには充分

な時間とは言えない。また付属病院を有しない専門学校は、学校が臨床現場か

ら離れているために、学生だけでなく、教員までもが現場の雰囲気や現状を伝

えられないケースが増えているということである。

現場の状況を言葉で伝えてもなかなかイメージしにくいこともあって、学生にとっ

ては非常に理解しがたい内容のようである。

この問題は卒業したら即現場に配属される学生たちにとっては、大きな試練・変

化であると考えられる。

⑤ 卒業後の教育体制

卒業後 PT・ST・OT として就労するのが一般的であるが、卒業時期に国家試験

があるために在学中の勉強は試験に合格することに重要度が置かれている。そ

のため現場に出てからの実践的な能力開発まで手が回らない状況であろうと考

えられる。これはリハビリテーション教育にとどまらず、すべての学生たちが企業

に入ると即戦力になりえず、企業は入社後膨大な教育費をかけて新入社員を訓

練するのである。ただしこれができるのは一部の金持ち企業のみであって中小・ e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-65

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

零細企業に就職するとほとんど研修の機会は与えられず現場で先輩に教わりな

がら習得するしかないのである。

しかし技術進歩が激しい業界では(リハビリテーションも IT 利用により益々高度

化している)、卒業後教育訓練されなければ、あっという間に使えない人材となっ

てしまうのである。

このため、学校は卒後も卒業生をサポートし継続的に教育を受けさせるサービス

を展開すべきかもしれない。その意味ではeラーニングという媒体を使い、場所

や時間の制限なしに学べるような環境を整備することにより、学校は生涯にわた

り療法士のスキルアップを図ることは大切な役割・機会となるはずである。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 2-66

3

イ ン ス ト ラ ク シ ョ ナ ル デ ザ イ ン の

調

分 析 と リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン 教 育 へ

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

3

インストラクショナルデザインの調査・分析とリハビリテーション

教育への適用

3.1

各種インストラクショナルデザインの調査

3.1.1

調査の目的

本調査の目的は、現在さまざまな研修に実際に活用されているまたは活用効果が期待され

る研修開発技法を調査し、リハビリテーション教育への適用を検討するものである。

本章では、インストラクショナルデザインを

ID と称する。

3.1.2

各種インストラクショナルデザインの分析結果

これ以降、代表的なインストラクショナルデザインについてそれらの特徴を比較する。同

時にリハビリテーションへの適用上、効果があると思われる項目についても分析する。

今回、分析対象とした

ID は次の 3 つである。

(1)

ADDIE モデル

(2)

Dick & Carey モデル

(3)

CRI (Criterion-Referenced Instruction) 技法

3.1.2.1 ADDIEモデル

北米には企業内研修を主な研究対象としている教育学会があるが、その中でも最大規模の

学会の

1 つである ASTD (American Society for Training & Development)が推奨している

ID が「ADDIE モデル」である。ASTD では、ADDIE モデルは ISD (Instructional Systems

Development)として定義されている。

ADDIE モデルは、北米メリーランドにある National Labor College の Education Design

Unit のディレクターである Chuck Hodell によって考案された方法論である。

日本国内で

ID という言葉が一般に聞かれるようになったのはインターネットが普及し、e

ラーニングの前身である

WBT (Web Based Training)が始動した 1998 年頃以降である。そ

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-2

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

れ以前から研修開発技法に携わっている教育専門家にとっては、

ISD の呼称の方が馴染み

を感じると思う。

な お 、 北 米 で は 、 研 修 開 発 技 法 に 関 し て は 、 他 に も

Instructional Development,

Instructional Systems Design, Systems Approach to Training などさまざまな呼称が使

われており、いずれも

ISD の流れを汲んでいる。

上記の状況を考慮した上で、次に

ADDIE モデルについて概観する。先ずは ADDIE のフル

ネームから見ていく。

A、D、D、I、E は次の英単語の頭文字を取ったもので、それぞれ以

下の意味を持つ。

A: Analysis (分析)

D: Development

I: Implementation

E: Evaluation (評価)

上記のそれぞれのステップをフェーズと呼ぶ場合もある。これら

5 つのフェーズ間の関係

は大きな意味で捉えると次のようになる。

「分析」は、

ISD としてのシステムに対するインプットであり、「設計」「開発」「評価」は

プロセスであり、

実際には、扱う研修開発プログラムによりこれらの

5 つのフェーズは、部分的にオーバー

ラップすることもある。あくまでも

5 つの部分に分けるのは理屈の上であり、実際の作業

においてはもっと柔軟に適用されている。

では、はじめに

ADDIE モデルの全体像を見てみよう。

分析、設計、開発、実施、評価の各フェーズの関係は、次のような図で表現することがで

きる。研修コースを開発するプロセスは、この図のように分析→設計→開発→実施→評価

となる。

分析 設計 開発 実施 評価

1 ADDIE の基本的な流れ(フェーズ) e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-3

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

実際のコース開発では、各フェーズが互いに関連しており、フェーズ間でフィードバック

が発生する。たとえば、ある学習のプロトタイプを設計の段階で試行した結果、受講対象

者の実際の目的と事前保有スキルとのギャップが大きい場合には、再度分析結果を検討す

ることがある。左から右へ単純に進めていくというよりも互いにフィードバックを掛け合

いながらも単に後戻りをするのではなく、より現実のニーズに近づいていく方法を取る。

むしろ、分析、設計、開発、実施、評価のプロセスを繰り返しながらスパイラル状に発展

していくイメージに近い。

ADDIE モデルにおけるそれぞれのフェーズの目的や作業の概要は以下のとおりである。

分析

分析フェーズでは、この時点で可能な限りのコース開発に関連する情

報を集め、コース開発の妥当性、コースの目的を明確にする。

ADDIE モデルでは、分析フェーズにおいて主に下記の項目の分析を

行う。

・コースの必要性

・問題の原因

・コースの到達点

・どのような情報が必要か。それをどのようにして収集するか

・コースの構成と運用実施の可能性の検討

・コースの実施形態の検討

・コース改善の時期の検討

設計

設計フェーズでは、コースの到達目標を明確にし、その目標を達成す

るための最適なインストラクションの設計を行う。このためにガニェ

ら(

Gagne: Gagne, Briggs, and Wager, 1988)による 9 教授事象を

採用している。

・学習到達目標の記述

・インストラクションの

9 つのイベントの活用(9 教授事象)

ここで

9 つのイベントとは下記の項目を意味する。

(鈴木克明氏(

2002)教材設計マニュアル、北大路書房 より)

① 受講者の注意を喚起する

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-4

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

② 学習の目標を知らせる

③ 前提条件を思い出させる

④ 新しい事項を提示する

⑤ 学習の指針を与える

⑥ 演習の機会をつくる

⑦ フィードバックを与える

⑧ 学習の成果を評価する

⑨ 転移と保持を高める

開発

開発フェーズでは、プロジェクト運用に関わるさまざまな要件を確認

しながらコース開発を進めていく。

・コース開発費用

・納期

・文書による作業確認

・サンプルの作成

・プロトタイプの作成と試行

・インストラクターに対するトレーニング

実施

実施フェーズでは、評価基準を明確にしてコース結果の評価に加え、

これまで進めてきた各フェーズに対する評価も行う。

・評価基準の確定(カークパトリックの評価基準を採用している)

このモデルでは、カークパトリックの

4 つの評価レベルを下記のよう

に定義している。

レベル

1 リアクション

レベル

2 ラーニング

レベル

3 ビヘイビアー e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-5

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

レベル

4 ROI (Return on Investment)

評価

ADDIE モデルでは、評価フェーズを他のフェーズから切り離なされ

たものとはみなしていない。コースの実施中もしくは実施後の評価に

留まってはいない。他のフェーズごとに、その成果が適切であったの

か否かを個別に評価するシステムが組み込まれている。

このモデルでのeラーニングコンテンツ開発に関するガイドラインを下記に述べる。 eラーニングコンテンツを成功させるための要素の大半は、対面授業の開発と共通してい

るが、特に、

<マネジメント上の考慮>

(1) 現場のニーズを明らかにすること

・ 研修のニーズがビジネス上の利害関係と合致していることが重要であり、現場の真

のニーズを反映していることがポイントとなる。

・ また、コース開発に協力可能な

SME (Subject Mater Expert)がどのくらいの期間

共同作業が可能であるかも重要な要因となる。

(2) 受講者のニーズを明確にする

・ 受講者がeラーニングで学習できる環境にあるか否かを調査する。たとえば、営業

職の受講者は職場での学習時間帯に制限があり、また、学習に着手できたとしても

まとまった学習時間が取れない可能性もある。こうした場合には、逆に数日間の集

合研修でeラーニングを行う方が効果的かもしれない。

(3) コース開発における協力体制を築く

・ いわゆるステークホルダーと呼ばれる、研修コース開発の関係者との協力体制を強

固なものにしておく必要がある。

・ 特に、専門領域における教材開発では、

SME の協力が不可欠である。

・ また、eラーニング特有の学習指導には特別なスキルが求められる。学習指導の役

割に応じて、メンターやチューターとの共同作業が不可欠となる。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-6

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

<教授法の考慮>

(1) コースの目的とコース目標を明確にすること

(2) eラーニング特有のインストラクション技法を確立し適用すること

では、次に

2 つ目の ID である、Dick & Carey モデルについて考察する。

3.1.2.2 Dick & Careyモデル

Dick & Carey モデルの著書である『はじめてのインストラクショナルデザイン』は、北米

れている。教育システム開発やパフォーマンス分析を専門とする

Walter Dick と、南フロ

リダ大学教授で学校教育プログラムの評価を専門としている

Lou Carey、そして同じく南

フロリダ大学の助教授で教育工学、コミュニケーションテクノロジを教えている

James O.

Carey の 3 名である。

基本的には

ADDIE モデルと同じ流れを汲むが、より実践的な手法を提示している。また、

CRI 技法やガニェの教育理論に関わる要素も多分に含まれている。

このモデルの全体像を次の図で示す。

インストラクション

の改訂

教育分析の実施

ゴールを識別するための

ニーズアセスメント

パフォーマンス

目標の作成

評価基準の開発 教授方略の開発

教材の開発と

選択

形成的評価の

設計と実施

学習者分析と

コンテキスト分析

総括的評価の

設計と実施

2 Dick & Carey モデル

左から右に進み、部分的にフィードバックがかかるシステムとなっている。では、

Dick &

Carey モデルの個々のプロセスについて概観する。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-7

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

(1) ゴールを識別するためのニーズアセスメント

最初のステップでは、研修を終了した暁に受講者が到達すべき姿を定義する。

最初にゴールを設定し、ニーズアセスメントを行い、受講者にとって実行が困難であっ

た実務経験の分析、実際に対象となる業務を行っている人に関する分析、必要なインス

トラクションを分析し、教育ゴールを設定する。

(2) 教育分析の実施

教育ゴールの到達に必要な受講者の動きを詳細に分析する。また、受講者が受講前に必

要となるスキル、知識、態度を明確にする。これを前提行動(entry behavior)という。

教育ゴールとは、①知的技能(intellectual skill)、②言語情報(verbal information)、③運動技

能(psychomotor skill)、④態度(attitude)に分類される。

こうしたさまざまなゴールを達成するためのステップを明らかにする方法をゴール分析

という。

Note

後述する CRI 技法で扱うゴール分析とは全く異なるので注意を要する。CRI 技法で言う「ゴ

ール」とは観察可能なパフォーマンスではなく人によってさまざまな解釈の余地が生じるあい

まいな目標のことである。例)優れた管理職である

たとえば、知的技能は、あるルールや法則を適用して問題を解決するような技能であり、

「E=mgh でポテンシャルエネルギーを計算させる物理の問題」や、「医療データが与え

られて医療方法を考えさせるテスト」などで求められる技能である。

答えが決まるようなものである。

て治療を施す」といった技能である。

なって接する」とか「ビジネスマインドを持って仕事に従事する」のようなものである。

こうした、ゴールを研修でどのように受講者に修得させるかがポイントであり、ゴール

分析は、可能な限り、観察可能なパフォーマンスの表現に変換する。運動技能のゴール

分析は、タスク分析に近いイメージで行われる。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-8

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

(3) 受講者分析とコンテクスト分析

さらに、受講者の前提スキル保有状況や、受講者がスキルを学習する環境や状況、及び

そのスキルを使用する状況を分析する。受講者の分析項目には、好みや態度をも分析す

る。

実際の作業は、①受講者分析と②コンテクスト分析である。

<受講者分析>

この ID モデルでは、受講者のことを学習の対象という意味で「対象者」とも言う。また

は、対象者を対象聴衆(Target Audience)または、対象集団(Target Group)とも呼ぶ。

対象者の分析項目としては、年齢、学年レベル、教科、職務経歴、職務身分などがある。

実際にコースを受講する対象者とは別に、デザイナ(このモデルではインストラクショ

ナルデザイナーを単にデザイナという)が活用できる対象者を試行学習者(try-out learner)

という。

受講者分析で重要な情報は以下の 7 つとなる。

① 前提行動

② 教育内容に対する前提知識

③ 教育内容と、実現可能な教育伝達システム対する態度

④ 学習に対する動機付け(ARCS 理論を考慮した分析)

⑤ 教育レベルと能力

⑥ 学習スタイルの好み

⑦ インストラクションを提供する教育組織に対する態度(ある種のバイアス)

上記の内、特に①の前提行動というのは、行動というよりは、事前に保有している知識、

経験、そして態度に関する度合いを指す。ARCS 理論については後述する。

<コンテクスト>

コンテクストには、パフォーマンスコンテクストと学習コンテクストがある。

・パフォーマンスコンテクスト分析

受講者がコースで修得した知識やスキルを実際に活用する現場の環境を事前に調査し、 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-9

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

その結果を事前にコース内容に反映しなければコースの価値は半減する。半減するどこ

ろか実際に使えない知識やスキルを膨大なコストと時間をかけて生み出していたことに

なる。

パフォーマンスコンテクストとは、別な言い方をすれば、受講者が属する職場環境がど

の程度スムーズにトレーニングの転移(transfer of training)を実現させることができるか

ということである。コースで修得した知識やスキルの発揮を妨げる要因があれば、研修

の成果を保障することができなくなる。

パフォーマンスコンテクスト分析の結果、もし、受講者の上司が受講者に対して、受講

者がコースで新たに獲得した知識の活用を否定したり無視したりする傾向にあることが

判明したならば、この上司をコース設計の段階から参加してもらい、パフォーマンス改

善の共通の認識を持つようにしてもらう。

・学習コンテクスト分析

パフォーマンスコンテクストと同様な考え方で、学習環境について制約項目を調査する。

トレーニングセンターや職場でのトレーニング環境において、トレーニングの転移を妨

げるさまざまな要因を分析する。

(4) パフォーマンス目標の作成

受講者がコース終了後に到達すべき目標を記述する。この目標はパフォーマンス目標と

呼ばれる。この目標はそれまでの分析結果を元に、行動、与件、基準の 3 要素で記述さ

スが行われるべきかを規定するものである。この書式は CRI 技法の考案者であるロバー

ト・F・メイガーを参照している。詳細については、後述する CRI 技法の節を参照され

たい。

メイガーは目標記述に関する本を 1962 年に出版しており、それ以降、ISD の世界に大き

な影響を及ぼしている。日本国内では、企業内研修において徐々に普及を始めているが、

専修学校や大学機関ではこれからの浸透が期待されている。

(5) 評価基準の開発

受講者が目標に到達したか否かを評価するための評価基準を作成する。評価基準は目標

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-10

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

が規定している行動のタイプに合致している必要がある。

評価基準の開発とはテスト問題を作ることでもあり、この ID モデルでは、次の 4 つのテ

1. 前提行動テスト

・ 受講者がインストラクションを受ける準備ができているか否かを評価する

・ 受講者がコース受講に必要な最低限の知識やスキルを保有しているかを評価す

2. プリテスト

・ コース受講前に対象となるスキルを修得しているかどうか

・ 修得済みのスキルや知識は何か

・ コース開発を効果的にするにはどうすればよいのか

3. 模擬テスト

・ 教えられたスキルを修得したか否か

・ 受講者がどのような間違いを起こしているのか(診断テストとしての機能)

・ インストラクションは適切であるか否か

・ インストラクションの提示のペースは適切かどうか

4. ポストテスト

・ 最終目標に到達したか否か

・ インストラクションへのフォードバック

・ 情報、スキル、態度を目標どおり修得したか否か

(6) 教授方略の開発

設定した最終目標に到達するための教授方略を決定する。そのために、教育実施前の活

動、情報の提示方法、実習とそのフィードバック、評価テスト、研修後のフォローアッ

プ活動等に関する一連の方略を開発する。こうした方略の開発の基礎となるのが、最新

メディア理論、インフォメーションデザイン、教育技法、学習理論、受講者の学習特性

などである。

教授方略はインストラクションの手順を決定するが、インストラクションを実施する手

段すなわち「実施システム」を決定するのも重要である。

最適な実施システムを決めるには、次のステップを踏む。

① ゴール、受講者のさまざまな特徴、学習及びパフォーマンスコンテクスト、目

標、評価の必要条件を検討する e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-11

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

② 教育分析を通して、目標をグループ化し最適な学習順序を設計する

③ インストラクションを提示する学習構成要素を設計する

④ 最適な受講者集団を選定する

⑤ コスト、利便性、実現性を考慮した最適なメディア及び教材を設計する

(7) 教材の開発と選択

設計結果(方略)に基づき、具体的な教材を開発する。教材は学習目標や受講者特性を

CBT、ロールプレイ、ワークショップなどさまざまな学習教材を開発する。

教材開発の際には、コストや受講者の視点から見た基準を設けて総合的に開発する。ま

た、既存のリソースを流用する基準も明確にする。

(8) 形成的評価の設計と実施

初版のインストラクションの実施後の評価及び改善のための一連の評価を、形成的評価

と呼ぶ。この形成的評価には、次の 3 つのタイプがある。

① 1 対 1 評価 (one-to-one evaluation)

② 小集団評価 (small group evaluation)

③ 実地評価 (field evaluation)

(9) インストラクションの改訂

上記の 3 つの形成的評価の結果を総合的に判断し、インストラクションの改善を行う。

このプロセスは、単に最終成果物としての各種教材に対してのみ行われるのではなく、

分析、設計の各アウトプットも考慮に入れる。場合によっては、最初のパフォーマンス

目標が適切でないことが判明することもあり得る。

(10) 総括的評価の設計と実施

この評価は設計プロセスとしては扱わないが、上記の形成的評価を基にした改善を行っ

た後に、特に第 3 者により実施される。インストラクショナルデザイナーが行うべき改

善を施した後に、当該コースの評価を行うのが目的である。

次に、

3 つ目のインストラクショナルデザインである CRI 技法について概観する。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-12

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

3.1.2.3

CRI技法

CRI とは Criterion-Referenced Instruction の略称で、1970 年に北米のロバート・F・メ

イガーが考案した企業内研修開発技法である。メイガーは北米の

ISD の世界におけるパフ

ォーマンス目標の権威であり、ガニェと同様多くのインストラクショナルデザインに大き

な影響を与えている。現在、

CRI 技法に関しては、北米では CEP (Center for Effective

Performance)社がさまざまなサービスを提供している。日本国内でも CEP 社の認定を受け

た研修組織が

1995 年から活動を続けている。

CRI 技法も基本的に分析・設計・開発・実施・評価・改善のフェーズを踏む。CRI 技法の

「改善」にならって、上述した

ADDIE に改善(Improvement)フェーズが追加されてい

るので、

ADDIEI となる。実際には ADDIE にも改善作業が含まれている。

CRI の言葉が意味するところは、「現実世界のさまざまな業務(パフォーマンス)の期待さ

れる基準

(Criterion)を参照(Referenced)した、または達成すべき研修の最終目標としたイ

ンストラクション(

Instruction)技法である」となる。

CRI 技法は研修の成果を保証する ID で、研修修了後からすぐに現場で期待されるスキルを

発揮することが一定の条件の下で保証される。一定の条件とは、スキル(研修を通して修

得したスキル)があるにも関わらずそのスキルの発揮を妨げてしまう要因(仕事のプロセ

ス上の問題、人間関係上の問題、コミュニケーション上の問題、業務遂行環境の問題など)

が、業務遂行環境の中に存在しないという条件である。ただし、そうした阻害要因の一部

を取り除くスキル(たとえばコミュニケーション力)が研修で修得されており、なおかつ

そのスキルを発揮することができればさらにその「一定の条件」が緩和されることになる。

題を扱う別な領域となっており、純粋な研修技術とは別に検討されるべきである。この種

の技術は

HPT(Human Performance Technology)として研究が進められており、問題解決

に有効かつ実用的な各種のツールが用意されている。

CRI 技法では、こうした HPT 領域も視野に入れており、CRI 技法によるコース開発の最初

の段階(分析フェーズにおける最初のステップ)で、対象となる研修課題がスキル不足に

よるものなのか、それともスキル以外の要因に起因しているのかを明確に切り分ける。言

い換えると、企業や組織の人的リソースの課題解決の手段として「研修」が有効であるか

否かを明確に分析しようというものである。

一般的にリソースとしては、人的リソースの他に「物」、「資金」、「情報」があるが、

CRI

技法を含めたインストラクショナルデザインは人的リソース上の課題解決の

1 つの技術と

して位置付けられている。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-13

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

CRI 技法を通した企業向け研修コンサルティングサービスを展開している北米の CEP

(Center for Effective Performance)社によると、人的リソース上の課題の原因の内、スキル

不足に起因するものは僅かに

30%程度であると報告されている。日本の企業内での業務遂

行環境にこのデータがそのまま当てはまるかどうかは別としても、研修に携わるインスト

いう声にそのまま単純に応答してはならない。このあたりの検討については、後述する「パ

フォーマンス分析」を参照されたい。

では、

CRI 型研修の持つ特徴を、学習目標(または単に目標ともいう)、学習内容、実習、

講師の役割、テスト、コース参加の意義の

7 つの切り口から述べていく。

(1) 学習目標

く「パフォーマンス目標の通りに」埋めることにある。昨日まで出来なかったことが今

日できるようになり、明日は現実の世界で期待されるパフォーマンスを喜々として実行

することを保証する。ここでいう「副次効果」とは、目標に到達する過程での学習や実

習が本来の目的からずれているために引き起こされる副作用のようなもので、地図もな

く右往左往してやっとの思いで目的地に到着するほとんど無計画な旅に似ている。この

点についての詳細は別な切り口からみる。

さて、このような研修の目的を達成するための重要な要素の 1 つとして、学習目標があ

る。すでにパフォーマンス目標という言葉がでてきたが、パフォーマンス目標は特に現

場(パフォーマンスが行われる場)で期待される行動について記述されたもので、営業

活動、販売、医療活動などすべての種類の業務が対象となる。これに対して、学習目標

は研修というスキルを修得する場において、研修修了後に到達すべき行動について記述

する。この場合の行動は、業務行動そのものを記述するが、必要に応じあるスキルや知

識の達成度合いを記述する場合もある。業務遂行に必須となる基盤スキルまたは共通ス

キルを扱う学習目標もあり得る。しかし、その場合でも学習目標の記述はパフォーマン

ス的、すなわち観察できる形式での表現となる。

基本的に、学習目標とパフォーマンス目標との違いはなく、研修の世界で設定される学

習目標は現実の世界で発揮することを期待されるパフォーマンス目標と完全に合致させ

る必要がある。というよりも「合致すべきもの」である。ここが研修の成果が保証され

るか否かの分かれ目である。分析や設計段階での目標設定の精度や現実の世界の反映度

合いがポイントとなる。CRI 技法における目標記述についての詳細は別の節を参照され

たい。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-14

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

(2) 学習内容

たとえ学習目標が現実の世界で求められる業務を正確に反映したとしても、研修におい

て実務で発揮すべきスキルと無関係な内容を含めてしまうと、研修そのものの価値を下

げてしまうことになる。受講者が苦労して学習目標に到達したとしても、その過程で無

駄な時間を掛けた「目標とは無関係な学習」を強いられることになる。

そこで、学習内容の設計においては常に学習目標を基準として、現在の受講対象者が必

要なスキル(逆に言うならばスキルギャップ)を、受講者が最も理解しやすい順序に配

列(階層化)する必要がある。分析フェーズにおいて学習目標の達成に必要な過不足の

ないスキルを抽出し、それらのスキル間の従属関係に従って階層化するステップがある。

階層図は、受講者が修得すべきスキル間の関係、すなわち下位のスキルができるように

なって初めて上位のスキルを修得することができる関係を示している。この階層化作業

を通してこそ論理的な学習内容の設計が可能となる。また、受講対象者の事前保有スキ

ルをある程度考慮することにより、コースの開始ポイントを論理的に設計する事も可能

となる。

このようにして学習内容を現実の世界で求められるスキルと合致させることができる。

同時に、受講対象者の最適なスタートポイントを設定し、なおかつ論理的な学習順序を

設計することができる。

(3) 実習

実習は目標達成に不可欠な学習活動であり、研修時間の不足や実習環境の不備などによ

る理由で省略されるべきではない。また、単純に練習の回数をこなしたり、くり返し練

習によるスキルの修得を図るのではなく、そこには綿密に設計されたフィードバックが

不可欠となる。

仮に一つひとつの練習に対する正しいフィードバック(矯正)を怠り、受講者まかせの

実習設計を行った場合、最悪のケースで人命を失うことすら起こりうる。

北米の、あるポリスアカデミーで実際に起こった事例がある。実戦を基にした実習内容

でないがために、命を落としたという。ここまで極端な例でなくても、最適なフィード

バックを与えなかったために実際の業務に支障をきたすケースは数多い。

(4) 講師の役割

講師の最も重要な役割は、受講者の学習を手助けすることである。学習上のさまざまな e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-15

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

障害をできるだけ早く発見し、できる限り早く取り除くことである。CRI 技法で開発さ

れたコースは受講者の学習スタイルに合わせた伝達手段を設計する。講義スタイルが採

用されることもあれば、自分のペースで学習を進めるスタイル(テキスト、ビデオ、e

学習環境、それに受講対象者の学習パターンによって組み合わせて提供する。そのいず

れの学習伝達手段であっても講師の使命は学習を手助けすることであり、講師は単にイ

ンストラクションの媒体機能だけに時間を費やす事に終始してはならない。

CRI における講師は、受講者に対する最大限の配慮と適切で最も効果的なフィードバッ

クをかけ、常に受講者の学習上のあらゆる障害を早期発見し取り除くという本来講師の

発揮すべき機能を実現している。CRI では、インストラクターは完全なコーチングスキ

ルを発揮することになる。

CRI 型コースは基本的に個々の受講者の学習能力や事前保有スキルに応じた個別学習

(前述したコーチング付き)の形態をとり、受講者は、自分にとって未知の知識やスキ

ルにのみ集中して学習することができる。既知の知識や既得のスキルを再学習する必要

はなく、自分ができる学習単位(CRI ではモジュールという)はスキップすることが可

能である。もちろん、その際にはモジュールの目標が求めるパフォーマンスをインスト

ラクター(CRI では、コースマネージャと呼称する)にデモして証明する必要がある。

学習開始時刻や休憩時間、昼食時間、その日の学習終了時間も受講者が進捗ガイドライ

ンを基に自分の意志で決めることができる。

(5) テスト(スキルチェック)

CRI 技法ではテストのことをスキルチェックと呼んでいる。テストという響きが受講者

に与える心理的圧迫(たとえば、テストによるふるい落とし)を払拭する目的と、本来

テストは受講者が学習や実習を通して学習目標に到達したかどうかを判定する、または

評価するという目的を持つため試験というよりは評価という意味合いを持っているので、

あえてテストとは呼称していない。CRI 型コースではテストをふるい落とすための手段

としては使わない。

テストはある基準(たとえば合格点)を設定して、それ以下の場合不合格とすることが

あるが、その基準はテスト作成者の気まぐれな設定に依存してはならない。あくまでも

合格基準は、学習目標の達成基準と完全に合致しているべきで、そうでなければ研修成

果を保証することが出来ない。なぜなら、学習目標で記述されている到達基準は現実の

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-16

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

世界の業務の基準を反映しているためである。

もし、受講者が不合格、すなわち未だ学習目標の到達基準に達成していないことが観察

された、または評価された場合、スキルギャップは何で、なぜそのスキルギャップが埋

まらなかったのかを分析する。講師は分析結果に応じたピンポイントのフィードバック

を直ちに与え、受講者の学習の手助けを行う。

テストのフィードバックが有効に働くための条件は、テスト結果がテスト修了後直ちに

受講者に知らされることである。受講者はその場で自分のスキルを修正したあと、十分

な実習を通して再度スキルチェックに挑戦することになる。もし、テスト修了後のリア

ルタイムのフィードバックがかからない場合、正しい修正がなされないまま、次の学習

活動に入ってしまうこともありうる。ただ、実際には CRI 型コースにおいては、テスト

(スキルチェック)にパスしなければ次の学習単位(モジュール)に進めない仕組みに

なっている。

また、CRI では、テストの評価においては他の受講者との成績結果に対する相対評価で

はなく、目標の基準に対する絶対評価を採用する。これは当然のことで、もし、同一の

受講者があるクラスで「優」であっても、他のクラスでは「良」であるかもしれない。

これは何を意味しているのであろうか。この場合の「優」や「良」は現場で発揮してい

るスキルの評価にはなり得ないのは明白である。あくまでも、合否の判定基準は学習目

標が規定している到達基準を満たしているかいないか、それだけである。

すなわち、点数による評価はまったく意味をなさない。これは、ちょっと想像しただけ

でも分かるが、極端な例えで言うならば、仮に 95 点の「高成績」を残した受講者が医療

現場に戻り、誇らしげに患者様にある医療行為を行った際に、テストで得られなかった

5 点分のスキル不足のために重大な支障を引き起こすことがないとは言えないからであ

る。

(6) コース参加の意義

研修は、参加することに意義があるのだろうか。もしそうなら、その研修は受講者のパ

フォーマンスの変化を保証することが困難になってくる。勿論、そこまで極端な例は少

ないと思うが、少なくとも研修修了後にはコースが規定している最終目標(最終パフォ

ーマンス目標)の達成を担保する必要がある。その意味での修了証が発行されることに

なる。

研修の 1 つの考え方として、研修を通して、対象となる分野のハイパフォーマのクロー

話であり、実際には、ハイパフォーマが持つべき、または期待されるスキルを修得し、 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-17

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

るのではなく、学習のモチベーションを最大に上げかつ保持する仕組みが研修の随所に

織り込まれている必要がある。

次に、こうした学習意欲を高める仕組みを含めた、CRI 型研修の持つ特徴についてさら

に考察していく。

実際に CRI 型研修が運営される場合には以下のような特徴を観察することができる。

1. 研修の開始時点に研修全体の内容と学習パスを示すコースマップが与えられる。

受講者にとって、コースの初日はいい意味でも多少の緊張を抱くものだが、それが無用

な不安をもたらすものならば、学習意欲の低下につながる可能性がその分高まることに

なる。

そこで、研修当日のガイダンスの際に、または可能ならば参加日の数日から 1 週間ほど

前に事前にコースガイドを送付する。このコースガイドには、コースの目的、コース修

の関連を示し受講者にとっての最適な学習順序を選択できるコースマップ、個々のモジ

ュールの目標などが含まれている。コースマップには学習開始ポイントや学習内容に対

応した最適な学習パスが示されており、受講者は自分の判断で学習するモジュールの順

序を選ぶことができる。

2. 学習は自分のペースで進めることができる

CRI 型研修では基本的に個別学習のスタイルを取る。学習に必要なすべてのインストラ

クションや実習設備、さらにはスキルチェックやそのフィードバックである自己評価シ

ートなどが受講者のコントロールの範囲内にあり、自分の学習スケジュールのなかでコ

ースマップに従って自由にモジュールを選択することができる。

一人ひとりの学習スタイルを最大限に尊重し、最適な学習手段が選択できるように設計

できるので、同じモジュールでも、ある受講者はテキストを読んで学習を進め、他の受

講者はビデオやeラーニングやレクチャーを選択できるように開発することができる。

いずれの学習手段でもインストラクター(CRI ではコースマネージャという)は個別の

コーチングにより学習の手助けや動機付けを行う。

また、個々の受講者は進捗日程ガイドを活用することにより、指定された必修モジュー

ルを設定されているコース期間内で計画的にこなしていくことが可能となる。受講者は

自分で立てたスケジュールの中で自由に学習ペースを設定することができ、たとえば一

日の修得モジュール数、コースの開始時刻や休憩時間、昼食や終了時間も自分で決める

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-18

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

ことができる。

3. 既知の知識やスキルの学習はスキップすることができる

モジュールの最初のページには目標とスキルチェックが明示されている。受講者はこの

目標を読んで、なおかつスキルチェックに目を通して、「自分は既にこの目標に到達し

ている」と確信したならば、そのモジュールを学習することなくコースマネージャにス

キルチェックを受ける旨を申告することができる。コースマネージャはその受講者に対

して口頭質問などの的確な診断によりスキルチェック受験の可否を判断する。

4. 目標達成に必要なすべての学習リソースは受講者がコントロールできる

教材、実習機器、手順書、業務マニュアル、ロールプレイシナリオ、ビデオ、CD-ROM

教材、e ラーニング、その他関連資料や教材などは、モジュールテキストに記述されて

いるインストラクションに従って最適なタイミングと受講者の学習特性に応じて使用

することができる。受講者はいちいちインストラクターの指示を受けることなく、自分

のペースでこうした学習リソースを自由に利用して最大の学習効果をあげることがで

きる。勿論、いつでも教室内にいるコースマネージャに学習上の質問をすることができ

る。いわば、集合研修のスタイルをとりながら家庭教師の下で学習しているような感覚

に近い。

5. 自信がつくまで実習を続けることができる

実習の目的は、目標達成に必要なスキルを磨くことであり、コースマネージャの的確な

フィードバックの下に自信がつくまで何度でも行うことができる。こうして十分必要な

スキル群を修得してスキルチェックを受ける準備が整うことになる。時間がきたのでい

っせいにテストを実施する従来型の集合研修ではこうした個々人に対応した学習指導

は困難である。要するに講師が主体ではなく、受講者が主体的に学習をすすめ、講師(コ

ースマネージャ)はあくまでもコーチに徹するというものとなる。

なお、実習の内容はモジュールの目標が求める事そのものを練習する。勿論、この練習

は現場の期待されるパフォーマンスそのものを行っていることになる。受講者にとって

は、実際に仕事しているような感覚を持ち、研修であることを忘れることすらある。

6. テストのタイミングは自分で決める

上記のように十分自信がつくまで実習を行った後は、自分でスキルチェックを受けるタ e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-19

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

イミングを決めることができる。勿論、実機など数に制限を伴うスキルチェックの場合

には事前に自分の都合がいい枠内で予約を取る。また、知識を問うスキルチェックの場

合には自分で評価し、コースマネージャに最終的な判定を依頼する。

以上の特徴及び、前述したいくつかの切り口で観た CRI 型研修の特徴を下記のようにま

とめる。

CRI型コース

・現場のニーズから抽出し、期待され

るパフォーマンスを記述する

・研修学習目標から抽出される

・知らないこと、できないことだけを

学習する

・学習目標達成に必要な内容のみに限

・期待されているパフォーマンスがで

きるようになる実習を必ず行う

・現場の環境を再現して実習を行う

・受講者のスキル修得を助け、コーチ

する

・期待されるパフォーマンスが「でき

る」 「できない」を判定する絶対評価

・サンプリングはせず、学習目標が求

めるすべての項目をテストする

・学習目標に到達するまで

・学習目標達成の証

比較項目

学習目標

学習内容

実習

講師

テスト

学習時間

修了証

従来型コース

・研修内容を表すコースタイトルを記

述する

・専門家や講師が決める

・すべての受講者が同じ内容を学習す

・現場のニーズとは無関係な内容も含

まれる

・必ずしも実習は行われない(都合に

より省略されることがある)

・研修内容を伝達する

・クラスの中での等級付けを行う相対

評価

・ふるい落とすために行うこともある

・終了時間が来るまで

・コース参加の証として使われる

こともある

1 CRI 型コースの特徴

では次に、こうした特徴を実現するための手法を細かく観ていく。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-20

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

3.2

インストラクショナルデザインのリハビリテーション教育への適用

3.1 の「各種インストラクショナルデザインの調査」で調査した ID のうち CRI 技法につい

て、リハビリテーション教育への適用実例を見る。

ここでは、実際にリハビリテーションの業務に適用したサンプルを併用しながら解説をす

る。

CRI 技法の各フェーズは、前述した通り、分析・設計・開発・実施・評価・改善の6つの

フェーズを踏む。基本的な流れは、いずれの

ID 手法と共通しているが、個々のフェーズで

のステップには

CRI 独自のものをいくつかみることができる。

CRI 技法によるコース開発の全体の流れのイメージは下記の図のようになる。

3 コース開発のイメージ

分析、設計、開発、実施、評価の手順を踏むが、基本は業務指向であり、現場で実際に期

待される業務を研修目標とする。次に、業務の遂行に不可欠なスキルや知識を抽出し、階

層化する。このことにより、論理的に過不足のないコース内容を最適な学習順序で設計す

ることが可能となる。コースマップの楕円は学習の単位であるモジュールと呼ばれるもの

で、個々のモジュールに達成目標(この場合、モジュール目標)とそれに合致したスキル e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-21

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

チェック(テスト)がセットになっている。

受講者は、このコースマップに従い、自分のペースで自分が修得していないモジュールの

みを学習する。講師はコースマネージャと呼ばれ、個々の受講者へのコーチングを行う。

モジュールの伝達手段は、そのモジュール目標によって決定され、eラーニングや実習、

ロールプレイや個別学習、ビデオ学習など多岐にわたる。この

CRI 型の研修運営方法をワ

ークショップという。詳細については後述する。

なお、分析、設計、開発の大きな流れをイメージしたのが、下記の図

4 である。これは特

に、eラーニングコンテンツに対応したモジュールの例である。

(1) 受講対象者分析

(2) タスク分析

行動

与件

基準

タスクフローチャート

業務リスト

/タスクリスト

(3) スキル抽出

学習順序

スキル階層図

(5) 学習内容決定

ストーリーボード

コースマップ

(7) プロトタイプ作成

4 コース開発のイメージ(eラーニングコンテンツの場合)

再度、分析、設計、開発、実施、評価のイメージを図

5、6、7、8 で紹介する。図を見れば

おおよその作業内容が概観できるようになっているが、詳細については、別の節にて解説

する。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-22

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5 CRI 技法による分析フェーズのイメージ

図6

CRI 技法による設計フェーズのイメージ e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-23

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7 CRI 技法による開発フェーズのイメージ

図8

CRI 技法による実施フェーズのイメージ

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評価については後述する。では、これ以降、各フェーズについて詳述する。

3.2.1

分析フェーズ

先ず、分析フェーズは以下のステップからなる。

① パフォーマンス分析

② 受講対象者分析

③ タスク分析

④ ゴール分析

その他にも学習環境分析や、特にeラーニングの場合には、ネットワーク環境の分析も行

う。

では、個々のステップの概要を述べる。

3.1.2.4

パフォーマンス分析

パフォーマンス分析とは、研修が問題解決の最適な解決策であるか否かを明確にすること

「人」 、

が、①組織上の課題がどのリソースによるものか、②更に「人」のリソースに起因したと

しても、その課題が生じる原因がスキルギャップ(スキル不足)によるのかを明確にして

いく。

もし、スキルが不足しているために期待されるパフォーマンスを実行できないのであれば、

そのスキルギャップを埋めるために何をすればいいのかを検討する。フォーマルな研修の

実施であるかもしれないし、もっと簡単な方法でギャップを埋めることができるかもしれ

ない。また、スキルギャップを埋めるための施策にかかるコストが、その課題を放置した

場合の損失コストを大きく上回ることも予想される。解決コストの分析も必要となる。

場合によっては、スキルギャップが無いにもかかわらず、やるべき事を実行していないと

いう事実が判明するかもしれない。この場合にはいくら研修(該当するスキルを埋める研

修)をやっても恐らく問題は解決しない。何らかの方法で態度や意識を変えるか、仕事の

プロセスにパフォーマンスを変えざるを得ない仕組みを組み込まない限り結果は変わらな

いかもしれない。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-25

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

研修は、こうした領域での問題解決方法としてはほとんど無力である。では、どうすれば

いいのか。これに対応するには別なパフォーマンス技術が必要となる。

3.1.2.5

受講対象者分析

「パフォーマンス分析」により、研修が最適な問題解決であり、コスト的にも見合うこと

が判明すれば、いよいよコース開発のステップに着手する。その最初のステップとして受

講対象者の分析を行う。実際には、研修対象となる業務を分析する「タスク分析」を先に

行っても問題ない。

受講対象者を分析する目的はなんであろうか。受講対象者分析をスキップするということ

は、相手が誰だか分からずに処方箋を書くようなものである。受講者が事前に保有してい

るスキルの調査は当然のことながら、受講者が研修に対して抱くであろう心理的な情報も

必要となる。他にも、受講者の物事に対する考え方や興味なども研修内容の設計に役立つ

ことが多い。

3.1.2.6

タスク分析

対象となる業務の作業手順を明確にし、研修で扱う範囲を決める。実際の業務にはさまざ

まな条件や制約、例外措置、他の組織とのやりとりなどあり分析は何度か慎重に行われる

ケースが多い。多くの場合はフローチャートを使うが、時間軸で表現できない場合にはタ

スクリスティングという方法で記述する。タスク分析は、そのタスクを実行するために必

要なスキルを抽出する前準備としても機能している。

タスク分析での注意点に、対象とするタスクを行う人の選定がある。基本的には、現場で

期待されるパフォーマンスを発揮できる人(SME)に依頼し、そのSMEが実際にタス

クを実行している様子を観察し、ビデオで撮影したり、音声を録音したり、作業中にさま

ざまな質問をしたりしてできるだけ多くの情報を収集する。一度の分析ですべての情報が

収集できることはまれで、実際には、数回に分けて実施するするケースが多い。

タスク分析と同時に、そのタスクを実行する上での制約事項についても逃さず調査する必

要がある。これは、研修で修得したスキルや知識の現場での発揮を妨げる要因を探し出す

ためである。この制約要因は前述したパフォーマンス分析とも関連しており、実際にタス

ク分析を進めてみるとパフォーマンス分析では見えてこなかった制約事項が発見されるこ

とがあるからである。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-26

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

また、実際にタスク分析作業を行うと、タスクに関するさまざまな要素(スキル、制約事

項、注意点、コンセプトなど)が浮かんでくる。この例を下記に挙げる。

間主観関係

セラピストと患者(クライエント)は、お互い個性を有する平等な「人間関係」

セラピストと患者(クライエント)は、お互い異なった役割を有する「役割関係」

臨床 基本姿勢:「どこが苦しいのですか?」「何かして欲しいことはありませんか?」繰り返し

問いかけ、患者のそばにじっと付き添いつづける姿勢が原点

医療行為 患者が抱える問題の解決を援助すること

病歴聴取、診療、検査、診断、治療(手術、投薬、生活指導、カウンセリングなど)

患者の苦痛を軽減するために真摯に努力すべきこと

患者の不安を取り除き、安心感を与えること

患者の抱える問題に関して情報を集め、分析し、診断を下し、治療方針を決定すること

患者に診断、治療方針、予後の見通しなどについて適切な説明を与えること

治療行為を実際に執り行うこと

患者からの質問に答え、患者の抱く疑問を解決すること

セラピスト・患者関係

良好な関係により期待される以上の効果がある―プラシーボ効果

良好でない関係により生じる副作用―医療トラブル

言語的・非言語的コミュニケーションにより関係が発展

良好なセラピスト・患者関係の必要条件 「受容」「共感」「臨床能力」

受容 患者が「受け入れてられている」安心感を抱く感覚

(+) 「あなたはわたしの患者です」という態度の明示

傾聴

身体的診察を丁寧に行う

検査・治療の説明を丁寧に行う

(-) よそよそしい言動、冷徹、皮肉っぽい態度

患者のストレス→怒り→恨み

セラピスト自身の「限界」を知り、「無力な自分」を受け入れる

共感 「症状」、「病状」、「苦しみ」(・・・苦しい、痛い、どうしようもない)の理解

「利他の本性」共に、苦しむ

臨床能力 「知識」、「技術」、「態度」

生物学的能力

知識、技術

心理社会的能力

社会的資源をいかに患者のために役立てるか

患者の心理状態を正確に読み取る

的確に心理的な援助を行う

人間性に関わる能力

医療における倫理

一律な教育で養成

できるものではな

2 タスク分析(スキル、その他の混合)の例 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-27

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

3.1.2.7

ゴール分析

CRI 技法で使用される「ゴール」は、曖昧・抽象的で、そのままの表現では観察すること

「良い社会人である」 「患者様と良好な関係を育んで

いる」とか「ビジネスマインドを常日頃発揮している」といった表現での到達目標である。

これに対して、誰が実行しても同じ結果が期待できる行動表現が「パフォーマンス」であ

りパフォーマンス目標として記述することができる。

実際には、人材育成上での目標設定はパフォーマンスのようなはっきりと測定できる表現

が使用されるのは非常に希であり、どちらかというと前述したあいまいな達成目標の表現

をとる場合が多い。しかし、このままのあいまいなお題目で教育活動を続けていても実効

性のある教育効果はあまり期待できない。

るとする。このゴールをイメージさせるポスターや標語をあちこちに貼っても劇的な改善

効果はあまり期待できないであろう。では、どうすればいいのか。この場合、誰もが納得

療行為をする場合に、最低限やってはいけない危険な行動は以下の通りである。」或いは、

「○○を施す際には、以下の

3 つの準備を行うこと」などのように明確な行動指針を掲げ

る。ここでいう行動指針は観察できるパフォーマンス表現にする。

このようにリストアップされたパフォーマンスの中からすぐに実行できるものやある程度

練習が必要なものを切り分けることができる。練習が必要なパフォーマンスに対しては研

修や OJT などを通して対処することができる。

さらに、個々のパフォーマンスの実施回数を集計して定量的なゴール到達度を測定するこ

とも可能となる。

なお、ここまで見てきた分析フェーズの要素を別な側面からまとめた形のフォーマットも

使用することがある。下記は、リハビリテーションにおける医療面接に関する例である。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-28

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コース目的記述書

コース名

作成者

依頼元

No.

1

2

面接で必要な情報を収集する

所属

所属

OCR エクステンションセンター 氏名

氏名

髙橋泰子

受講対象者(受講者数、所属職位、担当業務)

受講者:OCR ST学科 1年 ○名程度

     受講者は学校から貸与されているPCを操作できる

関係者(依頼元、SME、コース開発者、人事部門、研修部門など)

3 研修によって解決しようとしている問題点

 受講生は、1月から2月にかけて約5週間の実習に行く。実習の主たる目標は、患者様の行動

を観察したり、検査等でより評価・診断ができることである。その中で、患者様やご家族から現

症や発症までの経緯を聞き取ることは、適切な検査を選択するヒントとなり、さらには本当の

ニーズを理解することができ、とても重要なことである。しかし、学生は精神的なゆとりがないた

め、患者様やご家族から情報を収集することに必死になり、患者様やご家族の不安や緊張を冗

長してしまいがちである。そこで、この研修を修了することにより、限られた時間の中で、患者様

やご家族が緊張や不安を感じることなく、必要な情報を収集することができるようになる。

作成日 2005年10月31日

コメント

4

5

6

解決すべき時期(いつまで、どれくらいの期間でかいけつすべきなのか)

 1月の実習前に半日間

学習伝達手段(WBT,セミナー、ワークショップ、実習、アクションラーニングなど)

 WBT

学習環境(LAN環境、職場環境、教室、その他)

 ネットワークの環境はOCRのどの教室でも整備されているが、通常使用している教室は予約

が不要なので、こちらを使用したい。

近い将来、自宅からの学習のみでコース終了を可能にしたい。

3 コース目的記述書 ©NEC テレネットワークス

3.2.2

次に、上述した分析結果を受けて「設計フェーズ」を概観する。

その前に分析する理由を再度確認しておく。分析は要するに、誰が何のパフォーマンスを

修得すべきかを明確にするものであった。設計は、これを受け、期待されるパフォーマン

スの正確な記述と、そのパフォーマンスを行うために必要不可欠となるスキルを可視化す

ることにある。そしてさらに、可視化したスキル群を階層化し、最適な学習順序を設計す

る。この結果、コースマップが完成する。さらに、そうしたスキルをどのような学習伝達

手段で提供するのかも検討する。

要するに設計作業を通して、誰の、どのようなパフォーマンスギャップを、どのような順

番で、どのような学習手段で提示すればいいのかを決める。

設計フェーズには、以下のステップがある。

① 目標記述

② スキル分析(スキル階層図作成)

③ コースマップ作成

④ モジュール内容設計 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-29

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

⑤ 学習伝達手段の選択

⑥ 学習環境分析

⑦ ネットワーク環境分析(eラーニングの場合)

⑧ ストーリーボード作成

⑨ 絵コンテ作成

⑩ プロトタイプ作成

⑪ プロトタイプの試行・評価・改善

⑫ 開発仕様書の作成

では、

1 つずつ概観する。

3.1.2.8

目標記述

既に、分析フェーズでタスク分析が終了しており、このタスクの目標を記述する。タスク

目標とも言える。タスク目標は、タスクがどのように行われるべきであるのかを、

3 つの視

「与件」

3 つの要素である。たとえば、「患者

様に治療前の情報を集めるための質問をする」というタスクの目標はどのように記述され

るであろうか。

その前に、そもそもこれがタスクなのかどうかの議論もある。つまり、タスクの大きさや

範囲の問題であるが、

CRI では、タスクは、「一連の作業からなり、意味のある成果物を生

み出すプロセス」という定義をする。この定義に従えば、タスクは相対的なものともなる。

あるプロセスであればタスクとなる。もっと大きな枠の中ではほんの

1 つの作業であり、

タスクというよりもタスクを構成する

1 つのステップ乃至はサブタスクと観ることもある。

さて、先ほどの「患者様に治療前の情報を集めるための質問をする」というタスクに戻る。

このタスクの表現は、曖昧さを残している。それは、どのような環境でどのようなツール

を使って、どのようなタイプの患者様を相手にするのか、といった「与件」の情報、そし

て、どの程度うまく質問をすることが期待されているのかという「基準」である。「行動」

については、このタスク表現そのものとなる。

このなかで、基準が最も重要であり、これが曖昧だと同じ行動を複数の人が実行したさい

に、複数の品質の成果物が観察されることになる。では、この場合の成果物とは何であろ

うか。それは、基準によって規定される。たとえば、時間という基準を考えると、この質

問は

10 分以内に行うべきであろうか、または、30 分かけるべきなのか、この時間という基

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-30

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

準が曖昧だと研修の到達品質は受講者やインストラクターによってまちまちなものとなる。

勿論、時間基準は質問内容や相手、そしてその場の物理的心理的環境に左右されるのでそ

うした要因も「与件」として設定する必要がある。他の基準としては、心理的なもの、た

とえば「不快感を抱かせないこと」という設定も現実の業務では要求される場合がある。

目標の例として、いくつか下記に挙げる。

モジュール名: わかりやすい言葉を使う

行動: 患者様に専門用語を使わずわかりやすい言葉に置き換える。

与件: 面接の場を想定。何も参照せずに。

りませんか→他に具合の悪いところはありませんか

2. 対象となる専門用語は国家試験出題基準の範囲内とする インテークで使

用頻度の高い用語 20 の専門用語についてすべて言い換えることができる。

3. 「漢語」は使わない 例)経過→その後どうなりましたか、

不快感→いなや感じはありませんか

4. 丁寧な言葉で置き換えること

モジュール名: 患者様の話に共感する技法を述べる

行動:

与件:

基準:

話を共感する技法を説明する。

面接の場を想定。何も参照せずに。

以下の技法が、正しい使い方ができているかどうかを指摘できる。

1. 患者様の話の邪魔をしない

2. うなずき、あいづち、うながしができる

3. 患者様の話を繰り返すことができる

4. 患者様の話を明確化・言い換えることができる

5. 患者様の感情を受け止めて言語化できる

3.1.2.9

スキル分析(スキル階層図作成)

前述のタスク目標を実行するために必要なすべてのスキルを抽出し階層化する。この作業

の目的は、目標達成に必要な過不足のないスキルを可視化し、更に階層化することにより

論理的な学習順序を設計することにある。また、受講対象者の事前保有スキルをこの階層

図に反映(マッピング)することにより個々の受講者に対応したコースマップを提示する e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-31

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

ことができる。

スキル階層図の作り方は、比較的シンプルだが、実際にはある程度の練習といくつかのコ

ツを修得する必要がある。まず、スキルそのものはタスク分析の成果物から抽出する。タ

スクフローチャートやタスクリスティングから、先ず、主要なスキル(複数)を取り出す。

次に、それらの主要なスキルについて、そのスキルを実現するために必要な従属スキルを

抽出する。こうして、主要なスキルを中心としたスキルの固まりが階層状にできあがる。

他の主要なスキル群に対しても同様な作業をくり返し全体として

1 つの階層図が完成する。

下位のスキルを修得してから上位のスキルを修得するという学習の論理的な順序を見いだ

すことができる。

この設計作業を通して、目標と受講対象者に最適な学習内容とその学習順序の青写真がで

きあがったことになる。

次ページに「医療面接を行う」というタスクの一部のスキル階層図を示す。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-32

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

期待される行動:患者や家族から必要な情報を聴き取る

与件:リハビリ科内、ベッドサイド、面接室

基準:患者や家族がセラピストに理解されたことや話せたこと

に満足感を持っている(表情、声、身振りなどから察する)

患者や家族のニーズを把握す

ることができる

患者や家族の話を聴くことが

できる

傾聴

患者や家族の真意を読み

取れる

患者の疾患・症状を把握で

きる

発病したときの状態を正確

に聴き取る(病歴を聴取)

現在の症状・状態を正確に把握

する

①痛いところ(生物医学的)

②困っているところ(心理社会

的)

②病識がある・ない

面接時に以下の態度ができる

①導入

②質問

③傾聴

④傾聴

⑤共感

⑥要約

⑦終結

⑧不安を与えない

⑨面接困難なケースにも対応で

きる

必要な情報を聴取する

①主訴に関する情報(いつか

ら、どのような経過、部位、症

状、持続、症状の強さ、どういう

時に、影響する因子、随伴症

状)

②他院への受診、服薬状況

③患者の気持ち(心配・解釈モ

デル、希望)

④患者プロフィール(職業・家

族・嗜好品・趣味など)

面接の導入ができる

①あいさつ

②患者の名前の確認

③自己紹介

④これから何が行われるかの

説明

患者や家族から自分自身がどう

思われているかを認識できる

これから何が行われるかの説

明できる

「これからお話を聞かせていた

だきます」

名前の確認できる

(取り違えのミス防止にもなる)

話を引き出すための質問を組み

合わせて使用することができる

①Open Questions「どうしました

か」「他にはありませんか」ー患

者の一番困っていることを聞き

出す

②Closed Questionsー患者が

「はい・いいえ」もしくは限られた

言葉でしか答えられない質問

③焦点をあてる質問「どういう痛

みか、もう少し詳しく話してくださ

い」

④選択型の質問ができる

⑤中立的な質問ができるーeg.,

「今日はどちらから来られました

か」

Closed Questionsを使用する

①適確な鑑別診断を思い浮か

べて、適切な質問をテンポよく

出す

②セラピストの欲しい情報を確

実に得る

③患者の話したい不満を理解す

選択肢型の質問を患者の言葉

を助けるように使用できる

ーeg.,めまい「ぐるぐる回る」のか

「ふらふら揺れる」のか、痛み

「ぐーっと来る」のか「きりきり来

る」のか

自己紹介ができる

(実習生は学生であることを告げ

る)

9 スキル階層図の例

傾聴する

①相手の話をさえぎらないー沈

②肯定的関心を持ってい耳を傾

け続けるーうなずき、あいづち、

うながし、繰り返し、明確化・言

い換え

支持と共感ー感情を受け止めて

言語化することができる

①あいづち、繰り返し、明確化

②反映

③正当化

④個人的支援

⑤協力関係

⑥尊重

⑦セラピストが自身の感情に気

付く

質問・傾聴が一区切りしたとき、

聴取した内容を 要約 するーセラ

ピストの理解が正しいかどうか

を患者に確認してもらう、異なっ

た場合は確認する(傾聴する)

焦点づけて質問・傾聴する

①患者自身が問題点を焦点化

できずに話しているときに話題

にスポットライトを当て質問・傾

聴する

②ある問題について、いろいろ

な観点から焦点をあてて質問・

傾聴する

「関係」を継続する面接の終え

方ができる

①病歴の最終要約

②確認、再確認

③患者に質問できるチャンスを

与える

④次に何が行われるか説明す

⑤関係を強化するメッセージ

⑥終結宣言

3.1.2.10

コースマップ作成

このステップでは、設計図としてのスキル階層図をもとに、実際にコースとして運用する

ための具体的な学習マップを作成することになる。このマップはコースマップと呼ばれ、

受講者に学習の全体像と学習情報を示す。たとえば、学習の開始地点、学習パス、学習単

位であるモジュールの提示、学習上の注意事項、学習手段の提示、その他、さまざまな学 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-33

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

習ナビゲーション機能を盛り込むことができる。このマップには、その他にも、学習伝達

手段の識別がつくようなアイコンを付記することも可能である。ところでコースマップに

登場すべきモジュールすなわち学習単位はどのようにしてスキル階層図から切り出すのだ

ろうか。基本的には、スキル階層図上の主要なスキルを

1 つのモジュールとしてマーキン

グする。場合によっては、共通スキルを独立したモジュールとして作り出すこともある。

次ページに「医療面接コース」の例を挙げる。前述のスキル階層図のサンプルで、丸で囲

まれたスキル群が下記のコースマップでの「患者様に質問する」というモジュールに対応

している。

患者様の真の

ニーズを読み取

患者様の症状、

状態を正確に把

握する

話題の焦点を絞

患者様の話に

共感する

面接の導入を行

面接のまとめを

する

困難なケースに

対応する

患者様に質問

する

わかりやすい言

葉を使う

患者様の不安と

緊張を緩和する

面接で聴き出す

べきことを準備

する

10 コースマップの例

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-34

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

3.1.2.11

モジュール内容設計

コースマップで明らかになった学習単位であるモジュールは、この段階ではまだ学習内容

が最終的に決まっていない。分かっているのは、モジュールタイトルとそのモジュールに

含まれるべきスキル群である。勿論、このスキル群はスキル階層図に対応している。ただ、

この時点でのスキル階層図で示されているスキルはある程度大きな枠組みでの表現である

場合が多い。また、場合によっては、モジュールの目標も記述されていないこともある。

そこで、モジュール内容設計のステップでは、詳細目次案を作成するという視点で再度ス

キル階層図を吟味する。視点が変わることにより、より多くの情報を再構成することがで

きる。実際の

ID 作業には、このようなフィードバックが比較的小さなステップ領域で行わ

れることがあり、スキルの再構成の他にも、たとえば、目標記述の見直しや、受講対象者

の想定部分の再検討も十分あり得る。

他にも、モジュール目標の確認が必要で、この時点で目標が記述されていなければ、記述

する。また、既にモジュール目標が記述されていたとしても、必要に応じて修正する。

下記は、「患者様に質問する」モジュールのモジュール内容。

コース名: 面接で必要な情報を収集する(3)

モジュール名: 患者様に質問をする

目標記述の修正版

行動: 病歴聴取のための質問技法を説明する。

与件: 面接の場を想定。何も参照せずに。

基準: OQとCQの特徴を、長所3つ、短所を2つあげて説明する。 2.患者

様の症状から考えられる鑑別診断を頭に浮かべつつ適切な質問が

選択できていること。

4 「患者様に関する」モジュール

学習内容

1. 「開かれた質問(Open ended Questions)」の特徴を理解する e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-35

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

① 病歴聴取の最初―最も代表的な質問の例

「どうしましたか?」

「どんな具合ですか?」

「どういうことで病院に来られたのですか?」

「そういうことでこちらへ入院されたんですか?」

(ある程度聞いた後で)「他には何かありませんか」

「今、一番困っていることは何ですか」−主訴を明確にする効果がある

② 質問の特徴(長所)

・患者様の答えの内容を限定しない

・患者様が自分にとって大切と思うこと(内容)なら何でも、答えることがで

きる。

・患者様自身の表現(形式)で自由に答えることができる。

・多くの場合、患者様が一番困っていること、一番訴えたいことが最初に出

る。よって、患者さんの主訴を確実に知ることができる。

・患者様は自分で話す言葉を考え、選び、話を作り出さなければならない。

・患者様に満足感を与えられる。

③ 質問の特徴(短所)

・セラピストが欲しい情報を確実に手に入れることができない場合がある。

・患者様によっては、話がまとまらず冗長になり、時間がもったいないと感

じられることがある。

④ 少し話を限定した「開かれた質問」

Th.:どうされましたか?

Cl.:頭が痛い

Th.:どんな痛みですか?

(もう少し詳しく話してください)(具体的に話してください)

・話を明確にしつつ話の内容を膨らませるための効果的な質問

・「焦点をあてる質問」でもある

2. 「閉ざされた質問(Closed Questions)」の特徴を理解する

① 最も代表的な質問

「食欲はありますか?」など

質問に対する答えの可能性が限定されている

ほとんど「はい」「いいえ」でしか答えられない

例 患者様の「のどが痛い」という訴えに対して、セラピストは、

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-36

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

「食欲はありますか?」

「声は出しにくいですか?」

「痰は出しにくいですか?」

「大声を出しませんでしたか?」

などの質問を矢継ぎ早にする場合は、「閉ざされた質問」

② 質問の特徴(長所)

・面接のテンポが早くなる

・患者様は質問されたことだけ答えればよいので、ある意味では楽。

・セラピストの欲しいと思う情報は確実に得られる。能率がよい。

③ 質問の特徴(短所)

・全体の流れは、何かせきたてられたような感じになる。

・言いたいことがあっても質問されない限り話すチャンスがない。

・自由に話させてもらっていないという不満足感につながりやすい。

・セラピストは次々適切な質問を考え出さなければならない。

・途中で質問が尽きてしまうと立ち往生してしまいがち。

④ セラピストに求められるもの

・適確な鑑別診断を頭に浮かべて、いかに適切な質問を数多く発することがで

きるか。

・セラピストの経験、知識が多ければ多いほど有利

3. 質問の使い分け

・「開かれた質問」は患者様の枠組みに沿った情報をえるための質問

・セラピストはその物語をじゃましないように付き添って聴いていくという態度

を取る

・「閉ざされた質問」はセラピストの枠組みから見た情報を得るための質問

・「閉ざされた質問」は文章穴埋め問題、アンケート調査に相応する

・一般的には、まず「開かれた質問」を用いてできるだけ患者様の話を引き出し、

ある程度ストーリが明らかになったところで鑑別診断のための必要な情報を

「閉ざされた質問」で補足するという戦略が効果的である

4. その他の質問

①「中立的な質問」の特徴を理解する

・患者様の心の動揺を起こさせない。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-37

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

・導入期に用いて、関係性を作るのに役立つ。

・答えが短く限定されているので、閉ざされた質問の一種ともいえる。

例 「どこにお住まいですか」

「お名前は?」

「ご職業は?」など

②「選択肢型の質問」の特徴を理解する

・質問の中に選択肢を予め入れておき、選ばせる質問

・患者様は選択肢が与えられているので答えやすい。

・鑑別診断の情報を得るためには有効な質問

・選択肢の的がはずれていると会話がかみ合わなくなる。

・開かれた質問になかなかうまく答えられない患者様に対して、それに引き

続いての質問として用いられると有効

例「めまいがするという事ですが、それはぐるぐる回る感じですか、それとも

ふわふわと揺れる感じですか?」

「喉の痛みは、朝と夜ではどちらがひどいですか?」

「どんな痛みですか?たとえば、グーッと来る痛みとか、キリキリと来る痛みとか」

③「焦点をあてる質問」の特徴を理解する

*別モジュール「話題の焦点を絞る」を参照のこと。

例 時間の流れに焦点を当てる場合

「はじめて具合が悪くなったときはどんな様子だったのですか?」

「2回目の入院のときは意識はありましたか?」

「退院してから今回の入院までの間はどう過ごしておられましたか?」

「今、現在は苦しくはありませんか?」

ロールプレイ(1)

Th.:ことばのどのようなことにお困りですか?<OQ>

Cl.:どことなく声が出しにくく、のどが痛いんです。

Th.:いつから出にくいのですか?<CQ>

Cl.:3日前からです

Th.:痛みはありますか?

Cl.はい。

Th.:ひどい痛みですか?

Cl.:いいえ、そういうわけでもありません。

Th.:食欲はありますか。

Cl.:ふつうです。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-38

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

Th.:吐き気はありませんか?

Cl.:時々ありますが、吐いたことはないです。

Th.:お仕事のとき、よく声を使いますか。

Cl.:パソコンに向っていることが多いので、電話の対応ぐらいです。

Th.:お仕事以外で大きな声を出すことはありませんか。

Cl.:それもありません。

(うん。どうやらこの人は声帯の使いすぎによる嗄声でも、声帯結節でもなく、

逆流性食道炎のようだな)

Th.:ところで、その他にはどこか具合の悪いところはありませんか?

スキルチェック(1)上記の面接は、どうであったか。チェックしてみよう。

□鑑別診断までたどりついた

□鑑別診断までたどりつかなかった

□面接の雰囲気はかなり早いテンポのやりとりであった

□面接の雰囲気はゆっくりしたやりとりであった

□セラピストはゆとりをもった話し方であった

□セラピストの緊張感がとれていない

□患者様の緊張感がとれていない

□患者様はセラピストに安心感を抱いた

□セラピストが質問を考えるのが大変そうである。

□セラピストはスムーズに質問ができていた。

ロールプレイ(2)

Th.:ことばのどのようなことにお困りですか?<OQ>

Cl.:どことなく声が出しにくく、のどが痛いんです。

Th.:声が出しにくく、痛みもあるのですね。もう少し詳しく話してくださいませ

んか。

Cl.:3日前くらいから、ときどきのどの下のあたりが痛むんです。特に空腹時に

なると痛みが強くなります。

Th.:具体的に言うと、どんな痛みなんでしょうか?

Cl.:そうですねぇ。まるで締め付けられているような感じです。最近、仕事が

忙しくてストレスも溜まっているので、胃が痛んでいるのかと思ってもいる

のですが、胃ほど下でもないし。最近、職場の同僚が胃潰瘍で入院したもん

だから、つい心配になりましてねぇ。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-39

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

Th.:そうなんですか。少し確認させてください。痛いときは吐き気はありますか。

Cl.:痛いときは少し吐き気はありますね。でももどしてしまうことはありませんね。

スキルチェック(2)上記の面接は、どうであったか。チェックしてみよう。

□開かれた質問を重ねている。

□閉じた質問をよく使っている。

□患者様の話がふくらんでいる

□患者様は話を沢山しなければならないので、疲れている。

□患者様は事実関係のみでなく、患者様の気持ちや何を心配しているかというこ

とについての情報も得ることができた。

□患者様はセラピストに不安を感じている。

□この後、鑑別診断の情報を補足するための前の例(ロールプレイ)のような閉

ざされた質問を用いれば、情報はより完全なものになる。

スキルチェック(3)以下の面接で不適切な箇所を指摘しなさい。

好きなだけ話してください」という場面。

②新人STが検査の結果を患者様に説明するとき、いかにも自信のなさ

そうな態度で、「検査には異常がありませんから、大丈夫です」と述べる

という場面。

③カルテを書きながら、「あなたの頭痛はそれほど重要とは思われま

せん。少し様子を見てよいと思います」という場面。

④セラピストが患者様が苦しみの表現をしたときは「それは大変ですね」

と共感を表現するという技法を実習で学んだので、共感を伴わないまま

機械的に実行する場面。

<モジュールの動機付け>

いかに適切な質問をするか?これは病歴聴取を成功させるための重要なポイントであ

る。患者様の症状から考えられる鑑別診断を頭に浮かべつつ、適切な質問が次々でき

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-40

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

るようになれば、一人前のセラピストと言える。

3.1.2.12

学習伝達手段の選択

次に、モジュールで展開するすべてのインストラクションを詳細に組み立てていく。この

作業を通じて、最適な学習伝達手段が見えてくる。あるモジュールは、知識習得が主であ

るためeラーニングにするとか、あるモジュールの目標はパフォーマンスが実際に発揮で

きるようになることを要求しているのでワークショップ形式で実習中心な内容にし、最終

的なスキルチェックは実際の業務環境、または限りなくそれに近い状況(与件)を再現し

て行うように設計する。

また他にも、インストラクションを実際のコースで提示するために最適な方法を検討する。

たとえば、演習の必要性やその回数、および最適なフィードバックの与え方、それに、コ

ース全体をeラーニングの媒体で統一するのか否かも検討する。この「eラーニングの媒

体で統一する」という意味は、あるコースが以下のような多様なモジュールで構成されて

いる場合にどのような手段(媒体)で統一するか(または統一しない)ということである。 eラーニングタイプのモジュール

シミュレーションを活用した実習型モジュール

実機の活用や現場環境での実習を中心としたモジュール

その他のタイプのモジュール

一つの方法は、すべてのモジュールをeラーニング上のモジュールとして表現するという

ものである。

3.1.2.13

ネットワーク環境分析(eラーニングの場合)

受講者が使用するネットワーク環境を事前に調査することにより、想定される学習障害を

最小限に抑えるのが目的である。特に回線の帯域幅、最繁時のトラフィックを確認してお

く。また、新たに

LMS サーバを設置する場合にはネットワーク管理者や IT 部門(或いは

それ相当の部門)との緊密な協業が不可欠となる。

特に、機密性の高いコンテンツを扱う際にはネットワークを通した外部や内部からの侵入

や攻撃に備える必要がある。

IT 部門のセキュリティポリシーも十分理解しておく必要があ

る。場合によっては、信頼できる外部のデータセンターにハウジングという形で専用

LMS

サーバを設置し、セキュアーな運用管理を委託することも検討する。しかしながら、こう

した運用形態をとったとしてもコンテンツの安全性を

100%保証するものではないという e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-41

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

ことを認識しておくべきである。

ハウジングでの運用の際、社内や組織の内部に

LMS 管理者をたてる必要がある。データセ

ンターからの日々のセキュリティレポートの確認や、攻撃によるサーバ再起動の許可依頼

に対する敏速な判断が求められる。特に、グローバル規模でのeラーニング環境を提供す

る場合には、

24 時間体制での管理が求められるケースもある。

社内や組織内の

LAN にサーバを設置し運用する際にも上述したように十分セキュリティ対

策を講じる必要がある。

3.1.2.14

ストーリーボード作成 及び絵コンテ作成

この時点では、既にコースマップが完成し、マップ上のモジュールの目標や学習内容も

明らかになっている。後は、eラーニングとして提示する学習内容を、ストーリーボード

として展開していく。展開の仕方は、受講者の学習特性やモジュール目標に応じた設計を

行う。受講者の事前保有スキルに応じた分岐も設定できる。

特に絵コンテの作成においては、インストラクショナルデザインよりもインフォメーショ

ンデザインのノウハウを駆使する。インフォメーションデザインの具体的なノウハウにつ

いての解説は別の機会に譲る。

「医療面接」コースの「患者様に質問をする」の絵コンテの例を挙げる。

画面

1 【コースタイトル画面】

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-42

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

画面

2 【コース目的画面】

画面

3 【コースマップ画面】 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-43

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

画面

4 【モジュールタイトル画面】

画面

5 【目標画面】

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-44

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画面

6 【動機付け画面】

画面

7 【学習画面】 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-45

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

画面

8 【スキルチェック画面】

画面

9 【コースのまとめ】

テキストベースの教材に展開する場合には、テクニカルライティングや文章表現の各種の

手法を用い、分かりやすい文章構成を心がける。

テキストにせよ、eラーニングコンテンツにせよ、モジュール構成は共通している。モジ

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-46

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

ュールが備えるべき構成要素と受講者の取るアクションは、以下の通りとなる。

モジュールタイトル(コースマップ上でモジュールを確認)

目標(行動、与件、基準の確認)

スキルチェック(自信があればトライできる)

モジュールで参照する学習リソースのリスト(リソースの確認)

動機付け(学習の目的を確認)

学習内容の紹介(スキル項目の確認)

学習項目のインストラクション(指示に従い自分のペースで学習)

デモンストレーション(目標が期待するパフォーマンスの確認)

演習、実習(スキル修得)

演習、実習のフィードバック(スキルの修正)

次の学習項目

総合実習(目標記述と同じ環境での実習で自信を付ける)

フィードバック(スキルの即時修正)

セルフチェック(まとめと弱点の強化)

スキルチェック(自分で受けるタイミングを決める)

スキルチェックのフィードバック(自己評価またはコースマネージャによる

フィードバックで最終調整)

次のモジュールの案内(コースマップ上で次のモジュールを選択)

また、動機付けの理論で幅広く活用されている

ARCS 理論や、教授法として同様に活用さ

れているガニェの

9 教授事象に対応する考え方も CRI 技法に含まれる。

ARCS 理論は下記のような 4 つの視点で受講者のモチベーションを維持向上させる。

A 注意(Attention)

おもしろそうだな!

R 関連性(Relevance)

やりがいがありそうだな!

C 自信(Confidence)

やればできそうだな!

S 満足感(Satisfaction)

やってよかったな!

具体的な事例を下記の表にまとめる。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-47

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

学習意欲

の4側面

注意

(A)

意 欲 を 高 め る 工 夫 の 例

今までの知識と食い違う

事実、世界の七不思議、興味をそそられる話題、調べてみたくなるきっかけ(探

普段とは違う授業の組み立て

関連性

(R) 作った問題、比喩やたとえ話、

自信

(C)

今努力することのメリットの

強調、意義のある目標の設定、学習プロセスそのものを楽しめる工夫、友達との

協同作業、班対抗の競争、

ゲーム化

今日のゴールの明示、ゴールとのギャップの確認、頑張ればナきそうなゴール設

定、中間目標の導入、

チャレンジ精神の刺激、他人との比較でなく過去の自分との比較による成長の実

感、リスクなしの練習の機会

ブ性、自己ペース、やり方の自己

満足感

(S)

設定した目標に基づく成果の確認、成果を生かすチャンス(成果活用場面の埋め

機会、成果の即時確認、褒めて認める儀式、何らかのご褒美、教師からの励まし、

えこひいきなしの公平感、

首尾一貫した教室運営、成果を喜び合う仲間、ペイオフ(効率)を高める、充実

感を味わう工夫

5 ARCS 理論

出典:メディア教育への動機づけ(鈴木克明氏)

3.1.2.15

プロトタイプ

プロトタイプを作成する目的は、開発フェーズに入る前に実際の受講対象者に近いターゲ

ットに対して試行し、考えられるすべての修正を盛り込んだ開発仕様書を作ることにある。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-48

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

ここで言うプロトタイプとは、実際に運用に耐える品質のモジュールのことであり、コー

スのさまざまなタイプのモジュールを用意する。たとえば、知識型のモジュールや、実習

中心のモジュール、または、eラーニングタイプやワークショップタイプのモジュールに

ついてそれぞれ個別に作成する。

作成したプロトタイプは、ステークホルダー(インストラクショナルデザイナー、

SME、

発注者、受講対象者などコース開発に関係する人々)の間で試行され、総合的に評価され

る。eラーニングの試行では、学習中の受講者をインストラクショナルデザイナーとコン

テンツデザイナーが学習の様子をモニターし、随時受講者からのフィードバックを得る。

プロトタイプの評価は、インストラクショナルデザインとインフォメーションデザインの

2

つの視点からなり、下記のようなポイントがチェックされる。

(1) インストラクショナルデザインの視点

目標は明示されているか

目標は受講者が理解できる言葉で記述されているか

スキルチェックは目標と合致しているか

学習内容は、目標を達成するための過不足のない内容となっているか

スキルが十分修得できるまで実習の機会が与えられているか

実習には即座にフィードバックが与えられているか

十分自信がついてからスキルチェックに進めるようになっているか

その他

(2) インフォメーションデザインの視点

統一されたページレイアウトになっているか

文字のポイント数、フォント、色、行数、行あたりの文字数などのガイドラ

インが確立されているか

ページ送りボタン、一時中断ボタンなどのナビゲーションボタンのデザイン、

大きさ、配置が受講者に混乱を与えていないか

ナレーション、イラスト、図解、アニメーション、動画などのメディアが学

習の目的に沿っているか

その他

プロトタイプの試行結果に基づく修正は、開発した本人にとっては辛いものだが、ここで

しっかりと修正を施し、後戻り工数が発生しないような開発仕様を設定することが肝要と

なる。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-49

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

3.2.3

開発フェーズ

ここまで、分析フェーズ、設計フェーズについて見てきたが、この後の開発フェーズは基

本的に、プロトタイプを通して作成した開発仕様に従って開発される。開発上の注意点は、

先に挙げた評価ポイントとなる。テキストベースの教材開発とeラーニングコンテンツの

開発にはそれぞれ独自のノウハウが必要となるが、基本的な考え方は同じである。

3.2.4

評価フェーズ/改善フェーズ

では、残りの評価と改善について併せて解説する。

細かい視点では、前述したプロトタイプ試行でのチェックポイントを適用するが、マクロ

的な視点では、以下の

3 つのポイントがある。

(1) その研修は価値があるか

(2) その研修は機能しているのか

(3) その研修は効率的か

先ず、研修が「価値があるか」否かは、どういう基準で判定するのであろうか。研修の目

標が明確(観察可能)で確かに受講者がその目標に到達したとする。それ自体をみれば、

その研修は成功しているように見える。しかし、問題はその目標そのものが価値ある目標

であるか否かである。ここでいう価値とは何であろうか。それは、現実の世界をどの程度

反映しているかどうかの度合いである。

2 点目の「機能しているか」であるが、たとえ研修目標が価値あるものであっても、インス

トラクションやフィードバックなどに問題があり、受講者が目標に到達しない場合がある。

3 つ目は、「機能しているか」に関連するが、目標も問題なく、インストラクションやフィ

ードバック等の教授方法もそれほど極端に機能していないわけではないが、目標に到達す

る過程で不要な混乱(学習障害)や目標とは直接関係ない全く別なスキルを習得してしま

ったり(マイナスの副次効果)する。その逆の、「機能し、効率的な研修」を「エレガン

トな研修」と呼んでいる。

さて、こうした巨視的な評価とは別な評価としては、幅広く採用されているカークパトリ

ックやジャック・J・フィリップスのものがある。また、先述した、「インストラクショ

ナルデザイン」と「インフォメーションデザイン」の

2 つの視点から見た評価方法もある。

以下、カークパトリックの評価手法と、eラーニングコンテンツに関する評価方法(一例

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-50

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

として、財団法人機会振興協会による手法)について概要を挙げる。

カークパトリックの評価方法

レベル

1:反応

受講者の学習後の満足度を評価

内容(典型的な質問例)

有意義だったか

コースの進め方は良かったか

学習目標は明確か、達成できたと思うか

気にいった点、いらなかった点

レベル

2:学習

学習目標に対する理解度を測定

内容

知識の修得度

正しく理解できたかの評価

技能の習得度

正しくできるようになったかに主眼(上手にできるは別)

レベル

3:行動

受講者の職場での行動変容を評価

内容(評価のガイドライン例)

学習前、学習後の対比評価

行動変容が起こる期間を想定

受講者をよく知る人により多面的に

適当な時期を見計らって繰り返し評価

レベル

4:成果

学習によって組織に生まれた「成果」を評価

内容

トレーニング費用と効果の分析

ROI=(効果 − 費用)/ 費用

効果の数量化が難点

正確さ、品質、顧客満足、モラルの向上など

※ eラーニングコンテンツ評価方法 (出典:財団法人機会振興協会) e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-51

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

<学習内容およびその効果>

1. 学習目標は適切に設定され、かつ明示されているか

2. 受講者の前提条件は適切に設定され、かつ明示されているか

3. 学習の全体が適切に明示されているか

4. 学習内容が目標を達成するものとして妥当であったか

5. 教材に無理ムラ無駄がなく適切なものとなっているか

6. 教材内容の正確性、技術変化・進歩への対応などが適切に行われているか

7. 教材内容の表現が、受講者にとって適切であるか

8. 動機付けや学習意欲の継続に関する仕組みが適度に入っているか

9. 学習内容の定着のための仕組みが適度に盛り込まれているか

10. 内容を表現するための適切なメディアおよび素材を使用しているか

11. マルチメディア素材の作りこみは適切か

<受講者支援>

1. 協調学習を利用する場面があったか、あったとすれば円滑であったか

2. 指導者とのコミュニケーションは許されていたか、そうであれば円滑であったか(この

場合はチュータリングを意味する)

3. 学習相談をすることができたか、そうであるなら有効であったか(主にメンタリング)

4. 受講者間でのコミュニケーションは許されていたか、そうであれば円滑であったか

5. ヘルプ・FAQ の仕組みは使用できたか、できたならば有効であったか

6. 有効な学習支援ツールがあり、かつ充実していたか

7. 進捗や履歴および結果に関する適切な情報を入手できたか

8. 選択学習や繰り返し学習などの受講者主導の制御ができていたか

<受講者インターフェース>

1. 操作を容易か

2. 操作性は適切か

3. コンテンツ内の各画面のレイアウトは適切で、かつ画面間の統一は保たれているか

4. 受講者の操作に対する応答は適切か

5. 受講者の疲労に対する考慮がなされているか

この他にも学習管理システム上のさまざまな評価項目があるが、割愛する。

以上、

CRI 技法をリハビリテーション教育に適用した例を見てきた。CRI 技法を含む数多

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-52

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

くのインストラクショナルデザインは一様にADDIEをベースとしている。そうしたイ

ンストラクショナルデザインの中でも、すぐに使える実践的な分析・設計・開発ツールを

リハビリテーション教育では特に患者様との接点が重要であり、そこに携わろうとしてい

る学生への実践的な教育アプローチの構築が鍵となるのは言うまでもない。さまざまな現

場で、さまざまな試みを通して優れた手法が生み出されている中で、本章で紹介したイン

ストラクショナルデザインが少しでもリハビリテーション教育の発展に貢献できれば幸い

である。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-53

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

【参考文献】

1. Chuck Hodell 2000 年 “ISD From the Ground Up”

2. ウォルター・ディック、ルー・ケアリー、ジェイムズ・O・ケアリー著 2004 年

『はじめてのインストラクショナルデザイン』

3. 鈴木克明 2002 年『教材設計マニュアル』

4. 鈴木克明著 『メディア教育への動機付け』

5. 財団法人機械振興協会

6.

『先進的 WBT システムの調査分析と協調学習機能等に関する調査研究』

7. ロバート・F・メイガー著 1996 年『CRI 技法』

8. 原田典昭 2004 年『CRI 技法によるインストラクショナルデザイン』

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 3-54

第 4 章

リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン 教 育 に お け る

コ ー ス

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

4 リハビリテーション教育におけるコース開発

これまで見てきたように、リハビリテーション教育において、ID(インストラクションデザイン)を利用し

た教育体系というものは、まだ広く一般には普及していない。ID 手法が日本で注目されるようにな

ったのは、ごく最近であり、特にeラーニングの普及によって、最近急速に身近なテーマになってき

たと思われる。

この章では、教育カリキュラムをIDで分析・設計したあと、どのようにeラーニング化を決定し、更に

どのようにコンテンツを作成、そして学校内において実践・運用していくかを解説する。

4.1 eラーニング化の方針決定要素 eラーニング化にあたっては、設計された教育内容を十分に見渡して、どの部分をどのような方法

でコンテンツ化していくかの判断が大切になってくる。この方法として一般的な考え方、手法が存

在するが特にこのなかで重要なものが、受講者である学生、そしてコンテンツを作成する教員のス

キルレベルを考慮することである。対象者の習熟度に応じて、方針も変わってくるし、コンテンツ化

ツールの選定も変わってくる。すなわち各学校のeラーニングのスキルレベルに応じた方針、やり方

を選択しないと失敗してしまうということである。

この方針決定に重要な影響を与える項目を選択し、それぞれに解説を行う。

(1) 導入目的

リハビリテーション教育に対して、eラーニングを導入する動機として専門学校の中で考えられる

要因をピックアップしてみよう。以下のようなことが考えられる。

(経営的な視点)

・ eラーニング導入により、学習を効果的・効率的に行えるようにして学生サービスを向上させ

る。学生の集客ツールとしての魅力を提示する。

・ eラーニング導入を行うことにより、他校の教育品質に打ち勝てるようにする。

・ 将来認可されると予想される通信制許可に備える。

・ 学生の集客が非常に困難になるため、遠隔でも教育できる仕組みを構築する必要がある。

(教育的視点)

・ リハビリテーションでは、現場実習をこなしながらも国家試験に合格することを目指さなけれ

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-2

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

ばならず、効率的に教えないと時間が足りない。

・ 教育現場で教えられる内容には限界があり、現場の状況などがシミュレーション的にeラー

ニングで事前勉強できる環境が整えられる必要が出てきている。

・ 教員は病院や施設などからの転任の人も多く、教育技術にはたけていない。効果的に教え

られる環境をeラーニングによって作り出せるのではないか。

・ 実習の時間が一人ずつすべての学生にとれないため、実地検査は全員には行えない。eラ

ーニングであれば仮想でもスキルチェックが行える。また学生個々の理解状況もよく把握で

き、一人ひとりに絞った指導が今より出来る可能性が高い。

この他にも、いろいろな導入動機があると思われるが、これらの目的にそったeラーニン

グ推進のシナリオでなければならないだろう。

【この章の活用の仕方】

この資料は、教育コースの企画・開発時に、教育コース内容の全体または一部をeラーニ

ング化するかどうか判断をする場合に適用する。本章は、新規のリハビリ教育コースだけ

でなく、既存教育コースのeラーニング化の見直しについても同様に有効である。既に運

用されている教育コースについては、本章のeラーニング化の検討手順を通してeラーニ

ング化の可能性を検討することができる。

また本章は、教育コースの企画・開発に関わるすべての担当者(教員含む)を対象に学校

内での利用を前提としている。今後、学校の教育形態や教育内容も変化すると予想される

と同時に、eラーニング化の技術進歩により現在よりさらにコスト削減などが可能になる

ことも予想される。更に学内のeラーニング対応能力が向上していくはずである。よって、

本章のガイドも学校のそのときの状況に鑑みて適時見直しをすべきである。

4.1.1 eラーニング化の基本方針と検討手順

4.1.1.1

基本方針

教育コースのeラーニング化に関し、以下の基本方針に基づいて実行する。下記の方針の優先順

位は、学校の経営戦略に関わるものが最も高いが、その他の方針についてはその時の内部的・外

部的な環境により変わるため、柔軟にeラーニング化の判断をする必要がある。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-3

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

『経営戦略を早期に実現できる方法を選ぶ』

学校経営的には、実施コストの低減に加えて実施完了までの時間が大切な場合がある。

例えば、理事長などのトップ指令によりある時期までにどうしてもeラーニングを立ち上げることが

至上命令の場合である。

『ブレンディングを意識してeラーニング化する』 eラーニングか集合教育(ILT

※1

)かというデジタル的な発想ではなく、常に集合教育の一部をe

ラーニング化できないかという発想で取り組む。

教育コースはブレンド(ILTとeラーニングを組み合わせること)して実施した方が、効果が大きい

ため、本章ではどの部分をeラーニング化すべきかについても検討する。

『教育コースで何を実現したいかの目的にあった教育手段を選ぶ』

教育コースはあらかじめ目的を持って企画される。その目的を最大限に実現できるようなeラー

ニング化の手段を選択する。

『教育を受ける受講者の理解度に合った教育手段を選ぶ』

教育を受ける学生たちの理解度、学習能力はさまざまである。ITリテラシーや学習環境、立場

などを考慮し、効果的で適切な教育手段としてのeラーニングを適用する。

『費用対効果の高い教育手段を選ぶ』

ILTとeラーニング化の費用を試算し、コストパフォーマンスの高い方法を実施する。

※1 ILT:Instructor Led Training 集合教育のこと。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-4

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

4.1.1.2 eラーニング化の検討の準備とプロセス eラーニング化の検討では、以下の項目の整理とプロセスを考慮に入れる必要がある。eラーニング

化の具体的な判断基準とその内容に関しては後述する。

① 教育コース実施についての緊急度を検討する

教育コース実施完了にいたるまで、どれだけの期間が許容されるかによって、学習の手段が異

なる。

実施完了までの期間は、学校の経営的視点から設定されることが多いため、重要度が一番高

いと考えられる。

例えば、国家試験が控えていてその合格対策のために、eラーニングでのサポートを実施しな

ければならないという命題の場合、そのスケジュールに合わせたコンテンツの開発・運用準備が

必要になってくる。

② 教育コースの目的の明確化と分類を行う

明確化

その教育コースの目的を明確にする。さらに、学ぶべき内容をモジュール化し、各モジュール

で習得すべき目標を明確に定義する。これにより、必要な学習形態がより具体化しやすくなる。

これはID手法により最初に分析すべき項目である。この目的を明確にしておけばその後のアク

ションが取りやすくなる。

教育コースの目的による分類

教育コースは、目的別に以下のようないくつかのパターンに分類できる(表 4-1参照)。リハビリ

テーション教育に限らず、これらは一般的にどのコースにも適応できる。これらの目的に応じ

て、eラーニング化の判断を行うことが必要である。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-5

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

類型 期待すること

知識習得

新しい知識を得て医療行為などの作業ができる。

・ここではいわゆる基礎知識のことをさす。

・医学の基本知識

・患者応対の基礎知識 など

基本的に、知識として本を読んだり話を聞いて習得できるレベルの内容

を指す。

スキル習得

マインド醸成

チームワーク醸成

知識の確認

その他

コミュニケーションや交渉術などのヒューマンスキルや医療行為実務の

ように実践的なスキルなどを指し、多岐にわたる。

・車椅子の使い方が実際にできるなど

器具を使う技術

・いろいろな患者への問診ができる 等

積極性、公正さ、ロイヤリティなど心の姿勢を醸成する。

・患者に対する気持ちの理解力

・明るい積極的な心 など

参加する人たちとの絆、人脈、チームワーク力などを構築する。

・医療もチームで行うため、チームの中での

振る舞いや協力をしていく態度の醸成など

スキル、知識などを確認する。テストや診断、シミュレーションなどがあ

る。

・知識や技能を修得しているかどうかの

チェック

・検査だけでなくチェックにより間違いを正したり、その場で教育するな

どの効果もある。

技能習得:やり方を覚えるだけでなく、身に付くまで練習する。

・現場実習やシミュレーション、OSCEなどの

テストなどを指す。

・教えるだけでなく何度も繰り返して覚えさせるのが目的

4-1 目的別教育コースの分類

③ eラーニング化決定のプロセス

【eラーニング化すべきかの方針を決定】

リハビリテーション教育コースの企画段階において、委員会担当者、教育コース開発者が中心とな

り、『eラーニング化検討チェックリスト』を使って、その教育コースに対するeラーニング化の個別方

針を決定する。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-6

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

教育コース企画の確認

教育コース企画書を元に、その教育コースにおける目的や実施形態などを確認する。eラーニ

ング化検討チェックリスト使用の際の根拠として使用する。

(教育コース企画書は、教育コースの詳細まで計画するのが理想である。この教育コース企画

書は、教育コース目的や概要、実施形態、カリキュラム詳細などを含むものである。教育コース

企画が詳細に計画されていると、eラーニング化検討のチェックに際しての判断や概算見積もり

についての精度が向上する。)

→ CRI技法によるコース定義書をそのまま活用する。

eラーニング化部分の検討

教育コース全体をeラーニング化するか、一部分をeラーニング化(ブレンディング)するかな

ど、eラーニング化する部分を検討する。

概算見積もり eラーニング化するための概算コストを見積もる。詳細の見積もりについては、コンテンツ設計

時に算出するが、ここでは、eラーニング化の実現方法や制作する分量などから、概算コストを

想定する。その際の根拠については、参考となる金額を経験値から設定していく。

費用対効果を検討する際のトータルコストには、eラーニングのインフラ費用なども含まれる。

最終決定

教育コース企画書と予算案を提示して、予算承認者から認可を得る。

Note

教育コースの企画書を作成して終わりではない。e ラーニングの活用の仕方や評価方法、アッ

プデートのタイミングなどを定義し、教育コースの実施・運用プロセスが問題なく流れるよう

にすることを考慮することが重要である。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-7

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

4.1.2 eラーニング化のアクティビティの定義

4.1.2.1 eラーニング化の実現方法 eラーニング化の実現においては、いくつかの方法がある。それぞれの特徴を解説する。

手法 実現方法 特徴

開発

コスト

実現容

易度

動画

Web静止画

Webアニメ

ーション

ビデオテ

ープDVD

Webでの

ストリー

ミング

HTMLフ

ァイル

(静止

画)

HTML+

FLASH

2

※1

(概要)動きのある画像、音を組み合わせて五感に訴え

る。動作を示す作業手順の説明などに適合。

(長所)文章よりも情報量が多く、空間関係、動作、質感、

雰囲気などを正確に捉えることが可能。制作費用は安

価。ビデオカメラがあれば誰にも作れる。

(短所)出演する人の表情など関係ない情報に目がいき、

本質的な理解を阻むときがある。ネットワークでの高画質

伝送には不向き。

(概要)文章、画像で情報を伝える。体系や定性的な関係

を示す内容説明のときに有効。

(長所)もとになる教育テキストがあれば、比較的安価にす

ばやく作成できる。パワーポイントやWordの文書などすぐ

にHTML化が可能である。

(短所)学ぶ側にとってはテキストと変わらない。あまり魅

力的でないため飽きられやすい。

(概要)上記静止画に比べて、動きある画像で解説する。

静止画ではわかりにくい、ダイナミックな動き、時系列での

関係を示す内容の説明に適合。

(長所)動きや音声があるため、わかりやすい。飽きさせな

い。

(短所)コスト、期間が掛かる。ただし、最近パワーポイント

のアニメーションをFLASHに変換するツールも出てきて、

開発期間は短縮、容易になってきている。

(概要)ネット上で双方向教育が可能。電子会議などのよ

うに遠隔での意思疎通、教育に適合。

Live

Learning

Web上で

リアルタ

イム講義

(長所)場所を問わず、バーチャルでリアルタイム講義が

可能である。対象者が集まりにくく地理的に離れている場

合に効果的である。録画されたセッションも視聴可能で、

他者が質問したこともすべて聞ける。

(短所)導入コストが高い。ライブセッション実施には教員

により高いスキルが要求される。

4-2 eラーニング化実現方法と特徴

(運用コス

トは高)

容易

(導入・運

用コスト

は高)

容易

情報

※1 ストリーミング:サーバに保存してある動画などをネットワーク経由で配信すること。

※2 FLASH:FLASH(フラッシュ)は、マクロメディア社が開発した技術で、画像等のア

ニメーションを Web 上で実現するソフト。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-8

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

4.1.3 eラーニング化の検討と判断基準

4.1.3.1 基本的な考え方

リハビリテーション教育コースの特質を考え、eラーニング化を判断する場合の基本項目を設定し、

それぞれの項目に対して個別に判断していく。その判断基準の鍵となる基本項目を「表 4-3 判断

基準となる基本項目」に示す。

「表 4-3 判断基準となる基本項目」を検討する上で、プロセスをシンプルにするために、以下のよ

うな大きな流れに沿って判定する。

教育コース実施が緊急かどうか。期限が決められているかどうか?

教育コース内容が知識習得中心かどうか?

教育コース内容が技術・技能の習得のために実習を必要とするかどうか? e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-9

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

No 判断基準となる基本項目

1 教育コース実施の緊急度合い

2 教育コース実施の目的

3

教育コース内容の重要度

(リハビリ教育のコアとなる知識かどうか)

4 教育コースを受ける学生の特質

5 教育コースを実施する人の特質(教員)

6 教育コースの期間

7 受講者人数

8 教育コースを受ける人の分散度合い(地域)

9 教育コース実施の際のコスト

時間

本質的に関わる要素

効果

効果 効率

効果

効果

効果

効果

品質

効率

コスト

効率

コスト 効果

コスト

効率

10 教育コース内容の鮮度 コスト 保守

4-3 判断基準となる基本項目

大きな流れに沿って、「表 4-3 判断基準となる基本項目」を個別にeラーニング化するかどうかを

検討し、各項目の個別判断をもとに、最終的に総合判断を行う。

一般的に、緊急性を伴う基本項目が第一で、それ以外のコストや効果などはその次に考慮されると

思われる。これは学校法人や教育学科の方針、または、教育コース内容が変更されるためその

時々に判断して優先順位を決定することになる。上記の「表 4-3 判断基準となる基本項目」の序

列が必ずしも確定した優先順位を示すわけではない。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-10

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

時間

高    優 先 度

効果

効率

品質

コスト

  低

4-1 本質的に関わる要素の優先順位

表 4-3 の「本質的に関わる要素」に記述があるコストについては、不確かな条件が多く、適切な判

断を行うためにはもう少し学校内でデータを蓄積していく必要がある。ここでは、eラーニング化判

断の考え方や方向性を示し、将来数多くの項目を通して総合判断ができるように、「4.1.3.1.1 教育

コース実施の緊急度合い」以降で表 4-3 の基本項目の解説を行う。

また、教育コースのブレンディング(ILT と e ラーニングを組み合わせて効果を高めること)も教育効

果をあげるために重要である。その際、教育コースのすべてをeラーニング化するかどうかという判

断ではなく、教育コースの一部をeラーニング化できるかということを第 1 に考慮した方がよい。

教育コースのどの部分をeラーニング化するか判断する場合、以下のようなケースを考慮する必要

がある。

知識部分のみをeラーニング化して、事前準備学習を行わせる。

医学の基礎知識など普遍的で、すべての学生が毎年学ぶべきもの。そして事

前知識として学ぶべきもので、学生のレベル揃えに必要な知識はeラーニン

グ化して準備しておいたほうが良い。

言葉や絵などの説明では困難な部分をeラーニング化する。

特に動作を示すような教育内容、人とのコミュニケーションで表情を伝える

ような教育内容、人体の内部機能など外からでは分かりにくい機能を教える

場合には静止画などよりは動画やアニメーションなどを利用したeラーニン

グが効果的である。

評価など集計作業に時間・工数を取られたり、理解度などを把握するのに時

間が掛かるものをeラーニング化する。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-11

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

特に学校では、数多くの学生に一斉に対処しなければならず、一人ひとりへ

の対応は非常に困難になる。教員の数と受講料とのバランスから考慮すると、

システムで対応できる部分はなるべくeラーニング化したコンテンツやテス

トにより効率的に管理したほうが得策である。

教育コースが終わった後に、間欠的にフォローする部分をeラーニング化す

る。

一度学習しても、国家試験の前にまた学びなおさなければならない。重要な

ところを個人のペースにより、かつ個人の強み弱みを把握したシステムによ

り、eラーニングでサポートすると非常に効果があがる。

上記 4 項目を考慮すると、次の 3 つの定型的なパターンに分類できる(図 4-2 参照)。

事前学習部分

教育コース本体部分

フォローアップ部分

4-2 教育コースの定型パターン

事前学習部分

事前知識テストをeラーニング化(前提知識を調査する)

事前知識の学習をeラーニング化(前提知識を揃える)

現在ILTで実施している部分を切り出してeラーニング化(ILT部分の期間短縮化)

教育コース本体部分

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-12

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

現在行われている教育コースの本体部分を指す。

この部分を目的などに応じて、そのままILTか、全部eラーニング化するか、一部eラーニ

ング化してブレンド教育コースにするかを検討する。

フォローアップ部分

事後知識の確認テストをeラーニング化(教育コース成果を確認)

学習内容の実施フォローをeラーニング化(効果を持続させる)

教育コースのブレンディングは、いろいろなパターンが考えられ、固定したやり方があるわけではな

い。eラーニング化の特質やeラーニング化の技術を理解することにより、ブレンディングによる学習

の可能性は限りなく広がると思われる。教育コースを企画する際に、どのように e ラーニングの取り

入れを工夫するかが求められる。今後、学校内でいろいろな組み合わせを試しながらノウハウを蓄

積していくことが望ましい。教育コースの企画について、CRIなどの ID(Instructional Design:教育コ

ース設計技法)を参考にしていただきたい。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-13

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4.1.3.1.1 教育コース実施の緊急度合い

教育コース実施が学校経営上急がれる場合には、いかに早く実現するかを検討するのが重要課

題である。さらに全学一斉の教育コース実施が望まれる場合は、ほぼ確実にeラーニング化するこ

とが必須となる。

しかし、教育コースをeラーニング化するのは、緊急度の高い場合に有効な方法のひとつであるが、

表 4-3 の各項目も十分考慮しなければならない。 eラーニング化の実現方法には、時間が掛かるものもある。開発期間が長くなり、教育コース実施ま

でに間に合うのかどうかが問題になるケースもある。e ラーニングコンテンツを開発する時間が限ら

れていれば、eラーニング化の手法も限られてくる。

この場合は、Live Learning による動画講義を採用すれば開発期間を短縮できる。または、最初か

ら ILT で実施すると決めてしまう。

4.1.3.1.2 教育コース実施の目的

教育コースを実施する目的は、前節で説明したようにいくつか存在する。すなわち、知識習得やス

キル習得、モチベーションなどである。これらの具体的な内容については、以下の記述を参照して

いただきたい。

4.1.3.1.3 知識習得のための教育コース

リハビリテーション業務に必要な知識や、医療の基本知識などを教育することが目的の場合、以下

のような事項についてeラーニング化を検討する。知識を習得する教育コースは、eラーニング化を

推進しやすい教育コースである。

例:

医療の基礎知識の習得・・・本格的なリハビリ行為に入る前の医療の基礎知識習得コース。

前提知識の整理 ・・・高校を卒業しているときに習得していなければならない基本的な知識

を確認したり補うためのコース。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-14

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

【知識内容による分類】

(1) 専門スキルを習得する前提となる知識の習得コース

(これは前提を補講するタイプと考えてよい)

(2) 一般知識に関する教育コース

(3) 学部特有のメインの知識を教える教育コース

(4) 周辺知識に関する教育コース

(1)(3)については、自社制作によるeラーニング化を、(2)(4)は、e ラーニングコンテンツの外部調

達でまかなうことが効率的である。

4.1.3.1.4 スキル習得のための教育コース

業務に必要なスキル、業務手順などを習得することが目的の場合、教育コースとしては以下の項

目についてeラーニング化を検討する。

例:

ヒューマンスキル・・・患者へのインタビュースキル。

リハビリ業務スキル・・・機器の操作技術。

① 操作系の教育

リハビリ機器操作のように、ある一定の処理などを学ぶ場合は、ILT で現場対応すべきである。さら

に、必要に応じて、教室内でのサポートを増やして、手厚く支援することも考慮する。このようなケー

スは基本的にはeラーニング化すべきではなく、ILT でなぜその操作が大切なのかなどの背景を理

解してもらうような試みが大切になってくる。

但し大型の設備や高価な機器をすべての学生が等しく、かつ長時間にわたって操作できるわけで

はない。これらの知識はILTのみでなく、その実習の前後に動画などで何度も確認できるようにし

ておいたほうが学生の理解を助ける。手法的には、操作が目に見えてわかるような動きのある内容

に仕上げると、理解度も向上し、結果的に生産性が増すことになる。

② コミュニケーション関連の教育

内容がヒューマンスキルの習得のように、コミュニケーション力、プレゼンテーション力、傾聴力など、

実際に他の人とのワークショップなどを介して体感していく教育コースの場合、eラーニング化する

のは不向きである。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-15

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

しかし、事前知識的な内容に関しては、eラーニング化することができる。つまり、基本的な手法や

考え方、事例などは、eラーニング化して予習することが可能である。 e ラーニングによる事前学習により、ILT ではワークショップに集中することができる。ただし、これは

理想であって、実際には、事前に勉強してくる人は少ない。したがって、当面 ILT で教育コースを

実施し、学生が事前学習する態度が定着してから、知識部分をeラーニング化した事前学習を取り

込むというステップが有効であろう。

③ 実習・自己学習を伴う作業の教育

作業手順などを学ぶ教育コースに関しては、個人またはグループで実習や自己学習を行うケース

が数多く見受けられる。この場合は、eラーニング化せずに ILT で教育コースを実施した方が身に

付きやすい。特に、CRI 技法を利用することにより自主的な学習スタイルを学生に植えつけていくこ

とができる。この場合の注意点は、教材(テキスト、補足資料など)の完成度が高いものでないと、教

員(このケースではファシリテーター、またはコーチ)が大変になる。教材作成と教員育成のために

特別な訓練が必要になる。

4.1.3.1.5 マインド醸成のための教育コース

学生に対しての医療技術者としてのマインド醸成の教育コースの場合は、eラーニング化すること

は可能であるがあまり有効ではない。学生にとっては、教員から直接生々しい話をきかせたり、説

得することが効果的であると思われる。

マインド醸成のための教育コースは、事前知識や基本的な知識を教える部分と、感情面や意識面

を伝えていく部分があると考えられる。この際にeラーニング化できる部分は、事前知識や基本的な

知識の部分である。もしくは、患者の声などを動画に撮影したものや、あまり授業にでれない有名

な先生へのインタビューなどをeラーニング化しておくと、現場の教員の授業をサポートするツール

として有効である。 感情面や意識面を伝える部分は、やはり ILT が有効である。

4.1.3.1.6 チームワーク醸成の教育コース

教育コースがチームワークを教えるようなケースでは、基本的にeラーニング化は適していない。学

校内にはあまりこのようなカリキュラムはないかもしれないが、現実として社会で出たときは非常に有

用な能力となる。

ただし、このようなケースでもより効果を高めるために、ドラマ仕立てのビデオを見たり、ケーススタ

ディを研究して、事前に問題意識を与えるなど一部eラーニング化を検討すれば、教育の質を揃え

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-16

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

ることができ非常に効果的である。

知識の確認(確認テスト)

① 知識をテストする目的

個人が自分の弱点や理解度合いを測定して、学習活動に自らフィードバックするために設けられ

る。

この場合は、単なる指標としての考え方であるため、eラーニング化して気軽に情報を与えてあげるとよ

い。

② 適正な評価をする場合

実力測定が厳密に行われなくてはならない場合は、以下のようなケースである。

結果が国家試験等の合格に直接影響する場合

医療の現場実習に送り出す前に、その場所で適切に応対が出来るレベルかどうかを見極めな

ければならない場合

以上のような場合は、逆にeラーニング化せずに、ペーパー試験やシミュレーション試験(OSCE)

などで厳正に実施した方がよい。eラーニング化されたテストでは、どうしても自動的に応えるプログ

ラムなど対策を取ってくる学生も出現してくる。ただし、教育受講結果とテスト結果は、LMS 上に保

持する仕組みとした方がよい。

4.1.3.1.7 教育コース内容の重要度

(リハビリテーション教育のコアとなる知識・スキルかどうか)

教育コースの内容が、学校の競争力になるコアの教育内容であるかどうかは重要な問題である。こ

の場合は、以下の視点でeラーニング化の判断を行う。

① 学校の競争力となるコア知識・スキルの教育コース

学校としての特徴を出すための教育コースとして、医療専門スキル、国家試験対策など蓄積された

ノウハウなどの継承を行う教育コースを想定する。(「4.4.1.2.1 知識習得のための教育コース」参

照)

このようなケースは、積極的にeラーニング化を検討した方がよい。ただし、この際にはこの内容が

外部に漏れることを避けるために、学校内部での制作を基本とする方がよい。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-17

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

(外注業者にコンテンツ作成を依頼しない。)

② コア知識・スキルではない一般的な教育コース

既に、ILT 用の教材や e ラーニングコンテンツが市販されているものが多い。このような教材や e ラ

ーニングコンテンツを一般的な教育コースとして採用することを検討した方がよい。

4.1.3.1.8 教育コースを受講する学生たちの特質

コンピュータ活用が苦手な学生が対象の場合は、教育コースの実施には ILT が適合しているように

考えられる。しかし今後のことを考えると、学生はeラーニングに順応すべきである。既に多くの医療

機関や製薬会社などではeラーニングが一般的になりつつある。そのようなITリテラシーを学生のと

きから準備してあげる必要がある。

4.1.3.1.9 教育コースを実施する人の特質(教員)

リハビリテーション教育の教員は、医療現場から転身した専門家であるケースが少なくない。このよ

うな場合は、教員のためのインストラクション技術を勉強することは非常に効果的である。さらに、教

育コースの品質を一定にするために、eラーニング化することを積極的に考えた方がよい。

説明が上手ではないが、全般的に教育コースの中では作業の指導が上手にできたり、Q&A が可

能な教員にとっては、ビデオなどを活用するのが効果的である(内容の説明部分だけをeラーニン

グ化する)。これにより、教員は説明部分に膨大な前準備を行わなくてよくなり、そのコストも削減さ

れるだけでなく、説明が不得意な教員への精神的な負担も大幅に緩和される。

全国各地で行う同様の教育コースでは、説明の上手な教員に知識部分の説明をさせたビデオを

配信することにより、教育の品質が維持される。

現場の教員は、そのビデオを見せて、あとは実習サポートや Q&A 対応を行えば効率的な教育コー

ス運営ができる。

4.1.3.1.10 教育コースの期間

基本的に、リハビリテーション教育コースの期間のみでeラーニング化を決定するということではなく、 eラーニング化のための検討項目のひとつと考える。教育コース期間が長い場合、すべてeラーニ

ング化することは慎重に検討すべきである。

知識習得の教育コースは、数時間のモジュールに分割した方がよい。たとえ、それが ILT であろう

と e ラーニングであろうと、その後の保守性に多大な影響を与えるからである。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-18

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト e ラーニングはあくまで自己学習で、根気のいる作業である。ILT では、決められた時間その場に出

席して講義を受けなければならないという意味では強制力があり、比較的内容を習得しやすい。し

かし、e ラーニングに切り替えた途端、教育コースを修了することが困難になってしまうことがある。し

たがって、初期の段階からあまり長時間のものをeラーニング化することは薦められない。

なるべく教育コースを分割し、ひとつひとつ意味のあるラーニング単位に分け、受講者が達成感を

比較的容易に味わえるようにすることが成功のポイントである。したがって、何十時間にもおよぶ e

ラーニングをひとつの教育コースとして作らない方がよい。

期間が長い教育コースに関しては、一部分をeラーニング化して、ILT とのブレンドにした方が学習

効果があがりやすい。また教室の中でeラーニングコンテンツを理解の助けにつかうという方法も効

果的である。

4.1.5.1.11 教育コースを受ける学生たちの分散度合い

学生が全国に散らばっている場合、eラーニング化した方が効果的である。さらに、受講者数が少

なくて、その対象者が全国に散らばっている場合には、eラーニング化が大前提と考えて検討を進

める。このようなケースは専門学校が将来において通信制が認められるようになるときに有効になる

であろう。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-19

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

4.1.3.1.12 教育コース実施の際のコスト

教育コース実施の際のコストは、教育コースをeラーニング化するかどうかの重要な判定基準のひと

つである。コスト試算の目安として以下のような項目を計算し比較するとよい(表 4-4 参照)。

コスト項目 ILT eラーニング

開発コストまたは外部eラーニングコンテンツ使用コスト

教育

コース開発者の単価x期間

eラーニングコンテンツは外注化があれば加算

インフラ運用費

LMS

1

サーバ等の運用費用按分

初期固定費小計 (aN+bN)

教員費用

教員の単価x期間

教室費用

教室原価x日数

テキスト費用

テキスト印刷費x人数分+送料等 a1 b1

F1 c1 d1 e1 a2

F2 c2 d2 e2 b2 or b3

(ストリーミング利用の場合は

さらに追加費用)

運用変動費小計 Σ(cN+dN+,,,eN) V1 V2

合計

4-4 コスト試算表

A=F1+V1 B=F2+V2

ただし、コスト試算は、単年度ではなく e ラーニングコンテンツのライフタイム(寿命)が n 年とすれば、

その n 年間に ILT で受講すべき人数を積算してトータルコストを比較する。単年度の場合は、A と

B の比較のみである。厳密には、教育コースの開発費は 2 年目以降メンテナンスが発生するため、

実際には追加費用が発生する。これが大きい場合は開発費を追加して別途計算する。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-20

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

条 件 (単年度の例)

A>B

Yes eラーニン

グ化

4-5 単年度コストでのeラーニング化判断

チェックリストでは、この知識をベースに簡略化した計算により判断する。

No

ILT

※1 LMS:Learning Management System:社員・職員の教育管理を行うソフトウェア。

4.1.3.1.13 教育コース内容の鮮度

教育コース内容が頻繁にアップデートされる場合は、その度に趣向を凝らした e ラーニングコンテ

ンツを制作しているとメンテナンスが非常に大変になる(前述)。逆にメンテナンスがあまり発生しな

い内容の教育コースは、eラーニング化が特に有効となる。この際、注意しておかなければならない

のは以下のようなポイントである。

① 毎年教えることがあまり変わらない基礎知識はeラーニング化する。

→ eラーニング化する場合、モジュール化(

RLO

※ 1

)を進めてメンテナンス性を向上さ

せる構造とする。

② eラーニングコンテンツの制作を簡略化する。

ビデオ取りして、

VOD※2 での提供に徹する。

内容がアップデートされたらビデオを取り直せばよいと割り切る。

※1 RLO:Reusable Learning Object 再利用可能な、学習の最小単位モジュール。

※2 VOD:Video On Demand ユーザの希望の映像を希望の時間に個別に鑑賞できるシステ

ム。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-21

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

4.1.4 まとめ

基本的には、eラーニング化検討チェックリストを使い、上記で説明した各項目に従って項目別の

判断をしながら、全体の判断を行う。

その際には、項目ごとの優先順位がきめ細かく決まっているわけではないので、情報を総合して判

断していかなければならない。

総合判断の方法としては、判断項目ごとにウエイトを置いて総合数値で判断する方法がある。e ラ

ーニングの導入初期からこの方法で判断をしていくと、eラーニング化の推進を阻害する要因にも

なりかねないため、予算枠があれば、積極的にeラーニング化する判断をした方が良いと思われる。 e ラーニングコンテンツが充実するとともに、各学校に適した判断項目のウエイトが見えてくるであろ

う。

本章は、あくまでもeラーニング化を行う上でのガイドラインであり、判断の項目の意味とその判断の

仕方、そして大まかな優先順位を説明している。最終的には、予算枠を考慮しながらeラーニング

化するかどうかの判定になるであろう。

これまでの方針の数々は、現在学校がおかれている状況や世の中の e ラーニング技術などを勘案

してのものである。変化の激しいこの分野では、eラーニング化に関わるいろいろなツールがすぐに

開発されてくる状況である。したがって、eラーニング化の方針も定期的に見直しを図る必要がある。

また、方針の見直しは、受講者の声に耳を傾け、なるべく現場の状況に応じた修正が行われるべき

である。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-22

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-23

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-24

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

4.2 e ラーニング化の手法紹介と選定方法 e ラーニング(e-Learning)と呼ばれているものには、様々な形態がある。代表的なものは、

オンデマンド型でインターネットを利用してオンラインで教材の配信やテストを行なう

WBT(Web Based Training)や、講師が行なう授業をリアルタイムで受講できるリアルタ

イム型がある。その他、

CD-ROM を利用してスタンドアロン環境で学習する形態も、広い

意味で e ラーニングと呼ばれることがある。

また、配信するコンテンツのタイプにも様々な形態がある。 e ラーニングの運用体制やコス

ト面を考慮し、またリハビリテーション教育において教授内容による使い分けを考慮した

上で選定をしていく必要がある。

4.2.1 e ラーニング化の手法 e ラーニング化の手法として、コンテンツを表現する手法がいくつか存在する。表現手法に

よって、必要となる制作時間、コスト、スキルなども異なる。必要に応じて組み合わせる

ことにより状況に応じて、効果的に学習を促すことができる。

代表的なコンテンツタイプを下記にまとめる。

(1) 動画(ビデオ素材を利用したコンテンツ)タイプ

【概要】 動きのある画像、音を組み合わせて五感に訴える。動作を示す作業手順

の説明などに適合。人の表情や様子などを表現する場合にも最適。

【長所】 文章よりも情報量が多く、空間関係、動作、質感、雰囲気などを正確に

捉えることが可能。

制作費用は一般的に安価。ビデオカメラがあれば誰にも作れる。

また、パワーポイントスライドと講義風景を簡単に同期でき、コンテン

ツ化できるツールも存在する。

【短所】 出演する人の表情(コンテンツ提供側が意図しない)など関係ない情報

に目がいき、本質的な理解を阻むときがある。ネットワークでの高画質

伝送には不向き。

また講義をビデオ化する際(講義そのものをビデオ取りする場合)は、

コンテンツとしての完成度が低くなる可能性がある。不必要な言葉や間

合いなどの編集は困難である。

内容の品質を保つためにリハーサルの実施や、複数テイクをビデオ取り

するなど工夫が必要。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-25

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

4-6 動画を利用したコンテンツ例

4-7 作成機材例

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-26

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

(2) 「Web+静止画」タイプ

【概要】 文章、画像で情報を伝える。体系や定性的な関係を示す内容説明のとき

に有効。

【長所】 もとになる教育テキストがあれば、比較的安価にすばやく作成できる。

パワーポイントや

Word の文書など、すぐに HTML 化が可能である。

また

HTML の特性であるハイパーリンクを使用すれば用語集など 2 次

的情報を学習者の判断で表示するなど、インタラクティブ性はテキスト

よりも向上する。

【短所】 表現力自体はハイパーリンクが使える分、テキストよりも上回っている

が、いつでもどこでも学べる紙媒体であるテキストの方が有利。

(3) 「Web+アニメーション」タイプ

【概要】 上記の「

Web+静止画」タイプに比べて、動きある画像で解説する。静

止画ではわかりにくい、ダイナミックな動き、時系列での関係を示す内

容の説明に適合。

【長所】 動きや音声があるため、わかりやすい。飽きさせない。音声とアニメー

ションが同期して進行するので、説明内容も視覚・聴覚連動で認識しや

すい。

る点である。例えば、ある製品の取扱説明書がイラストではなく、写真

が使われていた場合、どこの説明をしているかわかりづらい場合がある。

これはイラスト化することにより不必要な情報を削除することができ、

写真よりも強調できるからである。

【短所】 物体をデジカメなどで撮影するだけで済む写真と異なり、イラストを作

成し、動きを加える編集を行なうため、コスト、期間がかかる。

最近パワーポイントのアニメーションを

FLASH に変換するツールも

出てきて、開発期間は短縮、容易になってきている。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-27

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

(4)

Live ラーニング

【概要】 ネット上で双方向教育が可能。テレビ電話会議などのように遠隔での意

思疎通、教育に適合。

【長所】 場所を問わず、バーチャルでリアルタイム講義が可能である。対象者が

集まりにくく地理的に離れている場合に効果的である。録画されたセッ

ションも視聴可能で、他者が質問したこともすべて聞ける。

音声や参加者の動画データだけでなく、

Word や Excel、PowerPoint

資料などデジタルな資料も共有して見ることができるものが多い。

【短所】 サーバの導入など、コストが高い。双方向で大量な情報がやり取りされ

るため、ネットワークの環境もその状況に耐えうるものを用意しなけれ

ばならない。

またライブセッション実施には講師(主催者)により高いスキルが要求

される。

4-8 Live ラーニング例

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-28

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

(5) デジタルホワイトボード

【概要】 黒板やホワイトボードに代わりタブレット

PC 上で記述した内容が、音

声とともにネットワークを介して受講者が閲覧可能。

【長所】

Live ラーニングと同様に、録画したセッションを視聴可能なので、講

義自体がコンテンツ作成となる。

100 名以上が収容できる大講義室などで講義を行なう場合にもプロジ

ェクターを利用することにより、席が遠い受講者にもみやすいという副

次的な利用も可能。

【短所】 講義実施には講師により高いスキルが要求される。また、講義一発取り

なので、内容を吟味することが困難。

開発

スピード

実現容易度 情報量

動画

手法 実現方法

開発

コスト

ビデオテープ

DVD

Web ストリーミン

※ 1

(運用コス

トは高)

Web 静止画

HTML ファイル

(静止画)

容易

容易

Web アニメ

ーション

HTML+FLASH

※ 2 高 遅 難 多

Live

Learning

デジタル

ホワイト

ボード

Web 上でリアルタ

イム講義

PC 上でのリアルタ

イム講義

(導入・運用

コストは高)

(導入・運用コ

ストは中)

速い

※1 ストリーミング サーバに保存してある動画などをネットワーク経由で配信するこ

と。

※2 FLASH

FLASH(フラッシュ)は、マクロメディア社が開発した技術で、画像等のア

ニメーションを Web 上で実現するソフト。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-29

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

4.2.2 e ラーニングの配信方法 e ラーニングコンテンツを配信する一般的な方法を以下にまとめる。

(1)

LMS

【長所】

LMS(Learning Management System)を導入することにより、コン

テンツ・テストの配信、履歴管理はもちろん、集合研修やブレンド型研

修の提供やスキルやコンピテンシー、シラバスなど多岐にわたる管理が

可能。

コンテンツ内容に修正があった場合、即時に修正したもので再配信可能。

【短所】 導入コストが高い。また、規模に応じて運用者のスキル、レベルが要求

される。

受講者数により、ネットワークに負荷がかかるので、人数に応じてネッ

トワーク設計を十分に検討する必要がある。

市販

LMS を利用する際、希望する要件を満たさない場合がある。要件

を満たすようにカスタマイズする場合、コスト面を考慮しなければなら

ない。

LMS 製品例

XcalatⅡ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

エヌ・ティ・ティ

エックスレゾナンド(株)

HIPLUS on Web ・・・・・・・・・・・・・

日立電子サービス(株)

CultiivaⅡ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

日本電気(株)

Internet Navigware ・・・・・・・・・・

(株)富士通ソフトウェアテクノロジーズ

SumTotal Enterprise Suite ・・・・

サムトータル・システムズ(株)

Saba Learning Enterprise ・・・・

サバ・ソフトウェア(株)

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-30

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

LMS 機能例

各システムにもちろん特色はあるものの、LMS に求められる基本的な機能を有し

ているため、実際に企業・学校で運用を行なう上でのサポートやカスタマイズの

良し悪しが、システムを選定する上での基準になると考えられる。以下の機能は

LMS が有している代表的な機能である。

学習機能

コミュニ

ケーショ

学習管理

教材作成

学習形態

テスト/アンケート

などの実行

質問機能

用語集機能

お知らせ機能

個人ポータル表示

メンター機能

Web ブラウザのみで学習可能

テスト(択一選択型、複数選択型、記述式、ドラッグアンド

ドロップなど)の実施が可能。

アンケートの収集や、レポートの作成、提出が可能

Q&A、FAQ などによる質問/回答が可能

もしくは掲示板機能などを使用して可能

用語を登録することにより、独自の用語集を構築可能。

お知らせ機能により、登録された最新の情報を取得すること

ができる。

受講者ごとに個々のポータル画面が表示される。お知らせ機

能、役割に基づいた学習/管理プラットフォームを提供

掲示板/チャットなどによりメンターと受講者がコミュニケ

ーションをとることができる。

特定の条件で、受講者にフォローメールを送ることができる

フォローメール送信

機能

ユーザ/クラスなど

の作成

ブラウザ上で、ユーザ/クラス/講座の作成が可能

前提条件の設定

権限の設定

講座の受講前提条件を設定することができる。

ユーザ毎にシステム管理者、インストラクター、学習者など

の役割に応じて権限を設定することができる。

ブラウザ上で、利用状況/進捗率/成績などを参照すること

ができる。内容を CSV ファイルで出力できるものもある。

進捗率/成績などの

管理

スケジュールの設定 教材ごとに学習期間の設定が可能。

学習状況の手動導入

機能

管理者は、集合研修についての学習者の習熟度を判定し、手

動で学習状況を入力できる。

組織、利用者などを CSV ファイルで一括登録できる。

ユーザインポート機

承認

ユーザが受講登録した際、受講を承認するかどうかの機能

オーサリングツール 専用のコンテンツ作成ツールを備えている場合が多い。

また、国際標準規格 AICC、SCORM に対応していれば、他社

オーサリングツールの利用も可能である。

構造作成

オーサリングツールによって違いはあるが、章/節/項で構

成される教材を容易に作成できる場合が多い。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-31

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

国際標準

規格

市販教材

AICC

他社オーサリングツールで作成されたコンテンツと同様に

LMS とコンテンツが AICC や SCORM に対応している場合、

市販 WBT 教材も利用できる。

オーサリングツールによってはパワーポイントを FLASH な

どに変換し、WBT コンテンツとして生成するものもある。

また、GIF や JPEG、オーディオファイル、動画など数多くの

データフォーマットに対応しているオーサリングツールが多

い。

AICC(Airline Industry CBT Committee)

AICC は航空機産業にたいして、CBT の開発、配布、および評

価とこれに関連するトレーニングテクノロジについてのガイ

ドラインを作成している。AICC についての詳細は、 www.aicc.org を参照。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-32

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

SCORM

SCORM(Shareable Content Object Reference Model)

SCORM は e ラーニングのプラットフォームとコンテンツの標

準規格である。e ラーニングでは、通常の Web サイトのよう

に HTML により画面を表示するだけでなく、演習問題の表

示・正誤判定・採点、学習時間・演習解答習得状況などのロ

グ取得を行う必要がある。これらの機能は通常の Web 技術、

つまり、CGI や Java などを使えば実現可能で、教材を一塊の

Web アプリケーションプログラムとして作りこんでしまうこ

とも可能。しかし、このような教材は別のサイトへの移植は

非常に困難。

このような問題点を解決するために WBT を構成する際に、各

教材に共通の機能と教材ごとに固有の機能を分離し、共通部

分を LMS(Learning Management System)、固有の部分を教材

コンテンツとしてとして開発する、という発想が出てきた。

LMS とコンテンツが分離していれば、コンテンツ部分だけを

開発の対象とすれば良く、異なる LMS に載せることも簡単に

行える。

LMS とコンテンツを分離するということは、両者間のインタ

ーフェースややり取りするデータの形式を規定するというこ

とである。SCORM はこのような LMS とコンテンツの間のイ

ンターフェースやデータ形式を規定した標準規格で、アメリ

カの ADL という団体が作成している。現在普及しているのは

SCORM Ver. 1.2。SCORM では、コンテンツは LMS に読みこ

まれる階層型コース構造、Web クライアント上で実行される

るメタデータから構成されており、コース構造の XML による

表現方法、および、SCO と LMS の間で演習問題の結果や学習

経過時間を通信するためのデータ形式が規格として定められ

ている。

SCORM 規格が普及すれば、利用者側は多くのコンテンツベン

ダーの教材を自分の LMS で使用することができ、逆にコンテ

ンツベンダーにとっては、開発したコンテンツが複数ベンダ

ーのプラットフォームで使用可能となるため、コストをかけ

ずにコンテンツの販路を拡大することが可能となる。このよ

うに標準化は、低コストで高品質な e ラーニングサービスの

実現に必須の要素ということができる。

【出典】e ラーニングコンソーシアム http://www.elc.or.jp/index.html

4-6 LMS の機能 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-33

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

(2)

Web サーバ

【長所】

LMS よりも安価にネットワーク上にコンテンツの配信が可能。

LMS と同様に、コンテンツ内容に修正があった場合、即時に修正した

もので再配信可能。

【短所】 通常のウェブページと同じ扱いなので、

履歴管理などは不可能。

LMS と同様に、受講者数により、ネットワークに負荷がかかるので、

人数に応じてネットワーク設計を十分に検討する必要がある。

Web サーバにデータベースや動的スクリプトを利用することにより、

LMS のように履歴を管理することは可能だが、LMS カスタマイズと同

様に開発コストを考慮しなければならない。

(3)

CD-ROM

【長所】 普及しているパソコンにいまや標準装備されている

CD-ROM を利用す

ることにより、安価に配信が可能。ネットワークも利用しないので、ネ

ットワークインフラを考慮する必要もない。

【短所】 受講人数により、用意する

CD-ROM 数が増加し、コスト面、制作時間

が増大する可能性あり。

修正がある場合も、

CD-ROM をプレスして再配布する必要があり、

多大なコストと時間がかかる。

また、履歴の一括管理は不可能なので、履歴情報による分析が不可能。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-34

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

4.2.3 e ラーニング手法の選定方法

(1) オーサリングツール

オーリングツールには様々なものが存在する。ツールごとに特色があるが、どのツール

を使用するかどうかを選定するには、価格、スキル、目的などの要素から選ばなければ

ならない。

ここでは数あるツールの中からいくつかの特徴を挙げる。

ツール名

必要

スキル

Macromedia

FLASH MX 2004

Reile

LiveCreator4

ToolBook2004

EZプレゼンテータ

自由度

最高

作成

工数

備考

中∼大

※1

小∼大

※1

小∼大

※1

Web 業界でのディファクトスタンダード

ツール。e ラーニングツールだけでなく、 web コンテンツ制作で広く利用されてい

る。自由度が高いが、要求されるスキルも

高い。

ブラウザに FLASH プレイヤーと呼ばれる

プラグインが必要となるが、世界中のパソ

コンにすでに 98%という高い率でインス

トールされている。

また、プラグインが入っていれば、

Windows、Mac、Linux などの OS の垣根や

Internet Explorer や NetScape などのブラウ

ザの垣根も問わず、視聴することができ

る。

最近では、WebCM などでも使用されてい

る。制作会社などプロ向き。

FLASH ライクなコンテンツを手軽に作成

可能。

内製向き。再生するために LiveCreator 用の

プラグインが必要。

比較的自由度高く、かつ簡単に AICC や

SCORM コンテンツを作成できる。

作成可能な問題形式も択一選択、複数選

択、記述式に始まり、ドラッグアンドロッ

プ型、マッチング型なども簡単に作成可

能。

内製向き。

ビデオカメラの前で PowerPoint®スライド

ショーを実行しながら講義するだけで自

動的にビデオ同期 HTML コンテンツを作

成可能。

内製向き。別途ビデオカメラが必要。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-35

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

Macromedia Breeze

低 中 小

PowerPoint のプラグインとして使用。

PowerPoint が使えれば、すぐに FLASH コ

ンテンツを作成、配信可能。他にもオプシ

ョンで Web 会議機能など充実。

オーサリングアプリケーション単体では

なく、配信用のサーバとセットとなる。

内製向き。

4-7 オーサリングツールと特徴

※1 内容により工数変動。

上記オーサリングツールで e ラーニングコースを構築していく際、オーサリングツール

内だけで全ての素材を作成できるわけではない。写真、イラスト、ビデオ、音声など各

素材データを作成・編集するツールを別途用意する必要がある。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-36

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

(2) オーサリングツール選定

リハビリテーションに必要な知識、スキルを身につけるための e ラーニングコンテンツ

として、患者の様子をより具体的に表現できるよう、動画の採用を考慮。また、受講者

の集中力を絶やさないよう、単に動画を流すだけでなく、インタラクティブ性も考慮。

しかし、莫大なコストや製作期間をかけるのではなく、学内で内製ができるレベルを想

定して、オーサリングツールを選択する事が望ましい。

4-9 SumTotal ToolBook2004 の画面 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-37

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

4.3 e ラーニングコース開発の流れ

CRI 技法を用いた全体的なコース開発の流れを紹介する。

分析 設計

図 4-10 CRI コース開発の流れ

開発 実施 評価

4.3.1

分析フェーズ

「誰が」 、

(1) 受講対象者分析

「誰が」受講者で、どのようなニーズを持っているのか、また、受講者が保有する知識

やスキル、学習プロセス、興味を示す対象、研修に対する期待や態度などについての情

報を抽出する。この情報とガニエや ARCS 理論を基に、学習者が興味と意欲を持続する

ような工夫(システム)を作りだす。同時に学習環境も分析し、学習目標の修得に最も

効果的な学習伝達手段(ブレンディングを視野に入れる)の検討も行う。

今回はリハビリテーションという分野において、専修学校に通う学生をターゲットに e ラーニングを用いた教授方法のあり方を模索する。

(2) タスク分析

れている実務であり、具体的な技能、知識の活用、研究、開発、論文作成などコース終

了後に実際に行うべきパフォーマンスである。最初にタスク目標(=学習目標)を記述

する。手順に従ってタスクを行う場合には、必要に応じ、フローチャートでタスクの流

れと作業内容を分析する。フローにならないタスクは、行うべきパフォーマンスをリス

トアップする。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-38

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

4.3.2

設計フェーズ

分析フェーズで「誰が」 、

ェーズではこれを基に、学習内容と教える順序および最適な学習伝達手段を決定する。

(1) スキル抽出(スキル階層図の作成)

タスク(学習目標)を達成するために必要な全ての知識やスキルを抽出する。コース開

発者は抽出作業の際、対象とするタスク(学習目標)の専門家や関連する資料を活用す

る。次に、抽出した知識やスキルの互いの従属関係を基に階層化し、スキル階層図を作

成する。階層化するということは、スキルの従属関係、すなわち易しいスキルから高度

なスキルへと下から上へ積み上げていくことを意味するので、階層図の下から上へ学習

を進めていくのが最も効果的な学習プロセスとなる。スキル階層図は、タスクを実行す

るための全ての(過不足のない)学習内容を、最適な学習順序で受講者に提供するため

の設計図となる。

図4

-11 スキル階層図 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-39

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

(2) コースマップの作成

作成したスキル階層図を基に、学習単位(モジュール)を決定し、モジュールの学習順

序を示すコースマップを作成する。スキル階層図の中の主要なスキルを中心としてモジ

ュールを切り出しマップ化する。コースマップが完成したら、個々のモジュールの学習

目標とスキルチェックを作成する。

4-12 コースマップ

(3) モジュール毎の学習内容決定(詳細目次案およびストーリーボードの作成)

スキル階層図を基に、マップの各モジュールに盛り込むべき学習内容と教える順序を決

定し詳細目次案として記述する。次に、詳細目次に従って学習画面の青写真となるスト

ーリーボードを作成する。この作業で注意すべき点は、モジュールの目標とスキル階層

図を吟味し、最適な学習手段を選択することにある。WBT で修得可能なのか集合研修

または他の方法で修得すべきなのかを慎重に検討することが重要となる。

今回は、e ラーニング主体を前提としてコース開発に取り組んだ。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-40

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

4-13 動作のイラスト

4-14 ストーリボード e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-41

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

(4) 画面構成(ページレイアウト)の決定

学習画面、テスト画面、まとめのページなどのページレイアウトを決定する。学習を制

御するナビゲーションエリアや、図・表とテキスト表示の配置などを検討する。

4-15 画面構成①

効率よくコンテンツを開発するために、多くのテンプレートを用意し活用する。さらに、

既存の学習素材(パワーポイント, PDF, FLASH など)を常日頃データベース化し、活用

することも開発効率の向上につながる。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-42

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

(5) プロトタイプの作成

コンテンツ開発で最も注意すべきことの1つに「後戻り作業」がある。設計段階でのモ

ジュール試行を経ずに、開発フェーズで全てのモジュールコンテンツを作成した後で試

行と改善をかけてしまうと、膨大な修正項目と工数を強いられることになる。このよう

な事態を避けるために設計フェーズの最後(開発フェーズの直前)にモジュールのプロ

トタイプを作成し、事前に修正をかけ、開発仕様を固めておく。作るべきプロトタイプ

は学習目標の特性により複数存在することがある。

図 4-16 画面構成②

特にコース開発に複数の人数で取り組む場合には、下記のような企画書や仕様書を作成

し、全員の意識あわせをする必要がある。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-43

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

図 4-17 コース開発の企画&仕様

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-44

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

項目 内容

想定画面サイズ

1024×768 でフル画面表示できるサイズが標準。

レイアウト、ナビゲーション 別紙参照

フォント、フォントサイズ テキストを読ませる場合は

12point 以上、イラスト部

分のテキストは

18point 以上が望ましい。

MS ゴシックを標準とする。

テストのタイプ 確認テスト、総合テストの種別、テストの位置付け(確

管理指標

認、前提条件など)。

総合テストの点数、進捗率など。

章単位の学習時間

15 分で終了する程度が望ましい。

目次

用語集機能

章単位での設定が望ましい。

常に表示するか、独立して制作するか。

メニュー画面に表示するか、別で作成するか。

用語集の機能またはページが必要。

質問メール機能

スクロールの有無

音声の有無

テスト形式

テストの解説

質問メール機能が必要。掲示板機能を代用とする。

1 画面で表示できるようにする。

基本はなし。ビデオでの解説部分は音声を付ける。

択一式、複数選択式、記述式

テストの解説の有。まとめて解説ではなく、受講者に

すぐ理解させるために、問題を解いた後、すぐに解説

画面遷移

を表示させる。

画面遷移を図示しておく

4-8 コンテンツ仕様書に記載する基本仕様例 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-45

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

4.3.3

開発フェーズ

プロトタイプの試行とフィードバックにより確立された開発仕様を基に、残りのモジュー

ルを開発する。

WBT の場合には、学習素材を作成する各種ソフトウエア、学習素材を学習

ページに載せ学習制御を行うオーサリングツールを使用する。

開発フェーズで重要なことは、単に効率よく開発することだけではなく、受講者が最小の

努力で正しい学習プロセスを経て学習目標に到達できるように導くことにある。開発した

学習モジュールは次のチェック項目を満たしているべきである。

<インストラクショナルデザインの観点でのチェックポイント>

1.

学習目標が明確に記述されているか

2.

学習目標に合致したスキルチェックが示されているか

3.

学習目標とスキルチェックは学習の開始時点で受講者に提示されているか

4.

学習の目的と学習意欲を高める動機付けが行われているか

5.

コースの学習内容が一目で把握できるか(スキル階層図の活用)

6.

学習パス(コースマップ)が明示されているか

7.

モジュール内の学習項目(ユニット)は適切な学習時間内(例えば 20 分)で

修得できる大きさとなっているか

8.

デモンストレーションが必要に応じて受講者に提示されているか

9.

受講者に目標達成の為の練習の機会を十分に与えているか

10. 練習のフィードバックは適切にかつ直ちに行われているか

11. 学習内容は学習目標を達成するための過不足のないものとなっており、かつ学

習順序は論理的であるか(スキル階層図を反映しているか)

12. 受講者に対するコーチング( 励ましの言葉、正しいフィードバック、他の受講

者との学習上の情報交換、チュータ、FAQ、専門家へのホットラインなど)が

学習プロセスのしかるべきポイント(つまずきやすい学習箇所)で行われてい

るか

13. 目標に対して十分自信がついたことを受講者自分で確認し、自分の意思で最終

テスト(スキルチェック)に兆戦できる仕組みになっているか

14. スキルチェックのフィードバックは直ちに行われているか

15. 楽しく、フラストレーションを溜めることなく学習できるか

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-46

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

<インフォーメーションデザインの観点によるチェックポイント>

1 意味のない(学習目標とは無関係な)アニメーション、イラスト、動画などは

使われていないか

2 統一感のあるインターフェースのデザインとなっているか

3 論理図解を活用しているか(テキストによる解説を図解で補い、理解を促す)

4 ナレーションは、一度聞いただけで理解できる言葉使いと速さになっているか

5 統一感のある色彩、文字のフォント/ポイント数、ページレイアウトになってい

るか

一般的な傾向として、コース開発者は上記⑯から⑳にあるようなコンテンツの表現上の

工夫に注力しがちであるが、本来は①から⑮のインストラクショナルデザインの観点も

十分に加味しながらコンテンツを開発すべきである。

4.3.4

実施・評価・改善フェーズ

詳細は後述するが、作成したコンテンツを学習管理システムに載せ、実際の受講者または

それに近い受講者に対してコースを実施する。評価方法については、カークパトリックや

ジャック・

J・フィリップの方法論を採用する。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-47

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

4.4 e ラーニングコース運用について e ラーニングによる学習や、新研修管理システムを運用していくためには、さまざまな

スタッフが必要になる。運用に必要なスタッフについて役割を明確にすることで、今後

の展開状況に合わせて体制を強化していくことが理想的である。

(1) 基本的な運用体制

一般的な企業における組織別役割分担例を参考に機能の過不足を検討いただきたい。 e ラーニングを運用するに当たり、次のようなスタッフでの運用が考えられる(図 4-4

研修運用

トップ

マネージャ 学習者

チュータ

統括責任者

推進リーダ

研修管理者

業務管理者

LMS 管理者)

講師

コース開発者

(コンテンツ開発者)

メンター

ヘルプデスク

LMS、システム運用

ヘルプデスク

システム管理者

4-18 運用体制例

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-48

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

(2) 運用体制例におけるスタッフの説明

運用体制例におけるスタッフがどのような役割を担うかを以下に説明する(表 4-4 参照)。

スタッフ

統括責任者

推進リーダ

役割

全体の責任者として、社内組織に働きかけて、e ラーニングの導入を推進

する。

また、ビジョンを実現していくに当たり、LMS だけでなく、トップの視点

から方向性を検討する。

統括責任者の下、実際の現場の状況を把握しながら e ラーニングの導入を

推進する。

各担当の業務を把握し、各担当の仲介役として、導入を推進することが望

ましい。

導入プロジェクト全体の旗振り役。

LMS管理者

研修管理者

システム管理者

講師

する。ユーザや教育コースの登録管理、LMS 機能要件の検討など、よりよ

い仕組みの構築を行う。

組織内において、人材育成の観点から研修を推進する。

受講状況の確認や受講者の成績管理などを行う。

LMS のインフラ部分の管理者。システムだけでなく、クライアント環境も

考慮する。また、サーバやネットワーク、セキュリティなども管理する。

LMS のアプリケーション部分の理解をしていることが望ましい。

集合研修における講師。知識だけでなく、伝道師としてモチベーションを

コース開発者

コンテンツ開発者

チュータ

メンター

ヘルプデスク

りよい研修手法などについて意見を出していく。

講義におけるテキストや補足資料を制作する。e ラーニングの場合、シナ

リオ制作を担当し、e ラーニングの学習者からの質問への対応をする場合

もある。

教育コースの企画・制作を担当する。教育コース全体の設計やテキスト、

コンテンツの制作をする際の責任者となる。開発予算や品質、著作権など

も考慮する。ID 手法にも通じていることが望ましい。

(大規模なコンテンツ制作になると、プロデューサ、ディレクタ、インス

トラクションデザイナ、開発者・・・のように、役割が分類される)

コンテンツ制作を担当する。オーサリングツールに関してのスキルがある

ことが望ましい。制作に関しての実現性などを含めて、技術的な面から検

討する。また、品質や著作権などにも配慮する。ID 手法にも通じているこ

とが望ましい。

学習内容についての細かい質問対応の担当。教育コース内容に熟知してい

て、学習指導ができることが望ましい。講師との違いは、質問対応専門で

あること。

学習者が学習を投げ出さないように、メンタル面でフォローする。

進捗に応じた励ましメールなどでフォロー。

操作方法やシステムトラブルなどの問合せ窓口。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-49

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

トップ

組織としての将来ビジョンを表明し、学習者に意識付けをしていく。

マネージャ

トップのビジョンや研修の意義を理解し、研修管理者とも協力しながら、

学習者の成長を支援する。

将来ビジョンを理解した上で、研修を通じて自己の成長を実現する。

学習者

4-9 基本的な運用体制におけるスタッフ一覧

上記のように体制が整っていない場合には、一人の人間がいくつかの役割を兼任する。

WBT での学習というのは、一般的に集合研修よりも学習者のモチベーションが持続しに

くい。学習者のモチベーションを維持するためには、フォローが不可欠である。コンテ

ンツの作成・公開だけでなく、チュータやメンターによるフォロー体制を整備すること

が e ラーニングで成功する鍵となる。

モチベーションを維持するのに有効なツールとなるのが、掲示板などの機能である。掲

示板では学習者同士が活発に意見を交換し合い、集合研修のなかのグループ学習のよう

な効果をもたらす。反面、ある学習者に対する誹謗中傷など意図しない使われ方をする

場合がある。この二つの側面のバランスを考慮しつつ、どのような運用の仕方がよいか

をそれぞれの環境・状況に応じて考える必要がある。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-50

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

4.5 e ラーニングコース評価について

4.5.1

効果測定方法 e ラーニングに対してだけでなく、いわゆる研修・教育を行なった効果を測定し、教育プロ

グラムの改善や教育品質、効率向上のために重要なことである。測定方法は様々な方法が

研究されているが、最も有名なものはアメリカの経営学者のカークパトリック博士が

1959

年に提案した

4 段階評価法であろう。

レベル1

Reaction(反応)

受講直後のアンケート調査等による学習者の研修に対する満足度の評

レベル2

Learning(学習)

筆記試験やレポート等による学習者の学習到達度の評価

レベル3

Behavior(行動)

学習者自身へのインタビューや他者評価による行動変容の評価

レベル4

Results(業績)

研修受講による学習者や職場の業績向上度合いの評価

4-10 カークパトリックの 4 段階評価法

レベル

1、2 は多くの企業・教育機関が研修実施時に評価を実施しており、評価結果は次回

の教育プログラムの改善や効果測定に役立てている。

LMS では、一般にレベル 1、2 の評

価支援機能を保有しており効率的に評価を実施出来る。

一方レベル

3、4 は該当する教育プログラムの継続の可否決定の統括的評価に用いられるが、

この評価は実践に技術と経験を要しアメリカでも実施企業も少ないのが現状であり、今後

インストラクショナルデザイン技法の利用等による評価の実施が望まれる。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-51

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 4-52

5

視 察 報

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5.1

アットマーク国際高等学校視察

高等学校として通信制が認められ、インターネットを駆使した授業など先進的な試みを続

けるアットマーク国際高等学校に着目した。本プロジェクトの主旨から考えネットを介し

た授業やサポートをどのように実現しているのか、インストラクションデザインをどのよ

うに応用しているのか、eラーニングはどのように使われているのか、また問題点は何な

のかなど、今後のネット授業、

IT 授業へのヒントとしてさまざまな情報を入手することが

できたので、ここに報告する。

5.1.1

視察日時と訪問メンバー

平成

17 年 10 月 14 日 13:00∼16:00

訪問者リスト

学校法人麻生塾

麻生リハビリテーション専門学校

麻生リハビリテーション専門学校

NEC テレネットワークス

株式会社イー・コミュニケーションズ

麻生教育サービス株式会社

学校法人麻生塾

学校法人福田学園

大阪リハビリテーション専門学校

株式会社

IP イノベーションズ

株式会社

IP イノベーションズ

株式会社

IP イノベーションズ

株式会社

IP イノベーションズ

5.1.2

視察先

徳重 稔

木村 孝

青山 克実

原田 典昭

佐藤 信也

柴田 健二

畠中 康夫

松崎 英明

高橋 泰子

浦山 昌志

大竹口 隆

栗原 良太

野田 庸男

5-1 参照)を視察した。同校の校長である日野校長を講師に招き、学校の概要と特徴などに

ついて説明を受けた。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-2

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-1 美川特区アットマーク国際高等学校美川本校がある校舎

5.1.3

視察概要

美川特区アットマーク国際高等学校は、国の特区制度を利用して運営されているインター

ネットによる通信制高校である。美川特区アットマーク国際高等学校の本校は、石川県白

山市美川の美川中学校内に設置されており、インターネットによる通信制・単位制の男女

共学の総合学科として認定を受けている。

授業は主にインターネットやメールを通して教師と生徒の間で一対一で行われる。生徒は

自宅でパソコンを使っていつでも授業を受けられる仕組みになっている。

美川特区アットマーク国際高等学校は通信制過程の高校とはいえ、学校教育法第一条に定

められた高等学校として認定を受けているため、この学校の卒業資格は大学受験や各種国

家試験受験の際に全日制の高校卒業資格と同等に扱われている。

美川教育特区学校審議会の審議を経て、特別区における日本初の高等学校として認定され

た高校である(図

5-3 参照)。図 5-2 は、内閣府より構造改革特区の認定を受けた時の写真

であり、図

5-3 は、特別区における日本初の高等学校として認定された時の写真である。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-3

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-2 内閣府からの構造改革特区認定

5-3 美川教育特区学校審議会の認定式

美川特区アットマーク国際高等学校は、石川県白山市美川の美川中学校内に設置されてい e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-4

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

るが、学校運営は東京の品川区にあるアットマークラーニング社が行っている。

5-4 アットマーク国際高等学校美川本校がある校舎

同校は通信制ではあるが、広域通信制で登録しているため、全国から生徒を募集している。

対象としている生徒は、主に従来の学校では適応しなかった生徒であるが、中には目的意

識を持って入学してくる生徒もいる。

生徒は毎日通学して学ぶ通学型の学習スタイルを取ることも可能である。実際、通学パタ

ーンを採用している生徒もいるとのことである。つまり、学校の学習スタイルに合わせる

のではなく、学校を自分のスタイルに合わせることができる高校ということができる。

同校のカリキュラムには、通常の高校に劣らない多くの基礎学習科目以外に個性的なカリ

キュラムがあり、それらの講座は個性豊かな生徒を養成するのに役立ちそうである。

5.1.4

視察内容

ここでは、美川特区アットマーク国際高等学校がどのようにして開校に至ったか、そして

同校の特徴は何か、同校の教育カリキュラムを通してどのような人材育成を目指している

かなどを記述する。また、今回の視察のテーマであるインストラクショナルデザインと e

ラーニングが同校の教育カリキュラムや教育手法の中にどのように取り入れられているか

見てみる。

5.1.4.1 アットマーク国際高等学校設立の経緯

美川特区アットマーク国際高等学校の日野校長は、

1982 年岡山大学卒業後にリクルートに

入社し、広告事業部で住宅情報の

DB 構築などを通してオンラインサービスの基礎を習得

した。その後、

1992 に神奈川で設立された第 3 セクターのケイネットというネットを使っ

た教育ビジネスに関わった。

1999 年に教育ビジネスの前身である(株)アットマークラー

ニングを設立するとともに、米国ワシントンシアトルのアルジャー・インディペンダンス e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-5

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

ハイスクールと事業提携を行った。

川で開校するに至った。図

5-5 は美川特区アットマーク国際高等学校のロゴである。

5-5 美川特区アットマーク国際高等学校のロゴ

美川特区アットマーク国際高等学校が設立された経緯はすでに述べたとおりであるが、日

野校長がインターネットによる通信制・単位制の高等学校設立に至ったのは、日野校長を

取り巻く学校教育に関わるいくつかの出来事が彼を学校設立の方向に導いたと思われる。

日野校長によると、彼自身不登校の時期があり、また、彼の子供が自閉症アスペルガー症

候群であったことなどにより、不登校と学校教育ということを考えていた時期があったよ

うである。また、どんどんやせ衰えて行うち最後はパソコンに口入力をしていた余命幾ば

くもない筋ジストロフィーの女の子に出会ったことなども学校設立の重要な要素になって

いると思われる。

そのような中で、米国には不登校生などのためのホームスクールやネットスクールがある

ことを知るとともに、その種の教育環境が日本の社会的ニーズとしてあることを感じたよ

うである。そして、サービス業として遅れている学校分野に民間の発想を生かそうと考え、

その思想が現在の美川特区アットマーク国際高等学校の設立に至っていると考えられる。

インターネットを使った通信制教育の学校は、美川特区アットマーク国際高等学校が全国

で始めてであるが、現在その数は

10 校を超えるということである。今後この種の IT 技術

を使った通信制学校は、社会的なニーズを背景にその数を増す可能性がある。

5.1.4.2 学校の運営理念

ここでは、日野校長が美川特区アットマーク国際高等学校を設立した背景にある考え方と

現在の学校運営における基本的な考え方を紹介する。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-6

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

べている。ここでいう「インディペンダント・ラーナー」とは、次の内容を満たす人を指

している。

自分の興味を見つけられる人

自分の成長を感じられ、学ぶことのすばらしさを人に伝えたくなる人

自ら学ぶ人

疑問を持ち、人に質問ができる人

自分の意思で生涯を通じて学び続けられる人

「インディペンダント・ラーナー」を育て、輩出するのが学校であり、学ぶことの本質を

体験するきっかけとして存在するのが美川特区アットマーク国際高等学校であると日野校

長は述べている。

この学校理念に基づき、学校運営における

4 原則が提案されている。

学習コーチの配置を義務化原則

ひとりひとりの生徒にプライベートコーチを置き、対話を通した学習指導を

行う。

1 人が受け持つ生徒は 25 人以内

1 人のプライベートコーチは 26 名以上の生徒を担当しない。

生徒の自己目標による学習計画作成の義務化

ひとりひとりの添削指導にあたる時間と回数の増加

インターネット利用の義務化(ログを残す)

学習計画、学習時間、学習記録のデジタル保存

美川特区アットマーク国際高等学校は、これらの原則に基づき「インディペンダント・ラ

ーナー」を育てることを目指している。

5.1.4.3 学校の運営状況

美川特区アットマーク国際高等学校がスタートしてから約

1 年が経過するが、現在の学校 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-7

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

の状況について見てみる。

(1) 在籍状況

次の図は入学者数の推移を示したものである。2004 年 9 月に開校して以来、累計入学生

徒数は 255 名である。入学者数の推移で顕著な変化は、2004 年 10 月と 2005 年 4 月であ

る。2004 年 10 月は、全国で始めてのインターネットを使った通信教育ということで、

既存の高校に馴染めない生徒が入学を希望したものと思われる。2005 年 4 月における一

時的な入学者の増加は、4 月にフジテレビの朝の「とくダネ」で放映された美川特区ア

ットマーク国際高等学校の紹介番組が影響したのではないかと考えられる。

5-6 入学生の推移

(2) 学校に関する問い合わせ状況

次に、美川特区アットマーク国際高等学校に関する問い合わせに関して、地域的な分布

とどのようなルートを使用して同校を知り得たかを見てみる。

次の地図は問い合わせの分布を示したものであるが、関東からの問い合わせが 707 名と

圧倒的に多い。これは関東地域の総人口と不登校生の比率によるものと思われる。また、

中部地域の 374 名は、本校が石川県にあることに影響していると思われる。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-8

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-7 問い合わせの全国地図・分布

次のグラフは、いまの時代を反映しているとも思えるような側面を示している。つまり、

美川特区アットマーク国際高等学校に関しての情報を得た人の

1/4 は、インターネットを介

してその情報を入手したとグラフは語っている。また、テレビの影響力も大きいように思

われる。

5-8 アットマーク国際高等学校の情報アクセスルート

次のグラフは、同校に関する問い合わせを行った人を年代別に分類したものであるが、中

学生と高校生が

70%以上を占めている。20 歳以上の若者からの問い合わせも 20%以上あ e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-9

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

ることも見逃せない。

5-9 年齢別問い合わせ状況

(3)

10 月開講、入学式

美川特区アットマーク国際高等学校の開校は

10 月で、通信教育とはいえ入学式を行う。次

の写真は、

2005 年 10 月に行われた入学式に様子である。

5-10 美川特区アットマーク国際高等学校の入学式

(4) 標準服 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-10

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

美川特区アットマーク国際高等学校は通信教育とはいえ、通常の高校と同様に標準服が

あるが、購入に関して義務付けられているわけではない。通信制とはいえ通学する生徒

もいるので、標準服を設定している。

5-11 標準服

5.1.4.4 インターネットを使っての学習

ここでは、生徒が先生と設定したカリキュラムの中の各科目の授業をどのようにして学習

するのかを見てみる。

通信制高等学校であるが、通学している生徒も

3 割くらいいるということである。インタ

ーネットを使用して学習を行う生徒は、学校側からアカウントを入手することにより、

My

Page(マイページ)という自分専用のページを取得する。その My Page を使用して精神的

なサポートなどを 担当するプライベートコーチとのやり取りや、学習の記録、学習の進捗

を確認する 。次の図は、 プライベートコーチ とのやり取りを行う

My Page である(図 5-12

参照)

My Page へのアクセスができるようになれば、その後のシステム的なサポ e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-11

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

ートはほとんどなく、学習を進めることができる。

プライベートコーチ と生徒とのやり取りに使用される

My Page はプライベートコーチと生

徒本人しか入れないようにしている。

生徒の学習の進捗を 2 種類のコーチがサポートしている。1 人は、プライベートコーチであ

る。プライベートコーチは、学ぶときの気持ちを支えたり、学習にくじけたときに話を聞

いたり、また、履修におけるヒントを与えたりする。プライベートコーチの役割は、イン

ターネットでの学習のペースが掴めるように、メールでのコミュニケーションによりサポ

ートすることである。

もう 1 人のコーチは、スタディコーチといい、各科目の学習内容をサポートするコーチで

ある。スタディコーチは、生徒に対して答えを単純に教えるのではなく、考え方のヒント

を与えたり、答えの調べ方のアドバイスをしたりして、学習のサポートをする。ここで重

要なことは、生徒が自分で考える力が付くようにサポートすることがコーチの役割である

ということである。

通常は、プライベートコーチもしくは学習キャンパスの先生と相談しながら決めた教材ま

たは学校指定の教科書を使用して学習を進める。インターネットを使用して学習を行う場

合は、入学時に全員購入する

Web カメラとすでに説明した May Page を通して行う。

生徒は

May Page のバーチャル校舎入口というところで、自分のアカウントを入力すると、

「何とかさんのページです」という表示と共にアカウントを入力した生徒のページが表示

される(

5-12

5-12

プライベートコーチからのメッセージ e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-12

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

生徒のページには

2 つの機能がある。ひとつは学校からの連絡事項の表示で、もうひとつ

はプライベートコーチとのメッセージのやり取りである。

している科目の成果物を登録したり、送ったりすることができる。

「履修状況」ページでは、各科目の現在の履修状況の確認ができる(

5-13 履修状況

の確認画面」参照)

5-13 履修状況の確認画面

「バーチャル教室」をクリックすると、プライベートコーチとのやり取りする画面が表示

され、お互いの画像を見ながら、共通の資料を使って学習を進めることができる(

5-12

プライベートコーチ とのやり取り」参照) e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-13

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-14

プライベートコーチ とのやり取り

May Page はバーチャルな教育現場を提供するが、学校側は、イベントなどを通して、バー

チャルなコミュニケーションだけでなく、教師と生徒、または生徒同士が触れ合う場を提

供している。

2.4.5 カリキュラム」の「図 5-22 必修&選択科目」の右下に「産業社会と人間」とい

う学科がある。この学科では、職業についている人を外部講師として招いて授業を行うも

のである。

50 分授業で年間 36 回ほど行っているということである。外部講師としては、声

優、アニメーター、ホテルマン、スチュワーデスなどを招いて授業を行っている。図

5-15

は、スチュワーデスを招いて、フライト英語講座を開催したときの授業風景である。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-14

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-15 特別公開講座(フライト英語)

次の図

5-16 は、特別公開講座「ネイルアート」の授業風景である。

5-16 特別公開講座(ネイルアート)

スクーリングは年間に決められた所定のスクーリングがある。美川の中学校で開催するス

クーリングの日数が、年間

30 日ぐらいある。美川のスクーリングでは、地元の伝統工芸等

の授業も取り入れていて、中でも美川刺繍という、江戸時代から

200 年ぐらい続いている

刺繍がある。

85 歳ぐらいの人間国宝みたいなおばあさんに教わって、日ごろ刺繍などをや

ったことがない子が、最終的には自分のハンカチ作りを行うという。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-15

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

一般の学校で行われるテストがあるわけではないので、自由な環境と自分のスタイルで学

習が可能である。受講クラスの評価は、カリキュラム設定時に目標を設定してそれをクリ

アーしたかどうかで行われ、単位の取得につながる。

5.1.4.5 カリキュラム

美川特区アットマーク国際高等学校の特徴としては、自分の目的や将来の方向性に合わせ

て、授業のカリキュラムを先生と相談しながら設定することができる。もちろん、卒業す

るために必要な必修科目の履修も必要になるが、それ以外には、一般の高校ではないクリ

エイティブ系の科目、たとえば、ヘアメイク入門やアニメーション研究、ネイルアートお

入門などのクラスの選択が可能であり、それらの履修が単位として認められている。図

5-17

は、この学校で提供している基礎知識を習得するための必修科目や選択科目の詳細である。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-16

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-17 必修&選択科目

次の表に記述されている科目は、基礎コース以外に選択できる科目で、卒業の単位になる

科目である。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-17

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-18 基本的総合科目、学校設定科目

一般の高校では、あまり見られない科目が多くあるとともに、大学への進学を目指す生徒

が受講できる科目も選択可能である。大学を目指す生徒は、自分のペースで目標とする大

学へ進むためのカリキュラム設定ができそうである。実際にこの高校を卒業して、現在大

学に進学している生徒もいるということである。

必修&選択以外の科目では、特別授業があり、いろいろな講師をお招きして授業が進めら

れる。たとえば、日本科学未来館の主任研究員の永井智哉さんを特別講師としてお招きし

て、年

3 回授業を行っている。

美川特区アットマーク国際高等学校を卒業するには、全部で

77 単位が必要であり、上記の

基本的総合科目と学校設定科目からは

30 単位を取得できる。従来の通信制高校だと総合科

目は

20 単位までしか設定できなかったが、ここでは例外的に 30 単位まで認められている。

生徒は、美川特区アットマーク国際高等学校で学習する場合、次のいずれかの学習スタイ

ルを選択できる。

ネットコーチングプログラム

プライベートコーチがネットワーク上でサポートする。コーチと自由な学習

計画を組み立てる。学校指定の教科書のほか、自分の関心のある教材を使っ

た学習も可能である。

スクールコーチングプログラム

キャンパスに通学しながら学習する。学校指定の教科書・教材のほか、自分

の関心のある教材を使った学習も可能である。

ダブルコーチングプログラム

プライベートコーチのサポートを受けながらの自宅学習と、キャンパスに通

学しての学習の両方を組み合わせた学習が可能である。

セルフコーチングプログラム

学校から郵送される教科書に従って、ワークブックや課題レポートで勉強す

る。

学習スタイルが決まると、科目の目標を設定する。課題レポートの提出をどうするか、最 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-18

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

終提出物を何にするかなどについて履修前にプライベートコーチと決める。そういう意味

では、一般にいうテストはないといえる。しかし、特に総合科目だと、外来講師を招いて、

課題レポートを講師の先生といっしょに作って、最終的にはテストを課する場合もあると

いう。また、レポートだけでもよい場合もあるし、生徒本人の自己申告によって決めた成

果物達成すればよい場合もある。

室型の教育)または授業のライブ配信が多い。教材については、基本的に普通科目につい

ては検定教科書を配付し、それに沿った課題レポートをあらかじめ配付する。普通科目に

ついては課題レポートを中心に提出物を出すという方法を取る。総合科目では、学校が設

定した科目と指定した教科書、または学校が作った教材を使って学んでいく。課題レポー

トもあるが、これ以外にこういうことも提出したいという本人の希望を重視している。

このように、すべての学習コンテンツを電子化するのではなく、既存のテキストを利用し

ながら巧みにネットの利点を組み合わせている。非常にコストパフォーマンスの高い賢い

方法であると言える。

5.1.4.6 米国ワシントン州のアルジャー・インディペンダンス・ハイスクール

美川特区アットマーク国際高等学校は、米国ワシントン州の歴史ある高校「アルジャー・

インディペンダンス・ハイスクール」

5-19 参照)と提携しており、日本国内で取得し

た単位はそのまま米国のアルジャー・インディペンダンス・ハイスクールで単位として受

け入れられる。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-19

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-19 アルジャー・インディペンダンス・ハイスクール

アルジャー・インディペンデント・ハイスクールの校長先生は元公立高校の社会科の先生

だったが、自ら

1981 年に通信制高校を設立した。最初は自分たちでログハウスを作って運

営していたが、いまハウスの校舎があちこちに分散している。全米はもとより、海外や中

近東、そして香港あたりから生徒が入学している。

もともと持っていたインディアンの教育に対する問題意識が通信制高校の設立につながっ

た。インディアンの居住地区は、ワシントン州内にほとんど集中していて、彼らはインデ

ィアン独自の言語を使用し英語をいまだに話せない人たちがいる。そういう人たちに通信

教育を提供するため、州の教育委員会等にいろいろと運動した結果、それが認められた。

ワシントン州は全米でも珍しいが、インディアンの言葉、中国語、スペイン語など英語以

外の履修を認めている。アメリカ人が国語というところの英語の履修時間は多いのはもち

ろんである。

5.1.4.7 美川特区アットマーク国際高等学校の目指すもの

現在の高校生に不足しているのは、個の確立だという前提に立って、美川特区アットマー

ク国際高等学校の教育が考えられている。つまり、高校は、基本的に卒業後自分で問題解

決する、または、その正解を見つけだす訓練をする場所だという。また、ディスカッショ

ンパートナーとか親友を見つける場所でもある。個の確立を目指すと同時に、他人の力を

借りたり、コラボレーションする力も身につけさせたりする場であるという。美川特区ア

ットマーク国際高等学校は、これらを通して、学校の理念であるインディペンデントラー e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-20

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

ナーを目指している。

美川特区アットマーク国際高等学校は、日々の接し方というところで、学習コーチングと

いう基本的コーチングメソッドを売り物にしている。教科書に準じた接し方や教え方では

すぐ限界に行き当たる。そこで必要なのは、インターネットの向こうにいる生徒に自己解

決を促し、問題解決者に育てることを狙っている。それを達成するためにコーチングとい

う方法を取り入れている。

日野校長が考えている、生徒が積極的に学び、大きく成長できるための条件を次に記述す

る。

1 つは、生徒自身が「自分は認められているのだ。自分は許容されているのだ。自分のやり

たいことは尊重されるのだ」と思わせることであるという。

2 つ目は、自分で問題解決する能力は生徒の中に内在するのだという立場に立つ。基本的に、

れはもう本当に、信じ切るしかありません」と日野校長はいう。この逆方向は、本人には

解決能力がないのだから、学校は何もかもしてあげなければいけないという立場に立つ考

わってしまう。問題解決できるはずがない」という考え方である。

3 つ目は、それを解決するためにプランニングをして、自ら関与していることを日々実感さ

せるということであるという。簡単にいうと「ああ、きょうはこれに気づいてよかったね」

「きょうはちょっとうまくいかなかったけど、きっとあしたはうまくいくよ」ということ

を考えることが重要であるという。

学校の理念であるインディペンデントラーナーに生徒がなるためには、保護者は次の役割

を行うことを進めている。

足りないものを数えるのではなく、足りたものを数える

生徒の個性を褒め称える。

伴走者または応援者としての役割を引き受ける。

無意識に反応するのではない。

意識的に対応するということが重要。

同年代の他人の子供との比較の中で何かをいうのをやめる。

これらは子供の個性を伸ばしインディペンデントラーナーになるためには、どれも重要な

ことだと思われるが、偏差値による評価を重視する世の中で育ってきた親によっては、つ e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-21

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

いつい他人と比較したくなってしまうことが多いと思う。

美川特区アットマーク国際高等学校の生徒のモチベーションや目標意識、学力などは、入

学時と比べて卒業時には、明らかに向上しているという。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-22

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5.2 (株)国際電気セミコンダクターサービス視察

半導体製造装置に関わる事業展開を行っている(株)国際電気セミコンダクターサービス

は、ライフサイクルの短い半導体製造装置の

CRI 技法(Criterion-Referenced Instruction)

CRI 技法と実習型の教育方法をどのように融合させているかを中心に視察した。

5.2.1

視察日時と訪問メンバー

平成

17 年 10 月 31 日(月) 13:00∼16:30

訪問者リスト

学校法人麻生塾

学校法人麻生塾

NEC テレネットワークス株式会社

TAC 株式会社

学校法人福田学園

学校法人福田学園

株式会社

IP イノベーションズ

株式会社

IP イノベーションズ

株式会社

IP イノベーションズ

徳重 稔

畠中 康夫

原田 典昭

藤嶋 徳喜

松崎 英明

高橋 泰子

浦山 昌志

栗原 良太

大戸 寛

5.2.2

視察先

(株)国際電気セミコンダクターサービス トレーニングセンタ(図

5-20 参照)

939-2366 富山県富山市八尾町保内 2-9-1

5-20 (株)国際電気セミコンダクターサービス e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-23

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5.2.3

視察概要

(株)国際電気セミコンダクターサービスでは、インストラクショナルデザイン手法(

ID

手法)の

1 つである CRI 技法(Criterion-Referenced Instruction)を用いて、1996 年頃

から半導体製造装置に関わる教育プロセスを分析し、その分析結果をトレーニングに取り

入れている。半導体製造装置のトレーニングには、 e ラーニングやシミュレータ、そして実

機を組み合わせた高度で効果的なトレーニングを実現している(図

5-21、5-22 参照)。

このブレンディング研修を効果的にしたのが、

CRI の分析技法により作成した教育コース

である。この教育コースを半導体製造装置の一般教育と技術教育に取り入れた効率的なト

レーニングコースを提供している。

ライフサイクルの短い半導体製造装置の学習や教育は、今まで

OJT が主流であった。その

中で、半導体製造装置という大がかりな装置の教育を行う方法として、 e ラーニングやバー

チャルシミュレーションそして実機をうまくブレンドした手法を用いている。本報告では、

(株)国際電気セミコンダクターサービスが採用している教育手法について報告する。ま

た、視察参加者との質疑応答の中にも参考となる点が多いので、随所に質疑応答内容を盛

り込んでいる。

5-21 バーチャルシミュレータ

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-24

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-22 実習用機器

5.2.4

視察内容

本報告は、視察時に担当された(株)国際電気セミコンダクターサービスの村井隆司氏の

ご説明を中心に報告内容をまとめている。

5-23 半導体製造装置教育に関わる説明 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-25

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5.2.4.1 CRI導入の背景

1996 年に、村井氏は米国のロバート・F・メイガー博士が開発した CRI 技法のワークショ

ップを国内で受ける機会を得た。

CRI 技法は、現在「研修を設計する」というアプローチ

で米国では広く普及している。

CRI 技法が日本の新聞に紹介されたとき、たまたま当時の事業部長がそれを見てその内容

の調査を指示したという。その後、事業部長は社長に就任したが、上司の理解という面で

恵まれ、

CRI 技法調査の予算が付き、NEC テレネットワークス株式会社の原田氏のコース

を受講することができた。しかし、

CRI 技法の内容が非常に先進的であり、社内に持ち帰

って、いざ

CRI 技法を適用しようというときに、非常に悩んで、考えてしまったという。

その後、村井氏は

1 人でしばらくの間、タスクのプロセスや達成目標など決定するタスク

分析や、タスク遂行に必要なスキルから構成されるスキル階層図等を業務の空き時間に作

成した。本来(株)国際電気セミコンダクターサービスの研修所では、ユーザの技術教育

をトレーニングするのが

7 割程度、あとの 3 割は社内向けの技術教育と若干の一般教育を

実施している。そのため、普段はその教育準備や企画、実際の講師担当で手いっぱいであ

った。

(株)国際電気セミコンダクターサービスの研修に関するお客様は、韓国、台湾、中国な

どアジア諸国が

6 割ぐらいを占めている。これらの国の受講者は非常にアグレッシブで、

生半可な研修内容では許さないという。つまり、内容をとことん追及し、学習に前向きで、

日本人にはないモチベーションを持っている。それに耐えられない受講生はノイローゼに

なってしまうようである。そういう状況下で、

CRI の導入が進められた。

1 年程タスク分析とスキル階層を試行錯誤で進めた結果、試行バージョンができあがったが、

期待したものができなかった。その後、組織が変わり、

CRI の導入を非常に論理的に導入

する方向になり、

CRI の導入プロセスが加速した。

その後、何人かの文系出身の女性ブレーンが

CRI 導入プロジェクトに参加した。彼らは入

社後、設計に係ったり、部品を調査したりという仕事も普段やっていたため、技術的な素

養と文系的素養を併せ持っていた。このため、

CRI 導入における企画、構築、処理という

作業に非常に入りやすく、仕事はロジカルに展開して、非常に速く作業が進み、最終的に

研修コース体系を記述したコースマップを仕上げるに至ったという。

5.2.4.2

コースマップについて

分析フェーズで作成したスキル階層図を基に学習を行う単位を決定し、学習単位の順序を

示すトレーニングコースマップを作成した。トレーニングコースマップが完成するとコー

スマップの中の学習単位ごとに教育内容を作成する(図

5-24 参照)。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-26

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

トレーニングコースマップはスキルごとに見やすく色分けされていた(図

5-24 参照)。ト

レーニングコースマップのいちばん下のブルーは概要部分であり基本スキルを示している。

シューティングスキル」と「プロセスレシピ変更スキル」があり、さらに「トラブルシュ

ーティングスキル」をいくつかのスキル群に分けている。スキル郡に分けるために、さら

にタスク分析を行って、どんな業務があって、どんなスキルが必要かというところから、

4

つのスキル群に分けたということである。

5-24 CRI 分析によって作成したコースマップ

コースマップの各スキルはファイル状の絵になっていて、そのファイル状の絵の中に楕円

で示されたコースがある。ファイル状の絵をモジュールと呼んでいる。そして、楕円部分

をユニットと呼んでいる。ファイル状の絵で示されているスキルの間には従属関係があり、

全体が階層構造になったトレーニングコースマップである(図

5-25 参照)。

まず、ユニットをまとめてモジュールを組み立てて、その後、モジュールをグルーピング

する方法を取っている。最初は小さい単位から作って、

1 つのモジュールを作成するが、モ

ジュールの中でのスキル階層も決め、それらを少しずつ総合して構築して組み上げるとい

うやり方でトレーニングコースマップを作成している。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-27

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-25 コースマップの構造

1 つ 1 つの教育コースを示すユニットのボリュームは、実習も含めて 2 時間程度が想定され

ている。学習内容は

2 時間の中で、知識の習得と実習の要素を交互に繰り返しながら実施

する方法を取っている。

2 時間コースの終わりの実習部分ではスキルチェックを行う。スキルチェックは次の方法で

行われている。パラメータを

1 つ変更するにしても、パラメータの意味を知らないと変更

できないという仕掛けになっている。そして、パラメータの変更課題が与えられ、「自分で

考えて、パラメータを変えて様子を見てください」という指示が出される。受講生は学習

部分で習得したパラメータの知識に基づいて、与えられた課題に対してどんなパラメータ

をどのように変えればよいのかを考えるという実習を行う。

トレーニングコースマップの中ほどに位置する緑色の部分はメンテナンス内容の学習モジ

ュールで、主に半導体製造装置のメンテナンスについてマスターする実習が行われる。

ユニットには矢印が付けられていて、階層関係を示しているが、中に矢印のないものが存

在する。これは、受けても受けなくてもいいというオプションを示しているという。また、

一部、上下関係に左右されない意味づけにしてあるものがある。これは、受講するコース

を受講者とトレーナーとの相談によって決めるという方法を取っているためである。矢印

のある部分については、上位に行くためには必須である。したがって、上位コンテンツを

学習したいという人は、下位の知識を持っているかどうかをトレーナーと相談するか、ま

たはスキルチェックを受けて判断するという方法を取る。

5.2.4.3 研修に向く部分とそうではない部分

半導体製造プロセスは、大変大がかりでかつ時間がかかるので、

1 つのパラメータを設定し

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-28

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

ても、結果が出るまでに長い時間がかかったりする。このため、研修に向いているものと

そうでないものがある。

半導体製造装置は、一般にはほとんどなじみがない装置である。そもそも半導体の分野そ

のものが理解しにくい難しい分野である。半導体製造装置についての学習は

OJT で行われ

るのが一般的である。半導体製造装置の習得は、もともと先輩について丁稚奉公的に学ぶ

しかなかったようである。それは(株)国際電気セミコンダクターサービスだけでなく、

国内の大規模な半導体メーカといえどもほとんどそういう状況であったという。社員教育、

エンジニアを育てる教育というのはほとんどどこも行っていない部分で、それを体系的に

実施するには、何から始めればよいのかという状況であった。

(株)国際電気セミコンダクターサービスでは、最初のターゲットがお客様教育であった

ため、お客様のエンジニアがどのようなタスクを持っているかを分析して、お客様が自ら

できることは省いて、できないことだけをここのトレーニングで特化して実施するという

方法を取っている。

【社内向けトレーニングについて】

社内向け教育は、既に説明したような教育コースマップに基づいて行われているようでは

ない。半導体製造装置のライフサイクルや技術のサイクルが半年ぐらいで新しいものがで

てくる。これは、携帯電話の新製品開発サイクルが

3 カ月なためだという。よって、何か

新しい製品を発表したころには、それまでの半導体製造装置やら技術がもう過去のものに

なってしまっている。しかし、半導体製造装置を

1 度出荷すると 10 年ぐらいは動いている

ので、資産としては残る。その一方、お客様からは常に最新の技術情報や教育を要求され

る。しかし、これはすぐには教育できない。最新技術をいちばん知っている人に直接聞き

に行くしかない。社内教育では、タスク分析とコースマップを別な観点でコツコツと作っ

て、少しは行っているがあまり成功していないという。

5.2.4.4 バーチャルシミュレータについて

国際電気セミコンダクターサービスで行っている教育を紹介する。

Q 装置が非常に大がかりで、時間がかかるので、eラーニングとか、バーチャルシ

ミュレータを使って擬似体験をさせるようなモジュールがどこかにあるのでしょ

うか?

A 現場には、eラーニング学習環境があります。

5-26 に示すように、最初 CRI 方式により自分で半導体製造装置についての基礎

知識を学習し、その後、バーチャルシミュレータという装置で学ぶことになりま

す。最終的に実機実習というのを行い、この

3 つをブレンドした形で、研修全体 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-29

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

を進めています。

実機による学習

バーチャル

シミュレータ

による学習

CRI

方式によ

る自己学習

(知識習得) eラーニングに対応

5-26 研修の流れ

上述のトレーニングコースマップの特に緑色のメンテナンススキル部分のモジュ

ールを学習するときには、まず、各個人がeラーニングで学習します。この学習

過程に合格した人は、バーチャルシミュレータという機械でさらに習熟します。

これでいよいよ自信をつけた方は、最後に実機でスキルチェックをやっていただ

きます。実機実習は、実質的にスキルチェックになります。

パラメータの設定などは、まず全部このバーチャルシミュレータでいろいろ試せ

るようになっています。このハンディ端末でセッティングして、シミュレータに

反映させ、半導体製造装置の動きをコンピュータで観察することになります。こ

の段階でうまくいった人は、最後の実機でスキルチェックを受けます。このよう

な流れで学習します。

Q その分量の配分はどのぐらいなのですか。たとえば、全学習モジュールのうち、 eラーニングで勉強する割合としては何パーセントくらいなのですか。

A eラーニングで勉強する割合は、現在は緑色のメンテナンス部分の 3 分の 1 程度

とブルーの部分が、

20%あるかないかです。

バーチャルシミュレータを使っているのは、メンテナンスという緑色の部分だけ

です。このあたりが、学習でいちばん難しいところです。教える側も、学ぶ側も、

非常に難しい部分で、このあたりがいわゆる

OJT か丁稚奉公で従来ずっとやって

いた部分を、このような仕組みを使って置き換えて、効率よく、かつ速く学ぼう

という試みです。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-30

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

Q eラーニング化された部分は、知っておかなければいけない基本的な知識習得の

ところが多いのですか。

A 実機というのは、半導体製造装置には石膏ボードというのがついていまして、ロ

ボットメンテナンスが大きなウエイトを占めるわけです(図

5-21 参照)。これを

習得するためには、ロボットって何だろうとか、ロボットってどうやって動くの

とか、コンピュータで動くのですかとか、そのコンピュータのプログラムはどう

なっていますかということは、eラーニングで学べると思います。

では、それをマスターした上で、実際にロボットを

XYZ 方向に動かして見ましょ

うというところに入ってきます。この

XYZ で動くものを、バーチャルシミュレー

タ(

3 次元シミュレーション画像)で見たものです。これが私どもの特徴になると

思います。

従来、ロボットのメンテナンスというのは、本来実機でしかできなかったわけで

すけれども、これをずっと落とし込んで、eラーニングから入っていこうという

ようにしています。

なぜ、我々がここに特化したかと言いますと、実はこのロボットのメンテナンス

と一言で言いますが、このロボットシステムが非常に高価なのです。皆様が自動

車学校で車の運転をしてぶつけてしまったら、修理にお金がかかりますよね。半

導体製造装置はちょっとぶつけても、

10 万、100 万とかかってしまうのです。

研修のたびに毎回ぶつけられても、非常に困りますし、ぶつけた方も精神的にシ

というのがざらにあるわけです。そういう予算面、費用面、精神面からもリスク

を払拭するために、受ける側と提供側の両方ともにメリットを考慮し、シミュレ

ーショントレーニングが入っているわけです。

現実的には、実機だけでやってもそうぶつけることはないのです。最初に「ぶつ

けたら損害は何百万ですよ」と注意すると、受講者は皆とても真剣になさるので

すが、実は、ぶつけるという率はものすごく低いです。しかし、万が一というこ

とでやっています。

バーチャルシミュレータを導入している別の理由は、コスト面から実機を大量に

揃えることができないためです。

1 台が 1 億∼2 億円します。教育としては、投資

効果を考えた結果という観点でもあります。

Q トレーナーはどこまで介在されているのですか。eラーニングやシミュレーショ

ンなどは、全部セルフでの学習ですか。

A 先生の介在は半分程度です。CRI を最初導入したころ、セオリー通りにすべて学

ぶことを書いておいて、そのとおりやりなさいというように実施しました。わか

らないときだけ手を挙げてくださいというように学習していただいています(図 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-31

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-27、5-28 参照)。メンテナンス作業も、実際テキストに書いてあるとおりにやっ

ていってくださいと指示しています。途中にいろいろ練習問題があって、それら

を解きながら学んでいきます。独力でメンテナンスできるようになってください

というように学習を進めていただいています。

5-27 トレーニングテキスト①

5-28 トレーニングテキスト②

トレーナーの位置付けは、

NEC テレネットワークス株式会社の原田氏がおっしゃ

っているコースマネージャという位置付けで行っていて、トレーナーがそれほど

介入することはありません。ただ、我々の業界の特質として、技術的にテキスト

に書ききれない、または表現しきれないこともたくさんありますし、質問もたく

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-32

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

さんありますので、現実的にはトレーナーの役目としてはかなり生徒とマンツー

マンで、密着してやっています。こういうところが、我々のいまの大きな売りと

いうか、特徴といえると思います。

Q そのあたりの作業で、トレーナーは実際に動いている様子を、たとえば、デモン

ストレーションとかは行わないのでしょうか?

A 実際にやって示すこともあります。

5.2.4.5 トレーニングの進め方

半導体製造装置に関しての教育には、上記で述べた e ラーニングが一部取り入れられてい

る。 e ラーニングの制作については企画を社内で行っている。紙のテキストと e ラーニング

テキストでは、電子化されているかどうかの差であり、内容に大きな違いはない。

受講者のレベルもさまざま、新入社員もいれば、会社人

10 年の人もいるわけで、すごくレ

ベル差がある。このため、学習方法も受講者で異なり、モジュールを順番にやっていきな

さいというのはなくて、自分の好きなところからスタートしてくださいという方法になっ

ている。トレーニングコースマップは階層化されていて、学習のスタートラインが決まっ

ているが、実際にはどこからでもスタートできるようにしている。自分の経験、スキル、

目標に応じて、時間と相談してやってくださいというように自由にしているという。

講習の初日は教室で「どこから学習を開始するか?」という相談をする。教育の提供側で

もあらかじめ決めてはおくが、その時の受講メンバーと個別に相談するという。受講に来

られる方々の学習目的や前提知識がばらばらなことが多いため、トレーニングセンタに来

られてから学習プランを練り直すという方法を取る。

この程度できます」という会話をして、実際の学習プランを決めていくという。

次の

QA は、視察参加者からの質問である。

Q 個別の、一人一人のコースマップができあがるわけですね。

A まさしくその通りです。コースマップのモノクロ版をお渡しして、「自分のやりた

いところを、色鉛筆で丸をしてください」というふうにやっています。

A 通常の教育コースは中身が全部決まっていて、研修所に行ったらそれしかやらな

いですよね。

Q そうですね。しかし、受講者にかなりレベル差があることと、各個人のやりたい

ことがかなり違ってくるという現実があります。レベル差ができるのは、この業 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-33

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

界独特の部分で、受講者が事前に会社で一生懸命勉強してくれば、上位モジュー

ルから始められます。しかし、基礎ができておらず学ぶ目的も明確でない方もい

らっしゃいます。そういう方々は、初歩のモジュールである基礎から勉強を始め

ざるを得ません。残念ながらそういう方に限って、上長から「今回、おまえは上

位の知識までちゃんと学んでこいよ」と言われてくるのです。しかしながら、現

実的には「いまのあなたでは、そこまでは難しいですし、時間がありません。よ

って今回は基礎部分の学習をやってくださいと指導します。基礎を確実にやって

おけば、会社に帰って先輩といろいろ話をするうちに、自然に上位の知識へ到達

できます」というアドバイスをします。それで、どうしてもだめだったら、もう

1

度ここへ来れば、ということになります。

5.2.4.6 半導体と極秘情報

半導体業界では、それぞれの会社が極秘主義で情報を開示せず、国内でも、大手半導体メ

ーカは横の交流が少なくないという。各社とも特許を取り合っていて、すべてが秘匿の中

で進む業界だという。

また、半導体関連情報は外国に対してはもう

1 つの側面があって、法律的に技術を輸出で

きない場合がある。簡単にコピーしてものを渡すとか、何かを教えるということは、基本

的にできない。だから研修所に来たときに、情報を「教えろ、教えろ」と依頼されるとい

う。それで簡単にコピーして情報を出したら法律に触れることになる。

Q 情報の開示はどこまでできますか。

A テキストに記載されているもの以外は、日本の法律やアメリカの法律に引っかか

ります。テキストの中に記載されている内容も、いわゆる輸出国規制や

COCOM

で審査されて、すべて通ったものだけを記載しています。社内審査もやっていま

す。

海外からの受講生は、技術研修生受け入れ公表というのがあって、社内でも手続

きします。さらに、中国の受講生で長期の場合は外務省等へ届出もしなければい

けないので、それなりに結構やっかいなのです。

半導体に関する教育テキストの場合は、記載内容に規制がかなりあるので、作成上、内容

の記載と手続きが面倒なようである。

5.2.4.7 コンテンツのアップデート

コンテンツのアップデートは、内容的なことと受講者の母国語という点で、国内で行われ

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-34

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

IT 教育とは異なる側面がある。つまり、既に上述したように半導体製品のライフサイク

ルが短いことにより短期間でのテキストアップデートが要求されることになり、それと同

時に記載内容の制約が入ってくることになる。また、次の

QA のところで述べられている

ように、受講者の母国語が日本語だけとは限らないところに別の問題があるように思える。

Q これだけのコースぞろいで、しかも、新しい技術とか機械が入ってきて、アップ

デートが必要になると思うのですが、何人ぐらいの体制でこのコースを維持して

いるのですか。

A いま、実質 3 人です。かなりきついです。

Q コースの開発、アップデートだけですか。

A そうですね。細かい部分や画面の作り込み等は一部外注にも出しています。アッ

プデートに関しては内部でやらざるを得ないです。対応要求があまりにも速くて、

間に合わないのです。

また、これらを即英語、韓国語に翻訳しており、いまは中国語も翻訳してくれる

ところを探しています。紙のテキストは英語、韓国語、すべて揃っています。そ

我々としては多言語で対応できるもの、つまり言語に依存しないシステムでない

と都合が悪いのです。

Q 既に LMS などは導入されているのですか。

A ええ。非常に簡単なものですが導入しています。来期は SQL にして、内部でつく

ろうと考えています。言語と使いやすさを考えたら、内部で開発した方が使いや

すいと思いますし、ワールドワイドのいろいろなところにブランチを置いている

関係上、そのブランチの人たちと情報を共有するには、内部でつくるしかないと

考えています。市販の

LMS ですと、海外のブランチに対応するようなシステムに

もなっていませんし、システムを入れることが第一ではなくて、ブランチの人た

ちの技術レベルアップというのが至上命題ですから、その人たちといっしょに作

ろうと考えています。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-35

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5.2.4.8 トレーニングコースの実施

ここでは、 e ラーニングを含めてトレーニングがどのように実施されているかを質疑応答の

形で紹介する。

Q トレーニングの場所としては、ここで実施されるだけではなくて、いろいろなと

ころへ行って実施されるわけですか。

A 基本的にはここだけです。

Q たとえば、eラーニングは?

A 自分のデスク上でできますが、全体的に実機まで含めて、バーチャルシミュレー

タまで入れると、ここだけです。実機での実施というところが大きなネックで、

装置がお客様のところにあっても、実際には生産に使っていて

24 時間動いていま

すから、それを朝から晩まで止めて教育に使うというのはできません。

更に、そういう場所は非常にクリーン度が高い部屋のため、そこに人が入って研

修しているとごみが増えて困るのです。それで、実稼働の生産装置を使って教育

を実施するのは、いまは難しい状況です。

Q ちなみに、全体で 20%がeラーニングということでしたが、時間的にどれぐらい

かかったのですか。

A 準備は 1 年ぐらいですね。

Q コンテンツが全部揃ってから、実際にリリースされていったのですか?

A 少しずつ出していくわけです。いまも継続的にずっと増やしています。実機は、1

つの装置だけではなくて、何種類も商品があります。たとえば、

A 商品については

緑の部分(トレーニングコースマップ)はほぼめどがつきましたということで、

次に

B 商品、C の商品について作っていこうとすると、A 商品がバージョンアッ

プして、メンテナンスが生じてしまうのです。更に次のときになると、半導体製

造装置がまたアップグレードして

A ダッシュに変わってしまう。これがいま大き

な問題なのです。

Q eラーニング部分は、時間数的にはどのぐらいですか。

A まともにやると、3 日分ぐらいです。

Q 1 日 8 時間ぐらいと考えてですか。

A そうですね。実習まで入れて 3 日分ですから、eラーニングにするともうちょっ

と短いと思います。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-36

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

Q そのぐらいの時間数をすべて用意するのに、1 年ぐらいかかったということですね。

A はい。初めてだったので、今後はもう少しスムーズに進むと思います。Toolbook

というソフトを導入したのですが、非常に難しいソフトで、慣れるのに半年はか

かりました。

5.2.4.9 バーチャルシミュレータ

教育に取り入れているバーチャルシミュレータというのは、実機を

3D 化した機械である

(図

5-29 参照)。「ロボットが現実社会で動くものであれば、バーチャルシミュレータとい

うのはスクリーン上を

3 次元で動く機械だと思ってもらえればよい」と村井氏は述べてい

る。

バーチャルシミュレータの開発には、相当の費用がかかっているようである。eラーニン

グとは比べものにならないぐらい高価という。バーチャルシミュレータは、以前外注で作

っていたが、現在は非常によい開発ソフトがでたことにより、内部のソフト技術者が作っ

ている。方法としては、

CAD データを 3 次元グラフィックに置き換えるようにして行うと

のことである。外注から内作に変更したが、開発にはやはりかなりの費用は掛かるとのこ

とである。

5-29 バーチャルシミュレータ

バーチャルシミュレータの開発は、開発チームを作るのではなく、実際の業務の片手間に

作成している。ソフト部門の社員が、業務の合間に作成する。半導体製造装置はどんどん

バージョンアップしていくが、ソフトウェアのバージョンアップの方が速い。ハードウェ

アは比較的先端技術を取り込んで、半導体製造装置開発部隊が最初に考えたものはロード e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-37

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

マップになりやすい。ソフトはユーザのニーズを取り込みながら開発していくため、ユー

ザの時間軸で進んでいき、かつ速度がものすごく速い。この辺が、ソフトウェア開発者が

いちばん困っているところだという。

5.2.4.10 CRI の恩恵

CRI 技法(Criterion-Referenced Instruction)を取り入れて、トレーニングコースマッ

プを作成している。この

CRI 技法との関わりについて視察者からの質疑応答を交えて、も

う少し紹介する。

Q CRI という手法が、もしなかった場合にはどのようにコースマップを作成してい

ましたか。

A 多分、体系立てた教育はなかったでしょう。いろいろな要望に対して、資料をと

り揃えてワンポイントで行うような教育コースを羅列していたと思います。よっ

て、コースマップではなくてコース一覧表で終わっていたでしょう。一覧表形式

をみて、これとこの教育をやりましょうというようにしていたと思います。だか

ら、それを受ける人のレベル等は全く考慮しなかったと思います。

Q どちらかというと自習ではなくて、一方的なやり方ということでしょうか。

A 一方的になりますね。半導体製造装置がありますから、実習もありますが、その

人の現在のレベルがわからないので、マスターするのにもすごく時間はかかる。

そして、トレーナーは付きっきりになって、とにかく装置が壊されないかを見て

いるのが精いっぱいでしょうね。

Q そうすると、CRI 導入は相当メリットがあるということですね。

A ありますね。そのメリットに着目したのが、実は日本ではなくてアメリカだった

のです。この話は、皆様ご存じですか。

協会があります。この協会が、

CRI のよいところを取って、PBET (Performance

Based Equipped Training)技法というのを出してきたのです。内容は CRI とよ

く似ています。

CRI 技法を半導体向けにカスタマイズした技法を、米国の半導体

材料協会が開発して、これをいま米国で広めています。

北米大手半導体メーカが大々的にこれを採用しています。そうすると同社に半導

体製造装置を納めている我々のような会社は、

PBET 技法で研修をやりなさい」

ということを要求されたのです。ダイレクトに

PBET 技法と言っているわけでは

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-38

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

なくて、大体これに準じるものなら何でもいいのです。一般的に

ISD と呼ばれる

技法で研修を構築していればいいのです。日本の多くの会社は、この

PBET とい

う技法を採用したりしています。これは我々の半導体製造装置業界だけです。半

導体の製造装置業界は、わりとこういうことに敏感な会社は多いと思います。

Q 北米大手半導体メーカに半導体製造装置を納めるために、研修まで拘束してしま

うということは、どういうことなのですか。

A 我々は装置を納品するときに技術者もいっしょに派遣します。装置を据え付けに

行ったり、調整に行ったり、技術アドバイザーとしていくこともあります。その

人が、特定のスキルを持っているということや、教育をきちんと受講して身に着

けたことを証明しなければならないのです。その教育が

ISD(教育システム設計

技法)に基づいた手法により設計された教育コースであることを明示しなければ

ならないわけです。そうであれば、同社としてはその技術者を受け入れます、つ

まり、認証しますということなのです。そうでなければ、それに代わるものでも

いいから証明しなさいということです。

Q そうすると、同社にこのようにやっていますよというアピールができたというこ

とですね。

A そうです。CRI ということを一言いってそれで済みましたから、助かりました。

PBET では、パフォーマンス分析というものが主です。

5.2.4.11 CRI による教育の受け取り方

CRI 手法を使った教育は、受講者によって受け取り方は異なるようである。次の質疑応答

の中にその受け取り方の差が現れているので、ここに紹介する。

Q こちらでは、年間どのぐらいの人数を教育していらっしゃいますか。

A トレーニングとしてお越しになるのは 150∼200 人ぐらいです。

Q その方たちが、3 日ぐらいでこちらの内容を学ばれるわけですね。

A はい、3 日間から 2 週間。日数は何日でもよいわけです。その人の目標とスキルに

応じて、

1 日でも、3 日でも、1 週間でもよいのです。しかし、場所の問題、費用

の問題があります。日本の場合は月曜から金曜までというのが多いです。海外の

場合は間に休みを入れることが多いです。その場合は、

10 日から 2 週間ぐらいで

す。

ここでは

9 時か 10 時ぐらいから 17 時までやっているのですが、マスターすれば

帰ってもいいのです。マスターできなければ居残っても構いません、それは自由 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-39

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

です。スタート時間も、ゴール時間も、すべて自分で決めてやってもらいます。

海外の方は自分で決めて、早く終われば帰るし、終わらなかったらずっと、

7 時で

8 時でも残ります。4 人でいっしょに来ていても、先に帰る人もいます。でも、

日本人は

9 時から 5 時、何があろうと全員一緒です。

日本人で早く終わった人に「次へ行ったらどうですか」というと、次に行くのは

半分ぐらいの人しかいません。あとの人は、何かゴチャゴチャと「もう

1 回やり

ます」とか、遅い人に合わせてしまうのです。復習という意味ではよいのですけ

れど。

外国人の方は時間ではなくて、自分が目標としてマスターすべきものという観点

日本人のほうが何か「時間にルーズ」という感じがします。ある意味、時間には

正確です。どちらがよいのでしょう。

Q でも、実際に村井氏が見られた中でも、きちんとコースマップに基づいて達成し

ていれば、その人はそれなりに力がついているということですね。

A そうですね、つきますね。

5.2.4.12 受講者の満足度

CRI 技法を取り入れた半導体製造装置の教育を受講者はどのように感じているのであろう

か。特に、日本の学校教育では、

CRI 技法のような教育手法を取り入れていないので、戸

惑う人も多いと思う。視察参加者との間で取り交わされた次の質疑応答から

CRI 技法に対

してどのように感じているかがある程度伺える。

Q 受講者の満足度というと、どうなのでしょう。

A 顧客満足度(CS)は測っています。受講者の満足度については、主に設備とか、

環境とか、対応とか、そういう部分です。

それからもうひとつ測っているのが、修得度です。修得度を測っているのは、そ

の人のためというのと、今後我々がどこを教育改善すればよいかということのた

めです。

修得度を測るアンケートの回答ですが、同じ質問内容に対して日本人向けは

5 段

階ですが、欧米系についてはイエス・ノーだけです。たとえば、今回のトレーニ

には「イエス・ノー」だけの選択肢しかありません。

Q 回答の選択肢がはっきりしているのですね。

A はっきりしています。外人はそうでないと、自分が母国へ帰ってから「日本へ行

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-40

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

って何をマスターしてきたか」と聞かれたときに、答えようがないのです。イエ

スかノーしか上司に答えないと思います。「まあまあです」「ぼちぼちでした」な

んて、多分言わないですね。そういう英語がないと思いますから。

Q CRI になじまなかった受講生はいますか。

A そういう方も結構多いですね。アンケートのコメントをみると、CRI になじまな

かった受講生が結構多いことがわかります。なじむ人となじまない人に極端に分

かれてしまい、中間がいません。

Q 割合的には、どのぐらいですか。

A 感覚的ですけれど半々ぐらいです。決して CRI を悪いと言っているのではないの

ですけれども、なじまないというのは生理的なものだと思います。

Q なじまない方に対するフォローというのは、どのようにしたらよいのですか。

A なじまない方には、個別対応、個別フォローをしています。

Q それで効果が上がりますか。

A 難しいですね。なぜかというと、なじまないタイプというのは基本的には研修に

対して受動的なタイプです。ですから、どれだけフォローしても足りません。た

だ、やはりフォローしないといろいろ問題がありますからフォローしますけど、

きりがないと思います。能動的なタイプの方は、大体そこでなじまないとはいっ

さい言わないです。もっとこうした方がいいとか、建設的な意見を言います。

Q 年齢層からいうと、なじまない人というのは高齢の方が多いとかありますか。

A 以前はそうでしたが、リストラが進んだせいもあって最近この業界は高齢の方が

いらっしゃらなくなりました。単純な作業というのは、派遣会社にシフトしてい

ます。そうすると、正社員は単純作業から

1 歩踏み込んだ業種に配置転換させら

れます。配置転換後はスキルが必要ですから、ここのトレーニングセンタのよう

なところに来ることになります。ところが、今まで上からの指示だけ受けて仕事

をしていた方は、自ら何かをするということが少ないのです。自ら手を挙げて何

か質問するとか、自ら装置を操作しましょうという気持ちもありません。こちら

から「こうしてね、ああしてね、こうね」と言わないとできないのです。そうい

う方が、いま非常に多いです。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-41

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5.2.4.13 トレーニングセンタのメニュー

(株)国際電気セミコンダクターサービストレーニングセンタで実施されている教育コー

スは、基本的には半導体製造装置に関わる技術を修得するための教育である。技術教育コ

ースに関しては、既に、

5.2.4.2 コースマップについて」のところで記述したトレーニン

グコースマップにすべてのコースが含まれていると考えられる。

トレーニングコースマップに記載されていないコースの提供もあるという。そのひとつと

して、社内向けのアドバンスコースがある。また、ヒューマン系のトレーニングコースと

して、英語や中国語など語学コースを提供しているが、コースの階層構造を作成して体系

的に行っているというわけではない。

また、これ以外に安全教育なども行っているとのことである。

ここでの半導体製造装置に関わる技術トレーニングの修得後は、現場での

OJT によりそれ

ぞれのお客様の装置の取り扱いについて学ぶことになる。トレーニングセンタでは、それ

ぞれのお客様が使用している装置を準備できないので、基本部分を教育することになる。

その後、研修生は現場でのニーズにあった教育を受けることになる。

研修後に現場から、教育コースに関するフィードバックを吸い上げられるように、

SQL で

LMS を作り、現場からの意見を反映できるシステマティックなメカニズムを検討中だとい

う。

5.2.5

トレーニングルーム見学

5.2.5.1 化学反応

半導体は、化学反応で作る。反応管の中にシリコンウェアを入れて化学反応を起こす。反

応管は石英ガラスでできていて、この形と、どこからガスをどう流すかが大きなノウハウ

になっているという。

ガスの流量を自動的にコントロールする機械などがたくさんついている。非常に高精度な

制御が求められる。ヒーターがあるが、

800℃で動き、プラスマイナス 0.5℃で動きます。

0.5℃以上変わってしまうと、反応がずれてしまうとのことである。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-42

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5.2.5.2 研修ルーム

5-30 トレーニングルーム

(1) スキルチェック

トレーニングルーム(図 5-30 参照)の所定の場所にスキルチェックシートが準備されて

いるので、受講者はそこからチェックシートを持っていき、そこに記述されている課題

ました。この状態を確認して、処理を行ってください」という詳細の課題が与えられ、

これを実行する。よって、上述のコースマップ分のスキルチェックとテキストを使って

勉強するように指示する。

テキストは、モジュール全体の中身の概要の説明と、なぜやるかという重要性が書かれ

たモジュールガイド、そして、タスク分析表とモジュールのスキルチェックが色表紙で

区分されて入っている。

学習を進める上で、スキルチェックだけをやるという人もいて、その人はすぐ次へ進ん

でいくという。学習者はモジュールガイドの中のユニットガイドというのを見て、個別

の学習をしていく。ここにはユニットの学習目標や学習の重要性、タスク分析、目次な

どから構成されたテキストになっている。

まず、これを読んで勉強してくださいと指示する。本のアイコンが示されている部分は

テキストで学習しますという意味である。ヘルプというのは、さらに知りたい人はヘル

プを見てくれということである。

ある程度学習を進めていくと、今度は実機のマークがある。これは、ここから先は、こ e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-43

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

のテキストを読みながら実機で操作してくださいということを指示している。つまり、

テキストの記述を読みながら実際に操作してくださいということを意味している。

複数人数で学習しても構わないという。受講者が協力し合ってやった方が、特に実習の

場合は複数で相談しながらできるので有効だという。

実習演習をやっている途中で、いろいろ疑問点が出てくるが、その辺の疑問点を払拭す

る部分は「参考資料」とか「ヘルプ」に書いてある。

につけたり外したりできましたか」などの質問に答えて作業内容を確認するためである。

この質問に対して、イエス・ノーをチェックしていき、うまくできていないところがあ

れば、もう 1 回学習を行う。イエスと答えられれば、スキルチェックに進む。スキルチ

ェックでは、上述で説明したように、装置の付帯部品の取り外しを行う。作業に掛かっ

た時間も記録する、これらの一連の作業をトレーナーが見ていて、手順書どおりに実施

しているか確認する。手順書どおりにできていれば、所定の場所にサインがもらえ、そ

の章は終了となる。ひとつの章が終了すると、トレーニングコースマップに従って次の

ステップに進むという学習を繰り返す。

(2) 納品マニュアル/テキストの利用

テキストは丁寧に作ってあるが、納品マニュアルも準備されていて、必要に応じてマニ

ュアルを使ったりするという。また、図面などもあり、テキストには、細かく参照指示

トに指示が書かれている。しかし、あまり細かい記述だと書ききれないので、たまに「こ

の部分はトレーナーに聞いてくれ」というのもあるという。

(3) バーチャルシステム

図 5-31 はバーチャルシステムで、これをいろいろな角度から見られるようになっている。

これは実際の製造装置に近いものである。この中にロボットがあるという。ロボットと

いっても、我々のイメージのロボットとはちょっと違う。この装置全部がロボットで、

これを動かして、いわゆるメンテナンスする。実際は本物の装置を使ってやるが、いき

なり現物をさわって、壊すと被害が大きすぎるので、バーチャルシステムで訓練を行っ

ておくということである。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-44

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

このバーチャルシステムは本物と同じ動きや、同じスピードの振る舞いを体験できる擬

似装置である。画面の操作により、拡大・縮小も自在に調整でき、角度も変えられる。

視点に関しては、360°視点を変えられる。

5-31 バーチャルシステム

3 次元でものを動かすという 3Dアプリケーションがあるので、それを買ってきて、あと

中身はすべて自社開発を行うという。それにより、製造装置のコントローラと同じもの

をつけて操作する。バーチャルシステムへの入出力は、本物のコントローラを介して行

っていて、動く製造装置の画像がシミュレーションである。

5.2.6

まとめ

(株)国際電気セミコンダクターサービスの村井氏は、

CRI を使って見事に研修体系をま

とめ上げていた。複雑なスキルセットをきちんと分析し、効果的な学習方法を組み合わせ

て、合理的な学びを実現している。 eラーニングに特別なコンテンツを用意したわけではなく、紙のテキストと同じと割り切

って、コンテンツの制作というより教材自体の完成度を高めたところは非常に好感がもて

る。多くの研修に応用可能であろう。

最大の特徴は、eラーニング、シミュレーション、実機演習をブレンドし、効果的な学習

だけでなく、コスト削減、繰り返しの学習などをバランスよく配分しているところである。

ルから見られるようにしているところなど、実機以上に精密な動きをモニターできるよう

になっている。これは学習効果からも非常によく考えられている。

最後に、新しい手法である

CRI に積極的に取り込んで、素晴らしい体系を作り上げた(株) e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-45

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

国際電気セミコンダクターサービスにここまで内容を開示していただいたことに感謝の意

を表したい。この考え方、取り組み姿勢は、

ID にこれから取り組む学校、団体に対して大

きな勇気をもたらしてくれるだろう。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-46

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5.3

星城大学視察

大学キャンパス内に無線

LAN 環境を設置し、大学教育に e ラーニングを導入した名古屋の

星城大学を視察した。

星城大学は、幼稚園、中学から大学までの一貫教育に関して

60 年以上の歴史を背景に、平

14 年に新たな大学経営にチャレンジした。星城大学は、学内のコミュニケーション環境

の改革とリハビリテーション医療界のリーダー的な人材を育成するためのリハビリテーシ

ョン学部の新設などを行うことにより、大学存続の危機の中で他大との差別化をいち早く

実現した。

ここでは、星城大学の経営を成功に導いている学内の無線

LAN 環境とリハビリテーション

学部の実習環境を中心に視察内容の報告を行う。

5.3.1

視察日時と訪問メンバー

平成

17 年 11 月 28 日(月) 14:00∼17:00

訪問者リスト

学校法人麻生塾

学校法人麻生塾

麻生リハビリテーション専門学校

NEC テレネットワークス

大阪リハビリテーション専門学校

穴吹コンピュータカレッジ

防衛庁海上幕僚幹部人事教育部

学校法人福田学園

株式会社

IP イノベーションズ

株式会社

IP イノベーションズ

株式会社

IP イノベーションズ

株式会社

IP イノベーションズ

株式会社

IP イノベーションズ

徳重 稔

古賀 直美

木村 孝

原田 典昭

高橋 泰子

真鍋 卓照

君島 浩

松崎 英明

浦山 昌志

大竹口 隆

栗原 良太

大戸 寛

池永 智哉

5.3.2

視察先

学校法人 星城大学

476-8588 愛知県東海市豊貴ノ台二丁目 172 番地 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-49

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-32 星城大学リハビリテーション学部校舎

5-33 星城大学キャンパスマップ

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-50

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5.3.3

視察概要

星城大学は名古屋市から名鉄河和・常滑線で

20 分ほど南に下がったところに位置する。星

城大学は、平成

14 年 4 月に開学し、現在、経営学部とリハビリテーション学部を持ち、社

会に貢献できる人材の育成を目指している。同大学のキャンパスには、

IT 化を取り入れた

「 e-University」という教育システム環境が大学全体に構築され、学生とスタッフの間のコ

ミュニケーションをより効果的にする環境が提供されている(星城大学の無線

LAN の概要

に関しては、平成

15 年度の文部科学省委託事業「E-Learning 実態調査報告書」2004 年を

参照)。「 e-University」環境をとおして、次の機能が学生とスタッフに提供されている

( e-University」に関しては、「5.3.4.3 e-University の概要」参照)。

(1) e-Administration

学生用電子掲示板

履修登録システム

出欠管理システム

(2) e-Learning

自習システム

ビデオオンデマンド

メールラーニング

(3) e-Education

電子テキスト

レポート管理システム

遠隔授業システム

講義資料配布

テスティングシステム

今回、焦点を当てて視察したリハビリテーション学部には、充実した学習環境が整ってお

り、医療の基本とリハビリテーション医療を学ぶための専門基礎科目や理学療法そして作

業療法に関する科目が提供されている(図

5-34 参照)。学生は、充実した専門科目の講義

や実習環境(図

5-35 参照)での学習をとおして、リハビリテーション医療人としての知識、

資質、マナーを学ぶことができる。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-51

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-34 専門科目

5-35 評価診断学 運動学実習環境

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-52

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5.3.4

視察内容

星城大学には、現在

1,600 名の学生が在籍している。大学のキャンパス内に設置された無

LAN によるネットワークをとおして、学生はノートパソコンから教材をダウンロードし

たり、各種管理システムにアクセスしたりすることができる、無線

LAN 環境により、学内

の運営管理や学生とのコミュニケーションが効率的に行われている。

リハビリテーション学部の学生も学内の無線

LAN ネットワークの恩恵を受けているのはも

ちろんであるが、リハビリテーション学部には、充実した実習環境が提供されている。星

城大学の e-University 環境を使った講義に加えて、リハビリテーション学部の実習環境が、

よりレベルの高い理学療法士と作業療法士の育成を可能にしている。

ここでは、今回視察したリハビリテーション学科の授業と実習環境そして e-University 環

境について紹介する。

5.3.4.1

リハビリテーション学科の授業見学

リハビリテーション学科の学習のひとつである「ものづくり」は、ユーザの立場に立った

ものづくりという点で、効果があると考える。特に、車椅子と自動制御などに関しては、

学生にいろいろなヒントを与える要素が多いと考える。

(おもちゃ用のブロック)を使って楕円の線上を移動する模型を作成しプログラミングす

る授業であった。

各グループは、次の図に見られるようなブロックやタイヤなどを組み合わせ移動模型車を

作成する(図

5-36、5-37 参照)。この移動模型車を楕円の線上を移動するようにプログラ

ムを作成し、机の上の楕円上を移動させる(図

5-38 参照)。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-53

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

図 5-36 移動模型車作成の部品

5-37 移動模型車のタイヤ

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-54

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-38 移動模型車の走行コース

各グループは、それぞれ工夫を凝らして、楕円上を正しく移動できるように、模型の形や

プログラムなどに対して独自の工夫を凝らしている(図

5-39 参照)。規程をクリアーする

ためには、次のことを考慮する必要があるという。

模型の重心位置

移動スピード

タイヤの数

タイヤの形(左右の大きさなど含む)

模型に付ける装飾 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-55

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-39 移動模型車作成環境と移動模型車

各グループの作品がある程度出来上がったところで、模型の動作発表会が行われた。規定

の楕円軌道を正しく移動できるかどうかということ以外に、グループの名前、模型のネー

ミング、特徴などが紹介された。模型の中には、楕円軌道を正しく移動できるものやコー

ナを曲がりきれずに机の下に墜落する模型もあった。

模型の重心位置がどこにあるかによって、模型車が規定の楕円をスムーズに移動できるか

に影響する。各グループは、移動スピードやタイヤの形などを変更して、よりよい結果が

得られるように工夫をしていた。

グループの作品の動作デモ後には、自分たちのデモに関する感想やコメントを述べ今後の

検討材料にしていた。

このような授業は単にリハビリテーション業務を行う技術者を育成するだけでなく、患者

のために真に必要な医療器具を開発するさいに必要な知識、工夫などを考える力を養成す

る興味深いカリキュラムである。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-56

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5.3.4.2

リハビリテーション学科の施設

星城大学のリハビリテーション学部には、最新の施設や設備機器が充実した実習室が完備

されている。リハビリテーション学部では、実習をとおして運動療法や作業療法などの実

体験に触れ、介護する側とされる側の両面からリハビリテーションに取り組んでいる。今

回視察した、運動療法や作業療法などの実習を提供しているさまざまな実習環境を次に紹

介する。

(1) 基礎医学実習室

基礎医学実習室は、人間の身体の構造・機能、心身の異常、病変、疾患や障害の臨床像

などの基本的なところを学ぶ実習室である。基礎医学実習室では解剖学や生理学の講義、

実習を行っている。解剖学では、人体解剖蝕観察実習、骨学実習、脳実習、組織学実習

などいろいろな実習が行われており、人体の基礎構造の学習を行っている。

生理学では、人体の臓器や組織が働く仕組みを学習する。次の写真は、基礎医学実習で

使用される教材の一部を写したものである(図 5-40 参照)。

5-40 基礎医学実習室の教材 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-57

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

(2) 運動治療学実習室

運動治療学実習室は、身体運動機能の維持や改善を行うための運動療法や松葉杖歩行、

階段昇降などの動作訓練に関する治療手段を学ぶ実習室である。次の写真は、身体運動

機能の維持や改善を学習する実習環境である(図 5-41 参照)。

5-41 運動治療学実習室

(3) 理学療法評価診断学、運動学実習室

理学療法評価診断学、運動学実習室は、理学療法で必要となる呼吸循環機能、筋力、バ

ランスなどの検査・テストを各種の評価機器を用いて学び、3 次元動作解析機器などを

用いて歩行動作や各運動の動作分析を学習する実習室である(図 5-42、5-43 参照)。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-58

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-42 評価診断学、運動学実習室機材①

5-43 評価診断学、運動学実習室機材② e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-59

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

運動学実習室で行われた歩行動作や各運動の動作分析結果はパソコンに取り込まれ、それ

らのデータの分析が学生により行われていた(図

5-44 参照)。

5-44 パソコンによる各種運動の動作分析

(4) 日常生活活動学実習室

日常生活活動学実習室、障害を持った方の日常生活(食事・更衣・排泄・入浴など)に

対する環境などを工夫して支援することを学ぶ実習室である。室内には、日常の生活に

必要なベッドやトイレ、浴槽などが揃えてある。洋風環境だけでなく和風生活者のため

の環境も整っている(図 5-45、5-46 参照)。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-60

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-45 和洋生活環境

5-46 障害者用トイレ e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-61

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

(5) 物理療法学実習室

物理療法学実習室は、血液循環の改善などによる鎮痛効果を目的とした温熱療法、寒冷

療法および神経や筋を電気で刺激する電気刺激療法などの物理療法について学ぶ実習室

である。

5-47 物理療法学実習室

(6) 水治療学実習室

水治療学実習室は、温水を利用して手や足を暖め、循環の改善を図る渦流浴・気泡浴や、

水の浮力や抵抗を利用して歩行練習を実施する歩行浴などの水治療法について学ぶ実習

室である。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-62

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-48 水治療学実習室の歩行浴

5-49 水治療学実習室の還流浴 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-63

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

(7) 作業療法多目的実習室①

作業療法多目的実習室①(図 5-50 参照)は、小児の作業療法を学ぶ実習室である。この

実習室は小児の作業療法を学ぶ部屋である。小児作業療法では、体を大きく揺らしたり、

回転させたり、楽しく遊びながら体の使い方を覚え、発達を促す、そのために訓練でき

るよう工夫された道具を使用し、発達理論・技術を学ぶ。

5-50 作業療法多目的実習室

(8) 作業療法多目的実習室②

作業療法多目的実習室②(図 5-51 参照)は、作業療法では木工・陶芸・手工芸などを利

用し、職業復帰の訓練や身体機能の回復、精神機能の安定に役立てる実習である。ここ

では、作業の特性を知り、リハビリテーションに利用する方法、理論を学ぶ。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-64

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-51 作業療法多目的実習室

(9) 作業療法評価学実習室

作業療法評価学実習室は、作業療法で使う検査道具の使い方、方法などを学ぶ実習室で

ある。また、動作分析の方法を知り、作業遂行する上でどのような障害が生活に影響を

及ぼすのか評価・分析の結果を正しく把握できるように学習する。作業療法の評価は、

図 5-52「作業療法評価シート」を使用して行われる。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-65

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-52 作業療法評価シート

(10) 義肢装具室

義肢装具室は、腕や足など四肢の一部を切断した患者のため、元の手足の形態または機

能を復元した義手や義足を装着して、運動を補助する方法を学ぶ実習室である(図 5-53

れぞれ切断部位別に分けられる。装具は「四肢・体幹の機能障害の軽減を目的として使

用する補助器具であり、それらの役割などについて学ぶ。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-66

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-53 義肢装具 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-67

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5.3.4.3 e-Universityの概要

星城大学のキャンパス内には、無線

LAN によるネットワーク環境が提供されており、すべ

ての学生がノートパソコンで大学独自の教材をダウンロードできるキャンパス情報通信ネ

ットワーク環境が完備されている。また、インターネットをとおして学外からも授業教材

や大学からの連絡事項をダウンロードできるように通信網が整備されており、将来の学外

遠隔授業も視野に入れた高度情報化時代の最先端に位置する e-University の実現を目指し

ている。

ここでは、星城大学の e-University で実現されている次の機能について概要を説明する。 e-Administration e-Learning e-Education

(1) e-Administration e-Administration は、次の機能を提供し、学生の管理/運営プロセスを効率的に行ってい

る。

学生用電子掲示板では、事務局からの一般的な連絡事項や資料の配布などを行うと共に、

教育カリキュラムや学事日程などへのリンクも提供している。

履修登録システムでは、各自のノート PC から受講科目の履修登録を行ったり、履修状

況を確認することができる。

出欠管理システムでは、PC のスケジュールをクリックし、パスワードを入力することで

出席登録ができる。

(2) e-Learning e-Learning は学生に次の活動を可能にしている。

自習システムでは、講義に使用する電子化されたテキストをサーバーから事前に配布し、

各自のペースに合わせた予習、復習を可能にしている。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-68

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-54 自習環境

ビデオオンデマンドでは、ビデオ収録された講義内容をパソコンからいつでもアクセス

できる。講義は原則として、パワーポインとなどのソフトを使用して行われている。学

生は教室内に設置されているプロジェクタのスクリーン、またはパソコン画面のテキス

トを見ながら受講する。授業の内容は録画され、いつでも参照できるようになっている

ので、講義終了後の復習などにも効果的である。 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-69

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-55 e-Learning 対応教室

(3) e-Education e-Education は、次の機能を提供し、学生とスタッフのコミュニケーションの効率化に貢

献している。

電子テキストシステムでは、星城大学オリジナルのテキストをキャンパス内の情報通信

ネットワーク環境をとおして提供されるため、すべてデジタル化されたテキストは学内

のサーバに納められている。テキストは、必要に応じて、自分のパソコンにダウンロー

ドし印刷もできる。

レポート管理システムでは、学生からのレポート提出の管理を行うシステムである。教

員からの採点結果やコメントなどがこのシステムを使ってフィードバックされる。

教育プログラムを効率良く個人個人のペースで進められる e-University を実現するために、

全学生は無線接続装置内臓のノート型パソコンの購入が義務付けられている

5-56 参照)。

学内

80 箇所以上に設置されている無線 LAN のアクセスポイントが e-University の実現を

可能にしている(図

5-57 参照)。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-70

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5-56 ノート型パソコン

5-57 無線 LAN アンテナ e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-71

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

5.3.5

まとめ

星城大学のリハビリ教育の成功を振り返ってみると、優秀な講師陣を開学と同時に集めら

れたことと、新しい学習のしくみとしてのe

-University を導入したことであろう。まだ、

IT としての試みについては、これからであろうが学生たちがパソコンを通して、これまで

の学習方法以上に新しい可能性にチャレンジできていることを目の当たりにした。

教えるほうも教えられるほうも、ネットワーク環境のなかでオープンな学習が可能になり、

その教授品質も高まっていると予測される。今回はじめての卒業生を輩出する星城大学で

は、その学生たちが社会でどのように活躍し評価されるかによって、この学習システムの

秀逸さが証明されていくことになるだろう。

e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 5-72

6

終 わ り

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

6

まとめ

このプロジェクトでは、リハビリテーション教育の現場において、

ID を研究し教育内容の

開発に応用するだけでなく、実際に e ラーニングのコンテンツ開発を行った。その効果、

学生がどのように新しい教育方法に反応を示すのかを検証した。別冊『教育プログラムに

基づいたコンテンツ開発及び教授例』の報告にもその結果を詳細に掲載しているが、これ

までに実施してきた医療教育のやり方と大きく異なっているために、学生からもさまざま

な意見が発せられている。また、分析・開発段階で、

ID 手法の概念習得から実際の応用ま

で実際に導入していくのにはかなり苦労した。

本プロジェクトでは、専門学校

2 校に分かれて、それぞれ違ったテーマで検討を行ったが、

未開拓の分野ということもあり、非常に新鮮にかつ有意義な結果が得られたと思われる。

CRI 技法によって医療教育の現場がすべて変えられるわけではないが、職員や講師のほう

からもかなり好意的な意見が見受けられた。

また、アットマーク高等学校、国際電気セミコンダクターサービス、星城大学の訪問から、 e ラーニングをいかに効果的に導入するか、かつ運営面においてさまざまな障害をどう乗り

越えるかのヒントを見出すことができた。この

3 つの団体での活用を振り返ると、理想的

なことよりもいかに現実な運営を実現するかが大切であると教えられる。たとえば e ラー

ニングといっても、すべてテキストを電子化する必要があるわけではなく、通常のテキス

トが使えるものならそれでもかまわないのである。このように現実面を直視しながら、

IT

を効果的に活用する知恵が必要である。

本報告書では

ID の考え方、分析の仕方、そしてそれを e ラーニングコンテンツに仕立てる

ための手法や計画の仕方などをまとめてある。リハビリテーション分野だけでなく、他の

分野の教育にも必ず有用であると確信している。この報告書の中の事例や手法をぜひ活用

して、教育効果を向上する一助としていただきたい。

以上 e ラーニング教材開発および教授法の教育プログラム 6-2

平成

17年度 文部科学省委託

専修学校教育重点支援プラン eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム

平成

18 年 3 月 1 日 初版第 1 刷発行

発 行 「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの eラーニング教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト

「インストラクショナルデザイン手法を用いたリハビリテーションの e ラーニング

教材開発および教授法の教育プログラム開発」プロジェクト事務局

(学校法人麻生塾 麻生情報ビジネス専門学校内)

812-0016 福岡市博多区博多駅南 2-12-32

TEL:092-415-2290 FAX:092-415-2295

http://www.asojuku.ac.jp

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