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Sn-Zn 系低温鉛フリーはんだ接合部の信頼性評価

技術レポート

Sn-Zn 系低温鉛フリーはんだ接合部の信頼性評価

中川 泰利、青木 雄一 技術開発本部 信頼性研究室

永井 孝幸 エスペック環境試験技術センター株式会社 横浜試験所

現在、電子部品および部品実装に用いられるはんだ材の鉛フリー化が進められている。鉛入り

はんだと比較して、鉛フリーはんだは高融点であるため実装時の部品への影響が懸念されてい

る。鉛フリーはんだの中で、Sn-Zn 系はんだは低融点はんだとして知られ、実用化されつつあ

る。今後更なる実用化のためには、Sn-Zn 系はんだ材に対する信頼性評価について検討する必

要がある。

そこで、本報告では鉛フリーはんだである Sn-8Zn-3Bi はんだの各種信頼性評価を行った。

1. はじめに

近年、電子機器業界では環境保護の観点から電子機器などへの有害物質の含有を規制する「RoHS

指令」に伴い、国内外のメーカー各社は鉛フリーはんだの実用化を急速に進めている 1) 。鉛フリー

はんだを実用化する上で注意すべき点の 1 つとして、融点の違いがある。一般的に、鉛フリーはん

だの融点は、鉛入りはんだの融点(Sn-Pb 共晶はんだ:183℃)より高いため、実装部品への影響を

考慮する必要がある。代表的な鉛フリーはんだとして Sn-3Ag-0.5Cu はんだがある。これは、高信

頼性であるが融点が約 220℃と従来の共晶はんだに比較して高い。一方、Sn-8Zn-3Bi はんだは融点

が約 200℃であり、鉛フリーはんだとしては低融点であるため、実用化に向けて注目されている

1)

本報告では、Sn-Zn 系はんだに注目し、その信頼性評価として、はんだ接合部に対して各種環境

試験を実施した。さらに、熱的および機械的ストレスの影響を調査するため、はんだ接合部につい

て引張強度測定、断面観察およびシミュレーションを行い評価したので報告する。

1 エスペック技術情報 No.38

Sn-Zn 系低温鉛フリーはんだ接合部の信頼性評価

2. 実験方法

写真 1 および表 1 に評価基板、試料条件を示す。評価用はんだ材には Sn-8Zn-3Bi、比較用はんだ

材には Sn-3Ag-0.5Cu を用い、大気雰囲気中で実装した。実装試料としては表面実装部品 QFP(100

ピン仕様)を用いた。QFP の表面処理には Sn-10Pb めっきと Ni/Pd/Au めっきを施している。

写真 1 鉛フリーはんだ評価基板の外観(100mm×100mm×1.6mm)

はんだ組成

(mass%)

実装部品

評価基板

表 1 評価用はんだ組成と実装部品

Sn-8Zn-3Bi

Sn-3Ag-0.5Cu

QFP:0.5mm ピッチ、100pin、リード材 Cu

表面処理(Sn-10Pb、Ni/Pd/Au)

ガラスエポキシ(FR-4)

表面処理 Cu+プリフラックス

表 2 に各種環境試験条件を示す。熱的ストレスの影響調査として高温試験、温度サイクル試験を

実施した。また、熱的および機械的ストレスの影響調査のため、温度と振動を組み合せた複合環境

試験を実施した。

高 温 試 験

温度サイクル試験

複合環境試験

表 2 試験条件

温度:125℃

試験時間:125、250、500、1000 h

温度:-40/125℃ 各 30 分

試験サイクル数:250、500、1000 cyc

温度:125℃

掃引周波数:54±5 Hz

加速度:9.8 m/s 2

試験時間:100 h

複合環境試験を行うに際して、評価基板(以下基板)の共振探索を行った。写真 2 に共振探索の

様子を示す。基板は 2 点で固定し、試験温度 125℃、掃引周波数 10~100 Hz で行った。図 1 に共振

探索の結果を示す。この結果から、掃引周波数は複合環境試験では 54±5Hz とした。

エスペック技術情報 No.38

2

Sn-Zn 系低温鉛フリーはんだ接合部の信頼性評価

写真 2 試料の共振探索試験 図 1 共振探索結果

各種環境試験後のはんだ接合部の評価は引張強度測定および断面観察で行った。図 2 に引張試

験測定の様子を示す。試料台は 45°傾け、引張移動速度は 20 mm/min で行い、QFP リードの剥離

時のピーク強度を測定した。測定点は QFP の各コーナーで行った。

引張試験器:RTC-1350A(オリエンテック製)

図 2 引張強度測定

はんだ接合部の断面観察は EPMA(電子プローブマイクロアナライザ:JXA-8100、日本電子)

を用いて行った。また、温度サイクル試験時のはんだ接合部への応力の影響をシミュレーション

(ANSYS Release 7.0)によって解析した。

3

3. 結果および考察

3-1 引張強度測定

図 3 に高温および温度サイクル試験後の引張強度の経時変化を示す。接合強度と試験時間の関

係をみると、Sn-3Ag-0.5Cu はんだでは試験時間と共に徐々に低下する。一方、Sn-8Zn-3Bi はんだ

では試験開始直後から 200h まで大きく低下し、その後試験時間と共に徐々に低下している。また、

QFP の表面処理の影響を比較すると、Ni/Pd/Au めっきでは接合強度の低下は Sn-10Pb めっきに比

べ小さい。

エスペック技術情報 No.38

Sn-Zn 系低温鉛フリーはんだ接合部の信頼性評価

図 3 引張強度経時変化(n=5 の平均)

図 4 に初期強度と各種環境試験後(複合環境試験 100h、高温試験 1000h、温度サイクル試験

1000cyc)の引張強度比較の結果を示す。Sn-8Zn-3Bi はんだは Sn-3Ag-0.5Cu はんだに比較して、

すべての環境試験において引張強度が低下していた。特に複合環境試験では、わずか 100h で強度

が大きく低下していた。

なお、本実験においては、大気中で実装作業を実施したが、窒素雰囲気下で実装したサンプルにおいては、

温度サイクル 1000 サイクル以上の信頼性が確保可能と報告されている

このことにより、実装条件によってはんだ接続状態が異なり、接合強度劣化および故障時間は大きく変わる

と予想される。

エスペック技術情報 No.38

図 4 各種環境試験後の引張強度比較(n=5 の平均)

4

Sn-Zn 系低温鉛フリーはんだ接合部の信頼性評価

図 5 に Sn-8Zn-3Bi はんだにおける、各種環境試験後のはんだ接合部断面観察の結果を示す。各試

験後とも、Sn-10Pb めっきでは基板とはんだ界面においてクラックを確認した。また、両めっき共、

Sn-8Zn-3Bi はんだとリード界面において金属間化合物である CuZn 層が確認された。一般的に、

Sn-8Zn-3Bi はんだは Cu との界面において高温時にボイドが発生することが報告されている 1) 。今

回の複合環境試験において短時間でクラックが発生した原因は、高温状態でボイドが発生した箇所

にさらに振動が加わったため、ボイドが成長してクラックに至ったと推測される。

(Sn-8Zn-3Bi はんだ Sn-10Pb めっき、複合環境試験 100h)

5

図 5 Sn-8Zn-3Bi はんだ断面観察

エスペック技術情報 No.38

Sn-Zn 系低温鉛フリーはんだ接合部の信頼性評価

3-2 金属間化合物層変化と引張強度の関係

次に、断面観察の結果から、それぞれのはんだ材に対するリードとはんだ界面における金属間化

合物層の時間変化を測定した。図 6 に高温試験時の試験時間に対する金属間化合物層の変化および

前節の引張強度の結果を示す。金属間化合物層は Sn-3Ag-0.5Cu はんだでは CuSn 層、Sn-8Zn-3Bi

めっきの組合せが最も成長していることがわかった。これは、Sn に対して Zn は反応性が高いため

であると考えられる。他方、部品表面処理において、Ni/Pd/Au めっきは試験時間約 500h から金属

間化合物がほとんど成長していない。これは、めっきに含まれる Ni がバリア層になり金属間化合

物の成長を抑制していることが考えられる。これらの結果と引張強度の結果を比較すると、接合強

度は金属間化合物層の成長と関係していると考えられる。

(a)金属間化合物層変化(n=1)

エスペック技術情報 No.38

(b)引張強度変化(n=5 の平均)

図 6 高温試験の金属間化合物層成長と引張強度の関係

6

Sn-Zn 系低温鉛フリーはんだ接合部の信頼性評価

3-3 応力分布シミュレーション

図 7 に有限要素法を用いた 2 次元断面の解析モデルを示す。解析モデルは対称性を考慮して QFP の

1/2 を作製し、対称線上の節点に対称条件を与えている。表 4 にシミュレーションに用いた材料定数

を示す 2),3) 。

7

Cu

FR-4(基板)

エポキシ樹脂

(パッケージ)

Sn-37Pb

Sn-3Ag-0.5Cu

Sn-8Zn-3Bi

図 7 はんだ接合部解析モデル

表 4 材料定数

ヤング率(GPa)

129.8

22.8

ポアソン比

0.3

0.28

15.0

25.6

38.5

23.1

0.24

0.37

0.38

0.35

熱膨張率(ppm/K)

16.5

15.0

27.0

24.6

21.7

19.5

温度条件は温度サイクル試験を想定し、常温 25℃から 125℃および-40℃とし、線形変化させた

時の各はんだ材に対する接合部の応力分布を比較した。今回、鉛フリーと鉛入りはんだの比較と

して、従来の共晶はんだの解析も行った。

図 8 に 25℃から 125℃および-40℃へ変化させた時のひずみ分布の結果を示す。応力は熱ストレ

スによる基板とパッケージの熱膨張係数のひずみの差から生じる。結果として、応力分布は鉛フ

リーはんだではフィレットのヒール部に集中し、鉛入りはんだでははんだ接合部のフィレットの

前後に分散している。応力の大きさは Sn-8Zn-3Bi はんだが最も大きく、Sn-3Ag-0.5Cu はんだが

最も小さかった。このことから、はんだ材のヤング率が小さいほど、はんだ接合部に加わる応力

は大きくなると考えられる。この結果から、熱ストレスにおいて、Sn-8Zn-3Bi はんだでは、応力

が集中するフィレットのヒール部分からクラックが発生しやすいと考えられる。他の文献におい

ても、温度サイクル試験ではフィレットのヒール部からクラックが発生し、そこから界面剥離へ

進展したという結果が報告されている 4),5) 。しかし、今回の実験結果では、シミュレーションと

異なる結果となり、基板とはんだの界面で剥離が発生している。これは、基板の銅パターンの表

面処理がプリフラックスであり、シミュレーションのパラメータとして金属間化合物層を考慮し

ていないためであると考えられる。

エスペック技術情報 No.38

Sn-Zn 系低温鉛フリーはんだ接合部の信頼性評価

エスペック技術情報 No.38

図 8 温度変化時のシミュレーション解析結果

8

Sn-Zn 系低温鉛フリーはんだ接合部の信頼性評価

4. まとめ

および Sn-3Ag-0.5Cu に対する各種環境試験の影響を調査し、以下のような結論を得た。

合強度は低下する。

(2)熱的および機械的ストレスを組み合せた場合、熱的ストレスのみの場合と比較して Sn-8Zn-3Bi

はんだは短時間で接合強度が低下する。

(3)シミュレーションの結果、はんだ接合部において、応力はフィレットのヒール部分に最も集中

する。

これらの結果から、Sn-Zn 系はんだ接合部の劣化には、高温環境下による金属間化合物の成長

および Cu→Cu パターン界面におけるボイド発生が関係していると考えられる。特に、銅パター

ン+プリフラックス処理の基板を用いた場合、Sn-Zn 系はんだは高温環境下において接合強度劣

化の進行が Sn-3Ag-0.5Cu はんだに比較して早いため、実装条件および使用環境を十分に検討する

ことが望まれる。

〔参考文献〕

1) 金 槿銖、金 迎奄、菅沼克昭、中嶋英雄:「高温保持による Sn-Zn 系鉛フリーはんだと Cu

接合部の微細組織変化」、エレクトロニクス実装学会誌、Vol.5、No.7、P.666-671、エレクトロ

ニクス実装学会、(2002)

2) 横田康夫、渡辺正樹:「熱疲労シミュレーションによる鉛フリーはんだヒートサイクル試験期

間の適正化」、エレクトロニクス実装学会誌、Vol.7、No.1、76~81、エレクトロニクス実装学会、

(2004)

3) 伊藤 寿、津田達也、十川敬寛、舘山和樹、原 悟、森 郁夫、高橋博之、向井 稔、川上 崇:「挿

入はんだ部品における各種鉛フリーはんだ信頼性」、8th Symposium on “Microjoining and

Assembly Technology in Electronics”、P.199~204、社団法人溶接学会、(2002)

4) 寺崎 健、長埜浩太、三浦英生、中塚哲也:「周辺端子型 LSI パッケージにおける鉛フリーはん

だ接合部の熱疲労寿命予測」、7th Symposium on “Microjoining and Assembly Technology in

Electronics”、 P.441~446、社団法人溶接学会、(2001)

5) 藤内伸一、森 史成、中村隆夫、小石高三:「Sn-Zn-Bi 系鉛フリーはんだを用いた QFP リード継

ぎ手の熱疲労評価」、7th Symposium on “Microjoining and Assembly Technology in Electronics”、

P.447-450、社団法人溶接学会、(2001)

9 エスペック技術情報 No.38

環境試験器における保全性

技術解説

環境試験器における保全性

榎本 真一 資材本部 資材調達部 テクニカルプロキュアメントグループ

環境試験器における保全性について、予防保全、事後保全および予知保全に分け、当社の取り組みについて

紹介する。

1. はじめに

信頼性の維持,回復,向上をおこなうことが保全であり、それをいかに短時間で容易に行なえる

かが保全性である。

環境試験器は、信頼性や寿命を確認するために、温度や湿度などの環境因子を対象の試料に印加

する装置であり、ご購入後 10 年以上にわたって使用されているお客様が多く、保全性は信頼性の確

保の上で重要な要素である。

ここでは、予防保全と事後保全の視点で、信頼性を維持するための整備や回復するための修理、

および、信頼性を向上するための改修について、環境試験器を管理運用していく上での注意事項と

メーカーとしての取り組みを報告する。

また、予知保全の視点で現状の取り組みを紹介する。

2. 予防保全における取り組み

環境試験器を使用されるお客様はさまざまであり、大手の総合電機メーカーなどは、営繕係等の

設備の保守を行なう専門部門が設置されているが、大部分の企業では、試験器を使用する担当者が

予防保全活動を行なっているのが実情であり、保全のレベルが大きく異なっている。

メーカーとしては、できる限りメンテナンスフリーを目指して装置開発を行うとともに、保全作

業を怠った場合にも致命的な故障に至らないように、保安回路の充実を図っている。

お客様にお願いしなければならない項目については、お客様が保全作業を容易に行なえるよう配

慮し、取扱説明書はもちろん、ホームページや装置の表示器でも内容を確認できるようにしている。

(図 1)

予防保全活動の作業内容を大きく分けると、清掃、点検および交換に分けることができる。

エスペック技術情報 No.38

図 1 表示器での表示例

10

環境試験器における保全性

2-1 清掃

図 1 にある点検保守の内容をみると、清掃の項目が半数を占めることがわかる。清掃は、お客

様にお願いする予防保全活動の中で最も重要な項目である。

環境試験器を構成する部位で清掃が重要な部位は、湿度制御を行なうための水回路と冷却を行

なう冷凍機である。

水回路には、ごみつまりを防止するためにフィルターが設置されており、これらの清掃が必要

となる。また、環境試験器では湿度を発生させるための水および、湿度を計測するための水に純

水を使用いただいているが、長期間滞留していると微生物が発生する場合があり、定期的に排水

する必要がある。

次に、冷凍機を構成する圧縮機は、その使用条件範囲や各部の温度や圧力について管理基準が

厳しく規定されている。逆の見方をすると、厳しく管理基準を設定しないと故障してしまう部品

であり、管理基準内での運転でも、温度や圧力の高い状態で運転されるほど寿命が短くなる。

空冷式の場合、凝縮器のフィンについたほこりによる風量の低下、水冷式の場合、ストレーナ

に詰まった砂などの汚泥による水量低下によって運転圧力が上昇するため、これらの定期的な清

掃が必要である。

メーカーの対応としては、空冷式の場合、凝縮器の清掃が行ないやすいようフィルターを設け、

フィルターが取り出しやすいよう配慮したり、凝縮器の汚れを差圧でとらえ、凝縮器の清掃時期

をお知らせしたりするなど、省力化と注意喚起をおこなっている。

11

図 2 フィルターの清掃

清掃は、装置の安定した運転のために必要なばかりでなく、装置を大事に使うといった意識付け

のためにも重要であり、定期的に実施していただきたい。

2-2 点検

お客様にお願いしている定期点検項目は、漏電遮断器や過昇防止器などの通常動作することのな

い保安回路の動作テストであり、安全性の観点で設けている項目である。

本来、点検は、装置の異常を事前に発見し、故障を未然に防止するもので、修理する場合でも計

画的におこなうことで機会ロスによる損失費用を低減させるものである。その意味では、点検にお

いて重要なことは、装置の運転状態を定期的に記録することである。装置の運転圧力や温度、温度

変化時間、電流値などの記録を取ることは、異常の早期発見に有効なばかりでなく、故障時の原因

解明にも有効である。

点検は、後の予知保全につながる重要な項目であるが、その実施にあたっては専門的知識が必要

であり、メーカーのサービスマンに依頼するのが望ましい。

エスペック技術情報 No.38

環境試験器における保全性

エスペック技術情報 No.38

2-3 交換

予防保全における交換は、専門家による点検・診断によって異常が発見された場合に実施される。

パッキンや蝶番など磨耗系故障を起こす部品や、ヒューズなど消耗品が定期交換部品として設定さ

れている。

2-4 当社の保守サービス

予防保全活動のうち、診断が伴う点検と交換は専門的知識が必要であり、メーカーに依頼するの

が望ましい。メーカーでは、清掃・点検および交換の作業を統合して行なう年間保守サービス等の

メニューを用意している。

当社の場合、劣化故障部品をフィールドデータにもとづいて設定し、事前に交換することによっ

て、次回の点検整備まで磨耗・劣化故障をゼロにしようとする「予防保全型保守契約」と診断整備

点検を行い、寿命・劣化部品を見つけ、お客様に交換部品見積を提出後、承認をいただき部品交換

を実施する「診断型保守契約」とがある。

「予防保全型保守契約」では、寿命・劣化故障部品の交換を最小限にかつ適正に行うために、過

去 3 年間のフィールドデータから製品別、製品を構成する系統別、部品別にそれぞれの平均故障間

隔(MTBF) を求めて交換時期を算出し、このデータからの個々の部品における故障モードを参考に

点検整備の診断をより正確に行い、磨耗・劣化故障時間のバラツキ度合いを掌握し、交換・処置す

るしくみをとっている。

3. 事後保全

事後保全では、いかに早く装置を復旧し、機会ロスによる損失を最小にするかが重要である。

当社は 24 時間サービス体制をとり、オンコールから1日以内のサービス実施率 80%以上を目標に取

り組んでいる。(2003 年度の実績 80.8%)

また、近年の IT 技術の発展によって、従来特別の集中管理システムで行なっていた装置の管理が

容易に行なえるようになっており、装置を企業内のイントラネットに繋いで担当者の自席から監視

したり、装置が警報を発生すると担当者に PHS で連絡したりすることも可能である。

今後は、装置と警備会社のメンテナンス部門を繋ぎ、装置が警報を発生した場合は装置教育を受

けた技術者が駆けつけるサービスも提供する予定である。

12

環境試験器における保全性

4. 予知保全

従来は、点検により正常状態から逸脱していないかを確認し、逸脱している場合はその原因を除

去するか、除去できない場合はその部品を交換していた。

予知保全を行なうには各部品の故障メカニズムを把握し、故障によって引き起こされる現象を電

流や温度などの物理量で計測する。次に、測定された物理量が装置として正常範囲にあるかを判定

することが必要である。

さらに、これらの計測は連続的に行なわれることが望ましい。なぜなら、連続的に測定されるこ

とで、通常時との状態から逸脱していく経時的変化を捉えることができるからである。

現在の装置には、庫内の温度や湿度といった制御データのほか、冷凍機の凝縮・蒸発温度といっ

たデータもすでに計測されている。本来、予知保全を行なうために装備されているわけではないが、

ある程度の情報はすでに持っており、サービス時の診断に利用されている。また、これらの測定デ

ータが調節器内にあるということは、予知保全を行なうために新たに計測器を追加せずにすみ、通

信によってこれらの情報を連続的に計測することがすでに可能な状況になっているのである。

予知保全を行なうための現在の課題は、診断である。装置の正常な運転値は、装置の種類によっ

ても異なり、同一の装置でも運転環境や試験条件によって異なるため、一律の管理基準を設定する

ことができない。そこで、明らかに仕様範囲を超えた余裕を持った値を設定すると、基準値に達し

たときにはすでに部品は劣化しており、事前に予知することにならない場合がある。

この課題を解決するためのひとつの答えが、連続計測されたデータを元に個々の運転状態におけ

る正常値を蓄積し、時系列的に比較する手法である。後は、ばらつきを見越して個々の運転条件に

おいて基準値を与えればよい。当社では、出荷検査時のデータを自動計測し蓄積するシステムを構

築しており、装置個々の正常な運転状態のデータを蓄積している。これらのデータはサービス時の

診断に利用されているが、今後さらにデータを蓄積しばらつきを把握することで、運転条件に応じ

た基準値の設定が可能であると考えている。

13 エスペック技術情報 No.38

環境試験器における保全性

エスペック技術情報 No.38

図 3 冷熱衝撃装置の自動検査システム図

14

環境試験器における保全性

5. おわりに

環境試験器における保全性への取り組みを、今後の取り組みを含めてまとめると図 4 のようにな

る。

図 4 保全への取り組み

今後は、自動化された予知保全への取り組みと、IT 技術を用いて装置とサービス会社を結び、遠

隔地から装置を診断するリモートメンテナンスシステムへ発展していくと思われる。

今回は、保全性について当社の取り組みを紹介した。保全の重要性を再確認し、装置を大事に使

っていただければ幸いである。

〔参考文献〕

1) 宮村鐵夫:「信頼性工学とは、耐久性、保全性、人間信頼性の視点から」、草のみどり、第 114

号、(1998.3)

2) ,「保全管理システム事例」、

社団法人日本プラントメンテナンス協会

3) 「IT 時代の設備管理と予知保全技術(1)」、

日本診断工学研究所

15 エスペック技術情報 No.38

新製品紹介 環境調和型製品開発支援 VOC 放散測定チャンバー

トピックス

新製品紹介 環境調和型製品開発支援 VOC 放散測定チャンバー

末久 和広 事業開発本部 技術グループ

森本 雅文 事業開発本部 事業開発 1 部

1. はじめに

今回ご紹介する VOC 放散測定チャンバーは、建築材料、家具、自動車部品、家電製品等から放

散されるホルムアルデヒドや揮発性有機化合物(VOC)の量を測定するための装置です。

これらの化学物質を測定する方法は、いくつかの手法が規格化されていますが、当社では最も一

般的である「チャンバー法」に則った測定が行なえる装置として企画/開発しましたので、その概

要についてご紹介いたします。

写真 1 VOC-010 装置外観

2. なぜ VOC 放散測定が必要なのか?

シックビルディング/シックハウス/シックスクールシンドロームなる言葉を、最近よく耳にす

ると思います。これらは、建築技術の向上および省エネルギーのために高気密な建物が多く建てら

れた結果、内装に使用された建材から放散された化学物質の気中濃度が著しく高くなり、その建物

への入室者が吐き気、頭痛、目がチカチカする等の不快感を感じることをいいます。その結果、一

部の人々は化学物質過敏症となって日常生活にすら支障をきたすようになり、大きな社会問題とな

ってきました。

そこで、居室内の化学物質濃度を低減しようという気運が高まり、厚生労働省が居室内における

「化学物質気中濃度の指針値」を示しました。また、「建築基準法」が改正され、ホルムアルデヒ

ドの放散が多い建築材料の使用が制限されるようになり、クロルピリホス *1 は使用禁止となりまし

た。また、学童保護の観点から文部科学省が学校保健法に基づく「学校環境衛生の基準」を改正し、

教室内の化学物質濃度に対してより厳しい規制(6 物質)をかけるようになってきました。

エスペック技術情報 No.38 16

新製品紹介 環境調和型製品開発支援 VOC 放散測定チャンバー

表 1 厚生労働省 個別物質の室内濃度指針値

物 質 名 室内濃度指針値

ホルムアルデヒド 100μg/m

3

(0.08 ppm)

トルエン

キシレン

パラジクロロベンゼン

エチルベンゼン

スチレン

260μg/m

3

(0.07 ppm)

870μg/m

3

(0.20 ppm)

240μg/m

3

(0.04 ppm)

3800μg/m

220μg/m

3

3

(0.88 ppm)

(0.05 ppm)

1μg/m

3

(0.07 ppb)

クロルピリホス

0.1μg/m

3

(0.007 ppb):小児の場合

フタル酸ジ-n-ブチル

テトラデカン

フタル酸ジ-2-エチルヘキシル

ダイアジノン

アセトアルデヒド

フェノブカルブ

総揮発性有機化合物(TVOC)

220μg/m

3

(0.02 ppm)

330μg/m

3

(0.04 ppm)

120μg/m

3

(7.6 ppb)

0.29μg/m

3

(0.02 ppb)

48μg/m

3

(0.03 ppm)

33μg/m

3

(3.8 ppb)

暫定目標値 400μg/m

3

~厚生労働省の HP より再構成~

表 2 文部科学省 「学校環境衛生の基準」における個別物質の室内濃度について

物 質 名

ホルムアルデヒド

トルエン

キシレン

パラジクロロベンゼン

エチルベンゼン

スチレン

判定基準値

100μg/m

3

(0.08 ppm)

260μg/m

3

(0.07 ppm)

870μg/m

3

(0.20 ppm)

240μg/m

3

(0.04 ppm)

3800μg/m

3

(0.88 ppm)

220μg/m

3

(0.05 ppm)

~文部科学省の HP より再構成~

このように、当初、新築住宅/ビルを対象とした建築材料に関する規制と考えられていた化学物

質放散問題ですが、実際の生活環境における濃度指針値が示されている現在では、室内で使用され

る全ての工業製品に対する規制と考えても差し支えない状況となっています。現在、さまざまな化

学物質に関する安全性が調査されている中、人間が呼吸により曝露を受ける空気質の問題は疾病と

の因果関係の解明とともに益々身近で重要な問題となると同時に、製品や材料の開発において重要

な要件のひとつになると考えられます。

17 エスペック技術情報 No.38

新製品紹介 環境調和型製品開発支援 VOC 放散測定チャンバー

3. VOC 放散測定の方法について

化学物質の放散量測定には、次の 2 つのステップがあります。1 ステップ目は、ある環境条件下

で試料から放散する化学物質を捕集する、2 ステップ目は捕集したサンプルの化学分析をする、で

す。今回ご紹介する VOC 放散測定チャンバーは、1 つ目の化学物質を捕集するための装置となって

います。2 つ目の化学分析については次の機会に詳しくご紹介する予定です。

試料から放散した化学物質を捕集する方法には、測定対象物質に応じていくつかの方法が規格化

されています。ホルムアルデヒドを測定対象物質とした「デシケータ法」は古くから国内外で使わ

れている方法です。もっと広い範囲の化学物質を測定対象とした測定方法として、日本のみならず、

世界中で規格化されている方法が「チャンバー法」です。これは、試料を設置した空間に一定量の

換気空気を導入し、その排気空気の一部を捕集して放散速度 *2 を求める方法です。これは、実際の

室内環境を想定した環境で捕集を行なう方法です。

エスペック技術情報 No.38

図 1 VOC 放散測定チャンバーのイメージ

18

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新製品紹介 環境調和型製品開発支援 VOC 放散測定チャンバー

地 域

E U

ドイツ

米 国

日 本

番 号 等

表 3 世界中で規定されているチャンバー法

測定対象物質 測定対象製品

ECA

ENV717-1

※1 Report №2

ENV13419-1

ECMA ※2 -328

VOC 建 材

VOC,O

,粒状物質 電子機器

ブルーエンジェルマーク VOC,O

,粒状物質 複写機、プリンタ、複合機

VDA276

VOC 自動車の内装部品ユニット、部品

(自動車工業会規格)

ASTM E1333-96

EPA ※3

ASTM D5116-97

ホルムアルデヒド

ホルムアルデヒド 木質材料(建材、家具)

ホルムアルデヒド 木質製品

VOC,アルデヒド類

VOC

木質材料

室内で使用する製品全般

内装材料および木質製品の小型サンプル

ASTM D6670-01

JIS-A1901-2003

VOC

VOC,

ホルムアルデヒド

室内で使用する素材、製品(建材、家具、一

般消費財)と、機器(プリンタ、複写機、空

気清浄機等)

建築材料(建築ボード、壁紙、カーペット、

接着剤、塗料等)

※1 EUROPEAN CONCERTED ACTION INDOOR AIR QUALITY & ITS IMPACT ON MAN

※2 ECMA-INTERNATIONAL

※3 Environmental Technology Verification Test Protocol Large Chamber Test Protocol for

Measuring Emissions of VOCs and Aldehydes.

エスペック技術情報 No.38

新製品紹介 環境調和型製品開発支援 VOC 放散測定チャンバー

4. VOC 放散測定チャンバーについて

さまざまな大きさの試料に合致するよう 5 種類の容積からなる VOC 放散測定チャンバーシリーズ

を企画/開発しました。その第一段として、1m

3

容積の「VOC-010」を発売しました。

4-1 製品ラインナップと主な仕様

国内外のチャンバー法規格を調査し、さまざまな規格に適合する製品仕様として、以下の 5 種類

のチャンバーをご用意しました。

型 式

チャンバー容積

チャンバー内寸法

制御温度範囲

制御湿度範囲

温湿度変動幅

温湿度分布

換気回数(回/h)

槽内物質伝達率

表 4 VOC 放散測定チャンバーの主な仕様

VOC-010

1m

3

W1,000mm

D 910mm

H1,100mm

VOC-020

2m

3

W2,000mm

D 910mm

H1,100mm

VOC-070

7m

3

W2,000mm

D1,500mm

H2,400mm

VOC-120 VOC-240

12m

3

W2,500mm

D2,000mm

H2,400mm

24m

3

W4,000mm

D2,500mm

H2,400mm

+20~+100℃(測定時)

+80~+250℃(加熱時)

30~90%RH

(+20~+50℃)

+20~+40℃(測定時)

+100℃ (加熱時)

40~80%RH

(+20~+40℃)

±0.5℃/±5%(無負荷、無試料時)

0.2~2.0

±1.0℃/±5%(無負荷、無試料時)

0.2~1.5

9~18m/h(水蒸気換算)

0.2~2.0

バックグラウンド濃度

発売時期

単一物質値:5μg/m

3

TVOC 値:20μg/m

3

2004.05.20

単一物質値:10μg/m

3

TVOC 値:50μg/m

3

2004.09(予定)

※4

※4 個別対応による販売は、随時対応いたします。

4-2 製品の特徴

4-2-1 侵入・放散熱、発熱に対応したエアジャケット方式の採用

チャンバー法では、インナーチャンバーに供給できる空気の量が規定されており、概ね 0.5~1.0

回/h となっています。そのため、この供給空気量だけではチャンバー内の温度/湿度は制御でき

ません。(一般的な恒温恒湿槽では、60~100 回/h もの空気が内部循環しています。)また、ホル

ムアルデヒド等の化学物質は、水に溶け込みやすい性質も持っていますので、一般的な恒温恒湿槽

のように、チャンバー内の空気を空調機に循環させると結露水に溶け込んでしまい、正確な測定が

できません。

そこで当社では、JIS 規格等で定められている 28 日間の測定期間でも温度/湿度が安定して維持

できるエアジャケット方式を採用しています。これにより、槽内温度のバラツキを±0.2℃(無負荷

無試料条件)に安定させることが可能となっています。また、エアジャケット方式を採用したこと

により、インナーチャンバー内の発熱負荷の状況に応じて、恒温槽の温度を調節し、発熱負荷が設

置された場合でもインナーチャンバー内の温度上昇を防ぐことができます。

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4-2-2 インナーチャンバー素材の選定

化学物質のもう 1 つの特徴として、金属面に付着しやすいという性質があります。測定法規格で

も、金属表面の電解研磨処理を推奨しています。当社では素材選定の段階から吟味を重ね、電解研

磨処理以上の表面平滑度を持つ素材を選定し採用しています。これにより、JIS 規格等で要求され

ている回収率 *3 も充分満足することができています。

4-2-3 物質伝達率の確保

化学物質の放散は、大きく 2 つのタイプに分類することができます。蒸散支配型と呼ばれる、塗

りたてのペンキや洗濯物のように、風が吹く(表面風速が上がる)ほどに乾く(蒸散していく)タ

イプのものと、内部拡散支配型と呼ばれる、素材内部での化学物質の移動により放散量が決まって

くるタイプのものです。これは、スポンジに例えて考えられるとイメージが湧くかと思います。実

際の製品はこれらの特質を持った材料が組み合わさって構成されていますので、試料表面の風速は

放散量測定に大きな影響を及ぼします。JIS-A1901 では、この性質をより明確に表現するために、

水蒸気換算の物質伝達率で、チャンバーの性能を規定しています。当社製品は、JIS 規格の要求値

である 9~18m/h を全ての機種で満足しています。

一方、家電品など発熱を伴う製品においては、非常に高い濃度の化学物質が機器排気口から放出

されることが予想されます。そこで、チャンバー内に設けた攪拌ファンを動作させることによりチ

ャンバー内の濃度分布をなくし、均一な条件で測定をすることが可能となっています。(VOC-010

では、オプション対応となります。)

4-2-4 バックグラウンド濃度の低減

チャンバー法において重要なファクターとなるのが、バックグラウンド濃度です。当社では、測

定される空気が曝露される部分に使用する素材を吟味し、チャンバー自身からの化学物質の放散を

極小化し、低バックグラウンド濃度を実現しています。また、試験完了後、容易に初期状態に戻せ

るようベーキング運転モード(VOC-010/020 で 250℃、-070/120/240 で 100℃の加熱運転)を設け、

長期にわたるバックグラウンド濃度の確保に留意しています。

4-2-5 簡単操作

操作については、従来の製品群と同様にタッチパネル式の操作画面を装備しており、温度、湿度、

換気回数を入力していただくだけの簡単操作となっています。また、サンプリングポンプも標準装

備しています。家電品などの場合に必要となるコンセント、電源ケーブルを通すために必要な特殊

ケーブル孔、3 段階切り替えのできる攪拌ファン等のオプション品もご用意していますので、最適

な条件で試験を行なっていただくことが可能です。

4-2-6 分析サービス

当社チャンバーを導入いただいた場合は、先ほどご説明した化学物質の放散量測定の第 2 ステッ

プにあたる化学分析に関しましても、当社宇都宮テクノコンプレックス(UTC)の計量センターに

て捕集管の化学分析を承ることが可能です。(商品内容の詳細につきましては、次の機会に分析方

法の説明と併せてご紹介する予定です。)

エスペック技術情報 No.38

新製品紹介 環境調和型製品開発支援 VOC 放散測定チャンバー

5. おわりに

「VOC 放散測定なら ESPEC」のキャッチコピーのもと、1,2,7,12,24m 3 容積の放散測定チャンバ

ーおよび化学分析の受託サービスを順次ご提供し、さまざまな対象製品/対象化学物質/測定規格

に対応した商品/サービスをご提供してまいります。詳しくは、お近くの営業所もしくは当部まで

お気軽にお問い合わせください。

[用語解説]

*1. クロルピリホス

農薬やシロアリ駆除剤などに使用されている有機リン系殺虫剤。

*2. 放散速度

試験開始時点から規定する経過時間において、単位時間当たりに放散される VOC,ホルムア

ルデヒドおよび他のカルボニル化合物の質量。

*3. 回収率

チャンバーの性能を示す指標の 1 つ。試料から放散した化学物質の濃度と、出口空気より得ら

れた化学物質濃度の割合。JIS-A1901 では、80%以上であることが要求されている。これは、

チャンバー壁面への付着の影響、内部空気の滞留によるチャンバー内の濃度分布が無いことを

示す指標となる。

●お問い合わせ先

エスペック株式会社 東京テクニカルセンター(略称:TTC)

東京都江東区東砂 8 丁目 5 番 1 号 〒136-0074

事業開発本部 事業開発 1 部 森本 雅文

TEL:03-5633-7297・FAX:03-5633-7303

E-mail:[email protected]

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