全文 - Azbil Corporation

全文 - Azbil Corporation
Contents
巻頭言 : 制御からのイノベーション「グローカル制御」の実現に向けて ………………… 1
東京大学 情報理工学系研究科 教授 原
辰次
省エネルギー技術
CO2 管理を支援する小規模建物向けビルディングオートメーション・システムの開発 …… 2
株式会社 山武 ビルシステムカンパニー 真木
義郎
ASP 型省 CO2 サービスと学習型熱源最適化制御 ………………………………………… 10
株式会社 山武 近田
株式会社 山武 ビルシステムカンパニー 平田
智洋 西口 純也
眞基 太宰 龍太 中村 瑞 小野寺 博
無線圧力発信器低消費電力化技術の開発 …………………………………………………… 16
株式会社 山武 木下
靖彦 瀬川 進 田辺 樹 鄭 立
熱源最適化コントローラのためのシミュレーション技術開発 …………………………… 22
株式会社 山武 ビルシステムカンパニー 松尾
裕子
計測制御技術
サファイア高温隔膜真空計のセンサ素子・パッケージ開発 ……………………………… 28
株式会社 山武 関根
サファイア高温隔膜真空計の開発
正志 石原 卓也 差波 信雄 谷 武夫
………………………………………………………… 34
株式会社 山武 アドバンスオートメーションカンパニー 吉川
株式会社 山武 山口
康秀 原田 英史 市原 純 長田 光彦
徹
微少流量向け熱式流量センサの開発 ………………………………………………………… 42
株式会社 山武 池
信一
電気式温度調節器の設計技術研究 …………………………………………………………… 48
株式会社 山武 ビルシステムカンパニー 末武
東京電機大学 雅俊 石塚 保夫
藤田 壽憲
ワイヤレス VAV/FCU システムの開発 …………………………………………………… 54
株式会社 山武 ビルシステムカンパニー 柏屋
弘 水高 淳
ドライガス測定ニーズに応える低露点計測技術の向上 …………………………………… 60
株式会社 山武 山口
株式会社 山武 アドバンスオートメーションカンパニー 井端
徹 中垣内 直美
一雅 金井 良之
安全安心実現のための技術
燃焼安全制御技術を用いたコントローラの開発 …………………………………………… 70
株式会社 山武 アドバンスオートメーションカンパニー 熊澤
雄一
生産性向上のための技術
製造データの超効率的解析による高収益生産への挑戦 …………………………………… 76
株式会社 山武 アドバンスオートメーションカンパニー 山縣
謙一 黒澤 敬 村上 英治
蒸気弁の差圧比係数の検討及びバルブ選定用ソフトウェアの開発 ……………………… 82
株式会社 山武 ビルシステムカンパニー 野間口 謙雄 佐藤 慶大 新谷 知紀 加藤 瑞樹 大矢 公紀
社内試作部門の工程管理システムの開発 ─見える化の促進とデータベースリンク─ …………… 90
株式会社 山武 福辺
卓史 佐藤 一太郎
開発現場の主体的活動によるプロセス支援システムの開発 ……………………………… 94
─プロジェクトヘの外乱を含めた計画管理・実施と現場意識の向上─
株式会社 山武 ビルシステムカンパニー 多田 朋之
Contents
Preface:Innovation from Control: Toward Realization of "Globalocal Control" ……… 1
Professor, Graduate School of Information Science and Technology, The University of Tokyo Shinji
Hara
Energy-saving Technology
A Building Automation System for CO2 Management in Small-Scale Buildings ……………………… 2
Building Systems Company, Yamatake Corporation Yoshio Maki
CO2 Reduction Solutions via ASP and Adaptive Optimization for Variable Water Temperature
Yamatake Corporation Building Systems Company, Yamatake Corporation Tomohiro Konda Junya Nishiguchi
Masaki Hirata Ryota Dazai Mizu Nakamura Hiroshi Onodera
Development of Low Power Consumption Technology for Wireless Pressure Transmitters
…… 10
……… 16
Yasuhiko Kinoshita Susumu Segawa Itsuki Tanabe Li Zheng
Yamatake Corporation Development of Simulation Technology for a Heat Source Optimization Controller ………………… 22
Building Systems Company, Yamatake Corporation Yuko Matsuo
Measurement and Control Technology
Development of the Sensor Chip and Package for a High-Temperature Sapphire Capacitance Diaphragm Gauge … 28
Yamatake Corporation Masashi Sekine Takuya Ishihara Nobuo Sashinami Takeo Tani
Development of a High-Temperature Sapphire Capacitance Diaphragm Gauge …………………… 34
Advanced Automation Company, Yamatake Corporation Yamatake Corporation Yasuhide Yoshikawa Hidefumi Harada Jun Ichihara Mitsuhiko Nagata
Toru Yamaguchi
Development of a Micro Thermal Flow Sensor with a Microchannel
Yamatake Corporation Shinichi Ike
……………………………… 42
Research on Electric Room Temperature Controller Design Technology …………………………… 48
Building Systems Company, Yamatake Corporation Tokyo Denki University Masatoshi Suetake Yasuo Ishizuka
Toshinori Fujita
Development of a Wireless VAV/FCU System
…………………………………………………… 54
Hiroshi Kashiwaya Jun Mizutaka
Building Systems Company, Yamatake Corporation Progress in Low Dew Point Measurement Technology for Dry Gases ……………………………… 60
Yamatake Corporation Advanced Automation Company, Yamatake Corporation Toru Yamaguchi Naomi Nakagaichi
Kazumasa Ibata Yoshiyuki Kanai
Technologies for Realizing Safety and Peace of Mind
Controller Development Using Combustion Safety Control Technology …………………………… 70
Advanced Automation Company, Yamatake Corporation Yuichi Kumazawa
Technology for Better Productivity
Meeting the Challenge of High-Profit Production by Super-Efficient Manufacturing Data Analysis … 76
Advanced Automation Company, Yamatake Corporation Kenichi Yamagata Takashi Kurosawa Eiji Murakami
Study of Pressure Differential Ratio Factor of a Steam Control Valve, and Development of Valve Selection Software … 82
Building Systems Company, Yamatake Corporation Yoshio Nomaguchi Keita Satou Tomonori Shintani Mizuki Katou Cokey Oya
Development of a Process Control System for a Trial Manufacturing Department ……… 90
– Acceleration of Visualization and Data Utilization by Exchanging Databases Links –
Yamatake Corporation Takashi Fukunabe Ichitaro Satoh
Construction of a Process Support System Through Independent Activity at a Software Development Site … 94
- Project management that allows for interruptions; on-site consciousness-raising Building Systems Company, Yamatake Corporation Tomoyuki Tada
巻頭言
制御からのイノベーション:
「グローカル制御」の実現に向けて
東京大学
情報理工学系研究科
教授
原 辰次
近年 , 科学・技術に期待されているのは ,「エネルギー・
解決すべき社会的問題の対象は , 一般に大規模・複雑
環境・医療問題などの社会的課題の解決」に向けたイ
な動的システムである。このような実世界に対して , 計
ノベーションである。私が専門とする制御工学・シス
測は局所的にしかできず , また制御も局所的な作用に限
テム制御理論も例外ではない。制御理論は , ワットの蒸
定される。このような状況でシステム全体の状態を望
気機関におけるガバナーの安定化を出発点として , 古典
み通りにするために重要となるのは , システム全体の状
制御・現代制御 , ロバスト制御 , 非線形制御 , ハイブリッ
態を予測する機能である。すなわち , ローカルに計測し ,
ド制御と進化を続け , 先端科学技術の進展に大きく貢献
その観測量に基づいてグローバルな状態を予測し , その
してきた。日本における制御も , 私が卒業した東工大の
グローバルな予測値に基づいてローカルに制御するの
制御工学科が本年 , また私の研究を育ててくれた SICE
が「グローカル制御」の基本的アイデアである。その実
(計測自動制御学会)が来年 , それぞれ 50 周年を迎える。
現のためにはいかに系統的に行う方法論(新しいシステ
この半世紀の間 , 様々な形で科学技術立国としての日本
ム制御理論)が提供できるかが鍵となる。
の発展を支えてきた。
例えば , 世界規模で人類が直面している地球温暖化問
一 昨 年 SICE 副 会 長 就 任 を 期 に ,「SICE Anytime
題の一つである「ヒートアイランド対策」を考えてみよ
Everywhere」という標語を提案した。その心は , SICE
う。動的に変化する「都市環境」を最適にすることが目
がカバーする「計測・制御・システム情報・システム
的であるが , それには個々のビルや道路など都市のロー
インテグレーション」は , いかなる分野の先端科学技術
カルな構成要素を制御し , 街区・地域など適切な階層の
の発展に欠かすことのできない重要な分野であり , 今後
環境を最適化する必要がある。しかし , 計測できるのは ,
その需要や期待は大きく増大していく , という認識であ
空間的に分散配置された温度センサや風速センサであ
る。会長時代はこれを意識し , SICE がその要請に応え ,
り , 制御も局所的にならざるを得ない。このとき , 何を ,
未踏の先端科学技術をリードしていく姿を描いてきた。
いつ , どれだけの分解能で , どのように , 計測・制御す
研究者としての一つの結論として , 新学術領域「グ
るかが重要となる。
ローカル制御」の創成を昨年提唱した。
「グローカル」
これを階層的に考えると , ビルの空調からビル全体の
とは , グローバルとローカルを併せた言葉で ,「ローカ
エネルギーシステム設計へ , 工場のエネルギー循環系の
ルな計測と制御でグローバルな機能の実現」を目指すも
最適化へ , さらには地域の環境問題へと広がっていく。
のである。これは ,「高機能製品の実現」を目指したこ
このようなことが系統的に実現できることを夢見てい
れまでの制御から「社会的課題の解決」に貢献する制御
る。
へのパラダイムシフトであり , ゴールは「大規模・複雑
な社会的課題の解決に向けた新しいシステム理論の創
成と系統的・体系的方法論の確立」にある。
原 辰次(はら しんじ)
1976 年東京工業大学大学院制御工学専攻修士課程修了.
日本電信電話公社,長岡技術科学大学を経て,1984 年
東京工業大学助教授,1992 年同教授,2002 年東京大学
教授,現在に至る.ロバスト制御理論,大規模系の分散
協調制御,生物制御,計算機援用設計などの研究に従事.
工学博士.計測自動制御学会・IEEE・IFAC フェロー,
SICE 会長
(2009 年)
,
IEEE CSS 副会長
(2009-2010 年)
.
—1—
azbil Technical Review 2011年1月発行号
CO2 管理を支援する小規模建物向け
ビルディングオートメーション・システムの開発
A Building Automation System for CO2 Management in Small-Scale
Buildings
株式会社 山武 真木 義郎
ビルシステムカンパニー Yoshio Maki
キーワード savic-net FX mini,FX,小規模,CO2 管理,ビルディング・オートメーション・システム
エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)の改正により,小規模の建物においても省エネルギー・
省 CO2 が求められる時代が到来した。一方,既存システムも 1990 年代納入分を中心に更新時期を迎えており,
更新需要も高まっている。この様な時代背景において,小規模建物における省エネ・省 CO2 の要請に応え,既存
システムの更新により省エネ・省 CO2 を促進するため,CO2 管理を支援する小規模建物向けビルディング・オー
トメーション・システム savic-net TM FX mini を開発したので,その概要を紹介する。
As a result of the revision of Japan’
s energy conservation law (Act on the Rational Use of Energy), energy
conservation and CO2 reduction will be required even of small-scale buildings. Moreover, since the replacement
period for our products that were launched in 1990 has arrived, there is an increasing replacement demand.
Against this backdrop, we have developed“savic-net TM FX mini,”a system that calculates and reduces energy
consumption and CO2 emissions and is swappable with existing models, allowing us to meet the demand for
energy savings and CO2 reduction for small buildings. This paper summarizes the development of the system.
1. はじめに
る小規模建物向けビルディング・オートメーション・
システム savic-net FX mini を開発した。
省エネ法の改正により,2009 年 4 月から従来のエ
savic-net FX mini は,
ネルギー指定管理工場ごとの規制に加え,事業者単位
①エネルギー・CO2 の見える化
(企業)での総量管理と消費エネルギーの原単位の削減
②簡単監視・簡単操作
も求められることとなった。
③簡単更新・簡単システム拡張
この法律改正に対応するために,中・大規模ビルに
の3つのコンセプトに加え,高品質を達成する取組み
お い て は BEMS(Building and Energy Management
を実施している。その概要を紹介する。
System)の機能強化によりエネルギー・CO2 排出量管
理が可能となるが,設備投資の厳しい小規模ビルにお
2. savic-net FX mini の概要
いては,ビルごとに BEMS を入れることは難しい。そ
のため,小規模ビルでは BEMS 機能を内蔵し,設備監
視からエネルギー使用量・CO2 排出量の管理,削減ま
savic-net FX mini は,延床面積 10,000m2 規模(管
で実現できるオールインワンのシステムが望まれてい
理点数 500 点)の建物を対象とした中央監視装置であ
る。また,複数の小規模ビルをまとめてエネルギー管
り,図 1 のシステム構成例のように空調機コントロー
理したいという要求もある。
ラや熱源コントローラをはじめとした各種機器が接続・
一方,既存システムも 1990 年代納入分を中心に更新
監 視 可 能 で あ る。 メ イ ン の 監 視 装 置 で あ る SCSmini
時期を迎えており,更新需要も高まっている。
(System Core Server mini)には Web サーバを搭載し
この様な時代背景において,小規模建物における省
ており,監視用パソコンの Web ブラウザを利用して設
エネ・省 CO2 の要請に応え,既存システムの更新によ
備監視を行うことができる。
り省エネ・省 CO2 を促進するため,CO2 管理を支援す
—2—
CO2管理を支援する小規模建物向けビルディングオートメーション・システムの開発
エネルギー管理機能を用いてエネルギー使用量・CO2
排出量を把握した後は,エネルギー使用量・CO2 排出
量を削減していくことになる。savic-net FX mini では
savic-net FX のもつ豊富な省エネメニュー(表 2)を利
用できるようにした。それにより,オフィスビルはも
ちろんのこと,商業ビル,病院,工場,学校など建物
の特性に応じてメニューを組み合わせることでエネル
ギー使用量・CO2 排出量を削減することが可能である。
表 2. 豊富な省エネメニュー
図 1.savic-net FX mini システム構成例
機能面では,表1に示すように警報監視などの中央
監視装置に求められる機能はもちろん,各種装置の運
転状態を把握するのに十分な監視機能を装備しており,
空調や電気に関わる範囲で各種制御機能も有している。
また改正省エネ法に対応すべく,省エネ・省 CO2 のた
めのエネルギー管理機能も充実している。それらのオ
ペレータインターフェースとして豊富な画面 ( 図 2) も
監視画面
提供している。
表 1. savic-net FX mini 機能一覧
制御画面
データ管理画面
図 2. 豊富な画面群
—3—
azbil Technical Review 2011年1月発行号
3. エネルギー・CO2 の見える化
監視画面
省エネ法,地球温暖化対策の推進に関する法律 ( 温
対法 ) の改正に伴い,ビル全体のエネルギー使用量を
把握し,省エネ・省 CO2 活動を実施する必要がある。
savic-net FX mini ではエネルギー・CO2 を見える化し,
ビル全体のエネルギー使用量・CO2 排出量を容易に把
日月年報表示
握できる機能を提供している。
(1)エネルギー・CO2 の見える化
省エネ・省 CO2 活動は以下の作業を繰り返し実施す
トレンドグラフ表示
ることでエネルギー使用量・CO2 排出量を削減してい
く活動である。
図 3. 監視画面からのグラフ・日月年報表示
①エネルギー使用量,CO2 排出量の把握
ワンクリックで CO2 排出量を表示
②対策の実施
③対策結果の評価
①のエネルギー使用量,CO2 排出量の把握では,エ
ネルギー使用量,CO2 排出量を見たいときにすぐに,
容易に把握できることが重要である。
エネルギー使用量,CO2 排出量をすぐに見えるよう
にするため,図 3 のようにオペレータが常時見ている
比較結果を分かりやすく表示
監視画面からワンクリックで現在の電力量をグラフ表
示できるようにしている。また,データシート形式で
見たい場合にも対応するため,ワンクリックで日月年
報を表示できるようにしている。
図 4. トレンドグラフの比較表示
エネルギー使用量,CO2 排出量を容易に把握できる
電力量 , CO2 排出量等を同時表示
ようにするために,グラフの表現力を高めている。図 4
のように電力量のグラフ表示からワンクリックでエネ
ルギー使用量,CO2 排出量,原油換算量へのグラフに
切替ができ,また,今月の使用量や今年の使用量を容
易に把握できるように累計値もグラフ表示している。
このようにして把握した結果を元に対策②を実施す
る。その後,③の対策結果を評価する際にも,対策結
図 5. 日月年報の CO2 排出量等の同時表示
果を容易に把握できるように,グラフ上で過去データ
との比較表示を出来るようにしており,さらに図 4 の
(2)ビル全体のエネルギー使用量の算出
ように比較結果をグラフ上に分かりやすく表示してい
省エネ法,温対法の改正に伴い,ビル全体のエネル
る。
ギー使用量・CO2 排出量(総量)を把握する必要がある。
一方,複数の電力量の情報をまとめて見たい場合や,
その算出方法を説明する。
電力量と CO2 排出量,エネルギー使用量,原油換算量
ま ず 総 量 を 演 算 す る 前 段 階 と し て,savic-net FX
の推移をまとめて見たい場合もある。その際には,図
mini はビルで使用した燃料,熱,ガス,電気などの各
5 のようにデータシート形式の日月年報表示で見ること
種メータのエネルギー使用量を管理点としてシステム
もできる。この日月年報の画面は後述するヒストリカ
に取り込む。メータからのデータ取込みができない系
ルツールを利用して,帳票形式で印刷して管理するこ
統については,手入力でエネルギーデータをシステム
ともできる。
に投入することも可能である。取り込まれたエネルギー
使用量は,システム内でデータ蓄積され,エネルギー・
CO2 換算機能(図 6)によりエネルギー換算値,CO2 換
算値,原油換算量に変換される。さらに,エネルギー・
CO2 総量管理機能(図 7)で,ビル全体の総量または該
当系統ごとに集計される。これらの値は前述のトレン
ドグラフや日月年報でリアルタイムに画面表示可能で
あり,総量または該当系統におけるエネルギー使用量
の経緯を随時,的確に把握できる。
—4—
CO2管理を支援する小規模建物向けビルディングオートメーション・システムの開発
演算結果の用途としては,エネルギー消費量を的確
に監視,操作できるシンプルで分かりやすい監視機能
に把握するだけでなく,原油換算値であれば省エネ法
と,設備の動作履歴やエネルギー使用量・CO2 排出量
対応の報告書作成に利用することができ,CO2 換算値
等を簡単に印刷したり,長期データ蓄積ができるデー
であれば温対法や東京都の東京都環境確保条例の報告
タ管理機能を提供している。
書作成に利用することができる。
なお,総量データの算出方法として,単純に各メー
(1)簡単監視のソフトウェアアナンシエータ
タの合計値として算出することも可能ではあるが,電
設備の状態を簡単に監視,操作できる基本機能がソ
力量に関しては夜間の買電(22 時~ 8 時)は昼間買電(8
フトウェアアナンシエータ機能である。
時~ 22 時)よりも省エネ法対応上の一次エネルギー換
ソフトウェアアナンシエータでは,1つの設備の状
算係数が低く設定されているのに対応し,同じメータ
態を1つのボタンで表現し,それを複数並べて表示す
からの入力であっても時間帯別に分別できる機能も装
る。高齢の管理者や離れた場所からでも一目で把握で
備した。また,同一建物内であっても,テナント分と
きるように,ボタン全体の色を変化させて設備の状態
共用分を切り分けるなどのニーズにも柔軟に応えられ
を表現している(従来システムはボタン内の一部の色
る様,メータ入力同士の減算にも対応した(例えば受
のみ変化していた)。
電電力量計とテナント分の電力量計が設置されている
ボタンをクリックすることで操作画面やトレンドグ
場合,受電分からテナント分を引けば,共用部の電力
ラフ画面を表示でき,設備の発停操作やエネルギー使
量を計算できる)。これにより,より正確かつ厳密なエ
用量,CO2 排出量の把握が簡単に行える。また,オペレー
ネルギー管理が可能である。
タが自由に設備をグループ化したり,ボタンの配置も
設定できるため,オペレータ自身で監視しやすい画面
を構築することができる。
図 6. エネルギー・CO2 換算設定画面
図 8. ソフトウェアアナンシエータ画面
設備の運転状態は,文字(運転 / 停止)と背景色の
変化で分かりやすく表示し,警報発生時には背景色が
点滅するとともにブザーが鳴動することで直感的に異
常が起きたことが分かるようにしている。
運転時
↑
↓
停止時
図 7. エネルギー・CO2 総量演算設定画面
4. 簡単操作・簡単監視
警報時
小規模ビルでは非専任オペレータが操作することが
多いと想定されるため,オペレータが直感的に簡単に
操作できる必要がある。
そのため,savic-net FX mini では設備の状態を簡単
↑
↓
図 9. ソフトウェアアナンシエータの表示
—5—
azbil Technical Review 2011年1月発行号
(2)グラフィカル監視のポイントグラフ
savic-net FX のツールに慣れた人であれば,マニュア
設 備 の 状 態 を 平 面 図 / 断 面 図 / 系 統 図 な ど, グ ラ
ルを見なくても作業できるようにしている。さらに動
フィック形式で表示して監視,操作を行うのがポイン
画の位置を分かりやすく表示するイメージ表示機能や,
トグラフ機能である。
設定項目をできるだけ少なくする等の工夫を行ってお
ポイントグラフでは,前述のソフトウェアアナンシ
り,オペレータが簡単に操作できるようにしている。
エータと同様に,設備の状態を高齢の管理者や離れた
場所からでも一目で把握できるように,色や表現方法
を工夫している。
ポイントグラフを構成している絵・文字・線などの
パーツは静止画と動画の 2 つに分類される。動画は設
備の運転状態や設定値,計測値,積算値といったシス
テムが監視している設備の状態を表す管理点動画と,
他のグラフに遷移するためのリンク動画に分かれる。
部屋レイアウトや空調機シンボル,空調機名称などは
静止画となる。
上位機種の savic-net FX では空調機シンボルなども
イメージ表示機能
管理点動画として定義可能だが,savic-net FX mini で
は設備の状態をより分かりやすく表現するために,管
理点動画を統一している。具体的には,図 10 のように,
図 11. ポイントグラフジェネレータ
形状を四角で統一し,さらに静止画とコントラストを
つけることで,静止画上で管理点動画を目立たせ,設
(3)長期データ蓄積と汎用ファイル出力
備の状態を一目で把握できるようにしている。
SCSmini には 96 時間分の 1 分データや最大 10 年分
ソフトウェアアナンシエータとポイントグラフを併
の日月年報データを蓄積している。それ以上の長期デー
用して監視する場合や,ソフトウェアアナンシエータ
タを蓄積したり,CSV ファイルや PDF ファイルといっ
からポイントグラフに監視方法を切り替える場合も想
た汎用ファイルへの出力,及び紙への印刷をするため
定される。その際にもオペレータが戸惑うことなく簡
にはパソコン上で動作する専用のツール(ヒストリカ
単に監視できるようにするため,管理点動画の色とク
ルツール)を利用する。
リック時の動作はソフトウェアアナンシエータと共通
ヒストリカルツールは SCSmini 本体からパソコンに
化している。
ダウンロードでき,設定情報も自動作成するためダウ
部屋の間仕切りの変更や,テナントの入れ替えによ
ンロード後,すぐに利用できる。
る名称変更などにも対応できるように,静止画や動画
ヒストリカルツールは SCSmini が蓄積している設備
は専用のエンジニアリングツール(ポイントグラフジェ
の動作履歴や 1 分データ,日月年報データなどのデー
ネレータ)を使ってオペレータが自由に変更すること
タをパソコンに取りだし,CSV ファイル,PDF ファ
ができ,オペレータ自身で監視しやすい画面を構築す
イルでデータ出力したり,紙に印刷することができる。
ることができる。
さらに,自動設定をすることで自動的にパソコン上で
動作し,オペレータが何も操作しなくても,毎日,自
動的に日報を印刷したり,CSV ファイル,PDF ファイ
ルでデータ出力することができる。出力されたデータ
はハードディスクに保存されるため,ハードディスク
容量の制限内で長期間のデータ蓄積が可能である。
PC
設備の状態を分かりやすく表示
ヒストリカルツール
SCSmini
PC 上で汎用データ出力が可能
図 10. ポイントグラフ画面
紙
CSV
PDF
このポイントグラフジェネレータは,上位機種の
savic-net FX 用のツールと操作方法を共通化しており,
—6—
図 12. ヒストリカルツール
CO2管理を支援する小規模建物向けビルディングオートメーション・システムの開発
に,既存システムの設定データを savic-net FX mini 用
に自動変換することができる。さらに自動変換が難し
い情報は帳票出しする機能も用意している。それによ
り既存システムの設定内容を確実に savic-net FX mini
に引き継ぐことができる。
(3)savic-net FX への接続性・拡張性
savic-net FX mini は 2 章で述べた単体の構成だけで
なく,savic-net FX への柔軟な接続性と拡張性を持っ
て い る。 例 え ば, 複 数 の 小 規 模 ビ ル に savic-net FX
mini を設置し,それらをまとめて管理ビルの savic-net
FX で管理することも可能である。また,savic-net FX
図 13. 日報印刷
mini で 納 入 し た 後 に 管 理 点 数 が 増 え て savic-net FX
5. 簡単更新・簡単システム拡張
mini で収まりきらなくなった場合も,SCSmini を MIS
(Management Integration Server)+SCS(System
既存システムからの更新では,低コストで簡単に短
Core Server)に更新することで,それ以外の設備は変
時間で更新できることが重要である。
更せずに拡張可能である。
そのため,savic-net FX mini では一部の既存システ
ムのハードウェア資産を再利用可能としており,低コ
savic-net FX
ストで簡単に短時間で更新するための機能を提供して
いる。また,更新の付加価値として,柔軟な拡張性も
実現している。
管理ビル
(1)ハードウェア資産の再利用
既存システムでリモートアナンシエータを使用して
savic-net FX mini
いる場合に,リモートアナンシエータと幹線はそのま
savic-net FX mini
まで,SCSmini に差し替えるだけで継続して利用可能
としている。また,新規に savic-net FX 用のリモート
アナンシエータに更新したい場合にも対応している。
このリモートアナンシエータの再利用機能により,使
い慣れた既存システムのハードウェア資産をそのまま
継続利用でき,更新時間の短縮と更新コストを低減す
A ビル
B ビル
ることができる。
図 15. savic-net FX システムへの接続例
既存システム
既存システムのリモート
アナンシエータ
(4)CO2 マネジメントシステムへの接続性
複数の小規模ビルをまとめてエネルギー管理するに
は,CO2 マネジメントシステム(事業者全体の温室効
果ガス排出量やエネルギー消費量の総量把握・管理を
支援する当社山武のインターネット ASP(アプリケー
ション・サービス・プロバイダ)サービスを利用する
ことができる。CO2 マネジメントシステムでは小規模
ビルに設置されている savic-net FX mini のデータを当
SCSmini
社山武のデータセンターで収集し,インターネットを
アナンシエータの接続先を
変更するだけで継続利用可能
通じて,お客様のパソコンから,お客様が所有されて
いる複数の小規模ビルのエネルギー使用量・CO2 排出
量をまとめて管理することができる。
その CO2 マネジメントシステムに低コストで簡単に
接続するために,従来の接続方式では小規模ビル側に
図 14. リモートアナンシエータの再利用
専用のデータ収集 PC を設置し,その PC を介してデー
タセンターに接続していた。savic-net FX mini ではデー
(2)既存システムの設定データの自動変換
タ収集 PC を設置せずに直接データセンターと接続で
既存システムから簡単に短時間で更新ができるよう
—7—
azbil Technical Review 2011年1月発行号
きるようにしている。この接続機能は CO2 マネジメン
全部門の開発プロセスを見える化
トシステムのエネルギーデータ自動収集端末機「CO2
モニタリングターミナル」にも活かされている。
小規模ビル
データセンター
データ収集PCは不要
CO 2 マネジメント
システム
savic-net FX mini
図 16. CO2 マネジメントシステム接続
図 17. プロジェクト管理ツールで一元管理
(2)仕様品質の見える化による仕様品質の向上
6. 高品質
高品質を達成するためには,上流工程である仕様の
近年,品質への要求は高まり続けている。特に小規
は個人の感覚に依存することが多く,明確な基準を示
模ビルは常駐管理者がいない場合もあり,竣工後にシ
すのが難しかった。そこで仕様品質を見える化する取
ステムに問題が発生すると気づくのが遅れる可能性が
組みを行い,基準以上のレベルを確保しなければ次工
あるため,従来製品以上の高品質が求められる。その
程に進めないようにした。具体的には,仕様レビュー
ため,製品開発時から「開発プロセスを改善すること
の場で参加者全員がレビューした仕様書に対して 100
で品質を向上させる」という方針のもと従来の開発プ
点満点で点数を付け,基準点以上確保することを完了
ロセスを改善して,開発の上流工程から品質を向上す
基準とした。それにより,仕様品質の底上げに成功す
る取り組みを実施している。
るとともに,次工程以降の障害件数を大幅に減らすこ
また,小規模ビルでは中・大規模ビルに比べて,シ
とに成功している。
品質を上げることが重要である。しかし,仕様の品質
ステムの更新,新規立ち上げに与えられる期間はかな
(3)システム立ち上げ時の品質向上
り短い。そのため短期間で品質良く立ち上げができる
システムの製造工程の工夫と,立ち上げに使用する
必要がある。そのための取り組みも実施している。
エンジニアリングツールの改善により,短期間で品質
の高いシステムを納入できるようにしている。
(1)開発プロセスの見える化による品質向上
開発プロジェクトでは,開発部門以外にもマーケティ
savic-net FX mini を立ち上げるエンジニアリング
ング部門や営業,製造,エンジニアリング部門など様々
ツールは savic-net FX を立ち上げるエンジニアリング
な部門の人がプロジェクトに参加している。そのよう
ツールと共通化しており,savic-net FX のエンジニア
なプロジェクトで各部門ごとに作業計画を立て進捗管
リングツールに慣れた人であれば,簡単にマニュアル
理を行うと,他部門との連携が必要な作業で待ちが発
を見るだけで操作できるようにしている。さらにワン
生し進捗が遅れるなど,開発の最終段階で対応に追わ
クリックで SCSmini を立ち上げる機能も追加し,エン
れることがある。savic-net FX mini の開発プロジェク
ジニアリングツールの表示,設定項目も savic-net FX
トでは,開発に入る前に全部門の作業をプロセスとし
mini 用に最適化することで,立ち上げ時間の短縮と
て定義し,プロジェクト管理ツールで全部門のプロセ
ヒューマンエラーの防止を実現している。
スを一元管理している。開発の全プロセスを見える化
することで,プロジェクトに参加している全員が開発
7. おわりに
の全プロセスを把握できるようになった。その効果と
して,他部門のプロセスに関しても問題点を指摘し合
えるようになり,部門間の連携が強化されている。また,
savic-net FX mini の開発は継続して実施しており,
部門をまたがったクリティカルパスを洗い出し対策を
今後,さらなるエネルギー・CO2 の見える化,エネル
取ることにより,開発の最終段階で無理することなく,
ギー・CO2 の削減機能を開発し,また簡単更新・簡単
納期を守ることに成功し,高品質も達成している。
システム拡張のための開発,高品質への取組みも実施
していく。
—8—
CO2管理を支援する小規模建物向けビルディングオートメーション・システムの開発
<商標> savic-net は,株式会社 山武の登録商標です。
<著者所属> 真木 義郎 ビルシステムカンパニー 開発本部開発1部
コントローラソフトウェア 1 グループ
—9—
azbil Technical Review 2011年1月発行号
ASP型省CO2サービスと学習型熱源最適化制御
CO2 Reduction Solutions via ASP and Adaptive Optimization for
Variable Water Temperature
株式会社 山武 近田 智洋
株式会社 山武 西口 純也
株式会社 山武 平田 眞基
株式会社 山武 太宰 龍太
Tomohiro Konda
ビルシステムカンパニー Masaki Hirata
株式会社 山武 中村 瑞
ビルシステムカンパニー Junya Nishiguchi
Mizu Nakamura
ビルシステムカンパニー Ryota Dazai
株式会社 山武 小野寺 博
ビルシステムカンパニー Hiroshi Onodera
キーワード Web-Infilex ,SaaS/ASP,省エネ / 省 CO2 ,送水温度最適制御 ,学習
改正省エネ法への対応に向けて,大規模な設備投資不要で簡単に導入できる省エネ / 省 CO2 アプリケーション
Web-Infilex TM を SaaS/ASP 型サービスで提供している。本稿では,この Web-Infilex の概要について述べる。特
に,
Web-Infilex のアプリケーションの 1 つである,
熱源の送水温度最適制御アプリケーション
『学習型 VWT 制御』
について紹介する。また,本アプリケーションのフィールド試験の結果も合わせて報告する。なお,フィールド
試験において,約 9%の省エネ効果が得られた。
As a means for compliance with revised energy conservation legislation, we provide Web-InfilexTM, an
energy-saving and CO2-reduction application which can be introduced easily without capital investment, via
SaaS/ASP. This paper gives an overview of Web-Infilex, focusing especially on "Adaptive VWT control," a
Web-Infilex application that optimizes variable water temperature in heat sources. This paper also reports
the results of a field test of this Adaptive VWT Control in which it brought about energy savings of
approximately 9% .
1. はじめに
の対象外であった事業所も,企業全体で 1,500kl 以上の
場合は,省エネ法の対象となり,積極的な省エネへの
国際的な CO2 排出規制に対する関心の高まりから,
取り組みが必要となっている。
建物の省エネルギーに対する社会的要求が強まっている。
省エネの取組みは,これまでの工場・事業所ごとの
日本においては,2010 年 4 月の省エネ法の改正によ
取組みから,企業全体の取り組みに変わるため,それ
り,これまでの工場・事業所ごとのエネルギー管理から,
らの状況の変化に対応できる,新たな省エネサービス
企業全体の管理に変わり,エネルギー管理統括者のも
が求められている。
と,企業全体としてエネルギー管理体制を推進するこ
これまでも企業全体のエネルギー管理を行なうた
とが義務付けられた。各企業は,企業全体(本社 , 工場 ,
め の 総 量 管 理 の サ ー ビ ス「CO2 マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ
営業所,店舗など)の燃料,熱,電気の年間エネルギー
ム」など多くの省エネ / 省 CO2 のサービスを提供して
使用量を把握し,原油換算で 1,500kl 以上あれば,その
きたが,このような社会状況の下,さらに省エネ / 省
エネルギー量を届け出て,特定事業者の指定を受ける
CO2 を実現する ASP ※1 による空調制御サービス「Web-
必要がある。
Infilex」を開発し,販売を開始した。
そのため,これまで原油換算 1,500kl 未満で省エネ法
— 10 —
ASP型省CO2サービスと学習型熱源最適化制御
Web-Infilex は,SaaS ※2/ASP 型 の サ ー ビ ス で あ り,
・ CO2 リミット制御(図 2, 3)
設備投資はほとんどなく簡単に導入することができる。
事業者が設定した目標値に合わせて,建物におけ
本稿では,Web-Infilex の概要説明と熱源の送水温度
る CO2 排出量を抑えるサービスであり,CO2 の実績
最適制御アプリケーション(学習型 VWT 制御)につい
値が目標値を超過すると予測した場合は,設備を制
て,性能評価も含めて紹介を行なう。
御して CO2 を抑制する。
※ 1 ASP :Application Service Provider 特定及び不特定ユーザが必要とするシステム機能
を , ネットワークを通じて提供するサービス , ある
いは, そうしたサービスを提供するビジネスモデル。
※ 2 SaaS:Software as a Service ソフトウェアの機能のうち , ユーザが必要とする
ものだけをサービスとして配布し , 利用できるよ
うにしたソフトウェアの配布形態。
累積値
目標オーバー!
CO2 リミット制御
で目標クリア!
月間目標値
1日
2. Web-Infilex とは
月末
図 2. CO2 リミット制御イメージ
Web-Infilex とは,顧客ビルと当社のサーバーを専用
・年間目標値入力
・月別目標値演算
・抑制パターン登録
回線で結び,各種設定の変更や,各種設備の起動 / 停
止及び間欠運転などの自動制御を遠隔から実施するこ
Web-Infilex
サーバー
必要データの取得
中央監視盤
とで,遠隔から建物空調設備の省エネ / 省 CO2 を実現
する SaaS/ASP 型の空調制御サービスである(図1)。
ルータ
【山武のサービスネットワーク】
専用回線
専用回線
抑制パターンを
出力
顧客ビル
・抑制パターンに
従った運転
専用回線
顧客ビル
SCS
・室温設定の自動変更
・機器の運転停止
DDC
顧客ビル
空調機
・消灯
図 1. Web-Infilex 構成
リモートステーション
(1)Web-Infilex の特徴
図 3. CO2 リミット制御構成図
・ 顧客ビルに専用回線で接続し,遠隔から建物空調設
備の省エネ / 省 CO2 を実現できる。
・ 導入は短工期で済むため,設備稼働に支障が少ない。
・ 学習型 VWT ※3 制御(図4)
熱源の最適化運転を自動的に行なうアプリケー
・ SaaS/ASP 型であるため,大規模な設備投資なく手
ションであり,運転データから作成した最適化モデ
軽に低コストで導入できる。
ルにより,熱源の出口温度を最適に制御する。
・ 建物単体または,事業者単位(複数建物)で CO2 排出
学習機能を備えており,設備の経年劣化や運用変
上限値制御に活用できる。
(2)Web-Infilex アプリケーション
2010 年 4 月にリリースした Web-Infilex のアプリケー
ションは,CO2 リミット制御,学習型 VWT 制御の 2
照明
更にも柔軟に対応できる。
※ 3 VWT : Variable Water Temperature
送水温度最適設定制御
つである。今後,さらに省エネ / 省 CO2 のアプリケー
ションを追加し,提供していく予定である。次にこれ
らのアプリケーションについて,概要を紹介する。
— 11 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
・予測モデルの学習
・最適値演算
3.2 学習型 VWT 制御
Web-Infilex
サーバー
この課題に対して,当社保有技術である位相事例ベー
ス モ デ リ ン グ 技 術(TCBM TM :Topological Case-Based
必要データの取得
中央監視盤
(1)
Modeling)
と多次元スプラインによる応答曲面法
(2)
(RSM-S : Response Surface Methodology by Spline)
を
ルータ
組み込んだ送水温度最適設定制御(以下 , 学習型 VWT
)
制御)を開発した( 3(図
6)。
最適値を出力
SCS
TCBM とは,入力データ間と出力データ間の類似度
・通信遮断時保護機能
・自動 / 手動切替
・上下限管理
・能力不足防止用ソフト
合いをもとに,データを事例化するモデリング手法で
あり,与えられた入力に類似した過去の事例を参照し
て,必要な出力を導く。こうした事例ベース推論法では,
4-20mA
DDC
過去に経験した事例ベースの中に入出力関係が内包さ
冷凍機
れているため入出力関係を規定するモデル構造を特別
冷凍機出口温度設定信号
に作る必要がなく,非線形な入出力関係にも対応する
ことができる。 図 4. 学習型 VWT 制御構成図
逐次学習によるモデル更新
最適送水温度算出
3. 送水温度最適設定制御(VWT 制御)
本稿では,Web-Infilex のアプリケーションのうち,
学習型 VWT 制御についての技術的内容を紹介する。
3.1 送水温度設定の課題
熱源は通常 7 ℃程度の冷水を作り出しているが,冷
水送水温度の設定を,より高くすれば運転効率(COP)
図 6. 学習型 VWT 制御の概要
が向上し,熱源単体のエネルギー消費量を減少させる
ことができる。一方では,熱源システム全体としては,
応答曲面法 RSM-S は,少ないデータをもとに最適条
冷水送水温度が高くなると,空調機の冷却能力が低下
件を探索する最適化手法である。RSM-S は,入出力関
するため,冷水の流量が増加し,搬送動力が増加す
係が複雑なシステムにおいて,理想的な実験計画デー
る。このように熱源のエネルギー消費量と搬送動力は
タでなくても,実際に計測された離散的データからす
トレードオフの関係となっている(図5)。さらに,外気
ばやく応答曲面モデルを生成でき,かつ再現性のある
温や負荷熱量など他の外的要因も熱源システムの効率
モデル構築が可能となる。応答曲面モデルの構築には,
に影響を与えるため,上記のトレードオフの関係,外
式(1)に示す多変数スプラインを利用する。
的要因の影響,機器の制約条件などを考慮して,熱源
システム全体で消費エネルギーが最小となる最適送水
温度設定値を求める必要がある。これらの制御を VWT
制御という。
実際のビルに VWT 制御を適用するには,これらの
関係,条件をビルごとに,それぞれ作成する必要があ
るが,運用方法や機器性能が設計時点とは異なる場合
n
p
i=1
j=1
式(1)
ここで αi , cj は係数,
p は入力変数 x の次元数,
n はデー
タ数,di はあるデータ i と任意のデータとの入力変数の
ユークリッド距離,g(di) はグリーン関数である。
式(1)により応答曲面モデルを生成し,これを最適化
が多く,高度な補正が必要になり,実用面では困難であっ
演算のための目的関数とすることで,実計測データを
た。
利用した最適送水温度設定が可能となる。
学習型 VWT 制御における本技術の枠組みを図 7 に
示す。提案する制御手法では,熱源の制御状態や負荷
トータル消費エネルギー
消費エネルギー
熱量などを入力変数とし,熱源システム全体の消費エ
搬送消費エネルギー
ネルギー量を出力変数とするモデルを構築し,このモ
デルを目的関数としたときの最適化演算を行なうこと
で,消費エネルギー量が最小となる送水温度設定値を
熱源消費エネルギー
求める。上記モデルは,入力変数と消費エネルギー量
最適送水温度
のデータを逐次追加することで更新され,入出力関係
送水温度
を学習する。このような手法を採用することで,ビル
ごとに多様な設備構成に容易に対応し,また機器劣化
図 5. 熱源送水温度と消費エネルギーの関係
— 12 —
ASP型省CO2サービスと学習型熱源最適化制御
4.2 モデル入力変数
に自動的に対応することができる。
学習型 VWT 制御に使用するモデル入力変数,目的
変数を表 2 に示す。入力変数は,熱源システムの計装
から全消費エネルギー量と関連が高いポイントを候補
とし,その中から相関分析やクラスター分析などの統
計的解析により最終的な入力変数を特定した。
入力変数 目的変数
全消費エネルギー量
① 負荷熱量
(= 冷凍機消費電力
② 冷却水温度
③ 冷却水ポンプ INV 出力 + 冷水ポンプ消費電力
+ 冷却水ポンプ消費電力
④ 外気温度
⑤ 冷凍機送水温度
図 7. 学習型 VWT 制御の枠組み
+ 冷却塔ファン消費電力)
表 2. 学習型 VWT 制御の変数
4. 適用事例
4.3 性能評価
4.1 対象建物の概要
本手法の導入効果を調べるために前述のホテルにお
対象施設は,延床面積約 14,000m2 のホテル建物に,
いて,オンラインシステムを導入し,性能評価を行った。
本制御を導入し,プロトタイプシステムによる実証試
験を実施した。なお , 実証試験では冷熱源の主力機で
(1)送水温度緩和状況
あるインバータターボ冷凍機(R-1)のみを送水温度の設
図 9,図 10 に負荷が平均的な場合と高い場合におけ
定変更の対象とした。
る本手法導入後の一日毎の送水温度履歴を示す。
表 1 に建物概要,図 8 に熱源計装図を示す。
図 9 では,室内側の負荷熱量の変動が小さく,給気
温度が安定している午後に,送水温度が緩和(上昇)さ
れている。一方,午前中は室内の負荷熱量が高く,給
所在地 静岡県
気温度が一時的に低くなり,空調機で適切な熱交換を
用途 ホテル
延床面積 約 14,000[m ]
行なうために,送水温度を下げている。 インバータターボ冷凍機:冷房 250 USRT
また,図 10 のように,負荷熱量が特に高い場合には,
冷温水発生器:冷房 240 USRT 暖房 773 kW
熱源設備
熱交換器:暖房 313 kW
冷凍機の定格に対する負荷率が高く,送水温度の緩和
小型貫流ボイラ× 2 台:752 kW
る状況が確認できた。
セントラル方式(ツーポンプシステム)
これらの結果より,負荷熱量などの環境要因に応じ
空調方式 空調機(宴会場・レストラン)
て,冷凍機の送水温度が適切に設定され,動作してい
外調機 + FCU(客室)
ることを確認できた。
2
余地がないため,送水温度の設定が 7℃近くになってい
表 1. 建物概要
入口温度
負荷熱量
送水温度設定値
冷凍機出口温度
緩和が少ない
R : 冷凍機
HX : 熱交換機
CP : 冷水ポンプ
HP : 温水ポンプ
積極的に緩和
図 9. 最適送水温度例(平均的な負荷の場合)
B : ボイラ
CT : 冷却塔
CHP : 冷温水ポンプ
CDP : 冷却水ポンプ
図 8. 熱源計装図
— 13 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
と評価時期が近いため,初期モデル,学習モデルとも
入口温度
に,消費電力用を20 [kWh/h] の誤差範囲で精度良く推
定しているが,期間が経過すると初期モデルは,誤差
負荷熱量
送水温度設定値
が大きくなっている。また,学習モデルは,期間が経
過しても導入当初と比較し,ほぼ同程度の精度を保持
している。この評価結果から,モデルの学習機能により,
経時変化に対応でき,導入当初の性能を維持できること
冷凍機出口温度
がわかる。
負荷熱量が大きい場合は、緩和されていない。
(3)省エネルギー効果
学習型 VWT 制御の省エネルギー効果を算出した。
図 10. 最適送水温度例(負荷が高い場合)
条件は以下の通りである。
・初期モデルデータ期間:2009/6/1 ~ 6/10
(2)学習効果
・評価期間
新設の熱源システムへ学習型 VWT 制御を導入する
導入前:2008/6/13 ~ 7/27
場合を想定し,モデル作成に使用する過去データが少
導入後:2009/6/13 ~ 8/20
ない状況における学習機能の効果を評価した。
事例ベースモデリングの消費電力量の推定精度が高
図 12 に,外気エンタルピに対する,本システム導入前
いほど,熱源システムの特性を反映できており,最適
(08/6/13 ~ 08/7/27)と導入後
(09/6/13 ~ 09/8/20)の消費
値演算においても,送水温度の算出精度が高くなる。
電力量を示す。
外気エンタルピが同じ条件の場合において,
そのため,学習効果の評価は,学習型 VWT 制御導入
本制御導入後の消費電力量が下回っていることが確認で
前の短期間のデータで作成した事例ベースモデル(初期
きる。図 13 に示す省エネルギー効果は,導入前の実績値
モデル)とデータを逐次的に追加し学習した事例ベース
を導入後の外気エンタルピで回帰式により補正した値と,
モデル(学習モデル)の消費電力量の推定精度を比較す
導入後の実績とを比較することで求めた。具体的には,導
ることで行った。
入前の消費電力量の特性を回帰式により同定し,導入後
評価の手順は,以下の通りである。
の外気エンタルピを入力することで,ベースラインの消
費電力量を算出し,導入後の実績と比較した。この結果,
・ 過去の運転データから初期モデルを作成
導入前後で約 9%の消費電力量の削減効果を確認できた。
モデル期間:07/10/5 ~ 07/10/18, 08/4/22 ~ 08/6/19
・ 初期モデルをシステムに実装し,学習機能ありでシ
ステムを稼働(学習モデル)
・ リアルタイムに学習モデルで推定した消費電力量と
初期モデル ( 学習なし ) のまま推定した消費電力量
をそれぞれ算出
・ 上記で算出した消費電力量と実際の消費電力量を比較
システム稼働後の精度の分析(二乗平均平方和誤差)
図 12. 消費エネルギー比較
xi : 誤差(実績値との差分)
xrms : 誤差の二乗平均平方根
1 週間経過
3,500
1 ヵ月経過
熱源システム電力消費量(1日平均値)
(kwh)
消費電力量の誤差(kWh/h)
の結果を図 11 に示す。
2 ヵ月経過
図 11. 学習モデルと初期モデルの精度比較
導入直後は,モデルの作成に使用したデータの期間
— 14 —
3,000
2,500
昨年度(実績値)
昨年度(本年度条件)
本年度(実績値)
2,994
約9%
2,723
2,487
2,000
1,500
1,000
昨年度
(実績値)
昨年度
(本年度条件)
本年度
(実績値)
500
0
図 13. 省エネルギー効果
ASP型省CO2サービスと学習型熱源最適化制御
5. おわりに
<著者所属>
本稿では,SaaS/ASP 型 省エネ / 省 CO2 アプリケー
近田 智洋 技術開発本部 ションの Web-Infilex の紹介とその中から学習型 VWT
基幹技術開発部 制御について概要と適用事例として実際のホテルに対
西口 純也 技術開発本部 する評価結果を示し,省エネルギー効果を確認した。
基幹技術開発部 外部条件や運用条件の変化への対応については,学
太宰 龍太 ビルシステムカンパニー 習機能により,データを定期的に更新することで,モ
マーケティング本部 デル性能が維持されることを確認し,状況変化に対す
平田 眞基 ビルシステムカンパニー る学習機能の有効性を確認した。
マーケティング本部 本手法は,熱源システムだけではなく,室内環境の
中村 瑞 ビルシステムカンパニー 最適化にも広く応用することができるため(4)〜(7 ),今後
開発本部 は , 顧客の省エネ / 省 CO2 を実現する Web-Infilex の最
小野寺 博 ビルシステムカンパニー 適化アプリケーションのラインナップをさらに増やし
開発本部 ていく予定である。
学習型 VWT 制御技術は,国土交通省の平成 19 年度
住宅・建築関連先導技術開発助成事業「学習機能に基
づく省エネ性と快適性の最適化制御技術の開発(応募
者:慶應義塾大学,株式会社 山武)」の成果の一部で
ある。
<参考文献>
(1)筒井宏明,西村順二:時系列履歴データからのデー
タマイニング,計測と制御(2002),第 41 巻,第 5
号,pp.345-349
(2)綛田長生:設計業務におけるデータ活用技術~山
武オリジナル応答曲面法 RSM-S ~,Savemation
Review(2003),Vol.21,No.2,pp.32-39, 株 式 会
社 山武
(3)太宰 龍太,綛田 長生:冷凍機送水温度最適制
御の実験 , 建築学会講演論文集(2009.8)
(4)上田 悠ほか:学習 / 多目的最適化機能を組み込ん
だ快適性と省エネを両立する室内環境制御技術の
開発,azbil Technical Review(2008),Vol.,No2,
pp.1-9,株式会社 山武
(5)加藤彰浩ら,学習機能に基づく空調システムの多
目的最適制御に関する研究(第1 報)制御手法の概
要と中間期における検証実験,空気調和・衛生工
学会大会学術講演論文集(2008.8)
(6)太宰龍太ら , 学習機能に基づく空調システムの多目
的最適制御に関する研究(第2報)冬期における空調
機最適起動実験,空気調和・衛生工学会大会学術
講演論文集(2008.8)
(7)加藤彰浩ら,学習機能に基づく空調システムの多
目的最適制御に関する研究(第3報)給気温度最適化
制御のシミュレーション , 空気調和・衛生工学会大
会学術講演論文集(2010.9)
<商標>
Web-Infilex は , 株式会社 山武の商標です。 TCBM は , 株式会社 山武の商標です。
— 15 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
無線圧力発信器低消費電力化技術の開発
Development of Low Power Consumption Technology for Wireless
Pressure Transmitters
株式会社 山武 木下 靖彦
株式会社 山武 瀬川 進
株式会社 山武 田辺 樹
株式会社 山武 鄭 立
Yasuhiko
Itsuki
Kinoshita
Tanabe
Susumu Segawa
Li Zheng
キーワード 工業用計測器,圧力発信器,無線,低消費電力,間欠駆動 ,スリープ電流 ,環境エネルギー発電 ,エナジーハーベスト
無線圧力発信器における低消費電力化技術の開発に関して報告する。無線圧力発信器低消費電力化のためには,
センサ部における間欠駆動の実現と,スリープ電流を最大限に抑制することが重要である。これらの技術開発の
結果として,高い精度を達成すると同時に,バッテリを長寿命化できる無線圧力発信器を実現した。また環境エ
ネルギー発電を利用する「バッテリレス」無線圧力発信器の実現も可能となる。
This paper reports the development of low power consumption technology for industrial wireless pressure
transmitters. For realization of low power consumption for wireless pressure transmitters, it is important to
drive the pressure transmitters periodically and to reduce the sleep current as much as possible. Long battery
life can be realized using this low power consumption technology with high measurement precision. Moreover,
this low power technology makes so-called“battery-less”industrial wireless pressure transmitters possible by
using the environmental energy generation.
1. はじめに
近年,生産のグローバル化や地球環境の問題などへ
場合,数年に1回の定期的な検査保守の際以外は,バッ
対応するため,より少ない投資で高い生産性をもつ工
テリの交換ができない場合も多い。したがって,工業
業生産システムが求められている。このため,工場や
用のバッテリ動作機器には,数年間バッテリ交換なし
プラントといった工業分野においても,配線コストが
に動作することが求められる。このことから,工業用
不要な無線通信技術の活用が期待されている。本稿で
無線圧力発信器においては,バッテリ動作期間長期化
は,工業用無線圧力発信器の開発において重要で,か
のために低消費電力化技術の向上が必要である。
つ解決困難な課題である低消費電力化技術の開発につ
以上のような観点から,低消費電力化に重点をおい
いて報告する。
て開発した無線圧力発信器を図 1 に示す。
2. 工業用無線圧力発信器の開発
バッテリ駆動で動作する工業用無線圧力発信器の開
発を考える。無線技術の進歩は目覚しいものがあるが,
現代においても,要求される性能の全てを満たす無線
通信技術は実現できない。そのため,工業分野で必要
とされる性能に注力した開発を行う必要がある。そこ
で,プラントを例に,具体的に工業用無線に必要な機
能を考えてみる。プラントは 1 年 365 日 24 時間運転を
続ける。そのため,バッテリ駆動の機器が導入された
— 16 —
図 1. 低消費電力無線圧力発信器
無線圧力発信器低消費電力化技術の開発
この無線圧力発信器は,計測周期を 1 秒に設定した
考えてみる。このときの電流消費を模式的に表すと,
とき,10 年以上の期間を単一形の電池 1 本で動作させ
図3(a)のようになる。各ブロックの消費電流を比べて
続けることが可能である。また,このように消費電力
みると,元々存在しない無線部を除けば,センサ部及
が小さいため,環境に存在する微少なエネルギーを利
び A/D 変換部の消費電力が大きい。当然,このままで
用した動作も可能であり,バッテリ交換さえも不要な
は消費電流の目標を達成できない。
無線圧力発信器も実現できる。
3. 工業用無線圧力発信器の低消費電力化
ここでは,上述の無線圧力発信器開発において,ど
のように低消費電力化を実現したか,その考え方や実
現方法について示していく。
図 2. 無線圧力発信器のブロック図
3.1 目標とする平均消費電流の算出
(a)2 線式発信器を無線化した場合
無線通信周期
消費電流
まず,工業用無線圧力発信器をバッテリで駆動する
際に許容される消費電流を見積もる。
今回,圧力発信器を無線化し,バッテリ駆動にする
にあたり,「単一形以下のバッテリによる動作期間 10
年以上」を 1 つの目標とした。サイズを単一形以下と
無線
通信
しているのは,小型・軽量化のためである。動作期間
無線
通信
については,市販されている一次電池の保証期間が 10
AD 変換
年であることによる。
では,この条件で使用できる平均消費電流 I を計算
センサ
する。計算式は以下の通りである。
CPU 動作
液晶表示
[ ]
消費電流 I [A] = バッテリ容量 Ah
動作期間 [h]
時間
(b)間欠駆動による低消費電力化
ここでバッテリ容量は,小型で大容量の単一形リチ
無線通信周期
消費電流
ウム電池の使用を考え,実際に存在するバッテリの公
称容量 19Ah を使用する。この値と動作期間 10 年を用
いて,平均消費電流 I は以下のように求まる。
AD
変換時間
19[Ah]
I= [
= 219.8×10-6 [A]
10 year]×365 [day]×24[h]
無線
通信
無線
通信
AD 変換
削除
(スリープ)
この結果から,発信器をバッテリ駆動するためには,
わずか 220μA 程度の電流により,測定から無線通信ま
センサ
AD 変換
削除
(スリープ)
CPU 動作
での全てを行わなければならないことがわかる。ちな
センサ
削除
(スリープ)
CPU 動作
液晶表示
みに,一般的な2線式の発信器では 4 ~ 20mA の電流
時間
信号により通信と電力供給を行っているため,少なく
図 3. 無線圧力発信器電流消費の模式図
とも 4mA の電流を使用することができる。しかもこ
こには,無線通信で必要とされる電流は入っていない。
そこで,低消費電力化のために,「間欠駆動」を導入
比較してみると,目標とする機器は,消費電流を2線
する。元々無線部は電流消費が激しいため,通常,間
式の 20 分の 1 以下に抑えなくてはならない。
欠的に通信を行う。そこで,センサや A/D 変換部も,
これに合わせて無線通信の直前のみ動作させるように
3.2 低消費電力化の考え方
する。こうすることで,「スリープ状態」と呼ばれる,
では,どうやって 220μA 以下という低消費電流を実
流れる電流の少ない時間を生み出すことができ,消費
現するのか,その考え方を以下に示していく。
電流を削減できる。この間欠駆動を導入した際の消費
図 2 に,無線圧力発信器のブロック図を示す。電源
電流削減効果を,図3(b)に示している。重要なのは,
がつなげられたとき,電流はセンサ部,A/D 変換部,
間欠駆動によるセンサ部及び A/D 変換部の動作時間を
演算・制御部,液晶表示部,そして無線部の各部で消
短くするほど,高い消費電流削減効果を得られること
費されることになる。
である。したがって,センサ部・A/D 変換部における
仮に,2線式の発信器をそのまま無線化することを
間欠駆動の実現とその動作時間短縮が,低消費電力化
— 17 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
技術の 1 つのポイントである。
120
センサ部及び A/D 変換部を含めた発信器の間欠駆動
100
が実現できた場合,もう 1 つ,低消費電力化のために
ける消費電流(スリープ電流)の大きさである。間欠
動作を実現できたとしても,このスリープ電流が大き
80
出力 [ % ]
重要なポイントが現れる。それは,スリープ状態にお
い場合には,得られる効果が小さいことは容易に理解
できる。したがって,スリープ電流を抑制する技術も,
バッテリ駆動で 10 年間動作する低消費電力化を達成す
60
40
20
0
0
0.5
1
る上で重要なポイントである。
1.5
2
時間 [s]
以下では,この 2 つのポイントに関する技術開発に
ついて,さらに具体的な内容を示していく。
図 5. センサの立ち上がり時間の比較
3.3 センサの間欠駆動実現と動作時間の短縮
開発した無線圧力発信器の精度について示す。図 6
バッテリで駆動する圧力発信器では,間欠駆動に対
は,温度 25℃における精度測定の結果である。この図
応できるセンサが必要であると同時に,精度にも気を
から,開発した無線圧力発信器が,0.01% FS 以上の高
配る必要がある。そこで,ここでは間欠駆動に対応す
い測定精度を有していることが確認できる。
るセンサの実現方法とその精度について説明する。
0.02
今回の開発では,センサ部として差圧センサを選択
センサは,差圧,静圧,そして温度を測定する 3 つの
Si ピエゾ抵抗式センサからなる。このような構成にし
ているのは,センサが置かれた静圧及び温度に依存す
0.01
精度 [ % FS]
している。用いたセンサの受圧部を図 4 に示す。差圧
0.00
-0.01
-0.02
ることなく差圧を測定するためである(1)。
0
50
100
設定圧力 [kPa]
図 6. 無線圧力発信器の精度
3.4 スリープ電流の抑制
ここでは,低消費電力化のもう 1 つのポイントであ
る,スリープ電流の抑制技術について解説する。
スリープ電流に関する説明を行う前に,計測周期に
ついて説明しておく。図7は,間欠動作する無線圧力
図 4. 無線圧力発信器のセンサ構造
発信器の動作を時間軸上で表した模式図である。
間欠駆動を実現するために,従来のセンサ駆動方式
図に示されているように,間欠動作における計測周
である連続駆動との差異を考えてみる。連続駆動の場
期は,1 周期分の回路動作時間とスリープ時間の和とし
合,センサの立ち上がりが遅くても,電源供給から十
て表せる。
分時間が経過した後に測定すればよい。これに対し,
通信
通信
間欠駆動の場合,センサへの通電時間を短くするため
に,センサに電源を投入した直後に測定を行う必要が
ある。すなわち,立ち上がりが速いセンサが必要になる。
測定
測定
図 5 は,開発した間欠駆動用のセンサの立ち上がり
時間を示したものである。合わせて,従来の連続駆動
用センサの立ち上がりも示している。間欠駆動用セン
サの立ち上がりが,連続駆動に比べて速いことがわかる。
回路動作
スリープ
時間
計測周期
図 7. 計測周期の説明
ここで,回路動作時間は,センサの精度や通信デー
タの量など,物理的な要求で決まるものである。した
がって,計測周期を短くする場合に削られていくのは
スリープ時間であり,消費電流は連続駆動に近づいて
— 18 —
無線圧力発信器低消費電力化技術の開発
いくことになる。このように計測周期は,バッテリを
用いた機器の動作可能時間と非常に深い関係がある。
測定回路用の電源生成
次に,スリープ電流を抑制することの重要性を,よ
り具体的に説明する。図8はスリープ電流をパラメー
タとし,計測周期に対する発信器の消費電流をシミュ
レートしたものである。シミュレーション条件は,回
路における電流消費を 30mA とし,その動作時間を
演算と無線回路の準備
5ms としている。
無線通信
発信器の平均消費電流(μA)
AD変換の実行
図 9. 無線圧力発信器の電流消費
図 9 において,10ms 付近と 50ms 付近の 2 つの大き
なピークが存在する。
これまでの説明では触れていないが,10ms 付近の高
いピークは,センサに供給する電源生成のための電流
無線通信周期(秒)
である。これは,センサへの電力供給を間欠的に行っ
ているために現れるピークであり,コンデンサへの突
図 8. 発信器の消費電流
入電流を含むため,大きくなる傾向にある。ただし,
3.1 で計算した目標とする消費電流 220μAを基準に
センサへ供給される電圧が不安定では測定精度に影響
考えると,スリープ電流 50μAにおいて,やっと計測周
するため,十分に安定するよう注意を払う必要がある。
期が 1 秒となる。例えば,監視に用いられる計測器では,
50ms 付近のピークは,無線回路が消費する電流であ
計測周期が短いほど早く異常を発見できるなど,短い
る。無線部に使用される IC には,電波の送受信用増幅
計測周期を要求されることもある。したがって,無線
器が含まれているため,消費電流が大きくなる傾向に
圧力発信器においても,できるだけ計測周期を短く設
ある。
定可能にした上で,バッテリによる機器動作期間を長
これら電源生成及び無線部の電流消費は大きいが,
く保つ必要がある。前述の通り,測定や無線通信に必
これ以上小さくできない電流であるため,消費電流を
要な電流を削るのは難しいことから,計測周期を短く
少なくするためには,できるだけ短時間で処理を終了
するためには,スリープ電流を小さくすることが重要
することが重要である。開発した機器では,動作制御
であることがわかる。
プログラム設計の際,この点に注意しており,数 ms
具体的なスリープ電流の抑制は,CPU や無線 IC に
という短時間で処理が終了していることが,図 9 から
待機電流が小さいものを選定し,不要な電流を流さな
わかる。
い回路設計の工夫などにより,徹底的に不要な電流を
消費電流が確認できたので,バッテリによる動作時
削ることにより行った。この結果,開発した無線圧力
間を確認してみる。図から回路動作時間の平均電流を
発信器では,全体のスリープ電流が 15μAであった。こ
計算したところ,およそ 3.6mA であった。スリープ電
れは,目標とする消費電流 220μAの10 分の 1 未満であ
流は 15μAであるので,計測周期を T とすると,平均
り,非常に小さな電流値に抑えられていることがわか
消費電流は以下の式で求められる。
る。
I=
4. 無線圧力発信器の動作
T
[A]
ここでは,これまで説明してきた低消費電力化技術
計測周期を仮に 1 秒(T =1s)とした場合,平均消費
電流 I は約 162μAとなる。このとき,バッテリとして,3.1
を組み込んだ無線圧力発信器の全体的な電流消費と,
の計算で用いた単一形リチウム電池(電池容量 19Ah)
バッテリ駆動での動作可能な期間について説明する。
を使用したときの動作期間は,以下のように求められ
図 9 は,開発した無線圧力発信器の 1 回の測定・通
る。
信動作における消費電流を示している。図中 9 ~ 50ms
19[Ah]
= 13.4 [year]
162×10-6 [A]×365 [day]×24[h]
が回路動作(測定+通信)中であり,残りの部分はスリー
プ状態である。図から,これまで説明してきた間欠駆
動を実現できていることが確認できる。
すなわち,計測周期 1 秒以下でバッテリによる動作
時間 10 年を超える無線圧力発信器が実現できている。
— 19 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
この結果は,工業用無線圧力発信器において最高水準
の低消費電力性能である。
なお,この計算により得られたバッテリによる動作
太陽電池(11cm2)
期 間 は,IEEE802.15.4 (2) の 物 理 層,MAC 層 を ベ ー ス
に構築した当社オリジナルのプロトコルで通信を行っ
た場合である。通信プロトコルによっては,無線回路
の動作時間が増す場合もあるため,工業用無線の国際
標準である WirelessHART や標準化が進められている
ISA100.11a などに対応する場合には,消費電流が大き
くなる可能性がある。ただし,今回の開発により,発
信器側の消費電流をできる限り抑えることができたた
め,実用に足るバッテリ寿命は十分に見込めると考え
図 11. ソーラー発電型無線圧力発信器
ている。
図 か ら わ か る よ う に, 太 陽 電 池 の 大 き さ は 5.5 ×
5. バッテリレス無線圧力発信器
2cm2 と小さいが,照度 650lx 程度(一般的な事務所の
無線機器にバッテリを使用する限り,ユーザーが
度の太陽電池面積及び明るさで動作が可能であること
「バッテリ交換」というメンテナンス作業から解放され
は,開発した低消費電力化技術を用いることにより,
ることはない。そこで,ここでは,開発した無線圧力
バッテリレス化実現へと近づけることができたことを
発信器の低消費電力性能を利用した,バッテリを使用
示している。
しない無線圧力発信器実現への取り組みを紹介する。
なお,より多くの利便性をユーザーに提供するため
バッテリレスを実現するために,エナジーハーベス
に,当社では他の環境エネルギーを使用したバッテリ
ト技術
レス無線圧力発信器の実現にも取り組んでいる。その
(3)
明るさ程度)の室内で動作を確認できている。この程
が利用できる。図 10 にエナジーハーベストの
結果として,振動では加速度約 1m/s2=0.1g(振幅 20μ
概念を示す。
m)という微小振動で,熱では 20℃以下という低温度差
において無線圧力発信器の動作を確認できている。
エナジーハーベスト技術を利用したバッテリレス無
線圧力発信器は,環境によってはメンテナンスの全く
いらない無線計測器を実現できる。ただし,環境エネ
ルギーは不安定なものであるため,異なる複数の環境
エネルギーを組み合わせるなど,設置環境に合う機器
への安定した電力供給方法を検討する必要がある。
図 10. エナジーハーベストの概念
図からわかるように,エナジーハーベストは,周辺
に存在する微少な環境エネルギーを利用して発電し,
6. おわりに 機器の電源として利用する技術である。人の生活圏で
本稿では工業用無線圧力発信器の低消費電力化技術
あれば明かりがあることは多く,光はエネルギー源と
について紹介し,微少な環境エネルギーでも動作可能
して利用しやすい。また,工業分野ではボイラーやコ
なバッテリレス無線圧力発信器が実現できることを示
ンプレッサを利用することも多いため,熱や振動など
した。近年,プラントや工場における無線機器利用に
も利用しやすいエネルギー源といえる。ただし,周辺
注目が集まってきているため,今後もこのような技術
環境に存在するエネルギーはどれも微少なものばかり
開発を通じて,工業用計測器のさらなる利便性をユー
で,取り出せる電力も非常に小さい。そこで,このエ
ザへ提供していきたいと考えている。
ナジーハーベスト技術を利用するためには,本稿で解
説してきたような徹底した機器の低消費電力化が必要
である。
図 11 は,一例として太陽電池を組み込んだ「ソーラー
発電型バッテリレス無線圧力発信器」を示している。
このように,可能な限り一体化することも,運搬の際
のユーザーの利便性を考えると重要なポイントである。
— 20 —
無線圧力発信器低消費電力化技術の開発
<参考文献> (1)間々田:差圧・圧力発信器の高性能 , 高精度化技術 ,
azbil Technical Review(2008), pp24-29, 株式会社
山武
(2)鄭:ZigBee 開発ハンドブック(2006),リックテレ
コム
(3)沈,佐々木 宏,鄭:エネルギーハーベスト技術,
計測制御(2009), V0l.48,No. 7, pp579-586
<著者所属> 木下 靖彦 技術開発本部 商品開発部 瀬川 進 技術開発本部 商品開発部 田辺 樹 技術開発本部 商品開発部
鄭 立 技術開発本部 商品開発部 — 21 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
熱源最適化コントローラのための
シミュレーション技術開発
Development of Simulation Technology for a Heat Source
Optimization Controller
株式会社 山武 ビルシステムカンパニー 松尾 裕子
Yuko Matsuo
キーワード 熱源最適化コントローラ,COP,熱源 ,冷凍機 ,ポンプ,制御 ,省コスト,省 CO2
熱源最適化コントローラ「PARACONDUCTORTM」の特徴的な機能として,熱源システムの最適制御,省エ
ネルギー制御による効果の可視化があげられる。各機能を支えるシミュレーション技術について報告する。
Features of the PARACONDUCTOR heat source optimization controller include optimum control of a heat
source system and visualization of the effects of energy-saving control. This paper describes the simulation
technologies that are applied to such functions.
1. 熱源最適化コントローラの紹介
は中間期・冬期でも冷水負荷があることから,低負荷
熱源システムのエネルギー使用量は建物全体の 2 ~ 3
施することが重要であるとの認識が広まりつつある。
割を占めており,熱源設備の省エネルギーには大きな
図 2 の「インバータ機」は,中間期・冬期の COP が
期待が寄せられている。山武はこれに応えるため,こ
向上した代表例である。インバータ機を導入すること
れまで送水ポンプの省エネルギー制御などを提案して
により,中間期・冬期に大幅な省エネルギー効果を期
きた。
待できる。
時の COP を向上させ,年間を通して省エネルギーを実
今回これらの省エネルギー制御に加え,新たに熱源
最適化コントローラ
「PARACONDUCTOR」
を開発した。
図 1 は PARACONDUCTOR システムの構成図であ
る。PARACONDUCTOR は個別機器コントローラの
監視装置
上位に追加され,各コントローラと連携しながら制御
や可視化を行う。
PARACONDUCTOR の特徴的な機能として,「熱源
システムの最適制御」「省エネルギー制御による効果の
可視化」があげられる。次章以降で,各機能を支える
シミュレーション技術について報告する。
〈 PARACONDUCTOR 〉
熱源システムの最適制御
省エネルギー制御による効果の可視化
ほか
個別機器コントローラ
2. 熱源システムの最適制御
個別機器コントローラ
2.1 背景
熱源設備の使用エネルギーは大部分が冷凍機による
ものである。近年冷凍機本体の COP
※1
が向上し,大き
な省エネルギー効果を上げている。また建物によって
— 22 —
図 1. PARACONDUCTOR システムの構成図
熱源最適化コントローラのためのシミュレーション技術開発
【インバータ式冷凍機の例】
20
18
16
冷却水
入口温度
18
13℃
15℃
20℃
22℃
25℃
29℃
32℃
14
14
12
10
8
6
10
8
2
0
40 60 80 100
負荷
(%)
2.3.2 シミュレーションの流れ
シミュレーションの流れは図 4 の通り。外気温度・
6
2
20
上させることができる。
20℃
22℃
25℃
29℃
32℃
12
4
0
を決定でき,結果として省エネルギー制御の精度を向
冷却水
入口温度
16
4
↑
COP
御による冷却水温度の変化も考慮して最適な運転台数
【従来型の冷凍機の例】
20
↑
COP
外気湿度・負荷熱量・負荷流量の計測値にもとづき,
20
計測条件における CO 2 排出量をシミュレーションする。
40 60 80 100
負荷
(%)
冷凍機・冷却水ポンプのエネルギー使用量は冷却水温
度に依存するため,先に冷却水温度を演算し,冷却水
温度演算値を用いて冷凍機・冷却水ポンプの CO 2 排出
図 2. 部分負荷 COP が向上した機器の代表例
量を演算する。
2.2 最小 CO 2 台数制御
別途 2.3.3,2.3.4 に冷却水温度・冷凍機のシミュレー
ション方法を記載する。
図 3 はインバータ機が 2 台ある熱源システムを想定
した,運転台数別の CO 排出量を示したグラフである。
2
1 台分の高負荷付近では,あえて 2 台運転させたほうが
1台運転 66kgCO2/h
CO 2 排出量が少ないことが分かる。
冷却水温度
山 武 は 従 来 よ り, 熱 源 コ ン ト ロ ー ラ
(PARAMATRIX TM )を用いて台数制御を行っている。
凍機運転台数を減らすほど省エネであると考えてきた。
外気湿度
しかしこの制御をインバータ機に適用した場合,冷凍
機が高負荷で運転してしまい,低負荷時の高 COP 特性
そこで最小 CO 2 台数制御は負荷・外気条件などから
負荷流量
冷却水温度
源システムとしての CO 2 排出量が小さくなるように運
転台数を決定する。結果として 1 台分の負荷でも 2 台
運転になるので冷凍機が低負荷で運転することが多く
4kgCO2/h
冷凍機
22kgCO2/hx2台
冷却水ポンプ
3kgCO2/hx2台
1次ポンプ
1kgCO2/hx2台
3台運転 57kgCO2/h
冷却水温度
運転台数ごとの CO 2 排出量をシミュレーションし,熱
11kgCO2/h
2台運転 52kgCO2/h
負荷熱量
を活かすことができない。
51kgCO2/h
冷却水ポンプ
1次ポンプ
外気温度
これまでの台数制御は図 2 の「従来型」を想定し,冷
冷凍機
冷凍機
15kgCO2/hx3台
冷却水ポンプ
3kgCO2/hx3台
1次ポンプ
1kgCO2/hx3台
図 4. シミュレーションの流れ
なり,高 COP 特性を活かすことができる。
2.3.3 冷却水温度のシミュレーション
冷凍機の COP は冷却水温度で大きく変わるため,
CO 2 排出量のシミュレーションのためには冷却水温度
のシミュレーションが必要である。
最小 CO 2 台数制御のシミュレーションは,放熱量と
外気・冷却水のエンタルピ差が比例という冷却塔の特
性に則っている。例えば放熱量が一定のときは外気・
冷却水のエンタルピ差が一定なので,図 5 のように外
気エンタルピが下がれば冷却水温度も下がる。
図 3. 運転台数別の CO 2 排出量をあらわしたグラフ
エンタルピ [kJ/kg]
2.3 シミュレーション技術
2.3.1 利点
最小 CO 2 台数制御のシミュレーション技術は,制御
のエンジニアリングと制御精度に優れている。
冷凍機の COP 特性はメーカーや機種によって異なる
ので,現場毎のエンジニアリングが必要である。最小
CO 2 台数制御のシミュレーションは,設備機器の仕様
書等に記載されている値を設定値としているので,誰
にでもエンジニアリングできるという利点がある。
また最小 CO 2 台数制御では,冷凍機の運転台数毎の
温度 [℃ ]
冷却水温度をシミュレーションしているので,台数制
図 5. 冷却水温度のシミュレーション(外気エンタルピ変更)
— 23 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
2.3.1 で記載したように,冷凍機の運転台数ごとの冷
却水温度もシミュレーションしている。
冷凍機が 1 台運転から 2 台運転になれば冷凍機 1 台
1台運転時
冷凍機負荷 50% , 冷却水温度 25℃
COP7.4
COP7.0
あたりの熱量が半分になるので,冷却塔への放熱量も
20
半分になり,外気・冷却水のエンタルピー差も半分で
18
よい。結果として図 6 のように,冷却水温度が下がる。
2台運転時
冷凍機負荷 100% , 冷却水温度 25℃
13℃
15℃
20℃
22℃
25℃
29℃
32℃
16
14
12
10
8
13℃
15℃
20℃
22℃
25℃
29℃
32℃
16
14
12
10
8
6
4
4
0
COP
冷却水入口温度
18
6
2
エンタルピ [kJ/kg]
20
冷却水入口温度
2
20
40 60 80 100
負荷(%)
0
COP
20
40 60 80 100
負荷(%)
図 8. 冷却水温度シミュレーション条件の冷凍機 COP
2.4 実績
2.4.1 冷却水温度のシミュレーション
冷却水温度の実測値・シミュレーション値比較を図
9 に示す。実測値・シュミレーション値が精度良く一
致しているほか,放熱量増加時に冷却水温度が実測値・
シミュレーション値ともに上昇しているため,前述の
温度 [℃ ]
シミュレーション手法が適切と判断できる。
図 6. 冷却水温度のシミュレーション(放熱量変更)
2.4.2 COP
2.3.4 冷凍機のシミュレーション
最小 CO 2 台数制御を評価することを目的に,建物運
冷凍機によるエネルギー使用量をシミュレーション
用中の現場において最小 CO 2 台数制御・従来制御を切
するにあたり,冷凍機負荷(実測値)・冷却水温度(前述
替運転し,負荷率・COP を測定した。
のシミュレーション値)における COP を読み込み,読
対象現場では等容量のインバータ機 2 台が設置されて
み込んだ COP を用いてエネルギー使用量を算出する。
おり,1 次ポンプ・冷却水ポンプともに変流量制御を導
冷却水温度としてシミュレーション値を用いるため,
入済である。インバータ機の高 COP 特性は冷却水温度
2 台運転の方が高 COP と判断する頻度が多い。この理
が低いときに限られるため,
検証は 10 月~ 11 月に行った。
由は運転台数毎に冷却水温度のシミュレーション値が
従来制御運転中の負荷率・COP 測定値を図 10 に,
異なり,COP に影響するためである。例えば図 7 のよ
最小 CO 2 台数制御運転中の負荷率・COP 測定値を図
うに,冷却水温度一定条件でシミュレーションする場
11 に示す。
合は 1 台運転が高 COP だが,図 8 のように冷却水温度
従来制御運転中は高負荷率領域でも運転されていた。
シミュレーション値を使用した場合,2 台運転の方が冷
一方最小 CO 2 台数制御運転中は高負荷率領域での運転が
却水温度が低く高 COP と判断することができる。
無くなり,COP が高い範囲だけで運転することができた。
2台運転時
冷凍機負荷 50% , 冷却水温度 25℃
COP7.4
COP7.0
冷却水入口温度
18
20
14
12
10
8
13℃
15℃
20℃
22℃
25℃
29℃
32℃
8
6
6
4
4
2
0
COP
冷却水入口温度
18
13℃ 16
15℃
20℃ 14
22℃
12
25℃
29℃ 10
32℃
16
放熱量
放熱量 [ % ]
20
外気温度
冷却水温度(シミュレーション値)
温度 [ ℃ ]
1台運転時
冷凍機負荷 100% , 冷却水温度 25℃
冷却水温度(実測値)
2
20
40 60 80 100
負荷(%)
0
COP
20
40 60 80 100
負荷(%)
図 7. 冷却水温度一定条件の冷凍機 COP
図 9. 冷却水温度の実測値・シミュレーション値
— 24 —
熱源最適化コントローラのためのシミュレーション技術開発
3.2 課題と解決方法
省エネ対策による効果を把握するにあたり一番客観
性が高い方法は,検証対象期間の電力使用量と過去の
COP [ − ]
使用量とを直接比較することである。しかしこの手法
には 3 つの課題がある。
[課題 1]過去の電力計量値が必要
比較のため,制御導入前の電力計量値が必要であ
る。制御導入前に電力メータが未設置の場合や新築
の場合には,電力量を比較できない。
負荷率 [% ]
PARACONDUCTOR では課題 1 を解決するため,
「制御導入前のシミュレーション」を実現し,過去の
図 10. 従来制御運転中の COP 測定値
電力計量値を把握出来ない場合でも省エネルギー効
果検証を可能とした。
[課題 2]負荷の増減に左右されやすい
COP [ − ]
空調負荷によるエネルギー使用量は負荷の増減に
左右されるため,過去との比較では省エネルギー効
果を把握し難い場合が多い。
一般的にポンプ変流量制御による省エネルギー制
御による効果は 10 ~ 50%程度である。一方猛暑/
冷夏の影響でエネルギー使用量は最大 15%増減する
負荷率 [% ]
ため、省エネルギー制御による効果を把握できない
場合が多い。
図 11. 最小 CO 2 台数制御運転中の COP 測定値
PARACONDUCNTOR の「 制 御 導 入 前 の シ ミ ュ
レーション」は,制御導入後の負荷にもとづき導入
3. 省エネルギー効果の可視化
前電力をシミュレーションするため,負荷の増減に
左右されない省エネルギー効果を把握できる。
3.1 背景
[課題 3]省エネ制御導入後の電力計量値が必要
山武がこれまで提案してきた省エネルギー対策とし
て,送水ポンプ(2 次ポンプ,1 次ポンプ,冷却水ポンプ)
比較のため,電力メータ設置が必要である。
の変流量制御があげられる。
PARACONDUCTOR は「メータ代替のシミュレー
省エネ対策実施後に効果検証を行うにあたり,ポンプ
ション」を可能としたため,電力メータを設置しな
の電力使用量を用いる場合が多い。PARACONDUCTOR
くても省エネ効果検証ができる。
でも効果検証のため,ポンプの電力使用量をグラフ表
示し,制御導入前・制御導入後の電力量を比較している。
3.3 シミュレーション技術の紹介
3.3.1 制御導入前のシミュレーション
省エネ導入前電力量
省エネ導入後電力量
山武は特に 2 次ポンプに対する省エネ制御を充実さ
せており,顧客のニーズに応じた省エネルギー制御手
法を販売している。2 次ポンプの省エネ制御手法の一覧
を下に示す。後に記載の制御ほど高機能で省エネルギー
効果が大きい傾向にある。
・ 送水圧力一定制御
・ 推定末端圧制御
・ 末端差圧制御
・ 末端差圧カスケード制御
・ 流量計測機能付バルブによる末端差圧カスケード制御
・ 流量計測機能付バルブによる最小差圧制御
・ VWV 制御
・ 流量計測機能付バルブによる VWV 制御
図 12. 省エネルギー効果のイメージ
省エネ対策として,商用ポンプへ省エネ制御を導入
— 25 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
するほか,省エネ対策実施済の変流量ポンプをさらに
3.3.2 メータ代替のシミュレーション
高機能の制御へ変更する場合がある。
省エネルギー対策による効果を把握するためには,
PARACONDUCTOR では省エネ制御導入前の条件
電力使用量の把握が不可欠である。
を商用ポンプ・送水圧力一定制御より選択できるよう
PARACONDUCTOR の「省エネルギー効果の可視化」
にした。
はポンプに電力メータを設置する代わりに,制御用の
監視・出力値にもとづき電力量をシミュレーションす
<制御導入前が商用ポンプの場合>
ることができる。
商用ポンプ電力量のシミュレーションでは,ポンプ 1
シミュレーションの概要を記載する。
台あたりの電力量を一定とみなし,運転台数分の電力
量を算出する。
<冷却水ポンプ>
配管抵抗が一定の条件においては,ポンプ電力はイ
<制御導入前が送水圧力一定制御の場合>
ンバータ出力の 3 乗に比例する。
制御導入前の条件として,送水圧力一定制御を想定
冷却水系統の配管抵抗は変化しないため,理論的に
する。 送水圧力一定制御を想定したシミュレーション
は電力はインバータ周波数の 3 乗に比例する。ただし
の考え方は,下記のとおりである。
データを分析した結果,実際は電力とインバータ周波
ポンプの試験成績書より Q-H 特性をを参照し,送水
数の 3 乗は一致しないことが明らかになった。一致し
圧力一定制御を想定したインバータ周波数を算出する。
ない原因として,冷却塔分の静水頭による影響があり
このとき送水圧力一定制御の運転点は,負荷流量の計
配管抵抗一定とみなせないこと,また低負荷時ほどイ
測値と送水圧力一定制御を想定した圧力設定値より決
ンバータ損失の割合が大きくなることがあげられる。
定する。図 13 に概要を示す。
しかしインバータ周波数と電力は強い相関をもつこ
次に同じ試験成績書の Q-E 特性を参照し,上記イン
とは明らかなので,試運転作業において電力もしくは
バータ周波数における電力を算出する。図 14 に概要を
電流値を計測し,実際の電力特性にあわせて電力パラ
示す。
メータを設定することで,電力メータの代替として使
用することができる。
Q−H 特性
運転点
設定
負荷流量
電力 [kW]
送水圧力一定時を想定した
インバータ周波数
流量
電力
図 13. 送水圧力一定制御のインバータ周波数
インバータ出力 [%]
Q−E 特性
図 15. 冷却水ポンプ
※ インバータ周波数の 3 乗を点線で表示した
< 2 次ポンプ>
上記インバータ周波数における電力
2 次ポンプは送水系統に制御弁が設置されているた
め,冷却水ポンプのように配管抵抗を一定とみなすこ
とができない。そこで試験成績書にもとづき負荷流量・
負荷流量
インバーター周波数を用いたシミュレーションを行う。
流量
試験成績書の Q-E 特性を参照し,負荷流量とインバー
タ周波数のときの電力使用量を算出する。
図 14. 送水圧力一定制御の電力
— 26 —
電力
熱源最適化コントローラのためのシミュレーション技術開発
Q−E 特性
インバータ周波数における電力
負荷流量
流量
図 16. 2 次ポンプ電力の算出
4. おわりに
空調・熱源設備は建物ごとに設計されており,多種
多様な構成になっている。山武は各設備に対する省エ
ネ制御を実現しており,ほとんどの建物に省エネルギー
制御を提案できる。
今後は複数設備の制御に取り組み,省エネ制御をさ
らに拡充したい。たとえばある設備と他設備とで省エ
ネのトレードオフがある場合,他設備もあわせた省エ
ネ制御を実現すれば,省エネ効果を大きくできる。
また設備設計動向への対応も必要である。例えば,
近年複数冷凍機で冷却塔を共有する建物が増えている。
共有冷却塔の設備においては,冷凍機の運転台数に対
して冷却塔の運転台数が多い特徴があるため,冷却塔
の容量制御による省エネ効果が見込まれる。
複数設備や共有冷却塔の省エネ制御においては制御
対象設備が増えるため,開発(スタディー),営業(省
エネ効果試算)においてシミュレーション技術を活用
し,精度の高い省エネ制御を提供できるようにしたい。
※ 1 COP(Caefficient of Performance)
冷凍機の効率を示す。(生成熱量÷投入熱量)で計算する。
<商標>
PARACONDUCTOR は,株式会社 山武の商標です。
PARAMATRIX は,株式会社 山武の商標です。
<著者所属>
松尾 裕子 ビルシステムカンパニー
開発本部開発 1 部
コントローラソフトウェア 1 グループ
— 27 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
サファイア高温隔膜真空計の
センサ素子・パッケージ開発
Development of the Sensor Chip and Package for a High-Temperature
Sapphire Capacitance Diaphragm Gauge
株式会社 山武 関根 正志
株式会社 山武 石原 卓也
株式会社 山武 差波 信雄
株式会社 山武 谷 武夫
Masashi Sekine
Nobuo Sashinami
Takuya Ishihara
Takeo Tani
キーワード サファイア,隔膜真空計,静電容量式 ,圧力センサ,高耐食性 ,高耐熱性 ,オイルフリー
腐食性雰囲気や高温という厳しい環境下でも直接使用できる圧力センサを実現するために,センサ素子の
材料自体の見直しから着手しサファイアを選定,独自に培ったサファイア MEMS(Microelectromechanical
Systems)技術を活かし工業用単結晶静電容量式圧力センサ素子を開発した。またセンサ素子の特性を維持した
まま耐食性・耐熱性・高気密性といった要求を満足した独自のパッケージ技術の確立により高温隔膜真空計の受
圧部の開発・実用化に成功したので報告する。
In order to develop a pressure sensor that can be used directly in harsh environments such as corrosive
atmospheres or high temperatures, we reexamined sensor chip materials and selected sapphire as the most
suitable one, and then developed an industrial single-crystal-based capacitance pressure sensor chip, on the
basis of our independently developed sapphire MEMS (microelectromechanical systems) technology. We also
established a unique packaging technology that realizes high corrosion resistance, high heat resistance, and
high airtightness without affecting the characteristics of the sensing elements. We then developed the pressure
receiving part for a diaphragm vacuum gauge for high temperature applications and put the technology into
practical use, on the basis of that technology. This paper describes the research and development process
mentioned above.
1. はじめに
を感圧部に採用したセンサ素子を開発した。サファイア
計測環境の厳しい現場では,高耐食性 ・ 高耐熱性で,
材料であるため,従来測定困難であった厳しい環境にお
かつ測定対象に直接使用できる高精度な圧力センサに
いてセンサ素子部を直接露出して圧力計測をすること
対する要望が潜在していた。
が可能となった。この特長を活かして,腐食性や高温が
従来,工業用途として一般的にはシリコンを基材とし
要求される半導体製造装置におけるガス圧力計測機器
た圧力センサが用いられてきた。シリコン自体は高耐
用として 「サファイア高温隔膜真空計」 の受圧部を開発
食性材料ではないため被計測媒体からセンサを保護す
した。開発した圧力レンジは
るために,その多くがダイアフラムを形成したオイル封
0 ‐ 100.00 Pa abs ~ 0 ‐ 133.32 kPa abs である。
入構造となっており,高温における計測が困難となる上
センサ自己加熱機能,検出回路や圧力計測技術の詳細
にセンサ自体が大型化してしまうのは不可避であった。
は本稿と同時に azbil Technical Review に掲載される
またオイル漏出を危惧し食品や医化学薬品分野,半導体
参考文献(2)を参照されたい。
はシリコンに比べて耐食性,耐熱性の点で極めて優れた
製造分野などからも敬遠されがちであった(1)。
このような問題を解決するため我々はセンサ素子の
材料自体の見直しから着手し , 単結晶工業用サファイア
— 28 —
サファイア高温隔膜真空計のセンサ素子・パッケージ開発
表 1. サファイアと他材料の材料特性の比較(1)
2. サファイアの特性
3. センサ素子
Al2O3(酸化アルミニウム)は γ-Al2O3 など多くの
隔膜真空計のセンサ素子構造と製作技術の概略を紹
多形が知られているが,いずれも 1,000℃以上の高温で
は最も安定な結晶構造の α-Al2O3 となる。耐食性セラ
介する。センサ素子の製作プロセスと製作技術詳細は,
参考文献(3)を参照されたい。
ミックスとして知られているアルミナセラミックスは
α-Al2O3 の焼結体である。α-Al2O3 の単結晶は,天然
3.1 センサ素子構造
にも存在し,宝石として良く知られている。酸化鉄,酸
サファイア圧力センサ素子は図 1 に示すよう圧力を受
化チタン,酸化ニッケルなどの不純物が含まれると青
けて撓む薄板(ダイアフラム)及びコンデンサを形成
色や黄色を呈し“ブルーサファイア”
,
“イエローサファ
するための窪み(キャビティ)をもつ台座部からなり
イア”などと呼ばれている。酸化クロムが不純物として
それぞれに形成された電極によって2つのキャパシタ
含まれると赤色を呈し“ルビー”と呼ばれている。
添加物を含まない α-Al2O3 の単結晶は無色透明であ
が構成されている。1 つはダイアフラムの中央に配置さ
れ印加圧力の大きさに応じて静電容量値が変化する感
り,
“ホワイトサファイア”または単に“サファイア“と
圧キャパシタ,もう1つはダイアフラムの端付近に配
呼ばれ,人工的に製造され工業材料として広く使用され
置された参照キャパシタである。感圧キャパシタの持
ている。本稿で記載しているサファイアは,このホワイ
つ静電容量を Cx,参照キャパシタの持つ静電容量を Cr
トサファイアのことである。
とする。この 2 つのコンデンサは面積を調整して容量値
表 1 にサファイアと他の材料特性の比較を示す。サ
が等しくなるよう設計してあり,ダイアフラムが圧力を
ファイアはシリコンだけでなく他の耐食耐熱性セラ
受けると理想的には外側の参照キャパシタ
(Cr)
はほぼ
ミックスと比較しても,耐食性,耐熱性に優れた材料
変化せず,中央の感圧キャパシタ(Cx)のみが変化する。
である。耐食性の点では,サファイアが単結晶である
ことも貢献している。例えばアルミナセラミックスは,
主材料はサファイアと同じ Al2O3 であるが,粒界などに
存在する Al2O3 以外の焼結助剤などの成分が耐食性の制
限になり,サファイアよりも耐食性が劣る。
また,サファイアは機械的強度も優れている。金属ダ
イアフラムを用いた圧力センサの受圧部では繰り返し
の変形が強いられ,金属に見られる塑性変形が起こると
精度の悪化を招く。サファイアは,シリコンと同様の完
全弾性体であり,弾性特性を示す脆性的な破壊は 900℃
程度の高温領域まで優先するのでこのような問題は発
生しない。以上のように,腐食性や高温雰囲気で直接圧
力計測ができるセンサ素子材料としてサファイアは極
めて優れた材料であるといえる(1)。
センサ出力は Cx 自体では無く,Cx-Cr または(Cx-Cr)/
Cxとして与えられる。この Cx-Cr の差分を出力とする
ことにより基材の熱による膨張や外部からの電気的ノ
イズの影響をキャンセルすることができる。
基材が等方的で内部応力がゼロならば,周辺を固定し
た半径 a の円板が均等圧 p を受けた時の微小撓み量 w
は中心からの距離 r の関数として下記のような一般式が
与えられている。
p
(1)
ここで D は曲げこわさで,基材の厚さを h,ヤング
率を E,ポアソン比をνとしたとき,
Eh3
(2)
— 29 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
(a)センサ素子上面写真
サファイア
2nm
接合界面
サファイア
図 2. サファイア直接接合部の断面 TEM 像
(b)A ‐ A 断面模式図
図 1. センサ素子構造模式図
と表される。圧力が印加されたときのキャビティとダ
イアフラム間の距離はこ の w( r )を圧力が印加されて
いないときのキャビティ深さ d 0 から差し引くことによ
図 3. キャビティ測定結果
り得ることができる。したがって感圧キャパシタ Cx(半
図 2 に 直 接 接 合 の 断 面 観 察 結 果 の 例 を 示 す。 断 面
径 r0)及び参照キャパシタ Cr(内半径 r1、外半径 r2)
TEM
(Transmission Electron Microscope)
像からサファ
は半径方向の積分を用いて以下のように表される。
イア同士が原子レベルで接合されている事がわかる。
電極を格納するキャビティの製作はドライエッチン
∫
r2
Cx = 2π
(3)
Cr = 2π∫
0
グにて形成している。エッチング領域の面が荒れている
と局所的な電極間ギャップのばらつきや,電極のパター
ニング不良の原因となる。図 3 にキャビティ形成後測定
r2
ri
(4)
結果を示す。表面の粗さは Ra 1 nm 以下を達成してお
り,これにより高精度に設計値どおりの静電容量値を得
る事ができる(5)。
ここで ε0 は真空の誘電率である(4)。
3.2 センサ素子製作技術
サファイアが耐食性に優れた高強度材料であるとい
4. センサパッケージ
うことは,裏を返せば極めて加工し難い材料であるとい
4.1 概要
える。サファイアは MEMS デバイスにおける各種製作
図 4 に隔膜真空計のパッケージング構造の断面模式図
技術の蓄積が少なく,図 1 の構造を実現するために様々
を示す。隔膜真空計は圧力レンジが 0 Pa‐100.00 Pa レ
な製作技術を独自に開発する必要があった。
ンジのように非常に微小なものもあり,パッケージング
ダイアフラムと台座部の接合は,接合界面にろう材
によるセンサ素子への応力等の影響を極力低減させる
やガラスなどの異種材料を介さない直接接合にて実施
必要がある。また半導体プロセスで用いられるエッチン
した。界面に異種材料が存在すると,耐食性や耐熱性
グガスやクリーニングガスに耐えうる部材選定・接合
に悪影響を及ぼしサファイアの特長を損なってしまい,
方法の確立が必要である。接ガス部にはサファイアと,
また被接合体と接合材料との熱膨張率の違いによる熱
金属の中では耐食性・耐熱性に優れた Ni 基合金を使用
応力が発生するなどのセンサ特性悪化の原因にもなる。
している。本構造を実現するために,接合界面に介在物
を使用しない 2 種類の接合の開発を行った。
— 30 —
サファイア高温隔膜真空計のセンサ素子・パッケージ開発
電極取り出し部
基準真空室
サファイア円板
ケミカル
ゲッター
ポンプ
センサ素子
サファイア
円板
金属薄板
バッフル
金属筐体
センサ素子
圧力導入部
2nm
図 4. センサパッケージ断面模式図
図 6. サファイア円板 / センサ素子接合部の断面 TEM 像
隔膜真空計は絶対圧計であり,リファレンス圧力を高
真空に長期間保つ必要があるが,これを維持するための
(2)センサパッケージ筐体は金属で構成されているため
気密性の高い接合方法の確立と、外部からのリークやリ
サファイアと金属の接合は必須である。センサ素子への
ファレンス室壁面からの放出ガス・透過ガスなどの排気
機械的・熱的ストレスを低減させるために,サファイア
が必要となる。排気にはケミカルゲッターポンプを採用
円板は十分に薄い金属薄板にいったん接合され,金属薄
している。独自に開発した真空封止技術とケミカルゲッ
板はその端部を金属筐体と固定される。サファイア円板
ターポンプ活性化により基準真空室は高真空に保持さ
と金属薄板の接合は耐食性・耐熱性が要求されるので,
れている。
介在物を使用しない接合を開発し適用した。図 7,8 に
また,圧力導入部から固形物のセンサ素子への直接の
接合部断面観察結果を示す。SEM 像ではサファイアと
衝突を避けるためバッフルを設けている。
金属の組成の違いを反映した界面が明瞭に観察される
が,TEM にてより拡大してみると原子レベルでの接合
4.2 接合
を確認することができる。
(1)センサ素子パッケージングにおいて外部からの機械
いずれの接合も隔膜真空計として必要な強度,耐食
的・熱的ストレスの軽減のためセンサ素子は直接金属に
性,耐熱性,気密性を有していることを確認した。
接合せず,同材料であるサファイアの円板に接合され
る。接合方法は耐食性で劣るガラス・ろう材などの介在
金属薄板
物を使用しない手法で実施した。図 5 にサファイア円
板/センサ素子の接合部断面観察結果を示す。この
F E - S E M( F i e l d E m i s s i o n - S c a n n i n g E l e c t r o n
Microscope)像からは明瞭な接合界面は判別できない。
図 6 に TEM 像を示すが、原子レベルにおいても良好な
接合状態が確認された(6)。
1μm
サファイア円板
サファイア円板
図 7. 金属薄板 / サファイア円板の断面 FE-SEM 像
金属薄板
100nm
センサ素子
図 5. サファイア円板 / センサ素子接合部の断面 FE-SEM 像
サファイア円板
2nm
図 8. 金属薄板 / サファイア円板の断面 TEM 像
— 31 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
5. 受圧部特性
開発した圧力レンジは,
0 Pa ‐ 100.00 Pa ~ 0 Pa ‐ 133.32 kPa である。
ここでは温度や機械的ストレスなどの悪影響を最も
受けやすい最小レンジである 0 Pa ‐ 100.00 Pa レンジの
基本特性・信頼性特性の評価結果を示す。
5.1 基本特性
図 9 に 200 ℃自己加熱における圧力特性の計算値と
図 11. 圧力サイクル試験結果(ゼロ点変化量)
実測値を示す。計算値は 3.1 に示した微小撓みモデルか
ら計算した。実測値と計算値が良く合致していることか
ら理論計算どおりの特性が得られている事が確認できる。
5.2 信頼性特性
図 10 に 200 ℃自己加熱における長期ゼロ点安定性の
結果を示す。1000 時間後でも± 0.1 % F.S. 以内であり極
めて安定している事がわかる。
図 11,12 に 200 ℃自己加熱における圧力サイクル試
験におけるゼロ点変化量,スパン変化量の結果を示す。
印加圧力は 0.1 Pa ⇔ 350 Pa で 100 万回繰り返した。ゼ
図 12. 圧力サイクル試験結果(スパン変化量)
ロ点・スパン変化量ともに± 0.5 %以内に納まっており,
これによりセンサ素子におけるサファイアダイアフラ
ムの優れた弾性特性が検証できた。
図 13,14 に 200 ℃ 自己加熱における大気圧サイクル
(約 100 kPa )試験におけるゼロ点変化量,スパン変化
量の結果を示す。半導体製造プロセス等で真空計が使わ
れる場合,繰り返されて印加される過大圧はチャンバ開
放時の大気圧である。本試験の結果では測定レンジの
約 1000 倍の過大圧印加 100 万回に対して,ゼロ点・ス
パン変化量ともに± 0.5 % 以内に納まっている。
図 9. 200 ℃ におけるセンサ圧力特性
図 13. 大気圧サイクル試験結果(ゼロ点変化量)
図 10. ゼロ点安定性( 200 ℃ )
図 14. 大気圧サイクル試験結果(スパン変化量)
— 32 —
サファイア高温隔膜真空計のセンサ素子・パッケージ開発
図 15,16 に 200℃自己加熱における過大圧サイクル
(300 kPa)試験におけるゼロ点変化量,スパン変化量の
7. 謝辞
結果を示す。印加圧力は 100 Pa 以下⇔ 300 kPa で,各圧
サファイア加工技術における基礎的な技術開発にお
力の保持時間を 30 min とし,
250 回繰り返した。ゼロ点・
いてご協力及びご指導いただいた東海大学の安永教授,
スパン変化量ともに± 0.5 %以内に納まっており十分な
堀澤専任教授,またパッケージにおける基礎的な技術
耐性を持っていることが確認できた。
開発においてご協力及びご指導いただいた東海大学の
これらの結果より,サファイア材料の完全弾性特性を
有賀教授,湘南工科大学の藤津教授(現:東京工業大
活かしたセンサ素子の優れた特性がパッケージされた
学),Lawrence Berkeley 国立研究所 Tomsia 教授並び
状態でも実現できていることを示し,本パッケージ構造
に Saiz 博士(現:Imperial College London)に感謝の
の有効性が検証できた。
意を表する。
<参考文献> (1)木村:MEMS マテリアルの最新技術 監修 江刺正喜 ,
シーエムシー出版 , pp.44-51(2007)
(2)吉川,原田,市原,長田,山口:サファイア高温
隔膜真空計の開発,azbil Technical Review(2011),
pp.34-41, 株式会社 山武
(3)添田:サファイアを用いた高耐食性静電容量式圧力
セ ン サ,Savemation Review(2001), Vol.19,No.2,
図 15. 300 kPa サイクル試験結果(ゼロ点変化量)
pp.36-43,株式会社 山武
(4)石原,長田:高温型サファイア隔膜真空計の開発,
第 23 回センシングフォーラム(2006),pp.130-135
(5)M. Soeda, T. Kataoka, Y. Ishikura, S. Kimura, Y.
Yoshikawa, M. Nagata, Sapphire-Based Capacitive
Pressure Sensor for High Temperature and Harsh
Environments Application, Proceedings of the
IEEE Sensors 2002 Conference, pp.950-953(2002)
(6)T. Ishihara, M. Sekine, Y. Ishikura, S. Kimura,
H. Harada, M. Nagata and T. Masuda, Sapphirebased Capacitance Diaphragm Gauge For High
Temperature Applications, Transducers ’05
図 16. 300 kPa サイクル試験結果(スパン変化量)
Digest of Technical Papers volume 1, pp.503-506
(2005)
6. おわりに
サファイア加工技術やパッケージング技術開発を行
<著者所属> うことにより,高耐食性,高耐熱性,高再現性,高精度
関根 正志 技術開発本部
である主に半導体製造装置分野向けの高温型隔膜真空
商品開発部
計受圧部を実用化することに成功した。
差波 信雄 技術開発本部
半導体製造装置分野以外においても、300 kPa のすぐ
商品開発部
れた繰り返し圧力特性を活かし、医薬品製造機器等に
石原 卓也 技術開発本部
広く採用され始めている。このように医薬,食品,ファ
商品開発部
インケミカルといった分野への応用も今後期待される。
谷 武夫 技術開発本部
現在,市場ニーズにもとづき、より高い自己加熱温度
商品開発部
やより低圧力のレンジ等を開発中である。今後も開発中
の機種の実用化を目指すとともに,サファイアの特長を
活かした圧力センサ以外の各種センサにも幅広く応用
していきたい。
— 33 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
サファイア高温隔膜真空計の開発
Development of a High-Temperature Sapphire Capacitance
Diaphragm Gauge
株式会社 山武 吉川 康秀
株式会社 山武 原田 英史
株式会社 山武 市原 純
株式会社 山武 長田 光彦
株式会社 山武 山口 徹
アドバンスオートメーションカンパニー Yasuhide
アドバンスオートメーションカンパニー Jun
Yoshikawa
アドバンスオートメーションカンパニー Hidefumi
アドバンスオートメーションカンパニー Mitsuhiko
Ichihara
Harada
Nagata
Toru Yamaguchi
キーワード サファイア,隔膜真空計,静電容量式 ,圧力センサ,高耐食,高耐熱 ,単結晶
センサ材料として単結晶サファイアを使用し高精度,高信頼性,小形,軽量を実現した主に半導体製造プロセ
ス用途向けの自己加熱タイプの静電容量式 COVAC TM サファイア高温隔膜真空計を開発したので報告する。単結
晶サファイアは極めて高い耐食性,耐熱性を有し,また優れた機械的特性も有しているため,腐食性ガスや高い
温度の苛酷な環境下でも高精度であり長期安定性の優れた真空計を実現した。またマイクロプロセッサを用いた
信号処理により,直線性に優れ温度特性の少ない高精度な計測を実現した。
Using single-crystal sapphire as the sensor material, we have developed the self-heating COVAC™ HighTemperature Sapphire Capacitance Diaphragm Gauge, which is high-precision, highly-reliable, small-sized,
lightweight, and intended to be used mainly in semiconductor manufacturing processes. Single-crystal
sapphire possesses extremely high corrosion resistance and heat resistance and also possesses excellent
mechanical characteristics, so that it provides high precision even in harsh environments such as corrosive
atmospheres or high temperatures, allowing us to succeed in realizing a long-term stable vacuum gauge. We
have also realized high-precision measurement with high linearity and high tolerance for temperature changes,
by means of signal processing using a microprocessor.
1. はじめに
圧力レンジ:0 - 100 Pa abs ~ 0 - 133.32 kPa abs
半導体デバイスを製作するプロセスのエッチング工
精度:0.25 % Reading ~ 0.5 % Reading
程や成膜工程では,各種の材料ガスが使用され,その圧
図 1 に開発した製品の外観を示す。
自己加熱温度:125 ℃ ~ 200 ℃
力を正確に計測し制御する必要がある。これらの材料ガ
スは腐食性ガスである場合が多い。また反応ガスの固化
による堆積を防ぐために多くの場合は,高温に加熱して
おく必要がある。半導体製造プロセス用途向けの隔膜真
空計はこれらの過酷な環境下においても正確な計測が
要求される。
当社ではこれらの要求を満足させるために,センサ材
料として高耐食,高耐熱である単結晶サファイアを使用
し高精度,高信頼性,小形,軽量を実現した自己加熱タ
イプの静電容量式 COVAC サファイア高温隔膜真空計
を開発したので報告する。
主な仕様を以下に示す。
図1. COVAC サファイア高温隔膜真空計外観
— 34 —
サファイア高温隔膜真空計の開発
2. サファイアセンサチップ及びパッケージ構造
S
S
式 (1)
Cx
S
サファイアは結晶構造の分類がコランダム構造をと
る,無色透明なα -Al2O3 の単結晶のことを言う。サファ
イアは耐酸,耐アルカリ性に優れ,高温使用にも耐えら
れる優れた材料であり,また単結晶であることから機械
ε :Permittivity in Cavity
的特性にも優れており,過酷な環境で使用される圧力セ
ンサには最適な材料である。
F :Thermal expansion coefficient of sensor material
しかしながら丈夫である材料ということは,その反
S :Area of electrode
面加工することが非常に難しい材料である。そのため
d :Distance between electrodes
圧力センサとして実用化することは困難であった。し
α :Deflections coefficient of diaphragm
かし当社ではサファイアをエッチングする技術や,耐
P :Applied pressure
食性や耐熱性を落とさずにサファイア同士,及びサファ
イアと金属を接合する技術を開発することに成功した。
そのため実用レベルの商品を開発することができた。
サファイアの加工技術や構造の詳細については本稿
と同時に azbil Technical Review に掲載される,参考文
献
(1)
を参照願いたい。
2.1 サファイアセンサチップ
図 2 にサファイアセンサチップの外観を,図 3 にその
模式断面図を示す。
センサチップは感圧ダイアフラムと,コンデンサを形
成するためのキャビティをもつベースで構成され,どち
らもサファイアを構成材料としている。キャビティはド
図 2. サファイアセンサチップ 外観
ライエッチングで形成され,ダイアフラムとベースのサ
ファイア同士の接合は耐食性,耐熱性を落とさない直
接接合により接合されている。センサの大きさは約 10
mm □,ダイアフラムの直径は約 8 mm である。
ダイアフラムとベースには対向した金属電極が形成
されており,感圧容量 Cx と参照容量 CR の 2 つの容量
を構成している。感圧容量はダイアフラムの内側に形成
され圧力により容量値が変化する。参照容量はダイアフ
ラムの外側に形成され,圧力により変化しにくく補正
のために用いられる。感圧容量と参照容量について式 (1)
の計測をすることにより,材料の熱膨張による温度特性
図 3. サファイアセンサチップ 模式断面図
を抑えることができ,誤差の少ない圧力計測ができる。
過大圧力が印加されたときは,ダイアフラムが対向す
るベースにぶつかり破壊されることが防止されるため
2.2 パッケージ構造
高い耐圧性能を保有している。キャビティは参照圧力室
図 4 にパッケージ構造模式断面図を示す。
と導通している。
センサチップは機械的ストレスを軽減するため,一旦
チップと同じ材料のサファイア円板で受けて,さらに
その円板を金属薄板を介して金属筐体に接続している。
チップとサファイア円板のサファイア同士の接合,及び
サファイア円板と金属薄板の接合は耐食性,耐熱性を落
とさない接合技術にて接合されている。
絶対圧力を計測するため,ケミカルゲッターポンプに
より参照圧力室は高真空に保持されている。
固形物のセンサチップへの直接の衝突を避けるため
配管にはバッフル板が設置されている。
— 35 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
Reference
vacuum room
Sensor
Chip
Cx,CR に比例した振幅の信号を出力する。
Electrode
lead
・電荷増幅器の出力は差動増幅器に接続され Cx−CR の
信号をとりだすとともに,静電シールドでもシールド
Chemical
getter
pump
Sapphire
disk
しきれない寄生容量を介して侵入してくるノイズを
キャンセルしている。
・差動増幅器の出力はバンドパスフィルターでさらにノ
Metallic
plate
Metallic
body
イズを除去している。
・バンドパスフィルタの出力は,正弦波波形で同期され
た同期検波回路に接続され,整流された後にローパス
Baffle
plate
Pipe
fitting
フィルタで DC 信号に変換される。
同期検波回路では信号を整流するとともにノイズ成
Applied
pressure
分をキャンセルしている。
・ローパスフィルタの出力は 1 ms 高速サンプリングの
24 bit A/D コンバータにてデジタル信号に変換し,マ
図 4. パッケージ構造模式断面図
イクロプロセッサに入力している。
3. 検出回路
・ Cx についても Cx‐CR と同様に計測されマイクロプ
3.1 検出回路要求事項
・さらにマイクロプロセッサでは,デジタルフィルタに
ロセッサにて(Cx‐CR)/Cx が演算される。
よりノイズを除去するとともに,式 (2) に示す多項式
開発したセンサは表 1 に示されるように,微小圧力の
演算によりセンサの直線性,センサの温度特性,回路
0 Pa ~ 100 Pa レンジにおいては,
約 40 pF のベースキャ
パシタンスに対して,フルスケール圧力印加によって 1
pF 程度の微小容量変化しか発生しない。よって製品要
の温度特性を補正している。
・多項式演算式の演算処理には特殊な浮動小数点を使用
求性能の± 0.25 % Reading 以内を満たすためには± 0.1
fF 以内の容量変化を正確に計測する回路が要求される。
そのため寄生容量や様々な外乱要因に影響されず微小
容量が安定して測定できる回路が必要になる。応答速度
することにより,高精度かつ高速応答の補正演算を実
現している。
表 1. 0Pa ~ 100 Pa レンジのセンサチップ特性
及び製品要求性能
は 63 %応答にて 20 ms の高速応答が要求されるため安
定した微小容量を高速に計測する必要がある。
Cx, CR Base Capacitance 40 pF
またセンサはヒーターにより高温に加熱されている
Cx Pressure Sensitivity
ため,検出回路をセンサ近傍には配置できない。そのた
Product accuracy
0.25 % Reading at 125 ℃
0.5 % Reading at 200 ℃
めセンサと回路の距離が離れた状態でそれを実現する
Response speed
必要がある。
Δ 1 pF / 100 Pa
20 ms / 63 %
Self heating temperature
125 ℃ ~ 200 ℃
3.2 開発した検出回路の動作原理と特長
外乱要因に影響されず,安定した微小容量を高速に検
出するために,いくつかの技術開発を検討しそれを実現
した。以下にその概要について記載する。
開発した検出回路のブロック図を図 5 に示す。図 5 は
Cx‐CR を計測するブロックを示している。
・センサ容量の Cx,CR の片側の端子には正弦波波形の
電圧を印加している。正弦波波形は CPU で演算され
たΔΣ方式で生成したコードを D/A コンバータに出
力することにより,高調波歪の少ない信号を形成して
いる。さらにその信号はバンドパスフィルタにて,よ
りノイズの少ない信号をセンサに供給することによ
り,安定したセンサ出力を得られるようにしている。
・Cx,CR のもう片側の端子は電荷増幅器に接続されて
いる。その信号ラインは電荷増幅器により仮想接地と
なる構造をとっており,接地電位での静電シールドを
有効にし,寄生容量の影響を受けないようにしている。
・電荷増幅器 は Cx,CR に流れる電流を電圧に変換し,
— 36 —
図 5. 検出回路ブロック図
サファイア高温隔膜真空計の開発
l
m
n
式 (2)
i=0 j=0 k=0
P
:Pressure Value
Aijk :Coefficient
Vo :
(Cx‐CR)/ Cx Value
Vs :Sensor Temperature
Vc :Circuit Temperature
3.3 性能確認
図 8. 自己加熱温度特性 評価データ
図 6 に圧力特性の評価結果を示す。微小圧力の 0 Pa
~ 100 Pa レンジにおいて,自己加熱 200 ℃の高温環境
下で,読み値の精度である [ % Reading] 値にて± 0.1 %
以内の良好な性能が確認できた。
図 7 に周囲温度特性の評価結果,図 8 には自己加熱温
度特性の評価結果を示す。こちらも微小圧力の 0 Pa ~
100 Pa レンジにおいて,周囲温度や自己加熱温度を変
化させても,ゼロ点,スパン
(圧力感度)ともに± 0.1 %
以内の変化であり良好な性能が確認できた。
図 9 に応答速度の評価結果を示す。ステップ入力の圧
力印加はできないため,応答速度 20 ms の基準真空計
との比較評価を行った。63 %応答にて基準真空計より 5
図 9. 応答速度 評価データ
ms 速い結果であったので,応答速度 20 ms 以下の高速
応答が実施できていることが確認できた。
4. 自己加熱機能
半導体製造プロセスにおいては,反応ガスの固化によ
る堆積を防ぐために多くの場合は装置を高温に加熱し
ておく必要がある。そのため隔膜真空計の内部において
も堆積を防ぐためにヒーターを内蔵し,センサを高温に
加熱する自己加熱機能を有している。その温度はガスの
種類やプロセス条件によって異なるので用途に合わせ
た加熱温度設定が必要である。
4.1. 自己加熱構造
圧力センサには温度特性があるため,温度センサで温
図 6. 圧力特性評価データ
度を計測し,前項で述べたように圧力センサの温度補正
を実施している。それにより温度によらず正確な計測を
実現している。
しかしながら温度特性の要因はセンサチップのみな
らず,パッケージ部にもあるため,ある程度の広い範囲
の温度分布が一定でないと正確な温度補正は実施でき
ない。よって温度分布が一定となる自己加熱構造が必要
となり,なおかつそれは外乱があっても均熱が維持され
る必要がある。特に大きな外乱としてユーザーが配管継
手部を加熱する場合があり,それによっても均熱が保た
れることが必要である。
図 10 に自己加熱構造を示す。
パッケージの回りに空間を設け,その回りに熱伝導
図 7. 周囲温度特性 評価データ
の良い黄銅の恒温ケースを設け,そのケースにヒーター
を取付け,パッケージの加熱を間接的に行う構造を採用
— 37 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
した。その結果パッケージ全体が均熱になり易い構造を
実現している。
図 11 及び表 2 に熱シミュレーターにより配管継手部
を加熱した場合の温度分布をシミュレーションした結
果を示す。配管継手の加熱がない場合も,配管継手を
200 ℃で加熱した場合も,温度特性に影響のある,セン
サチップ,サファイア円板,金属薄板の温度分布は± 0.1
℃以内のわずかなものであり,良好な均熱特性が得られ
ることが確認できた。
図 12 に実際に配管を加熱し製品の特性を評価した結
果を示す。微小圧力の 0 Pa ~ 100 Pa レンジにおいて,
ゼロ点及びスパン
(圧力感度)ともに,± 0.1 %以内の変
図 12. 配管継手加熱特性 評価データ
化であり良好な性能が確認できた。
4.2. 温度制御
Space
自己加熱温度制御は次のような性能が要求される。
・自己加熱温度構造を工夫しても,温度制御が不安定で
Heater
あると,均熱性を保つことはできず,正確な温度補正を
実施できない。よって安定した温度制御が必要となる。
Heat
insulator
・電源投入後に安定するまでの時間がかかりすぎると,
装置の稼動率を高くすることができないため,速い
Brass
case
Pipe
Fitting
ウォームアップが必要となる。
・電源電流により装置側の計測に影響を与えないため
に,フィルタでヒーター電流が平滑できる高速な時
図 10. 自己加熱構造
間比例制御周期が必要となる。
安定した温度制御でかつ速いウォームアップを実現
するために,自己加熱温度制御はマイクロプロセッサで
のデジタル PID 演算による時間比例制御を行っている。
デジタル PID 演算の各常数は電源電圧や加熱温度設定
値に連動し自動的に変更され,外乱に影響されず安定
した温度制御を実施できるようにしている。また時間
配管加熱なし
195℃
比例制御はマイクロプロセッサ内蔵のハードウェアに
配管加熱 200℃
よる PWM(Pulse Width Modulation) とファームウェア
による PWM を組み合わせた 2 重 PWM 方式を採用し,
200℃
約 100 kHz の高速の時間比例周期で,かつ約 4,000 分の
図 11. 配管継手加熱シミュレーション図
1 の制御出力分解能を持つ時間比例制御を実施し,高速
表 2. 配管継手加熱シミュレーション結果
図 13 に電源投入後の自己加熱温度のウォームアップ
自己加熱温度
設定温度
配管加熱
温度
センサチップ,サファイア円
板,金属薄板部温度分布
200 ℃
加熱なし
199.9 ℃ ~ 200.0 ℃
200 ℃
200 ℃
199.9 ℃ ~ 200.0 ℃
かつ安定した温度制御を実現した。
を測定したデータを示す。オーバーシュートもなく 30
分以内の速いウォームアップを確認できた。またウォー
ムアップ後は± 0.1 ℃以内の安定した温度制御が実現で
きていることが確認できた。
図 13. 自己加熱温度の立上げ特性 評価結果
— 38 —
サファイア高温隔膜真空計の開発
5. 真空標準
± 0.06 % Reading 以内で一致しており,膨張法におい
て正確な真空標準が実現できている事実を確認するこ
サファイア隔膜真空計が計測している真空の範囲は
とができた。
1 Pa ~ 133 kPa である。しかしながら 1 Pa ~ 5,000 Pa
の真空領域では,測定原理や測定系(配管の長さや温度
分布など)に測定結果が影響されるため,計測のトレー
サビリティを高精度で確保することが難しい。
よって当社では,先進国の国家計量標準供給機関の
真空領域の標準器と同じ原理【膨張法】の装置を製作し,
真空標準のトレーサビリティを確立した。
図 14 に製作した膨張法装置の外観図を,図 15 に膨張
法の原理図を示す。
膨張法の基本原理は Boyle-Mariotte の法則を利用し
たものである。図 15 に示すように,体積比が既知の大
小の 2 つの容器にバルブを介して連結されている容器 1
図 14. 膨張法装置 外観
と容器 2 がある。
① 容器 1 に既知の圧力を導入する。
② 容器 2 は真空ポンプで真空引きしておく。
③ 容器 1 の入口と容器 2 の出口のバルブを閉じる。
④ 容器1と容器 2 を接続しているバルブを開き,容器
1 内の気体を容器 2 に膨張させる。
上記の①~④の操作によって膨張させた圧力は,既知で
ある体積比,初期に導入した圧力値及び容器内の温度に
より,式
(3)
で求められる。
V1
T2
V1 +V2 T1
・
P2 = P1
式
(3)
さらに④の状態から容器 1 と容器 2 の間のバルブを閉
じて,②~④の作業により膨張が繰り返えされ正確な圧
力
(真空)
を発生することができる。
図 15. 膨張法原理図
しかしながら,容器の微小なリーク,容器の放出ガス
等の様々な要因により,誤差が発生してしまう。特に温
度変化については微小な温度変化
(分布)が大きな誤差
となってしまう。
当社では,その誤差を極力少なくするために,微小
リークや放出ガスが少ない装置を製作した。また容器内
の温度分布が発生しないように工夫するとともに,容
−
器内に複数の温度計を取り付けて温度補正ができるよ
うに改善した。またこの温度計と初期に導入する圧力を
−
正確に測定する圧力計の信頼性が,
④の状態(真空の値)
を特定するのに非常に重要になってくる。それを実現す
るためには,正確に校正された温度計及び圧力計を使用
図 16. 産業技術総合研究所との比較校正結果
することが必要となるが,当社の計測標準センターは,
計量法に基づく校正事業者登録制度による登録事業者
であり,そこで温度計及び圧力計を高いレベルで正確に
6. 熱遷移
校正することが可能である。それらの計測技術を駆使す
ることにより正確な真空標準を実現することができた。
真空領域の圧力計測において注意すべきものとして
図 16 には製作した膨張法で校正した 0 Pa ~ 100 Pa
熱遷移現象がある。
レンジのサファイア真空計を用いて,産業技術総合研究
図 17 に示すように,2 つの容器を管で繋いだ場合,
所の真空標準と比較校正した結果を示す。その差異は
大気圧付近の粘性流領域においては,気体分子は運動
— 39 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
量で平衡状態にあるため,2 つの容器間に温度差があっ
粘性流領域 : 式(4)
ても式
(4)に示すように圧力は等しい。しかし,圧力が
下がり分子流領域になると,力を伝える物質が少なくな
る。そのため運動量が制限され,部分的に熱的な平衡
T2
T1
分子流領域 : 式(5)
状態には達するが,運動量としては非平衡状態となる。
そのため,2 つの容器間に温度差があった場合は,式(5)
中間流領域 :
で表せる圧力差が生じることになる。
P2 A・X 2+ B・X+C・ X+ T2 /T1
=
式(6)
P1 1+A・X 2+ B・X+C・ X
さらに粘性流領域と分子流領域の間にあたる中間流
領域においては,式
(6)に示すように,容器間を接続す
X = 7. 5・P2・d
A, B, C :ガス種,温度による係数
る管の直径やガスの種類によって圧力
(真空)の値が影
響される複雑な式となる。このため自己加熱型の隔膜真
空計は,センサ部が加熱されていることから,被測定容
器との温度差が発生した場合,被測定容器とセンサ部に
圧力差が生じることとなる。
図 18 に被測定容器が 23 ℃,自己加熱温度が 125 ℃
と 200 ℃ の場合に発生する圧力差を示す。これによる
と 10 Pa 以下では 1% Reading 以上の大きな圧力差が発
生することがわかる。
そのため,隔膜真空計を校正する際には,被測定容器
の温度は自己加熱温度と同じ温度にてして圧力差が発
生していない状態で校正を実施する必要がある。
しかしながら生産ラインにおいては様々な自己加熱
温度の機種を校正する必要があり,機種ごとに被測定容
図 18. 隔膜真空計における熱遷移による圧力差
器の温度を変更していると多くの時間がかかり,非常に
生産効率が悪くなってしまう。
よって当社の生産ラインでは自己加熱温度の機種に
よらず,容器の温度は 23 ℃ とし,容器の温度を正確に
測定し熱遷移で発生する圧力差を補正し校正を実施し
ている。
当社が実施するこの校正方法の妥当性を確認するた
め,図 19 に被測定容器の温度が 23 ℃ にて熱遷移補正
をして校正した製品と同じものを使って,理想的な校正
条件【被測定容器を自己加熱温度と同じ温度にして熱遷
移による圧力差が発生していない状態】で値を比較検証
した結果を示す。
製品の仕様である 125 ℃ において± 0.25% Reading
図 19. 熱遷移補正の検証結果
及び 200 ℃ において± 0.5% Reading を十分満足してい
7. 付加機能
る結果となっており,正しく熱遷移の補正ができている
ことが確認できた。
7.1 ゼロ調整機能
図 20 に製品の上面図を示す。2 つのゼロ調整方式が
実施できるスイッチを製品上面に配置し,ユーザーの使
用方法に合わせてゼロ調整を実施できるようにし利便
性を向上させた。
・Auto ゼロ調整方式
Auto ゼロ調整スイッチを押すと自動的にその時の値
をゼロに合わせるので,簡単にゼロ調整が実施できる。
・アップダウンゼロ調整方式
Up スイッチ及び Down スイッチを押すと出力が変化
するので,トリマーで調整する方法と同じような調整
図 17. 熱遷移説明図
ができ,下記のような Auto ゼロ調整が使用できない
場合に使用できる。
— 40 —
サファイア高温隔膜真空計の開発
- 計測器のズレも含めて,指示値をゼロに合わせた
ることにより,高耐食性,高耐熱性,高再現性,高精度
い場合。
のサファイア高温隔膜真空計を商品化することができた。
- 高真空のゼロの環境ができないため,比較する標
現在,より高い自己加熱温度の製品や,より低圧力レ
準器の値に合わせることでゼロ調整を実施する場合。
ンジの製品等々を開発中である。それらの開発中の製品
- ゼロにバイアスをかけたい場合。
も含め,今後はさらにユーザーの価値を提供するためよ
り良い商品を開発していきたい。
<参考文献> (1)関根,差波,石原,谷:サファイア高温隔膜真空
計のセンサ素子・パッケージ開発 , azbil Technical
Review(2011),pp.28-33,株式会社 山武
(2)添田,石倉,増田,木村,長田:サファイアを用
いた高耐食性静電容量式圧力センサ,Savemation
Review
(2001), Vol.19, No.2, pp.36-43,株式会社 山武
(3)石原,長田:高温型サファイア隔膜真空計の開発
図 20. 製品上面図
(2006),第23回センシングフォーラム,pp.130-135
またゼロ調整を実施した際に,ゼロ調整の状態をス
(4)Y.Yoshikawa, S.Kimura, Y.Ishikura, T. Kataoka,
テータス LED で視認できるようにした。
M.Soeda, M.Nagata, T Masuda:Low Capacitance
Measurement Circuit for Sapphire Based
・緑点滅
Capacitive Pressure Sensor, PROCEEDINGS OF
ゼロ調整が正常に実施できた場合。
THE 20TH SENSOR SYMPOSIUM(2003), pp.127
・橙点滅
~ 130
ゼロ調整が正常に実施できたが,調整できる限界に近
(5)米永:低圧力の計測標準に関する調査研究 , 計量研
づいている場合。この橙点滅は事前に交換時期を知ら
究所報告 1999年第48巻 第2号(第200号)別冊
せる役割としても使用できる。
(6)平田:真空標準とトレーサビリティ , 真空 41-3(1998)
・赤点滅
347
ゼロ調整ができる範囲を超えてしまった場合。この赤
(7)T.Takaisi and Y.Sensui : Thermal Transpiration
点滅は,ゼロ調整ができず交換が必要となる。
Effect of Hydrogen, Rare Gases and Methane,
・赤橙交互点灯
Trans. Faraday Soc., 59(1963)2503
ウォームアップが完了していない,印加されている圧
(8)K.F.Poulter, M.J.Rodgers, P.J.Nash, T.J.Thompson
力が計測範囲外など,ゼロ調整の実施条件が整ってい
and M.P.Perkin:Thermal transpiraion correction
ない場合。これにより誤ってゼロ調整を実施してしま
in capacitance manometers, Vacuum 33-6(1983)
うことを防止できる。
311-316
7.2 自己診断機能
<商標> マイクロプロセッサで下記に示す自己診断を実施し
COVAC は,株式会社 山武の登録商標です.
ており,異常があった場合は,ステータス LED で異常
を表示するとともに,イベントリレーでアラームを出力
<著者所属>
することができる。これによりユーザー装置の安全な稼
吉川 康秀
動に寄与できる.
アドバンスオートメーションカンパニー
開発部開発7グループ
・警報状態 ( 使用環境が正常でない可能性がある )
原田 英史
-温度異常 ( 電子回路,センサ,ヒーター温度 )
アドバンスオートメーションカンパニー
開発部開発7グループ
-自己加熱制御温度異常,電源電圧異常
市原 純
・故障状態 ( 製品が故障している可能性がある )
アドバンスオートメーションカンパニー
開発部開発7グループ
-ヒーター断線,センサ断線
長田 光彦
-電子回路異常,メモリ故障
アドバンスオートメーションカンパニー
開発部
山口 徹
8. おわりに
当社では,サファイア加工技術,微小容量検出技術,
信号処理技術,温度制御技術,真空計測技術,を開発す
— 41 —
環境・標準化推進部計測標準センター
azbil Technical Review 2011年1月発行号
微少流量向け熱式流量センサの開発
Development of a Micro Thermal Flow Sensor with a Microchannel
株式会社 山武 池 信一
Shinichi Ike
キーワード マイクロフローセンサ,微少流量,質量流量,熱式,微小流路,MEMS
当社で開発に成功した熱式マイクロフローセンサ TM は様々な質量流量計製品に搭載され顧客への価値提供を
行っている。今回センサチップ上に微小な流路を形成する流路一体構造を実現することによって,これまで課題
となっていた 5cc/min 以下の微少流量域においても,高精度に安定した計測が可能な熱式流量センサの開発に成
功したので報告する。
Previously we have developed micro thermal flow sensors which are being used by many customers in
various types of mass flow meter products. More recently, by integrating a microchannel onto a sensor
chip, we have succeeded in developing a thermal flow sensor characterized by high-precision and stable
measurement even in a flow range from 0 to 5 cc/min, which had been regarded as a challenge. This paper
describes the development of this sensor.
1. はじめに
品群を示す。近年,気体流量計測へのニーズはますま
す多様化しており,流量レンジもさらに拡大し,高精
近年,地球環境保全のために各種の施策が推し進め
度な計測が要求されている。MEMS 技術を応用し製作
られている中で,CO2 排出量削減などを目的とした省
された熱式流量センサの開発事例は多数報告されてい
エネルギーの必要性が一段と高まっており,その 1 つ
るが(5),微少流量域を高精度に計測できる流量計を実
の手段として燃料,動力,熱交換の媒体及び原料など
現した例は少なく,MEMS センサの特長の 1 つである
として使用されている種々の流体の流量管理がますま
高感度な特性を十分活かしきれていないのが現状であ
す重要になっている。ところが,流量の計測は温度や
る。
圧力の計測に比べて手間やコストがかかり,測定対象
このような課題を解決すべく,流路の形成方法を工
や流量レンジなどの点で汎用性が少ないものが多い。
夫し,微小な流路を一体化した新たな熱式流量センサ
さらに,流量計の選定や設置には専門の知識やノウハ
を開発したので報告する。
ウが必要であるため,流量計測が満足に行われていな
いことも多く,高精度で簡便に流量計測を行いたいと
いうニーズがますます増加している。
また,流量の計測方法としては一般的なものだけで
も 10 種類以上のものがあるが,そのほとんどが体積流
量を計測するものであり(1),真にエネルギー効率に関
係する質量流量を計測している例は意外に少ない。
そ の よ う な 状 況 の 中, 当 社 で は MEMS(Micro
Electro Mechanical Systems)技術で製作した微細構
造の気体用熱式流量センサである「マイクロフローセ
ンサ」を開発し,それを用いた流量計,流量制御装置
を製品化し,様々な現場でお客様の課題解決に貢献し
てきた(2)~(4)。図 1 に当社におけるマイクロフローの製
— 42 —
図 1. マイクロフローセンサ製品群
微少流量向け熱式流量センサの開発
2. マイクロフローセンサの概要
は単に精密に小さく作ったからということだけではな
まず MEMS 技術を応用した熱式流量センサの構造と
シンクとして基台に使用し,キャビティ上で計測部を
特長,動作原理について,当社で開発したマイクロフ
支持するダイアフラムの熱伝導率がシリコンのおよそ
ローセンサを例にあげ説明する。
10 分の 1 程度と低い上に 1μm という薄さであり,し
く , 熱伝導率が約 150W/mK と高いシリコンをヒート
かも多数の熱絶縁用スリット付きの窒化シリコンを使
2.1 マイクロフローセンサの構造と特長
用しているところにある。この構造により,温度変化
マイクロフローセンサは,シリコンマイクロマシニ
する部分をダイアフラム部のみに限定することができ,
ング技術と薄膜技術により製作された 1 辺が 1.7mm,
ダイアフラム中央とシリコン基台間のわずか数百μm
厚さ 0.5mm の高感度,高速応答,小型,低消費電力な
の距離において,数十~数百度の温度差を数 mW の電
どの特長を有する気体用熱式フローセンサである。図 2
力で瞬時に作ることができる。
にその基本構造の概略を,図 3 にセンサチップ上面の
2.2 動作原理
拡大写真を示す。
一般的な動作方法は,図 4(a)のようなヒータ定温度
下流側温度センサ
(Rd)
上流側温度センサ
(Ru)
1.7mm
ダイアフラム
制御回路を用いてヒータを周囲温度センサで検出され
絶縁膜層
FLOW
る流体温度よりある一定温度(例えば 60℃程度)高く制
ダイアフラム
御し,そのときの上流側・下流側温度センサの抵抗値
A'
A
周囲温度センサ
(Rr)
ヒータ
(Rh)
差を図 4(b)のような抵抗ブリッジからなるセンサ出力
回路により電圧差として取り出すというものである。
キャビティー
シリコンチップ
0.5mm
A-A' 断面
定電圧
図 2. マイクロフローセンサの基本構造
上流側温度センサ
Ru
電圧出力
ヒータ
Rh
下流側温度センサ
Rd
周囲温度センサ
Rr
(a)
ヒータ定温度差制御回路
(b)
センサ出力回路
図 4. 基本的な動作回路
図 3. センサ拡大写真
流れが無いときは,図 5(a)のようにヒータの上流側・
シリコン基台中央の深さ約200μmのキャビティ(空
下流側に均一な温度分布ができているが,流れがある
洞)上には,窒化シリコンでできた厚さ約1μmのダイ
とヒータの上流側・下流側の温度分布の対称性が崩れ,
アフラムが作られており,その中央にヒータ,ヒータ
図 5(b)のように上流側が下流側より低い温度分布にな
の両側に温度センサが形成されている。また,シリコ
る。このときの上流側・下流側温度センサの温度差(抵
ン基台上には周囲温度センサが形成されている。ヒー
抗値差)が,センサ上面を流れる気体の質量流速(流
速 U ×密度ρと定義する)の関数となる。
タ,温度センサ及び周囲温度センサは,測温抵抗体と
して信頼性が高い白金薄膜で形成され,その抵抗値か
等温線
ら温度を知ることができる。
流れ
等温線
キャビティはシリコンの異方性エッチング技術によ
り形成されており,ダイアフラムには多数のスリット
が形成されている。これは,製作上エッチング液を導
(a)
流れのない状態
入する必要があるためであり,性能上の理由としては,
圧力特性のキャンセルと熱絶縁のために設けられている。
(b)
流れを受けた状態
図 5. 動作原理(概念図)
熱式センサの性能向上には,MEMS 技術によるマイ
クロ化が必要不可欠であり,検出部の熱容量を非常に
なお,ヒータの両端電圧を出力とすることにより,
小さくできるため,感度,応答性,省電力性などが飛
熱線流速計のように1素子型のフローセンサとして使
躍的に向上する。また,一度に多数の微細構造を高精
用することも可能であり,より高流速までの計測が可
度で製作することができるため,性能のばらつきも小
能である。しかし,1素子型は外乱や製造のばらつき
さくなる。
の影響をそのまま受けてしまうので,流速ゼロのとき
しかし,このセンサの高性能を生み出している要因
の出力変化が大きく,精度・再現性などの点で問題が
— 43 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
ある。それに対し,上記の方式では均一に作られた 2
3.2 微少流量計測における課題と解決策(6)
つの温度センサの差動出力をとっているため,流速以
上述したようにマイクロフローセンサはセンサ上を
外の外乱(温度・圧力変化,自然対流,電気的ノイズなど)
流れる流体の流速に応じた出力が得られる。高精度な
や製造のばらつき,及び素子の経時変化の影響がキャ
流量計測を行う場合,適切な流速を確保し,センサ出
ンセルされ,流速ゼロのときの出力が安定し,非常に
力に対する振動等の外乱の影響を極力低減する必要が
高精度で再現性の良い計測ができる。このことによっ
ある。 3.1 で述べたセンサを流路に挿入する従来の方
て,1mm/s という超低流速の検出も可能となる。また,
式においても,流路の断面積を小さくしていくことで
対称構造のため,逆流の計測も可能である。
数百 ml/min 程度の流量レンジまでは適切な流速が確
保でき,高精度な計測は可能であった。しかしながら,
3. 流量計測方法と課題
数十 ml/min さらにはそれ以下の微少流量域でも適切
3.1 従来の流路構造とセンサ取付け方法
計算上目標とする流路は現行の 1/240 程度にする必要
マイクロフローセンサを流量計として構成するため
があり,センサ自身の大きさよりも小さくなってしま
には,その目的に合わせた以下の機能を持つ流路が必
うため,従来のセンサ挿入型は構造上不可能である。
要となる 。
したがって,劇的に流路断面積を小さくし,微少流量
な流速が確保できるように流路断面積を小さくすると,
(2)
(1)測定する気体の流れ方向とマイクロフローセンサ
域でも高精度な計測を達成するためには,抜本的に流
の計測方向を合わせて,マイクロフローセンサを
路の形成方法を変更する必要がある。
機械的に固定する。
そこで,本開発ではセンサ上の流路断面積を小さく
(2)流量計測範囲に応じて流路の直径(断面積)を決め,
する方法として MEMS 技術によって微細な流路を製作
流路内の平均流速をマイクロフローセンサの流速
し,その流路をセンサ上に一体化する方式を考案した。
計測範囲に合わせる。
以下,その具体的な構造と製作方法について説明する。
(3)流れの乱れを小さくし,流速分布の偏りを矯正す
ることによって流れを整流する。
(4)マイクロフローセンサの直前で流路内壁面の速度
4. 微小流路の構造と製作方法
境界層を排除し,流速分布をフラットに近づけ,
図 7(a)に微小流路の構造図を示す。長さ 10mm, 幅
センサが常に層流境界層内(境界層発達の初期段
5mm, 厚さ 1.5mm の長方形の板の左右に直径 1mm の
階)に位置するようにする。
流体流入 , 流出用の貫通穴が形成されている。2 つの
(1)~(4)に示したような,用途に合わせたフロー
貫通穴をつなぐように図 7(b)に示すような断面形状が
チャンネルにマイクロフローセンサを設置することに
0.5mm × 1.0mm の矩形の流路が形成されている。
より,流路内の平均流速,流路径,整流機構,流体の
本 開 発 に お い て 流 量 レ ン ジ の 仕 様 は 5ml/min と
種類などによって決まるセンサ近傍の流速勾配が,非
20ml/min の 2 つを目標としたが,微小流路は上記 1 種
常に高い再現性で流量の関数になる。よって,流量と
類の寸法で双方のレンジに対応できるよう設計を行っ
センサ出力の関係を調べておくことにより,上流・下
ている。
流側配管の条件及び配管内の流れの遷移(層流⇔乱流)
に関係なく高精度で広いレンジアビリティーの流量計
測が可能になる。図 6 に従来から製品に適用されてい
る基本的な流路構造を示す。
流れ
(a)全体図 (b)断面拡大図
図 7. 微小流路構造
金網
マイクロフローセンサ
具体的な製作方法は以下の通りである。流路は Si と
絞り
ホウ珪酸ガラスの 2 ピース構造から成り立っている。
まず図 8(a)に示すように Si 基板に楕円形の貫通長穴
図 6. 基本流路構造
を形成する。この貫通穴は ICP-RIE エッチングによっ
て形成されており,Si に対して垂直性の高い,高アス
ペクト比の形状を精度良く加工することが可能である。
流路断面積の形状ばらつきが大きいと,流れる流量が
センサ間によってばらつくこととなり,器差増大の原
因となってしまう。したがって,流路断面積の形状を
— 44 —
微少流量向け熱式流量センサの開発
寸法精度良く加工することは非常に重要である。
接合部に十分な強度,気密性があるか確認を行った
一方,ホウ珪酸ガラス基板には,サンドブラスト加
結果,破壊圧力は 20MPa 以上,He リーク検査による
工によって図 8(b)に示すような流入−流出口を形成し
気密性は 1×10 - 8 Pa・m3/sec 以下と,流量計として使
ておく。 図 8(c)に示すように , この 2 つの基板を陽極
用する上で十分な強度と気密性を実現できていること
接合することで微小な流路構造を実現している。なお,
を確認できた。
すべての製作プロセスをウエハレベルで一括製作し,
最後に個片に分割する方式をとることによってコスト
の削減を行っている。
6. 評価結果
製作したセンサの流量特性を図 11 に示す。横軸が流
量(ml/min),縦軸がセンサ出力(V)である。グラフか
ら数 ml/min 以下の微少流量域から 20ml/min を超える
流量域までセンサ出力が飽和することなく十分な感度が
(b)ガラス基板
得られ,広範囲な測定が可能であることを確認できた。
出力[v]
(a)Si基板 (c)接合後の上面図と断面図
図 8. 微小流路製作方法
流量〔(ml/min)standard〕
5. 流路一体化の方法
図 11. 流量特性測定結果
先に述べた微小流路と流速センサとの一体化の方法
について説明する。流速センサはチップ中央に 2.1 で述
次に測定精度について評価した結果を示す。図 12 は
べた従来センサの構造・形状を踏襲したダイアフラム
電源 ON/OFF をある一定期間内で繰り返した後,ゼロ
が存在し,ヒータと上下流2つの温度センサからなる
点とスパンそれぞれについて測定再現性を確認したも
流速検出部が配置してある。微小流路との接合部を確
のである。
保するために流路形状に合わせ周辺の Si 基台部分を拡
張した長方形形状となっている。図 9 に流速センサ外
誤差[%FS]
観図を示す。
図 9. 流速センサ
(a)ゼロ点
微小流路と流速センサを接合する方法として , 陽極接
合など種々の方法が考えられる。今回の開発ではパター
誤差[%FS]
ン段差の埋め込みが可能で,アウトガスの発生の無い
材料を選定した結果,低融点ガラスを用いた接合方法
を採用している。図 10 に流路一体化後のセンサ外観図
を示す。
流量〔(ml/min)standard〕
(b)スパン
図 10. 微小流路一体化センサ
図 12. 測定再現性の確認結果
— 45 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
<参考文献> 図 12(a)はゼロ点の測定再現性である。0.05% FS 以
下の非常に安定した特性が常に得られていることが確
(1)川田裕郎 ほか,流量計測ハンドブック,日刊工業
新聞社,pp.7 ~ 11
認できる。図 12(b)はスパンの測定再現性である。こ
ちらも全流量域において 0.2% FS 以下という良好な測
(2)「 マ イ ク ロ フ ロ ー セ ン サ 」 特 集 号,Savemation
Review(2001),Vol.19, 株式会社 山武
定再現性が得られている。
以上の結果から , 本開発のセンサが流量計として非常
(3)松山裕 , 実用流量測定 , 省エネルギーセンター ,pp145
~ 154
に高精度な測定が可能であることを確認できた。
(4)植松時雄 , 水力学(第2版), 産業図書 , pp52 ~ 56
7. 応用製品の紹介
(5)N.T.Nguyen: Micromachined flow sensors-a
review
Flow Meas.Instrum.,Vol.8,No.1,1997
当社ではこのセンサを搭載したマスフローコント
ローラ CMQTM -V シリーズ(図13)を用意しており,真
(6)中野正志他,微小流路を一体化した熱式流量セン
空成膜装置,分析装置等における微少流量の計測制御
サの開発,第 26 回センシングフォーラム(2009),
が必要なアプリケーションで採用いただいている。製
p177
品の主な仕様を以下に示す。
<商標>
CMQ-V 微少流量タイプ仕様
マイクロフローセンサは,株式会社 山武の商標です。
5ml/min,20ml/min【Air/O2/N2/Ar】
CMQ は,株式会社 山武の商標です。
20ml/min, 50ml/min【H2,He】
・ 精度 ± 1% FS
<著者所属> ・ 再現性 ± 0.5% FS
池 信一 技術開発本部
・ 制御性 500msec
基幹技術開発部
センシング技術グループ
図 13. マスフローコントローラ CMQ-V シリーズ
8. おわりに
流速センサの性能を最大限に引き出す理想的な流路
構造を考案し,その製作プロセスを開発した。さらに
流路と流速センサを一体化する接合プロセスの開発も
行った。その結果,微少流量を高精度に計測可能な流
量センサを実現できた。MEMS 型の熱式流量センサと
しては世界的にみても画期的な性能を達成できたと考
えている。今後もあくなき追究を続け,様々な場面に
おいて顧客の課題解決に貢献していく所存である。
— 46 —
微少流量向け熱式流量センサの開発
— 47 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
電気式温度調節器の設計技術研究
Research on Electric Room Temperature Controller Design Technology
株式会社 山武 末武 雅俊
株式会社 山武 石塚 保夫
東京電機大学 藤田 壽憲
ビルシステムカンパニー Masatoshi
ビルシステムカンパニー Yasuo
Suetake
Ishizuka
Toshinori
Fujita
キーワード 電気式温度調節器,ダイアフラム,マイクロスイッチ,ANSYS ,非線形弾性解析
電気式温度調節器
(以降,温度調節器と略す)は空調機や操作器と接続するだけで簡易な計装制御を行うことが
可能だが,構成要素の持つ非線形性の特性によりその計算,予測が難しい事が設計,品質向上への課題となって
いる。本稿では当社製 ON-OFF 型電気式温度調節器「ネオスタット TM TY600XZ」の構成要素である,感温ダイ
アフラムとマイクロスイッチについて有限要素法による特性シミュレーションを行い,評価を行った結果,温度
調節器の設計への有効性を確認したので報告する。
Electric room temperature controllers enable easy instrumentation and control simply by connecting them
with air conditioners and a control box. However, difficulty in calculation or prediction of characteristics
of components due to their nonlinearity remains an obstacle to design and quality improvement. We have
implemented characteristics simulation of the temperature-sensitive diaphragms and microswitches which are
components of NeostatTM TY600XZ, an ON/OFF type electric room temperature controller, by means of the
finite element method, and found that such simulation is useful for the design of electric room temperature
controllers. This paper describes the result of the study.
1. はじめに
ており,組付け時にかかる力なども考慮できないため,
実際の設計にそのまま適用しても誤差が大きく,結果と
電気式温度調節器は,検出部にダイアフラムやバイ
して,目的とする特性を得るために試行,微調整など
メタルを用い,その温度変化による膨張や変位によっ
が多くなることを余儀なくされており,調節器の設計,
て駆動し,調節部もマイクロスイッチやポテンショメー
品質向上への課題となっている。
タで構成されていることから,調節器自体としては電気
一方,数値計算の発達に伴い,有限要素法(Finite
的エネルギー消費をしないものである。
Element Method,以下 FEM)によるダイアフラムや
今日,白金抵抗体などの電子式センサとマイコンの組
スイッチ単体での特性解析は常態化している(1)~(4)。し
み合わせによる高精度・広計測範囲の電子式計装がある
かしながら,本電気式温度調節器のように両者を組み合
が,電気式温度調節器は簡易な空調計装による温調市場
わせた場合については前例がなく,明確な計算方法も確
(ビル空調含む)に用いられている。
立されていない。加えて,感温ダイアフラムの変形は圧
電気式温度調節器の設計においては,検出部における
力センサ用のダイアフラムなどに比べ変形量が大きく,
大変形問題,出力部(マイクロスイッチ)における可
また,使用しているマイクロスイッチについても,今回
動ばねの飛移り座屈問題など,構成要素が非線形性の
使用するセンターメンバを有するタイプについての特
特性を有することから,特性の計算,予測が難しいとい
性解析は調べた限り報告されていない。
う問題がある。従来,これらの特性計算の式が導出され
ているが,単純形状やある特定の用途,条件に限定され
— 48 —
電気式温度調節器の設計技術研究
本報告では,当社製 ON-OFF 型電気式温度調節器
ている。この曲げられた面の上下に接点が取り付けられ
「ネオスタット TY600XZ」
(図1)について,ANSYS
ている。マイクロスイッチの構成を図5に示す。可動ば
Mechanical(ANSYS, Inc.)を用いて,その構成要素で
ねは1本のリベットで固定され,メンバは圧縮され,そ
ある温度検出部,出力部の特性について,まずは個別に
の先端は支持部の V 溝に引掛けられている。図に示し
シミュレーションし,最終的に両者を連成させることに
た位置で感温ダイアフラムからの荷重を受ける。この荷
よって電気式温度調節器の特性予測を行い,今後の設計
重により可動接点は上側または下側の接点と接触状態
への有効性を検討する。
が変化する。また図には示さなかったが,マイクロスイッ
チの動作を微調整できるように上側接点の位置と回転支
点の位置はねじによって調節できる構造となっている。
検出部
感温ダイアフラム
ブタン
(気液混合状態)
可動ばね
(スイッチ)
出力部
図 1. ネオスタット TY600XZ
空調装置
2. 構造と原理
(a)復帰時
図2に TY600XZ の構造と動作原理を示す。この温度
調節器は感温ダイアフラムを検出部とし,マイクロス
イッチを制御出力部とするものである。
ブタン
感温ダイアフラムは2枚のダイアフラムの周端部を
溶接で接合し,その空間にブタンを封入したものであ
る。ブタンは気液二相の平衡状態にあり,温度に応じて
蒸発し,ダイアフラム内の蒸気圧力と変位を変化させ
空調装置
る。両ダイアフラムの中心には支柱が設けられ,この
一端を固定し,他端をマイクロスイッチに押し当てる。
(b)動作時
すると図のように,温度が上昇するとダイアフラムが膨
図 2. TY600XZ の構造と原理
張,変位しマイクロスイッチを押すので,ある温度 T1
でマイクロスイッチが切り換わり,オン状態となって空
調機が作動する(この場合は冷房制御)
。その後,温度
が低下していくと,ダイアフラムが今度は収縮してい
き,ある温度 T2 でマイクロスイッチはオフ状態に復帰
し,空調機は停止する。この動きにより,調節器は周囲
温度を一定の温度範囲
(T1 ~ T2)に保とうとする。これ
が ON - OFF 型電気式温度調節器の原理である。
2.1 感温ダイアフラムとマイクロスイッチ
図 3. 感温ダイアフラムの概観
感温ダイアフラムの概観を図3に示す。ダイアフラム
は円形であり,所定の板厚と外径を有し,材質はステン
レスである。ダイアフラムの波形状は円弧近似で製作さ
れる。この円弧半径と波ピッチは外周になるほど大き
い。また 2 枚のダイアフラムの波形状は相似形である。
本調節器に用いられるスイッチは Z 型マイクロスイッ
チである。スイッチは図4に示すようなセンターメンバ
を有する可動ばねを用い,材質はベリリウム銅である。
可動ばねはセンターメンバ付近から曲げ加工が施され
— 49 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
上側ダイアフラム
荷重負荷位置
可動接点
センターメンバ
飽和蒸気圧
固定
下側ダイアフラム
拡大
固定
図 4. 可動ばねの形状
可動ばね
(N.C.)
上側接点
荷重負荷位置
固定リベット
共通接点
(COM.)
可動接点
センターメンバ
センターメンバ支持部
下側接点
(N.O.)
図6. 感温ダイアフラムの解析モデル
3.2 解析結果
解析において入力する条件は圧力荷重だが,実験で与
図 5. マイクロスイッチの構成
える条件は温度であり,評価を行うには圧力荷重を温度
へ変換する必要がある。温度と圧力の関係は前述のよう
3. 感温ダイアフラムの解析
にブタンの飽和蒸気圧で決まる。そこで飽和蒸気圧線図
3.1 解析モデルと方法
力を温度に変換して実験と比較した。参考として図7に
感温ダイアフラムの解析モデルを図 6 に示す。
温度制御器の使用範囲において飽和蒸気圧線図を計算
上側及び下側ダイアフラムに分けて解析を行った。そ
した結果を示す。図8には実験時同様に,組付け時に
れぞれの結果を加え合わせることによりダイアフラム
4.5[N] の荷重を中心部に受ける場合の感温ダイアフラ
変位を得た。上下のダイアフラムとも軸対称の二次元ソ
ムの解析と実験結果の比較を示す。
リッドモデルとして取り扱った。解析モデルの周端は溶
センサは常温で既に膨らんでおり,実験の場合は解
接部までとし,その境界条件は固定端と定めた。荷重条
析の様に平坦な状態から変位を測定することは困難で
件としてダイアフラムとブタンガスとが接する部分に
ある。そこで実験を行う下限の温度である 7 [℃] のとき
圧力(ゲージ圧)と,中心部にマイクロスイッチからの
の変位を基準として,そこからのセンサ変位をダイヤ
反力荷重を与えた。材料定数は使用しているばね用ステ
ルゲージにより測定した。測定は温度が安定するように
ンレス鋼の特性データ(製品仕様)から定義した。
水中で行った。3個の感温ダイアフラムを測定し,そ
解析を行うにあたり,適切なメッシュ分割方法を調べ
の平均値を示した。器差は最大でおよそ 3.7%であった。
るために数通りの条件で解析を行った。その結果,テ
FEM による解析結果と実験結果との差異は 6%以内に
トラメッシュ,
サイズはメッシュ外形線長さを 0.06 [mm]
収まっており,十分な精度で解析できることがわかっ
にして自動分割した場合に,図6のように断面方向に
た。差異の要因として,プレス後の残留応力あるいは溶
は 4 ~ 5 分割程度となり,円弧形状も滑らかに近似で
接部を固定端とした境界条件の与え方などが考えられる。
を表す Wagner-Pruss の式(5)を用いて,解析結果の圧
きることがわかった。総節点数は,およそ32000点であ
る。また大変形解析時に一部の要素が極端に変形する
さを密にしても解析結果に差がほとんど見られない(収
束している)ことから,この条件で解析を行い,評価を
行うこととした。
圧力 [kPa]
などのエラーを生ずることもなく,これ以上メッシュ粗
温度 [℃]
図7. nブタンの飽和蒸気圧線図
— 50 —
電気式温度調節器の設計技術研究
4.2 解析結果
図 11 にマイクロスイッチの解析結果を実験結果とと
もに示す。横軸は集中荷重が掛かる場所での変位を表
変位 [mm]
す。変位は集中荷重がない場合を原点に取っている。図
においてグラフが不連続となっている部分で座屈が生
じスイッチが切り換わる。縦軸はスイッチが切り換わる
実験
解析結果
設計上の中心荷重を1とし,無次元化した。2章で述
べたように上側接点と下側接点はねじによって位置が
微調整される。この位置によりスイッチの切り換わる
加重を調整し,一定の荷重範囲に収まる様にしている。
この荷重範囲の上限と下限を破線で示した。実験におい
差異 [ % ]
てねじはスイッチが動作する範囲のほぼ中央となるよ
うに調節した。解析においては設計図面上での調整範囲
の中央に上下接点が位置するよう条件を与えた。
実験結果が示すように同様な調整を行ってもマイク
ロスイッチの各部品の個体差により切り換わる点は完
全には一致しないことがわかる。解析結果と比較する
とスイッチが切り換わる変位は 2 つの実験の間にある。
温度 [℃]
また,マイクロスイッチのばね特性を表す変位-荷重
の傾きも実験とほぼ一致している。切り換わる荷重に
ついては示した実験結果よりは低めの値をとるものの,
図 8. 感温ダイアフラムの特性解析結果
上下限範囲内であり,かつそれらの中央値に近い。マ
イクロスイッチの動作と復帰の変位の差(ON-OFF 制
4. マイクロスイッチの解析
御時の動作すきま)も実験値とよく一致している。デー
4.1 解析モデルと方法
行ったところ,下側接点の位置を上側に移動させると
マイクロスイッチは2章で述べたように可動ばねが
荷重幅が,上側接点も上側とすると変位幅が実験値に
歪んだ状態で取り付けられ,常に応力がかかっている。
近づいた。以上のことから,FEM による解析結果は実
その状態で温度センサの変形による力が加えられるこ
際のマイクロスイッチの挙動をよく表しており,設計
とによって,可動ばねのスナップアクションによる瞬
への有効性がうかがえる。実験との差異の要因として,
間的な接点の切り換わりが成り立っている。解析上も
実物の接点位置が,個体差や組付け調整などにより解析
同様な考え方が必要であり,まず可動ばねを応力など
モデルと差が生じてしまったことや,可動ばねの曲げ加
の印加がないフリー状態から取り付け状態まで変形さ
工部の残留応力などが考えられる。
タとしては示さないが,解析上で上下接点の微調整を
せる解析を行い,応力のかかった状態にする。その後,
感温ダイアフラムからの変形荷重による座屈解析を行
うという,2ステップでの解析を行う必要がある。
図9に取り付け状態となっていない解析モデルを示
す。解析モデルは,可動ばね部分をシェルモデル,可
動接点,上下側接点は 3 次元ソリッドモデルで作成し
た。リベットで留められている部分を固定端として扱
い,リベットを円柱で簡易的に表現している。メッシュ
サイズは自動分割機能を用いて自動分割を行い,荷重
がかかる,変形の度合いが大きいと予測される部分につ
図 9. マイクロスイッチの解析モデル
いてはメッシュの細分化を行った。節点数は約 2500 点
である。材料定数は可動接点,上下側接点を銀として,
可動ばねを一般的なベリリウム銅として定義した。
まず,この解析モデルを用いて取り付け状態の変形解
析を行い,可動接点と上側接点とが接触した,図 10 に
示す取り付け状態を作り出す。この状態から感温ダイ
アフラムとの接触位置に集中荷重を定義し座屈解析を
図 10. 取り付け状態への変形解析結果
行った。
— 51 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
した。図より,解析結果は中心値よりは小さくなるもの
の実際に得られる動作範囲に収まっている。上下の接点
動作上限
位置を調整すれば,温度幅も実験値に近づくことが予想
される。以上のことから,今回提案した解析方法により,
1
温度調節器の特性を予測できることがわかった。
復帰下限
0.5
実験 2
実験 1
解析
0
0.6
0.7
変位
無次元荷重
[-]
1.5
0.8
0.9
1
x
変位
[mm]
図 11. マイクロスイッチの特性解析結果
5. 温度調節器の解析
θ
温度調節器を設計する際に必要となる特性は図 12
(a)温度調節器の特性
(a)のようなマイクロスイッチのオンオフ動作と温度
2 次元モデルと 3 次元モデルの混在や解析の収束性など
f
変位
の関係である。3章と4章の解析を同時に行うことは,
温度
,
f
の問題から現状では困難である。そこで別々に解析し,
f
結果を解析者側でやり取りさせることによって双方向
連成解析を行うことを考える。3章の解析により図 12
(b)のように温度と感温ダイアフラム変位の関係が求
まる。ただし,図中の f’ ~ f’’ のようにスイッチから受
θL
ける荷重により変位の特性は変化するので,荷重が決ま
らないと変位は求められない。一方,マイクロスイッチ
θ θH
温度
の座屈解析を行うと,図 12
(c)に示した通りスイッチ
に掛かる荷重とスイッチ変位の関係は一意に定まる。感
(b)感温ダイアフラムの特性
チ変位はダイアフラム変位に等しい。今,最終的に得た
い図 12
(a)を
(c)と見比べると,横軸が荷重から温度
になっており,対応する荷重から温度を求めていけばよ
荷重
温ダイアフラムの支持体は剛体とみなせるためスイッ
f
いことがわかる。
そこで荷重を次の手順で温度に変換する。
1)図 12
(c)
において変換したい荷重 f と変位 x を選ぶ。
2)荷重,言い換えればスイッチ反力 f がわかっている
ので,図 12
(b)から,その変位 x に対応する温度
が求められる。
3)実際には図 12(b)は連続的ではなく,解析を行う
点でのみで得られる。そこで数値解析を利用して求
める。具体的には変位 x 以上となる温度 θH と,以
下となる温度 θL を適当に決め,これらを初期値と
して二分法(6)により温度 θ を得る。
4)これをいくつかの点で行えば図 12
(a)の特性が得
られる。
解析結果を図 13 に示す。二分法の繰り返しは温度と
変位の関係がほぼ直線であることから数回で 1%以下の
誤差に収束した。4章で述べたようにマイクロスイッチ
の特性は固体差により異なり,そのためマイクロスイッ
チが動作してから復帰するまでの温度幅も違う。実験に
より得られている温度幅を破線で示した。また温度幅の
中心値を取り,その値を1とし,マイクロスイッチが復
帰したときの温度を 0 として,温度は無次元化して表示
— 52 —
x
変位
(c)マイクロスイッチの特性
図 12. 温度調節器の特性解析手法
,,
電気式温度調節器の設計技術研究
<著者所属>
末武 雅俊 ビルシステムカンパニー 変位
[mm]
開発本部開発2部 石塚 保夫 ビルシステムカンパニー スイッチ
復帰点
開発本部開発2部 藤田 壽憲 東京電機大学 教授 工学部機械工学科
スイッチ動作点
無次元温度[ - ]
図 13. 温度調節器の特性解析結果
6. おわりに
本研究では,電気式温度調節器に用いられる感温ダイ
アフラムとマイクロスイッチの特性について FEM によ
る解析を行った。得られた特性は,実際の特性とほぼ一
致しており,特性解析の有用性を確認することができ
た。これにより,今後の後継機の設計開発時には精度の
よい特性予測が可能となり,最適な特性設計と試作設計
回数の削減が見込まれる。
<参考文献>
(1)浜田 , 瀬口 , 山河:一般軸対称かくの大たわみ問
題(第2報 , 波形ダイアフラムとベローズの解析)
(1967)
, 33-250, pp.871-880, 日本機械学会
(2)原田:小形圧力センサ用バリアダイアフラムの設
計 と そ の 成 形 技 術 , Savemation Review(1998),
pp.84-89 , 株式会社 山武
(3)道田 , 山口 , 栗丘 , 各務:複合アーチばねの研究(第
1報 , 単一アーチばねと Z 型マイクロスイッチ用
可動ばねの静的動作特性)
(1977)
, 43-369, pp.17161726, 日本機械学会
(4)宇野:皿ばね
(クリック板)の開発に適した応力解
析手法の開発
(2006)
,29,CD-ROM
(5)日本化学会編:化学便覧基礎編改定 5 版
(2004),
pp177-183, 丸善
(6)平田,須田,竹本:パソコンによる数値計算法
(1982)
,pp.61-62,朝倉書店
<商標>
ANSYS 及 び ANSYS Mechanical は,ANSYS, Inc. ま
たは米国及び他の国にある ANSYS, Inc. の子会社の登
録商標です。
ネオスタットは,株式会社 山武の商標です。
— 53 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
ワイヤレス VAV/FCU システムの開発
Development of a Wireless VAV/FCU System
株式会社 山武 柏屋 弘
ビルシステムカンパニー Hiroshi Kashiwaya
株式会社 山武 水高 淳
ビルシステムカンパニー Jun Mizutaka
キーワード Wireless,ZigBee,ダイバシティ,VAV,FCU,空調システム
梁やダクトなど金属製の障害物がある居室天井裏でのワイヤレス通信は,見通しのある屋外などの環境に比べ,
電波強度が極度に減衰するため伝送距離が著しく短くなる。今回,天井裏においても良好な通信品質を確保可能
なメッシュダイバーシティ通信技術を開発・適用することで,有線システムと比べ工事期間を大幅に短縮可能な
ワイヤレス VAV/FCU システムを開発したので報告する。
In wireless communications, radio field intensity is extremely low and the transmission range is severely
limited places like an attic having metal obstacles such as beams or ducts, compared with that in the open air.
We have developed a mesh network diversity communication technology that ensures good communication
quality even in such attic spaces. Based on this technology, we developed a wireless VAV/FCU system that
can be constructed in far less time than wired systems. This paper describes these developments.
1. はじめに
ラ(Infilex TM GC)を提供してきている。
現在,天井裏での取付け作業を省略するため VAV/
近年,大規模化/高層化が進む高層ビルに関しては,
FCU ユニットに VAV/FCU コントローラを先行して
建築工法等の技術開発により,フロアあたり建築工程
取り付けているが,その後の通線/結線のための作業
3~4日が実現しており,空調設備もこれら短工期に
工数が未だ大きい。
対応する技術開発が進んでいる。計装工事分野も例外
そこで今回,VAV/FCU ユニット設置後に,電源を
ではなく,以下の様な取組みにより施工の効率化を図っ
投入し,後述する施工調整ツールを用いてアドレス等
ている。
の通信パラメータを設定するだけで自動的に通信を確
① 天井スラブにケーブル支持材料を施設し配線する
立できる、ワイヤレス VAV/FCU システムを開発した。
「天井内ころがし配線工法」
設置作業と電源工事以外の作業を省くことが可能と
② 結線部分コネクタ化
なり,結果として,居室内の計装工事に関して 50%以
③ 制御盤サブパネル化
上の効率化を図ることが可能となる。
これらは配管/配線/結線作業を低減するための工
夫であるが,作業そのものをなくすことができれば,
さらなる計装工事効率化が実現する。
2. システム構成
居住者にとっての快適性と省エネルギーの点から,
ワイヤレス VAV/FCU システムの概略を図1に示
オ フ ィ ス の 空 調 制 御 と し て は,VAV(Variable Air
す。天井裏に設置される VAV/FCU コントローラ,機
Volume),FCU(Fan Coil Unit)を用いる制御が主流と
械室の制御盤内に設置される連携制御コントローラ及
なっており,その実現のため当社では VAV コントロー
び空調機コントローラで構成される点は従来の有線シ
ラ(Infilex
ステムと同様である。
TM
VC),FCU コ ン ト ロ ー ラ(Infilex
TM
FC),
連携制御コントローラ(Infilex TM ZM)空調機コントロー
— 54 —
ワイヤレスVAV/FCUシステムの開発
2.2 ネットワーク構成
InfilexZM を核とする空調系統毎に無線のサブネット
ワークを形成する構成とした。有線システムにおける
各 SC-bus のネットワークを1つの無線サブネットワー
クとする形である。中央監視からは,有線システムと
全く同一の見え方となる。
図 1. システム概略図
本システムの特徴はワイヤレスアダプタと呼ばれる
ワイヤレス通信用アンテナモジュールを各コントロー
ラに接続することで,コントローラ通信やセンサ通信
がワイヤレスとなる点にある。なお,ワイヤレスアダ
プタの電源はコントローラから供給され,バッテリは
不要である。
2.1 構成機器
ワイヤレス VAV/FCU システムを構成する機器は,
下記の 4 製品である。
① ZM アダプタ
InfilexZM と InfilexVC/FC と の コ ン ト ロ ー ラ 通 信
図 5. ネットワーク構成
をワイヤレス化するための (InfilexZM 用 ) アダプタ。
② VC/FC アダプタ
InfilexZM と InfilexVC/FC と の コ ン ト ロ ー ラ 通 信
及び,InfilexVC/FC とセンサ / 設定器とのセンサ
3. 居室内のワイヤレス通信
通信をワイヤレス化するための (InfilexVC/FC 用 )
3.1 ワイヤレス通信の適用対象
アダプタ。
ワイヤレスで接続する VAV ユニット,FCU ユニッ
③ ワイヤレスネオパネルⅡ
ト,InfilexZM は,居室内および機械室に点在している。
VAV/FCU 用のワイヤレス設定器
④ ワイヤレスネオセンサⅡ
室内温度計測用のワイヤレス温度センサ
図 2. ZM アダプタ,VC/FC アダプタ
図 6. フロアレイアウト例
ワイヤレス通信で用いる電波であるが,金属製の障
図 3. ワイヤレスネオパネルⅡ
図 4. ワイヤレスネオセンサⅡ
害物があると透過せず反射するため,電波が減衰し伝
送距離が短くなる。たとえば図 6 のようなフロアレイ
アウトがあった場合に,点線で囲った VAV ユニット
と機械室内の InfilexZM の間には,エレベータ等の金
属製機器が多いコアエリアがある。直接通信させるこ
とは期待できない。
また,機械室から直線距離が数十メートル離れた場
— 55 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
所に VAV ユニットが設置される場合もあり,直接通
前述した居室内での無線通信に必要な要件を満足し,
信させるには遠く,伝送距離の制約から安定した通信
安定した通信品質を得ることを目的に,ワイヤレス
ができないことが想定される。
VAV/FCU システムの通信方式のベースとして ZigBee
こうした事情から,機械室内から,個々の VAV ユニッ
を採用することとした。
ト,FCU ユニットまでを直接ワイヤレスで通信させる
方式よりも,ワイヤレスメッシュネットワーク方式が
ビル空調システムのワイヤレス化には適していると判
断した。
4. 室内の電波伝搬
4.1 電波伝搬にとっての天井裏の状況
3.2 ワイヤレスメッシュネットワーク
空間を電波が伝わっていくことによりワイヤレス通
近年,無線のメッシュネットワークが登場してきて
信が可能となる。電波は波動エネルギーであり,送信
いる。ワイヤレスメッシュネットワークとは,ある通
点と受信点を結ぶ直線上だけでなく,その直線を中心
信ノードが目的の通信ノードと直接通信できない場合,
とした回転楕円体の空間(フレネルゾーンと呼ばれる)
バケツリレーのように他の通信ノードが中継しながら
を通して伝搬していく。
通信していく通信方式である。
フレネル半径
システム稼働後に障害物が設置されたり,中継して
いた通信ノードが故障したりし通信が途絶えても,迂
回路に通信ルートを切り替えることで継続通信できる
ことを特徴とする。
受信アンテナ
送信アンテナ
図 9. フレネルゾーン
電波のエネルギーの大部分はこのフレネルゾーン内
PAN コーディネータ
を通って伝達されるため,その空間内に障害物がある
フル機能デバイス
サブ・デバイス
と受信電界強度が十分に得られなくなり通信エラーの
発生要因となる。たとえば障害物がフレネルゾーンの
半分を覆った場合には,理想的な自由空間での電波伝
搬に比べ伝搬損失が 6dB 増えることとなる。一般に,
図 7. ZigBee のメッシュネットワーク
十分な受信電界強度を得るためには障害物で覆われる
ワイヤレスメッシュネットワークの1つとして,米
部分が 40% 以下であることが必要だといわれている。
国 ZigBee アライアンスが規格化した ZigBee がある。
このフレネルゾーンの大きさであるが,送信点と受信
MAC 層 以 下 の 下 位 レ イ ヤ ー に は,Bluetooth や 無 線
点の中間地点での最大半径(フレネル半径)は
LAN な ど と 同 じ 2.4GHz 帯 を 利 用 す る IEEE 802.15.4
を用いる。通信速度は最大 250kbps という比較的低速
な通信であるが,8 ビット CPU にも搭載可能な低コス
ト性と,電池駆動でも数年動作可能という低消費電力
を訴求点として,ビルオートメーション機器や,家電
のリモコンなどへの適用を狙っている。
フレネル半径
=
λ:波長
2
D:通信距離
で計算できる。
今回のワイヤレスシステムの適用対象である VAV
及び FCU であるが,居室天井裏におよそ 7 ~ 14m 間
隔で設置される。仮に伝送距離が 15m だとすると,良
好な通信品質を得るためには見通しがあるだけでなく,
半径 68.5cm の障害物のない空間が必要となる。
図 8. ZigBee のプロトコルレイヤ構成
図 10. 伝搬距離とフレネル半径
— 56 —
ワイヤレスVAV/FCUシステムの開発
を通って伝わっていく。
しかしオフィスの天井裏は,電波伝搬にとってはあ
まり好ましくない環境である。建築構造物である柱や
天井
梁は金属体であり電波にとっては障害物である上に,
送信アンテナ
その間を縫うように走っている空調ダクトや排煙ダク
トも金属体である。電波伝搬にとって天井裏は障害物
受信アンテナ
ダクト
だらけであり,安定した通信品質を確保するのが極め
て難しい環境なのである。
床
図 13. 居室内のマルチパス
反射なしに伝わる直接波,1 度 2 度と反射を繰り返し
ながら伝わる波など様々な波がある。それらが受信機
のアンテナで受信・合成されることになるが,経路長
が異なるため位相差が発生しており,その合成波は振
幅方向,時間軸方向で歪んでしまうことになる(フェー
ジング)。
図 11. オフィスの天井裏
このマルチパスフェージングの結果,わずかに受信
4.2 VC/FC アダプタの取付
アンテナの位置を変えるだけで受信電界強度が大きく
コントローラ通信をワイヤレス化するための VC/FC
変化する現象が発生する。図 14 に x-y 平面上でアンテ
アダプタは,VAV ユニットの外側にネジ止めで取り付
ナを移動した場合の受信電力強度の測定結果を示した。
ける事とした。VAV ユニットと一体化し現場に設置す
位相が打ち消し合い受信電界強度が著しく減衰する地
ることで工事期間の短縮につながるからである。
点(ヌルポイント)が発生している。このような場所
に無線器を設置すると,通信エラーが発生することに
なる。
受信電力強度
(dBm)
図 12. VC/FC アダプタの VAV ユニット取付け
距離(cm)
しかし VAV/FCU ユニットは金属でできており,無
図 14. 受信電力強度の分布(X-Y 平面)
線機器をその近くに設置することは,アンテナの指向
性を乱し送信特性を著しく低下させることとなる。障
この受信電界強度の場所による変化は,常に一定し
害物の無い屋外であれば数 km は伝送距離が出る無線
ているわけではなく時間変動している。人の動作や,
システムであっても,このような形で天井裏に設置す
キャビネットやロッカーなどの扉の開閉,換気扇等の
ると,安定した通信品質を確保しようとすると十数 m
回転などの影響を受け時間変化する。
4.3 マルチパスフェージングの発生
屋内環境は電波伝搬にとっては過酷な環境である。
マルチパスフェージングという現象が発生するためで
ある。
受信電力 [dBm]
程度の距離でしか出なくなってしまう。
平日
休日
天井裏の梁やダクト,室内のキャビネットやロッカー
等の金属製什器といった障害物に加え,天井や床自体
にデッキプレートと呼ばれる金属板が使われている。
時刻 [s]
電波は金属体にぶつかると透過せずに反射する。送
信機から受信機まで,電波は様々な経路(マルチパス)
— 57 —
図 15. 受信電力変化の時間変化
azbil Technical Review 2011年1月発行号
受信電界強度の時間変化は、人の多い平日では激しく
絶えず大きく変動し、人の少ない休日では比較的安定
している。
5. メッシュダイバーシティ技術
これまで述べてきたように,ワイヤレス VAV/FCU
(a)送信ダイバーシティ無 (b)送信ダイバーシティ有
システムを適用する居室天井裏での電波伝搬には下記
図 17. ダイバーシティによる受信電界強度の改善
の問題があった。
1 天井裏障害物による受信電界強度の低下
5.2 マルチパスフェージングの時間変動対策
2 VAV ユニット直付けでのアンテナ指向性の乱れ
ZigBee には,受信電界強度の低下等で通信品質が悪
による受信電界強度の低下
化した場合に,代替ルートへ通信ルートを切り替える
3 マルチパスフェージングによる受信電界強度の時
間変動とヌルポイントの発生
ルーティング機能がある。しかし図 15 に示した様に,
マルチパスフェージングによる受信電界強度は人の移
これらの問題を解決するため,メッシュネットワー
動等の影響で短時間で大きく変動するため,ルートの
クと 2 本のアンテナを用いる空間ダイバーシティ方式
切替えだけで対応することは難しい。
を組み合わせた,メッシュダイバーシティ技術を開発
代替ルートを決定するためのルーティングテーブル
した。
の更新(ルート探索)を行うには 2 秒程度の時間が必要
となるが,この間通信ができなくなるため,人の移動
5.1 受信電界強度の改善
に合わせ短期間で更新し続けていくことは難しいから
送信機と受信機間に見通しがない場合,受信電界強
である。
度はレイリー分布に従うことが知られている。
受信電界強度の瞬時低下による通信エラーの発生を
アンテナを 2 本用意し,受信した電波の受信電界強
防ぐためには,ルーティング機能とは別の仕組みが必
度の強い方を採用する空間ダイバーシティを用いるこ
要となる。
とで平均受信電界強度が 3dB 改善し,また,受信成功
率 99%で通信させるのに必要なフェージングマージン
そこで今回,人の移動等よる短時間での受信電界強
が 17dB から 10dB へと 7dB 改善する。
度の変動に対応可能な空間ダイバーシティ制御を開発
しメッシュネットワークと融合させた、メッシュダイ
ダイバーシティ無
確率密度(PDF)
0.9
17dB
0.8
バーシティ技術を新たに開発した。概念的には下記の
ダイバーシティ有(ブランチ 2)
1.0
ような動作となる。
10dB
・MAC 層レベルでの通信エラーの発生を監視し,短
3dB
0.7
期間で利用アンテナを切替える(ダイバーシティ機
0.6
能)
0.5
0.4
・一定期間継続して通信エラーが解消しない場合に,
0.3
ルート探索し迂回ルートに切替える(メッシュネッ
0.2
0.1
ト機能)
0.0
−40 −35 −30 −25 −20 −15 −10 −5
0
5
10
15
20
受信電力比 [dB]
このメッシュダイバーシティ技術によりコントロー
ラ通信やセンサ通信をワイヤレス化した場合、安定し
図 16. レイリー分布とダイバーシティによる改善
た通信品質を保証できるのか,その検証のために数か
これより空間ダイバーシティ方式を採用することで,
所の商用ビルでの電波伝搬計測と,当社3事業所で長
天井裏の通信と VAV ユニットへの取付けにより短縮
期フィールドテストを行った。その結果,居室天井裏
した伝送距離を改善するのが有効であることが裏付け
という悪環境下でも高い通信品質を確保できることが
られる。
検証できた。
空間ダイバーシティの効果を実測データに対して適
用した結果を図 17 に示した。z 軸は x-y 平面上の各地
点での受信電界強度を示している。空間ダイバーシティ
の適用後に,受信電界強度が悪い点が改善されてほぼ
無くなることがわかる。
— 58 —
ワイヤレスVAV/FCUシステムの開発
6. 施工調整ツール
7. おわりに
VC/FC アダプタであるが,VAV ユニットや FCU ユ
こ れ ま で 述 べ た 通 り, 今 回 開 発 し た ワ イ ヤ レ ス
ニットの外側にネジ止めされた状態で現場天井裏に設
VAV/FCU システムの提供目的は,空調工事期間の大
置される。目標である工事期間の短縮を実現するには,
幅な短縮にある。新築ビルへの適用はもちろん,既設
電気工事や内装工事などの他工事の進捗とは無関係に
ビルにおいてもテナントを入居させたまま空調設備の
調整ができるようになっていることが望ましい。理想
リニューアル工事を行うことも狙っている。
を言えば,他の工事がすべて完了した後に,空調シス
既存の工事作業プロセスにとらわれず,作業プロセ
テムの調整を開始できる柔軟性があると良い。
スを改革していくことにより、一層の工期の短縮を図っ
そのためには天井板が敷設された後,天井裏に上ら
ていきたい。
ずに床から調整作業ができるようになっている事が望
まれる。
<商標> ZigBee は,ZigBee Alliance の日本における登録商標
です。
Bluetooth は,ブルートゥース エスアイジー,インコー
ポレイテッドの日本における登録商標です。
Infilex は,株式会社 山武の商標です。
<著者所属> 柏屋 弘 ビルシステムカンパニー 図 18. ワイヤレスチェッカー
開発本部開発1部
コントローラソフトウエア 2 グループ こうした要望を具現化するため,下記機能を持つワ
水高 淳 ビルシステムカンパニー
イヤレスチェッカーを開発した。
マーケティング本部
① 天井裏の VC/FC アダプタの探索機能
プロダクトマーケティング部
ツールの周囲に存在する VC/FC アダプタを検索・
表示する。工場出荷時の VC/FC アダプタは,MAC
アドレスが異なるだけで人が理解できる識別情報は
設定されていない。
そのためボタン操作で VC/FC アダプタのブザー
や LED の鳴動 / 点灯で確認し,アドレス等の識別
子を設定可能にするための機能を提供する。
② ワイヤレス通信パラメータ設定機能
本システムは,空調系統毎に無線のサブネット
ワークを形成する構成をとる。このワイヤレス通信
を動作させるのに必要な、各サブネットワークを識
別するための識別子(PAN ID)や周波数チャネル
等のパラメータ設定を行う機能を持つ。
③ VAV/FCU コントローラのパラメータ設定機能
VC/FC ア ダ プ タ に 接 続 し て い る InfilexVC や
InfilexFC のパラメータ設定する機能。これにより,
VAV/FCU ユニットの動作確認も可能となる。
このツールを提供することにより,天井板が敷設
された後でも,ほぼ天井裏に上ることなく調整作業
を行えるようになり工事期間短縮が可能となる。
— 59 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
ドライガス測定ニーズに応える
低露点計測技術の向上
Progress in Low Dew Point Measurement Technology for Dry Gases
山口 徹
井端 一雅
Toru Yamaguchi
株式会社 山武 株式会社 山武 中垣内 直美
株式会社 山武 金井 良之
株式会社 山武 アドバンスオートメーションカンパニー Kazumasa
Naomi Nakagaichi
アドバンスオートメーションカンパニー Ibata
Yoshiyuki Kanai
キーワード 湿度 ,露点 ,トレーサビリティ,不確かさ,高精度 ,測定の信頼性 ,露点制御
近年,ドライな気体の湿度計測を必要とする産業界において,従来の品質維持・歩留まり改善といった目的に
加え,低炭素消費社会の実現に向けた省エネの観点から,より精緻な露点の計測と制御が求められている。ビル
空調や産業用調湿で経験豊富な山武としてこれに応えるために,JCSS(Japan Calibration Service System)登
録事業者である当社計測標準センターで確立されている露点の校正範囲(−10 ℃~+23 ℃)を低露点領域(−
50 ℃~−10 ℃)に拡張するための技術向上を計った。この成果をもとに,平成 20 年度に独立行政法人製品評価
技術基盤機構(NITE)が実施した技能試験に参加し,好成績を修めることができた。この結果から産業界へ低
露点領域の校正を提供する目処が立った。
In recent years, industry’
s need for more precise dew point measurement and control when determining
the moisture of a dry gas has increased due to the desire to conserve energy and achieve a low-carbon
society, as well as for purposes such as quality control and yield improvement. As a company specializing in
building automation and industrial humidity control, Yamatake has taken steps to meet this need by refining
the technology used at its Measurement Standards Center, which is a JCSS*-accredited dew point calibration
laboratory (for -10 to 23 deg. C.), in order to calibrate the low dew point range (-50 to -10 deg. C.). Yamatake
passed the proficiency testing which was administered in 2010 by the National Institute of Technology and
Evaluation (NITE), and will soon begin to provide low dew point calibration service.
※ JCSS: Japan Calibration Service System
1. はじめに
2. 世の中の低露点計測ニーズの高まり
ここ数年,計測の信頼性についての議論が非常に多く
湿度は,温度と並んで温熱環境の代表的な指標の 1 つ
なっている。この背景には,日本の製造業が得意とす
である。従来より,25 ℃ 50 % rh で代表される,いわ
る「ものつくり」において,
「もの」の要求レベルの向
ゆるマイルドな空気の湿度計測は広く一般的だが,近
上に伴って,
「つくり」の原点のひとつである「正しく
年,よりドライな空気の湿度計測のニーズが高まってき
計測する」ことに求められるレベルも上がってきている
ている。
からだと考えられる。
例えば,吸湿性の高い原材料を取り扱う医薬・化学・
製品開発を生業とする当社にとって,
「良い製品」の
食品加工業,熱処理炉の酸化・還元雰囲気の調湿を行う
開発を行うためには,
「正しく計測する技術」とそれを
鉄鋼・非鉄金属産業,水分やケミカルコンタミネーショ
支える「計測標準の維持・管理技術」が合わせて重要で
ンを嫌う材料を取り扱うボタン電池・リチウムイオン電
あり,場合によってはそれらを同時に開発することが必
池・有機 EL などの製造業などがその代表例であろう。
要である。
こういった現場では,従来の品質維持・歩留まり改善
— 60 —
ドライガス測定ニーズに応える低露点計測技術の向上
といった目的に加え,低炭素消費社会の実現に向けた省
a. 常湿度領域と高湿度領域は「露点」
エネの観点から,より精緻な露点の計測と制御が求めら
b. 低湿度領域は「霜点」
れるようになってきている。
c. 微少水分領域は「モル分率」
こういった社会の要請に応えるために,当社では従
上記の a ~ c の概要がわかることを目的に温度として
来より提供している鏡面冷却式露点計ファインデュー
表している。
(FINEDEW™)シリーズの計測露点範囲をさらに低露点
領域に拡張するための開発を進めてきた。
これらの理由を簡単に説明すると,a. の常湿度領域と
この様な計測機器の開発においては,先に述べたよう
高湿度領域は空気中にある水分が結露を生じる温度,す
に,以下の3つの要素をバランスよく実現しなければ達
なわち「露点」で表すことが一般的であり,b. の低湿
成することが困難です。
度領域は,空気中の水分が凍ることによって霜となるた
め「霜点」で表すことが一般的である。
① コアとなるセンサ開発技術
c. 微少水分領域は,上記の 2 つとは少し条件が異なり,
② そのセンサを正しく校正する技術
空気中の水分量があまりにも少ないため霜点で表すと
【国家標準にトレーサブルな値を付ける】
ばらつきなどを含めた正確な値を示すときに不都合が
③ センシングを正しく行うための周辺技術
生じることもあり「モル分率」で表されている(図 1 の
【正しく測定するためのノウハウ】
微少水分領域は,霜点相当値で表記している)。
この図1を見ても,世界的にリードしていると言われ
本 稿 で は, こ れ ま で 進 め て き た フ ァ イ ン デ ュ ー
ている国家計量標準研究機関を擁するイギリスやアメ
(FINEDEW)の低露点への計測範囲の拡張開発で実施
リカと比べて,日本の国家計量標準(湿度:供給可能
してきた内容について,特に上記②③を中心に報告する。
な露点範囲,露点の不確かさ)は遜色ない,むしろリー
ドしているといえる。
このような産総研の機能である計量標準の基礎研究
3. 湿度の国家標準供給のしくみ
の日々の積み重ねがあるからこそ日本の「ものつくり」
日本の計量法に,湿度は政令単位(法定計量単位と同
話しを国家標準供給のしくみに戻すが,湿度の国家標
等に扱われる単位)として定められている。
準の値は,計量法に基づく JCSS 制度によって,一般ユー
そして日本の湿度の特定標準器(国家標準)は,茨
ザーに提供されている。
城県つくば市にある産業技術総合研究所(以下,
産総研)
そのトレーサビリティの概略図を図 2 に示す。
が保管する標準湿度発生装置群であると,経済産業大臣
2010 年 8 月現在,日本では当社を含め 6 社が湿度の
によって告示されている。
区分で JCSS 登録事業者になっているが,校正サービス
そのため日本の湿度の国家標準は,産総研が実現し,
を提供している露点の範囲(下限値)は,-10 ℃までで
その湿度標準に産業界が測定結果を照らし合わせ(以
あり,今回の開発を進める上で参照する湿度標準が無い
下,校正という)
,
「もの」つくりを正しく行うことがで
ことが大きな問題・課題となった。
の基盤が支えられてきたと言っても過言ではないだろう。
きる「しくみ」が成り立っている。
図1に産総研が供給する湿度標準の概略図(露点範
囲)を示す。
バーグラフ内の数字は、拡張不確かさの値
(公表されているデータなどをもとに、
山武が独自にまとめたものである)
図 1. 各国の湿度国家標準,供給範囲
図1は,すべて露点で書き表されているようにみえる
ため誤解がないよう補足説明をすると,
— 61 —
図 2. わが国の湿度のトレーサビリティ体系
azbil Technical Review 2011年1月発行号
4. 現在の当社湿度標準及び当社の校正事業
は,95 %の信頼水準で“校正結果の± 0.16 ℃”の範囲
に入るということを示している。
当社は長年にわたり湿度センサの開発のため,産総研
によって校正された「露点計」と自社で校正を行った「温
一般的に製造メーカーや校正事業者の“測定のレベ
度計」と「分流式の発生装置」を用いて,感湿素子や湿
ル”や“校正結果の良し悪し”は,測定者の知識・技術・
度発信器の評価試験を行ってきた。
能力を除くと,
以下の3つの要素で決定されることが多い。
これらの開発や評価において蓄積した技術を元に,
① 標準器の性能
2004年5月に湿度の JCSS 認定を取得した。
② 測定系・校正環境
その後,2004年12月に圧力で認定事業者になったが,
③ 校正対象の性能
計量法の改正に伴い認定事業者の呼び名が,登録事業者
になったことや更新審査などのタイミングを利用し国
この測定のレベルや測定精度は“校正の不確かさ”で
際相互承認
(MRA)対応の校正事業者として 2007年2月
表すことができる。
には温度,2007年7月に湿度で再度登録を行った。
この“校正の不確かさ”を求めるには 6 章であげる図
さらに 2008年11月には電気の分野でも JCSS 登録を
7 のような
“バジェット表”
と呼ばれる表がよく使われる。
取得し,現在 4 つの分野において,JCSS の校正事業を
このバジェット表は顧客や校正依頼者と校正の信頼
行っている。
性について議論する場合などに用いられるが,この詳細
azbil グループでは,計測標準センター以外でも JCSS
は 6 章の技能試験の項目で詳しく述べる。
の登録事業を行っている。その事業区分,最新の登録状
5. 今後の当社湿度標準
況については,独立行政法人製品評価技術基盤機構(以
下,NITE という)の WEB サイトにも公開されている
ので,検索できる URL を以下に紹介する。
当社は計測・制御機器の開発,販売,メンテナンスを
http://www.iajapan.nite.go.jp/jcss/lab/index.html
中心に事業をしていることもあり,様々な物理量の測定
を行う必要がある。
湿度分野における JCSS の校正対象の種類と,登録を
これらの測定作業は,生産工場や研究施設にとどまら
受けている範囲を図 3 に示す。
ず,お客様の工場(以下,現地という)に伺って,計測・
制御機器のメンテナンスを行うときにも実施している。
JCSS 制度上の区分と種類 弊社登録範囲
校正手法の 種類 校正範囲 最高測定能力
区分の呼称
(k = 2)
湿度測定器等 露点計 露点 -10 ℃以上 23 ℃以下 0.16 ℃
電子式湿度計 校正温度 20 ℃以上 25 ℃以下において
0.6 %
相対湿度 10 %以上 50 %以下
ただし、露点温度 -10 ℃以上 23 ℃以下
の相対湿度
校正温度 20 ℃以上 25 ℃以下において
1.0 %
相対湿度 50 %超 90 %以下
ただし、露点温度 -10 ℃以上 23 ℃以下
の相対湿度
熱伝導率式湿度計
通風乾湿計
湿度発生装置
その現地で行うメンテナンスの一環として行ってい
た校正サービスにも,JCSS 校正のニーズが高まってい
るため,一部の作業に対して JCSS 現地校正サービスが
提供できるよう,電子式湿度計の現地校正に関しての登
録を申請中である。
これに加えて,2010年の年末にかけて-50 ℃~-10 ℃
(霜点)の低露点領域についても登録申請の準備を進め
ているところである。
また,中露点領域の登録においては,最高測定能力を
図 4 のように変更する予定である。
図 3. JCSS 制度上の校正対象種類と当社登録内容
現在,湿度の JCSS で校正が認められている種類は図
3 の 5 種類であるが,当社ではその中の露点計と電子式
湿度計を校正対象としている。
図 3 にある“最高測定能力”とは,最良の性能を有し
た校正対象を校正した場合に実現できる校正結果であ
現在の
最高測定能力
変更予定値
るが,この表現が非常にわかりにくいのでここで簡単に
説明しておく。
図 4. 現在の最高測定能力と今後の予定(中湿度)
当社の技術能力で保有する設備や環境条件で露点計
これは,以前に行った湿度の再登録時にいくつかの管
を校正した場合,最高測定能力
(k =2)
は0.16 ℃であ
理方法を見直し,再評価を実施したところ,その結果(安
ることの意味は,
定性,再現性など)が,2004年にはじめて認定を取得し
① 当社が保有する標準器「露点計」
た時に行った評価結果と比較して,大変良い結果が得ら
② 設備「湿度発生装置」
れたことによるものである。
③ 想定可能な最も性能の良いとされる校正対象
「露点計」
この時の結果から,再登録時に小さな不確かさで申請
上記①と②を使用して③を校正した場合,その校正結果
することも可能だったが,測定監査や時間の制約などか
— 62 —
ドライガス測定ニーズに応える低露点計測技術の向上
ら最高測定能力は初期に申請した不確かさの値で再登
⑤ 数社(場合によってはすべて)の参加事業者の校正
録を行った。
が完了したら,仲介器を,産総研に送り再度,校正(値
しかし,これらの評価内容を裏付ける結果が,後述す
付け)を行う。
る,2009年度に行われた湿度の定期技能試験により実証
【仲介器が健全な状態であることを確認する】
されたため中露点の最高測定能力も現在の 0.16 ℃より
⑥ NITE が,それぞれの参加事業者の校正結果と産総
も,小さい値で登録することが可能と予測している。
研の校正結果とを比較し,妥当な校正ができているかど
当社の現在と今後の標準供給体系を図 5 に示す。
うかを評価し,測定能力を確認する。
①~⑥が技能試験の簡単な流れであるが,⑥の評価方
6. 技能試験結果
法を説明すると,参加事業者の校正結果は参照機関であ
2009年度には,湿度の技能試験が中高湿度の露点
(-
囲内であるかどうかにより合否判定が下される。
10 ℃~+ 50 ℃)
,低湿度の霜点
(-70 ℃~-10 ℃)の
具体的には,以下の式
(1)による En 値を算出し,そ
範囲で実施された。
の値が± 1 以内であれば技術能力が満足するものである
湿度の技能試験は ISO/IEC Guide 43(JIS Q 0043)
として合格とみなされる。
る産総研の校正結果と比較され,その差が不確かさの範
に適合するプログラムで,少なくとも 4 年に一度,定期
的に行われ,登録事業者または登録を受けようとする事
E
n=
・・・ 式
(1)
2
2
業者は参加が義務付けられ,校正の技術能力が評価され
ることになっている。
その湿度の技能試験の流れ
(概略)
を以下に記す。
① 十分安定していることが評価された露点計(以下,
仲介器という)を,NITE が準備する。
【この時点では,産総研での校正結果は伏せられている】
③ NITE は技能試験に参加した事業者に仲介器を送り,
参加事業者は,参加事業者の校正環境で校正を行う。
正結果を NITE に提出する。
|En|< 1:満足
|En|> 1:不満足
X lab:参加事業者の測定値
X lref:参照機関(NMIJ)の参照値
② その仲介器を産総件で校正(値付け)する。
④ 参加事業者は所定の期間で校正を完了させ,その校
Ulab + Uref
U lab:参加事業者の測定値の拡張不確かさ(k=2)
U lref: 参照機関(NMIJ)の測定値の拡張不確かさ(k=2)
当社は 2009 年に実施された湿度の技能試験において,
- 10 ℃~+ 23 ℃の露点範囲と,- 50 ℃~- 10 ℃の
図 5. 現在の標準供給体系と今後の予定
— 63 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
霜点範囲で参加した。
ト表(一部)を図 7 に示す。
この技能試験時の当社の校正結果を図 6 に示す。
この図 7 は略語を多く使っており,誤解を招く恐れが
この図 6 は縦軸が校正結果の差異,すなわち産総研の
あるので簡単に説明を加える。
参照値が 0 ℃となっている図である。
すでに 4 章で説明したとおり,校正結果の不確かさは,
したがって,この 0 ℃のラインに,参加事業者が
大きく分けて以下の 3 つの要素になる。
NITE に提出した不確かさを示す縦のバーが,クロスして
いれば,合格していることが確認できる図となっている。
① 標準器の性能
② 測定系・校正環境
③ 校正対象の性能
校正結果の差 / ℃
①標準器の性能を細分化すると,図 7 の u s1 ~ u s5 の
要因が挙げられる。
u s1 は標準器(露点計)が示す値に含まれる不確かさで
あり,
主に産総研で校正されたときの不確かさを考慮する。
u s2 は,産総研で校正された時から,実際に当社の測
定環境で使用するまでの期間に経年変化
(ドリフト)が
発生するため,その変化量を考慮する。
u s3 は,実際の校正において,データを読み取る間,
低湿度範囲結果
バラツキ量を考慮する。
u s4 は,校正条件を変えて測定をした場合の一致度合
中湿度範囲結果
い(既知の補正量は補正する)の標準偏差を考慮する。
u s5 は,当社の標準器(露点計)は,表示分解能が 0.01
図 6. 技能試験結果
℃の桁数であるため,これ以下の桁(0.001 ℃)はわから
この図 6 をみると,現在 JCSS の登録事業を行ってい
ないため,これらの量を考慮する。
る露点- 10 ℃~ +23 ℃の範囲では,産総研の校正結果
と良く一致していることが,お解りいただけると思う。
②測定系・校正環境は,産総研で校正した環境と当社
また、鏡面冷却式露点計では非常に測定が難しいと言
で校正中の校正条件が異なることや,実際の校正中に起
われている低露点領域(- 50 ℃)においても,良い校
こる様々な変化に対して,校正結果(露点)がどの程度の
正が実施できていることが確認できた。
今回,初めて行われた低湿度の霜点範囲の技能試験
影響を受けるのかを定量化する項目である。
u m1 の発生のゆらぎは,発生装置から発生される空気
において,産総研との差は拡張不確かさの範囲内に入っ
中の霜点に時間的な変動があると,標準器,校正対象の
ているため,低湿度の霜点範囲でも JCSS の登録事業者
応答性の違いなどにより,異なる霜点の値を示す可能性
として校正事業を行っていく技術的な準備ができてい
ることが確認できたと考えている。
がある。そのため,霜点の変動量を考慮する必要がある。
u m2 は,測定空間に圧力差があることによって,霜点
参考までに,この技能試験において使用したバジェッ
が変化するため,この圧力差の影響を物理的な根拠から
図 7. 低湿度用露点計の技能試験時バジェット表
— 64 —
ドライガス測定ニーズに応える低露点計測技術の向上
7. 1.技能試験に用いた「低露点ファインデュー
(FINEDEW)」の紹介
露点への影響量を考慮する。
u m3 は,飽和槽の温度変化によって,霜点に与える影
響量を考慮する。
今回の技能試験には,新規に開発を行った鏡面冷却式
③校正対象の性能は,前記した①と②がもつ不確かさ
露点計「低露点ファインデュー(FDW20)」を用いた。
の成分を含んだ結果が表れるが,切り分けることが難し
いため殆どの場合,校正結果のバラツキに含まれる。
u x1 は,繰り返し校正を実施した結果の標準偏差をバ
ラツキ量として考慮する。
u x2 は,u s5 でも説明したとおりだが,校正対象機器
が 0.1 ℃の表示分解能の場合,表示値が- 50.0 ℃であっ
たとしても,- 49.9500…から- 50.0499…の間のどこを
示しているかは不明であるため,その量を考慮する。
u x3 は,校正対象機器におけるバラツキ量で,内容は
u s3 と同様なので説明は省略する。
これらの要因をすべて合成したものが,u c 合成標準
不確かさとして表されるが,ここで注意すべき点がある。
図 8. 低露点ファインデュー外観
それは③の校正対象の性能の項目で説明したとおり,
校正結果のバラツキには,①と②の成分も含まれるた
一般的に,鏡面冷却式露点計は高精度で露点の測定が
め,校正対象機器に対して妥当
(適切)
な校正が実施でき
可能であるが,低露点領域では応答性や安定性が悪くな
たのか,
否かを確認しなければならないということである。
ることが知られている。
通常,繰返し測定を行い,その平均値で結果を算出す
ところが,この低露点ファインデュー
(FDW20)は,
るが,平均値は校正結果の推定値である。
下記にあげる山武独自の技術により,精度,応答性,安
この校正の繰返し回数が無限大に大きい場合,その推
定性を飛躍的に高めることができた。
定値は限りなく最良の推定値に近づくと考えられるが,
① 鏡面や鏡面温度センサ,鏡面冷却器などの露点検出
部を超小型化したことにより,低露点領域
(微小水
実際には限られた回数しか測定できない。
分)の結露を安定的に発生させることが可能。
そのため,推定値自体にバラツキがあり推定値そのも
のの妥当性が求められる。
② 極細投受光同軸光ファイバーと高感度光電センサに
より,結露の高感度検出を実現。
この妥当性を確認する 1 つの方法に有効自由度で表す
③ 高性能制御回路により,高精度温度検出,高速応答
方法がある。
4
uc (y)
veff = N ui 4 (y)
i=1
vi
v eff :有効自由度
u c (y):合成標準不確かさ
u i (y):校正データから算出する個々の標準不確かさ
v i :校正データから算出する個々の標準不確かさの
自由度
性及び高い制御安定性を実現。
なお,技能試験に先立ち,産総研において低露点ファ
インデューの jcss 校正を実施した結果,良好な結果を
得ることができたので,参考までに jcss 校正証明書を
図 9 に示す。
この校正結果や技能試験の結果が良いだけではなく,
一般ユーザーが使用する観点から見ても,これまでは計
測にのみ使用されてきた鏡面冷却式露点計だったが低
露点領域で,高速応答が可能となったことから,露点制
御の高精度センサとしても使用することができるとい
この有効自由度から,t 分布表を利用し 95 %の信頼水
準にあたる包含係数 k を導くことができる。この包含係
数 k を合成標準不確かさ u c にかけて,拡張不確かさ U
う顧客価値が提供可能となった。
が算出できる。
8. 低露点の計測技術を向上させた周辺技術
U=k×uc
8.1 発生装置周囲温度の影響
技能試験に使用した低露点用の湿度発生装置は,分流
式で試料空気や飽和槽などの温度制御を行わないタイ
プの発生装置を使用したため,校正環境のわずかな温度
の変化によって,試料空気の飽和具合に変化が生じ安定
— 65 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
その測定結果を図 10 と図 11 に示す。
した湿度発生ができないことが問題となり,この問題を
恒温槽内に湿度発生装置を設置する前は室温の影響
解決するためには 2 つの改善事項を同時に実施する必要
により,測定ごとに飽和槽璧温度に違いがあったが,恒
があった。
温槽設置後はほぼ一定の値に制御できていることがわ
1 つは校正環境の温度制御の向上である。
かる。
これには当社の精密空調制御システムを使って恒温
温度スケールを細かくした図 11 からも,恒温槽設置
槽を作成し,その中に湿度発生装置を入れることで解決
前と後では,飽和槽周囲の温度制御幅にも違いがあり,
した。
恒温槽設置前が±0.1 ℃以上の変化があるのに対して,
もう 1 つは,飽和槽の外側に厚さ約 10 mm の断熱材
恒温槽設置後では±0.02 ℃程度に収まっていることが
で覆い熱の流出入を緩やかにした。
わかる。
これらの改善ができていることの確認のために,飽和
この恒温槽によって,飽和槽周りの温度安定化に十分
槽と断熱材の間に,Pt100 Ωの温度計を貼り付け温度を
な効果を発揮した。
測定した。
図 9. 低露点ファインデューの jcss 校正証明書
— 66 —
ドライガス測定ニーズに応える低露点計測技術の向上
今回確認した配管材料はステンレス EP管(内部電解
研磨)
,ステンレスフレキシブル管,銅管,フッ素樹脂
チューブチューブの 4 種類で,フッ素樹脂チューブチュー
飽和槽壁温度 / ℃
ブについてのみ長さを0.5 mと10 mの2 種類使用した。
【実験 1】:配管の種類による霜点の違い
測定霜点 約−40 ℃
配管材質 フッ素樹脂チューブ
ステンレス EP 管
0
60
銅管
120
時間 / min
室内設置①
室内設置②
室内設置③
配管長さ 10 m
ただし,フッ素樹脂チューブのみ
恒温添槽内設置①
恒温添槽内設置②
恒温添槽内設置③
0.5 m も追加で同時に実施
配管径 内径:4.35 mm
肉厚:1 mm
図 10. 設置場所による飽和槽周り温度の違い(1)
測定環境条件 25 ℃ /50 % rh
ただし,フッ素樹脂チューブ 10 m
のみ 25 ℃ /95 % rh も追加で同時に
実施
室内設置時温度 / ℃
恒温槽内設置時温度 / ℃
【結果】:図 12 の結果が示すように 25 ℃ /50 % rh 環
0
60
境においたステンレス EP 管,銅管,フッ素樹脂チュー
ブ 0.5 m の測定値に大きな差なかった。
それに対し,フッ素樹脂チューブ 10 m は,高い測定値
を示した。特に,25 ℃ /95 % rh の環境においたフッ
素樹脂チューブ 10 m は,0.6 ℃ほど高い霜点を示した。
120
時間 / min
室内設置①
霜点 / ℃
室内設置
(10 分平均)
①
恒温添槽内設置①
恒温添槽内設置
(10 分平均)
①
図 11. 設置場所による飽和槽周り温度制御の違い(2)
0
10
8.2 サンプリングチューブによる露点への影響
20
30
40
時間 / min
霜点−30 ℃付近から,それ以下の低露点を測定する
0.5 m フッ素樹脂チューブ
場合は,ガス中の水分量が非常に少ないため,ちょっと
10 m フッ素樹脂チューブ
した水分に測定結果が大きく左右されるため測定には
10 m フッ素樹脂チューブ(25 ℃ /95 % rh)
様々な注意が必要である。
10 m ステンレス EP 管
その注意の 1 つとして,露点計につなぐ配管の内部で
10 m 銅管
おこる水分吸着や脱離による影響があげられる。
図 12. 配管種類による霜点の違い
今回は,それらの影響を確認するため,いくつかの実
験を行なったので代表的な結果を報告する。
8.2.1 露点計につなぐ配管材料と長さの影響
露点計につなぐ配管材料と長さをいくつか替えて,霜
点−55 ℃から−50 ℃を測定した結果,配管材料や長さ
によって測定結果や応答性に影響が出ることが確認できた。
— 67 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
【実験 2】
:周囲温湿度の変化による霜点の違い
測定霜点 約−55 ℃
配管材料 フッ素樹脂チューブ
霜点 / ℃
配管長さ 0.5 m と 10 m
配管径 内径:4.35 mm
肉厚:1 mm
測定環境条件 0.5 m チューブ:25 ℃ /50 % rh
10 m チューブ:40 ℃ /95 % rh
から 25 ℃ /95 % rh に変化させた。
【結果】
:実験 1 の結果(図 12)に加え,図 13 の結果
時間 /s
が示すように 10 m フッ素樹脂チューブは周囲の温湿
0.5 m フッ素樹脂チューブ
10 m フッ素樹脂チューブ
10 m ステンレス EP 管
10 m 銅管
度の変化によって測定値に大きな変化が現れることが
確認できた。
図 14. 配管種類による応答性の違い (1)
温度 / ℃
【実験 4】:配管の種類による応答性の違い(2)
測定霜点 約−50 ℃ ⇒ −40 ℃
配管材料 ステンレス EP 管
ステンレス フレキシブル管
配管長さ 10 m
配管径 内径:4.35 mm
肉厚:1 mm
測定環境条件 25 ℃ /50 % rh
時間 / min
応答性評価の 霜点:−50 ℃から−40 ℃へ
0.5 m フッ素樹脂チューブ
測定条件 発生霜点を変更
10 m フッ素樹脂チューブ
【結果】:図 15 の結果が示すように,同じ長さのステ
ンレス管でも,フレキシブル管では応答性が遅いこと
図 13. 周囲温湿度の違いによる霜点計測の違い
が確認できた。配管内側の表面積の影響と考えられる。
【実験 3】
:配管の種類による応答性の違い(1)
測定霜点 約−50 ℃ ⇒ −40 ℃
配管材料 フッ素樹脂チューブ
霜点 / ℃
ステンレス EP 管
銅管
配管長さ 10 m
ただし,
フッ素樹脂チューブのみ
0.5 m も追加で同時に実施
配管径 内径:4.35 mm
肉厚:1 mm
時間 /s
測定環境条件 25 ℃ /50 % rh
ただし,
フッ素樹脂チューブ 10 m
のみ 25 ℃ /95 % rh も追加で同時
に実施
10 m ステンレス EP 管
10 m ステンレスフレキ管
図 15. 配管種類による応答性の違い (2)
応答性評価の 霜点:−50 ℃から−40 ℃へ
これらの実験から低露点領域では露点計までの配管
測定条件 発生霜点を変更
【結果】
:図 14 の結果が示すように,配管長さによる
応答性に違いはあったが,配管種類による応答性に違
いはなかった。ただし、10 m フッ素樹脂チューブは
オーバーシュートしており、樹脂への吸着・脱離が金
属と比較して大きいためと考えられる。
材料の材質は透過がなく,水分の吸着が少ないものを使
い,
長さを短くすることが重要であることが再認識できた。
— 68 —
ドライガス測定ニーズに応える低露点計測技術の向上
9. おわりに
試験所間比較による技能試験報告書(低湿度用露
点計)JCPT-99-2
(8)飯塚幸三監修:ISO 国際文書 計測における不確か
本稿では、露点計測範囲を拡張するために取り組んだ
さの表現ガイド,日本規格協会
技術向上について、周辺技術の検討を含めて紹介した。
(9)山口徹,伊林洋志,新沢陽介,江口忠登美,磨田光夫:
一般的に、計測という行為はできて当たり前だと思っ
現場技術者のための計測技術入門,日本規格協会
ている人が多いかもしれない。しかし、要求されるレ
ベルが高くなれば、
そう簡単なことではない。当社では、
開発部と計測標準センターが得意分野で協業し、より良
<商標> い「ものつくり」を進めている。そして今後とも、より
FINEDEW は,株式会社 山武の商標です。
良い「ものつくり」を通じて、お客さまとともに価値を
つくり、信頼をいただけるよう努力していく所存である。
<著者所属> 山口 徹 計測標準センター 中垣内 直美 計測標準センター 金井 良之 アドバンスオートメーションカンパニー
<解説>
(1)JIS Z 8806 では「湿潤空気の水蒸気圧に、水の飽
開発部 開発 7 グループ 和水蒸気圧が等しくなる温度」のことを「露点」と
井端 一雅 アドバンスオートメーションカンパニー
呼んでいるが、そのほか「露点温度」と呼ばれるこ
マーケティング部 ともある。
(2)JIS Z 8806 では「湿潤空気の水蒸気圧に、氷の飽
和水蒸気圧が等しくなる温度」のことを「霜点」と
呼んでいるが、そのほか「霜点温度」と呼ばれるこ
ともある。
(3)広義には、
「露点」
・
「霜点」を総称して「露点」と
よぶことがある。
(4)
「jcss(スモールジェーシーエスエス)校正証明書」
は、国立標準研究所または指定校正機関等が発行す
る jcss ロゴマーク付の校正証明書で、JCSS 制度で
登録を受けた校正事業者が発行する JCSS ロゴマー
ク付きの「JCSS(ラージジェーシーエスエス)校
正証明書」と区別されている。
<参考文献> ( 1 )C a l i b r a t i o n a n d M e a s u r e m e n t C a p a b i l i t y ,
Thermometry Japan NMIJ, The BIPM key
comparison database, Nov. 2009 独立
(2)北野寛 , 湿度標準の現状と供給範囲の拡大 , AIST
Today, Mar.2005
( 3 )C a l i b r a t i o n a n d M e a s u r e m e n t C a p a b i l i t y ,
Thermometry United Kingdom NPL, The BIPM
key comparison database, June 2010
(4) S. Hasegawa and J.W. Little, The NBS TwoPressure Humidity Generator Mark 2, Journal of
Research of the National Bureau of Standards - A.
Physics and Chemistry, Vol.81A, No.1, Jan.-Feb.
1977
(5)独立行政法人製品評価技術基盤機構認定センター計
量認定課:平成 20 年度 JCSS 技能試験手順書
(6)独立行政法人製品評価技術基盤機構認定センター:
試験所間比較による技能試験報告書(中高湿度用露
点計)JCPT-99-1
(7)独立行政法人製品評価技術基盤機構認定センター:
— 69 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
燃焼安全制御技術を用いた
コントローラの開発
Controller Development Using Combustion Safety Control Technology
株式会社 山武 アドバンスオーメーションカンパニー 熊澤 雄一
Yuichi Kumazawa
キーワード 燃焼安全,火炎検出器,安全,制御,メンテナンス,フェールセーフ,スタートチェック
工業用燃焼炉(以下,工業炉)の燃焼安全制御機器としてバーナインターロックモジュール
(RX-L)とバーナコン
トロールモジュール
(RX-R)を開発した。RX シリーズは従来からの燃焼安全制御にもとづいた安全性確保と,省
スペース/省配線のユーザの利便性向上,様々な設備へ柔軟に対応できる制御性,メンテナンス性の向上を製品
コンセプトとして開発を行った。
本稿ではその設計及び背景となる燃焼安全について報告する。
We have developed a burner interlock module (RX-L) and a burner control module (RX-R) as combustion
safety control devices for industrial combustion furnaces. The key concepts behind the development of the
RX series are (1) ensuring safety based on conventional safety control, (2) improving user convenience through
compact design and reduced wiring, (3) flexible controllability capable of accommodating various types of
facilities, and (4) improvement of maintainability. This paper describes the design of the above-mentioned
modules and the background concept of combustion safety.
1. はじめに
できる。
従来から山武では欧米の燃焼安全規格に準拠した燃
焼安全技術を独自に確立して,製品開発・販売を行い社
会に貢献してきた。これまで燃焼安全規格は海外
(特に
アメリカの UL 規格 , 欧州の EN 規格)で先行して規定
一方,内部設計では,マイコンを使用した安全設計・
燃焼制御の技術を確立し,従来のアナログ回路安全設
定・燃焼制御方式では実現できなかった,制御性/拡張
性を向上させた。
されていたが,日本でも工業用燃焼炉の安全通則
(JIS B
8415)が 2008 年 11 月に改正され,工業炉を設計・製造
するメーカーや使用するユーザーは JIS 規格に規定され
た設備のリスクアセスメントの実施など,従来設備から
の安全見直しを行わねばならず,大きな負担となっている。
RX シリーズは,燃焼設備を改正 JIS に対応するため
の考慮があらかじめされている初めての燃焼安全コン
トローラである。さらに,従来製品では外付け部品や
コントローラを外部計装することにより実現していた,
マルチバーナや火炎の個別監視計装なども標準機能と
してサポートし,ユーザーの計装負担を軽減している。
ユーザーはあらかじめ,作り込まれている安全機能を専
用ソフトウェア
(パソコンローダ)から選択することで,
該当する設備に要求される安全機能や制御仕様を実現
— 70 —
図 1. RX シリーズ外観
左から RX-L バーナインターロックモジュー
RX-R, バーナコントロールモジュール× 3 台
燃焼安全制御技術を用いたコントローラの開発
燃焼安全用コントローラの基本動作は安全確認形と
2. 燃焼安全
なっており,動作前あるいは動作中に安全であることを
2.1 概要
る。一旦,コントローラが安全確認できない状態になっ
燃焼設備とは熱風・高温雰囲気を作り出す設備で,可
た場合は,安全機能に従い速やかに燃料遮断し燃焼器機
燃性の燃料と点火源を持つことから,爆発のリスクを含
を停止する。
確認できる場合にのみ,点火動作や燃料供給を継続す
む装置である。よって可能なかぎり爆発などの事故を防
ぎ安全に運転するための制御装置が必要となる。RX シ
2.3 RX の安全設計の特徴
リーズなども含む広義の燃焼安全装置とはバーナなど
従来の燃焼安全コントローラは安全機能を実現する
の燃焼設備を安全に運転するために使用されている装
ため,ハードウェアを主体とした安全設計を行ってき
置で,装置の目的は「爆発を防ぐこと」となる。
た。ハードウェアを主体とした設計を行った場合,比
バーナ等,燃焼装置において爆発を防ぐためには爆
較的単純な電子部品を使用して制御部を構成するため,
発の3要素「燃料・空気・点火源」のうち少なくとも
FMEA(Failure mode and effects analysis)を実施する
1つ以上を制御して,爆発が発生しない条件を作り出
ことにより,構成部品が故障した際の安全動作への影響
すことが肝心である。ただし,
「空気」は地表上のどこ
を検証でき,あらかじめ危険動作を除去できることがメ
にでも存在するため簡単に燃焼室内に侵入する。また,
リットであった。
燃焼装置を運転している場合は常に炉内が加熱され赤
一方,燃焼設備の多様化・多機能化にともない,今日
熱しているため,
「点火源」が存在することとなる。
の燃焼制御コントローラには,従来からの安全動作はも
したがって,爆発を防ぐ現実的な方法は「燃料」の制
とより,あらゆる燃焼設備に対応するため拡張性の高
御ということになる。炉内に噴出した燃料はすべて燃焼
さ,省スペース・省配線・通信機能などメンテナンス性
させて,炉内に未燃燃料を蓄積させない。一方,炉内に
向上などが求められるようになった。
噴出した燃料が燃焼されなかった場合,すなわち点火の
このような新たな要求に対応するため,RX シリーズ
失敗や,運転中に何らかの原因でバーナが断火してし
では従来の電子部品ベースの設計ではなく,マイコン
まった場合は , 燃料の供給を直ちに停止すればよい。
ベースで設計を行った。
ただし,マイコンなどの複合電子デバイスは非常に多
2.2 安全機能
くの半導体素子から構成されているため,その故障モー
山武の燃焼安全用コントローラはすべて上記の設計
ドを特定することが困難である。そのため FMEA など
思想の元に開発されており,RX シリーズでもこれを踏
の個々の部品故障から影響を検証することが困難であ
襲している。燃焼安全用コントローラに必要な基本的な
る。つまり,故障時にどのように動作するかあらかじめ
機能を以下にまとめる。
予測がつかないという問題がある。
そこで,RX シリーズではバーナ制御システムの欧州
(1)燃焼監視と安全遮断
炉内に未燃燃料を蓄積させないため,バーナが断火した
規格 EN298 や EN13611 のマイコン及びそのソフトウェ
場合に直ちに燃料を遮断する。この動作は火炎検出器,
アの障害対策に適合することと,独自のアーキテクチャ
コントローラ,安全遮断弁を適切に組み合わせて使用す
を導入することにより,従来製品と同等の安全性を確保
ることにより実現する。
することとした。
なお,周辺回路については従来の部品故障解析を行
(2)シーケンスによる燃焼装置の起動・運転・停止
い,部品故障時に不安全動作がないように設計を行った。
コントローラはバーナを安全に起動→運転→停止する
ためのシーケンス(運転手順)を持つ。誰が操作しても,
安全に起動・運転・停止できるように,コントローラの
シーケンス及びタイマ時間は運転時に固定されており,
安全を確保している。
(3)安全起動
3. 設計
3.1 冗長化 CPU 設計
燃焼装置の起動時にコントローラは火炎検出器回路異
RX の制御部は独立して動作するマイコンの相互監視
常(疑似火炎信号の有無)がないか自己点検し,正常で
による冗長化 CPU 設計を用いている。これによりマイ
あれば起動し,もし何らかの異常があれば,起動を阻止
コン内部の故障,内部メモリの故障や演算実行部の故障
する。この自己点検は燃焼装置の起動毎に行われ,1 回
を相互に検出できるようになり,安全確認しながらのコ
/1 日以上の起動 / 停止を繰り返すバッチ運転の燃焼装
ントローラの動作を行えるようになった。両コントロー
置に適用している。それに対し,24 時間以上の連続運
ラは相互に状態を監視し,互いが正常であることを確認
転(燃焼を止めない)の燃焼装置の場合は,連続自己点
した場合のみ動作を継続する。
検(ダイナミック・セルフチェック)方式の機能のある
コントローラ , 火炎検出器を使用する。
3.1.1 制御判定部
入力信号を受け,燃焼シーケンスを実行し,負荷を出
— 71 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
力するリレー駆動を行うのが制御判定部である。
3.1.3 インターロック情報伝達
制御部は完全に二重化している。単に二重化しているだ
RX シリーズは RX-L に入力されたインターロック情
けでなく,相互に制御データを交換し双方に矛盾が無い
報を複数の RX-R に伝達する。インターロック入力は重
か常時監視している。
要な安全確認信号であり,伝達先のモジュールでもその
また,燃焼制御コントローラにとって重要なタイミン
情報の正確性とリアルタイム性が重要である。たとえ
グ情報は,CPU 間の比較及び専用クロック素子との比
ば,インターロック開放(安全確認信号遮断)は速やかに
較も行い多重チェック構造として,正しさを保証してい
各モジュールに送信され燃料供給を停止しなければな
る。
らない(図 4)。
開放
3.1.2 インターロック入力
RX-L
RX-R
遮断!
安全遮断弁
インターロック入力は外部からの安全確認信号を入
力する重要な機能である。インターロック入力回路にお
いては,インターロック開放
(安全確認信号が遮断)の場
RX-R
合に,制御判定部が停止を出力できないことが直接の危
遮断!
安全遮断弁
険動作である。よって入力回路の部品故障などがあった
場合にも制御判定部で検出できるように,インターロッ
ク接点に電気的なパルス信号を印加する入力回路を採
図 4. インターロック開放から遮断
用している。インターロック短絡状態で回路が正常に動
作している場合,制御判定部のパルス信号出力に対し
インターロック情報は各 CPU をつなぐ 2 チャンネル
て,入力も同じパルス信号である
(図 2)
。
の通信と専用のインターロック信号で構成している(図 5)
。
通信では CRC コードによる誤り検出,シーケンスコー
ドを用いた不正順序検出,時間内のデータ更新チェック
などにより通信の安全性を確保している。ただし通信リ
トライ,タイムアウトなど通信特有のタイムラグが発生
するため,インターロック信号を設け遮断タイミングな
入力回路
どリアルタイム性を保証している。
図 2. インターロック入力正常時
正常時
入力インターロック開放や回路構成部品の故障
(図3)
などが発生した場合は,制御判定部に帰ってくる入力電
気信号が HI レベルか LO レベルに固定されるため,パ
ルス信号が途絶える。RX の制御判定部は規定のパルス
信号がないことから,安全確認信号遮断
(安全が確認で
Main
CPU
Main
CPU
Sab
CPU
Sab
CPU
Main
CPU
Main
CPU
Sab
CPU
Sab
CPU
きない)
と判断して,機器を停止する。
異常時
開放!
入力回路
図 5. インターロック情報伝達
故障!
図 3. インターロック入力異常
— 72 —
燃焼安全制御技術を用いたコントローラの開発
3.2 燃焼関連の入出力
②着火から火炎センサが火炎検知
3.2.1 火炎検出部
火炎センサには AUD300
( アドバンスド UV センサ)
火炎信号
入力回路
を用いることにより,火炎センサとシャッタ機構による
ダイナミックチェック
(火炎信号の常時監視)を行うこ
とが可能である。通常,燃焼安全用コントローラはバー
シャッタ
駆動回路
ナ火炎検出中に燃料を供給し,火炎が遮断した場合燃料
を遮断する。もし,火炎センサが火炎検知側で故障した
場合には,バーナ断火してもコントローラは故障した火
③シャッタを閉じる
炎センサに従い火炎ありと判断して燃料供給を継続し
てしまうため大変危険である。
UV センサには火炎信号を検出し続ける故障モード
火炎信号
入力回路
(ON 故障)と , まったく火炎信号を検出しない故障モー
ド
(OFF故障)があるが,AUD300 と RX を組み合わせ
るとシャッタ機構を利用して,2 つの故障モードを連続
シャッタ
駆動回路
でチェックすることができる。
・火炎を検出した場合 → シャッタを閉じる
・火炎を検出できない場合 → シャッタを開く
ダイナミックチェック方式のサイクルを以下に示す(図 6)
。
④火炎センサが消炎検知
火炎あり
バーナスタート
シャッタを開く
火炎信号
入力回路
シャッタを閉じる
シャッタ
駆動回路
火炎なし
図 6. ダイナミックチェックの仕組み
⑤シャッタを開く
3.2.2 火炎検出判定
RX-R では上記ダイナミックチェック方式の周期的な
火炎信号
入力回路
動作を電気的なパルス信号に変換して制御判定部の二
重化 CPU に入力し,火炎検出の判定を行う(図 7)。
部品故障や火炎センサ故障でダイナミックチェック
シャッタ
駆動回路
サイクルが途切れ,電気的に一方向に信号がはりついた
場合でも,制御判定部で容易に故障検出することができ
る。また,バーナ断火時のフレームレスポンス
(バーナ
断火から安全遮断弁の通電遮断)は安全上特に重要なタ
イミングであるため,制御判定部のマイコン内部タイマ
図 7. 火災検出動作
だけでなく,電気回路によるアナログタイマの結果もマ
イコンへ取り込みタイマの多重化を構成している。
以下②~⑤の繰り返し,生成される電気信号が制御判定
部に伝達され,火炎検知処理を行う。
①火炎なし(シャッタ開)
3.2.3 リレー出力部
RX の安全機能は最終的に安全遮断弁を閉じる=燃料
火炎信号
入力回路
供給を遮断することにより実施される。したがって RX
に内蔵している負荷出力用リレー接点の溶着故障は,最
も危険な故障の 1 つである。そのため RX-R では燃焼シー
シャッタ
駆動回路
ケンス動作開始前に安全遮断弁出力用リレー接点の開
閉をチェックし,正常に負荷を ON/OFF できることを
確認してから動作を開始するようになっている。
また , 安全遮断弁の出力は両切り接点構成
(リレー K1
と K2)として,単一のリレー接点故障では通電しない
— 73 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
<参考文献>
構成としている。
(1)株式会社 山武 COMPO CLUB,燃焼安全の基礎知識,
http://www.compoclub.com
(2)JIS B 8415:2008 工業用燃焼炉の安全通則
(3)ダイナミックセルフチェックバーナコントローラの
開発,Savemation Review
(2005)
,株式会社 山武
<著者所属> 熊澤 雄一 アドバンスオートメーションカンパニー
開発部開発 8 グループ 図 8. リレー接点構成
たとえば , リレー K1 接点の溶着故障が発生した場合,
RX の制御判定部は溶着検出信号Aを確認することによ
り K1 溶着と判定して K2, K3, K4 リレーを遮断するこ
とにより燃焼用負荷への電源供給を遮断する。
図 9. リレー溶着時の検出
このように,RX では複数のリレーで安全遮断弁への
通電を遮断できる接点構成をしており,かつ各リレー接
点のフィードバック信号を監視しているため,意図しな
い安全遮断弁への通電
(燃料供給)の危険は非常に小さ
い。
4. おわりに
本製品は山武の燃焼安全装置としてはじめての,マイ
コンベースのコントローラであり,従来どおりの安全
設計を残しつつ,従来と比較して非常に多くの動作モー
ドを持ち各種燃焼設備に柔軟に対応することができる
ことが最大の特徴である。今後は UV 以外の火炎検出
器対応など,RX シリーズをさらに発展させ,複雑化,
高精度化する燃焼設備に安全でかつ使いやすい製品を
開発していきたい。
— 74 —
燃焼安全制御技術を用いたコントローラの開発
— 75 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
製造データの超効率的解析による
高収益生産への挑戦
Meeting the Challenge of High-Profit Production by Super-Efficient
Manufacturing Data Analysis
山縣 謙一
株式会社 山武 アドバンスオートメーションカンパニー Kenichi Yamagata
株式会社 山武 黒澤 敬
アドバンスオートメーションカンパニー Takashi Kurosawa
株式会社 山武 村上 英治
アドバンスオートメーションカンパニー Eiji Murakami
キーワード EES,FDC,EEQA/M ,統計処理,切り出し,代表値化 ,VM
半導体製造に代表される設備産業では,複雑なバッチ処理工程の組合わせにより,製造ラインが構築される。
さらに,市場の細やかなニーズに応えるために膨大な製造データ管理による品質改善が求められている。本稿で
は,独自のデータ解析手法を採用したプロセスデータ解析ツール Orchard TequiraTM による顧客品質向上へのア
プローチについて述べ,膨大かつ複雑な挙動を持つデータの収集,データの容易な切り出し,特徴付け
(代表値化)
,
統計処理,品質向上につながる管理状態の実現,これら一連の作業の一気通貫処理など要素技術の組合わせによ
り構築したシステムによる課題解決方法について論ずる。
In industrial facilities, especially those for semiconductor manufacturing, production lines are constructed by
combining complicated batch processes. In addition, quality improvements in order to meet the fine points of
market needs require the management of enormous amounts of manufacturing data. This paper describes
our approach to the improvement of product quality by making use of Orchard TequiraTM, which adopts a
unique data analysis method. This paper also discusses a solution method using a system that is established
by combining elemental technologies such as the collection of huge amounts of complexly changing data, easy
data extraction, characterization (calculation of representative values), statistical processing, actualization of
controlled states that leads to quality improvement, and uninterrupted sequential execution of such processes.
1. はじめに
本論文の構成は,次のとおりである。第2章に現在
抱えている製造データ管理・分析における諸問題につ
最先端の半導体製造プロセスでは歩留まりの改善と
いて論じる。第3章にこれら諸問題を解決する手段と
装置稼働率の向上が大きな課題となっている。諸問
して当社が開発した EES を紹介する。第4章にまとめ
題 の 解 決 手 段 と し て EES(Equipment Engineering
と今後の予定を述べる。
System : 装置エンジニアリングシステム)が存在する。
EES により装置の稼働率改善につながる装置特性が可
視化される。
2. 製造データ管理・分析における諸問題
最先端の半導体市場は実質的なビット単価ベースで
山武では,独自のデータ解析手法を採用した EES で
は年率 10%という非常に高いレベルのコスト低減を定
ある,Orchard Tequira を開発し顧客の製品品質向上
常的に求められている特殊な市場であり,その実現の
へ向けたソリューションを展開し,国内の最先端半導
ために半導体製造業各社は技術革新にしのぎを削って
体製造プロセスの諸問題解決を支援している。
いる。その市場における競争の典型は,ムーアの法則,
— 76 —
製造データの超効率的解析による高収益生産への挑戦
あるいは,More Than ムーア(図1)で推し進められて
題がありそうなときに振り返って,データを確認する
いる半導体素子の微細化であり,そのトレンドから外
ために保存する程度だったのに対し,問題を検知した
れないように市場にデバイスを供給し続けることが必
ら,装置の稼働率に影響する「着工停止」シグナルと
要である。
して使われる On-Line FDC 等に活用するようになった
ため,要求されるデータの信頼性とその活用方法の種
類も増大した(4)。
「FDC 等を行うために EES データをどう取り扱えば
良いか」という視点に立って実際に取得した EES デー
タを見てみると,また,別の問題に直面する(5)。
即ち,より細かく装置の機器を監視し,デバイスに
対する影響まで検知できるようにするために,バッチ
生産方式が主で,設定されたレシピに従って変化する
パラメータを監視する。従来どおりの幅の広いエラー・
バンド管理では無理で,目標値に対して追従している
図 1. ムーアの法則
かどうかの厳密な管理が必要になる。レシピで目標値
(http://www.intel.com/jp/technology/mooreslaw/ より引用)
が変わってもその変わった目標値に対する追従性等を
きめ細かに制御する必要がある。
半導体製造工程は,いわゆる設備産業の集合体であ
それを実現するには多種多様な着眼点に基づいたパ
り,半導体製造装置が,各製造工程における品質のバ
ラメータを抽出できる(切り出す)ことが EES ツールに
ラつきそのものを握っているといえる。
求められている。
近年,バラつきのない製造装置で均一の処理を施す
図2に示す様に,1 回の単純なバッチ処理から取得し
ことにより品質のバラつきを最小にすることができる
たデータを監視するためにも,立上り/下がりや追従
という思想に基づき,半導体製造装置が装置を稼動さ
性に着目した 6 項目程度の着眼点が指摘されている。
せる際に制御しているパラメータや,処理中にモニタ
パラメータを切り出した後で特徴を表すために用い
できるセンサからの信号を 1 秒間隔あるいは数ミリ秒
る代表値化に関しても,目的に応じて柔軟な対応が求
間隔という短周期で記録し,装置そのものの異常を検
められる。
知したり,装置で加工される半導体の歩留まりに影響
を及ぼす情報を検知したりする取組みが一般的に行
われるようになってきた。このデータ収集システムは
Equipment Engineering System(EES)と呼ばれ必要な
仕様等も SEMI あるいは Selete といった団体から半導
体装置メーカーに対する要求事項として提唱されるよ
うになった(1)。
EES の活用の方向性としては,Fault Detection and
Classification(FDC)と呼ばれ,主には半導体メーカー
が製造工程の監視手法として用いるケースがある(2)。
また,半導体装置メーカーと半導体メーカーとの
間で半導体製造装置の品質を保証するための手段と
し て EES を 活 用 す る 取 り 組 み は EEQA(Enhanced
Equipment Quality Assurance)と呼ばれる(3)。
図2. バッチ処理データの監視例
EES は,1 つ 1 つの半導体製造装置が巨大なシステ
(2009 12/1 ISMI Next Generation Factory e-Manufacturing ワーク
ムであることから,そのデータの質と量(パラメータ
ショップより引用)
数)がまず問題になる。従来は 1 つの工程である処理
を施したときの処理条件の値として,1 回の処理中の値
さらには,装置は生き物のように正常でもドリフト
を平均して 1 つの値に丸め記録していたため,パラメー
するケースを想定しておく必要があり,いったん作っ
タ数が数百あったとしても,データの数として 1 回の
た FD(Fault Detection)モデルを臨機応変にリモデル
処理当たり数百の値が記録されているだけであった。
することにより,より厳密な管理を実現するという視
これに対し,EES は時系列のプロセスデータを短周期
点も外せない。
で連続的に取得するようになり,半導体製造工程にお
そして,現状では正確な物理モデルが作りにくい部
けるプロセスデータの量は従来に比べ桁違いに膨大に
類にある多くの半導体製造工程の管理指標は少なくと
なった。
も統計的に裏づけられたものでなければならない。
またデータの質に関してみても,従来は,工程に問
— 77 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
以下に列挙すると
3.2 大規模データへの対応
1. EES は , 1 製 造 装 置 あ た り 数 百, 場 合 に よ っ て は
前節で述べたとおり,センサから定周期で取得され
1000 を超えるパラメータのデータを高品位に 1 秒以
る装置の稼働情報は非常に膨大であり,また,製造装
下の粒度で管理できなければならない。
置ごとに計測すべき項目が異なることが普通である。
このように膨大かつ,計測項目が装置ごとに異なる
2. EES データには,温度,圧力,流量といったプロセ
スパラメータだけでなく,バルブの開閉 , ロボット
ようなデータを,従来のリレーショナルデータベース
の動きを示すシーケンス情報,さらには装置のメン
(以下 RDB とする)を使用して安価に管理することは困
難である。
テナンスの情報等多岐に渡る情報が含まれる。
前述したような装置の稼働情報の解析においては,
3. EES データに要求される時系列的な粒度は多岐に渡る
対象とするウエハに対する処理の記録が重要となる場
特徴から,
数ミリ秒レベルまで細かいものも含まれる。
合が多い。
4. データの切り出し~代表値化が簡単にできる必要が
そこで,Orchard Tequira では,図 4 に示すように,
ある。
5. 代表値化後のデータの統計的分析を容易に行い,見
RDB をデータのインデックスとして利用し,データに
直し~再検討のサイクルを効率的に行えなければな
ついては,解析を行う際に意味のある単位のファイル
(Tequira Binary File)として管理するアーキテクチャ
らない。
6. 取得したデータはロットや時期等多様な切り口でま
を採用する。このようにデータを管理することで,過
とめて任意に比較解析ができなければならない。
大なデータを DB に蓄積することなく,解析を行うの
7. FDC(Fault Detection and Classification)を実現する
ためには , EES データ単独ではなく , 工程で処理し
た結果等 , 他の検査装置やシステムからの情報を適
宜加味して解析できる柔軟性が必要である。
8. 解析結果をスムーズに活用できなければならない。
に都合のよい形で保存することができる。
データベースには検
索用のインデックス
のみを保存し、デー
タはファイルとして
保存する。
な お, 山 武 は,Savemation Review 2005 年 8 月 号
記載の活動を継続して半導体メーカーと行っている(2)。
さらには半導体メーカー,半導体装置メーカーと連携
した共同研究等を多数行っており,市場におけるニー
データフォルダ
ズについては常に余すことなく把握した活動を継続し
,
(8)
,
ている(6)(7)
。
図 4. Orchard Tequira のデータ管理方法
3. Orchard Tequira
3.3 Modeler
3.1 Orchard Tequira の構成
直接操作するアプリケーションとなる Modeler の主な
Orchard Tequira の 標 準 的 構 成 を 図 3 に 示 す。
機能を紹介する。
本節では,Orchard Tequira のなかで,ユーザーが
Orchard Tequira は 大 き く 2 つ の サ ブ シ ス テ ム か ら
構成されている。Modeler はユーザーインターフェー
3.3.1 データの可視化・解析
スを備え,データを可視化したり,解析を行ったりし
取得された製造情報や代表値を結果ビューの画面で
て,管理モデルを作成する機能を持つ。Executor は,
表示できる(図5)。
Modeler で作成した管理モデルを自動的に実行して,
プロセスの管理を行うサブシステムである。
図 3. Orchard Tequira の構成
図 5. 結果ビュー
— 78 —
製造データの超効率的解析による高収益生産への挑戦
結果ビューでは,装置から取得された製造情報や,
Executor によって計算された代表値を,ユーザーと対
話的に確認することができる。これにより,装置の動
作の確認や,異常な処理が行われたウエハを特定した
りする操作を素早く行うことができる。
また,Orchard Tequira の統計解析機能を利用する
と,「代表値間の挙動の関係」や「代表値を説明変数,
製品品質を目的変数とする重回帰分析」などを簡単に
実行でき,装置挙動の統計的性質や,品質情報を対象
とする Virtual Meteorology(VM)を簡単に構築するこ
とができる。使用できる統計解析手法は,基本統計量,
相関係数,主成分分析,重回帰分析等,一般に良く使
われる手法である
(図 6 は相関係数機能の対散布図の例)
。
図 7. 代表値算出設定の例
3.3.3 SPC 管理
Orchard Tequira では,計算された代表値をもとに
して,製造品質の管理を行うための機能として,SPC
(Statistical Process Control)管理機能がある。SPC 管
理機能では,算出された各代表値に対して,3 レベルで
のバンド管理及び,WECO ルールによる傾向管理を行
うことができる(図8)。
図 6. 対散布図の例
3.3.2 代表値化
Orchard Tequira では,図 2 の例のように製造情報
から代表値をプログラムを記述することなしに簡単に
図8. SPC 判定画面の例
作成することができる。また,3.3.1 で説明したように,
もとになる製造情報や計算された代表値を対話的に表
3.4 Executor
示できるため,代表値の算出アルゴリズムの微調整な
Executor は Modeler で作成した管理モデルを使用し
どを直感的に行える。
て,製造プロセスを監視するサブシステムである。装
図 7 に代表値算出設定の例を示す。これは,図 2 で
置から取得された製造情報をもとに代表値を計算し,
示した,動特性から特徴量を算出する場合の設定例で
各代表値の SPC 判定方法を自動的に実行して,製造プ
ある。
ロセスが正常に動作していることを監視し,異常発見
こ の 設 定 で は,Delay,Raise,Setting,Unstable,
時に装置に対して対処することができる。
Stable の各区間の定義と,それらの時間,Unstable に
おいては,Flow_A(ACT)の最大値,最小値,平均値,
Stable においては,Flow_A(ACT)の標準偏差を計算
するような設定となっている。
— 79 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
4. おわりに
Orchard Tequira のデータの可視化機能と代表値化
機能を利用することで,膨大な装置の稼働情報を,装
置管理のキーとなる挙動に合わせた代表値に集約し,
プロセスや,装置の挙動・故障の管理を効率的に行っ
たり,ソフトセンサを簡単に構築したりすることがで
きる。将来は,製造データをリアルタイムに代表値化
し監視することで,プロセスを高品位化することを目
指す。
<参考文献> (1)装置エンジニアリング ・ システム ユーザシステム
要求仕様書(2003), pp.120-151, 株式会社半導体先
端テクノロジーズ SEMI 規格
(2)鹿島 亨他:半導体市場向け , 歩留まり向上 FDC
シ ス テ ム , Savemation Review(2005),pp.76-83,
株式会社 山武
(3)装置導入時の品質保証高度化要求(装置 QA の高
度化(社)電子情報技術産業協会(2004), 株式会社
半導体先端テクノロジーズ(Selete)
(4) 装置データを使う業務の効率向上に関する検討
(2009), 株 式 会 社 半 導 体 先 端 テ ク ノ ロ ジ ー ズ
(Selete)
(5) The Enhanced Equipment Quality Assurance
(EEQA)Methodology, Semicon Japan 2009
e-Manufacturing Workshop(2009)
(6)Katsuhisa Sakai et al: The way to improve the
effectiveness of a comprehensive FD system ,
AEC/APC Symposium Asia 2009
(7) Toru Kashima: Anomaly Detection Using
Average Normal Profile of Time-Series Process
Data, AEC/APC Symposium Asia 2009
(8)Katsuhisa Sakai et al: Comprehensive plug and
play FD system realized Predictive Maintenance,
ISSM 2008
<商標> ORCHARD は , 株式会社 山武の商標です。
Tequira は , 株式会社 山武の商標です。
<著者所属> 山縣 謙一 アドバンスオートメーションカンパニー
エンジニアリング本部
ソリューション技術部 1 グループ 黒澤 敬 アドバンスオートメーションカンパニー
営業本部営業技術部
アプリケーショングループ 村上 英治 アドバンスオートメーションカンパニー
エンジニアリング本部
ソリューション技術部 1 グループ
— 80 —
製造データの超効率的解析による高収益生産への挑戦
— 81 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
蒸気弁の差圧比係数の検討及び
バルブ選定用ソフトウェアの開発
Study of Pressure Differential Ratio Factor of a Steam Control Valve,
and Development of Valve Selection Software
株式会社 山武 野間口 謙雄
ビルシステムカンパニー Yoshio Nomaguchi
株式会社 山武 新谷 知紀
ビルシステムカンパニー Tomonori Shintani
株式会社 山武 大矢 公紀
ビルシステムカンパニー 株式会社 山武 佐藤 慶大
ビルシステムカンパニー Keita Satou
株式会社 山武 加藤 瑞樹
ビルシステムカンパニー Mizuki Katou
Cokey Oya
キーワード 調節弁,サイジング,差圧比係数,圧縮性流体,バルブ選定用ソフトウェア (AVALS)
蒸気などの圧縮性流体を扱う調節弁のサイジングを精度良く行うためには弁固有の差圧比係数が必要であり,
サイジング計算も煩雑となる。差圧比係数を求めるためには,空気を高差圧で大量に流せる試験設備が必要とな
る。そこで今回,数値流体解析を用いて差圧比係数を求め,そのうち小口径バルブについては社内実験室に実流
量試験設備を設置して試験を行い,値の確からしさを確認した。また,この差圧比係数を用いて精度の高いサイ
ジング計算ができるソフトウェアを開発したので,その内容について報告する。
For high-precision sizing of a control valve for compressible fluid such as steam, a valve-specific differential
pressure ratio factor is necessary and sizing calculations become complex. Test facilities capable of flowing
a large amount of air with a high pressure difference are also needed to calculate differential pressure ratio
factors. We calculated differential pressure ratio factors using computational fluid dynamics, and verified the
accuracy of such factors for small-bore valves using test facilities for actual flow rate measurements which
we have newly installed in our on-site laboratory. We also developed software that enables high-precision
sizing calculation using the differential pressure ratio factor. This paper describes the study and development
mentioned above.
1. はじめに
(1)
イ ジ ン グ 式 は,FCI(Fluid Controls Institute Inc.)
によるものと IEC(2)
(IEC 60534-2-1)又は ANSI/ISA(3)
調節弁とは,流体 ( 水や蒸気など ) の流量を連続的に
変更 ( 制御 ) するための機器である。
により規格化されたものが存在したが,JIS B 2005-2-1
(4)では,IEC により規格化された精度の高いサイ
(2005)
空調制御において,調節弁は空調機の制御や熱源系の
ジング式が定義された。この IEC 式では弁固有の差圧
制御に多く用いられ,重要な位置を占めている。した
比係数を用いることによりサイジングを行う。
がって,計装・制御機器の特性・環境条件や流量,圧力
本稿では,CFD(Computational Fluid Dynamics,数
条件を考慮した最適な調節弁を選定することが非常に
値流体解析)と実流試験により蒸気弁の差圧比係数を求
重要である。必要な弁容量よりも小さな調節弁を使用し
めた結果について報告するとともに,IEC のサイジング
た場合には流量不足が発生し,また,過大な弁容量の調
を容易に行うことができるバルブ選定用ソフトウェア
節弁を使用した場合にはハンチングを起こすなど,制御
を開発したので,その内容について報告する。
性の悪化を招くことになる。使用時の流量,圧力などの
条件から最適な弁容量の調節弁を選定する必要がある。
これまで蒸気などの圧縮性流体における調節弁のサ
— 82 —
蒸気弁の差圧比係数の検討及びバルブ選定用ソフトウェアの開発
2. 圧縮性流体のサイジング式
3. 差圧比係数の検討
圧縮性流体のサイジングでは,
(1)
,(2)
式により Cv 値
3.1 CFD による差圧比係数の検討
差圧比係数 xT を実験で求めるには,ある程度高い上
, 4)
を計算する(2)(
。
流側圧力の空気を,供試弁に対して高い弁前後差圧で流
x <F γ x T のとき
W
Cv =
(1)
x
ρ1
x > F γ x T のとき
Cv
す必要があり,その装置は大掛かりなものとなる(5)。そ
こでまず最初に,CFD により xT を求めた。
使用した解析モデルを図 2 に,解析条件を表 1 に示す。
解析モデルは上流側に長さ 2d(d : 配管呼び径)の配管,
下流側に長さ 6d の配管を取り付けたモデルとした。境
界条件として 1 次側圧力 p1 と 2 次側圧力 p2 を与え,計
算で求めた 1 次側境界断面における平均流速と平均密
W
=
ρ (2)
1
度と境界断面積を用いて求めた体積流量
(normal : 0℃−
Q [m3/h] を求めた。
1 気圧)
ただし,
W ;質量流量 [kg/h]
x ;差圧比 =Δp/p1
Δp ;弁前後差圧 [kPa]
p1 ;弁 1 次側絶対圧力 [kPa]
Fγ ;比熱比係数
Fγ = γ/1.40,γ:流体の比熱比
空気では,Fγ =1
xT ;差圧比係数
ρ1 ;p1 における流体の密度 [kg/m3]
図 2. 解析モデル
弁の 1 次側圧力を一定に保ちながら 2 次側圧力を徐々
に下げていくと,差圧比 x がある限界値で弁内の最縮流
表 1. 解析条件
ソフトウェア SCRYU/Tetra V7
部で流れが音速に達し,さらに下流側圧力を下げても質
(株式会社ソフトウェア
量流量が増加しない閉そく流(チョークフロー)となる
クレイドル)
(図 1)
。この非閉そく流から閉そく流になる限界の差圧
比は弁の形状によって異なる弁固有の係数である差圧
比係数 xT と比熱比係数 Fγ の積で表される。
計算格子
非構造格子
解析方法
乱流モデル
有限体積法,定常解析
標準 k - ε モデル
流体
空気
基準温度
293.15 [K]
1 次側境界条件 p1
Choked Flow
300 [kPa]
アクティバル TM 電動二方弁の 25A(定格 Cv10)につ
いて計算した結果を以下に示す。
YC を(3)式で求める。
Q
MT Z
x
21.2 p1
1
(3)
YC =
図 1.
と質量流量 W の関係( p1 = 一定) 比熱比係数は比熱比 1.40 である空気を基準にした係
数である xT を補正するための係数である。
(1)
,(2)式で
Cv 値を精度良く求めるためには,弁固有の係数である
xT を精度良く求めることが重要となる。
ただし,
Y ;膨張係数
x
(4)
C ;容量係数 ( = Cv )
Q ;体積流量(normal)[m3/h]
— 83 —
M ;流体のモル質量
空気では M = 28.97 [kg/kmol]
T1 ;上流側流体温度 [K]
Z ;圧縮係数,空気では Z = 1
azbil Technical Review 2011年1月発行号
差圧比 x に対する YC の計算値を求めたものを図 3 に示
3.2 差圧比係数の実流試験による確認
す。
実流試験の概要を図 5 ~ 7 に示す。
エアタンク
図 3. x-YC の関係(CFD による計算値)
流量計
計 算 で 求 め た YC-x の 関 係( 計 算 点 )か ら 回 帰 直 線
を あ て は め る。YC 0 は x = 0 の と き の YC で あ り,
YC= 0.667YC0 となる x =Fγ xT から xT = 0.37 が得られた。
また,x ≈Fγ xT における弁内のマッハ数のコンター図
図 6. 試験設備(エアタンク)
を図 4 に示す。図 4 より,弁内絞り部での最大流速が音
速に達し,チョークフローを起こしていることがわかる。
Mach Number
0.0
図 4.
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
x ≈Fγ xT における弁内のマッハ数コンター図
図 7. 試験設備(供試弁まわり)
エアタンクに工場空気(最大 0.6 [MPa])を貯めたあ
と,上流側の手動弁を開放し,所定の p1, p (=p1 −p2 )
∇
になるようにレギュレータと 2 次調節弁を調整し,そ
の時の圧力,流体温度,流量を連続して計測した。また,
圧力は JIS B 2005-2-3(6)で規程する位置にて計測した。
CFD と同様,アクティバル電動二方弁の 25A(定格
Cv10)について,
(3)式により YC を求め,差圧比 x に対
する YC の関係を求めたものを図 8 に示す。
Air
エア
タンク
流量計
手動弁
温度センサ(保温)
レギュレータ
図 5. 実流試験装置の概要
— 84 —
供試弁
2 次調節弁
蒸気弁の差圧比係数の検討及びバルブ選定用ソフトウェアの開発
① 製品の特性・環境条件に応じた最適な調節弁の形番
を検索することが可能。
② 操作が簡単で形番検索時間を大幅に削減。
③ 選択された形番のアクチュエータ,バルブの主な仕
様,オプションの確認が可能。
④ 仕様取扱説明書にリンクしているので,スピーディー
に詳細な仕様確認を実現。
⑤ 計算が複雑な蒸気弁のサイジング(Cv 計算)が可能。
図 8. x-YC の関係(実流試験結果)
図 8 より,xT = 0.35 が得られた。
3.3 差圧比係数の検討結果まとめ
蒸気用途の調節弁であるアクティバル電動二方弁(形
VY51)の差圧比係数 xT 値の一覧を表 2 に示す。 40A
( 定 格 Cv25)以下において,差圧比係数 xT 値の実流試
験結果は CFD による計算値と良く一致することがわ
かった。15A ~ 80A まで弁内構造は類似形状であるこ
とから,設備の能力上,実流試験が困難な 40A(定格
Cv40)以上の口径については CFD により xT 値を決定
した。
15A
25A
40A
4.2 調節弁選定の流れ
調節弁の選定は,一般に以下のような手順で行う。
第 1 に,調節弁の形式を決定する。
表 2. 形 VY51 の差圧比係数 xT 値の一覧
口径
図 9. バルブ選定用ソフトウェア画面例
調節弁には,大型のもの,高差圧に耐えられるもの,
リーク量が少ないもの,フェールセーフ機能を有するも
差圧比係数 xT
定格
Cv
CFD 結果
実流試験結果
1
0.62
0.61
1.6
0.53
0.50
2.5
0.46
0.42
4
0.42
0.43
6
0.42
0.40
10
0.37
0.35
16
0.33
0.29
25
0.38
0.38
40
0.29
-
50A
65
0.25
-
65A
95
0.31
-
80A
125
0.34
-
のなど,多くの形式のものがある。
調節弁の形式を決定するためには,適用する計装アプ
リケーションの目的にあった形式の調節弁を選定する
必要がある。
バルブ選定用ソフトウェアでは,適用する計装アプリ
ケーションを選択する機能を有しており,計装アプリ
ケーションを選択することで目的にあった形式の調節
弁に絞り込むができる。図 10 に計装アプリケーション
の選択画面を示す。
4. バルブ選定用ソフトウェア
(AVALS TM)
の開発
4.1 ソフトウェアのコンセプト
バルブ選定用ソフトウェア
(AVALS)は,自動制御を
図 10. 計装アプリケーション選択例
円滑に行うために,空調機の制御や熱源系の制御などの
計装アプリケーションに最適な調節弁を選定する機能
第 2 に,調節弁のサイズを選定する。
を提供する。
バルブ選定用ソフトウェアでは,流体条件(水/蒸気,
ソフトウェアのコンセプトをまとめると以下の通り
流量,差圧など)を入力することにより最適な大きさの
である。
調節弁を選定することができる。
— 85 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
第 3 に,選定した調節弁に関して,耐圧・クローズオ
Cv =
フレイティングなどのチェックを行う。
調節弁の 1 次側にかかる圧力によって,調節弁の圧力
0.7 × Q
定格を選定する必要がある。
ただし,
Q ;体積流量 [L/min]
バルブ選定用ソフトウェアでは,調節弁の仕様の入力
に耐圧を選択する項目を用意しており,圧力条件に合っ
(6)
Δp ;弁前後差圧 [kPa]
水の Cv 値計算画面を図 13 に示す。流量,差圧を入
力して水の Cv 値計算を行う。空調機や熱交換器などの
た調節弁を選定することができる。
コイル廻りであれば,熱量,温度差から
(7)
式により流
量に自動的に換算して,Cv 値を算出する。
60000×P
(7)
ただし, Q ;体積流量 [L/min]
P ;熱量 [W]
ρ ;水の密度 [kg/m3]
c ;水の比熱 [J/kg・K]
図 11. 調節弁の仕様入力項目
ΔT ;温度差 [K]
また,調節弁の一次圧が低く,差圧が大きい場合は,
キャビテーションエロージョンの発生が懸念される。
キャビテーションの発生状態は
(5)
式に示す JIS B 2005(7)
(8)
8-2 (IEC 60534-8-2 )
で規定されている圧力比 xF で表
すことができるため,
(5)
式を用いて圧力条件を確認し,
選定した調節弁の採用の可否を判断できる機能も用意
している。 (5)
ただし,
Δp ;弁前後差圧 [kPa]
p1 ;弁 1 次側側絶対圧力 [kPa]
pv ;流体の飽和蒸気圧(絶対圧)[kPa]
図 13. Cv 値計算画面例(水の場合)
(2)通過する流体が蒸気の場合
(1),
(2)式で示した蒸気の Cv 値計算式は,計算をす
る前に調節弁固有の値である x T 値を定義しなければな
らない。そのため,計算する前に流体条件や配管サイ
ズから弁サイズ,定格 Cv 値を想定する必要があるが,
これは非常に困難である。ある定格 Cv 値の調節弁の x T
値を想定し Cv 計算を行ったあと,Cv 値が大きすぎる又
図 12. 圧力比 xF の確認
4.3 Cv 値計算(水/蒸気)
形番
(接続口径,
調節弁の容量は一般に Cv 値で表され,
定格 Cv 値)を決めるには与えられた流体条件から必要
Cv 値を計算して選ぶことになる。
(1)通過する流体が水の場合
(6)
式に示す。
水の Cv 計算式を
は不足した場合には,その前後の定格 Cv 値の調節弁の
x T 値を用いて繰り返し Cv 計算を行う必要があるため
非効率である。
バルブ選定用ソフトウェアでは,図 14 に示すとおり
流体条件である流量,1 次側絶対圧力,2 次側絶対圧力
を入力するだけで x T 値を意識せずに複雑な蒸気の Cv
値計算を効率的に行うことができる。
— 86 —
蒸気弁の差圧比係数の検討及びバルブ選定用ソフトウェアの開発
5. おわりに
(1)差圧比係数について,CFD と実流試験の結果が良
く一致することがわかった。その結果,実流試験が困難
な口径の調節弁においても,CFD により差圧比係数を
求めることができた。
(2)バルブ選定用ソフトウェア
(AVALS)
により,使わ
れる用途に応じて,難解な計算式を意識せずに,当社で
ラインナップしている調節弁の中から最適なものを選
択することができる。
このため,設計や現場などで調節弁を選定する際の強
力な味方になり,選定や仕様確認のための時間を大幅に
削減する。
当社の調節弁を選定する際には,是非ともご活用いた
だきたい。
図 14. Cv 値計算画面例(蒸気の場合)
4.4 検索結果
図 15 に計装アプリケーション,アクチュエータ仕様
及びバルブ仕様の各項目を入力し,検索した画面結果を
示す。破線枠で囲った部分が調節弁の機種を絞り込んだ
結果である。絞り込んだバルブ及びアクチュエータの詳
細な仕様が表示される。グレー表示にて選択している形
番を明示し,写真で製品イメージを表示する。
図 15. 検索結果画面例
— 87 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
<参考文献>
(1)Fluid Controls Institute Inc.:Recommended
voluntary standard formulas for sizing control
valves, FCI 62-1
(1962)
(2)Industrial-process control valves – Part 2-1:Flow
capacity – Sizing equations for fluid flow under
installed conditions, IEC 60534-2-1
(1998)
(3)Flow Equations for Sizing Control Valves, ANSI/
ISA-S75.01
(1985)
(4)工業プロセス用調節弁-第 2 部:流れの容量-第 1
節:取付け状態における流れのサイジング式 , JIS
B 2005-2-1
(2005)
(5)石塚:調節弁の流路形状と差圧比係数 , Savemation
Review
(1983)
, Vol.1, No.2, pp.48-56, 株式会社 山武
(6)工業プロセス用調節弁-第 2 部:流れの容量-第 3
節:試験手順 , JIS B 2005-2-3
(2004)
(7)工業プロセス用調節弁-第 8 部:騒音-第 2 節:調
節弁の液体流動騒音の実験室における測定 , JIS B
2005-8-2
(2008)
(8)Industrial-process control valves – Part
8:Noise considerations – Section 2:Laboratory
measurement of noise generated by hydrodynamic
flow through control valves, IEC 60534-8-2
(1991)
<商標>
SCRYU/Tetra は,株式会社ソフトウェアクレイドルの
商標です。
AVALS は,株式会社 山武の商標です。
アクティバルは,株式会社 山武の商標です。
<著者所属>
野間口 謙雄 ビルシステムカンパニー 開発本部開発2部
佐藤 慶大 ビルシステムカンパニー マーケティング本部
プロダクトマーケティング部
新谷 知紀 ビルシステムカンパニー 開発本部開発2部
加藤 瑞樹 ビルシステムカンパニー マーケティング本部
国際マーケティング部
大矢 公紀 ビルシステムカンパニー マーケティング本部
国際マーケティング部
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蒸気弁の差圧比係数の検討及びバルブ選定用ソフトウェアの開発
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azbil Technical Review 2011年1月発行号
社内試作部門の工程管理システムの開発
— 見える化の促進とデータベースリンク —
Development of a Process Control System for a Trial Manufacturing
Department
– Acceleration of Visualization and Data Utilization by Exchanging Databases Links –
福辺 卓史
株式会社 山武 Takashi Fukunabe
佐藤 一太郎
株式会社 山武 Ichitaro Satoh
キーワード ラピッド試作,見える化,データベース,QCD の向上
当社の開発試作部門では社内向けに試作品提供を行っている。その依頼方法として社内イントラネットに接続
している PC からいつでも,どこでも,依頼ができ,依頼品の進捗確認ができるシステム「ラピッド e- システム」
を構築した。このシステムの仕様は固定化されたものではなく,常に作業にあわせて変化していくものとしてい
る。その概要について報告を行う。
Our development and trial manufacturing department provides a prototype production service within the
company. Additionally, we have established“Rapid e-System,”a prototype production request system that
enables our clients to make requests and monitor the progress of the requested prototype production from
anywhere at any time through PCs which are connected to our Intranet. The specifications of this system are
not fixed but designed to be always changeable according to actual operation. This paper gives an overview of
the system.
1. はじめに
そこで我々は,スピードに着目した工程管理システム,
当社の開発試作部門では,図 1 に示したミッション
「ラピッド e- システム」を開発したので紹介する。
に基づき商品開発のスピードアップに貢献すべく「ラ
ピッド試作」と名付けた社内向けの試作サービスを行っ
ている。その内容は機械加工にはじまり,組み付け,
はんだ実装に至るまで広く行っている。この試作サー
ビスは当初,紙で受付や費用処理を行っていた。その
ため,依頼者は試作するたびに事務所へ行かなければ
ならない状態であった。さらに,わざわざ他の事業所
から依頼に来るケースまで存在した。また,試作をす
るたびに帳票を作成し,実績を集計システムに投入す
る作業を行っていた。工程設計は担当者の勘と経験に
頼っていたため,作業者各人及び設備の負荷状況を把
握できておらず,その結果として納期回答の返事は「で
きると思います,がんばります」など,あいまいな表
現になっていた。そのような納期回答ではミッション
である商品開発のスピードアップには貢献できない。
— 90 —
Mission
商品開発における試作品の提供を顧客視点
に立ったスピード感を持って行う事により、
モノづくり力による製品創出「商品力」
強化支援を行う。
【モノづくり力】
● 材料、加工・工法( 試作〜量産試作 )に関する製品提供
● 治工具・金型に関する製品提供
●設備設計・製作に関する製品提供
図 1. 開発試作部門のミッション
社内試作部門の工程管理システムの開発
2. システム導入前の課題
③ 試作業務及び試作業務にかかわる業務を改善するこ
とが目的であるので,
まず,システム導入前に改善のための業務分析を行っ
1)試作業務の運営管理
た。そこで以下の問題が判明した。
2)システムの構築
3)その時々にあわせて表示を変える
(1)依頼した製作物の進捗状況が判らない
が同時に実施できるシステム
① スケジュール
② 進行状況など
ハードウェアは,1 台のサーバーマシンで web サー
(2)全体の実状(人,設備)が見えず正確な計画が立てら
れない
バーとデータベースサーバーを共有する構成にしてい
① 同じ日に処理できない負荷を計画してしまう
る。そのサーバーに各クライアント PC がアクセスする。
② 優先順位を付けた計画が立てられない
システムのカスタマイズなどは権限を持ったユーザー
③ 計画が限られた人しかできない
がクライアント PC からシステムにログインして行う
ことでシステムの安全性を確保している。
(3)タイムラグ
① 依頼を紙で行っていたので,実際の計画への反
映に時間がかかる
5. システム詳細
3. 開発コンセプト
図 2 はシステム全体の概念図である。
開発にあたり,コンセプトを「web 上でいつでも,
どこでも,リアルタイムで依頼と進捗確認ができるシ
ステム」とした。
(1)スピードの実現
① 依頼者(開発部門)の希望納期の実現
② 試作部門に持ち込まれる特急依頼に柔軟に対応
(2)顔が見えるシステム
① 誰が担当,加工,試作
② 不明な点は直ぐ相談(誰からの依頼か?)
(3)過去のデータの有効活用
① 製作手順
図 2. システム全体図
② 段取り
③ 加工条件
5.1 ラピッド e- システム
④ 過去の失敗事例
まず基本システムである「ラピッド e- システム」に
(4)依頼者へのフィードバック
① 試作時の作業のやり易さやコメントを設計者に
フィードバック
ついて紹介する。
依頼者からの依頼登録,工程設計,工程進捗管理,
工数集計など図 2 の枠で囲まれた機能を持っている。
また,このシステムはメール発信機能もあり,依頼に
4. システムの構築 対しての受注受付,製作完了時にメールがリアルタイ
一般にこのような業務に関するシステムは,業務を
る。図 3 はラピッド e- システムの依頼一覧を表示させ
充分に分析してから構築されるものである。このよう
た画面であり,進捗状況が優先的に表示されるように
なシステムは業務を標準化してそれに沿ってシステム
なっている。
ムに発信されるので,依頼者が状況を知ることができ
が作成される。一度標準化され,システム化された業
務内容は逸脱が許されない。しかし,常に業務改善を
行なっているため,システムもそれに従って追従させ
ていく必要があった。
その要件を以下に記す。
① 依頼者の方と我々がイントラネットを通じて同じシ
ステムを利用して受発注でき,お互いの情報を web
上でかつリアルタイムに見ることができるシステム
依頼者情報
② ユーザーが自ら開発及びカスタマイズして使用でき
るシステム
依頼内容
工程進捗情報
図 3. ラピッド e- システムの画面イメージ
— 91 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
5.2 負荷管理システム
不具合対策システムを活用した品質向上アクション
負荷管理システムは,
のフローを以下に記す。
1. 不具合が発生し,発生担当者が本システムに内容を
1:誰が
登録する。
2:いつ
3:どの依頼で
2. 内容をみて品質担当者が緊急度を設定する。
4:どの設備を使用するか
3. 発生担当者が対処法を記載し,対策案の納期を品質
を“見える化”するためのシステムである。それによ
り人と機械の過負荷や重複を解消している。なお,負
荷管理システムはスケジューラのように「何時から何
時まではこの設備を使用する」といった管理はしてい
ない。「この日に何時間この機械を使用して行う」と
担当者が設定する。
4. 発生担当者が対策案を記入し,品質会議にて内容が
討議される。
5. 品質会議にて対策案承認後,全員に連絡。対策喚起
の掲示物などが行われる。
いった管理である。生産部門ではなく試作部門である
ために,依頼ごとに作業内容が異なる。優先順位も刻々
また,本システムはラピッド e- システムとリンクし
と変化する。そのため,ある程度の作業予測は付くが,
ており,ラピッド e- システムに登録されている情報を
完全にスケジューリングすることはできない。
自動的に読み込み,データとして蓄積していく。作業
そこで導入したのが,「ゆるやかな管理」である。工
者や工程設計者は,困ったときに,データベースを検
程設計者と工程担当者が随時コミュニケーションを取
索することで,過去の事例を参照し,判断の参考とす
り,作業と設備使用の優先度を決めている。この管理
ることができる。
方法は再計画が容易でやりやすく,緊急対応が入って
きた場合に速やかに他の依頼の再計画を含めて対応が
5.4 ツール管理システム
できる。図 4 が負荷管理システムの画面である。
ツール管理システムは先述の課題としてあげられて
いないが,試作品提供のスピードアップを目的に作っ
たシステムであり,探すムダ,在庫のムダを減らすこ
とができるものである。
当社の試作部門では,工具も“見える化”するため
に工具(刃具)を共用化してきた。
しかし「何がどれだけあるか」が把握できていために,
この依頼品加工に必要な工具があるのかないのか,工
具の状態はどうなっているのか,現物を確認するまで
分からなった。場合によっては在庫品があるにも関ら
図 4. 負荷管理システムの画面イメージ
ず購入してしまい,なおかつ納品されるまで加工が止
5.3 不具合防止データベース
まってしまう事例も多くあった。
試作の手戻りをなくしスピードアップに貢献するた
加工現場での探すムダを解消するために,全工具を
めに,不具合防止データベースを構築した。
棚卸し,システムに情報を入力し,管理している。シ
このシステムは,過去の失敗から学べるよう,
「いつ,
ステム上ではすべての工具が
誰が,どの工程で,どの設備で,どの依頼で,どのよ
1. 保管場所
うな不具合を起こしたか」を記録するのにとどまらず,
2. 使用可否
対処方法やその結果を記録している(図 5)。
3. 使用中かどうか,また誰が使用しているか
などが図 6 の画面イメージのように表示され容易に確
認できる。また,他の依頼で使われたくない場合は使
用予約もできるので,自分が使うときになってすでに
破損していたなどという問題も回避できる。
工具発注もこのシステムの情報を活用しており,在
庫種・量の適正化など在庫管理に役立てている。
不具合品情報
原因・現象
対策進捗状況
図 5. 不具合防止データベース画面イメージ
— 92 —
社内試作部門の工程管理システムの開発
6. まとめ
今回紹介したシステムにより,商品開発のスピード
アップに貢献してきており,その件数は年々増えてきて
いる
(図8)
。
このシステムは使用者自らが考えて構築して運用し
ており,スピードの観点から常に改善を行ってきている。
現在は,依頼前に費用と納期を事前に知りたい,と
いう要求にスピーディに応えるため,web 上で使用で
きる簡易見積もりシステムなどを検討中である。
今後とも他にないスピードで商品開発に貢献できる
工具種類
工具保管場所
工具情報
型番 , メーカー ,
径 etc.
よう,
予約状況 ,
使用履歴
1:QR コードによる工程進捗管理
2:ネットワーク化による現場改善
など新機能の追加・既存機能の改善を進めていく予定
図 6. ツール管理システム画面イメージ
である。
5.5 材料在庫管理システム
通常試作に使用する材料はその依頼にあわせて都度
購入している。大きめの材料から削りだすと費用と時
間が余分にかかってしまうためである。
しかし,スピード対応をミッションとしている社内
件数
試作部門としては,材料の入荷を待てないほど急ぎの
試作対応や不具合のリカバリーを行うために,敢えて
材料の在庫を保有している。
しかし在庫を持つということは,同時に探すムダな
2006 上
どの各種ムダを発生させる危険性がある。そこで,材
2007 上
2006 下
料在庫管理システムを構築,新規購入品だけでなく,
2008 上
2007 下
今まで放置されていたものや,端材を含めて材料在庫
2009 上
2008 下
2009 下
図 8. 依頼件数の推移
が管理された状態を作り上げた(図 7)。
<参考文献>
(1)鈴木康平,佐竹喜悦,高谷浩志,高橋静雄:成形・
金型モデル化工場における高度デジタルネット
ワークの先進的活用,成形加工シンポジア(2005),
pp. 243-246.
<著者所属>
図 7. 材料在庫システム画面イメージ
福辺 卓史
技術開発本部 工程開発部試作技術グループ
画面イメージに示すように,材質・形状・在庫寸法 ( サ
佐藤 一太郎
イズ ) が一覧できるようになっている。
工程開発部試作技術グループ
短納期の相談が来たときには,その場で材料在庫を
確認,必要に応じて素材の変更ができ,材料調達期間
を省略,一層のスピード対応に貢献している。
さらにこのシステムそのものを web 上で社内にも公
開しているので,依頼者が事前に材料を確認して依頼
時に指定することもできる。急ぎの場合には設計者が
在庫から材料を指定することで,大幅な時間短縮をす
ることが可能となっている。
— 93 —
技術開発本部 azbil Technical Review 2011年1月発行号
開発現場の主体的活動による
プロセス支援システムの開発
−プロジェクトへの外乱を含めた計画管理・実施と現場意識の向上 −
Construction of a Process Support System Through Independent
Activity at a Software Development Site
- Project management that allows for interruptions; on-site consciousness-raising 株式会社 山武 ビルシステムカンパニー 多田 朋之
Tomoyuki Tada
キーワード 開発業務改革,プロセス支援システム,開発現場中心 ,外乱対策 ,計画管理と実施 ,開発業務の見える化 ,
共同作業推進 ,協力会社協調 ,品管部協調
新製品開発中に過去製品の保守に追われる「負のサイクル」からの脱出を目的として,開発担当者が自分達の
問題と真に向き合い 「開発現場」 に中心を置いた主体的な改善活動を他部署と共同実施した。
要因・課題分析の結果いくつかの施策を提起し,その具現化のための手段として開発現場が独自に「プロセス
支援システム」を開発・構築し,実プロジェクトへの適用を行った。その結果「負のサイクル」からの脱出に有
効な手段であることが確認できたので,本活動で抽出した課題と解決策,本活動と構築したシステムの特徴,お
よびその効果を報告する。
To escape the negative cycle that can occur in software development when the maintenance of past products
interrupts the development of a new product, bottom-up improvement activities were held throughout the
software development section.
As a result, We developed and built a process support system and started trial use on actual projects. This
article describes the problems encountered, their solutions, and the process support system achieved through
these activities.
1. はじめに
の土台(環境・意識)づくり」が必要との考えに至った。
長年組込み系のコントローラソフトウェア開発に従
グで,かけるべき時間をかけて正しく実施するための
事し,関連したプロジェクトの中で数多くの手痛い失
環境・意識」ともいえる。
敗経験を積んできた。この貴重な経験を活用し負のサ
なお,本活動の 1 つの特徴として「プロジェクトへの
イクルからの脱出を目的として,約 1 年前に社内開発
外乱対策」がある。プロジェクトに関わっている各担当
メンバーと協力会社とが協調して品質改善活動を始め
メンバーにはそれぞれ個別の複雑な背景(環境・風土・
た。本活動には以下特徴がある。
歴史・性格)があり,その状況に応じて各種外乱を受け
この「土台」とは「やるべきことをやるべきタイミン
る。その結果「計画の立案と実施」や「担当者の意識」に
・ 開発現場/担当者主体・中心のボトムアップ活動
も影響を与えていることが再確認され,プロジェクト
・ 自分達の問題として課題に向き合う
進行中の外乱認識・対策が必須との見解に至り各種施
・ 協力会社,品管部署,その他部署と協調して活動
策を実施した。
・ 外乱を含めた計画管理,個人作業の見える化
さらに,本活動の成果として開発業務を包括するプロ
・ 実開発担当者による開発支援 Web システムの構築
セス支援システム(Web 共同作業システム)がある。
「自
分達の手で素早く作り,実現場に合うものに育てる」を
当初,通常の品質施策(ナレッジ整備,CASE ツール
指針に,実開発業務の傍ら作業を進め,実際のプロジェ
導入など)を地道に行っていたが,現状分析,議論を進
クトに適用しながら効果を検証し改善を進めた。本シス
めていく中で,まず「個々の品質向上施策を生かすため
テムは構築そのものが元々の目的ではなく,各種課題を
— 94 —
開発現場の主体的活動によるプロセス支援システムの開発
解決する手段として「必要に迫られ生まれてきた」も
またリーダー,管理者からすると計画の進捗状況が
のであるため,真に現場で使えるシステムへと成長し
正確に把握できないため,管理(指示,助言)するタ
ている。
イミングを逸することがある。これは進捗状況の報告
なお,本論文の中で掲載しているシステムの画面/
がリアルタイムでなく,かつ悪い状況を出すことを避
イメージ図はプロト版の物を使用しているため,運用
ける意識にも要因があることを確認した。
版の画面とは異なる。
2.3 外乱
2. 要因概略分析
プロジェクト担当者が受ける各種外乱(定常,保守,
実担当者の作業時間計測,業務観察,ヒアリングな
動時間が取れず,開発が計画通り進まない状況が発生
どを実施し,「負のサイクル」の発生要因を図 1 の連関
している。定常業務,保守業務共にある程度発生工数
図にまとめた。その結果「計画が悪い」,「製品の品質
を予測することは可能だが,その予測工数は概して楽
が悪い」の 2 つを主要因として取り上げ,その要因を「計
観的な工数となっている場合が多く,開発業務を圧迫
画の立案」「計画の実施」「外乱」「担当者の意識」の 4
している実態が確認された。
つのカテゴリに分類した。4 つのカテゴリ毎に要因の概
また開発業務を優先させ保守業務を滞らせた結果,
略説明を行う。
クレームに火が付き客先報告なども含め余計な工数が
突発業務など)により,新製品開発に計画していた活
発生している実態も確認された。
2.1 計画の立案
元々業務を始める前に計画する習慣がない担当者も
2.4 担当者の意識
いるが,市販ツールなどを使用して計画する習慣が
担当者の意識低下が計画の実施に影響を及ぼしてい
ある担当者でも経験不足でタスクの時間見積もりが悪
る実態を確認したが,その要因は様々で個々人によって
かったり,作業項目を洗い出せていないなど計画自体
も大きく異なっていた。例えば担当者が個人作業に注力
が悪い実態を確認した。
してしまうことで,得意分野や簡単な作業を優先してし
まうことや,早期の「気付き」がないことでの重大な手
2.2 計画の実施
戻りが発生している実態を確認した。
担当者が多忙になるとやるべき作業を見失うことが
本活動では「主体性の低下」「個人作業中心」「品管
多い。これは今やるべき作業が優先度などを含めて整
部門の参画度」「設計コンテンツ(プロセス・チェック
理して管理されていないことや,各種外乱の影響も大
リストなど)が使える物になっていない」の 4 つに要
きいことを確認した。
因を絞って検討した。
図 1. 要因連関図
— 95 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
3. 要因詳細分析とその対策
3.2「計画の実施」要因と対策
図 1 の要因連関図内の点線で囲まれた 4 つのカテゴ
( 1 ) 要因詳細分析
リ毎に詳細要因の分析とその対策を述べる。
計画は立てても主要マイルストーンだけに注力し詳
なお,抽出した各種対策を実現するためにプロジェ
細工程が「絵に描いた餅」になっている傾向を確認した。
クトメンバー(協力会社含む)が共同で使える Web シ
また開発担当者は責任感などから遅れを見せたがら
ステム(プロセス支援システム)を構築したので,本
ない/根性で挽回しようとするなどの傾向もあり,プ
章では対策毎に本システムに実装した機能についても
ロジェクトの進捗状況を他メンバーがリアルタイムに
述べていく。
把握することは困難である。
さらに担当しているプロジェクトが複数同時に進行
3.1「計画の立案」要因と対策
しているような場合,実担当者に対して情報を提供し
( 1 ) 要因詳細分析
過ぎると,注意力がなくなりやるべき作業を見失う傾
社内規定では最低限実施すべきプロセス(タスク)
向も確認した。
が標準化されているが,経験の少ない開発担当者や新
規協力会社(派遣/請負)担当者が作業する上で必要
( 2 ) 対策①:計画そのものを共同更新する仕組み
なタスクの漏れがあることを確認した。
計画を絵に描いた餅にせず,かつ確実な進捗管理が
できるよう,計画・定義したプロセス(WBS)
・工程そ
( 2 ) 対策 :プロセス一覧を作成し計画の漏れを防ぐ
のものをメンバーが共同でリアルタイムに更新してい
実業務分析から詳細プロセスを開発フェーズ毎(設
く仕組みとした。これにより計画の確実な実施と正に
計,製造,試験など)に再抽出し,それを本来あるべ
「現在の仕事場」を覗くような感覚で直感的に進捗状況
を確認でき,リスク検知もできるようにした。
き姿に調整し準備した。
図 4 は各詳細プロセスの作業状況画面抜粋である。
「状況」として「未実施/着手 ( 進捗率 ) /完了/対象外」
があり,各プロセスの担当者がそれぞれ共同で更新し
ていく。プロセス完了時には完了認可が必要なプロセ
スも定義可能で,さらに本実施状況が上位のプロジェ
クト画面で工程毎の進捗表示に反映される。
図 2. プロセス一覧画面抜粋
さらに,プロジェクト進行中に担当者が独自に必要
と考えたプロセスを「テンポラリプロセス」として登
録可能とし,該当プロジェクトのフィードバック工程
にて有効なテンポラリプロセスをマスタープロセスへ
展開できる仕組みを持った。
図 3 は本システムのプロジェクト一覧画面である。
各プロジェクトの工程ボタン(仕様,設計,製造など)
図 4. 詳細プロセスの作業状況画面
を押すことで,そこで定義されている詳細プロセスが
表示される。本図 2 詳細プロセスには担当者が独自に
( 3 ) 対策②:担当者毎に必要な情報のみ提供する
追加したテンポラリプロセスが存在している。
プロジェクト管理画面で計画された全情報から,各
担当者が関わっている作業のみを抽出し個人作業情報
として提供(見せる化)する。担当者は自分がやるべ
き作業を明確に意識することができ,さらに個人作業
を実施・完了させていくことで,プロジェクト管理画
面側に反映される仕組みとした。
プロジェクト管理画面
個人作業抽出
状況更新
選択してマスター
プロセスに反映可
図 5. 個人情報抽出イメージ
図 3. テンポラリプロセス追加イメージ
— 96 —
個人作業画面
開発現場の主体的活動によるプロセス支援システムの開発
3.3「外乱」要因と対策
目標工数などを設定することで,各個人の計画に反映
されるシステムとした。
3.3.1 外乱が計画に入っていない
(実画面は大幅更新中のためここには掲載しない)
( 1 ) 要因詳細分析
本機能では同時に複数の他メンバーに期限付で業務
開発担当者はプロジェクト進行中に様々な外乱(定
を設定可能とし,確実に担当者自身の計画に盛り込ま
常業務,突発業務,保守作業など)を受けている実態
れるよう運用付けている。ただしこのとき他メンバー
を作業時間計測から確認した。無尽蔵に時間が使えた
への作業投入は必ず事前(事情により事後)に口頭に
時代とは違い開発業務にかけられる時間自体が限られ
て状況・背景などを説明することを徹底し,関係者間
てきている中で,外乱が多発するとプロジェクトメン
の関係が悪化しないよう留意している。
バーは外乱中心の作業形態となり真のプロジェクト作
業に使用する時間が僅かとなる。
3.3.2 処理が滞り余計な作業が発生する
メンバーの作業時間計測結果(図 6)からも,発生す
( 1 ) 要因詳細分析
る外乱の多くが実際より小さく見積もられていること
調査依頼などが多発した場合,いくつかの「クレーム」
や,結果的に「プロジェクトにかけるべき時間」が確
に対して処理を停滞させてしまうことがある。処置に
保できなくなっている実態が確認された。
長時間を要した客先クレーム処理状況を調査した結果,
処理期間が長くなるほど最終処理の工数が増大する傾
向が見られた。これは処置に時間が掛かった理由を含
45
40
めた社内外への調査報告書作成,客先訪問(陳謝)な
35
どの時間が多々発生するためである。
30
予定
実績
25
20
また実製品の調査・問合せ状況を観察した結果,正
式に発行管理されない非公式な情報が実際には多く,
15
10
その中に重要な情報があることも確認した。さらに各
5
種問合せに関して社内見識者に協力を仰いだ結果,即
0
PJ 個人作業
PJ 全体作業
保守
定常業務
解決する事例もいくつか見られた。
図 6. 作業時間計測結果
また外乱は特にプロジェクトキーマン(主担当者/
正式な調査・問合せ件数
非公式な調査・問合せ件数
非公式な問合せが重大クレームにつながった件数
リーダー/見識者)に多く発生するが,キーマンの性格,
責任感,マンパワーなどで外から見えなくなっている
社内見識者に問合せることで解決した件数
ことが多く,そのようなキーマンが参画しているプロ
ジェクトでは,将来への負債が日々作り込まれている
表 2. 調査・問合せ種別件数(5 ヶ月間)
可能性(リスク)もある。
( 2 ) 対策:外乱への迅速な対応
非公式な情報も含めた調査・クレーム管理機能をシ
ステムに持ち,品質保証部,開発,協力会社が協調し
て使用することで迅速に分析,回答できる処理フロー
とした。また製品作成時に作成者が気付いた製品内在
リスク(特殊環境下での稀な障害など)を自由に登録
できる画面も用意し,先での有効なナレッジとして蓄
積できるようにした。
さらに,調査依頼が投入された時点で製品種別毎に
3 プロジェクトを抱えていた場合 ,
1 プロジェクトあたり 20H/ 月となる。
登録された見識者に対して「お伺い」通知を行う仕組
みの実装も進めている。
品管
図 7. 外乱による稼働時間の消失イメージ
開発
既存のパス
( 2 ) 対策:外乱を精度良く計画に盛り込む
協力会社
外乱
管理
DB
社内見識者
お伺い通知
新たなパス
予測不能な外乱管理(保守・リスク・課題管理)と
予測可能な外乱管理(庶務,定常業務など)をシステ
ム内に持ち,外乱発生時に関係者が,担当者・目標期限・
図 8. 調査・クレーム管理フロー概略
— 97 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
3.4 「担当者の意識」要因と対策
3.4.2 個人作業中心になっている
3.4.1 設計コンテンツが使えない
( 1 ) 要因詳細分析
( 1 ) 要因詳細分析
自分の興味のある作業,得意な作業,簡単に片づけ
チェックリストは存在するが体系化/棚卸されてい
られる作業などを優先・注力した結果,重要な作業の
ないため,ルール上使用はしているがほとんどがチェッ
放置などの悪状況が発生していて,品質低下,業務遅延,
クするだけの作業となっている実態と,各成果物が作
手戻り発生要因のひとつとなっていることを確認した。
成された後にチェックする工程となっているため,せっ
また「作業抜け/忘れ」は担当者のみならず作業依
かく良い指摘が出ても手戻りを避けるための言い訳作
頼者にも「催促する,叱る」など精神的負荷になって
業(理論武装)に工数と知力を使用している実態を確
いる実態も確認し,チーム力の低下につながる可能性
認した。
も無視できないと考えた。
これらの要因を「個人作業中心の仕事の仕方」にあ
( 2 ) 対策 :設計コンテンツを見直し活用度を高める
ると捉え,その結果「自己管理力の低下」や「気づき
チェックリストを「該当部署の文化・風土」「製品の
の低下」などを招いていると考えた。
持つ特性」に合わせることで実担当者・開発現場が真
に使えるものに変更した。具体的には該当製品の成功・
( 2 ) 対策 :個人作業の見える化と共同作業の推進
失敗(障害)事例と見識者の経験知を集約しガイドラ
自己管理力強化のために,開発担当者が今やるべき
インという形へ変更し,各詳細プロセスにガイドライ
こと,優先度,現在の状況,先の時間(空き)状況,
ンをリンクでき,かつ本ガイドラインを誰でも簡易に
を常に把握するための「見える化機能」をシステムに
育てられる(追加・変更できる)システムとした。
追加した。具体的にはプロジェクト管理,外乱管理,
また成果物完成後にチェックする手順から成果物作
定常業務管理の情報を統合し,そこから各個人の作業
成各開始前/作成中に確認する手順へ変更し,ベテラ
を抽出した「見える化/見せる化」機能と,注意喚起・
ン/リーダーと実担当者が共同で確認する場を設ける
通知する機能を実装した。またプロジェクト/定常/
ことで,気付きを誘発し,同時に指導・教育・技術継
保守の作業比率を予定と実績でグラフ化する機能の実
承を実践する機会を創造できる仕組みとした。
装も進めている。
さらに,共同作業の推進のため,システムの画面を
一緒に見ながら計画の立案,実施,各種成果物のチェッ
仕様書
設計書
手順書
実態に合わない
チェックリスト
ク,課題管理を行う運用を提起した。本システムを介
すことで,会って対話する共同作業の場を創造し活性
化と気付きの誘発を狙っている。
(実画面は大幅更新中のためここには掲載しない)
仕様書・
設計書・
手順書
マルチ PJ
できたものをチェック
→ 理論武装、言い訳作業
定常業務
外乱
使える形に変更
個人の今日・今週・今月の作業抽出
図 10. 外乱も含めた個人作業予定の見える化
仕様書
設計書
手順書
ガイドライン
(勘所集)
保守 30%
作りながら
確認
⇒
リアルタイムレビュー
追加・変更が容易
プロジェクト
50%
仕様書・
設計書・
手順書
⇒ 個人の気付き
定常業務 20%
成果物の質向上
レビューの効率化
図 11. 作業配分比率表示例
図 9. チェックリストからガイドラインへ
— 98 —
開発現場の主体的活動によるプロセス支援システムの開発
4. プロセス支援システム概略紹介
3.4.3 品管部門の参画度
( 1 ) 要因詳細分析
近年,品管(品質管理)部門からの新たな品質メト
抽出した各種課題に対応するために,プロジェクト
リクス収集など各種施策が増えているが,開発担当者
メンバー(協力会社含む)が共同で使える Web システ
にとってはせっかく効果のある施策であっても「やら
ムを自分達の技術力を使って簡易に構築した。現在は
され感」が拭えず「(心理的な)外乱」となっている実
プロト版試行からのフィードバックを得て改訂した実
態を確認した。要因として品管部門と開発部門の協調
用版を試行中である。
体制の弱さを指摘する声がいくつかあった。
以下に本システムの特徴的な点をまとめておく。
・ 共同作業 Web システム(PJ メンバ,協力会社)
( 2 ) 対策 :品管との共通プラットフォームの作成
・ プロセス中心(PJ 中心)& 担当者中心
品管部門と開発部門・協力会社が共同で使用できる
・ 外乱管理(保守・定常業務)を実装
プラットフォーム作りを実施した。具体的には品管部
・ 各種通知・アラート機能を実装
門と共同で検討し合意した品質メトリクス値(作業工
・ 個人の作業負荷計測,個人作業の見える化
数,レビュー結果,障害検出件数など),発生した課題
・ メトリクスの収集・計測・見える化
などを,開発担当者が各プロセス実施中にタイムリー
・「現場/実態」にシステムを合わせる→使える
に入力でき,特定プロジェクトもしくは全プロジェク
・ 内製化によるランニングコスト低減,変化追従
トの情報として各種視点で表示/出力可能とし,品管
部門も能動的に収集可能とする機能を設けた。
web サーバー
MKT
ドキュメント
・・・
PM
QM
開発担当者 開発担当者
図 13. システム構成図
図 12. プロジェクトメトリクス設定・収集イメージ
3.4.4 主体性,参画性の低下
( 1 ) 要因詳細分析
業務のマニュアル化,多忙状態などにより開発担当
者が受動的な姿勢になった結果,自ら何かを作り出す・
考える力が弱まり,成長感,達成感,参画意識の低下
を招いているとの意見が多数あった。
( 2 ) 対策:プロセスの主体的な選定,自律的な実施
開発担当者が自ら開発モデル(ウォーターフォール,
スパイラルなど),詳細プロセスなど仕事を設計・立案
できるシステムとし,主体的・自律的な運用を権利(義
務)付けた。実際にはベテラン/リーダーなどと共同
で,標準(マスター)プロセスから詳細プロセスを選
択し「仕事をデザイン」していくが,あくまで主体が
担当者本人となるよう運用を徹底している。
図 14. プロセス支援システムの両面構成概略
— 99 —
協力会社
azbil Technical Review 2011年1月発行号
その他の有効な機能を抜粋して紹介する。
5. 効果検証
( 1 ) フォローアップシート管理
現在,試行結果からシステムを改良し実プロジェク
BSC 開発本部では各種レビュー,打合せなどで発生
トへの適用を再開した段階のため,定量的な効果検証
したアクション事項を「フォローアップシート」とい
までは至っていないが,使用者の定性的な意見も踏ま
うフォームで管理しているが,シートが増えるとアク
えその効果の一部を述べる。
ション項目の見通しが悪くなりアクション項目が滞り
がちとなる問題があった。本システムではフォローアッ
( 1 ) 自己管理力・計画の立案・実施が強化された
プシートの一元管理を実現している。
ある程度のボリューム/難易度のある作業・課題が
具体的にはシステム内にフォローアップシート作成
発生した際に,まず計画・登録(着手予定,期日,担
機能を設け,プロジェクト毎,担当者毎に残件表示,
当者)することが,該当作業/課題の解決,納期順守
アラート通知,認可通知など行っている。
につながることを真に体感できた。その結果メンバー・
協力会社担当者共に,計画してから作業する習慣がつ
( 2 ) ボトルネックアラート機能
いてきている。
特定個人の負荷状況などによりプロジェクトのアク
ション項目が放置された場合,該当担当者によって該
( 2 ) 保守作業の迅速な対応が可能となった
当プロジェクトが大きな影響を受ける。この対策とし
外乱管理機能を品管・協力会社と協調して試行した
てプロジェクト毎にフォローアップシートの残件担当
結果,公式・非公式な調査依頼への迅速な回答が実現
者が 1 名/ 2 名になった場合,該当担当者にボトルネッ
できている。特に当社キーマンがいなくても品管と協
クになったことを通知する機能の実装を進めている。
力会社間で情報が伝わることで,解析着手までの時間
が大幅に短縮されている点の効果が大きい。
( 3 ) 週報,月報機能
個人作業リストなどから,週報,月報としてまとめ
( 3 ) メトリクス収集が容易になった
て表示,出力可能とする機能の実装を進めている。
プロセス実施毎に確実にメトリクスを記録する作業
本リストを見ながらチームミーティング,グループ
が習慣化され,開発担当者は各フェーズ終了時にメト
ミーティングなどで実績アピール,状況確認,助言/
リクス収集に奔走する必要がなくなり,品管部署は本
対策が可能となる。
システムにアクセスすることでタイムリーに品質状況
が確認(監査)でき,機会を逸せずにプロジェクトへ
( 4 ) ユーザーステータス機能
の助言/指導などが実施できることを一部メンバーの
今日の自分の状況(負荷/精神状態),居場所,帰宅
試行を通し確認した。
予定時刻,Twitter などが入力でき,チーム・プロジェ
クトメンバーでの情報共有と活性化を図る。
( 4 ) 教育効果が出ている
状況を長期でグラフ化し個人へフィードバックする
ガイドラインには実例なども掲載されているためそ
機能も作成予定である。
の運用に際しリーダーや担当者間での対話が活性化さ
れ,気付きなどの付帯効果が確認されている。実担当
者からも教育効果が高いとの感想が出ている。
( 5 ) 活性化されてきた
開発業務の見える化により個々人の作業状況が透明
化されたことでメンバー内での対話が増加している。
また課題管理,チームステータス機能などにより共同
作業の比重が高まってきている。
図 15. ユーザーステータス登録画面
( 6 ) 運用意識が高くなってきた
( 5 ) 課題管理
システムを実担当者主体で構築したことで,開発担
プロジェクト/製品/保守などに絡んだ各種課題を
当者自身の運用意識が高く,かつ「計画を作ること自
管理する機能を持つ。現在の担当者(ボールのありか),
体が安心につながる」ことを体感したことでさらなる
期限管理,課題解決までの履歴,各種通知機能を実装し,
運用の促進につながっている。また開発・運用コスト(ラ
確実に課題が解決・消化される仕組みとしている。また,
イセンス費)の低減,社内規定など変化への追従,社
リスク管理機能のリスクが顕在化した場合,該当案件
内システム・品管との連携,などが容易で,このあた
を課題管理へ移行する機能の実装も進めている。
りにも市販ツールとは違う優位性がある。
— 100 —
開発現場の主体的活動によるプロセス支援システムの開発
6. おわりに
メリット,それにより解決される課題,期待される効
「負のサイクル」からの脱出を目的として「開発担当
担当者の実作業の省力化(効率化)にも寄与することで,
者が自分達の問題と真に向き合い」主体的な品質改善
負のサイクルからの脱出はもとより,ライフワークバ
活動を実施し,その成果として「プロセス支援システム」
ランス向上にも貢献できるプラットフォームになるよ
を構築・試行した。
う注力することが重要であると考えている。
果,目的,などが真に伝わるよう努めると共に,開発
その結果,Web システム上でプロジェクトメンバー
が共同で「やるべきことを確実に進めて行く仕組み」は,
最後に,本活動は開発担当者が主体的(ボトムアッ
担当者の意識向上,品質の向上・底支え,技術(ナレッジ)
プ的)に実施してきたため,実業務の傍らの作業とな
の蓄積・継承,コミュニケーション強化や,世に数多
り担当者の負荷を増大させ,社内の位置づけも曖昧で
くあるプロジェクト管理系システムの共通課題である
障壁にぶつかることもあった。また活動参加者の職種,
「システムの保守コスト,定着と継続,現業への追従性,
職務も大きく違うことから,要求事項をシステムに落
変化への対応」にも優位性があることを確認した。そ
とし込む際にはトップダウンの施策とは違う調整上の
のため開発業務推進のための「ひとつの手段」として
難しさがあった。ただし課題が多かった分,このよう
有効であり,継続使用により「負のサイクル」からの
なボトムアップ活動が実を結んだ際の効果も大きいも
脱出も可能と結論づけた。
のと期待している。
特に,長年の高負荷状況の中で「良くない」開発業
務習慣(先楽後苦)が身についている担当者には有益
6.1 今後
な手段として提供できるものと思われる。
今後は,試行を継続していく中で抽出された課題に
また開発業務革新のひとつの手段を提起することで,
ひとつひとつ向き合い,システムで解決できるもの,
現状の仕事のやり方を見直すきっかけとなり,本活動
運用でカバーできるもの,風土・意識改革が必要なもの,
のひとつの目的である「開発担当者の意識向上」にも
など体系化して考察を続け対策していく予定である。
寄与できるものと感じている。
特に開発業務を共通プラットフォーム上で共同実施
していく上でのモチベーション問題など「人の気持ち・
なお,本活動に際しては,ソフトウェア開発業務に
意識」についても主に開発担当者の立場で深く考察し,
システム/ツールを導入することの「是非の見極め」
運用指針の整備を行うと共にシステム継続使用の是非
も大きな課題であった。
も含め検証したい。
本システムは「共同使用することで効果を発揮する」
仕組みのため,メンバー全員で共通手段として使用す
6.2 謝辞
る必要があるが ,「品質向上のための手段は“やらされ
本活動の推進,プロセス支援システムの構築にあた
感”を持つことで本来の目的を達成できなくなる」傾
り,議論・ヒアリングへの参加,プロト版の試行参加,
向があることや,各部/グループ/チーム/個人,そ
システム構築など多大なるご協力を賜りました BSC 開
れぞれが長年の歴史・経験から最適化している仕組み,
発 2 部セキュリティグループメンバー員,所属長,社
手法,文化もあり,そこに外から変化を与えることに
内各部署の関係者,社外講師様,協力会社担当者の方々
よるモチベーション問題も議論になった。(例えば個人
に謝意を表する。
作業項目やスケジュール管理は,紙のノートを使用し
て効果的な運用を習慣化している人は多いし,MSPJ
<著者所属>
/エクセルでのスケジュール管理も一般的である)
多田 朋之 ビルシステムカンパニー 開発本部開発 2 部
以下はメンバーで考察した他の課題の一部である。
・ システムに頼ることで,返って主体性,コミュニケー
ション低下を招かないか?
・「見える化」が「見えただけ」に終わらないか?
・ 市販ツールを使用すれば十分ではないのか?
・ 社内 IT インフラ乱立状態の中,さらに新たなインフ
ラの使用が認められ受け入れられるか?
・ システムのお守は担当者の負荷にならないか?
以上のように開発業務を統一プラットフォーム上で
共同実施する上での課題はいくつかあるため,現場担
当者が少なからず「抵抗感」を抱くことは自然である。
そのため,自分達の仕事に合わせた道具とルールを自
分達の知識と技術を使って共同で整備していくことの
— 101 —
azbil Technical Review 2011年1月発行号
— 102 —
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Thank you for your participation!

* Your assessment is very important for improving the work of artificial intelligence, which forms the content of this project

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