電子部品実装設備及び電子機器における 軸受と潤滑剤の長寿命化

電子部品実装設備及び電子機器における 軸受と潤滑剤の長寿命化
電子部品実装設備及び電子機器における
軸受と潤滑剤の長寿命化に関する研究
大野
英明
2013 年 9 月
早稲田大学審査学位論文(博士)
電子部品実装設備及び電子機器における
軸受と潤滑剤の長寿命化に関する研究
大野
英明
早稲田大学大学院情報生産システム研究科
2013 年 9 月
目 次
第1章
序論
1.1
本研究の背景
-----
1
1.2
電子部品実装設備のトライボロジー課題
-----
2
1.2.1 プリント基板のはじまり
-----
2
1.2.2 電子部品の動向
----- 2
1.2.3 電子部品実装設備の発展
-----
5
(1) リード部品挿入機
----- 5
(2) チップマウンタ
----- 6
1.2.4 電子部品実装設備の動作
-----
6
1.2.5 リニア軸受の研究
-----
7
(1) 直線案内の分類
----- 7
(2) リニア軸受の寿命
----- 8
1.2.6 工場における潤滑剤の使用状況
----- 10
1.2.7 電子部品実装設備の課題
----- 11
1.3
電子機器のトライボロジー
----- 12
1.3.1 流体軸受の特徴
----- 12
1.3.2 流体軸受の歴史
----- 13
1.3.3 HDDへの展開
----- 14
1.3.4 流体軸受の課題
----- 14
1.4
本研究の目的
----- 15
1.5
本論文の内容
----- 15
第1章参考文献
第2章
----- 18
リニア軸受の潤滑状態に及ぼすグリース基油粘度の影響
2.1 緒言
----- 21
2.2
----- 21
実験装置と実験材料
2.2.1 実験装置
----- 21
2.2.2 電気導通状態計測方法
----- 23
2.2.3 リニア軸受
----- 23
2.2.4 サンプルグリース
----- 24
2.2.5 実験方法
----- 25
i
2.2.6 グリースの変更
2.3 実験結果
----- 25
----- 26
2.3.1 電気導通状態の変化
----- 26
2.3.2 連続運転での電気導通状態の変化
----- 29
2.4 考察
----- 30
2.4.1 油膜形成速度と膜厚比
----- 30
2.4.2 連続運転での推移
----- 31
2.4.3 レールの損傷
----- 32
2.4.4 グリース選定方法の問題点
----- 32
2.5 結言
----- 33
第2章参考文献
----- 34
第3章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース基油粘度の影響
3.1 緒言
----- 35
3.2
----- 36
実験装置と実験材料
3.2.1 サンプルグリース
----- 36
3.2.2 実験方法
----- 37
3.2.3 電気導通状態計測方法
----- 38
3.2.4 観察とグリースの追加給脂
----- 38
3.2.5 実験装置と膜厚比
----- 39
3.3
実験結果と考察
----- 40
3.3.1 電気導通状態の確認
----- 40
3.3.2 レールの観察結果
----- 41
3.3.3 キャリッジの観察結果
----- 43
3.3.4 異常音発生後の観察結果
----- 47
3.3.5 レール表面の元素確認
----- 49
3.4 結言
第3章参考文献
第4章
----- 51
----- 52
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリースの摩耗防止添加剤の影響
4.1 緒言
----- 53
4.2
----- 54
実験装置と実験材料
4.2.1 サンプルグリース
----- 54
4.2.2 実験装置
----- 55
4.2.3 実験方法
----- 55
4.3 実験結果
----- 56
ii
4.3.1 電気導通状態の確認
----- 56
4.3.2 A3-FMFグリースで発生した導通の異常現象
----- 57
4.3.3 鋼球の電気抵抗
----- 58
4.3.4 キャリッジの観察結果
----- 60
4
(1) A0グリースによる実験後の観察(走行距離1.09×10 km)
----- 60
4
(2) A3グリースによる実験後の観察(走行距離1.09×10 km)
----- 62
3
(3) A3-FMFグリースによる実験後の観察(走行距離4.9×10 km)
----- 64
3
----- 66
3
----- 68
(4) A3-ZnDTPグリースによる実験後の観察(走行距離3.8×10 km)
(5) A3-Zn+Moグリースによる実験後の観察(走行距離1.9×10 km)
4.3.5 鋼球の観察
----- 70
4.3.6 鋼球硬度の測定方法の差
----- 75
4.4 考察
----- 76
4.4.1 基油粘度の影響
----- 76
4.4.2 鋼球変色の影響
----- 76
4.4.3 摩耗防止添加剤の影響
----- 78
4.4.4 リニア軸受の転がり疲労寿命への影響
----- 79
4.5 結言
----- 80
第4章参考文献
----- 81
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
5.1 緒言
----- 83
5.2
----- 85
流体軸受のトライボロジー課題
5.2.1 起動停止時の摩耗対策
----- 85
5.2.2 潤滑剤の飛散・流出
----- 87
5.2.3 振れ回りによる流出
----- 91
5.2.4 潤滑剤の蒸発・性能劣化
----- 93
5.3 実験
----- 94
5.3.1 潤滑剤の使用限界値
----- 94
5.3.2 実験で用いた流体軸受装置の構造
----- 94
5.3.3 実機サンプルの粘度計算
----- 95
5.3.4 流体軸受用潤滑剤単体の熱加速試験
----- 98
5.3.5 潤滑剤単体試験での粘度予測
-----101
5.3.6 実機サンプルの粘度測定
-----101
5.4
潤滑剤の分析
-----102
5.4.1 フーリエ変換赤外分光分析(FT-IR)による分子構造分析
-----102
5.4.2 ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)での分析
-----104
iii
5.4.3 分析結果の比較
5.5 考察
-----106
-----107
5.5.1 基油分子構造の変化
-----107
5.5.2 基油分子量分布の変化
-----107
5.5.3 分子量分布の比較
-----107
5.5.4 軸受内の温度分布
-----108
5.5.5 マランゴニ効果の誘発
-----109
5.6 結言
-----110
第5章参考文献
-----111
第6章
電子部品実装設備用及び電子機器における軸受と潤滑剤の実用化状況と今後の展望
6.1 緒言
-----113
6.2 電子部品実装設備の状況
-----113
6.2.1 電子部品実装設備の課題
-----113
6.2.2 リニア軸受不具合の地域差
-----114
6.2.3 防錆油混入によるリニア軸受への影響
-----116
6.2.4 防錆油の塗布工程
-----117
6.2.5 防錆油の拭き取り程度の確認と定量化
-----117
6.2.6 検量線の作成
-----118
6.2.7 作業指示書への支持理由の記載
-----119
6.3
流体軸受装置の状況
-----120
6.4 結言
-----121
第6章参考文献
-----122
第7章
総括
7.1 論文概要
-----123
7.2
各章のまとめ
-----124
7.3
今後の課題
-----126
謝
辞
-----129
研究業績
-----131
iv
第1章
序論
第1章
序論
1.1 本研究の背景
電気機器メーカにおいても機構要素の信頼性向上は重要な課題である.近年,電気機
器メーカが生産する製品において機構要素を含む機器が減少している.しかし冷蔵庫や
エアコンのコンプレッサーの軸受や洗濯機,扇風機,掃除機等のモータ軸受,テレビ画
像を録画するレコーダの光ディスク装置の軸受,大容量記録装置のハードディスクドラ
イブ(HDD)ユニットのスピンドルモータの軸受など,まだ多くの軸受がある.
製品を生産する工場に目を向けると,金属部品を加工するコンピュータ数値制御され
た工作機械,プレス機械,樹脂成形加工機などは機構要素を用いて稼働している.組立
ラインでは製品を輸送するコンベアがボールベアリングで支持されており,電子機器の
プリント基板を生産する電子部品実装設備もリニア軸受の直線支持により X-Y-Z 方向
に高速で移動,停止を繰り返している.モノをつくる現場では現在でも多くの機構要素
が使用されている.
電子機器の中でもパーソナルコンピュータをはじめ,情報端末や携帯電話の普及はめ
ざましく,そのプリント基板を生産する電子部品実装設備は先進国から発展途上国まで
あらゆる場所で使用されている.この電子部品実装設備は日本独自の発展,進化をして
きた設備である.情報端末などの精密なプリント基板生産に使用される高速モジュラー
型電子部品実装設備の世界シェアは日本メーカが 70%以上を占めている 1).リーマンシ
ョック以降の景気低迷で設備投資も横ばいであるが,プリント基板製造業界の市場規模
は全体で約 6,000 億円,電子部品実装設備で約 2,500 億円の市場である.
また,電気機器においてもパーソナルコンピュータや AV 機器の扱うデータ容量が飛
躍的に増加しており,その記録装置として使用される HDD の高容量化も著しい.HDD
ユニットの出荷台数は約 6 億台で米国企業が世界シェアの 85%を占めている.しかし,
その心臓部といえる動圧グルーブ流体潤滑軸受(流体軸受)とモータからなる HDD スピ
ンドルモータでは日本メーカの世界シェアは 95%に達している 2).
1
第1章
序論
日本が圧倒的な世界シェアをもつ電子部品実装設備と HDD スピンドルモータはどち
らも電気機器メーカが自社電気製品の品質向上,自社工場の生産効率向上を目的に開発
したもので,多くのトライボロジー技術によって成り立っている.
1.2 電子部品実装設備のトライボロジー課題
1.2.1 プリント基板のはじまり
電子機器の電気回路形成の方法としてプリント基板一般的である.プリント基板は
1930 年頃,オーストリア人のパウル・アイスラーによって考案されたと言われている
3)
.プリント基板は抵抗やコンデンサなどの電子部品を板に固定して配線するもので日
本では 1960 年頃より普及しはじめた.当時は多くの女子作業員によってリード部品と
呼ばれるリード線を有した電子部品をプリント基板の穴に挿入し製造していた.
Fig.1-1 は当時のプリント基板製造ラインの写真である 4).また,Fig.1-2 は当時製造さ
れていたリード部品(リード線を持った部品)を使用したブラウン管テレビのプリント
基板の例で基板の大きさは縦が約 150mm,横が約 170mm である.
Fig.1-1
Fig.1-1
Printed circuit board production line of the 1960s
1960 年代のプリント基板製造ライン(出典:文献 4)
1.2.2 電子部品の動向
1975 年頃から製品は小型化,軽量化,薄型化へと向かっていく.そして回路形成も
それに対応するため高密度実装と呼ばれる小型,薄型化が進められた.Fig.1-3 は基板
形成技術の流れを示したもので左側が電子回路の技術動向,右側が回路の精密さを示し
ている.現在生産されている携帯端末では 1cm2 あたり 20 個程度のチップ部品が実装さ
れている.
2
序論
150mm
25mm
第1章
170mm
Fig.1-2
Example of leaded component and the printed circuit board
Fig.1-2 リード部品とプリント基板の例(出典:文献 4)
Fig.1-3
The trend of the jisso technology
Fig.1-3 実装技術の動向
3
第1章
序論
電子部品の研究開発は従来のリード部品からチップ部品(リード線を持たない電子部
品)に移りはじめたが部品自体が高額なうえ,回路形成方法が確立されていないため産
業用の用途に限られていた.しかし 1978 年に超小型ラジオがチップ部品を本格的に採
用したことにより民生品のチップ部品化が始まった.Fig.1-4 はその薄型ラジオとプリ
ント基板の写真である.使用されたチップ部品は 3.2mm×1.6mm×厚さ 0.6mm で当時
はピンセットを使用しプリント基板を作成していた.
チップ部品の実装は当初,作業員によって小さな部品をピンセットで挟み,決められ
た位置に置く作業で手作業では難しい作業であるが,プリント基板表面に装着(固定)す
る「表面実装」であるため自動化が進めやすく機械化も進んだ 4).
127mm
71mm
厚さ12.7mm
Fig.1-4
Thin radio and printed circuit board
Fig.1-4 薄型ラジオとプリント基板
4
第1章
序論
1.2.3 電子部品実装設備の発展
リード部品の手挿入の自動化から始まった電子部品実装設備は「人間の代替」から「人
間ではできない」小型部品を高速・高精度で配置する設備となり発展していった.
(1) リード部品挿入機
リード部品挿入機の動作は
プリント基板の穴にリード線を挿入 → 余ったリード
を切断 → 部品が落ちないよう端部を折り曲げる
の動作を自動化したものである.
Fig.1-5 はリード部品挿入機の外観で Fig.1-6 は挿入プロセスの略図である.
1800mm
2600mm
Fig.1-5
Leaded component insertion machine
Fig.1-5 リード部品挿入機(出典:文献 4)
Fig.1-6
Insertion process
Fig.1-6 挿入プロセス
5
第1章
(2)
序論
チップマウンタ
チップ部品をプリント基板表面に実装する装置はチップマウンタと呼ばれている.チ
ップは一般的に Fig.1-7 に示すようにテープに整列させてある.設備のテープ送り機構
で使用するテープ上の穴のピッチは 4mm である.部品供給位置に配置されたチップ部
品は真空吸着ノズルで吸着され,プリント基板の上まで移動する.プリント基板上には
あらかじめ接着剤やクリーム半田が塗布されており,その上に配置される.
チップ部品の出始めた頃の大きさは 5mm×2.5mm,厚さ 0.6mm(呼称:5025)ほどの大
き さ で あ っ た が , 現 在 で は 1mm × 0.5mm × t 0.35mm(1005) , 0.6mm × 0.3mm × t
0.07mm(0603)などがよく使用され,近年では 0.2mm×0.1mm×t 0.07mm(0201)部品のサ
ンプル供給がはじまっている.
3.2×1.6
1.6×0.8
1.0×0.5
0.6×0.3
穴のピッチは4mm
Fig.1-7
Tip component of the taping
Fig.1-7 テーピングされたチップ部品
1.2.4 電子部品実装設備の動作
電子部品実装設備は部品の装着ヘッドが X-Y-Z 方向に稼働する構造で,部品供給位置
で吸着ノズルが降下し,チップ部品を真空吸着して上昇する.装着ヘッドは 1m/s の低
速で移動しながら,チップ部品の吸着状態,位置ズレを認識装置で確認し,認識終了後,
2~3m/s の高速でプリント基板の上の装着位置まで移動し位置決めをおこない(X-Y 軸
方向の移動),装着ヘッドが上下方向(Z 方向)に動いて電子部品をプリント基板上の所定
の位置に装着する.この時,画像認識データからチップの位置ずれ相当の補正を X-Y-θ
でおこなう.部品装着後,吸着ノズルが上昇し同じ動作を繰り返す.
上記の X,Y,Z 方向それぞれの直線運動を支持しているのがリニア軸受である.
6
第1章
序論
1.2.5 リニア軸受の研究例
リニア軸受は工作機械や精密測定器,生産機械の直線運動を支えるためにはなくては
ならない存在であり多くの研究報告がある.リニア軸受の研究例を以下に示す.
(1)
直線案内の分類
直線運動を案内する直動案内の分類は潤滑形式 5),レール形状 6) 等があるが本報では
Table 1-1 のように分類した.大きくは潤滑剤を使用するすべり案内と転がり案内,潤滑
剤を使用しない磁気浮上案内である.
すべり案内はさらに潤滑方式により分類される.無潤滑は PTFE(ポリフルオロテトラ
エチレン)など自己潤滑性のある材料を用いたもので低荷重の際に用いられる.静圧案
内は圧縮空気等による静圧で非接触状態を保ち運動を支えるもので,圧力発生装置等が
必要となるが,高剛性で摩擦・摩耗がないため精密計測器を中心に使用範囲を広げてい
る 7).動圧案内は相対運動することで油膜を形成し潤滑するものであり,高剛性,振動
減衰性は高いが,低速でのスティックスリップ,高速での案内部の浮き上がり,そして
摩擦,摩耗の管理が難しい 8).
Table 1-1 Classification of the linear motion guideway
Table 1-1 直線運動案内の分類
転がり案内は転動体の転がりにより案内,支持するもので Table 1-1 においてはレー
ルの形状でさらに分類される.摩擦摩耗が小さく,低速でのスティックスリップ,高速
での負荷増大がないなどの特徴がある.特に電子部品実装設備での使用を考えた場合,
油の付着を嫌うプリント基板を製造するため,グリースによる潤滑が可能なことは極め
て有利である.
多種多様な直線案内のなかでも電子部品実装設備で使用しているのはレール形式の
転がり案内で一般にリニア軸受と呼ばれる.リニア軸受の例を Fig.1-8 に示す.
7
第1章
Fig.1-8
序論
Example of the linear motion rolling bearing
Fig.1-8 リニア軸受の例 (出典:THK 社 HP)
(2) リニア軸受の寿命
リニア軸受の寿命に関する研究も多く発表されている.特にリニア軸受は往復運動す
るためストローク端部では速度がゼロになり油膜切れの現象をおこすこと.また,構造
上熱容量が大きいため温度上昇が小さく,焼付き等の損傷が発生しにくいとされている.
さらに潤滑方法の差異が寿命に影響しないとの報告がある 9).
リニア軸受を製造するほぼ全てのメーカは転動体に鋼球を使用した場合の定格寿命
は以下の式で求められるとしている 10).
L=(C/P )3URL
上式において L は定格寿命(L10:破損確率 10%),C は基本定格荷重,P は負荷荷重,
URL(Unit Running Life)は走行寿命で本報で使用したリニア軸受メーカでは URL を 50km
としている.荷重と定格寿命の関係を Table 1-2 に示す.
Table 1-2 Load and rating life
Table 1-2 荷重と定格寿命
8
第1章
序論
実際にリニア軸受の耐久試験を実施してもグリースの差異はほとんどみられず,
0.37C(基本定格荷重の 37%)の負荷の場合,必ずと言ってよいほど上式で計算される定
格寿命の 1.0×103km 以上走行し,実験の打ち切りとなる.
たとえば Fig.1-9 に示す電子部品実装設備は Panasonic 製の CM-402L で装着ヘッドを
支持する Y 軸(Fig.1-9 では左右方向に直線移動する)には動定格荷重 14.2kN のリニア軸
受を使用しており,装着ヘッド等リニア軸受に作用する負荷は 100N である(2 本のレー
ルにそれぞれ 2 個のキャリッジが装備されており,合計 4 個のキャリッジで負荷を分担
する).装着ヘッドは 1 度に 10 個程度の電子部品を部品供給位置で真空吸着し,プリン
ト基板上まで走行し,細かな位置調整をしながら全ての部品を所定の位置に装着して部
品供給部に戻る動作を繰り返す.
モーメント荷重を考慮せず,寿命を計算すると 1 個のキャリッジに作用する負荷は
25N,キャリッジの予圧は最大 470N で 1 個のキャリッジの負荷は 495N となり定格寿
命は 118 万 km となる.装着ヘッドが 1 秒間で 1 往復 1m 走行するとした場合,寿命は
2245 年でリニア軸受は故障しない部品と判断される.従って設計的にも容易に交換で
きる構造にはしていない.しかし実際の設備に搭載され生産現場で稼働しているリニア
軸受は定格寿命に到達せず破損することがある.早いものでは 1 年程度で破損するもの
もある.
2,290mm
Fig.1-9
2,350mm
Example of the placement machine(CM-402L)
Fig.1-9 チップマウンタの例(CM-402L) (出典:文献 11)
9
第1章
序論
1.2.6 工場における潤滑剤の使用状況
リニア軸受の寿命の差異は運転状況,グリース基油粘度と転走面の表面粗さによって
決まる膜厚比 Λ(最小油膜厚さと表面粗さの比)にあると推定し,実際に電子機器のプ
リント基板を生産する工場で稼働中の電子部品実装設備の運転状況・使用グリースを調
査した 12).
生産現場で使用されるグリースは実装設備メーカの推奨品や工場独自に選定したも
のなど多様であった.Table 1-3 は実際に工場で使用されているグリースを回収して銘柄
を特定し,性状を実測したデータである.基油粘度(40℃)33~177mm2/s,ちょう度 205
~296(NLGI 2~4 号),融着荷重 1,236~3,923N と多種多様である.
Table 1-3 The grease which is used in placement machine
Table 1-3 実装機で使用されているグリース
10
第1章
序論
実装設備メーカが指定するグリースは自社純正品のみであり,入手できない場合の緊
急的な使用のための選定基準は増ちょう剤の種類とちょう度である(純正品と同じ増ち
ょう剤,ちょう度).グリース選定時の資料となる潤滑剤メーカのカダログや市販潤滑
剤のデータ一覧である潤滑剤銘柄便覧
13)
のグリース性状一覧でも同様で記載項目にち
ょう度,増ちょう剤の種類はあるが基油粘度の記載はほとんどない.
リニア軸受も転がり軸受の一種なので当然,弾性流体潤滑(EHL:Elasto-hydrodynamic
Lubrication)理論に則り,最小油膜厚さと表面の二乗平均平方根粗さの比である油膜比
Λ 値によって寿命が変わる.しかし前述の研究発表や設計データにグリース基油粘度,
表面粗さの記載はなく,また,トライボロジーハンドブック
14)
によれば,玉軸受・円
2
筒ころ軸受において油潤滑時の基油粘度は使用温度下で 13mm /s 以上を推奨している
が同書のグリース選定基準はちょう度のみである 15).
清水らの研究では潤滑状態の差異が寿命に影響しないとの報告があるが 9),電子実装
設備搭載状態では潤滑状態により寿命差が発生している.具体的には定期的(1 回/月程
度),かつ電子部品実装設備メーカ推奨のグリースでグリースアップをおこなっている
工場ではリニア軸受の破損は少なく,グリースアップをいつ実施したか,グリースの銘
柄も分からないような工場では破損が多いという事実も明らかになった.しかし,グリ
ースアップを実施している工場でもリニア軸受の損傷が皆無ではないことも事実であ
る.
1.2.7 電子部品実装設備の課題
電子部品実装設備は,自社電気機器のプリント基板製造力向上ため開発された.その
設備は世界を席巻するまでに発展した.しかし,社外にも販売するようになり生産台数
が増えると予期しない故障も発生するようになった.最も大きな課題は部品を装着する
ヘッドユニットを支持する「リニア軸受の早期破損」である.
11
第1章
序論
1.3 電子機器のトライボロジー
1.3.1 流体軸受の特徴
電子機器で使用される機構要素として精密軸受がある.その例として動圧グルーブ流
体潤滑軸受(流体軸受)がある.流体軸受とは軸受面にグルーブ(動圧発生溝)を備え,
シャフト,またはスリーブが回転する事で(図ではシャフトが回転する)オイルやグリー
ス,気体がグルーブに沿って中央に集まり発生する圧力でシャフトを浮上させ,非接触
状態で回転する高精度な軸受である.Fig.1-10 に流体軸受と従来のすべり軸受,転がり
軸受の図を示す.従来のすべり軸受や転がり軸受が接触しながら回転軸を保持している
が,流体軸受は非接触で流体膜が回転軸を保持する.その優位性は Table 1-4 に示すよ
う回転精度,騒音・振動,長寿命を実現することができる 16).
転がり軸受
すべり軸受
流体軸受
(含油軸受)
Fig.1-10 Comparison of the bearing units
Fig.1-10 軸受の比較図(出典:文献 16)
Table 1-4 Comparison list of the bearing performance
Table 1-4 軸受性能の比較(出典:文献 16)
12
第1章
序論
1.3.2 流体軸受の歴史
流体軸受は 1925 年 Günbel によって発明されたと言われており 17),欧州を中心に基礎
研究が行われ軍用のジャイロ等への検討がなされた.その後,日米欧の企業で電子機器
への応用が検討された
18)
.1980 年にラジアル軸受のみにグリース潤滑式の流体軸受を
用いたビデオテープレコーダの回転ヘッドシリンダ(VTR シリンダ)が
19)
報告されたが
生産量は少なく普及には至らなかった.本格的な大量生産を開始したのは 1984 年,日
本の電気機器メーカの VTR シリンダであった.こちらはラジアル,スラストともに流
体軸受を用いたものである 20).
その後レーザビームプリンタのポリゴンモータ,フロッピーディスクドライブ,ノー
トパソコンの高性能 MPU(Micro Processing Unit:マイクロプロセッサ)に直接貼り付け
冷却する MPU ファンモータ等の民生機器へ展開していった
16)
.Fig.1-11 は流体軸受の
応用商品の例である.
VTRシリンダ
ポリゴンモータ
70mm
φ62mm
フロッピーディスクドライブ
光ディスクスピンドル
145mm
ハードディスクドライブ
φ30mm
MPU冷却ファン
φ90mm
□45mm
(HDDはHGST社HPの参照,他はPanasonicの製品)
Fig.1-11 Applied product of the fluid bearing
Fig.1-11
流体軸受の応用商品
13
第1章
序論
1.3.3 HDD への展開
HDD はコンピュータの情報記録装置として使用されはじめ,今日では家電商品のデ
ジタル化に伴い,音声・映像の記録装置として広く普及している.HDD の高容量化の
ためには磁気記録のトラックピッチを狭める必要がある.従来の玉軸受では内輪,外輪,
ボールの加工精度がそのまま回転精度に反映されるため軸受の NRRO(Non-Repeatable
Run-Out:非再現振れ)の向上は難しく,Fig.1-12 に示すよう HDD メーカからの要求に
は対応できない状況となった
16)
ドルモータが採用されはじめた
.そして 2000 年頃から流体軸受を用いた HDD スピン
21)
.これにより軸受寿命を律則する現象が転がり疲労
から潤滑剤劣化とすべり摩擦による摩耗に変化していった.
140
回転精度(NRRO):nm
120
100
玉軸受のNRRO
要求値を未達成
HDD要求値
玉軸受
流体軸受
80
HDDメーカからの
要求値のNRRO
60
40
20
流体軸受のNRRO
0
1996 1977 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
年(西暦)
Fig.1-12 Demand precision of the HDD and precision of the hydrodynamic bearing
Fig.1-12 HDD の要求精度と流体軸受の精度(出典:文献 16)
1.3.4 流体軸受の課題
HDD 用流体軸受の設計的課題である流体潤滑状態の設計
22)
,油膜破壊に関しては動
圧グルーブの圧力発生による潤滑剤流出や軸受内部で発生する大気圧以下の領域での
エアレーション
23)
や飽和蒸気圧領域でのキャビテーションでの油膜破断
おける軸受構造と共振
25)
24)
,商品化に
等多くの研究報告がなされている.
しかし,流体軸受用潤滑剤に関する研究報告はほとんどなされていない.特に電気機
器メーカが対象としている民生機器製品では潤滑剤の追加や交換はできない.したがっ
て,機器搭載状態での潤滑剤寿命を予測することは重要な課題である 26).
また,流体軸受搭載機器を開発し,商品として市場投入してきたが,それらの商品の
多くは流体軸受装置の予測寿命(消費電流の変化や軸受剛性変化)より長期間使用でき
ることを経験しており,その要因も明確になっていない.
14
第1章
序論
1.4 本研究の目的
本研究は日本の電気機器メーカが世界に先駆け開発し,高いシェアを持つ「電子部品
実装設備」と「動圧グルーブ流体潤滑軸受」のトライボロジー技術の課題を検証するこ
とを目的とする.
(1)
電子部品実装設備に使用されるリニア軸受の破損要因を明らかにし,設備の信頼
性向上をはかる.
(2)
電子機器で使用される流体軸受用潤滑剤の軸受回転中の劣化と単純熱劣化との差
異を明らかにする.
1.5 本論文の内容
本論文は次のような構成である.
第 1 章ではプリント基板生産用電子部品実装設備と HDD スピンドルモータを支える
流体軸受の開発経緯と技術課題を示した.電子部品実装設備で短期間にリニア軸受が破
損した事例を調査し,損傷発生機で使用された潤滑グリースが抽出でき,選定したグリ
ースが破損の原因になっている可能性があることを明らかにした.また,HDD 用スピ
ンドルモータの軸受が転がり軸受方式からすべり軸受方式に代わって行き,軸受寿命を
律則する現象が転がり疲労から潤滑剤劣化に変わっていったが,軸受運転による潤滑剤
の熱劣化についての知見が全くないことを示した.長期運転での潤滑剤熱劣化を,潤滑
剤単体の短期実験で代替する方法が必要になっている状況を示し,本論文で解決すべき
技術課題を示した.
第 2 章から第 4 章では電子部品実装設備の課題についての研究報告である.
第 2 章ではリニア軸受の潤滑に用いられているグリースの基油粘度に着目し,それら
の軸受鋼球と転走面間の潤滑状態に及ぼす影響を検討した.実機に使用されているリニ
ア軸受を用いて実際の作動状態及び温度状態を実現する試験機を作成し,ちょう度が一
定で基油粘度が異なる 4 種類のグリースを用いて転走面の潤滑状態の差異を調べた.潤
滑状態の尺度としては弾性流体潤滑(EHL:Elasto-hydrodynamic Lubrication)理論から
求められる最小油膜厚さと表面の二乗平均平方根粗さの比を油膜比 Λ 値として用いた.
リニア軸受の運動は往復動で起点と終点付近では速度が変化することを考慮し,全運転
域の潤滑状態はレールとレール上を移動するキャリッジとの間を電気導通法で確認し
た.実験の結果,Λ 値が 0.5 より大きい状態でないと電気導通があり表面粗さ突起部が
金属接触する混合潤滑状態にあることが確認できた.さらに,長期運転で転走面からグ
リースが枯渇して油膜厚さが減少することも想定されたため,連続運転を実施してその
影響を調べた.往復動距離 1.0×103km(実験時間 260Hr)でも電気導通の状態は初期から
変化せず,グリース排除による枯渇が原因ではないことも明らかになった.以上の実験
15
第1章
序論
から,リニア軸受の損傷発生に影響する潤滑状態はちょう度ではなく基油粘度に支配さ
れ,転走面を油膜で分離する良好な潤滑状態を実現するためには Λ>0.5 とする必要があ
ることを明らかにし,軸受転走面のトライボロジー設計を定量的に行える成果を示した.
第 3 章では基油粘度が潤滑状態を支配することを踏まえて,潤滑状態とリニア軸受の
転がり疲労損傷との関係,および転がり疲労寿命を延ばすためにグリースへの摩耗防止
剤を添加する効果の有無を確認した.まず,同じちょう度で基油粘度の影響を調べるた
め,全行程で油膜分離が生じない(Λ<0.5)状態を実現する低粘度基油グリースと,往復動
の停止位置から 1cm の位置で Λ>0.5 となり,ほぼ全行程で油膜分離状態になる高粘度基
油グリースを用いて寿命比較試験を実施した.低粘度基油グリースでは 1.09×104km 走
行でキャリッジ側に転がり疲労はく離が発生したが,高粘度基油グリースでは損傷は発
生しなかった.またキャリッジ破損のほかレール(炭素鋼 S55C 相当)の変色もあり,転
走面の元素分析を実施した.常に金属接触状態で走行していた低粘度基油グリースでは
レール全域でグリースの摩耗防止剤添加剤の構成元素である P(リン),S(イオウ)の
増加と Zn(亜鉛)が観察された.高粘度基油グリースでは停止位置でのみ P,S,Zn
の含有量の変化が確認できた.このことからリニア軸受では膜厚比 Λ<0.5 では転がり疲
労寿命が短くなることと往復動の両端付近で摩耗防止添加剤の表面反応が生じること
がわかった.これにより転がり疲労防止設計のためには潤滑状態を支配する基油粘度に
着目すれば良いことが実証された.
第 4 章では必ず停止部付近で金属接触状態になることを踏まえ,損傷発生防止に繋が
る摩耗防止添加剤を検討した.摩耗防止添加剤として,Zn 系添加剤(Zn-1),ZnDTP,
ZnDTP と MoDTC を併用したものと無添加の 4 種類とし,添加剤の表面反応を生じさせ
るために低粘度基油グリースを用いた.転がり疲労損傷はキャリッジの終端部付近で発
生した.損傷発生までの走行距離は ZnDTP+MoDTC が 1.9×103km で最も短く,次いで
ZnDTP が 3.8×103km,摩耗防止添加剤なしが 4.9×103km で Zn-1 が最も長い 1.09×104km
であった.添加剤を変えることにより軸受寿命が大きく変わることがわかった.寿命の
差は添加剤反応の違いであると推定し,実験後鋼球の元素分析とナノインデンタによる
表層(約 0.5µm)の硬度を測定した.添加剤元素である S や Mo,Zn はごく表層にの
み存在し,ナノインデンタ硬度が添加剤により異なった.転がり疲労寿命は,表層の硬
度が低いほど短くなることがわかった.これにより,軸受寿命を延ばすためには,軸受
材(軸受鋼 SUJ2)と反応して,ナノレベルで硬度が大きい反応膜を形成できる添加剤
を選定する必要があることがわかった.
第 5 章では従来全く検討されたことがなかった HDD の流体軸受用潤滑剤の熱劣化寿
命について検討を行った.一般的には潤滑剤単体での熱劣化寿命予測はアレニウスプロ
ットで実施するが,軸受内で回転によるせん断力等を受けた状態での熱劣化との差異を
明らかにすることを目的にした.潤滑剤は 3.5 型 HDD 用として広く用いられているジ
-2-エチルヘキシルセバケート(DOS)を使用した.軸受の流体潤滑油膜厚さは約 3µm で,
16
第1章
序論
軸受しゅう動面は完全に油膜分離する条件を設定した.運転中の潤滑油温度 80℃で約 3
年間(2.3×104Hr)連続運転した流体軸受から回収した潤滑剤と単体で熱劣化させた潤
滑剤の粘度変化率を比較した.粘度上昇率が大きいとモータ負荷の増大による低温時起
動不良が生じる.また,粘度低下が生じると温度上昇時に軸受剛性が低下して軸振れが
増加し,データ転送不良が生じ機能不良となる.その後,油膜破断に至り,軸受しゅう
動面が焼付き易くなる.比較した結果,流体軸受から回収した潤滑剤の粘度変化率が
+0.5%で単体試験での予測値は+3%であった.粘度変化率に差が出た原因は,低粘度物
質の残留率の差であることがわかった.すなわち,流体軸受内では潤滑剤温度の高い方
向へ低粘度物質が移動するマランゴニ効果により低粘度物質が軸受中央に集まるため
と推測される.したがって潤滑剤単体での寿命予測よりスピンドルモータの寿命は約 6
倍長くなることがわかった.この結果から初期的に潤滑剤の飛散,流出がない設計がで
きれば,長期に流体潤滑状態を維持できる運転時間が推定できることになり,熱劣化設
計を行えるようになった.
第 6 章は1章から 5 章までに得られた結論の総括で,電子部品実装設備のリニア軸受
と HDD 用スピンドルモータの破損防止に検討した手法が有効であることを示した.さ
らに,今後の軸受の展望と残された技術課題を記した.
17
第1章
序論
第 1 章参考文献
1)
株式会社 富士経済:World Wide 半導体・電子部品実装装置・注目部材市場の現状
と将来展望,pp.4(2012).
2)
東洋経済新聞社:ハードディスク業界の再編,(2011.6.10).
3)
ウィキペディア プリント基板:http://ja.wikipedia.org/(2013-1).
4)
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5)
青木三策・武富義次:直動ころがり案内の最近の動向,潤滑,第 19 巻,第 9 号,
pp.633-639(1974).
6)
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7)
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8)
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潤滑,第 26 巻,
第 3 号,pp.195-201(1981).
9)
清水茂夫・高橋徹:リニア軸受の転がり疲れと最近の研究動向,トライボロジスト,
第 54 巻,第 3 号,pp.173-179(2009).
10) リニアシステム編集委員会:リニアシステムの理論,日刊工業新聞社,pp.158 (2001).
11) パナソニックファクトリーソリューションズ株式会社:カタログ,(2005).
12) 大野英明・松本將:転動体に玉を用いたリニア軸受の潤滑状態に及ぼすグリース基
油粘度の影響,トライボロジスト,第 56 巻,第 6 号,pp.371-377(2011).
13) 潤滑剤銘柄便覧 2011 年版,潤滑通信社,pp.479,(2010).
14) 日本トライボロジー学会編:トライボロジーハンドブック,養賢堂,pp.175(2001).
15) 日本トライボロジー学会編:トライボロジーハンドブック,養賢堂,pp.173(2001).
18
第1章
序論
16) 斎藤,淺田,濱田,森本,園田:動圧流体軸受とその応用技術,松下テクニカルジ
ャーナル,第 46 巻,第 1 号, pp.54-60(2000).
17) 淺田,森本,原:動圧グルーブ軸受と精密加工技術,松下テクニカルジャーナル,
第 39 巻,第 5 号,pp.14-19(1993).
18) T.Asada,H.Saitou,Y.Asaida & K.Itou:Design of Hydrodynamic Bearings of High-Speed
HDD,Microsystem Technologies,Springer-Verlag,8,2-3,pp.220-226(2002).
19) E.A.Muinderman:Grease-lubricated spiral-groove bearings,Philips tech.Rev,Vol.39,
№6/7,pp.184(1980).
20) トライボロジー遺産認定第 10 号,
トライボロジスト,
第 58 巻,
第 4 号,pp.230(2013).
21) 日本トライボロジー学会:日本トライボロジー学会 50 年の歩み
トライボロジー
トピックス,創立 50 周年記念小冊子(2005).
22) 森美郎:すべり軸受の流体潤滑理論,潤滑,第 12 巻,第 10 号,pp417-426(1967).
23) 和田・林・広瀬:ジャーナル軸受におけるエアレーション,潤滑,第 16 巻,第 1
号,pp.50-58(1971).
24) 中原:流体油膜の挙動,潤滑,第 16 巻,第 3 号,pp.146-152 (1981).
25) 斎藤,淺田,濱田,森本,園田:動圧流体軸受とその応用技術,松下テクニカルジ
ャーナル,第 46 巻,第 1 号,pp.54-60(2000).
26) 大野英明・松本將:動圧グルーブ流体軸受用潤滑剤の劣化,精密工学会誌,第 79
巻,第 6 号,pp.523-528 (2013).
19
第1章
序論
20
第2章
リニア軸受の潤滑状態に及ぼすグリース基油粘度の影響
第2章
リニア軸受の潤滑状態に及ぼす
グリース基油粘度の影響
2.1 緒言
本章では電子部品実装設備によく用いられる転動体に鋼球を用いたリニア軸受にお
ける潤滑状態に及ぼすグリース基油粘度の影響について検討した.
リニア軸受も転がり軸受であり,EHL(Elasto-hydrodynamic Lubrication:弾性流体潤滑)
膜を形成して移動する.EHL 膜を形成するためには,基油粘度,速度が重要となる.しか
し,グリース選定時の資料である潤滑剤メーカのカダログや市販潤滑剤のデータ一覧で
ある潤滑剤銘柄便覧 1)のグリース性状一覧にはちょう度,増ちょう剤の種類はあるが基
油粘度の記載はない.一般ユーザーがグリースを購入する際の情報は「増ちょう剤の種
類」と「ちょう度」のみである.
そこで電子部品実装設備と同一仕様のリニア軸受を用いて推奨できる基油粘度を検
討した.また,混合潤滑状態での EHL 膜形成状況を確認するため転動部の電気導通状
態の計測も実施した.
2.2 実験装置と実験材料
2.2.1 実験装置
使用した実験装置の概要図を Fig.2-1 ならびに写真を Fig.2-2 に示す.実験装置には前
後 2 列のリニア軸受を配置し,レール 1 本に 2 個ずつキャリッジを持つリニア軸受を使
用している. 2 本のレールの中央に推力 1.0×103N の駆動用リニアモータを備え,可動
部最大総重量 50kgf(490N)を最大加速度 30m/s2,最高速度 3m/s で駆動することができ
る.リニアモータはモータマグネットの磁気吸引力がリニア軸受の負荷とならない配置
とした.また,キャリッジと鋼鉄製可動テーブルは樹脂プレートを間に挟むことにより
電気的に分離してキャリッジ-鋼球-レール間の接触による電気導通状態を計測できる
構造を持つ.
21
第2章
リニア軸受の潤滑状態に及ぼすグリース基油粘度の影響
232mm
225mm
キャリッジ
電気絶縁用
樹脂プレート
レール
リニアモータ磁石
リニアモータコイル
Fig.2-1 Schematic drawing of the test device
Fig.2-1 実験装置の概要図
Fig.2-2 Schematic photograph of the test device
Fig.2-2 実験装置の写真
22
第2章
リニア軸受の潤滑状態に及ぼすグリース基油粘度の影響
2.2.2 電気導通状態計測方法
従来から潤滑状態の確認方法として電気抵抗測定方法
2)
があり電圧,電流を制御す
る回路を使用している.しかし,本実験では油膜の形成,破断状態を確認できれば良い
ため電源に 1.5V の乾電池を用い,停止中の短絡状態での乾電池消耗を抑えるため 10Ω
の抵抗を入れ,抵抗両端の電圧をオシロスコープで計測する単純な電気回路で導通状態
を計測した.なお油膜形成による絶縁抵抗値には変動があるため 0~0.3V で絶縁状態に
達したと判断した.Figure 2-3 に電気回路の略図を示す.
Fig.2-3
The electric circuit for electrical conductivity measurement
Fig.2-3 電気回路の略図
2.2.3 リニア軸受
本報で使用したリニア軸受は転動体に鋼球を用いた 4 方向等価荷重型 4 列サーキュラ
ーアーク溝 2 点接触構造リテーナ付き(正面組合せ)である.レール幅は 15mm を用い
た.諸元を Table 2-1 に示す.
Table 2-1
Dimensions of the linear motion rolling bearing
Table 2-1 リニア軸受の諸元
23
第2章
リニア軸受の潤滑状態に及ぼすグリース基油粘度の影響
2.2.4 サンプルグリース
サンプルグリースの性状を Table 2-2 に示す.基油がポリ-α-オレフィン,増ちょう剤
に複合リチウムセッケンを用いた電子部品実装設備用市販グリース(A0 グリース),並
びに A0 グリースの基油粘度を変更した 3 種類のサンプルを用いた.実験中のレール表
面温度は 30~35℃であったので 33℃で基油粘度調整を行った.サンプル名は A0 グリ
ース(125mm2/[email protected]℃),A1 グリース(90mm2/[email protected]℃),A2 グリース(70mm2/[email protected]℃),
A3 グリース(30mm2/[email protected]℃)とした.サンプルグリースの酸化防止剤,防錆剤,摩耗防
止剤等の各種添加剤は同一量を配合した.また増ちょう剤量は 16~18wt%の範囲内とし
製造条件の調整によってちょう度を 3 号(220~250)の範囲内におさめた.
A0 グリースを基準とした理由は電子部品実装設備用に開発したもので実績があり,
また基油粘度の観点からもトライボロジーハンドブックの推奨値の約 10 倍あり,実験
装置のレールの表面粗さが 0.21μmRa と,一般の玉軸受の内輪,外輪転動部の表面粗さ
0.02μmRa に比べ大きいが,計算では本実験装置でも十分な膜厚比 Λ ができていると推
定されるためである.
Table 2-2
Characteristic of the grease for the experiment
Table 2-2
サンプルグリースの性状
24
第2章
リニア軸受の潤滑状態に及ぼすグリース基油粘度の影響
2.2.5 実験方法
電気導通状態の計測は 2 本のレールのうち 1 本のレールの 1 個のキャリッジで行った.
1 本のレール上にある 2 個のキャリッジの走行範囲が重なるためサンプルグリースは 2
個のキャリッジとも変更している.なお,非計測側リニア軸受はすべての実験で A0 グ
リースを用いた.計測側のグリース交換の際,非計測側キャリッジも追加給脂を行った.
計測時の動作は,可動テーブルを停止状態から任意の方向へ加速し指定の速度到達後,
定速移動した後,減速,停止する.この動作が 1 行程で走行距離は 0.5m である.1 サ
イクルは走行前後に 0.2s の停止時間をとっての往復動作であり,計測時はこの運動を繰
り返している.
実験は加速・減速時の加速度を 30m/s2 一定とし,定速走行状態の比較として最高速
度を 3m/s,2m/s,1m/s とし計測した.さらに油膜による電気絶縁(0~0.3V)が保たれる
速度を油膜形成速度(Oil film formation speed)と定義し,その速度(速度設定は 0.1m/s 刻
み)での定速走行の導通波形を計測した.
計測はグリース変更に伴うキャリッジ内の充填むら等を無くすため後述の 2 時間の
エージング後,再度,所定のサンプルグリースを注入し,設定速度で走行させ 50~100
サイクルの間に実施した.
さらに A0 グリースのサンプルにおいては,初期(2 時間エージング,再給脂後 50~
100 サイクル以内)と 106 サイクル(約 10 日間,1.0×103km 走行後)の電気導通波形の比
較も行った.また,0.8~1.5V 程度の電圧でも電食が発生する 3) 可能性があることから
通電は計測時のみとした.
2.2.6 グリースの変更
グリースを変更する際は,部品レベルまでキャリッジを分解し,アセトンとイソヘキ
サンを用いて超音波洗浄機と綿棒・ウエスによる拭き取り洗浄を行った.レールもアセ
トンとイソヘキサンを用いウエスにて拭き取り洗浄を行った.すべての計測に使用した
キャリッジ,鋼球は同一のものである.
グリース変更後は加速・減速時の加速度 30m/s2,速度 3m/s,の条件で 1 時間程度走
行させた後,はみ出したグリースを拭き取り,再度レール転走面にグリースを塗布しキ
ャリッジに設けられているグリース供給穴から追加給脂を行った.これを 2 度おこない
エージングとした.
25
第2章
リニア軸受の潤滑状態に及ぼすグリース基油粘度の影響
2.3 実験結果
2.3.1 電気導通状態の変化
Figure 2-4 は A0 グリース,最高速度 3m/s での電気導通状態の計測結果の例で前述の
走行動作の 1 サイクル分である.横軸が時間でフルスケール 1s,縦軸が電圧で上側が電
気導通状態を示す波形,下側が速度信号である.速度信号は可動テーブルの速度に応じ
電圧が変化し,Fig.2-4 では加速・減速域において一定の勾配で上昇・降下する直線と
なり,設定の 3m/s まで加速し定速状態になると+5.2V,-5.2V で水平な直線となる.電
気導通波形は停止時では予圧と垂直荷重により転動体周辺は弾性変形し金属接触状態
にあるため印加電圧の 1V を示している.可動中は油膜により絶縁され電流が流れない
ため電圧は 0V(オシロスコープの平均電圧は 0~0.2V)を示している.
Fig.2-4
Example of measurement data
Fig.2-4 測定データの例
26
第2章
リニア軸受の潤滑状態に及ぼすグリース基油粘度の影響
A0 グリースでの結果を Fig.2-5 に示す.最高速度 3m/s と 2m/s の横軸はフルスケール
1s で,1m/s はフルスケール 2s である.3m/s の導通電圧が 0V に達した時の速度は加速
領域 1/3 程度の速度であり速度信号から算出した油膜形成速度は 1.1m/s であった.同様
に 2m/s の速度信号からの算出した油膜形成速度は 1.0m/s であった.1m/s では加速域終
了時が油膜形成速度で導通電圧は 0.23V であった.
A0
1V
Voltage
3m/s
0V
Time,1s
1V
Voltage
2m/s
0V
Time,1s
1V
Voltage
1m/s
0V
Time,2s
Fig.2-5
Measurement data of A0 grease
Fig.2-5
A0 グリースの測定データ
27
第2章
リニア軸受の潤滑状態に及ぼすグリース基油粘度の影響
すべての実験の結果を Fig.2-6 に示す.A1 グリースの最高速度 3m/s ,2m/s での速度
信号からの油膜形成速度はそれぞれ 1.4m/s,1.3m/s で 1m/s では平均導通電圧は 0.37V
で導通状態にあった.油膜形成速度は 1.3m/s で導通電圧は 0.29V である.
A2 グリースの最高速度 3m/s,2m/s での速度信号からの油膜形成速度は 1.8m/s,1.7m/s
であった.1m/s での平均導通電圧は 0.41V で導通状態にあった.油膜形成速度の 1.7m/s
での導通電圧は 0.27V である.
A3 グリースではすべての速度で電気導通状態であり,それぞれの速度での導通電圧
は 3m/s で 0.40V,2m/s で 0.44V,1m/s で 0.51V であった.
Fig.2-6
The measurement results of electrical resistance
Fig.2-6 電気導通状態のデータ
28
第2章
リニア軸受の潤滑状態に及ぼすグリース基油粘度の影響
また,見方を変え,同じ 3m/s の速度で基油粘度を変更した場合を Fig.2-7 に示す.基
油粘度低下に伴い,電気導通状態が絶縁状態へ向けて立ち上がる傾きは小さくなる.1
行程の走行距離 0.5m,停止状態から次の停止までの移動時間 0.27s のうち導通電圧が
0.3V 以下の時間は A0 グリースで 0.17s,A1 グリースで 0.13s,A2 グリースで 0.1s しか
なく残りの時間は金属接触していると推定される.A3 グリースは図示しないがすべて
の移動時間で金属接触していると判断する.
Fig.2-7
Measurement data of changing in viscosity at constant speed
Fig.2-7 一定速度で粘度を変更した場合の測定データ
2.3.2 連続運転での電気導通状態の変化
サンプルA0グリースからA3グリースでの電気導通状態計測実験終了後,A0グリース
を再給脂し100サイクル以下の状態で計測した電気導通波形(初期)と106サイクル走行
後の電気導通波形をFig.2-8に示す.初期の波形と106サイクル後の波形形状に差はなか
った.導通電圧は初期が0.05V,106サイクル後は0.09Vであった.なお,実験中にグリ
ースの追加給脂はしていない.
Fig.2-8
The comparison of measurement result of initial data and after 106 cycle
Fig.2-8 初期と 106 サイクル後の電気導通データの比較
29
第2章
リニア軸受の潤滑状態に及ぼすグリース基油粘度の影響
2.4 考察
2.4.1 油膜形成速度と膜厚比
実験結果の考察のため実験機における膜厚比Λ(Λ=Hmin/h)の計算値と実験結果との
比較を行った.最小油膜厚さHminはHamrock-Dowsonの式
4)
Hmin=3.63G 0.49U 0.68W -0.073 [1-exp(-0.68k )]
から求めた.このとき G は材料パラメータ,U は速度パラメータ,W は荷重パラメ
ータ,k は接触楕円比である.レール並びにキャリッジ転走面の表面粗さの実測値は
0.26μmRrms,鋼球の表面粗さは 0.01μmRrms で,これらを h1,h2 とし 合成粗さ h は二
乗平均粗さで
h=(h12+h22)0.5
の式から 0.26μm とした.負荷はモーメント荷重を考慮せず,垂直荷重のみとし可動
テーブル重量 50kgf(490N)を 2 本のレールに装着された 4 個のキャリッジで均等に支え
たと仮定した.負荷を受けるのは鋼球 4 列のうち上側 2 列のみで 1 列当たり垂直荷重は
61.25N,また予圧も 1 キャリッジの最大値 470N を 2 列で受けるとし 1 列あたり 235N
で合計 296.25N となる.
1 列の有効玉数が 14 個なので鋼球一個の荷重は 21.2N となる.
計算結果を Fig.2-9 に示す.実験値との関係を見やすくするため横軸の速度は鋼球速度
ではなくキャリッジ速度とした.また Fig.2-9 に示す各基油粘度の膜厚比 Λ 計算値線上
の ○ は実験で求めた油膜形成速度である.
Fig.2-9
Base oil viscosity and Λ(Calculated value)
Fig.2-9 基油粘度と膜厚比 Λ の関係
30
第2章
リニア軸受の潤滑状態に及ぼすグリース基油粘度の影響
グリース基油粘度の変更に伴い油膜形成速度も変化するが,膜厚比Λは0.5付近である.
基油粘度30mm2/sではキャリッジ速度3m/sでも膜厚比Λが 0.5程度であり本実験におけ
る電気導通状態の計測結果からも金属接触状況にあると考える.また,A0グリースで
速度1m/s,鋼球一個の荷重が10Nから100N〔テーブル重量952kgf(2330N/キャリッジ)〕
まで変化してもFig.2-10に示すよう膜厚比Λは0.524~0.443の変化であり荷重の影響は少
ないため実験は行わなかった.
Fig.2-10
Fig.2-10
Ball load and Λ(Calculated value)
鋼球荷重と膜厚比 Λ との関係
2.4.2 連続運転での推移
Figure 2-8 の初期の電気伝導度波形と 106 サイクル(1.0×103km 走行)後の電気伝導
度波形に大差なく,導通電圧差も 0.04V で優位差はなく,リニア軸受内のグリースの油
膜厚さは初期と同等の厚さを有していることがわかる.
相原ら 5,6) による円筒での実験結果では早い段階で EHL 膜の厚さが基油の油膜厚さ
の 0.5~0.7 倍になるとの報告があり,よくグリースを用いた文献で引用されるが,市販
リニア軸受では膜厚の大きな変化は発生しない.また,導電電圧の差はグリース中に混
入した金属粉の影響と推察する.
31
第2章
リニア軸受の潤滑状態に及ぼすグリース基油粘度の影響
2.4.3 レールの損傷
本実験において予備実験も含め 1.25×106 サイクル程度,起動停止を繰り返した停止
位置近傍のレール表面粗さ(運動方向に直交)のデータを Fig.2-11 に示す.計測器演算に
よる Rrms 値は初期計測値と同等の 0.25~0.26μm で差異は無かった.プロフィールでは
転走面の突起が減少した程度の変化が確認できた.また,肉眼では光沢に差があること
を確認できたが顕微鏡観察では光沢の差は確認できなかった.
Fig.2-11
Fig.2-11 Surface roughness after 1.25×106 cycle
(Cross section perpendicular to the operating direction)
1.25×106 サイクル後の表面粗さ(転がり方向に直交方向)
2.4.4 グリース選定方法の問題点
リニア軸受用グリースの選定は,JIS に示された用途(たとえば転がり軸受用)とち
ょう度番号だけでは不十分で,グリース基油粘度も考慮しなければならない.本実験に
おいてリニア軸受をキャリッジ速度 1m/s で使用する場合,実使用温度下で 125mm2/s
以上の基油粘度が必要である.
転がり軸受の一種であるリニア軸受の寿命を維持するためには金属表面を起点とす
る損傷を抑える必要がある.そのためには油膜が形成された状態で転がり運動しなけれ
ばならず,本実験において得られた電気導通が無くなる状態,膜厚比 Λ が 0.5 以上で運
転することが重要である.
信頼性試験において「寿命=走行距離」と考え短時間で走行距離を伸ばすため実際の
設備より速い速度,長い移動距離で停止回数も少ない実験をおこなうため破損に至らな
いことが多く,結果的に実機搭載時の加速試験になっていない.
32
第2章
リニア軸受の潤滑状態に及ぼすグリース基油粘度の影響
2.5 結言
グリースの基油粘度を変えて鋼球式リニア軸受の油膜形成速度を計測し下記の結果
を得た.
1)油膜形成速度は基油粘度の影響を受ける.基油粘度が高いほど低い速度で油膜が形
成される
2)本実験では膜厚比 Λ>0.5 で電気導通状態となったことにより,実際の運転に対す
る膜厚比 Λ の目安が得られた.
3)市販リニア軸受においてグリースの油膜厚さは数時間程度の運転では減少しない.
4)グリース選定はちょう度番号のみでなく,基油粘度と膜厚比 Λ にも着目していく必
要がある.油膜が形成された状態でなければ寿命計算はできない.
上記の結果から,膜厚比 Λ<0.5 では金属接触状態であり,転がり疲労寿命が短くな
ると予測される.
33
第2章
リニア軸受の潤滑状態に及ぼすグリース基油粘度の影響
第 2 章の参考文献
1)
潤滑剤銘柄便覧 2011 年版,潤滑通信社,pp.479(2010).
2)
江口・桑原・山本:湿式クラッチ用ペーパ系摩擦材の摩擦力発生機構に関する研
究,トライボロジスト,第 39 巻,第 12 号,pp.1081-1088 (1994).
3)
野口・赤松・是永:小型玉軸受の電食に関する研究,トライボロジスト,第 52
巻,第 8 号,pp.622-628(2007).
4)
B.J.Hamrock & D.Dowson:Isothermal Elastohydrodynamic Lubrication of Point
Contacts:PartⅡEllipticity Parameter Results :Trans ASME, Ser. F, J. Lub. Tech.,98,
3 ,pp.375-383(1976).
5)
相原・Dowson:弾性流体潤滑におけるグリース膜厚さの実験的研究(第 1 報),潤
滑,第 25 巻,第 4 号,pp.254-260(1980).
6)
相原・Dowson:弾性流体潤滑におけるグリース膜厚さの実験的研究(第 2 報),潤
滑,第 25 巻,第 6 号,pp.379-386(1980).
34
第3章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース基油粘度の影響
第3章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼす
グリース基油粘度の影響
3.1 緒言
本章では基油粘度が潤滑状態を支配することを踏まえて,潤滑状態とリニア軸受の転
がり疲労損傷との関係,および転がり疲労寿命を延ばすためにグリースへの摩耗防止添
加剤を添加する効果の有無を確認した 1).
第 2 章において,電気抵抗測定法を用いた潤滑状態の観察で膜厚比 Λ>0.5 で EHL
(Elasto-hydrodynamic Lubrication:弾性流体潤滑)膜によって金属接触しない状態になる
ことを確認した.膜厚比 Λ と転がり疲労寿命との実験による相関をまとめたものを高田
は示しているがすべて回転要素での実験である 2).また,清水らによるとリニア軸受は
非常に大きな熱容量を持っているため焼付き等の損傷はほとんど発生しない.さらに潤
滑方法の違いはほとんど考慮しなくてよいと報告されている 3).
しかし,第 1 章での設備実態調査ではプリント基板を生産する工場において実稼働中
の電子部品実装設備のリニア軸受の損傷は発生しており,特にメンテナンスに関心がな
い工場ほどリニア軸受の故障発生頻度は高い傾向にある.メンテナンスに関心がない工
場ではリニア軸受にフレーキング等の損傷があり,大きな異音を発していてもプリント
基板の製造不良率が上昇しないため生産を続けており(鋼球の一部,キャリッジの部分
的破損は直線上に多くの有効な鋼球を持つリニア軸受では精度に影響がでない),損傷
が発生した時期も分からない場合も多く故障頻度の正確な把握も難しい.実験では工場
での使用状況に近いグリースの選定を行い実験した.
35
第3章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース基油粘度の影響
3.2 実験装置と実験材料
3.2.1 サンプルグリース
実験に用いたサンプルグリースは第 2 章の Table 2-3 に示す A0 グリースと A3 グリー
スである.基油はポリ-α-オレフィン,増ちょう剤が複合リチウムセッケンで酸化防止
剤,防錆剤,摩耗防止添加剤等の各種添加剤は同一量を配合し,基油粘度のみを変更し
たもので性状を再度 Table 3-1 に示す.
Table 3-1
Characteristic of the grease for the experiment
Table 3-1
サンプルグリースの性状
36
第3章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース基油粘度の影響
3.2.2 実験方法
使用した実験装置,リニア軸受は第 2 章で使用したものと同様のものである.
実験装置で使用する前後に配置した 2 組のリニア軸受の 1 組(1 組とは1本のレールに
2 個のキャリッジが装着されたものを言う)のキャリッジには A0 グリースを封入し,も
う 1 組のリニア軸受には A3 グリースを封入した.前後のリニア軸受で異なったグリー
スを使用するため Fig.3-1 の写真で分かるよう前後のキャリッジへの配線は緑色と黒色
の 2 本を接続している.
実験は可動部の総重量を 294N(30kgf)とし,動作は可動テーブルを停止状態から任意
の方向へ加速度 30m/s2 で加速し(加速時間は 0.1s で走行距離は 0.15m)速度 3m/s で定速
走行後(走行時間は 0.07s で走行距離は 0.2m),加速度 30m/s2 で減速し(減速時間は 0.1s
で走行距離は 0.15m),停止する.この 1 行程(走行距離は 0.5m)の後,0.1s 停止し,反対
側に向かい同様の動作で初期の位置に戻り 0.4s 停止するものである.
1.0×103km 走行毎に電気導通状態の確認と観察,追加給脂を行い 1.0×104km 転走面
観察を行い,さらに実験を継続し走行距離が 1.09×104km 時に異常音が発生したため試
験を中止した.
Fig.3-1
Schematic photograph of the test device
Fig.3-1 実験装置の写真
37
第3章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース基油粘度の影響
3.2.3 電気導通状態計測方法
実験装置は油膜の形成,破断状態を確認するため Fig.3-2 に示す電気回路を備えてい
る.電源に 1.5V の乾電池を用い,停止中の短絡状態での乾電池消耗を抑えるため 10Ω
の抵抗を入れ,抵抗両端の電圧をオシロスコープで計測する単純な電気回路で導通状態
を計測した.
本実験においては前後のレールで異なる基油粘度のグリースを使用するため各レー
ルの 1 つのキャリッジの導通状態が計測できるようにした.なお油膜形成による絶縁抵
抗値には変動があるため 0~0.3V で絶縁状態に達したと判断した.
なお,計測は 1.0×103km ごとの評価の際のみ通電しておこなった.
3.2.4 観察とグリースの追加給脂
1.0×103km 走行毎の観察,グリースの追加給脂はキャリッジを可動テーブルからはず
し,レールからも抜き取り,鋼球は樹脂製リテーナに保持された状態を維持し,鋼球,
キャリッジ転動,レール転動を観察の後,再度組み立てた.
組み立ての際,鋼球はキャリッジの同じ走行溝に戻し,リテーナの端部も同一の位置
に戻した.
観察前の洗浄はイソヘキサンを用いて綿棒・ウエスによる拭き取りを行った.レール
もアセトンとイソヘキサンを用いウエスにて拭き取り洗浄を行った.
Fig.3-2
Electric circuit for electrical conductivity measurement
Fig.3-2 電気回路の略図
38
第3章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース基油粘度の影響
3.2.5 実験装置の膜厚比
実験装置の膜厚比 Λ(Λ=Hmin/h)の計算値とキャリッジ速度の関係を Fig.3-3 に示す.最
小油膜厚さ Hmin は Hamrock-Dowson の式
4)
から求めた.レール並びにキャリッジ転走
面の表面粗さの実測値は 0.23μmRrms,鋼球の表面粗さは 0.01μmRrms で,これらを h1,
h2 とし合成粗さ h は二乗平均平方根粗さ h=(h12+h22)0.5 の式から 0.23μm とした.
負荷はモーメント荷重を考慮せず,垂直荷重のみとし可動テーブル重量 294N(30kgf)
を 2 本のレールに装着された 4 個のキャリッジで均等に支えたと仮定した.負荷を受け
るのは鋼球 4 列のうち上側 2 列のみで 1 列当たり垂直荷重は 36.8N となる.また,予圧
も 1 キャリッジの最大値 470N を上側の 2 列で受けるとし,1 列あたり 235N で合計
271.8N となる.1 列の有効玉数が 14 個なので鋼球 1 つあたりの荷重は 19.4N となる.
第 2 章において膜厚比 Λ>0.5 で油膜が形成されること(電気導通測定値で確認)を確認
したが,本実験においても同様で,A0 グリースではキャリッジ速度 0.8m/s 以上で油膜
が形成され,A3 グリースでは最高速度の 3m/s でも油膜が形成されず金属接触状態で運
動している.
Fig.3-3
Relations of carriage speed and the oil film parameter Λ
Fig.3-3 キャリッジ速度と膜厚比の関係
39
第3章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース基油粘度の影響
3.3 実験結果と考察
3.3.1 電気導通状態の確認
Figure 3-4 は A0 グリース並びに A3 グリースの初期電気導通状況の観察結果である.
横軸が時間でフルスケール 1s,縦軸が電圧である.3 つの信号波形のうち,上の 2 つが
電気導通状態を示す波形である.下側が速度信号である.速度信号は可動テーブルの速
度に応じ電圧が変化する.Fig.3-4 では加速・減速域において一定の勾配で上昇・降下
する直線となり,設定の 3m/s まで加速し定速状態になると+5.2V,-5.2V で水平な直線
となる.
電気導通波形の上側は A0 グリースの信号で停止時は予圧と垂直荷重により金属接触
状態にあるため印加電圧の 1V を示している.走行を開始し速度が 0.8m/s では(速度信
号は 1.4V)油膜により絶縁され電流が流れないため導通電圧は 0V(平均電圧は 0~0.2V)
である.
電気導通波形の下側は A3 グリースであるが同様に停止時は印加電圧の 1V を示して
いる.また,最高速度の 3m/s でも完全な絶縁状況ではなく,A0 グリース,A3 グリー
スともに膜厚比 Λ の状況は計算結果と合致している.
それぞれの移動中の平均電圧(Fig.3-4 中の A と D の間)は A0 グリースで 0.12V であり,
A3 グリースでは 0.44V であった.また,速度 3m/s での平均電圧(Fig.3-4 中の B と C の
間)は A0 グリースで 0V であり,A3 グリースでは 0.29V であった.
Fig.3-4
Measurement data in initial
Fig.3-4 初期の測定データ
40
第3章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース基油粘度の影響
3.3.2 レールの観察結果
レール転走面の観察結果のうち 4.0×103km 走行後の写真を Fig.3-5 に示す.同様に 1.0
×104km 走行後の写真を Fig.3-6 に示す.写真は停止位置の 0m(撮影位置はキャリッジ寸
法の中心位置)から 0.20m までを 0.05m 毎に撮影を行った.また図中には加速時のキャ
リッジ到達速度も記載した.
A0 グリースでは 4.0×103km 走行後も 1.0×104km 走行後もレール位置 0m にだけ走行
痕が観察できるが,0.05m 以降の位置では走行痕がはっきりしない.これはキャリッジ
が停止位置から加速し,移動距離が 0.01m に達した時点でキャリッジ速度が油膜形成速
度の 0.8m/s に達するため A0 グリースでは移動するほとんどの領域で EHL 膜により分
離され金属接触が起こらない状態で転がり接触しているため走行痕が現れない.
A3 グリースではレール位置に関係なく走行痕が観察できる.また,4.0×103km に比
べ 1.0×104km の方が走行痕は,はっきりしている.これは計算結果,並びに電気導通
状況からわかるように,完全な油膜を形成することなく運動しているため境界潤滑状態
で常に摩擦したためである.
41
第3章
Fig.3-5
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース基油粘度の影響
Photograph of the rail surface
(4.0×103km)
Fig.3-5 レール表面の写真(4.0×103km)
Fig.3-6
Photograph of the rail surface
(1.0×104km)
Fig.3-6 レール表面の写真(1.0×104km)
42
第3章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース基油粘度の影響
3.3.3 キャリッジの観察結果
キャリッジ転動の観察結果もレール同様,4.0×103km と 1.0×104km 走行後の写真を
Fig.3-7 から Fig.3-10 に示す.
A3 グリースでの実験では Fig.3-7 に示すように 4.0×103km でピッチマークの発生が
確認できた.ピッチマークとはレールやキャリッジにボール間隔(ピッチ)で発生する痕
跡である.今回使用したリニア軸受のようにリテーナで鋼球の位置を規制している場合,
キャリッジが停止する際,同じ位置で鋼球が停止するため等間隔で鋼球の痕跡が残る.
停止位置ではキャリッジと鋼球の間,レールの鋼球の間では EHL 膜ができないため金
属接触状態となり生じる.Fig.3-7 で観察できるピッチマークは表面粗さ計では計測で
きない程度の損傷である.
1.0×104km では Fig.3-8 に示すようピッチマークが消え,転動端部に摩耗痕が生じて
いた(括弧部).これは完全な EHL 膜が形成されずに運動するため停止位置以外にまで損
傷が広がり,明確なピッチマークが見えなくなったためと推測する.また,摩耗粉によ
ると思われるかみ込み跡(矢印)もみられる.
10mm
Fig.3-7
Photograph of the carriage at rolling contact surface (Arrow:Pitch mark)
Fig.3-7 キャリッジ走行面の写真(矢印はピッチマーク)
43
第3章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース基油粘度の影響
10mm
Fig.3-8
Photograph of the carriage at rolling contact surface (Arrow:Wear area)
Fig.3-8 キャリッジ走行面の写真(矢印は摩耗部)
A0 グリースの走行距離 4.0×103km の転動の写真を Fig.3-9 に示すがほとんど走行痕
がない.また,Fig.3-10 は 1.0×104km 時点での観察写真であるが,ごく軽微なピッチマ
ークの発生が確認できる.基油粘度の高い A0 グリースでは油膜形成時間が長いためピ
ッチマークの発生までに時間が必要(接触回数が必要)であったと判断する.
10mm
Fig.3-9 Photograph of the carriage at rolling contact surface
Fig.3-9 キャリッジ走行面の写真(4.0×103km)
44
第3章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース基油粘度の影響
10mm
Fig.3-10 Photograph of the carriage at rolling contact surface (Arrow:Pitch mark)
Fig.3-10 キャリッジ走行面の写真(1.0×104km)(矢印はピッチマーク)
1.0×104km 走行後の観察ではキャリッジの摩耗が発生していたため,転走面の形状測
定,ならびに 5mm 範囲の走行方向の表面粗さ測定も実施した.結果を Fig.3-12 に示す.
チャートの目盛りの縦は 1μm で,横は 2mm である.
(A)の初期のデータは同一ロットの別個体のものである.
(B)の A0 グリースのプロフィールは初期のデータと全体形状,表面粗さ Ra 値ともに差
はない.なお,2 章で膜厚比 Λ の計算の際使用した 0.23 と今回の計測値で 10 倍程差が
あるが,2 章では研削加工方向に直交方向での測定であり,今回は研削方向での計測し
た値である.
(C)の A3 グリースでは端部に摩耗が見られる.端部はボールが無負荷域からレールとキ
ャリッジのすき間に導入される部分で,A3 グリースでは十分な油膜がないため,摩擦
により摩耗したと推定する.表面粗さは摩耗が発生していない部分の計測である.研削
加工の突起部が金属接触による摩擦で削れ,初期より良好な値を示している.
また,キャリッジ片側だけが摩耗するのは Fig.3-11 に示すよう起動停止時のモーメン
ト荷重が 2 個のキャリッジの外側にかかるため赤線のような形状に摩耗したためであ
る.
モーメント
摩耗
Fig.3-11 Moment load of the carriage
Fig.3-11 キャリッジにかかるモーメント
45
第3章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース基油粘度の影響
(A) Initial
Ra:0.029
Rz:1.886
(B) A0 10,000km
1.0×104km
Ra:0.028
Rz:0.593
4km
10,000km
(C)A3 1.0×10
Ra:0.019
Rz:0.359
Fig.3-12 Suface form at rolling contact surface of carriage
Fig.3-12 キャリッジ走行面の形状測定プロフィール
46
第3章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース基油粘度の影響
3.3.4 異常音発生後の観察結果
1.0×104km の評価後,試験を再開し 1.09×104km 走行時に異常音が発生したため試験
を中止した.試験機の周辺の騒音が大きいため,発生音がどちらのリニア軸受のから生
じているかが特定できないため,AE センサ(アコースティックエミッションセンサ)を
キャリッジ側面に貼り付けて弾性波の確認をおこなった.Fig.3-13(a)が A0 グリース側
で,(b)が A3 グリースである.A3 グリース側リニア軸受の 1 個のキャリッジで高い出
力電圧が確認でき,異常音を発生していると予測し,分解確認を実施した.
予想通り A3 グリース側のキャリッジ転走面にはフレーキングが生じていた.Fig.3-14
にキャリッジの写真を示す.Fig.3-14 の左側の白線で囲んだところがフレーキングの位
置である.Fig.3-15 はフレーキング部の拡大写真である.
大きさは走行方向に約 4.5mm,
深さ 30μm のはく離が観察された.Fig.3-16 はレール走行面の写真で,はく離した金属
粉のかみ込み傷がレールの可動ストローク全体にわたり観察された.かみ込み傷と判断
したのは凹んだ部位の底に走行痕が観察されたためである.
a)
b)
Fig.3-13 AE output wave pattern result at 1.09×104 km
Fig.3-13 1.09×104 km 走行後の AE 出力波形
10mm
Fig.3-14 Observation result at 1.09×104 km
Fig.3-14 1.09×104 km 走行後の観察結果
47
第3章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース基油粘度の影響
Fig.3-15 Expansion photograph of flaking area
Fig.3-15 フレーキング部の拡大写真
Fig.3-16 Expansion photograph of the rail after flaking occurrence
Fig.3-16 フレーキング発生後のレールの拡大写真
A3 グリース側キャリッジの転走面の形状測定データを Fig.3-17 に示す.チャートの
目盛りの縦は 1μm で,横は 2mm である.測定箇所は Fig.3-12(C)と同一転走面であり,
測定倍率も同じである.全域の表面粗さも粗くなっており,はく離した金属片をかみ込
んだことにより転走面全体が荒れたことが分かる.同一条件での表面粗さ Ra 値も初期
に比べ 10 倍の値となる.この倍率では,はく離部が大きな欠落になっている.Fig.3-18
は,はく離箇所の深さが分かるよう倍率を下げたもので目盛りの縦は 10μm で,横は
0.5mm である.フレーキングの深さは 30μm から 50μm であった.
Ra:0.226
Rz:1.170
Fig.3-17 Observation result at 1.09×104 km
Fig.3-17 1.09×104 km 走行後の観察結果
48
第3章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース基油粘度の影響
Fig.3-18 Expansion chart of the rail after flaking occurrence
Fig.3-18 フレーキング部の拡大チャート
3.3.5 レール表面の元素確認
試験終了後(1.09×104km),炭素鋼 S55C 製レールを切断し走査型電子顕微鏡(SEM)に
よる観察,並びにエネルギー分散型 X 線分析(EDX)による Zn(亜鉛)マッピング画像写真
による確認を行った.観察したレールの位置は 0m,0.2m である.0m 部の観察結果を
Fig.3-19 に示す.同様にレール位置 0.2m 部の観察結果を Fig.3-20 に示す.また Table 3-2
に A0 グリース,A3 グリースの 0m 部と 0.2m 部,
未使用部分の表面構成元素の割合(wt%)
を示す.
摩耗防止添加剤に含まれる P(リン),S(イオウ),Zn(亜鉛)元素が摩耗防止作用を発現
する際,鋼の表面で化学反応を起こし,残留することが知られている 5).また,未使用
部位のレール表面では P,S,Zn は検出限界以下であった.
レール位置 0m 部において A0 グリース,A3 グリースともにキャリッジ速度が 0m/s
であり,レールと鋼球は接触状態にある.双方とも加減速により金属同士が強く摩擦す
る状態であり,SEM 写真では移動方向に強い走行痕が見られる.また,Zn マッピング
でも Zn の存在が分かる.なお,Zn を選んだのは画像が見やすかったためである.
レール位置 0.2m 部と 0m 部の Zn 量を比較すると,A0 グリースでは 0m 部より 0.2m
部の方が少ない.しかし,A3 グリースでは同等の Zn が存在していることが SEM 写真
で観察できる.これを元素分析で定量化すると Table 3-2 のようになる.Zn 構成 wt%で
比較すると A0 グリースでは 0m 部位では 0.87%で 0.2m 部位の 0.13%に比べ明らかに多
いが,A3 グリースでは 0m 部位 1.09%で 0.2m 部位の 0.91%と差がない.
Zn マッピング画像,表面構成元素比率の双方の分析からも A3 グリースでは移動する
全域におい EHL 膜が形成されていないため金属表面で摩耗防止添加剤が化学反応を起
こしていることが分かった.
49
第3章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース基油粘度の影響
Fig.3-19 Photograph of the rail surface of SEM and Zn mapping (0m)
Fig.3-19 レール表面の SEM 写真と Zn マッピング(0m)
Fig.3-20 Photograph of the rail surface of SEM and Zn mapping (0.2m)
Fig.3-20 レール表面 SEM 写真と Zn マッピング(0.2m)
50
第3章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース基油粘度の影響
Table 3-2 The constituent element ratio of the rail (wt%)
Table 3-2 レールの構成元素比率(wt%)
Element
CK
OK
SiK
PK
SK
MnK
FeK
ZnK
A0
0m
3.85
1.27
0.34
0.19
0.13
1.78
91.56
0.87
A3
0.2m
3.6
1.43
0.43
0.09
0.09
1.62
92.61
0.13
0m
6.97
2.5
0.48
0.27
0.25
1.38
87.05
1.09
0.2m
5.32
1.64
0.36
0.19
0.15
1.59
89.85
0.91
Reference
3.34
1.13
0.33
N.D
N.D
1.12
94.08
N.D
3.4 結言
本章で使用した A3 グリースの基油粘度の 22.7 mm2/[email protected]℃は極端に低粘度な特殊グ
リースではなく,「フレッチング対策」「広温度範囲対応」等を製品の特徴とする市販
工業用グリースでは一般的な基油粘度である.
グリースの基油粘度がリニア軸受の転がり疲労損傷に影響するかならびに,損傷発生
時の転走面の状況観察を行い下記の結果を得た.
1)本実験においてグリース基油粘度が低いほうが転がり疲労寿命が短い.また,フレ
ーキングのような明確な破損が発生するまえに生じるピッチマークやキャリッジ
の摩耗等,フレーキングに至るまでの損傷発生も早い.
2)転走面の摩耗,フレーキング,ともにキャリッジの端部で発生している.これは無
負荷域からレールとキャリッジの間に鋼球が入り込む際に摩擦,並びに衝撃をキャ
リッジに与えるためと推測する.
3)基油粘度が低い方が損傷の発生が早いのは相対的に油膜形成能力が劣るためである.
4)リニア軸受において転走面に摩耗防止添加剤に含有する P,S,Zn が検出されるの
は化学反応をおこしているためで,摩耗防止添加剤の添加は有効である.
5)今後,リニア軸受用グリース選定にはちょう度番号のみでなく,移動速度下で膜厚
比 Λ >0.5 になるような基油粘度選定と摩耗防止添加剤を含むグリースの選定は有
効であると推定する.
51
第3章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース基油粘度の影響
第3章の参考文献
1)
大野・松本:転動体に鋼球を用いたリニア軸受の潤滑状態に及ぼすグリース基油粘
度の影響,トライボロジスト,第 56 巻,第 6 号,pp.371-377 (2011).
2)
高田:ころがり軸受の寿命と表面粗さ,潤滑,第 27 巻,第 2 号,pp.105-109 (1982).
3)
清水茂夫・高橋徹:リニア軸受の転がり疲れと最近の研究動向,トライボロジスト,
第 54 巻,第 3 号,pp.173-179(2009).
4) B.J.Hamrock
&
D.Dowson:Isothermal
Elastohydrodynamic
Lubrication
of
Point
Contacts:PartⅡEllipticity Parameter Results :Trans ASME, Ser. F, J. Lub. Tech.,98,
3 ,pp.375-383(1976).
5) 倉知:極圧剤の作用機構,潤滑,第 28 巻,第 2 号,pp.131-136(1983).
52
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼす
グリース摩耗防止添加剤の効果
4.1 緒言
本章ではグリースに使用する摩耗防止添加剤について検討をおこなった 1).
第 3 章ではリニア軸受がレール端部で停止するため停止位置付近では必ず金属接触
状態となり,損傷防止につながる摩耗防止添加剤が有効であることがレール転走面のエ
ネルギー分散型 X 線分析(EDX)により摩耗防止添加剤の反応による P(リン),S(イオウ),
Zn(亜鉛)の元素が存在することで確認できた.
摩耗防止添加剤として Zn 系添加剤(Zn-1),市販グリースでもよく使用されている
ZnDTP2),すべり軸受や回転要素の転がり軸受で有効とされる MoDTC3)と ZnDTP を併
用したものの 3 種類の摩耗防止添加剤と摩耗防止添加剤無添加の 4 水準とした.また,
摩耗防止添加剤の転走面での化学反応を生じさせるため EHL(Elasto-hydrodynamic
Lubrication:弾性流体潤滑)膜ができない状態で走行する低粘度基油グリース(A3 グリー
ス(30mm2/[email protected]℃))を用いた.
転がり疲労損傷の原因確認のため,各種摩耗防止添加剤の効果とその化学反応が鋼球
表面の及ぼす影響を光学顕微鏡による観察,オージェ電子分光法(AES)による含有元素
の確認.表面硬度をマイクロビッカース硬度計,ナノインデンタ硬度計で確認した.
53
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
4.2 実験装置と実験材料
4.2.1 サンプルグリース
実験に用いたサンプルグリースの性状を Table 4-1 に示す.実験装置の運転中のレー
ル表面温度が 33℃であったため基準温度を 33℃とした.基油粘度は 33℃で 125mm2/s
と 30mm2/s の 2 種類である.基油組成はポリ-α-オレフィンである.増ちょう剤は複合
リチウムセッケンを用いた.酸化防止剤,防錆剤等の各種添加剤は同一量を配合した.
増ちょう剤量も 16~18wt%の範囲内とし製造条件の調整によってちょう度を NLGI 3 号
(220~250)の範囲内とした.
(1)A0 グリース(125mm2/[email protected]℃)は電子部品実装設備用市販グリースである.
以下は実験のために作成したグリースである.
(2)A3 グリース(30mm2/[email protected]℃)は A0 グリースの基油粘度のみを変更したもので各種添
加剤の配合は A0 グリースと同等である.
(3)A3-FMF グリースは A3 グリースの摩耗防止添加剤だけを配合していないグリースで
他の添加剤配合は A3 グリースと同等である.
(4)A3-ZnDTP グリースは摩耗防止剤に ZnDTP を用いたもので他の添加剤配合は A3 グ
リースと同等である.
(5)A3-Zn+Mo グリースは摩耗防止剤に ZnDTP と MoDTC を用いたもので摩耗防止剤総
量,他の添加剤配合は A3 グリースと同等である.
Table 4-1
Characteristic of the grease for the experiment
Table 4-1
サンプルグリースの性状
54
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
A3-ZnDTP グリース,A3-Zn+Mo グリースの調製は A3-FMF グリースに ZnDTP,また
は ZnDTP と MoDTC を加えておこなった.このため性状のうち影響がないと考えられ
る蒸発減量,ロール安定性等の計測は実施していない.
4.2.2 実験装置
実験装置,走行条件,電気導通状態の確認等はすべて 3 章で使用したものと同一の装
置,条件である.装置概略図は 2 章の Fig.2-1,実験装置の写真は 3 章の Fig.3-1 に示す
ものである.本実験でも前後のレールで異なるグリースを使用するため各レールの 1 つ
のキャリッジの導通状態が計測できるよう Fig.3-2 に示す電気回路を用いた.同様に絶
縁抵抗値には変動があるため 0~0.2V で絶縁状態に達したと判断した.
また,実験に使用したリニア軸受も同一仕様のものである.
4.2.3 実験方法
実験装置で使用する 2 本のリニア軸受(レール 1 本に対しキャリッジが 2 個装着され
た状態)が 1 組としてメーカーが精度保証品をしているため以下の組合せで実験を行っ
た.
前レール
1) A0 グリース
2) A3 グリース
3) A0 グリース
4) A0 グリース
-
-
-
-
後レール
A3 グリース
A3-FMF グリース
A3-ZnDTP グリース
A3-Zn+Mo グリース
なお,1)の組合せは第 3 章でおこなった実験である.
55
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
4.3 実験結果
実験は全て異常音の発生とグリースの黒色化の確認により実験を中止した.すぐに分
解確認するため AE による弾性波確認は行っていない.
各グリースでの走行距離は Table
4-2 に示す.実験中に発生した現象等を以下に示す.
Table 4-2
Traveled distance with each grease
Table 4-2
グリースの名称
走行距離,km
A0
10900以上
各グリースでの走行距離
A3
10,900
A3-FMF
4,900
A3-ZnDTP
3,900
A3-Zn+Mo
1,900
4.3.1 電気導通状態の確認
繰り返しとなるが電気導通状態の観察について説明する.Figure 4-1 は A0 グリース
並びに A3 グリースの 1.0×103km 走行後の電気導通状況の観察結果である.横軸が時間
でフルスケール 1s,縦軸が電圧である.3 つの信号波形のうち,上の 2 つが電気導通状
態を示す波形である.一番下側が速度信号である.
速度信号は可動テーブルの速度に応じ電圧が変化する.Figure 4-1 では加速・減速域
において一定の勾配の直線となり,設定の 3m/s で定速状態になると+5.2V,-5.2V で水
平な直線となる.
電気導通波形の上側(最上段)は A0 グリースで下側(中央)が A3 グリースの信号であ
る.どちらも停止時は印加電圧の 1V を示している.また,最高速度の 3m/s では A0 グ
リースは電気絶縁状態であり,A3 グリースでは完全な絶縁状況ではなく計算結果と合
致している.
また,A3-FMF グリース以外のサンプルでは破損発生まで同様の電気導通状態を維持
した.
Fig.4-1
Fig.4-1
Measurement data in A0 and A3 at 1,000km
A0 グリースと A3 グリースの 1,000km 走行後の測定データ
56
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
4.3.2 A3-FMF グリースで発生した導通の異常現象
Figure 4-2 は A3-FMF グリースで 4.0×103km 走行後の電気導通状況の観察結果である.
Figure 4-1 と比較して分かるよう停止位置での電気導通状況に差が発生している.
A3-FMF グリース以外,全てのグリースでは破損に至るまで停止時の金属接触状態は,
印加した電池の電圧を示していたが,A3-FMF グリースでは 0.3~0.8V で変動していた.
このサンプリングの例では A 部の電圧は 0.43V,B 部の電圧は 0.72V であり,停止する
たびに異なる抵抗値を示した.(Fig.4-2 では印可電圧の 1.3V を青色点線で示している)
また,定速域付近でも同時にサンプリングした A3 グリースと比較し,電気導通状況
も絶縁性が良化している.
Fig.4-2
Fig.4-2
Measurement data in A3-FMF at 4.0×103km
A3-FMF グリースの 4.0×103km 走行後の測定データ
57
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
4.3.3 鋼球の電気抵抗
A3-FMF グリース 4.0×103km 走行後の鋼球の写真を Fig.4-3 に示す.また,走行実験
は 4.9×103km で A3-FMF グリース側のレールにグリースの黒色化がみられたため終了
した.実験終了後 Fig.4-4 に示す測定器をもちい鋼球の電気抵抗を測定した.
測定器の構成を Fig.4-5 に示す.測定力 1.5N のシクネスゲージの測定部に銅板を貼り
付け,銅板に挟んで鋼球の電気抵抗を市販マルチメータで測定するものである.銅板同
士を接触させたときの電気抵抗を 0Ω に調整した.鋼球は荷重負荷を受けるキャリッジ
上側の 5 個を抜き取りアセトンで洗浄後に計測した.Table 4-3 には A3-FMF グリース
の他,すべての実験で使用した鋼球の電気抵抗も示している.測定値が∞のものは平均
値を算出する際,マルチメータの測定可能最大値の 42MΩ を用いた.
Fig.4-3
The comparison (A3 and A3-FMF) of the steel ball
Fig.4-3 鋼球の比較(A3 と A3-FMF)
58
第4章
Fig.4-4
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
The measurement instrument of electrical resistance of steel ball(Photograph)
Fig.4-4 鋼球の電気抵抗測定器(写真)
Copper
plate
Ω
Ball
Multiple tester
Fig.4-5
The measurement instrument of electrical resistance of steel ball(Electric circuit)
Fig.4-5 鋼球の電気抵抗測定器(電気回路)
Table 4-3
Comparison of the electrical resistance of the steel ball
Table 4-3 鋼球の電気抵抗の比較
59
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
4.3.4 キャリッジの観察結果
実験に使用したキャリッジの写真,破損部の拡大写真,レール表面写真,及びキャリ
ッジ転走面の転がり方向表面粗さを Fig.4-6~Fig.4-28 に示す.
実験の終了の目安とした「グリースの黒色化」の原因はキャリッジの破損による金属
粉の混入であった.破損した全てのキャリッジは,鋼球がキャリッジ無負荷域から荷重
を支える負荷域に入るクラウニング部(傾斜部)で発生している.この場所で鋼球がレ
ール並びにキャリッジに衝突するためで,複数個ある鋼球や場所が移動するレールと異
なり,同じ場所で衝撃を繰り返し受けるためキャリッジ側の損傷が早いと想定する.
また,レールの傷,噛み込み傷の大きさの差異は破損発生から実験装置を停止させる
までの時間によりばらつきが発生したと推定している.
(1) A0 グリースによる実験後の観察(走行距離 1.09×104km)
Figure 4-6 はキャリッジ全体の写真である.同時に実験していた A3 グリース側の破
損により実験を中止したもので,キャリッジ,レール,鋼球の全てで異常は見られなか
った.Figure 4-7 はキャリッジの転走面のプロフィールである.また Fig.4-8 はレール転
走面の写真である.(実験は第 3 章で実施した)
10mm
Fig.4-6 Photograph of the carriage after the run of the A0 grease(1.09×104km)
Fig.4-6 A0 グリースの走行後のキャリッジの写真(1.09×104km)
60
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
Fig.4-7 Surface profile of the carriage raceway of the A0 grease
Fig.4-7 A0 グリースのキャリッジ転走面の表面プロフィール
2mm
2mm
Fig.4-8 Photograph of the rail side raceway of the A0 grease
Fig.4-8 A0 グリースのレール側転走面の写真
61
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
(2) A3 グリースによる実験後の観察(走行距離 1.09×104km)
A3 グリースによる実験の結果は 3 章での実験後状態である.走行距離は 1.09×104km
で異音により実験を中止した.キャリッジ,鋼球,レールの変色は新品と比較しないと
確認できない程度の状態である.
10mm
Fig.4-9 Photograph of the carriage after the run of the A3 grease(1.09×104km)
Fig.4-9 A3 グリースの走行後のキャリッジの写真(1.09×104km)
Fig.4-10 Surface profile of the carriage raceway of the A3 grease
Fig.4-10 A3 グリースのキャリッジ転走面の表面プロフィール
62
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
Fig.4-11 Expansion surface profile of the rail after flaking occurrence
Fig.4-11 フレーキング部の拡大表面プロフィール
Fig.4-12 Expansion photograph of flaking area
Fig.4-12 フレーキング部の拡大写真
2mm
Fig.4-13 Photograph of the rail side raceway of the A3 grease
Fig.4-13 A3 グリースのレール側転走面の写真
63
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
(3) A3-FMF グリースによる実験後の観察(走行距離 4.9×103km)
Figure 4-14 は A3-FMF グリースの実験後の状態である.走行距離は 4.9×103km で上
記 A3 グリースの半分ほどの走行距離であるが,レールの変色は最も強かった.
Fig.4-14 Photograph of the carriage after the run of the A3-FMF grease(4.9×103km)
Fig.4-14 A3-FMF グリースの走行後のキャリッジの写真(4.9×103km)
Fig.4-15 Surface profile of the carriage raceway of the A3-FMF grease
Fig.4-15 A3-FMF グリースのキャリッジ転走面の表面プロフィール
64
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
Fig.4-16 Expansion surface profile of the rail after flaking occurrence
Fig.4-16 フレーキング部の拡大表面プロフィール
3mm
Fig.4-17 Expansion photograph of flaking area
Fig.4-17 フレーキング部の拡大写真
2mm
Fig.4-18 Photograph of the rail side raceway of the A3-FMF grease
Fig.4-18 A3-FMF グリースのレール側転走面の写真
65
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
(4) A3-ZnDTP グリースによる実験後の観察(走行距離 3.8×103km)
Figure 4-19 は A3-ZnDTP グリースの実験後の状態である.走行距離は 3.8×103km で
キャリッジの細かな はく離とはく離後,長時間走行したために発生したと推定する傷
がレールとキャリッジにある.キャリッジ,鋼球,レールの変色は新品と比較しないと
確認できない程度の状態である.
10mm
Fig.4-19 Photograph of the carriage after the run of the A3-ZnDTP grease(3.8×103km)
Fig.4-19 A3-ZnDTP グリースの走行後のキャリッジの写真(3.8×103km)
Fig.4-20 Surface profile of the carriage raceway of the A3-ZnDTP grease
Fig.4-20 A3-ZnDTP グリースのキャリッジ転走面の表面プロフィール
66
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
Fig.4-21 Expansion surface profile of the rail after flaking area
Fig.4-21 フレーキング部の拡大表面プロフィール
3mm
Fig.4-22 Expansion photograph of flaking area
Fig.4-22 フレーキング部の拡大写真
2mm
Fig.4-23 Photograph of the rail side raceway of the A3-ZnDTP grease
Fig.4-23 A3-ZnDTP グリースのレール側転走面の写真
67
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
(5) A3-Zn+Mo グリースによる実験後の観察(走行距離 1.9×103km)
Figure 4-24 は A3-Zn+Mo グリースの実験後の状態である.走行距離は 1.9×103km でキャ
リッジには長さ 4.5mm,深さ 30μm~40μm のはく離とはく離後の走行時間が長いため付
いたと推定する傷がレールとキャリッジにある.キャリッジ,鋼球,レールの変色は新品
と比較しないと確認できない程度の状態である.
10mm
Fig.4-24 Photograph of the carriage after the run of the A3-Zn+Mo grease(1.9×103km)
Fig.4-24 A3-Zn+Mo グリースの走行後のキャリッジの写真(1.9×103km)
Fig.4-25 Surface profile of the carriage raceway of the A3-Zn+Mo grease
Fig.4-25 A3-Zn+Mo グリースのキャリッジ転走面の表面プロフィール
68
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
Fig.4-26 Expansion surface profile of the rail after flaking area
Fig.4-26 フレーキング部の拡大表面プロフィール
3mm
Fig.4-27 Expansion photograph of flaking area
Fig.4-27 フレーキング部の拡大写真
2mm
Fig.4-28 Photograph of the rail side raceway of the A3-Zn+Mo grease
Fig.4-28 A3-Zn+Mo グリースのレール側転走面の写真
69
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
4.3.5 鋼球の観察
走行実験後の鋼球の外観写真,並びに走査型電子顕微鏡写真を Fig.4-29 に示す.鋼球
の変色の原因は酸化膜による光の干渉,またはグリースに添加した各種添加剤の反応に
より生じたものと推測される.これを確認するためオージェ電子分光法(AES)により
酸化膜の厚み,含有元素を確認した.キャリッジやレールの転走面にも同様の変色が生
じているが分析器のチャンバに入れるためには切断する必要があり,切断時の熱の影響
や汚染の可能性があるため鋼球のみの測定とした.
AES 分析の条件は一次電子線の加速電圧 10kV,電流 10nA,エッチング条件は加速電
圧 2kV ,フィラメント電流 25mA ,エッチングレートは SiO2 換算で,未使用品は
2.5nm/min,A0 グリース,A3 グリース,A3-FMF グリース,A3-ZnDTP グリースは 10.4
nm/min,A3-Zn+Mo グリースは 5.2nm/min である.
AES depth profile を Fig.4-30~Fig.4-36 に示す.ASE depth profile チャートでは横軸が
深さ方向を示し縦軸が各元素の強度を示す.また,Fig.4-37 に示す酸化膜の厚さは
(最大強度-最小強度)/2
の位置を酸化層の界面として算出している.
AES による測定結果から鋼球の変色原因は酸化膜によるテンパーカラーで有ること
が分かった.
また,A3-FMF グリースで電気導通が急激に変化した原因も酸化膜によるものであっ
た.
70
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
A0:1.09×104km
New
A3:1.09×104km
A3:4.9×103km
A3-FMF:4.9×103km
A3-ZnDTP:3.8×103km
A3-Zn+Mo:1.9×103km
Fig.4-29
Appearance photograph and the SEM photograph of the steel ball
Fig.4-29 鋼球の外観写真と SEM 写真
71
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
Figure 4-30 は未使用鋼球の AES depth profile である.横軸のフルスケールは 50nm で
ある.酸化層の厚みは 7nm であった.
Fe
O
C
Na
S Cl
Fig.4-30 AES depth profile of the new steel ball
Fig.4-30 未使用鋼球の AES depth profile
Figure 4-31 は A0 グリース 1.09×104km 走行後の AES depth profile である.横軸のフ
ルスケールは 300nm である.酸化層は 24nm.添加剤由来の S と Zn は酸化層内に点在
している.
Fig.4-31 AES depth profile of A0 Grease at 1.09×104km
Fig.4-31 A0 グリース 1.09×104km 走行後の AES depth profile
72
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
Figure 4-32 は A3 グリース(1.09×104km 走行で破損)の AES depth profile である.横軸
のフルスケールは 500nm である.酸化層は 69nm.添加剤由来の P は最表面に存在し,
S,Zn は酸化層内に点在している.他のサンプルにはない C が深くまで存在するがグリ
ース由来と推定する.
Fe
O
C
Zn
S
P
Chart 3 Depth Profile:30
Fig.4-32 AES depth profile of A3 Grease at 4.9×103km
Fig.4-32 A3 グリース 4.9×103km 走行後の AES depth profile
Figure 4-33 は A3 グリース(4.9×103km 走行実験中止)の AES depth profile である.
横軸のフルスケールは 100nm である.酸化層は 19nm.添加剤由来の P,S,Zn が酸化
層に微量含まれていた.
O
C Zn
Fe
S
P
Fig.4-33 AES depth profile of A3 Grease at 4.9×103km
Fig.4-33 A3 グリース 4.9×103km 走行後の AES depth profile
73
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
Figure 4-34 は A3-FMF グリース(4.9×103km 走行で破損)
の AES depth profile である.
横軸のフルスケールは 500nm である.酸化層は 150nm.酸化層内に他のサンプルでは
見られない Al,Si が有るが塵芥に由来するものと推定する.
Fe
O
C
Al
Na S Cl
Si
Fig.4-34 AES depth profile of A3 FMF Grease at 4.9×103km
Fig.4-34 A3-FMF グリース 4.9×103km 走行後の AES depth profile
Figure 4-35 は A3-ZnDTP グリース(3.8×103km 走行で破損)の AES depth profile であ
る.横軸のフルスケールは 300nm である.酸化層は 28nm.添加剤由来の P は最表面の
みに,S,Zn は酸化層に点在する.
Fe
O
C
Zn
S
P
Fig.4-35 AES depth profile of A3-ZnDTP Grease at 3.8×103km
Fig.4-35 A3-ZnDTP グリース 3.8×103km 走行後の AES depth profile
74
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
Figure 4-36 は A3-Zn+Mo グリース(1.9×103km 走行で破損)の AES depth profile であ
る.横軸のフルスケールは 300nm である.酸化層は 24nm.そのうち最表面は炭素を多
く含み,その下に S を多く含む酸化層が 9nm あり,この S を含む層に Zn と Mo が点在
している.
Fe
O
C
S
Mo Zn
Fig.4-36 AES depth profile of A3-Zn+Mo Grease at 1.9×103km
Fig.4-36 A3-Zn+Mo グリース 1.9×103km 走行後の AES depth profile
4.3.6 鋼球硬度の測定方法の差
鋼球の硬度はマイクロビッカース硬度とナノインデンタ硬度を測定した.マイクロビ
ッカース硬度の測定荷重は 1,960mN(200g)で,圧痕深さは約 3μm である.ナノインデ
ンタによる測定の荷重は 7mN(0.714g)で圧痕の深さは 0.42μm~0.52μm である.
ナノインデンタ硬度がマイクロビッカース硬度に比べ高い数値を示すのは三角錐圧
子先端の加工時に生じる丸みによるものと考えるが 4),今回は同一圧子,同一荷重での
比較であるためマイクロビッカース硬度との相関は論じない.
全てのサンプルのマイクロビッカース硬度は 844~866Hv で摩耗防止剤添加の影響を
確認できなかったが,ナノインデンタ硬度では摩耗防止剤添加による硬度変化が明らか
となった.
75
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
4.4 考察
4.4.1 基油粘度の影響
本実験において高粘度基油の A0 グリースは 1.09×104km の走行距離では破損を発生
していない.A0 グリースと A3 グリースは添加剤配合も同等で基油粘度以外の組成差
はなく,基油粘度以外の性状も同等である.全ての実験での破損発生場所であるキャリ
ッジのクラウニング部である.クラウニング部でも膜厚比 Λ が 0.5 以上で EHL 膜が保
たれると仮定すると,A0 グリースの場合,キャリッジが停止位置から 11mm 移動した
時点でキャリッジ速度は 0.8m/s に達し,膜厚比 Λ は 0.5 となる.鋼球はリテーナによっ
て 3mm ピッチで保持されているため,鋼球の移動距離はキャリッジ移動距離の半分と
なるから,油膜ができるまでに 2 回程度,鋼球が衝突する事になる.しかし A3 グリー
ス等の低粘度基油では Fig.4-2 から分かるよう全行程で鋼球が油膜に保護されず,衝突
していると推測できるので鋼球が 250mm 移動する間に 83 回程度衝突することになる.
リニア軸受の寿命が基油粘度の影響を受けやすい要因の一つと想定する.
4.4.2 鋼球変色の影響
鋼球の変色は酸化膜によるテンパーカラーである.Figure 4-37 に示す様,鋼球の色が
濃くなる程,酸化膜厚さが厚くなることが分かる.また,Table 4-2 に示す鋼球の電気抵
抗は高い順に
A3-FMF
>
A3
>
A0
>
未使用鋼球
であり,これも Fig.4-37 の酸化膜厚さ,鋼球の色の濃さと相関がある.
同じ基油粘度の A3-FMF グリース,A3-ZnDTP グリース,A3-Zn+Mo グリースを比較
すると摩耗防止添加剤の入っていない A3-FMF グリースの鋼球の変色,酸化膜厚さは大
きいが,破損までの走行距離は長い.また,摩耗防止添加剤を使用した場合テンパーカ
ラーの発生はほとんどないが破損は早い.
従って,鋼球の変色は必ずしも転がり疲労寿命に悪影響を及ぼすとはいえない.
76
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
Fig.4-37
Result of run experiment
Fig.4-37
走行実験の結果
77
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
4.4.3 摩耗防止添加剤の影響
今回使用した摩耗防止添加剤は Zn 系(A0 グリース,A3 グリース), ZnDTP(A3-ZnDTP
グリース),ZnDTP と MoDTC の併用(A3-Zn+Mo グリース)の 3 種類である.Table 4-1
の高速四球式球試験による耐荷重性能を同一粘度で比較すると摩耗防止添加剤を添加
した 3 種類のグリースはすべて未添加の A3-FMF グリースに比べ良好な耐荷重性能を示
すが,転がり疲労寿命は短い.最も摩擦係数が低い ZnDTP+MoDTC が転がり疲労寿命
も短い結果となった.
Figure 4-38 はナノインデンタ硬度と走行距離の相関を示したものである.横軸がナノ
インデンタ硬度で縦軸が走行距離である.×印は摩耗防止添加剤が入っていない
A3-FMF グリースで,白印が破損したサンプル,黒印が非破損サンプルである.グラフ
から摩耗防止添加剤を添加した場合,ナノインデンタ硬度が低いほど転がり疲労寿命が
短くなることがわかる.しかしマイクロビッカース硬度では Hv855±11 の硬度差で,測
定バラツキ程度の差であり摩耗防止添加剤の差とは言えない.測定方法により差異が発
生する理由は摩耗防止添加剤が表面近傍で化学反応を生じ 5),低硬度生成物の影響を受
けたためで,マイクロビッカースでの測定深さ 3μm では表面近傍の影響が小さいため
と差が確認できないと判断する.ZnDTP,ZnDTP+MoDTC が金属表面に対し,腐食性
が強いため金属疲労による表面亀裂を発生するため転がり疲労寿命が短いと判断する
6)
.
Fig.4-38
Relations of the hardness and the travel distance
Fig.4-38 硬度(HIT)と走行距離の関係
78
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
4.4.4 リニア軸受の転がり疲労寿命への影響
MoDTC(有機モリブデン系摩耗防止添加剤)が転がり はく離防止に有効という報告も
あるが 7),リニア軸受では有効ではなかった.理由は低摩擦による転動体のすべりと推
測する.Fig.4-39 は転がり要素内の鋼球の状態の略図である.
回転運動軸受の場合でも,支持剛性,位置決め精度,振動等の性能を向上させるため
一般的に予圧を掛けて使用する.Fig.4-39(A)において予圧をうけた転動体は,負荷域は
大きく弾性変形し,無負荷域では変形量が小さくなるが,常に予圧で拘束されながら負
荷が変化する.
しかしリニア軸受の場合 Fig.4-39(B)に示すよう無負荷域(リターン部)の転動体は拘束
されない状態で移動する(市販品の実測では直径で 0.2mm も大きい穴を通過するため
無回転状態と考える).そしてエンドキャップと呼ばれる移動方向を変える部分では慣
性力で外側に押し当てられ進行方向を変えられるため,エンドキャップに沿って回転し,
負荷域のクラウニング部に入ってきて,レール,キャリッジと接触し,整列,回転運動
を始める.この時,赤丸で囲んだように回転方向が変えられると推定する.摩擦係数が
低いと長時間すべる状態が続き,それはキャリッジでは同じ場所で発生する.すべりに
伴う発熱でさらに腐食反応を促進するため活性の強い耐荷重性能が高い添加剤ほど表
面亀裂の発生,進展を伴い,短時間で疲労が蓄積され転がり疲労寿命が短くなると推測
する.
回転運動軸受
Fig.4-39
リニア軸受
Estimation of rolling element motion in the element is in condition to roll
Fig.4-39
転がり要素内の転動体の運動状態の推定
79
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
4.5 結言
グリースの基油粘度,摩耗防止添加剤の種類を変更してリニア軸受の構成部品観察を
行い以下の結果を得た.
1)転動体(鋼球)の変色は必ずしも転がり疲労寿命に悪影響を及ばさない.鋼球の
変色は酸化膜の厚さにより変化する.
2)グリース基油粘度は高い方が油膜形成能力も高く,転がり疲労寿命が長い.
3)グリースの耐荷重性能,摩擦係数の優劣が転がり疲労寿命の長さを決定しない.
4)鋼球のナノインデンタ硬度が低いほど転がり疲労寿命は短くなる.したがってナ
ノレベルで硬度が大きい反応膜を形成できる摩耗防止添加剤を選定することが
リニア軸受での転がり疲労寿命を長くするために重要である.
80
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
第 4 章参考文献
1)
大野・松本:転動体に玉を用いたリニア軸受の転がり疲れ寿命に及ぼすグリース基
油粘度と摩耗防止剤の影響,精密工学会誌,第 79 巻,第 2 号,pp.159-164,(2013).
2)
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3)
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スト,第 36 巻,第 3 号,pp.242-248,(1991).
4)
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価,原子力安全システム研究所,INSS JOURNAL8,pp.166-173,(2001).
5)
叶:ナノスケール構造・物性の解析による MoDTC/ZDDP トライボフィルムの摩擦
低減機構の解明,トライボロジスト,第 51 巻,第 9 号,pp.627-632,(2006).
6)
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ロジスト,第 43 巻,第 4 号,pp.317-324,(1998).
7)
小宮・中田・吉崎:有機金属系極圧添加剤を添加したグリースの転がり接触におけ
る表面膜形成,トライボロジー会議予稿集,pp.7,仙台 2002-10.
81
第4章
リニア軸受の転がり疲労に及ぼすグリース摩耗防止添加剤の効果
82
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
5.1 緒言
本章では電子機器で使用されている機構要素の例として,高い回転精度が要求される,
ハードディスクドライブ(以下 HDD と記す)スピンドルモータのほとんどに採用されて
いる流体軸受の潤滑剤の劣化に関する研究を報告する.
HDD スピンドルモータは年間 6 億台が生産され,そのほとんどが流体軸受を採用し
ている.流体軸受の設計的課題に関する研究報告は多く,流体潤滑状態の設計 1),油膜
破壊に関する解析 2),キャビテーションによる油膜破断 3),商品化における軸受構造
4)
などがある.しかし流体軸受用潤滑剤に関する研究報告はほとんどなされていない.潤
滑剤の劣化は流体軸受を用いた機器の寿命を左右する重要な課題である.
商品化段階においては実機に近い形態での寿命予測を求められるがモータのプリン
ト基板などの樹脂部品の耐熱性や潤滑剤粘度の低下などから試験ができる温度には限
界がある.前述の設計的課題が有る場合,百時間程度で故障が発生することから流体軸
受装置の寿命は数千時間稼働した実機搭載試験の結果と潤滑剤単体での熱加速試験の
結果から予測することになる.
潤滑剤単体の評価でよく用いられるアレニウスプロットによって粘度変化率から予
測した寿命と,流体軸受装置に搭載し 22,850 時間(2 年 7 ヶ月間)連続運転した後の潤滑
剤との比較を行い,潤滑剤単体寿命から実機搭載寿命を予測する方法が正しいかを確認
することを目的とした.
また,多くの流体軸受搭載機器を開発し,市場投入してきたが,それらの商品の多く
は流体軸受装置の予測寿命 (消費電流の変化や軸受剛性変化 )より長期間使用できるこ
とを経験しており,その要因の考察もおこなった.
83
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
流体軸受装置の例として Fig.5-1 に HDD スピンドルモータの構造の例を示す.軸受部
には 10mm3 の潤滑剤が封入されている.Table 5-1 には流体軸受用潤滑剤で用いられる
代表的な基油であるポリ-α-オレフィン(PAO),パーフルオロポリエーテル(PFPE),ジ-2エチルヘキシルセバケート(DOS),トリメチロールプロパン-トリス-カプリル酸エステ
ル(TMP-C8),トリメチロールプロパン-トリ(吉草酸・エナント酸混合)エステル(TMP-C5・
7),ネオペンチルグリコール-ジ-カプリル酸エステル(NPG-C8),ネオペンチルグリコー
ル-ジ-ペラルゴン酸エステル(NPG-C9)の性状を示す.
ビデオテープレコーダの回転ヘッドシリンダには PAO が用いられ MPU ファンモー
タでは PFPE が用いられ HDD では DOS,TMP-C8,NPG-C8 などのエステル系が用いら
れている.
Fig.5-1
Example of hydrodynamic grooved bearings for HDD spindle motor
Fig.5-1 流体軸受式 HDD スピンドルモータの例
Table 5-1
Example of the lubrication of hydrodynamic grooved bearings
Table 5-1
流体軸受用潤滑剤の例
84
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
5.2 流体軸受のトライボロジー課題
流体軸受はトライボロジーの点で以下の 3 つの課題を有している.
(1) 起動停止時には必ず軸受面に接触する.
(2) 潤滑剤が飛散・流出する.
(3) 潤滑剤が蒸発・性能劣化する.
5.2.1 起動停止時の摩耗対策
流体軸受はシャフト,またはスリーブが回転する事で動圧発生グルーブが圧力を発生
し非接触状態で回転する.当然 Fig.5-2 に示すように動圧発生グルーブが起動停止時に
接触すると摩耗が生じる.設計的には低回転で浮上するグルーブ設計を行い,潤滑剤で
はリン酸エステル系摩耗防止添加剤の配合が有効である.
シャフト
グルーブ
のエッジ
スリーブ
Fig.5-2
Abrasion mechanism
Fig.5-2 摩耗のメカニズム(出典:文献 4)
最も有効であったのはグルーブの形成方法である.Fig.5-3 は 3 種類の異なるグルー
ブ形成法からなる軸受の断面とこれら軸受の耐摩耗性の差を示したものである.Fig.5-4
はフェログラフィー分析により摩耗粉発生量を定量分析した結果である.(A)のシャフ
ト外周グルーブ軸受は摩耗が多く,(B),(C)のスリーブ内周グルーブ軸受は少ない.こ
のように硬質シャフトの外周面にグルーブを加工した流体軸受に比べ,比較的柔らかい
材料からなるスリーブの内周面にグルーブを加工した方が耐摩耗性に優れ
4)5)
,工法的
にはエッチングによる加工ではエッジが直角に近くなるが,ボール転造法では,なだら
かなグルーブ断面となるためである.
85
第5章
Fig.5-3
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
Difference of the groove formation method
Fig.5-3 グルーブ形成法の違い(出典:文献 4)
Fig.5-4
Quantitation assay data of wear particle
Fig.5-4 摩耗粒子の定量評価データ(出典:文献 5)
86
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
5.2.2 潤滑剤の飛散・流出
流体軸受における潤滑剤の飛散・流出の要因は「にじみ出し」,「バブル」,「衝撃」
である.
「にじみ出し」はフッ素系コーティング剤が有効であり,長期間放置条件での流出を
防いでくれる 4).
「バブル」とは潤滑剤に溶解した空気等の気体であり,軸受内の圧力変動で発生した
バブルを速やかに排出できる軸受構造とグルーブパターンで対応する.Fig.5-5 のよう
にヘリングボーンパターンを外側の半分が長い非対称にすることで軸受すきまに充満
した潤滑剤を外へ流出することなく,内部に保持することが可能となり潤滑剤漏れが発
生しなくなる 4).
Fig.5-6 はヘリングボーングルーブの角度,軸受長さと発生圧力の関係を示したグラ
フである.グルーブ角度は片側約 30 度が最大の発生圧力となる,また,軸受長さは長
い程発生圧力が高くなる.しかし気液境界面での空気の巻き込みと潤滑剤の漏れが生じ
やすいことを実験ならびにシミュレーションにより確認し,グルーブ角度は 20 度にす
ることで潤滑剤漏れを防いでいる 4).
Fig.5-5
Pumping seal
Fig.5-5 ポンピングシール(出典:文献 4)
87
第5章
Fig.5-6
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
Relations of a groove angle, bearing length and the pressure
Fig.5-6 グルーブ角度,軸受長さと発生圧力の関係
Fig.5-7 はエッチングでグルーブを設けたシャフトにアクリル製スリーブを組み合わ
せた観察用流体軸受である.潤滑剤は顔料により赤く着色している.前述のように上側
のヘリングボーングルーブは a>b の非対称になっている.(A)は停止状態の写真で①の
部分は潤滑剤で満たされているが部分的に気泡が入っている.また,②部分は上下グル
ーブを分離する空隙であり,潤滑剤で満たされている.(B)は回転中の写真である.上
グルーブの a 側は b 側の圧力と均衡がとれる位置までしか潤滑剤で満たされないため
(B)の①には潤滑剤がない.停止中にあった②の空隙部の潤滑剤はグルーブ内の気泡と
入れ替わったため空気の帯となっている.(A)と(B)は可逆的であり潤滑剤の流出がなく,
回転中には常にグルーブの有効長さを潤滑剤で満たしている.
A)
B)
①
a
b
②
Fig.5-7
Photograph of the lubricant behavior in the bearing
Fig.5-7 軸受内の潤滑剤挙動の写真
88
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
非対称のヘリングボーングルーブにより潤滑剤の流出を防止できるが,それでも軸受
すきまから潤滑剤が流出することがあり,それに対応するため Fig.5-8 に示すようにシ
ャフト側にテーパ形状の潤滑剤溜まり設けることが高速回転時に有効である.シャフト
側にテーパを加工しておくことにより,軸受が回転をはじめると,テーパ部にある潤滑
剤には遠心力が加わる.テーパ部の潤滑剤は壁面に沿った遠心力の分力 F が作用する.
1 式において m は潤滑剤質量,r は潤滑剤が付着している位置の半径,ω は回転時の角
速度で θ はテーパの角度である.
F = mrω2sinθ
(1)
この構造を用いることで,軸受すきまから離れた位置にある潤滑剤も軸受すきま内に
供給され,潤滑剤の流出を防いでいる 4).
Fig.5-8
Centrifugal force seal
Fig.5-8 遠心力シール(出典:文献 4)
89
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
衝撃に対しては潤滑剤自身の持つ表面張力で十分に対応できる 4).Fig.5-9 は潤滑剤の
漏れが発生する際の落下衝撃値と軸受半径すきまの関係を示したものである.軸受直径
4mm の SUS420J2 製シャフトとアクリル製スリーブからなる透明流体軸受モデルを作成
し,ゴムブロック式落下衝撃試験機を用いて最大加速度 230G までの落下衝撃を加えた
際,軸受すきまの潤滑剤流出状態を確認したデータである.軸受半径すきまは 20μm~
100μm で実施した.Fig.5-9 から半径すきまが 20μm 以下であれば 230G の衝撃でも潤
滑剤流出は生じない.実際の流体軸受の設計において,軸受半径すきまは 2μm~15μ
m と十分に小さい範囲で設計されるため問題はない 4).
Fig.5-9
Fall-impact resistance performance
Fig.5-9 耐落下衝撃性能(出典:文献 4)
90
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
5.2.3 振れ回りによる流出
正常に生産された流体軸受では潤滑剤の流出はほとんど発生しないが,製造工程にお
いてシャフトが変形した場合は流出する事がある.対策としてはシャフト締結時にシャ
フトの変形しない工程,検査の徹底である.
潤滑剤の流出原因は圧力解析により検証した.振れ回りとは Fig.5-10 に示すようにシ
ャフトが変形した状態で回転することで,計算時の振れ回り量は 1μm と設定した.
Fig.5-10
Outline of shaft deflection
Fig.5-10
シャフト振れ回りの概要
Fig.5-11 Pressure analysis chart
Fig.5-11
圧力解析図
91
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
流体軸受内に潤滑剤を保持する力は表面張力である.気液境界面の表面張力によるシ
ール圧力 P1 は,スリーブ側表面張力 F1(式 2)とシャフト側表面張力 F2 (式 3)を合わせ
た表面張力 F(式 4)を気液境界面の開口部面積 A で割ったもの(式 5)となる.
F1=πD×γ×cosθ
(2)
F2=πd×γ×cosθ
(3)
F=F1+F2
(4)
P1=F/A
(5)
上式において D はスリーブ側直径で潤滑剤溜めのテーパ部分の直径となり,d はシャ
フト外径となる.γは潤滑剤の表面張力である.θ は潤滑剤がシャフト,スリーブの間
で示す接触角である.上式を計算するとシール圧力は約 2.0×103 Pa となる.
圧力解析図 Fig.5-11 では軸受発生圧力を色で示しているがオートスケールによる配色
で(A)と(B)でフルスケールが異なり,比較しにくいが Fig.5-12 のグラフで比較すると理
解しやすい.横軸が軸受 1 周の角度を示し,縦軸がポンプ排出力である.グラフの実線
が振れ回りがあるときの軸受上端の圧力分布であり,点線は振れ回りが無い状態である.
1μm の振れ周りがあると最大 2.5×105 Pa のポンプ排出力が発生する.これは表面張力
シール力の 100 倍以上の圧力であり,短時間で潤滑剤の流出がする原因と推測できる.
製造段階において発生する不具合でも潤滑剤は流出する.
3.0×105
2.0×105
1.0×10
05
0
-1.0×105
Fig.5-12 Pressure distribution of the bearing upper end
Fig.5-12
軸受上端の圧力分布
92
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
5.2.4 潤滑剤の蒸発・性能劣化
トライボロジー課題の(1)「起動停止時には必ず軸受面に接触する」課題は回転体負
荷の増加と試験温度を上げることで境界潤滑状態を作り出し加速試験をおこなうこと
で加速できる.
(2)の「潤滑剤が飛散・流出する」課題も Fig.5-7 のようにバブルの占有面積の観察を
30 分程度行い確認できる.また,耐衝撃性も数回の落下衝撃試験で結果が判明する.
製造段階で生じた不具合も数時間のライフテストで潤滑剤流出による異常振動が生じ
るため短時間で確認できる.
しかし潤滑剤の劣化については容易ではない.
潤滑剤単体の物性変化はアレニウスプロットによって予測できる.しかしながら商品
化段階においては実機に近い形態での寿命予測を HDD ユニットメーカから要求される.
HDD スピンドルモータの形態ではモータ等に樹脂部品があり,その耐熱性や潤滑剤粘
度の低下から加速試験ができる温度の上限が 90℃程度と低い.
HDD ユニットを製造するメーカも潤滑剤単体での予測寿命が製品の寿命を満足する
ことは理解してもらえるが,回転状態でも潤滑剤寿命が製品寿命を満足することを証明
することを HDD スピンドルモータ製造メーカに要求している.
93
第5章
5.3 実
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
験
5.3.1 潤滑剤の使用限界値
HDD スピンドルモータは HDD ドライブユニットのハウジング(外箱)に入っており,
ハウジング内は気圧変化に対応するためのフィルタを介して外気とつながっているが
ほぼ密閉状態にある.スピンドルモータの軸受付近はハウジングを通じて放熱するが,
外部より 10℃程度高い温度を示す(ヘッドユニットを駆動するシークモータの発熱量の
方がはるかに大きい).HDD ドライブユニットメーカーが要求する許容動作温度範囲は
5℃~40℃であり,スピンドルモータでは 0℃~60℃である.
HDD スピンドルモータで実際に潤滑剤が必要な部位は上下ラジアル軸受部とスラス
トプレートとスラストフランジの隙間であり,その必要量は Fig.5-1 の軸受では 0.2mm3
で,注油した 10mm3 の潤滑剤の残りはスラストフランジ周辺や上下ラジアル軸受間の
逃げ部,下ラジアル軸受部下のシャフトテーパ部に貯められている.よって 10wt%~
20wt%の潤滑剤の損失量はほとんど影響がない.
したがって潤滑剤の使用限界は物性変化から設定される.本報ではスピンドルモータ
の要求温度より 20℃高い 80℃で 3 万時間経過後の粘度変化率が±10%以下とした.
使用限界値は粘度上昇による低温起動不良,粘度低下による軸受剛性低下など軸受性
能から決定した値である.
5.3.2 実験で用いた流体軸受装置の構造
流体軸受装置を用いた実験では Fig.5-1 と同等の構造をもつ HDD スピンドルモータ
(以下実機サンプルと称す)を用いた.プラッタと呼ばれる磁気ディスクは,ハウジング
内では起動停止時に風損として電流に影響するが定常運転時はあまり影響しないため
実験では同等の重量を持つ小径リングウエイトを負荷とした.軸受はシャフト直径
3.5mm,ラジアルグルーブはヘリングボーンパターンで軸受の片側軸受クリアランスは
3μm,回転数は 5,400min-1 である.軸受部の詳細を Table 5-2 に示す.
流体軸受用潤滑剤は DOS を基油とし,酸化防止剤に 3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシト
ルエン 1wt%を用い,腐食防止剤,摩耗防止剤等,各種添加剤の総量は 5wt%以下であ
る.代表的な物性は Table 5-1 の DOS と同等である.
実機サンプルは 80℃で軸垂直姿勢(Fig.5-1 の状態)3 台と軸水平姿勢を 2 台の合計 5
台を 22,850 時間連続回転させたものである.なお,軸受の急激な性能劣化確認のため
数百時間ごとに分解せず,20℃環境で消費電流や油膜形成の評価を実施している.
実機サンプルの設置は内槽寸法 1,000mm×800mm×1,000mm(幅×奥行き×高さ)の
強制対流式恒温槽内でスピンドルモータの形で固定しており,ハウジングのない状態で
ある.
94
第5章
Table 5-2
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
Design value of the test bearing unit
Table 5-2
試験用軸受の諸元
5.3.3 実機サンプルの粘度計算
実機サンプルの 20℃における軸垂直姿勢の消費電流は 0.1A で,モータのトルク定数
(Kt 値 ) は 9.8 × 10-3N ・ m/A(100gr ・ cm/A) で あ る . 20 ℃ の 初 期 潤 滑 剤 粘 度 は 動 粘 度
23.9mm2/s,絶対粘度 21.9mPa・s である.
消費電流(I )と軸受損失トルク(T )の間には
T =Kt・I
(6)
の関係がある 6).実機サンプルの軸受の消費電流は 0.1A で(回路電流,モータ鉄損等
を削除した値),Kt 値(実機では±3%以内のバラツキがあり測定時は個々のモータの実
測値を使用する)との積が軸受トルク T で 9.8×10-4N・m(10gr・cm)の値が求められる.
さらに軸受トルクはラジアル側とスラスト側に分けられ,本サンプルではラジアル:
スラストは 45:55 の比率になる.
95
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
ラジアル側のトルク Tr と粘度の関係は
Tr=(2πηUR2L )/C
(7)
で示すペトロフの式で求められる 7).7 式中の η は絶対粘度,U は軸受の周速度,R
は軸受半径,L は軸受長,C は軸受すきまである.また Fig.5-13 に示すよう軸受すきま
には動圧発生グルーブの形状,深さ等があり,それを考慮した値をとるため Table 5-2
の値とは差がある.
R
U
C
L
Fig.5-13
Radial bearing which is in a concentric state
Fig.5-13
同心状態のラジアル軸受
96
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
また,スラスト側にかかるトルク Tt は
Tt=η(V/C )ARt
(8)
で求められる 7).8 式中の V は回転するスラストプレートの有効平均速度,A はスラ
ストフランジの有効面積,Rt はスラストフランジの有効半径である.
Fig.5-1 から分かるようスラスト側軸受すきまは,停止時はモータマグネットの磁気
吸引力と回転体にかかる重力により接触状態にあるが回転時にはグルーブ発生圧力と
バランスがとれた位置で安定する.したがってスラスト側軸受すきま C は停止時と回
転時の差(スラスト浮上量)の実測値を用いる.スラストプレートの例を Fig.5-14 に示す
が写真からわかるように設けられたヘリングボーン型動圧発生グルーブの形状,溝以外
の部分の山,谷の面積,溝深さ等も考慮する.
上記のように軸受諸元と実測値,潤滑剤粘度との相関を明らかにしたのち試験を実施
した.
算出した粘度は絶対粘度であり,動粘度に換算するために用いた比重は実測値の
0.918(20℃)である.
Fig.5-14
Example of the thrust plate with the herringbone type groove
Fig.5-14
ヘリングボーン型グルーブがあるスラストプレートの例
97
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
5.3.4 流体軸受用潤滑剤単体の熱加速試験
潤滑剤単体の熱加速試験は 125℃,110℃,100℃,ならびに 140℃で試験温度ごとに
同一機種の自然対流式恒温槽で実施した.内槽寸法は 450mm×480mm×450mm(幅×奥
行き×高さ)である.潤滑剤容器は内径 32mm,高さ 78mm,開口部直径 20mm の市販
50ml スクリュー管ビンである.また,スクリュー管ビンに直接,熱風が当たらないよ
うにビン全体をステンレス製のカバーで被っているが,ビン開口部先端からカバーまで
は 5mm の距離を保ち,通気性を確保している.サンプル数は 5 本でサンプル重量は 40g
とした.サンプリングは試験時間到達ごとに 1 本ずつスクリュー管ビンを抜き取り,粘
度を測定した.Fig.5-15 はスクリュー管の配置とステンレスカバーをおいた状態の写真
である.
ビンの開口面積の 314mm2 とサンプル体積,43,500mm3 の比率は実機サンプルの開口
面積 0.07~0.08mm2 と注油量 10mm3 の比率とほぼ一致している.
Fig.5-15
Fig.5-15
Sample bottle and the cover
実験に使用したサンプルビンとカバー
98
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
粘度測定はキャノン-フェンスケ型毛細管粘度計を用いて JIS-K2283 に沿って計測し
ている.測定温度は実機サンプル評価温度に合わせ 20℃としている.
125℃,110℃,100℃の試験時間は 997 時間,3,011 時間,5,003 時間,6,925 時間であ
る.それぞれの粘度変化率と時間の相関を Fig.5-16 に示す.
粘度変化率が 3%,5%に達する時間と試験温度の相関をアレニウスプロットに表した
ものが Fig.5-17 である.
Figure 5-17 において横軸は試験温度の絶対温度の逆数で,縦軸は試験時間の対数表示
である.Fig.5-16 から各実験温度で粘度上昇率が 3%に到達する時間を読み取ると 125℃
では 2,465 時間,110℃では 4,360 時間,100℃では 7,830 時間となり,Fig.5-17 の▲印と
なる.同様に●印は粘度上昇率が 5%到達する時間であり各温度の到達時間は 125℃で
は 3,350 時間,110℃では 5,700 時間,100℃では 10,500 時間となる.
140℃は 850 時間経過の 1 点での×印となる.140℃のサンプルは加熱中にビン壁面に
固形物が付着したため実験を中止した.20℃の粘度上昇率は約 10%であるが測定時に
潤滑油から生成した固形物がガラス製粘度計に付着するため正確な値ではない.
Fig.5-16
Viscosity rate of change and time, relations with the temperature
Fig.5-16
各温度での粘度変化率と時間
99
第5章
Fig.5-17
Fig.5-17
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
Prediction of the viscosity change
各温度での粘度変化率と時間
100
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
5.3.5 潤滑剤単体試験での粘度予測
Fig.5-17 の 125℃,110℃,100℃の 3%,5%の粘度上昇率の近似は指数近似線で補間
した.近似線はアレニウスの式
Life time=A・exp(Ea/kT)
(9)
で示され 8),ここで Ea は活性化エネルギ[eV],A は定数,k はボルツマン定数で 8.6159
×10-5[eV/K],T は絶対温度[K]である.グラフ上,近似直線の傾きが活性化エネルギ
Ea であり接辺が定数 A を示す.それぞれの A,Ea は
A3%=8.652×10-5
Ea3%=0.588
A5%=1.602×10-4
Ea5%=0.576
となる.活性化エネルギが同等であることから劣化機構に差がないと考える.
粘度上昇率 10%のデータは Fig.5-6 の○印で 125℃と 110℃の 2 点である.この 2 点を
結ぶ線の傾き(活性化エネルギ Ea)は,3%,5%と若干異なるため,Ea3%と Ea5%の平均
値とした.各温度での粘度上昇率 10%に達する時間を求める寿命式は
Life time=1.877×10-4・exp(0.582/kT)
(10)
となる.10 式より 80℃で粘度上昇率 10%に達する時間は 39,658 時間で目標の 3 万時
間を満足している.
同様にスピンドルモータの要求温度の 60℃では 125,408 時間となる.
5.3.6 実機サンプルの粘度測定
実機サンプルによる粘度変化率は消費電流の変化より確認した.22,850 時間連続運転
した 5 台の実機サンプルの消費電流は設置姿勢の差異はなく初期同様の計算結果で粘
度増加率は 0.3~0.6%で平均は 0.51%であった.
消費電流計測後に実機サンプルを分解し潤滑剤をアセトンで洗浄回収した.回収後,
新しい潤滑剤を注油して消費電流を計測したが試験前の消費電流値と同等の値を示し
たことから,消費電流の増加は軸受構成部材の劣化やモータの劣化ではなく潤滑剤の粘
度上昇によるものと判断した.
Fig.5-17 の□印は 80℃×22,850 時間の位置で粘度変化率は 3%の粘度増加と予測でき
る.
101
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
5.4 潤滑剤の分析
実機から回収した潤滑剤,ならびに潤滑剤単体による熱加速試験後の潤滑剤を以下の
分析をもちいて詳細を把握した.
(1) フーリエ変換赤外分光分析(FT-IR)による分子構造変化
(2) ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量分布測定
(3)
GPC 後の質量分析(MS)
なお,潤滑剤単体熱劣化サンプルで,これはスピンドルモータの使用限界粘度上昇率
に最も近い 125℃×5,003 時間経過品(粘度上昇率 12.3%)を用いた.
5.4.1 フーリエ変換赤外分光分析(FT-IR)による分子構造分析
実機から回収した潤滑剤,ならびに潤滑剤単体による熱加速試験後の FT-IR による分
子構造変化の分析結果を Fig.5-18 に示す.
サンプルは Fig.5-18 (a)初期(未使用潤滑剤),Fig.5-18 (b)80℃×22,850 時間の連続運転
後の実機サンプルから回収した潤滑剤,Fig.5-18 (c)潤滑剤単体熱劣化サンプルで,これ
はスピンドルモータの使用限界粘度上昇率に最も近い 125℃×5,003 時間経過品(粘度上
昇率 12.3%)を用いた.FT-IR のチャートからは分子構造の明確な差はみられなかった.
102
第5章
Fig.5-18
Fig.5-18
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
Comparison of the FT-IR
FT-IR チャートの比較
103
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
5.4.2 ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)での分析
実機から回収した潤滑剤,ならびに初期(未使用潤滑剤)のクロマトグラムを Fig.5-19
に示す.また,潤滑剤単体熱劣化サンプルクロマトグラムを Fig.5-20 に示す.
GPC 分析は外部分析会社に依頼したが,分析時期がずれており,分析装置の入れ替
えがあったためチャートに差があるが基準のスチレンが同等であるため分子量は同等
の値となる.
クロマトグラムの横軸は保持時間を示し,縦軸は屈折率計出力電圧である.
Fig.5-19(a)は未使用品のクロマトグラムであり Fig.5-19(b)は 80℃×22,850 時間の連続
運転後の実機サンプルから回収した潤滑剤のクロマトグラムである.回収した流体軸受
用潤滑剤にはメインピーク(Peak 2)の他に未使用品にはない高分子側(Peak 1)および低
分子側(Peak 3)にピークが検出されている.
同様に潤滑剤単体熱劣化クロマトグラムを Fig.5-20 に示す.GPC から潤滑剤単体によ
る熱加速試験でも実機サンプルと同様に高分子側と低分子側にピークが検出された.ま
た,Fig.5-21 はその質量分析(MS)結果のマススペクトルである.
Fig.5-19
Comparison of the chromatogram(Initial and 80℃×22,850 hours later)
Fig.5-19
GPC クロマトグラムの比較
104
第5章
Fig.5-20
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
Chromatogram after the simple substance
examination( 125℃×5,003 hours later)
Fig.5-20
Fig.5-21
単体試験(125℃×5,003 時間後)の GPC
MS of the detection ingredient ( 125℃×5,003 hours later)
Fig.5-21
単体試験(125℃×5,003 時間後)のマススペクトル
105
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
5.4.3 分析結果の比較
実機サンプルと潤滑剤単体熱加速試験後のサンプルの分析結果を比較した.GPC で
検出されたピークの質量数と面積比を Table 5-3 に示す.Peak 2 は DOS で質量数(スチ
レン換算における数平均分子量)は未使用品,実機サンプル(80℃×22,850 時間経過品)
並びに潤滑剤単体熱加速試験後サンプルも全て 496 で一致している(DOS の分子量は
426 であるが,構造にエステル基を有するためスチレン換算における数平均分子量では
ずれが生じる).同様に高分子量物質の Peak1,低分子量物質の Peak3 の質量数も一致し
ていることから実機内と潤滑剤単体熱加速試験で生じる分解物質は同じものと判断す
る.
質量分析では分解物質成分がテトラヒドロフラン溶媒ではイオン化しなかったため
メタノールで再溶解し,インフュージョン法(直接導入法)で分析を行った.Fig.5-21
にマススペクトルを示す.横軸が質量電荷比で縦軸が検出強度である.マススペクトル
に代表的なフラグメントの質量数を示す. Na を構成元素と仮定した質量数のため
Fig.5-21 中の質量数表示から Na の質量数分の 23 を引いた値が分解物質の質量数となる.
よって質量数は 312,426,738 となる.メインピーク(Peak 2)は質量数 426 で DOS と
合致している.
Table 5-3
Molecular weight and the area of each peak
Table 5-3
各ピークの面積比と分子量
106
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
5.5 考察
5.5.1 基油分子構造の変化
FT-IR で構造の差異がみられないのは今回使用した潤滑剤の基油が DOS で構造中に
エステル基を含んでおり,酸化劣化してできる物質もまた炭素と酸素の結合を含むため
である 9).Fig.5-18(a)(b)(c)における 2958cm-1,2930cm-1,2859cm-1,1462cm-1,1379cm-1
付近の吸収は C-H 結合に由来するもので,1738cm-1 はエステル基の C=O に由来するも
のであり,微妙な位置ずれはあるが変質を断定できない.
5.5.2 基油分子量の変化
GPC で高分子量物質の Peak1,低分子量物質の Peak3 に明確に分離したのは DOS の
分解がエステル結合のアルコール側β炭素が第 3 級炭素であるため分子内の水素結合
により六員環を形成しカルボン酸とオレフィンに分解することから比較的大きな分解
物質を形成し,さらに酸化防止剤の効果が出やすいため安定した劣化の進行になったた
めと推測する 10).
5.5.3 分子量分布の比較
高分子量物質と低分子量物質の量を比較すると,実機サンプルでは 0.3%:1.4%と低
分子量物質の率が高く,潤滑剤単体試験では 16.3%:5.9%と高分子量物質の率が高くな
る.一般に同様の分子構造であれば,低分子量物質は低粘度で蒸発圧が高く,気化しや
すい.
実機サンプルにおいて粘度上昇率が小さい要因は低粘度で蒸発しやすい低分子量物
質の残留率が高いためである.
Fig.5-22
Fig.5-22
Thermometry of the thrust bearing by infrared rays
赤外線によるスラスト軸受部の温度測定(出典:文献 11)
107
第5章
Fig.5-23
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
Lubricant temperature rise as function of bearing rotation speed
Fig.5-23
潤滑剤の温度上昇と軸受回転数の関係(出典:文献 11)
5.5.4 軸受内の温度分布
松岡らは HDD スピンドルモータに組み込まれた流体軸受部分の温度分布をコンピュ
ータ解析,ならびに赤外線カメラにより実測している 11).Fig.5-22 はスラスト軸受部の
温度を赤外線カメラを用いて実測した際の模式図である.ステンレス製スラストプレー
トと赤外線を透過するガラス部材で構成することにより,スラスト軸受部から放射され
る赤外線の強度から微小領域の温度分布を測定したものである.
Fig.5-23 はこの手法により実測した温度(図中○印)とコンピュータ解析の結果(実線)
を示したもので解析値と実測値がよく一致していることがわかる.ラジアル軸受は
Fig.5-1 に示すよう周囲にスリーブがあるため実測が不可能なため解析のみの結果とな
る.Fig.5-24 は Fig.5-1 の軸受部の拡大図である.動圧グルーブを内径面に持つスリーブ
が固定されたシャフトの周りを反時計方向に回転すると潤滑剤は動圧グルーブに沿っ
て矢印の方向に集められ(ヘリングボーンの中心)圧力が上昇しシャフトを中心に軸受
スリーブが保持される.この時ヘリングボーンパターンの中心を頂点とした温度勾配が
生じる.
Fig.5-25 はコンピュータ解析による 20℃におけるラジアル軸受の温度分布を示した
ものである.ヘリングボーンパターンの中心を頂点とした温度勾配が生じている事がわ
かる.
Fig.5-24
Oil flow of hydrodynamic grooved bearings
Fig.5-24
流体軸受内の潤滑剤の流れ
108
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
℃
24.5
24
23.5
温
23
度
22.5
22
21.5
21
10
mm
5
10
0
座標
0
-5
-10
Fig.5-25
-10
-5
5
20.5
mm
座標
20
Temperature distribution in hydrodynamic grooved bearings
Fig.5-25
流体軸受内の温度分布
5.5.5 マランゴニ効果の誘発
平野らが転がり軸受において EHL 膜形成の際,温度勾配によりマランゴニ効果が影
響することを示している 12).マランゴニ効果とは液体の表面張力や界面張力の局所的変
化により接線力が生じ液体内部に流動が誘起されるものである 13).同一物質では温度が
低いほど表面張力が高く,類似した分子構造であれば高分子量物質のほうが表面張力は
高い.液体内部で温度勾配が生じるとマランゴニ効果が誘起され高分子量物質は表面張
力が高いため低温側に集中する.すなわち負荷を受けている EHL 膜内に低分子量物質
が移動することになる.
Fig.5-25 は動圧グルーブを有する流体軸受の温度分布を示すもので,軸受内に温度勾
配が生じることがわかる.したがって流体軸受においても低粘度の低分子量物質が軸受
中心に集まる.それは気液境界部に蒸発しにくい高分子量物質が集まることとなり,低
粘度物質の残留率が高まり粘度上昇を抑えたと推測する.
本報では基油に DOS を用いた流体軸受用潤滑剤での実験データで考察を進めたが,
PAO や他のエステル系基油でも劣化時の反応で生成する低分子量物質や高分子量物質
がマランゴニ効果により同様の偏析が生じ,低粘度物質の残留率が高まり,モータ消費
電流値の増加が予測より少なくなったと判断する.
109
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
5.6 結言
流体軸受装置の寿命を予測するうえで重要な潤滑剤の寿命について,潤滑剤単体での
熱加速試験と実機サンプル内で 22,850 時間(2 年 7 ヶ月間)連続回転試験を行った潤滑剤
の粘度,分子量,劣化生成物の量を分析し,以下の結果が得られた.
1) 潤滑剤単体の粘度増加率を予測するにはアレニウスプロットは有効である.
2) 潤滑剤の粘度上昇率は,連続運転した実機サンプル内の方が潤滑剤単体熱加速試
験に比べて小さい.
3) 潤滑剤の劣化による生成物は,潤滑剤単体熱加速試験でも実機内で連続回転させ
たものでも FT-IR,GPC 分析の結果,同じ物質と推定される
4) 実機サンプルで粘度上昇率が小さい要因は,軸受部でのマランゴニ効果が生じ,
気液境界部に蒸発しにくい高粘度物質(高分子量)が集められ,低粘度物質の残留
率が高まったためである.
5) DOS を基油とし酸化防止剤に 3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエンを用いた場合,
熱加速試験は 125℃以下の温度で実施しなければならない.
設計的課題や製造上の事故等による急激な潤滑剤流出がない構造の流体軸受装置で
あれば,その寿命は潤滑剤の劣化による特性変化により生じる.さらに,その寿命は潤
滑剤単体の熱加速試験による寿命予測値より長寿命となる.したがって本報の実験にお
いて基油に DOS を用いた潤滑剤では粘度上昇率 10%到達時がスピンドルモータの寿命
とした場合,
軸受温度が 80℃なら 39,658 時間以上で 2.4×105 時間程度,
60℃なら 125,408
時間以上で 7.5×105 時間となる.
110
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
第 5 章の参考文献
1) 森:軸受の流体潤滑理論,潤滑,第 12 巻,第 10 号,pp.417-426,(1967).
2) T.Asada,H.Saitou,Y.Asaida & K.Itou:Design of Hydrodynamic Bearings of
High-Speed HDD , Microsystem Technologies , Springer-Verlag , 8 , 2-3 ,
pp.220-226(2002).
3) 淺田:動圧流体軸受の最近の動向,トライボロジスト,第 46 巻,第 2 号,pp.141146,(2001).
4) 大野,淺田,日下:動圧流体軸受のトライボロジー,松下テクニカルジャーナル,
第 46 巻,第 1 号 pp.67-71,(2000).
5) 淺田,森本,原:動圧グルーブ軸受と精密加工技術,松下テクニカルジャーナル,
第 39 巻,第 5 号,pp.496-501(1993).
6) 山田:小型モータの評価と選定,工学図書株式会社,pp.67(1991).
7) 田浦:ペトロフの式,トライボロジスト,第 49 巻,第 7 号,pp.585-586 (2004).
8) 信頼性管理便覧編集委員会:信頼性管理便覧,日本規格協会,pp.254(1985).
9) 貴志:入門講座・潤滑剤 酸化安定性と熱安定性,潤滑,第 12 巻,第 6 号,
pp.257-264(1967).
10) 星野,渡嘉敷,藤田:潤滑グリースと合成潤滑油,株式会社幸書房,pp.212(1983).
11) 松岡,小幡:HDD の発展とそれを支えるモータ技術,松下テクニカルジャーナル,
第 46 巻,第 1 号,pp.22-30(2000).
12) 平野,境:EHL 膜形成への潤滑油組成の影響,潤滑,第 22 巻,第 8 号,
pp.490-498(1977).
13) 平野:マランゴニ効果,潤滑,第 26 巻,第 8 号,pp.545-546(1981).
111
第5章
動圧グルーブ流体潤滑軸受用潤滑剤の劣化
112
第6章
電子部品実装設備及び電子機器における軸受と潤滑剤の実用化状況と今後の展開
第6章
電子部品実装設備及び電子機器における
軸受と潤滑剤の実用化状況と今後の展望
6.1 緒言
現在,電子部品実装設備で初期封入されるリニア軸受用グリースは摩耗防止添加剤に
Zn-1 を使用し,基油粘度は電子部品実装設備内部温度の 33℃において低速移動時の
1m/s でも EHL 膜を形成できる 90mm2/s(40℃)である.本研究成果であるグリースを標準
採用して以来,設備設置後1年以内でのリニア軸受の破損はなくなった.
また世界で初めて大量生産に成功した流体軸受搭載機器はビデオテープレコーダ
(VTR)用回転ヘッドシリンダであるが,記録媒体がテープからディスクに移行し,HDD
はパーソナルユースの高容量記録装置として普及しており,さらなる高容量化・省電力
化が進むと予測される.HDD 以外にもレーザービームプリンタ用のポリゴンモータや
電子機器向け冷却ファンなどこれからも流体軸受は精密軸受の代名詞として進歩発達
を続けるものと思われる.
本章では研究成果であるリニア軸受用グリースと流体軸受用潤滑剤の寿命予測方法を明
らかにしたことによる成果と今後の展望について報告する.
6.2 電子部品実装設備の状況
6.2.1 電子部品実装設備の課題
先進国から発展途上国まで広い地域で使用されるようになった電子部品実装設備は
初期封入グリースの性能向上と補充用グリースの付属により日本国内で生産した設備
において 1 年以内の早期破損は発生しなくなった.
使用される地域の拡大にともない生産拠点の拡大も進めているが,海外に生産拠点を
設ける場合,加工部品や市販部品も現地で調達することがコスト低減だけでなく,生産
113
第6章
電子部品実装設備及び電子機器における軸受と潤滑剤の実用化状況と今後の展開
国の技術発展,経済発展につながる.このとき設備の品質にばらつきが課題となる.設
備の生産台数は 1 工場あたり月産 50 台程度で,組立の完全自動化は不可能なため作業
者の技能が必要となる.品質のばらつきを抑えるには作業者の能力を安定させる必要が
あり,国内工場以上に作業指図書等の整備が重要となる.
6.2.2 リニア軸受不具合の地域差
国内生産分の設備においてリニア軸受の早期破損の発生はなくなったが,一部の地域
で生産している設備で耐久試験を実施すると 2 週間程度でグリースが飛散し,プリント
基板を汚染するという事故が発生した.リニア軸受は日本国内から調達したものであり,
リニア軸受製造メーカでグリースは指定のものを封入している.
Fig.6-1(a)はグリース初期のフーリエ変換赤外分光分析(FT-IR)のチャートで(b)は約
2 週間でグリースの飛散が発生したリニア軸受から回収したグリース(リニア軸受には
目立った損傷はなく,グリース全体が若干赤くなっている程度)の FT-IR チャートであ
る.(b)には初期(a)のチャートと比較し,A の 1740cm-1 の吸収拡大と,B の 1165cm-1
に新たな吸収があった.
100
a)グリース初期
Transmittance , %
50
0
b)回収グリース
100
50
A
0
4000
Fig.6-1
3000
2000
B
1500
1000
Wavenumbers , cm-1
500
Comparison of the grease composition
Fig.6-1 グリース組成の比較
114
第6章
電子部品実装設備及び電子機器における軸受と潤滑剤の実用化状況と今後の展開
リニア軸受周辺の有機物を調査するとリニア軸受出荷時に使用する防錆油の存在が
明らかになった.Fig.6-2(c)はリニア軸受メーカが使用している防錆油の FT-IR チャー
トで不具合発生部から回収したグリースの FT-IR チャートにあった A,1740cm-1 の吸
収と B,1165cm-1 が確認できた.また,Fig.6-2(d)はグリースに防錆油を 40wt%混合し
たもので Fig.6-1(b)の回収グリースによく似たチャートになったが A,B ピークの大きさ
から比較すると耐久試験機から回収したグリースの防錆油混入率は 40wt%以上である
と推測される.
c) 防錆油
100
Transmittance , %
50
0
d)グリース+防錆油40%
100
50
A
B
0
4000
Fig.6-2
3000
2000
1500
1000
Wavenumbers , cm-1
500
FT-IR chart of the rust prevention oil and the grease
including the rust prevention oil
Fig.6-2 防錆油と防錆油を含むグリースの FT-IR
115
第6章
電子部品実装設備及び電子機器における軸受と潤滑剤の実用化状況と今後の展開
6.2.3 防錆油混入によるリニア軸受への影響
防錆油がリニア軸受用グリースに混入した際,性能が低下する項目を確認した.
Fig.6-3 はグリース基油に防錆油を混合した際の混合率と粘度,ならびにグリースと防
錆油混合率とちょう度の相関を示したものである.赤線が基油粘度を示し,青線がちょ
う度を示している.防錆油混入率 60wt%のちょう度は 400 以上であるが正確な測定はで
きない.また,60wt%以上の混入率でのちょう度測定は不可能であった.
第 2 章の考察.ならびに Fig.2-9 から 1m/s の低速移動で油膜を形成するためには防錆
油は全く混入してはならい.高速移動速度が 2m/s であれば基油粘度は 70mm2/s 以上で
ないと油膜比 Λ >0.5 にならないため防錆油の混入率は 20%以下に抑える必要がある.
また,ちょう度も 300 を超える(軟らかくなる)と電子部品実装設備では飛散の可能性が
あることから防錆油混入率は 20wt%以下でなければならない.この 2 点から防錆油の混
入率は 20wt%以下としなければならないと推測する.
Fig.6-3
Correlation of base oil viscosity, penetration-number
and rust prevention oil mixture rate
Fig.6-3 防錆油混入率と基油粘度,ちょう度の相関
116
第6章
電子部品実装設備及び電子機器における軸受と潤滑剤の実用化状況と今後の展開
6.2.4 防錆油の塗布工程
電子部品実装設備専用グリースの初期封入に際し,防錆油の塗布方法も検討した.
Fig.6-4 は防錆油塗布工程の略図である.リニア軸受メーカでは防錆油を自動塗布装置
で塗布するが,レール上にキャリッジがある位置ではキャリッジの裏やレールに防錆油
が付かないため防錆油を手動で塗布している.
電子部品実装設備専用グリースを封入したリニア軸受ではキャリッジの裏側やレー
ルには防錆油の代わりに各種添加剤を添加したグリース基油を塗布している.その後,
自動塗布装置でレールやキャリッジ外側に防錆油を塗布し,ポリエチレン製の袋に入れ,
段ボール箱で梱包している.
防錆油
グリース基油(添加剤入り)
Fig.6-4
Coating
process of the rust prevention oil
Fig.6-4 防錆油の塗布工程
6.2.5 防錆油の拭き取り程度の確認と定量化
リニア軸受メーカの取扱説明書には防錆油を拭き取ってから使用することが明記さ
れている 1) 2) 3).また,組み立て作業指図書にも
「リニア軸受を開封する際はキャリッジをできるだけ動かさずに取り出し,防錆油をき
れいに拭き取った後,キャリッジを可動させる.
」
と記載してあった.この指示書は言語の違いはあるが内容は世界共通で,日本国内の
工場では不具合はなかったが海外の工場ではグリース飛散の事故が発生している.
この「きれいに拭き取る」を定量化するためグリースと防錆油の混入率を把握する必
要がある.
117
第6章
電子部品実装設備及び電子機器における軸受と潤滑剤の実用化状況と今後の展開
6.2.6 検量線の作成
グリースに防錆油を 10wt%,20wt%,40wt%,60wt%混合したサンプルを作成し,FT-IR
分析で防錆油特有の吸収である 1165cm-1 がどのように増加するかを用いた.定量精度
を向上させるため Fig.6-5 に示すよう B の 1165cm-1 の大きさ(透過率)だけでなく,基油
骨格(-CH2-)に起因する C の 720cm-1 との大きさの比を透過率比として算出するこ
とで安定した検量線が得られた.Fig.6-5(e)は防錆油混入率 20wt%,Fig.6-5(f)は防錆油
混入率 60wt%である.拭き取り方と防錆油混入率の関係確認に使用した検量線を
Fig.6-6 に示す.
e)グリース+防錆油20%
100
Transmittance , %
50
B
0
C
f)グリース+防錆油60%
100
50
B
0
4000
Fig.6-5
3000
2000
1500
C
1000
Wavenumbers , cm-1
500
FT-IR chart of the grease including the rust prevention oil
Fig.6-5 防錆油を混合したグリースの FT-IR
118
第6章
電子部品実装設備及び電子機器における軸受と潤滑剤の実用化状況と今後の展開
全く拭き取っていない軸受の防錆油の混入率が 70wt%~77wt%であり,最初にグリー
ス飛散事故を起こした海外生産品の防錆油混入率は Fig.6-1(b)の FT-IR チャートから計
算すると 74wt%で防錆油を拭き取らずに組み立てていたことがわかった.
現在の作業指図書ではウエスで 2 回拭き取り,3 回目は新品の紙ウエスで拭き取るよ
う記載しており,この方法では防錆油の混入率は 10wt%~17wt%である.また 1 年以上
も市場でのリニア軸受早期破損を起こしていない国内生産品の防錆油混入率も 17wt%
程度であった.その後は生産国にかかわらずグリースの飛散,リニア軸受の早期破損も
発生していない.
Fig.6-6
Calibration curve of the rust prevention oil mixture rate
Fig.6-6 防錆油混入率の検量線
6.2.7 作業指示書への指示理由の記載
グリースに防錆油が混入することによって,基油粘度が低下すると油膜が形成されな
くなるため転がり疲労による破損寿命までの時間が短くなる.またちょう度が上昇する
(軟らかくなる)とグリースの飛散や垂れ落ちが発生し,プリント基板を汚染することに
なる.これはプリント基板を生産する電子部品実装設備にとって重大な事故である.
海外の組み立て担当者は機械を組み立てることには関心はあるが,機械が何を生産し
ているかには興味がないことが多い.しかし,機械の性能を維持するためには,リニア
軸受の性能を維持する必要があり,そのためには防錆油を拭き取ることが重要であるこ
とを記載し,防錆油混入率 20wt%以下と数値を明示することで,防錆油の拭き取り忘れ
による事故は皆無となった.
119
第6章
電子部品実装設備及び電子機器における軸受と潤滑剤の実用化状況と今後の展開
6.3 流体軸受装置の状況
潤滑剤単体での寿命予測よりスピンドルモータの寿命の方が約 6 倍長くなることを
示した.使用した基油のジ-2-エチルヘキシルセバケート(DOS)は多くのデスクトップ型
パーソナルコンピュータやテレビ用録画機に搭載されている 3.5 型 HDD のほとんどで
使用されているものである.
VTR 用回転ヘッドシリンダ流体軸受の基油であるポリ-α-オレフィン(PAO)や 2.5 型
以下の HDD で使用されているネオペンチルグリコール-ジ-カプリル酸エステル
(NPG-C8),ネオペンチルグリコール-ジ-ペラルゴン酸エステル(NPG-C9)でも潤滑剤単
体の熱劣化試験より実機搭載状態での予測寿命が長くなっている.これらの結果もマラ
ンゴニ効果によるものと推測される.
DOS においても劣化による生成物質の質量数は明らかにできたが構造の特定にはい
たらなかった.今後,実用化された基油の劣化物質の構造を明らかすることでさらに寿
命予測精度が良化できると推定され機器の寿命予測にとって重要である.
流体軸受は従来,ジャイロや遠心分離器など特殊機器でしか使用されない軸受と思わ
れていたが,今では誰もが知らず知らずのうちに使用されている軸受となった.VTR
用回転ヘッドシリンダで初めて大量生産され,パーソナルコンピュータをはじめ家庭用
テレビの録画機に搭載されている HDD や MPU 冷却ファン,オフィスのプリンタやコ
ピー機,デジタル FAX のレーザースキャナのポリゴンモータなど,人々の生活の場で
使用されている.磁気記録装置のように機械系を持たない半導体メモリの価格が下がり,
またデータ通信の速度が飛躍的に高速化して個人が使用する機器には HDD のような回
転機構をもつ記録装置は減少しているが,クラウドコンピューティングによる通信の先
ではスマートフォン 6 台に対し HDD ドライブ 1 台が必要になると言われている.個人
が所有するか,システムで所有するかの差で大容量高速対応の記録媒体としての磁気記
録装置はなくなることはない.
流体に油を用いた流体軸受では高速化すると摩擦トルクが増大するという課題があ
る.油の低粘度化の研究も進んでいるが,流体に空気を用いた流体軸受(エア軸受)も
ポリゴンモータでは実用化されておりサーバなどへの実用化も期待される 4).
120
第6章
電子部品実装設備及び電子機器における軸受と潤滑剤の実用化状況と今後の展開
6.4 結言
電子部品実装設備の早期破損発生原因を予測して実験により証明し,研究成果である
低速でも油膜形成され,かつ停止時も摩耗防止添加剤が有効に働くグリースを開発し,
実際に設備に搭載して性能確認を実施した.しかしそれ以上に実用化には時間が必要で
あった.グリースの性能を低下させない防錆油の塗布方法や組み立て前の防錆油の拭き
取り方,それらの評価など実用化に近づくと多くの課題が生じ,それらを早急に解決す
ることが重要である.
また,流体軸受用潤滑剤において,潤滑剤の劣化に関する報告はほとんどなく,特に
寿命に関する研究報告は公開されたことがない.潤滑剤単体試験より実機の方が性能劣
化しにくく寿命が長いため,その要因を明らかにせず商品化を行ってきたが,劣化物の
分子量分布の差異と軸受内の温度勾配の発生からマランゴニ効果により潤滑剤の特性
劣化が遅い要因を説明することができた.今後,劣化物の分子構造の差異による表面張
力差でどの程度の接線力が生じるかなどの研究が行われることを期待する.
121
第6章
電子部品実装設備及び電子機器における軸受と潤滑剤の実用化状況と今後の展開
第 6 章の参考文献
1) THK 株式会社,LM ガイド総合カタログ 504-1J,pp.B1-91,(2012).
2) 日本トムソン株式会社,IKO 直動シリーズ総合カタログ CAT-1552②,pp.Ⅲ-40,(2012).
3) 日本精工株式会社,NSK リニアガイド取扱説明書,pp.2,販資 L20001-01(2001).
4) 日下,淺田,大野:動圧エア軸受とその応用技術,松下テクニカルジャーナル,第
46 巻,第1号,pp.61-66,(2000).
122
第7章
総括
第7章
総 括
7.1 論文概要
プリント基板を生産する電子部品実装設備は日本メーカが世界シェアの約 70%(2012
年度)を占め,先進国から発展途上国まで広く使用されている.電子部品実装設備では,
電子部品装着ヘッドとプリント基板の位置合わせに転がり式リニア軸受が使用されて
いる.高速で長期間往復動運転され,軸受を含めた装置の寿命は約 10 年が必要とされ
ているが,出荷台数の約 10%は稼働開始後 1 年足らずで破損する課題があった.装置
の実態調査を行ったところ,装置の潤滑グリースの選定をグリースのちょう度を基準に
している工場で破損事故が頻発していることがわかった.リニア軸受は玉が転走面を転
がる構造であるため潤滑不良であっても焼付きなどの破損が起き難いとされていたた
め,ごく最近まで原因が明らかになっていなかった.装置の損傷発生メカニズムを解明
し,グリースの選定方法などのトライボロジー面からの破損事故解決策の構築が待望さ
れている.また,パーソナルコンピュータなどの記録装置用ハードディスクドライブ
(HDD)は高速・高容量化が著しく,磁気ディスクの記録密度向上にはトラックピッチを
狭くする必要がありスピンドルモータの回転精度(軸心振れ回り誤差)向上が重要とな
った.2000 年頃の要求回転精度は 50nm に向上し,従来の転がり軸受方式では対応でき
なくなり,約 10nm が実現できるすべり軸受方式への転換が進められた.その結果,動
圧グルーブ型流体潤滑軸受(流体軸受)が HDD 用軸受の主流となり,近年の年間生産量
は 6 億台程度に達している.長期無交換で使用されるスピンドルモータの技術課題は軸
受の回転精度劣化と破損の防止である.主な不具合要因は長期使用される軸受用潤滑剤
の熱劣化と考えられていたが,劣化寿命の評価方法と使用限界についての明確な対処策
がなく,実用的な劣化寿命推定方法が待望されている.
本論文は上記の軸受に関する課題を解決するために,実物軸受を用いた実験評価を通
して,軸受のトライボロジー損傷発生メカニズムの解明,定量化および具体的改善策を
まとめ,製品への適用を通して改善策の有効性を確認した.以下にその概要を示す.
123
第7章
総括
7.2 各章のまとめ
第 1 章の序論ではプリント基板生産用実装設備と HDD スピンドルモータを支える流
体軸受の開発経緯と技術課題を示した.電子部品実装設備で短期間に軸受が破損した事
例を調査し,損傷発生機で使用された潤滑グリースが抽出でき,選定したグリースが破
損の原因になっている可能性があることを明らかにした.また,HDD 用スピンドルモ
ータの転がり軸受方式からすべり軸受方式に代わって行き,軸受寿命を律則する現象が
転がり疲労から潤滑剤劣化に変わっていったが,軸受運転による潤滑剤の熱劣化につい
ての知見が全くないことを示した.長期運転での潤滑剤熱劣化を,潤滑剤単体の短期実
験で代替する方法が必要になっている状況を示し,本論文で解決すべき技術課題を示し
た.
第 2 章では,リニア軸受の潤滑に用いられているグリースのちょう度の他に基油粘度
に着目し,それらの軸受球と転走面間の潤滑状態に及ぼす影響を検討した.実機に使用
されているリニア軸受を用いて実際の作動状態及び温度状態を実現する試験機を作成
し,ちょう度が一定で基油粘度が異なる 4 種類のグリースを用いて転走面の潤滑状態の
差 異 を 調 べ た . 潤 滑 状 態 の 尺 度 と し て は 弾 性 流 体 潤 滑 ( EHL:Elasto-hydrodynamic
Lubrication)最小油膜厚さと表面の二乗平均平方根粗さの比を Λ 値として用いた.リニ
ア軸受の運動は往復動で起点と終点付近では速度が変化することを考慮し,全運転域の
潤滑状態はレールとレール上を移動するキャリッジとの間を電気導通法で確認した.実
験の結果,Λ 値が 0.5 より大きい状態でないと電気導通があり表面粗さ突起部が金属接
触する混合潤滑状態にあることが確認できた.さらに,長期運転で転走面からグリース
が枯渇して油膜厚さが減少することも想定されたため,連続運転を実施してその影響を
調べた.往復動距離 1.0×103km(実験時間 260Hr)でも電気導通の状態は初期から変化せず,
グリース排除による枯渇が原因ではないことも明らかになった.以上の実験から,リニ
ア軸受の損傷発生に影響する潤滑状態はちょう度ではなく基油粘度に支配され,転走面
を油膜で分離する良好な潤滑状態を実現するためには Λ >0.5 とする必要があることを
明らかにし,軸受転走面のトライボロジー設計を定量的に行える成果を示した.
第 3 章では,基油粘度が潤滑状態を支配することを踏まえて,潤滑状態とリニア軸受
の転がり疲労損傷との関係,および転がり疲労寿命を延ばすためにグリースへの摩耗防
止剤を添加する効果の有無を確認した.まず,同じちょう度で基油粘度の影響を調べる
ため,全行程で油膜分離が生じない(Λ<0.5)状態を実現する低粘度基油グリースと,往復
動の停止位置から 1cm の位置で Λ >0.5 となり,ほぼ全行程で油膜分離状態になる高粘
度基油グリースを用いて寿命比較試験を実施した.低粘度基油グリースでは 1.09×104km
走行でキャリッジ側に転がり疲労はく離が発生したが,高粘度基油グリースでは損傷は
124
第7章
総括
発生しなかった.またキャリッジ破損のほかレール(炭素鋼 S55C 相当)の変色もあり,
転走面の元素分析を実施した.常に金属接触状態で走行していた低粘度基油グリースで
はレール全域でグリースの摩耗防止剤添加剤の構成元素である P(リン),S(イオウ)
の増加と Zn(亜鉛)が観察された.高粘度基油グリースでは停止位置でのみ P,S,Zn
の含有量の変化が確認できた.このことからリニア軸受では膜厚比 Λ<0.5 では転がり疲
労寿命が短くなることと往復動の両端付近で摩耗防止添加剤の表面反応が生じること
がわかった.これにより転がり疲労防止設計のためには潤滑状態を支配する基油粘度に
着目すれば良いことが実証された.
第 4 章では,必ず停止部付近で金属接触状態になることを踏まえ,損傷発生防止に繋
がる摩耗防止添加剤を検討した.摩耗防止添加剤として,Zn 系添加剤(Zn-1),ZnDTP,
ZnDTP と MoDTC を併用したものと無添加の 4 種類とし,添加剤の表面反応を生じさせ
るために低粘度基油グリースを用いた.転がり疲労損傷はキャリッジの終端部付近で発
生した.損傷発生までの走行距離は ZnDTP+MoDTC が 1.9×103km で最も短く,次いで
ZnDTP が 3.8×103km,摩耗防止添加剤なしが 4.9×103km で Zn-1 が最も長い 1.09×104km
であった.添加剤を変えることにより軸受寿命が大きく変わることがわかった.寿命の
差は添加剤反応の違いであると推定し,実験後の玉の元素分析とナノインデンタによる
表層(約 0.5µm)の硬度を測定した.添加剤元素である S や Mo,Zn はごく表層にの
み存在し,ナノインデンタ硬度が添加剤により異なった.転がり疲労寿命は,表層の硬
度が低いほど短くなることがわかった.これにより,軸受寿命を延ばすためには,軸受
材(軸受鋼 SUJ2)と反応して,ナノレベルで硬度が大きい反応膜を形成できる添加剤
を選定する必要があることがわかった.
第 5 章では,従来まったく検討されたことがなかった HDD の流体軸受用潤滑剤の熱
劣化寿命について検討を行った.一般的には潤滑剤単体での熱劣化寿命予測はアレニウ
スプロットで実施するが,軸受内で回転によるせん断力を受ける状態での熱劣化との差
異を明らかにすることを目的にした.潤滑油は 3.5 型 HDD 用として広く用いられてい
るジ-2-エチルヘキシルセバシケート(DOS)を使用した.軸受の流体潤滑油膜厚さは約
3µm で,軸受しゅう動面は完全に油膜分離する条件を設定した.運転中の潤滑油温度
80℃で約 3 年間(2.3×104Hr)連続運転した流体軸受から回収した潤滑剤と単体で熱劣
化させた潤滑剤の粘度変化率を比較した.粘度上昇率が大きいとモータ負荷の増大によ
る低温時起動不良が生じる.また,粘度低下が生じると温度上昇時に軸受剛性が低下し
て軸振れが増加し,データ転送不良が生じ機能不良となる.その後,油膜破断に至り,
軸受しゅう動面が焼付き易くなる.比較した結果,流体軸受から回収した潤滑剤の粘度
変化率が+0.5%で単体試験での予測値は+3%であった.粘度変化率に差が出た原因は,
低粘度物質の残留率の差であることがわかった.すなわち,流体軸受内では流体温度の
125
第7章
総括
高い方向へ低粘度物質が移動するマランゴニ効果により,低粘度物質が軸受中央に集ま
るためと推測される.したがって潤滑剤単体での寿命予測よりスピンドルモータの寿命
は約 6 倍長くなることがわかった.この結果より,初期的に潤滑剤の飛散,流出がない
設計ができれば,長期に流体潤滑状態を維持できる運転時間が推定できることになり,
熱劣化設計を行えるようになった.
第 6 章では電子部品実装設備に研究成果のグリースを初期封入することでリニア軸
受の早期破損はなくなった.実用化ではリニア軸受メーカで出荷時に塗布する防錆油の
塗布方法や組み立て前の防錆油の拭き方,防錆油混入率を 20wt%以下にすること.また
その評価方法などの重要性を示した.流体軸受用潤滑剤において潤滑剤単体での寿命予
測よりスピンドルモータの寿命の寿命が長くなる要因をマランゴニ効果で説明したが
劣化物の構造や接線力などの研究の重要性を示した.
第 7 章では,電子部品実装設備のリニア軸受と HDD 用スピンドルモータの損傷防止
に検討した手法が有効であることを示した.さらに,今後の軸受の展望と残された技術
課題を記して総括とした.
7.3 今後の課題
現在,電子部品実装設備で初期封入されるリニア軸受用グリースは摩耗防止添加剤に
Zn-1 を使用し,基油粘度は工場内の使用温度の 33℃において低速移動時の 1m/s でも
EHL 膜を形成できる 90mm2/s(40℃)である.本研究成果であるグリースを標準採用して
以来,設備設置後1年以内でのリニア軸受の破損はなくなった.
工場においてメンテナンスを実施する上で,純正グリースを使用するのが好ましいが,
入手困難な場合もあり,その際でも適正なグリースの選定が必要である.潤滑剤銘柄便
覧の性状一覧や工業用市販グリースのカタログに記載されているグリースの性状は,ち
ょう度,外観,増ちょう剤の種類,滴点,離油度,酸化安定度などにとどまっているこ
とが多く,グリースの主な用途である転がり軸受(回転を支持するベアリングやリニア
軸受)で EHL 膜を形成できるかを判断する上で必要な情報である基油粘度を記載してい
ないことが多い.また,耐荷重性能を向上させたグリースの方が転がり疲労寿命が短い
場合があること示した.
グリースを用いたリニア軸受において,基油,摩耗防止添加剤について明らかになっ
た課題は多いが,重要なグリースの構成要素である,増ちょう剤についての検討ができ
なかった.添加量や種類,ちょう度などリニア軸受特有の課題も残されていると推測さ
れるため,研究を進めていきたい.
設備産業において加速試験と称して高速・高荷重をかけ,短時間で走行距離をのばす
126
第7章
総括
試験を実施し,走行距離により寿命を満足することを示しているが,リニア軸受では,
荷重の影響は小さく,速度が高いほど EHL 膜は厚くなり,転がり疲労寿命に対し有利
に働く.設備の正しい寿命評価試験方法等へ発展させることが今後の課題である.
また本論文で紹介したように世界で初めて大量生産に成功した流体軸受搭載機器は
VTR 用回転ヘッドシリンダである.VTR シリンダの潤滑剤は PAO を基油とした.第 5
章では現在 3.5 型 HDD のほとんどが基油として用いている DOS の実験結果をまとめた
が,VTR シリンダ用流体軸受の基油である PAO や 2.5 型以下の HDD で使用されている
NPG-C8,NPG-C9 でも潤滑剤単体の熱劣化試験より実機搭載状態での予測寿命が長く
なっている.これらの結果もマランゴニ効果によるものと推測される.しかし,DOS
においても劣化による生成物質の質量数は明らかにできたが構造の特定はできなかっ
た.PAO や NPG 系基油においても劣化による生成物質の特定は製品性能の劣化状態の
予測のため有効であり,今後の研究に期待したい.
127
第7章
総括
128
謝
辞
謝 辞
本研究の遂行ならびに本論文をまとめるにあたり,終始懇切丁寧なご指導と有益のご助
言,そして暖かい励ましのお言葉を賜りました早稲田大学理工学術院大学院 情報生産シス
テム研究科 教授 松本 將 先生に深く感謝し心よりお礼申し上げます.
また,有益なご助言と暖かい励ましのお言葉を賜りました早稲田大学理工学術院大学院
情報生産システム研究科 教授 犬島
浩 先生,教授 巽
宏平 先生 に深く感謝し心より
お礼申し上げます.
本研究と論文発表の機会を与えていただき,また数々のご支援を賜りましたパナソニッ
クファクトリーソリューションズ株式会社 常務取締役 桑原 正幸 様,同 R&D センター所
長
土師 宏 様,R&D センター 中村 隆 様,松森 正史 様,同経営企画グループ 坂田 昌
弘 様,に深く感謝し心よりお礼申し上げます.
世界初の流体軸受を用いた商品開発,それに使用する潤滑剤開発の機会を頂きました元
パナソニック株式会社 生産技術研究所の淺田 隆文 様をはじめご関係の皆様に深く感謝
し心よりお礼申し上げます.
本研究の実施に際し,ご協力ご支援を賜りました出光興産株式会社 営業研究所 市橋 俊
彦 様,藤浪 行敏 様,株式会社太洋工作所 社長 辻 克之 様,同鶴見事業部 大西 慶一 様,
大西 拓郎 様に深く感謝し心よりお礼申し上げます.
そして最後に家族の暖かい励ましがあったことを付記します.
129
謝
辞
130
研究業績
研 究 業 績
学術誌原著論文
(1) 大野英明,松本 將,“動圧グルーブ流体軸受用潤滑剤の劣化-潤滑剤の単純熱劣化
と軸受内連続運転による劣化の差異-”, 精密工学会誌, 第 79 巻, 第 6 号, (2013),
523-528.
(2) 大野英明,松本 將,“転動体に玉を用いたリニア軸受の転がり疲れ寿命に及ぼすグ
リース基油粘度と摩耗防止剤の影響”, 精密工学会誌, 第 79 巻, 第 2 号, (2013),
159-164.
(3) 大野英明,松本 將,“転動体に玉を用いたリニア軸受の潤滑状態に及ぼすグリース
基油粘度の影響”, トライボロジスト(日本トライボロジー学会誌), 第 56 巻, 第 6 号,
(2011), 371-377.
131
研究業績
国際会議・シンポジウム
(1) Hideaki.Ohno, Susumu Matsumoto, “Effect of Base Oil Viscosity of Grease on
Lubricating Condition of Ball Type Linear Motion Rolling Bearing”, Japanese Society of
Tribologists, International Tribology Conference Hiroshima 2011, Hiroshima Japan,
(Oct-2011), E2-06.
発 表・講 演
(1) 淺田隆文,大野英明,“動圧グルーブ軸受のフェログラフィによる耐摩耗性研究-
グルーブ形成法の比較評価-”,日本トライボロジー学会トライボロジー会議予稿
集,(東京 1988-5),33.
解説記事
(1) 大野英明,城戸一夫,小坂和明,猪俣彰男,前畑健吾,“電子部品実装設備用グリ
ースの開発”,パナソニック技報,Vol.57,(2011),24-29.
(2) 日下圭吾,淺田隆文,大野英明,“動圧エア軸受とその応用技術”,松下テクニカル
ジャーナル,Vol.46,(2000),61-66.
(3) 大野英明,淺田隆文,日下圭吾,“動圧流体軸受のトライボロジー”,松下テクニカ
ルジャーナル,Vol.46,(2000),67-71.
表
彰
(1)日本トライボロジー学会,“トライボロジー遺産 10 号”に動圧グルーブ流体軸受式
ビデオテープレコーダ用シリンダヘッドが認定された.大野は開発当初からその潤
滑剤の開発,ユニットの量産化に参画し,トライボロジー会議 2013 春の総会で開
発者を代表し授賞式で楯を拝受した.2013,5,21.
132
研究業績
特許
発明者, “発明の名称”, 公開番号, (公開日), 特許番号(公告日)で示した
(1) 大野英明,” 潤滑状態判定装置及び部品実装装置”,特開 2012-159126 (2012.8.23).
(2) 大野英明,” 潤滑状態判定装置及び部品実装装置”,特開 2012-159127 (2012.8.23).
(3) 大野英明,” 磨耗状態検出方法,部品実装装置の駆動部,及び部品実装装置”,特
開 2008-28344(2005.02.07),特許第 4597923(2010.10.01).
(4) 大野英明, ” 潤滑剤供給方法,案内装置及びこれを備えた製造装置 ” ,特開
2008-69927 (2008.03.27).
(5) 大野英明,藤浪行敏(出光興産),”実装機用グリース組成,ならびにこれを含有す
る案内装置および実装機”,特開 2010-37383 (2010.02.18).
(6) 淺田隆文,濱田力,大野英明,日下圭吾,”流体軸受装置”,特開 WO2004-081400
(2006.06.15).
(7) 平田勝志,大野英明,白石孝範,”流体軸受用潤滑剤,ならびにそれを用いたスピ
ンドルモータ及び情報装置”,特開 2006-193723 (2006.07.27).
(8) 平田勝志,大野英明,白石孝範,”流体軸受用潤滑剤,ならびにそれを用いたスピ
ンドルモータ及び情報装置”,特開 2006-291042 (2006.10.26).
(9) 平田勝志,大野英明,白石孝範,”流体軸受用潤滑剤,ならびにそれを用いたスピ
ンドルモータ及び情報装置”,特開 2007-120653 (2007.05.17).
(10) 平田勝志,大野英明,白石孝範,”流体軸受装置,それを用いたスピンドルモータ,
及びそれを用いたディスク駆動装置”,特開 2006-105207 (2006.04.20).
(11) 平田勝志,大野英明,白石孝範,” 流体軸受装置,ならびにそれを用いたスピン
ドルモータ及び磁気ディスク装置”,特開 2006-64151 (2006.03.09).
(12) 浜田力,淺田隆文,大野英明,” 動圧流体軸受装置 ”,特開 2006-46540 (2006.02.16).
(13) 平田勝志,白石孝範,大野英明,”流体軸受装置,及びそれを用いたスピンドルモ
ータ”,特開 2005-290256 (2005.10.20).
(14) 平田勝志,白石孝範,大野英明,”流体軸受装置及びそれを用いたスピンドルモー
タ”,特開 2005-291332 (2005.10.20).
133
研究業績
(15) 淺田隆文,濱田力,大野英明,得能保典, ” 流体軸受装置 ” ,特開 2005-256968
(2005.09.22).
(16) 大野英明,” 流体軸受装置”,特開 2005-106098 (2005.04.21),特許第 4347010 号
(2009.07.24).
(17) 大野英明,” 流体軸受装置”,特開 2005-98394 (2005.04.14).
(18) 淺田隆文,斎藤浩昭,大野英明,伊藤大輔,”流体軸受装置及びディスク装置”,
特開 2005-9581 (2005.01.13).
(19) 淺田隆文,斎藤浩昭,大野英明,伊藤大輔,”流体軸受装置及びディスク装置”,
特開 2005-9580 (2005.01.13).
(20) 淺田隆文,斎藤浩昭,大野英明,伊藤大輔,”流体軸受装置及び加工方法”,特開
2004-257510 (2004.09.16).
(21) 大 野 英 明 , ” 流 体 軸 受 装 置 及 び こ れ を 用 い た 磁 気 デ ィ ス ク 装 置 ” , 特 開
2004-183868 (2004.07.02),特許第 4045942 号(2007.11.30).
(22) 淺田隆文,斎藤浩昭,大野英明,” 動圧軸受装置及びディスク記録装置 ”,特開
2004-132455 (2004.04.30 ).
(23) 淺田隆文,斎藤浩昭,大野英明,” 動圧軸受装置及びこれを用いたモータ及びデ
ィスク記録装置”,特開 2002-372048 (2002-12.26),特許第 3687570 号(2005.06.17).
(24) 淺 田 隆 文 , 大 野 英 明 , 斎 藤 浩 昭 , ” デ ィ ス ク 回 転 装 置 ” , 特 開 2002-369476
(2002.12.20 ).
(25) 大野英明,
淺田隆文,”ハードディスクドライブ用流体軸受装置”,
特開 2002-155944
(2002.05.31).
(26) 大野英明,淺田隆文,”流体軸受装置”,特開 2002-13534 (2002.01.18).
(27) 大野英明,淺田隆文,日下圭吾,”流体軸受装置”,特開 2001-200848 (2001.07.27).
(28) 大野英明,淺田隆文,”流体軸受装置”,特開 2001-140894 (2001.05.22),特許第
4274652 号(2009.03.13).
(29) 日下圭吾,
大野英明,
淺田隆文,松本才明,” 動圧気体軸受装置 ”,特開 2001-124061
(2001.05.08).
134
研究業績
(30) 大野英明,淺田隆文,日下圭吾,”気体軸受装置”,特開 2001-124087 (2001-05.08).
(31) 大野英明,淺田隆文,日下圭吾,”気体軸受装置”,特開 2001-124060 (2001.05.06).
(32) 園田孝司,大野英明,淺田隆文,”動圧型軸受装置”,特開 2000-314425 (2000.11.14).
(33) 淺田隆文,大野英明,”流体軸受装置”,特開 2000-297818 (2000.10.24).
(34) 佐藤正一郎,瀬野眞透,大野英明,高市進,山上秋男,”電子部品吸着ノズル”,
特開 2000-124678 (2000.04.28).
(35) 淺田隆文,大野英明,”流体軸受装置”,特開平 11-344025 (1999.12.14).
(36) 淺田隆文,大野英明,日下圭吾,” 流体軸受装置およびその加工方法 ”,特開平
11-344027 (1999.12.14).
(37) 大野英明,淺田隆文,日下圭吾,”気体軸受装置の製造方法”,特開平 11-336748
(1999.12.07).
(38) 大野英明,淺田隆文,日下圭吾,”気体軸受装置の製造方法”,特開平 11-223213
(1999.08.17).
(39) 淺田隆文,園田孝司,大野英明,”流体軸受装置”,特開平 11-82478 (1999.03.26).
(40) 日下圭吾,
大野英明,
淺田隆文,”溝付き軸受板及びその加工方法”,
特開平 10-31133
(1989.11.24).
(41) 浜田力,淺田隆文,大野英明,”動圧型流体軸受用スリーブとその製造方法”,特
開平 10-281144 (1998.10.20).
(42) 淺田隆文,浜田力,森本正人,大野英明,斉藤浩昭,”溝付きスリーブの製造方法”,
特開平 10-249464 (1998.09.22).
(43) 園田孝司,淺田隆文,大野英明,”動圧溝付き軸受のスリーブの加工方法”,特開
平 10-141360 (1998.05.26).
(44) 大野英明,淺田隆文,”レンズアクチュエータ”,特開平 5-89499 (1993.04.09).
(45) 大野英明,淺田隆文,”レンズアクチュエータ”,特開平 5-89497 (1993.04.09).
(46) 大野英明,淺田隆文,”レンズアクチュエータ”,特開平 5-89496 (1993.04.09).
135
研究業績
(47) 大野英明,淺田隆文,三好徳享(岡製製油),上畑雅司(岡村製油),”流体軸受装置”,
特開平 4-357318 (1992.12.10),特許第 2997091 号(1999.10.29).
(48) 大野英明,吉嗣孝雄,吉田忠良,松本英雄”流体軸受用潤滑油”,特開平 1-269720
(1989.10.27),特許第 2621329 号(1997.04.04).
(49) 大野英明,吉嗣孝雄,”流体軸受用潤滑油”,特開平 1-225697 (1989.09.08),特許第
2676767 号(1997.07.25).
(50) 吉嗣孝雄,大野英明,山本三千治,”流体軸受装置”,特開平 2-118215 (1989.05.02).
(51) 大野英明,宇田成徳,吉田忠良,野島由佳子(松下電器産業),萩原敏也,岸本耕
二,助野友香(花王株式会社),”流体軸受用潤滑油”,特開平 1-188592 (1989.07.27).
(52) 大野英明,吉嗣孝雄,野島由佳子,”流体軸受装置”,特開平 1-279117 (1989.11.09).
(53) 大野英明,吉嗣孝雄,吉田忠良,松本英雄,”流体軸受装置”,特開平 1-275913
(1989.11.06).
(54) 淺田隆文,村上卓二,仲川浩司,大野英明,”動圧型流体軸受”,特開昭 61-241520
(1986.10.27).
(55) 淺田隆文,中村卓司,大野英明, ” 動圧型流体軸受装置 ” ,特開昭 63-167121
(1988.07.11).
(56) 仲川浩司,吉田忠良,淺田隆文,大野英明,”動圧型流体軸受の流体溝形成装置”,
特開昭 63-36939 (1988.02.17),特公平 7-71703(1995.08.02).
(57) 仲川浩司,吉田忠良,淺田隆文,大野英明,”動圧型流体軸受の流体溝形成方法”,
特開昭 63-36945 (1988.02.17).
(58) 淺田隆文,黒瀬和義,井上洋,村上卓二,仲川浩司,大野英明,”動圧型流体軸受”,
特開昭 61-241519 (1986.10.27).
(59) 仲川浩司,村上卓二,淺田隆文,大野英明,”溝付流体軸受の製造装置”,特開昭
61-162235 (1986.07.22),特公平 5-45339(1993.07.08).
(60) 淺田隆文,大野英明,黒瀬和義,井上洋,”動圧型流体軸受装置の製造方法”,特
開昭 62-37511 (1987.02.18),特公平 4-57888(1992.09.16).
136
研究業績
(61) 淺田隆文,村上卓二,仲川浩司,黒瀬和義,大野英明,井上洋,”動圧型流体軸受”,
特開昭 62-13812 (1987.01.22),特公平 3-31929(1991.05.09).
(62) 大野英明,中尾要,淺田隆文, ” 流体軸受シリンダ装置 ” ,特開昭 61-171915
(1986.08.02).
(63) 仲川浩司,村上卓二,淺田隆文,大野英明,”溝付流体軸受の製造装置”,特開昭
61-124726 (1986.06.12),特公平 6-13135(1994.02.23).
(64) 淺田隆文,村上卓二,仲川浩司,大野英明,”溝付き流体軸受の製造装置”,特開
昭 61-119323 (1986.06.06),特公平 4-13045(1992.03.06).
(65) 淺田隆文,村上卓二,仲川浩司,大野英明,”溝付き流体軸受の製造装置”,特開
昭 61-111714 (1986.05.29),特公平 4-78364(1992.12.11).
(66) 淺田隆文,
吉田忠良,
香田稔,
大野英明,”流体軸受シリンダ装置”,特開昭 60-159417
(1985.08.20),特公平 2-19331(1990.05.01).
(67) 淺田隆文,香田稔,吉田忠良,千間和義,松本英雄,大野英明,”流体軸受シリン
ダー装置”,特開昭 59-17312(1984.11.19)
(68) 淺田隆文,岸本克,吉田忠良,大野英明, ” 流体軸受シリンダ装置 ” ,特開昭
60-129419(1985.07.10)
(69) 淺田隆文,岸本克,吉田忠良,大野英明, ” 流体軸受シリンダ装置 ” ,特開昭
60-102714(1985.07.13)
137
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