平成 24 年度 京都大学農学部 地域環境工学科 課題研究要旨集

平成 24 年度 京都大学農学部 地域環境工学科 課題研究要旨集
平成 24 年度
京都大学農学部
地域環境工学科
課題研究要旨集
気象データを用いた紅葉時期予測モデルの開発
Models for predicting the tree leaf coloring day
using the meteorological data
Key words: phenology, prediction, meteorology
水環境工学分野
1.はじめに
毎年晩秋にかけて,京都は木々が紅葉で彩られ年
有数の観光シーズンを迎える.それに伴い紅葉日の
予測に対する社会的ニーズは高い.紅葉など葉の季
節 的 変 化 に 関 す る 既 往 の 研 究 で は (Estrella and
Menzel 20061))定性的な議論が頻繁に見られ,結果を
モデル化するにはさらに定量的な解析が必要である.
同じく生物季節的現象である春の桜の開花につい
ては,温度変換日数を用いた速度論的手法による推
定 モ デ ル 等 が 開 発 さ れ て い る (Aono and Omoto
19902)).一方,秋の紅葉日について現在日本観光協
会等が使用しているモデルは,9 月の平均気温のみ
を説明変数とした単純な一次回帰式となっている.
つまり,紅葉日の予測手法は桜の開花日推定手法に
比べ,検討が不足している.そこで本研究では,秋
の気温降下及び春の気温上昇に着目し,気象要素デ
ータに基づいたより精度の高い紅葉日予測モデルの
開発と精度の比較検討を目的とした.
2.材料と方法
2.1 観測データ
高安
俊輔
ては,様々な気象要素から求めた説明変数と実測紅
葉日との相関を調べ,その相関が最も高くなる説明
変数をモデルとして採用した.
3.2 ポイント型モデル
気象要素の日別値を用い,その値が設定した閾値
以下になった日に 1 点を加算し,その累積点数があ
る基準値に達した日を紅葉日とするモデルである.
解析の手順としては,紅葉に影響すると考えられる
夏期以降の期間について,日最低気温などを対象に
閾値を設定し,実測紅葉日までのポイント積算値を
求めた.
3.3. 積算型モデル
気象要素の日別値を用い,その値を関数などで日
別の指数に変換し,積算開始日以降の指数を積算し,
積算値が一定値に達した日を紅葉日とするモデルで
ある.指数として(基準値-気象値)を用い,指数
が負の際は指数をゼロとする.解析の手順としては,
紅葉に関係すると考えられる夏期以降の期間につい
て,日最低気温などを対象に,基準値を仮定し,日
別に気象値と基準値の差として指数を求めた.
3.4. 複合型モデル
(1) 複数期を考慮した複合型モデル
春と秋など 2 つ以上の時期に関する,気象要素デ
ータの平均値を説明変数とし,紅葉日を目的変数と
して重回帰式で紅葉日を推定するモデルである.
(2) 積算型モデルを内包した複合型モデル
説明変数として,ある時期に関する気象要素デー
タの平均値と,積算型モデルの積算値を説明変数と
して,紅葉日を重回帰するモデルである.
京都市右京区にある宝筐院における紅葉観察
記録を基にして紅葉日を求めた.また気象データ
は,京都地方気象台における,1990 年から 2010 年
の 21 年間の日別気象値を用いて解析した.気象値と
しては日平均気温(℃),日最高気温(℃),日最低気温
(℃),日降水量(mm),日別日照時間(h)を用いた.
2.2 データ解析方法
データ解析は,回帰分析等の統計解析手法を用
いて行った.説明変数としては気象値,目的変数
としては実測紅葉日を用い,寄与率などのモデル
の有効性を計る尺度を基準にした.
3.5 平年偏差値を使用したモデル
検討したすべての型のモデルで,気温観測値の代
わりに気温の平年偏差値(=気温観測値-気温平年
値)を用いて,精度を比較検討した.
3.紅葉日予測モデル
4.結果と考察
3.1 回帰型モデル
ある気象要素データの設定した期間の平均値を説
明変数とし,紅葉日を目的変数として,一次回帰式
で紅葉日を推定するモデルである.解析の手順とし
気象要素に最低気温とその平年偏差を用い,適し
た変数を設定した際の標準誤差(日)を表 1 に示す.
1
回帰型モデル ポイント型モデル 積算型モデル 複合型モデル
最低気温値
3.10
3.56
3.01
2.65
最低気温平年偏差値
2.97
3.61
2.32
2.70
4.1 回帰型モデル
最初に,月別の気温値を用いて検討した結果,10
月と 11 月を通した期間の日最低気温平均値を用い
ると,自由度調整済み寄与率(R2)は 0.54,標準誤
差日数は 3.09 日となった.次に,日別の気温値を用
いて検討した結果,日最低気温の 280 日(DOY)から
316 日(DOY)の期間を説明変数として用いた場合は,
R2 が 0.58,標準誤差が 2.95 日となった.日照時間と
降水量に関してはいずれのモデルでも紅葉日との相
関が低かったため要因から除いた.気象要素に関し
て,日最高気温と日平均気温に比べ日最低気温がよ
り精度が高くなった.
4.2 ポイント型モデル
対象期間を 280 日から紅葉日前日まで,閾値温度
を 11.3℃に設定することで,R2が 0.46,標準誤差が
3.35 日という精度を示した.
気象要素として日最低気温の平年偏差値を使用し,
モデルとして積算型モデルを選択し,対象期間を
280 日から紅葉日前日まで,気温閾値を 12.5℃と設
定した結果,R2は 0.74,標準誤差は 2.32 日となり今
回検討した手法の中で,最も高い精度を示した.こ
の場合の実測値と予測値の散布図を図 1 に示す.平
年偏差値を用いたケースが,本研究内で最高の精度
となった.このことから,葉が平年値を記憶するよう
なシステムを有しており,平年値からの差の方が単
なる観測値よりも,紅葉日の決定により重要なイン
パクトを与える要素になっていると考えられる.
予測値(DOY)
表1 変数を設定した際の各モデルの標準誤差
340
330
320
310
310 320 330 340
観測値(DOY)
図1
最高精度モデルの予測値・観測値散布図
以上の個別のモデルの考察を踏まえ,全体として
のモデルアルゴリズムと利用方法について以下のよ
うに考察する.
5 種類のモデルを検討した結果,平年偏差を用いた
積算型モデルと積算型モデルを内包した複合型モデ
ルの精度が高いことが明らかになった.数値上は前
者の方が高精度であるが,前者ではより直前までの
気温データを必要としている.精度は若干下がるが
直前ではない時期までの気温で推定できる後者と,
精度はより高いが紅葉日直前までの気温を用いる前
者は,予測モデルとしての甲乙をつけ難い.そこで,
予測を行う時期に応じてこれらのモデルを使い分け
るのが最適であると考える.
本研究でのモデルは,9 月の積算気温のみから推定
する従来のモデルに比べ,高い精度を有する.今後
の課題としては,本報告では京都における 21 年間と
いう限られた情報に基づく検討となったため,より
多くの年次や地点のデータを解析することで一般性
を検証することが必要である.なお,本手法の実際
的な運用についてはさらに検討すべき点もあるが,
日最低気温の実測値や予測値は容易に入手できるの
で本手法は紅葉日予測に利用することができると考
えられる.
4.3 積算型モデル
対象期間を 280 日から紅葉日前日までに設定した
場合,閾値温度を 16℃に設定することで,R2が 0.60,
標準誤差が 2.89 日と高い精度を示した.理由として
は,積算型モデルは気温と閾値温度との差を丁寧に
積算していく手法を採用しており,相関型モデルと
ポイント型モデルに比べ,秋期の気温降下をより丁
寧に換算しているモデルであるためと推測される.
4.4 複合型モデル
(1)複数期を考慮した複合型モデル
9 月から 10 月の期間の日最低気温平均値と 3 月か
ら 6 月の期間の日最高気温平均値を説明変数として
用いると,R2は 0.16,標準誤差が 4.19 日となった.
(2)積算型モデルを内包した複合型モデル
説明変数 2 個の場合,R2は 0.63,標準誤差は 2.78
日となった.さらに,
説明変数 3 個の場合,R2は 0.66,
標準誤差は 2.65 日となった.
複合型モデルで,3 月から 6 月の日最高気温平均
値を説明変数として加えることで,精度が高くなっ
た理由として次のように考えられる.初夏の期間の
気温が高ければ高いほど,樹木が吸収するエネルギ
ー量が大きくなり,葉はより大きく成長しクロロフ
ィルの総量は大きくなる.この樹木としてのクロロ
フィル総量に応じて,葉は秋期に紅葉に至るまでに
より多くの低温刺激を必要とする,と考察される.
参考文献
1)
2)
4.5 平年偏差気温を使用したモデル
2
Aono, Y. and Otomo, Y. (1990) : Estimation of blooming date
for Prunus yedoensis using DTS combined with chill-unit
accumulations. Journal of Agricultural Meteorology 45, 243–249.
Estella, N. and Menzel, A. (2006) : Responses of leaf coloring
in four deciduous tree species to climate and weather in Germany.
Climate Research 32(3),253-267.
Facebook 導入が自治体の情報発信にもたらす効果
―佐賀県武雄市を事例として―
The effect on information transmission of self-governing bodies by Introducing Facebook
―in the case of Takeo City, Saga Prefecture―
Key words: Facebook, information transmission, diffusion
農村計画学分野
永草
達海
1.研究の背景と目的
近年の人々への広がりや東日本大震災での活躍を受け、情報発信・共有や地域活性化のツールとしての SNS
の活用が自治体でも注目されている。SNS は既存のメディアと比較してリアルタイム性(情報を常時・即時に
提供できるか),インタラクティブ性(問い合わせにスタッフが対応できるか ),オープン性(情報や対応が広く
社会に開かれているか),パーソナル性(そのメディアが個人に紐付いているか )において優れており、従来メ
ディアでは実現困難な点の補完を期待されて導入が進んでいる 1),が、一方で市民からのフォロー数(Twitter)
やファン数(Facebook)が得られず、情報発信の手段として十分な効果を得られていない自治体が多いのが現
状である。
そこで本研究では、2011 年にホームページの機能すべてを Facebook ページに移行するという日本の自治体
初の取り組みを行っている佐賀県武雄市を事例とし、 Facebook の導入が自治体の情報発信にもたらす効果を
定量的に求めた上で、その効果を発揮するためのファン数 (ユーザー数)の獲得につながりやすい情報発信の
性質を求めることを目的とする。
表1 ジャンル分け
2.各分析の概要
A 天気
2.1 データ集計の概要
B Facebook
まず武雄市の Facebook ページと市報において 2011 年 8 月から 2012 年 11
C 市政・施策
月を対象として、Facebook ページでは[日付,ジャンル(そのうちの大分類を
右の表 1 に示す),いいね!数,コメント数,シェア数,他からのシェアの有無及
D ボランティア
びその種類]を、市報では[月,Facebook での投稿数に相当する記事数,ジャン
E 防犯・防災
ル(Facebook ページと同じ分類),記事ごとの写真の有無]を集計した。なお、
F 緊急・災害
投稿のジャンル分けに関しては武雄市では人員的・時間的余裕の無さからな
G 職員・職務
されていないとのことであったので、こちらで行った上で市の担当者にその
内容の確認をとり確定した。
H 市民向け
2.2 Facebook 導入が情報発信にもたらした効果の定量的分析
2.1 の集計をもとに、内容によるジャンル分け(表 1)及び、発信の仕方によ
る 2 次的なジャンル分け毎に市報と比較して分析した。結果は表 2 の通りで
ある。これより、既存の媒体では発信することのできなかった情報の発信が
可能になっていることがわかる。
表2
I
市民及び市外民向け
J
市の PR
K 日常
L
その他
Facebookが自治体の情報発信にもたらした効果の定量的なもの
効果
発信情報量の増加
内容
Facebook
市報
備考
投稿数全体(件)
2260
903
発信量は2.5倍に
写真の添付率(%)
100
62.6
追加して発信できるようになった
768
149
全ての情報に写真を
1
添付可能に
発信可能量は5.2倍
細やかな情報の件数(件)
外部への情報発信能力
の向上
20,000人以
主な情報発信対象
上の市外の
基本的に
市民のみ
ファン
発信可能なジャンルの
増加
緊急時対応
イベント情報の
リアルタイム性
即時的な情報(件)
652
2
天気や緊急情報等
市報には適さない情報(件)
240
13
Facebook関連等
災害時の即時の情報発信(件)
55
0
76
0
高いシェア数による
拡散能力
武雄市の主要イベントの開催当日及び
リアルタイムの発信
開催中の投稿数
表3
2.3 ファン数の獲得につながりやすい情報の傾向
まず 2.1 の集計結果より、ひとつの投稿ごとで、そ
のシェア数を多く得られるほどその投稿のインタラク
ション数(いいね!数,コメント数,シェア数の合計)は
大きくなることがわかった。そして月インタラクショ
ン数合計とその月のファン数の間にも高い相関関係が
あることもわかっている。
それに加えて、ユーザーからの各反応を 2.1 のジャン
ル分け毎に分析することによって、シェア数,インタラ
クション数の高く得られやすいジャンルの割り出しを
行った。結果が右の表 3 である。
3.結論
が可能に
ジャンル毎の反応の傾向
ジャンル
平均インタラ
投稿数
平均シェア数
A
486
0.3
121.9
B
202
7.6
200.4
C
157
5.2
141.4
D
130
3.3
115.6
E
71
1.8
137.5
F
55
4.9
111.6
G
166
2.4
112.8
H
486
2.0
136.1
クション数
以上より、Facebook は既存のメディアと比較して発
263
2.6
141.9
I
信可能な情報の量、ジャンル、リアルタイム性等にお
94
2.3
167.4
J
いて大きく優れたメディアであることがわかるが、そ
39
0.9
138.1
K
の中でも Facebook 関連や市政関連の情報を投稿してゆ
くことにより、高いシェア率によるファン以外の人々
111
0.9
44.5
L
への拡散とインタラクション数の増加がしやすく、そ
2260
0.7
133.2
合計
れにより広く目に付きやすく、ファンも増加しやすい
ものとなる。しかし、武雄市で多くのファンを得られている (22,000 人以上)要因としては、日本の自治体初
の取り組みであることの先行者利益をジャンル B の Facebook 関連の投稿において受けている面が大きく、他
の自治体が同様にファン数を獲得するためには先進的な取り組みを市政等において行っていくこと (ジャン
ル C)や、ゆるキャラ等を用いて他の自治体やイベント等と絡んでいく (ジャンル J)ことが重要である。
加えて日本の Facebook の利用者数はすでにピークを過ぎ減少してきていると見られており 、現在ファンを
あまり得られていない自治体がファン数を増やすのはより難しくなってきている。
参考文献
1) 伊藤智久,安岡寛道(株式会社野村総合研究所)(2011)「自治体のソーシャルメディア活用とその指標~オープンガバメ
ン ト の 促 進 に 向 け た 民 間 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム 活 用 ~ 」 http://www.nri.co.jp/publicity/mediaforum/2011/pdf/forum159.pdf
(2012/12/22 アクセス)
2
サルの集落ぐるみの追い払いを阻害する物理的条件の解明
Physical conditions interfering with chasing Japanese monkeys away by groups
Key words: agricultural damage by wildlife, chasing away, topographical characteristics
農村計画学分野
青木
茜
1.研究の背景と目的
近年、野生獣の農作物被害が深刻化しており、その中でもニホンザル(以下サル)による農作物被害は
イノシシ、シカに次いで多くなっている 1)。サルは他の野生獣に比べ学習能力が高く、対策にも工夫が必
要である。こうした中、被害対策の一つとして全戸で集落を守る追い払い(以下集落ぐるみの追い払い)
の効果が実証され 2)、追い払いのための 6 連発花火のような道具も開発されている。しかし、追い払いの
実施にあたっては集落内外の地形や地物といった物理的条件がそれを困難にしている場合もあると考え
られる。そこで本研究では追い払いを阻害する物理的条件を解明し、今後集落ぐるみの追い払いを導入す
る際の難易の判断材料とすることを目的とする。
2.研究対象地
本研究では三重県伊賀市の農業集落のうち、2011 年テレメトリ調査結果に基づき推定された瀧群、広瀬群、
下阿波群と呼ばれる 3 つのサル群のいずれかの行動域に一部あるいは全部が含まれ、かつ 2011 年 12 月に実
施した区長対象のアンケート調査において、集落ぐるみの追い払いを実施していると回答した 16 集落を対象
とした。また、三重県は全国でサルによる被害面積が最も多く(2010 年度、農林水産省)
、伊賀市では平成
20 年度から県と市が連携して「集落ぐるみの獣害対策に取り組む集落」に対する支援を行っている。
3.研究の方法
三重県による上述のテレメトリ調査による位置データと 2011 年 12 月から 2012 年 12 月までの集落住民に
よるサルの出没及び追い払いに関する記録(以下サルカレンダー)、対象集落へのヒアリング調査、GPS に
よる追い払いルート記録を元に、集落毎の航空写真上に住民の追い払い終着地点を決定する。集落ぐるみの
追い払いの成功事例とされる同市下阿波集落では集落の居住・農地エリアから最近の尾根(以下尾根)まで
追い払いを実施していることから、本研究では理想の追い払い終着地点を尾根までとし、実際の追い払い終
着地点と挟まれた範囲を追い払いができていないエリアとする。そして、そのエリアから追い払いを阻害す
る物理的条件を抽出する。
4.結果と考察
ヒアリング調査を行い、集落ぐるみの追い払いを実際は行っていなかった 3 集落を除く 13 集落の追い払い
状況を集落ごとに整理した結果、対象集落は主に 2 つの地形的特徴(山が入り組んでいるまたは集落内に里
山が存在する地形と、集落内を河川が通る地形)を持っており、その地形的特徴別に追い払いができていな
いエリアが類似していることが得られたため、以下では地形的特徴ごとに考察する。
(1)山が入り組んでいるまたは集落内に里山が存在する地形
山が入り組んでいるまたは集落内に里山が存在する地形を持つ集落では、集落内に浮島のように存在する
里山や竹藪、集落内に突き出た山が追い払いを阻害する物理的条件として確認できた。これらの山にサルが
入るとサルの姿を見失う、またはそもそも足場や視界が悪くて住民が山に入れないため追い払いを終了して
いた。具体例として図 1 にこの地形的特徴を持つ蓮池集落を示すと、①付近では集落内に突き出た山の手前
で追い払いを終了している。これらの物理的条件に対する解決策としては、山道の整備、山道の新設、木の
伐採、をこの優先順位で提案する。
(2)集落内を河川が通る地形
集落内を河川が通る集落では、その河川が追い払いを阻害する物理的条件であることが確認できた。当初、
集落の中央部を流れる大きな河川は追い払いを阻害すると考えられたが、そのような河川をサルは渡ろうせ
ず、渡ったとしても橋を利用するので住民は追い払いが可能である。ゆえにこのような河川は追い払いを阻
害しない。逆に図 2 に示す⑦のように、川幅の小さい河川や山際を流れる河川が追い払いの阻害要因となっ
ていることが明らかになった。サルは水位が低ければ飛び石を渡ったり、河川上空に伸びた木の枝を利用し
1
たりして河川を渡ることがあるが、住民は足を滑らせたり濡れることを懸念して河川を渡ろうとはしない。
このような条件の解決策として、簡易橋を渡すことや、川岸の木を伐採することが考えられる。
(3)全集落に共通する物理的条件
地形的な特徴に関係なく、全集落で共通する追い払いを阻害する物理的条件として、集落周りの山際に設
置したシカ及びイノシシ対策としての侵入防止柵(図 1 の②、図 2 の④)、山の中の状態(図 1 の③、図 2
の⑤⑥)、の 2 つが挙げられた。柵については、出入口を開けている間にサルを見失ったり、出入口がないた
めに柵よりも奥に入ることができないため、解決策として柵の出入口を針金などで巻き付けずに、人が利用
するのに慣れている鍵つきのドアノブにするなどといった柵の出入口の簡略化、出入口の新設置が考えられ
る。また追い払いを阻害する山の状態とは、急な崖地がある、傾斜がきつい、ササやイバラが生い茂って
いる箇所がある 3)ことを指すが、
今回の調査では植林に比べて雑木林の方が、
視界が悪くサルを見失う、
植林であっても管理不足により間伐されておらず住民が足を踏み入れにくいことが明らかになった。こ
のような条件の解決策としては山の手入れ、山道の新設が考えられる。
(4)特定の集落における追い払いを阻害する物理的条件
以上の物理的条件の他に、居住・農地エリアと山際の間にある大きな落差、人工物も追い払いを阻害
していることが確認できた。山際との落差に対する解決策としては電気柵を設置することを提案する。該当
する集落では、落差により追い払いができないため電気柵を設置したことにより、サルの集落への侵入頻度
が下がっている。また人工物としては、採石プラントが挙げられた。この解決策としては周囲に電気柵の設
置が考えられる。これによりサルを迂回させ追い払いの続行を可能にできると考えられ、また逃げ場のない
エリアにサルは出没しなくなる可能性も考えられる。
凡例
b サルの出没地点(カレンダーより
サルの出没地(カレンダーより
サルの出没地(ヒアリングより
サル出没経路(ヒアリングより
サル出没限界
追い払い方向(カレンダーより
追い払いの方向(ヒアリングより
追い払いの終着地点(カレンダーより
追い払いの終着地点(ヒアリングより
柵
尾根
蓮池GPS
集落界
図 1 蓮池集落
図 2 須原集落
参考文献
1)農林水産省 鳥獣被害対策コーナー <http://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/index.html>.
2)山端直人(2010)
:獣害対策の進展が農家の農地管理意識に及ぼす効果~三重県における集落の調査事例、農村計
画学会誌、29 巻論文特集号、245-250.
3) 独立行政法人森林総合研究所編(2008)
:ニホンザルの追い上げマニュアル.
2
水田地区の排水路底泥に含まれる有機態窒素の無機化の特徴
Characteristics of Mineralization of Organic Nitrogen in the Sediments in a Drainage Canal
in a Paddy-field District
Key words: Drainage canal, Sediment, Nitrogen
水環境工学分野
1.はじめに
五十嵐
文典
し,夾雑物を除去した底泥(ふるいわけ底泥)30g
に,蒸留水 100mL で湛水させた「ふるいわけ試料」,
③40℃で 20h 乾燥させた後,元の含水比を再現する
ために蒸発した水分量と同量の蒸留水を加えた底泥
(乾燥再湿潤底泥)30g に,蒸留水 100mL で湛水さ
せた「乾燥再湿潤試料」の 3 種類を用意した(写真
1).
培養は 25℃の暗条件で行った.培養日数は 1,3,
5,7,14,21,28 日とした.
窒素をはじめとする栄養塩類は,農地から排出
されると下流の河川の水質悪化,湖沼の富栄養化や
アオコ・赤潮の発生などを引き起こす.一方で,水
田農業は窒素負荷の軽減機能を持つ 1).これは,湛
水によって水田土壌が還元的な環境になり,灌漑用
水に含まれる硝酸態窒素が水田内で脱窒作用を受け
て減少することに起因する.また,水田から排出さ
れた窒素の一部は農業排水路の底泥に貯留され,下
流への排出が一時的に抑制されるが,降雨による底
泥の巻き上げや直上水への溶出によって再び流出す
る可能性がある.つまり,排水路は二次的な負荷発
生源となりうる.
排水路底泥に含まれる窒素の大部分は有機態成
分であり 2),土壌中に含まれる有機態窒素は微生物
による分解(無機化作用)を受けアンモニア態窒素
や硝酸態窒素などの無機態窒素となることが知られ
る.排水路底泥においても有機態窒素が無機化作用
を受け放出されることが推察されるが,排水路底泥
中の有機態窒素がどのような経時的形態変化過程を
辿るのかは未だ明らかでない.
本研究では,農業排水路の底泥中に含まれる有機
態窒素の経時的な無機化過程を明らかにすることを
目的とし,不撹乱試料と撹乱試料を用いて最大 28
日間の培養試験を行った.そして,底泥中有機態窒
素の経時的形態変化の深さや撹乱による差異と,培
養試料の直上水中に含まれる窒素成分の経時的形態
変化についても考察を行った.
写真 1
不撹乱試料(右)とふるいわけ試料(左前 2 列)
及び乾燥再湿潤試料(左奥 2 列)
培養終了後,底泥の直上水を全て採水した.
不撹乱底泥については上層
(底泥表層から 0~1cm),
中層(1~5cm),下層(5~10cm)に分け,また,ふる
いわけ底泥と乾燥再湿潤底泥については層分けせず
に冷蔵庫で低温乾燥した.乾燥後,底泥が含有する
窒素成分(TNDC ;全窒素,TNWater ;水抽出全窒素
NH4-NWater;水抽出アンモニア態窒素,NH4-NKCl;KCl
抽出アンモニア態窒素)をそれぞれ測定した。本研
究では,不撹乱底泥の全窒素(gN/kg soil)に試料間
で差が生じると考えられるため,無機態窒素の量を
TNDC に対する割合(%)で解析した.
直上水中の窒素成分(TN;全窒素,DTN;溶存態
全窒素,NH4-N;アンモニア態窒素,NO3-N;硝酸
態窒素)の分析も行った.培養試験により測定され
る直上水中窒素成分は全て底泥表層からの溶出によ
るものであり,また,不撹乱試料と撹乱試料で湛水
深が異なるため,本研究における直上水中の窒素成
分は,単位面積あたりの溶出量 gN/m2 に換算して
表記した.
2.材料と方法
琵琶湖周辺に位置する2つの水田地区(St.1;姉
川下流,St.2;日野川下流)の排水路から,透明ア
クリルパイプ(外径 95mm,厚さ 2mm,長さ 200mm)
を用いて,底泥表層からの泥厚 100mm 程度になる
ように不撹乱で底泥を採取した.なお,採取した底
泥の直上に存在した農業排水は現地でシリンジを用
いて排除し,実験室に持ち帰った.
試料は①不撹乱底泥を蒸留水で 3cm 湛水させた
「不撹乱試料」
,②湿潤状態のまま 2mm ふるいに通
1
3. 結果と考察
3.2 乾燥再湿潤試料の窒素無機化
St.1 の乾燥再湿潤底泥に含まれる窒素成分の最大
値は,NH4-NKCl が 5.7%,NH4-NWater が 3.7%であり,
不撹乱底泥より 1~2%多くの無機態窒素が発生した
(図 3)
.また,St.1 の乾燥再湿潤試料直上水に含ま
れる窒素成分は,不撹乱試料の直上水に見られた,
培養 14 日目のピークの後に減少する傾向を示さな
かった(図 4)
.乾燥再湿潤処理を受けた底泥の有機
態窒素の無機化量が増大したことから,非灌漑期の
降雨や中干し後の排水により,排水路底泥からの窒
素負荷が増大する可能性が示唆された.
3.1 不撹乱試料の窒素無機化
St.1 の 不 撹 乱 底 泥 ( 図 1 ) は , 培 養 開 始 時 に
1.5~2.9%であった NH4-NKCl が培養 5~7 日目に 3.5~
4.7%のピークを示し,このピークは上層ほど明瞭で
あった.一方,NH4-NWater は NH4-NKCl の半分程度で,
培養 14 日目の上層が最大で 2.3%であった.培養 14
日目以降になると,各層の NH4-NWater に大きな変動
はなかった.不撹乱底泥上層において NH4-NWater が
培養開始後 3 日間で大きく減少しているが,これは
底泥上層の土粒子に緩く結合或いは底泥間隙水中に
存在していた NH4-N が,培養初期に直上水へ溶出し
たためと考えられる.
図 3 乾燥再湿潤底泥に含まれる窒素の変化
図1
St.1 不撹乱底泥に含まれる窒素の変化
図4
St.1 不撹乱試料直上水の窒素成分は主に NH4-N と
して存在していた(図 2).また,直上水の窒素のピ
ークは培養 14 日目の TN:0.38gN/m2,DTN:0.31gN/m2,
NH4-N:0.30gN/m2 であり,その後減少傾向を示した.
培養 14 日目に NO3-N の発生が確認されたことから,
底泥と直上水との間で生じる窒素の溶出・硝化・脱
窒の過程が底泥中無機態窒素の増減と直上水中窒素
成分の減少をもたらしたと考えられる.
4.結論
排水路底泥の培養試験を行った結果,不撹乱試料
における無機態窒素の割合は,上中下層すべて培養
1~2 週間で最大となり,その後に減少傾向を示した.
また,乾燥再湿潤により底泥中窒素の無機化量が増
加したことから,排水路底泥の乾燥後の排水は,水
田地区からの排出負荷を一時的に増大させることが
懸念される.
1)
2)
図2
St.1 乾燥再湿潤試料直上水に含まれる窒素の変化
St.1 不撹乱試料直上水に含まれる窒素の変化
2
参考文献
田渕俊雄(1996):水田の優れた機能と新たな活用戦
略,日本土壌肥料学会講演要旨集(42), 271-272.
岩崎大知,濱武英,大菅勝之,杉山翔,川島茂人(2012):
琵琶湖周辺水田地区排水路底泥中の栄養塩類の特徴,第 46
回日本水環境学会年会講演要旨集,640.
堤体法面リップラップ材の地震時変状を調べるための 2 次元 DEM シミュレーション
2-D Discrete Element Simulation for Seismic Behavior of Ripraps on Embankment Dams
Key words: DEM, Seismic response, Embankment dams
施設機能工学分野
1.はじめに
土構造物において観測される地震動の加速度が増
加しているために 1),土構造物の崩壊過程までをも
検討するシミュレーションが必要とされている.
そこで,不連続体の解析手法の一つである個別要
素法 2)(以下,「DEM」という)を用いた.DEM と
は解析対象を粒子要素の集合体として表現し,それ
ぞれの粒子の運動を物理学の基本原理(Newton の第
二運動法則)によって追跡する手法であり,小さな
変形問題から破壊後の挙動まで連続して解析できる.
本研究では,ロックフィルダムのリップラップ材
の地震時変状に対する DEM の適用性を検討した.
木原
正喜
ートとして扱うために固定した.解析に用いた材料
定数は表 1 に示す.
2.解析手法
DEM の計算フローチャートを図 1 に示す.
図 2 転がり摩擦モデル,粒子間ボンドモデル 5)
法止めコンクリート
図 3 解析モデル
表 1 材料定数
図 1:計算フローチャート
2.1 解析手法
粒子形状として,フィル材には半径 0.1 m~0.2 m
の円形粒子を用い,リップラップ材には半径 0.025 m
の円形粒子を結合させた長方形状のものを用いた.
またフィル材の円形粒子に対しては,土粒子の不規
則な形状による挙動を再現するために,Utili and
Nova の提案した粒子間ボンドモデル 3)と,Sakaguchi
and Igarashi による転がり摩擦モデル 4)を修正したも
の 5)を適用した.図 2 にその概略を示す.
パラメータ
設定値
時間ステップ(sec)
1.0×10-4
local damping 6) 係数
0.2
リップラップ材,フィル材の密度
2.65×103
(kg/m3)
接線方向ばね定数(リップラップ材)
2.5×107
(N/m)
法線方向ばね定数(リップラップ材)
1.0×108
(N/m)
2.2 解析モデル
解析モデルとして,図 3 のように各粒子を配置し
た.円形粒子のパッキングは落下法を用い,法面勾
配が約 1:3.4 になるよう円形粒子の削除を行った.
また,下端部のリップラップ材は,法止めコンクリ
1
接線方向ばね定数(フィル材) (N/m)
2.5×107
粒子間摩擦角 (deg)
25
転がり摩擦係数,ボンド力
0.2,1.0×104
2.3 入力地震波
フィル材とリップラップ材を配置した後,各粒子
に加速度を入力した.入力加速度には正弦波を採用
し,振動数は 2.0 Hz,加振の前後に予備加振を与え
た.また,最大加速度を与える波を 30 波入力し,こ
れを三回繰り返した.ただし,入力加速度は水平方
向のみを考慮し,鉛直方向の入力加速度は 0 とした.
図 3 は最大加速度を 600 gal に設定し,一回分の入力
加速度を示したものである.
4.結論
粒子間に転がり摩擦とボンド力を導入した個別要
素法を用いることで,リップラップ材の地震時変状
において,下端部では孕み出し,上端部では沈下す
ることを定性的に再現することができた.上端部に
おけるリップラップ材の変状は,フィル材の沈下に
よって引き起こされていることがわかった.これは,
数個の円形粒子を結合させたフィル材による解析 8)
と一致する.しかし,下端部における孕み出しは非
常に小さな変状であった.その原因の一つに,リッ
プラップ材同士の嚙み合わせがあると考えられる.
計算の簡略化を優先し,実際のリップラップ材の形
状,配置とは異なる,長方形状のものを規則的に配
列した.地震波を入力している際のリップラップ材
の速度ベクトルを計測した結果,図 4 の下段 3 列目
(法止めコンクリートを除く)のリップラップ材は,
図の左上方向の速度ベクトルをもっていた.つまり,
孕み出し始めるリップラップ材の挙動を,他のリッ
プラップ材が抑制するために,孕み出しが明確に見
られなかったと考えている.また,フィル材の間隙
比についても考慮したが,間隙比 0.2 程度に配置し
たモデルでは,800 gal の加振後,上端部での沈下は
見られず,全体的にもほとんど変状が見られなかっ
た.これらのことは,定量的に改善の余地があるよ
うに思われる.今後は,実際の土構造物に対する変
状と比較するべきだと考えており,DEM の解析パラ
メータ,リップラップ材の形状などを考慮すること
によって,定量的な評価を行う予定である.
図 3 水平方向の入力加速度
3.解析結果
解析結果の一例として,フィル材の間隙比を 0.3
程度に設定し,800 gal の加振を行ったものを図 4 に
示す.また,下段リップラップ材 21 個の重心の座標
変化を図 5 に示す.
1)
2)
3)
図4
4)
800 gal の加振後の変状
5)
6)
7)
図 5 下段リップラップ材の重心の座標
2
参考文献
伯野元彦(1997):破壊のシミュレーション,森北出
版.
Cundall, P.A. and Strack, O. D. L. (1997) : A discrete
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破壊基準を表現するシンプルな個別要素モデル,土木
学会論文集, Vol.67, No.1, pp105-112.
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methods in Engineering Rock Mechanics, E. T. Brown,
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栃木 均,岡本敏郎,内田善久,鶴田 滋(2003):
個別要素法によるロックフィルダムの地震時変状予
測手法の開発,土木学会地震工学論文集, Vol.27,
No.236, pp.1-6.
メタマテリアルのセンサ応用に向けた測定領域中の微小サンプルの定量評価
Quantification of Microsamples in Measuring Area by using Metamaterial for Sensor Application
Keywords: THz wave, Split Ring Resonator, Bacteria, Complex dielectric constant
農産加工学分野
1.背景
昨今,食の多様化やグローバル化が進み,食品
の安全性に関する消費者の関心が高まっている.
中でも食品中に残った細菌による食中毒はその他
原因に比べ重篤な被害をもたらすことが知られて
おり 1),患者数・死亡者数が最も多い.従って,食
品中の細菌検査には公定法が定められており,死
菌と生菌を合わせた総菌数は,過去に遡った原料
の品質劣化を反映する指標として,直接検鏡法に
よる検査が公定法として定められている.しかし,
検体を乾燥させた後に染色して顕微鏡観察を行う
ため,手順が煩雑で労力を要する.食品の製造現
場において,迅速な総菌数検査が可能となれば,
HACCP 方式 2)のような食品衛生管理における安全
性は向上すると期待される.そのため,迅速・簡
便に細菌の定量評価を行う新たな計測手法が必要
とされている.
また近年,メタマテリアルという金属製単位構
造が周期的に配列した構造体のセンサ応用に注目
が集まっている.メタマテリアルの構造の一種に
Split Ring Resonator(SRR) が あ り , THz 帯 (0.1~10
THz, 3000~30 µm)で作製した SRR に特定の周波数
の THz 波が入射すると,SRR 上に電場が十数 µm
の深さにわたって局在,増強される 3).そのため,
細菌のようなマイクロオーダの物質を高感度に検
出できるセンサとして THz 帯の SRR が期待される.
SRR を細菌の定量評価に応用するには,抗原抗体
反応を用いて細菌を SRR 上に固着する必要がある.
しかし,SRR 表面は凹凸状であるため,細菌と結
合する抗体が SRR 上で不均一に散在し,さらに散
在分布が測定領域中で偏る可能性がある.本研究で
はまず,不均一に散在した微小なサンプルの定量可能
性を明らかにするため,モデルサンプルであるガラス
ビーズを SRR 上で不均一に散在させ,その個数と
SRR の周波数シフトの関係を検証した.次に,散在
分布が測定領域中で偏った微小なサンプルの定量可能
性を明らかにするため,ガラスビーズの散在分布を測
定領域中で偏らせた状態でも先と同様の検証を行い,
定量性における違いの有無を検証した.
2.原理
SRR の単位構造は図 1 に示すような鍵型の構造であ
る 4).SRR に特定の周波数の電磁波が入射すると,構
1
栗田
一平
造由来の LC 共鳴が生じる.この共鳴現象に伴って、
SRR 上に電場の局在が起こる .図 1 に xy 平面に設置
されたデバイスに対して z 軸方向へ電磁波が入射され
た場合の z 軸方向への定常時電場強度を示す.
SRR 上に物質が付着すると電場の局在領域におけ
る複素誘電率が変化し,ピーク時の共鳴周波数が低
下する 5).微量な対象物の場合,吸収による透過ス
ペクトルの変化はごく僅かであるが,電場の局在領域
における複素誘電率には大きく影響し,共鳴周波数が
敏感に変化するため,高感度な検出が可能となる.
図 1 SRR 上での電場の局在領域 4)
3.実験概要及び考察
3.1 SRR の仕様
本研究では,SRR と同様の原理で動作する図 2 に示
すような CSRR(Complementary Split Ring Resonator)を作
製した.使用した材料は,基板に直径 30 mm,厚さ
500 µm の高抵抗シリコン(1 kΩcm-1 以上)(パックス社
製)を用いた.
図 2 メタマテリアルの断面図と単位構造
3.2 ガラスビーズの定量可能性の検証
本測定はテラヘルツ時間領域分光法(THz-TDS)を
原理とする TAS7500(アドバンテスト社製)の透過系
を使用し,積算回数は 2048 回,周波数分解能は
7.6 GHz を採用した.また微小サンプルには,粒度
分布において 16.8 µm を 50 %径に示すガラスビーズ
(和光研薬工業社製)を用いた.サンプルを単一層状に
散布するため,予めサンプルをエタノール中で分散さ
せた懸濁液を滴下した.ガラスビーズの個数を 14 種
類に変化させ,各々の個数における周波数シフト⊿f
の大きさを検出した.ここで周波数シフト⊿f とは,
図 3 様々なガラスビーズ個数における⊿f の大きさ
3.3 偏在したガラスビーズの定量可能性の検証
本実験では,測定領域中で散在分布が大きく偏った
状態でも均一に散在した状態と同様に定量性が確認さ
れるかを検証した.状態①,②では,それぞれ水平か
ら左右に 10°傾けた状態で滴下し,測定領域中で散
在分布を左右に大きく偏らせた.各状態での様々なガ
ラスビーズの個数における⊿f の大きさのグラフの近
似直線に線形フィッティング処理を行った後の傾きと
その傾きの標準誤差,さらにフィッティング後の各状
態の相関係数を図 4 に示す.
図 4 から,SRR 上でガラスビーズの偏在が生じても
近似直線の傾きに大きな有意差が見られなかったこと
から,測定物の偏在性が周波数シフトの大きさ⊿f に
影響しないことが示された.大きな有意差が見られな
かった原因には,THz 波の波長に対して十分に小さな
粒子であれば不均質に散在している場合でも,SRR
上の電場が生じている空間内での平均的な誘電率は同
様の個数であれば変化せず,偏在性は SRR の共鳴状
態に影響しにくいことが考えられる.従って,ガラス
ビーズよりも小さな細菌などはその固定位置の偏在性
による定量性への影響は小さいと考えられる.
2.2
2
R2=0.99
R2=0.99
1.9
1.8
1.7
1.6
通常
状態①
状態②
図 4 各状態で乾燥させた際のガラスビーズの個数と
それぞれの⊿f のグラフの傾き
4.まとめ
本研究では,不均一に散在した微小なサンプルの
定量可能性の検証と散在分布が偏った微小サンプルに
ついて偏在性による定量性への影響を検証した.その
結果,ガラスビーズの個数と⊿f の大きさには線形的
な高い相関が得られた.また,散在分布に偏りがある
場合でも,先のグラフの近似直線の傾きに有意差が見
られなかった.ゆえに,SRR 上で不均一に散在した
微小なサンプルの定量可能性と散在分布の偏りが定量
性に影響しないことが示された.今後は,細菌を定量
する上で最適な電場の局在領域の深さを検討した上で,
不均一に散在した微小なサンプルの個数と誘電率の相
関関係を明らかにし,実際に抗原抗体反応を用いて細
菌を SRR 上に固着して細菌の定量可能性を検証する.
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
2
R2=0.97
2.1
傾きの大きさ(×10-3)
サンプルを載せていない透過スペクトルの共鳴周波数
と各サンプルを載せた際の透過スペクトルの共鳴周波
数の差分のことを指す.
図 3 に示すようにガラスビーズの個数の変化と周波
数シフト⊿f の間には決定係数 R2=0.97 の高い線形性
の相関が得られた.先行研究では,均一なサンプルの
複素誘電率の変化と周波数シフト⊿f の間に線形的な
相関が得られていることから 6),ガラスビーズの個数
が増加したことにより,SRR 上の複素誘電率が増加
したことが想定される.従って,入射電磁波の波長に
対して十分に小さい物質で個々の物質による誘電率変
化が小さい場合でも,SRR 上で一定個数集合すれば
その変化を⊿f の変化から検出でき,定量性を確認で
きることが示された.また,2 層目の積層が始まった
50000 個付近から⊿f が増加していないことが分かる.
SRR 上に生じている電場の局在領域が 1 層目までの
16.8 µm 以下であることが想定され,50000 個以上では
電場の局在領域内にガラスビーズが敷き詰まったため
に複素誘電率に変化が見られなくなったことが原因だ
と考えられる 7).
参考文献
好井久雄他編著 (1995) : 食品微生物学ハンドブック, 技
報堂出版, 558-565
山中英明他 (2007) : 食品衛生学 第二版, (株)恒星社厚生
閣, 195-200
John F. O'Hara, et al. (2008) : Thin-film sensing with planar
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F. Blanchard, et al. (2012) : Terahertz spectroscopy of the
reactive and radiative near-field zones of split ring resonator,
Optics Express, 20(17), 19395-19403
T. Driscoll, et al. (2007) : Tuned permeability in terahertz splitring resonators for devices and sensors, Applied Physics Letters,
91(062511), 1-3
C. Sabah , et al. (2012) : Terahertz sensing application by using
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Technol , 2071–2076
栗田一平 (2013) : メタマテリアルのセンサ応用に向け
た測定領域中の微小サンプルの定量評価, 農業機械学
会関西支部報掲載予定
フェーズフィールド法による地盤侵食の界面追跡
Tracking Soil-Water Boundary due to Seepage Erosion by Phase-Field Method
Key words: Phase-field method, Erosion, Numerical computation
施設機能工学分野
1.はじめに
孝太郎
は界面の垂線方向の移動速度,b は曲率係数,W は
界面幅を表す.(1)式の左辺と右辺の相互作用で任意
土中の浸透流によって侵食が生じた場合,水みち
のフェーズフィールド変数が界面を挟んでハイパボ
や空洞が形成され,フィルダムやため池に代表され
リックタンジェントのプロファイルに変わり,界面
る水利土質構造物の脆弱化が引き起こされる可能性
の移動中もそのプロファイルを保つことができる.
がある.そのため,どのように水みちや空洞化が発
フェーズフィールド変数がフェーズフィールド法
展していくのかを予測することは重要な課題の一つ
である
坂井
を用いてハイパボリックタンジェントのプロファイ
1).本研究の目的は,土構造物や地盤の表面
ルとなることを確認するために,図 1 に初期状態を
が侵食によって変化する様子を数値的に予測するこ
x  0 で   1 ,x  0 で   1 のステップ関数として,
界面移動速度を 0 にした場合( a  0 )の解析結果
とにある.本文では界面追跡法の一つであるフェー
ズフィールド法を用いて侵食面の変化を数値解析す
を示す.この場合,   0 の x 座標が界面の位置と
なる.図 1 から   0 の点の x 座標が x  0 となるこ
る方法を提案する.また,簡単な界面移動の解析を
行い,同じく界面追跡法の一つであるレベルセット
とが見て取れる.このように,フェーズフィールド
法による解析結果と比較し,フェーズフィールド法
法ではステップ関数という単純な初期状態からハイ
の地盤侵食解析への適用性について検討する.
パボリックタンジェントのプロファイルを作り出す
ことができ,このことがアルゴリズムを容易にする
2.界面追跡法
一因となる.
界面追跡法はここ 20 年ほどの間,計算物理学の分
野で注目されてきた.その適用例としては凝固や融
解,微粒子成長のシミュレーションなどが挙げられ
る.レベルセット法や VOF(Volume-of-fluid)も良
く利用される手法であるが,本文ではフェーズフィ

ールド法の適用性を検討する.その理由は,フェー
ズフィールド法が簡単なアルゴリズムで界面形状の
変化をシミュレートすることができるため,他の界
面追跡法と同程度の精度を有するのであれば,効率
的な数値解析が期待できることにある.
フェーズフィールド法では,ハイパボリックタン
図 1 フェーズフィールド変数のプロファイル
ジェントのプロファイルを持つフェーズフィールド
変数を計算領域に設定し,その時間発展方程式であ
3.数値解析結果
るフェーズフィールド方程式を解くことで界面移動
簡単な解析例として,曲線と角の界面形状の移動
を解析する.多次元におけるフェーズフィールド方
,以
を解析する.実際の地盤侵食解析では各格子点に界
下の式(1)で表される曲率の影響を打ち消した方程
面移動速度が与えられるが,簡単のため移動速度を
程式には曲率の影響が潜在的に含まれるため
2)
均一にする.理論値との比較により誤差計算
3)
式 を用いる.



  

 12

 a   b  2 
    
  
t
W



2)
を行
い,その精度を確かめる.
(1)
3.1 解析結果①
曲線の解析精度を調べるために,理論値が容易に
ここで, はフェーズフィールド変数,t は時間,a
1
条件は格子間距離が 1 の正方形グリッド,0.1 の時間
3.3 精度評価
数値解析の精度を客観的に評価するために,次の
ステップ,0.1 の界面移動速度で一定に保つ.初期界
ような式を用いて理論値との誤差 L を求める.
計算できる円の相似拡大界面移動を解析する.解析

L
面形状は半径 20 の円とし,円の外側に向かって界面
が移動する場合を考える.1000 ステップ後の界面位
置を解析する.図 2 に界面の初期状態とフェーズフ
N
k 1
yk  ykex
(2)
N
ここに, y k は解析で求めた界面の y 座標, y kex は界
ィールド法による解析結果を示す.初期状態の円の
面の y 座標の理論値, N は界面として出力された座
中心座標は(x, y)=(0, 0)である.解析の結果は中心(x,
標の総数である.表 1 に 3.1 節および 3.2 節で行っ
y)=(0, 0),半径 30 の円にほぼ等しくなる.
た解析の誤差と,同じ条件でレベルセット法を用い
て解析した誤差を示す.フェーズフィールド法の方
がレベルセット法よりも誤差が小さく,精度が高い
といえる.また,格子間距離 1 に比べてもフェーズ
フィールド法の誤差は小さく,非常に精度の良い解
析ができていると考えられる.
表 1 誤差の比較
フェーズフィー
ルド法
レベルセット法
L(円)
0.71
2.34
L(特異点)
0.23
1.33
4.結論
図 2 円の解析結果
解析の結果,フェーズフィールド法が曲線と特異
3.2 解析結果②
特異点(本文では 2 つの界面が重なり合う点を指
点のある界面を精度よく表現でき,地盤侵食解析に
有効である可能性は高いと考えられることを示した.
す)で精度よく計算できるかを確認するために,初
局所的に侵食界面が成長していく地盤侵食において
期状態が(x, y)=(50, 0)に一端を持つ傾き  3 で切片
50 3 の半直線と傾き 3 で切片  50 3 の半直線とを
も,本手法は精度よく解析できると考えられる.今
後は実際に地盤侵食解析に本手法を適用し,実験デ
組み合わせた形状である界面の移動を解析する.移
ータと照らし合わせることで本手法の適用性をさら
動の方向は y 軸正方向とする.解析条件は格子間距
に検討する.
離が 1 の正方形グリッド,時間ステップが 0.1,界面
移動速度が 0.1 で一定とする.初期状態は 1000 ステ
ップ後の界面位置を計算する.図 3 に界面の初期状
1)
態とフェーズフィールド法による解析結果を示す.x
座標 50 前後で見られる界面の形が初期状態と解析
2)
結果とでほとんど変わっていない.
3)
4)
図 3 特異点の解析結果
2
参考文献
藤澤和謙,村上 章,西村伸一(2011):微分方程式
で解く土中の侵食,地盤工学会誌,59(3),24-27.
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サプライチェーンにおける需要情報が生産計画の最適化に与える影響
The Effect of Advance Demand Information on Optimization of
Agricultural Production Planning in Supply Chain
Key words: Supply Chain, Demand, Optimization
農業システム工学分野
1.背景
坂井
浩紀
る.遷移確率は,焼きなましにアイディアを借り,
温度と呼ばれるパラメータにより調整される 3).
2009 年の改正農地法により,近年農業に参入する
法人数が増加している 1).また,食品のサプライチ
ェーンの川上産業(生産)と川下産業(小売等)の
双方向からのサプライチェーンの垂直統合化が進ん
でいる 2).このような背景により企業や農業生産法
人が利益を得るためには,今後も形成が進んでいく
と考えられる農業におけるサプライチェーンに着目
することが有効であると考えられる.
農業におけるサプライチェーンにおいて生産部分
を担う農業生産法人に対して実施した聞き取り調査
により,
「生産者側が取引先の需要に合わせて出荷し
ているが,それが生産者側の余剰生産による余分な
コストの増加,あるいは不足分を補ったり出荷を断
っていることで収益減少を招いている.」という問題
点が明らかになった.
そこで本研究では,農業におけるサプライチェー
ンにおいて,需要情報を扱うことにより,最適な生
産計画を作成することで,生産者側の収益を最大化
することを目的とした.
そのための手段として,本研究では,需要情報に
基づき需要にできるだけ合わせた出荷を行うような
最適な生産計画を作成するためのプログラムを作成
した.
また,作成したプログラムを用いて,サプライチ
ェーンにおいて,需要情報が最適な生産計画の作成
にどのような影響を及ぼすのかを検証した.
3.プログラム
作成したプログラムは,生産品目の生育開始日を
変更することでできるだけ需要に即した出荷を行う
ような生産計画を作成するというものである.
焼きなまし法による最適化において解を生産計画
とし,評価関数を出荷されない余剰生産量と需要量
を満たせなかった不足量の合計値とした.評価関数
の値を小さくすることは需要にできるだけ即した出
荷を行うことができるということである.そのため,
作成したプログラムでは焼きなまし法により評価関
数の値を小さくするような最適解を探索することで,
需要にできるだけ即した出荷を行うことができる生
産計画を作成し,収益を増加させることができる.
4.最適化
作成したプログラムによる最適な生産計画の作成
を実在する農業生産法人をモデルにした,生産品目
が複数品目で生産計画が通年でないモデル 1 と生産
品目が 1 品目で生産計画が通年であるモデル 2 の 2
つのモデルに対して実施した.
モデル 1,モデル 2 のどちらに関しても作成した
プログラムにより最適化により得られた評価関数の
最小値である fmin が小さくなるほど出荷量が増加し,
それに伴い収益も増加することが確かめられた.
2.方法
モデル1
本研究でのプログラムの作成にあたりプログラミ
ング言語は Java を用いてプログラムを作成した.ま
た,最適化の手法としては焼きなまし法を用いた.
焼きなまし法とは急速に最適解に向かうのではな
く,改悪解を経由しつつ良解を選び,最適解を得る
という組合わせ最適化の手法である.焼きなまし法
では,現在の解𝑥の近傍𝑁(𝑥)内の各解𝑦に,解のよさ
に応じた遷移確率を設定し,それに従って次の解を
選ぶが,改悪解であっても遷移する確率を与えるこ
とにより,局所最適解からの脱出を図ることができ
40000
(kg)
30000
20000
10000
0
0
40
80
120 160 200 240 280 320
試行回数(回)
fmin
出荷量
図 1 モデル 1 最適化結果
1
が見込まれることが確かめられた.また、これらを
日数や収益といった定量的な情報により数値で示す
ことができた.
モデル1
収益(円)
1.00E+09
8.00E+08
6.00E+08
4.00E+08
モデル1収益
2.00E+08
1.50E+09
0.00E+00
40
80
120 160 200 240 280 320
収益(円)
0
試行回数(回)
収益
図 2 モデル 1 収益計算結果
1.00E+09
5.00E+08
0.00E+00
0
10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
需要情報のリードタイム(日)
10
モデル2
90
100000
図 5 モデル 1 シミュレーション結果
(kg)
80000
60000
40000
20000
モデル2収益
0
0
40
80
2E+09
120 160 200 240 280 320
収益(円)
試行回数(回)
出荷量
fmin
1.5E+09
1E+09
500000000
図 3 モデル 2 最適化結果
0
0
収益(円)
需要情報のリードタイム(日)
モデル2
4.00E+08
10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
10
3.00E+08
30
60
90
図 6 モデル 2 シミュレーション結果
2.00E+08
6.結言
1.00E+08
0.00E+00
0
40
80
本研究で作成したプログラムにより,需要情報を
扱うことにより最適な生産計画を作成することで,
生産者側の収益を増加させることが可能となること
が確かめられた.また,シミュレーションにより需
要情報が明らかになる期間が長いほど需要情報を反
映させた最適な生産計画の作成が可能となり,収益
の増加が見込まれることが確かめられた.また,そ
れらを具体的な数値で示すことができた.
120 160 200 240 280 320
試行回数(回)
収益
図 4 モデル 2 収益計算結果
5.シミュレーション
作成したプログラムを用いてサプライチェーンに
おいて,需要情報が最適な生産計画の作成にどのよ
うな影響を及ぼすのかを検証した.
本シミュレーションでは 4 で対象とした 2 つのモ
デルに対して需要情報がどれくらい前から分かって
いるかを表す指標である需要情報のリードタイムを
設定し,この長さの違いによりどれほど需要量に対
応した生産計画を作成することができ,それにより
どれほど収益が増加するかを検証した.
モデル 1,モデル 2 のどちらに関しても事前に需
要情報が与えられる日数が長いほどその需要に対応
した生産計画の作成ができ,それにより収益の増加
1)
2)
参考文献
農林水産省 一般法人の農業参入について,
http://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/sannyu/kigyou_sann
yu.html ,(2012,10,13).
渡辺愛(2010):変革期を迎える農業ビジネス
環境
事業の変化と垂直統合化の進展,大和総研の新規産業
レポート / 大和総研新規産業調査本部 編,66,1-21.
3)
柳浦睦憲, 茨木俊秀著(2001)
:組合せ最適化 メタ戦
略を中心として,朝倉書店,97-102.
2
市町村における農家の生ごみ堆肥導入意向に影響を与える情報の解明
Investigation of the Information which Affects Farmer’s Attitude toward
Utilization of Compost Including Garbage in Oyama Districts
Key words: Farmer, Compost, Information, Garbage
農村計画学分野
佐野
匠
1. 研究の背景及び目的
大量消費、大量廃棄社会が問題視される中で、バイオマス活用関連施策、なかでもリユースやリサイクル
による廃棄物発生量の抑制や農村振興の観点から生ごみ堆肥化事業が取り組まれてきた。しかし、出口製品
である生ごみ堆肥の需給の不一致が課題であると既往研究で指摘されている 1)。そこで、生ごみ堆肥(生ご
みをはじめとする食品廃棄物を原料とする堆肥)の主な使用者である農家の生ごみ堆肥への期待を満たし、
過剰な不安を解消するような情報が行政から適切に提供されていないことがあるのではないかと考えた。
本研究では、生ごみ堆肥化事業を導入しようとしている自治体を対象として、農家の生ごみ堆肥導入への
意向を高めるために、どのような情報が提供されており、またどのような情報が不足しているかを明らかに
した。この際、情報の蓄積がなされていない生ごみ堆肥化事業導入段階の自治体に対して提供される情報源
として、リサイクルの推進や農業振興の観点から生ごみの活用施策に関する関連省庁からの情報に着目し調
査を行った。
表 1 農家の種類による意向の高さ
2. 研究の方法
専業
兼業
堆肥を利用している
◎(農家A、農家B)
○(該当農家なし)
堆肥を利用していない
○(農家C、農家D)
△(農家E、F)
カッコ内は総数、存在しない部分には斜線を引いた
◎=導入意向がとても高い、○=導入意向が高い、△=導入意向が低い
2-1.ヒアリング調査の方法
バイオマス活用推進基本計画を策定し、生ごみ堆肥化事業を進めている静岡県駿東郡小山町を対象として
行った。まず、ヒアリング調査①では、農家の生ごみ堆肥導入意向を概括的に把握するために、先進的に営
農を行っている「株式会社富士小山企画」を対象とした。ヒアリング①の結果をもとにして、生ごみ堆肥の
利用可能性の高さは、専業・兼業、堆肥利用の有無に規定されると考えた(表 1)
。この仮説をもとに、小山
町内の比較的生ごみ堆肥導入意向が高いと考えた 6 名の農家をヒアリング対象として選定し、既往研究 2),3)
などから把握した農家の生ごみ堆肥に求める効果の予測をもとにヒアリング調査②を行った。
2-2.情報収集の方法
政府の生ごみ堆肥化事業に関する情報の中でも、農家が求める情報を収集する観点から、農林水産省の公
開・提供している情報を対象とした。この際、施策・統計資料・所管法人の事業に分けて情報収集を行った。
施策は、農林水産省が発行している平成 24 年度の食料・農業・農村白書から、統計資料は、省庁の統計デー
タが検索・閲覧できる Web サイトである e-stat から、所管法人の事業は、農林水産省の所管しているものか
ら調査した。
3.研究の結果及び考察
3-1. 農家の生ごみ堆肥導入意向
ヒアリング②から、農家の生ごみ堆肥導入意向として、表 2 に示す結果が得られた。農家 A~D は自らの
販路を持ち、ほぼ全量を小売りで出荷している専業農家であり、農家 E、F はほぼ全量を JA 御殿場(以下、
JA)に出荷している。JA では一律 14,000 円/60kg で米を買い取っており、これは小売りに比べ 3,000~5,000
円安い価格となる。
農家 A~D は販売価格に直結する「食味の増加」を期待として回答し、品質に関わらず一律に買い取って
くれる JA に出荷している農家 F は「収穫量」を期待として回答していたものと考えられた。
また、農家 B、C、D が利用に伴う労力を不安に思わないと回答していたのは、「堆肥を散布するための機
械を購入すれば労力は気にならない(農家 C)」という発言から、販売価格の増加分により、機械の購入費用
を償却できると期待しているからであると考えられた。
1
表 2 ヒアリング結果
期待
土壌が改善される
肥料成分
価格が安い
不安
生ごみ堆肥
農家A
○
×
農家B
○
×
○
品質が安定していない
原料への不安
塩分・油分
利用効果の不明瞭さ
利用に伴う労力
施肥量が確立している
栽培技術が確立している
生ごみ堆肥
使用農業
農家C
農家D
●
●
農家E
○
●
○
農家F
●
●
●
●
●
×
×
×
作物の品質(食味)が向上する
○
○
○
○
生ごみ堆肥
作物の収穫量が増加する
×
○
使用農作物 有機質堆肥を用いた農作物とし
○
○
○
て有利販売できる
期待している=○,不安を抱いている=●,期待も不安もしていない=×,言及していないものは空白とした
「細かい肥料成分は気にしていない(農家B)」、
「堆肥の品質は肥料成分だけではなく熟成度も大事(農家
A)
」などの発言から、堆肥を使用することにより実感できる効果が異なり、こうした経験の有無が「土壌改
良効果」や「肥料成分」の回答に現れていると考えられた。
3-2.農家の意向に影響を与える情報
バイオマス関連の施策や所管法人の事業の多くが、自治体がバイオマス事業に取り組む際に必要な情報(た
とえば、生ごみ堆肥化施設の情報や、バイオマスタウン構想作成の手順など)に偏っており、生ごみ堆肥の
使用者である農家の視点に立った情報は少なかった。これらの情報の中でも、農家の意向に影響を与えると
考えた情報を表 3 に示す。
3-3.農家の意向に沿うような情報が適切に提供されているかの確認の結果
「土壌改良効果」や「食味の増加」は、先行事例 4)において経験的な情報として報告されているが、日本
土壌協会が提供しているような評価手法を活用し、こうした情報を定量的に蓄積する必要があると考える。
また、
「認証」という手段を用いて、農作物の販売価格を押し上げようとする制度として有機 JAS 制度など
があるが、認証制度が農作物の販売価格や販路開拓にどのように影響を与えているのかという情報は提供さ
れていなかった。
「労力」
、「収量」、
「価格」については、環境保全型農業推進農家の経営分析調査において、環境保全型農
業に関する情報は提供されているものの、生ごみ堆肥を用いた農法と完全に一致する情報は提供されていな
かった。
表 3 分析の結果
地域条件
分類
土質
ゆめかまど堆肥
生ごみ堆肥
ゆめかまど堆肥
畜産農家
生ごみ堆肥
農家の意向
期待
土壌改良効果
価格
情報
不安
施策
農産物価統計調査
肥料成分
労力
環境保全型農業推進農家の経営分析調査
食味
販売価格
所管法人
土壌診断(日本土壌協会)
肥料の農家購入価格情報(肥料経済研究所)
堆肥・有機物資材診断(日本土壌協会)
コンポスト品質認定制度(日本土壌協会)
環境保全型農業直接支払 環境保全型農業推進農家の経営分析調査
収量
生ごみ堆肥
使用農作物
統計資料
有機JAS
作物の品質診断(日本土壌協会)
食味評価試験(日本穀物検定協会)
環境保全型農業推進農家の経営分析調査 食品リサイクル製品認証制度(日本土壌協会)
評価
△
×
○
×
×
△
△
適切に情報提供がなされていると考えられる=○、情報提供の手段はあるものの十分に活用されていない=△、情報が不足している=×
4.おわりに
本研究では、生ごみ堆肥に関する情報が適切に提供されていないことが、農家の生ごみ堆肥利用が進まな
い原因であるという問題意識のもと調査を行ったが、もちろん適切な情報提供を行えたとしても、製品が農
家の求めるようなものでなければ、導入意向は高まるとはいえない。したがって、こうした生ごみ堆肥に関
する適切な情報提供を進めるとともに、品質を農家が求めるようなものにしていく必要があると考える。
参考・引用文献
1)
應和邦昭ほか(2004)
:
「『地域資源循環システム』に対する意識調査」,農村研究,98,68-79
2)
五十嵐春子,北田紀久雄(2006):「バイオマス利活用における関係住民の評価-栃木県芳賀郡茂木町のアンケート調
査を中心に-」,農村計画学会誌,25,377-382
3)
谷川 昇ほか(2006):
「アンケート調査による都市近郊農家の堆肥選択要因の解析」, 廃棄物学会論文誌, 17(2), 153-161
4)
農林水産省:バイオマスタウン加速化戦略委員会,資料 4,バイオマスタウン紹介
2
南海トラフ巨大地震により発生する
津波に対する自治体の防災の現状と課題
Disaster-preparedness of local governments against possible Nankai Trough Earthquake
Key words: Earthquake, Nankai Trough, Local governments,
農村計画学分野
鈴木
健人
1. 背景及び目的
2011 年 3 月 11 日に死者行方不明者が 1 万 5 千人を超える東日本大震災が発生した 1)。これを契機に国内
では南海トラフ巨大地震に対する議論が活発化している。内閣府中央防災会議では,以前より南海トラフ
での東海・東南海・南海連動型地震の想定を行っていたが,地震規模の想定は小さく,津波による被害の
検討も十分ではなかった。そのため,平成 23 年 8 月に内閣府中央防災会議南海トラフの巨大地震モデル検
討会が設置され,想定しうる最大規模の連動型地震が生じた場合の被害想定(以下,新想定)が出された。
新想定では,従来は津波被害が想定されていなかった地域にも,被害が及ぶ可能性が示された。これら
地域の自治体は,津波防災へのノウハウの不足や危機意識の低さから対応の遅れが懸念される。また,従
来から被害が想定されていた地域でも,新想定の被害レベルには十分に対応できていない自治体も存在す
ると考えられる。そこで,本研究では,新想定を受け,南海トラフ巨大地震による津波被害が想定されて
いる自治体の,津波防災における現状と課題を把握することを目的とする。
2. 研究の対象地と方法
本研究では,新想定において,想定津波高さが 3mを超える全 359 市区町村を研究対象とし,郵送による
アンケート調査により津波被害への対応状況を質問した。対象市区町村は,北は茨城県から南は沖縄県ま
で 22 都府県にわたり存在する。
アンケート調査票の設計に際し,項目設定の参考として,既往研究 2),3),4)をレビューすると共に,359
市区町村に含まれる和歌山県串本町及び静岡県吉田町の防災行政担当者へのヒアリング調査を実施した。
アンケート票の概要は表 1 のとおりである。アンケートの回収数は 186 部,回収率は 51.8%である。
表 1 質問項目概要
大項目
質問項目の概要
Ⅰ.自治体の基礎情報について
これまでの自治体の取り組み,津波の防災への課題など
Ⅱ.過去の津波被害について
東日本大震災以外の津波による過去の被害
Ⅲ.東日本大震災以前の津波防災について
地域防災計画の内容,その他の計画(津波避難計画など)など
Ⅳ.東日本大震災後の津波防災の変化について
地域防災計画の修正,震災以後今年度までに行ったことなど
Ⅴ.津波災害時の避難について
避難ビル,避難タワー,避難訓練など
Ⅵ.公共施設の津波対策について
津波浸水域に立地する公共施設,高台移転など
Ⅶ.沿岸部農地の津波対策について
震災以前の農地への浸水についてなど
Ⅷ.第二次報告について
津波高さ,浸水域,今後の対策など
Ⅸ.国や都道府県に対する要望
国や都道府県に対する要望を自由回答
3. 結果及び考察
(1)自治体の分類
本研究では,①以前から被害の可能性の認識(有・無)と,②新想定における被害規模(大・小)の観
点から,対象自治体を合計 4 つに類型区分した(表 2)
。前者については,2003 年に設定された東海地震に
表 2 自治体分類
浸水面積大(100ha 以上) 浸水面積小(100ha 未満) 合計
地域指定あり
64 自治体
22 自治体
86 自治体
地域指定なし
31 自治体
29 自治体
60 自治体
合計
95 自治体
51 自治体
146 自治体
係る地震防災対策強化地域,東南海・南海地震防災対策推進地域として指定を受けていた自治体を,従来
-1-
から被害の可能性が認識されていた自治体とした。後者については,予想浸水面積が 100ha(1km2)以上
とされた自治体とした。回答自治体の中には浸水面積を不明としている自治体があったため,分類できた
自治体は 146 自治体(回収数の 78.5%)である。以下では,本分類にもとづき,各分類の特徴を述べる。
(2)地域指定のあった自治体の傾向
強化地域又は推進地域の指定を受けた自治体では,震災以後今年度までに実施した津波防災対策の割合
が指定を受けていない自治体に比べて高い傾向にある。しかし,浸水面積の大小による違いでは,避難路
の整備以外には両者の間に有意な違いはなかった。これは,以前より津波被害が想定されていたことため
に強い危機感を持ち,十分な備えがあったこと,震災以後に自治体が迅速に対応に移ることができたこと
が理由と考えられる。津波の対応への課題についても,浸水面積の大小では有意な違いはない。このよう
に地域指定を受けた自治体では,津波の防災への対応や課題に浸水面積の大・小での違いはなかった。
(3)地域指定のなかった自治体の傾向
強化地域及び推進地域の指定がなかった自治体では,浸水面積の大小で,震災以後今年度までに実施さ
れた対策の割合において有意な差が見られる項目が多い。中でも,地域指定なしかつ浸水面積大に該当す
る自治体では,防災行政無線・ラジオの整備への対応割合が最も高い。地域指定がされていた自治体では,
防災行政無線等の整備は震災以前から既に整備がある程度進んでいたと考えられる。しかし,地域指定が
なかった自治体では対策が進んでいなかったため,震災以後に危機意識から対策が進められたと考えられ
る。浸水面積が小さい自治体は,他の自治体に比べ,津波ハザードマップの作成率が低い傾向にあるが,
津波への対応の課題で有意な差が見られる項目は少なかった。他方,浸水面積が小さい自治体で,津波へ
の対応への課題が特にないと回答した割合に有意な差が見られた。浸水面積が小さい自治体では津波災害
への意識が低いことや,被害が出ないと考えていると推測される。
4. まとめ
本研究により,既存の地域指定の有無や新想定における浸水面積の大小により,津波対策の対応状況に
違いがあることが明らかになった(表 3)
。強化地域及び推進地域の指定がなく浸水面積が小さい自治体は,
他の自治体に比べ対応されている津波防災の項目が少ない。しかし,これらの自治体は最大高さ 3mの津波
に見まわれるリスクがあり,被害がゼロとなることは考えづらい。これらの自治体で対策の遅れにより津
波発生時の被害が拡大する可能性があることが課題としてあげられる。
表 3 各類型の特徴
浸水面積大
地域
指定
あり
浸水面積小
震災以前から津波のリスクを認識し対策を進め
ている
震災・新想定を受け,さらに津波への対策を進め
ている
地域
震災・新想定を受け,さらに津波への対策を進め
ている
最大規模の津波への対策が今後も必要である
最大規模の津波への対策が今後も必要である
震災以前は,津波のリスクがあまり認識されてお
震災以前は,津波のリスクがあまり認識されてお
指定
なし
震災以前から津波のリスクを認識し対策を進め
ている
らず,津波への対策は進んでいない
らず,津波への対策は進んでいない
震災・新想定を受け,津波被害への認識が高まり, 新想定では浸水面積が小さく,津波被害への認識
津波への対策の遅れはあるが,今後解消されてい
津波対策を進めている
が低く,津波対策が進んでいない
くと考えられる。
津波への対策の遅れから津波時の被害拡大の可
能性がある
参考文献
1) 警察庁緊急災害警備本部広報資料<http://www.npa.go.jp/archive/keibi/biki/higaijokyo.pdf>(2013/2/13 閲覧)
2) 廣井脩ら(2005):自治体における津波防災対策の現状,東京大学大学院情報学環情報学研究. 調査研究編
22,pp283-339,
3) 津波防災におけるアンケート報告書(2003)<http://www.e-tsunami.com/pdf/b3_enquete.pdf>(2012 年 11 月 5 日閲覧)
4) 地 域 防 災 計 画 に お け る 地 震 ・ 津 波 対 策 の 充 実 ・ 強 化 に 関 す る 検 討 会 報 告 書 ( 2011 )
<http://www.fdma.go.jp/disaster/chiikibousai_kento/houkokusyo/index.pdf>(2012 年 11 月 5 日閲覧)
-2-
農業集落排水施設の処理水が農業排水路の水質・底質環境に及ぼす影響
The effect of treated water from rural community sewerage on water qualities
and bottom sediment environment in agriculture drainage canal
Key words: Water quality, Bottom sediment quality, Benthos
水環境工学分野
鷹木
香菜
1. はじめに
近年下水道の普及が進む一方で,下水処理水に含
まれる残留塩素が環境に与える影響が懸念されてい
る.中でも農村地域に整備されている農業集落排水
施設の処理水は農業排水路に直接排出されているが,
排水路環境への影響が十分把握されているとはいえ
ない.また,排水路中の底生生物は水路の様々な条
件のもとで一定期間生活し,長期的な水質,底質環
境の影響を反映していると考えられている.そこで
本調査では,農業集落周辺において,農業集落排水
施設の処理水が排水路内の水質や底質に加え,底生
生物に何らかの影響を及ぼすのかを検証するため,
処理水が流入する排水路中でのそれらの変化を分析
し,その影響を明らかにした.
図 1 調査地概要
グ地点を設定した(図 1).農業排水路での流下過程
での変化を詳細に把握するため,サンプリング地点
は各圃場の排水口より 1~2m 程度下流に設定した.
よって,サンプリング地点の間隔は約 30m,最下流
地点 S9 は施設から約 333m に位置する.サンプリン
グ時の水路底の様子は地点によって様々であった.
施設から最も近い S1 には落葉の蓄積がみられ,底
泥はヘドロ状で悪臭(還元臭)を全地点の中で最も
強かった.S2,S8 には落葉,S4 には抽水植物,S7
には沈水植物が確認された.S3,S5,S6 には植生が
2. 方法
2.1 調査地の概要
琵琶湖南東部に位置する滋賀県東近江市鈴町の集
落には,平成 3 年から運用されている農業集落排水
施設(以下,施設)が整備されており,固形の塩素
剤に接触させることにより処理水の消毒を行ってい
る.平成 24 年 11 月 29 日に施設の処理水が流れ込む
農業排水路において S1~S9 の 9 箇所のサンプリン
表 1 排水路内での生物出現状況
目名
科名
蜻蛉目
和名
学名
S1
S2
S3
S4
S5
S6
S7
S8
S9
4
40
11
10
3
1
36
26
25
1
8
1
3
1
5
3
3
1
2
2
3
6
4
1
1
8
ヤゴ
Odonata sp.
カメムシ目
コオイムシ
科
コオイムシ
Appasus japonicus
ノドビル目
イシビル科
シマイシビル
Erpobdella lineata
等脚目
ミズムシ科
ミズムシ
Asellus hilgendorfi
原始紐舌目
タニシ科
タニシ科の一
種
Viviparidae sp.
吸膣目
カワニナ科
カワニナ
Semisulcospira libertina
シジミ科
シジミ科の一
種
Cyrenidae sp.
ナガミミズ目
ミミズ
Oligochaeta
ハエ目
ガガンボ科の
T ipulidaesp.
一種
階級無し
ガガンボ科
種数
個体数
Simpsonの多様性指数D(0≦D≦1)
9
1
1
3
1
1
2
2
5
0.32
3
50
0.33
1
2
12
0.15
4
23
0.64
2
4
0.38
4
7
0.69
6
44
0.32
5
39
0.51
5
43
0.61
少なく石礫が確認され,S9 は目立った礫や植生のな
い砂質の水路底であった.
DO(溶存酸素)(mg/l)
12.00
2.2 底生生物,水質及び底質調査
各地点で総面積 0.25 m2,水路底表面からの厚さ 5
cm を目安に,底生生物を泥ごと回収した.地点ごと
にサンプルから生物を拾い出し,目(もく)レベル
まで区別して種数,種ごとの個体数をカウントした.
また,Simpson の多様度指数 D を求めた.
底生生物調査を行う前に,同地点で排水路内の水
を採取した.また,処理水自体(S)の採水も行っ
た.水質分析項目は,pH,EC,ORP,DO,水温,
流速,TOC,TN,DT-N,NH4-N,PON,DON,NO2-N,
NO3-N,TP,PO4-P,OP,SO4 ,SS,Al,Na,K,
Ca,Mg である.また,S,S3,S5,S8,S9 で Cd,
Pb,As,Cr6+,Zn,Cu,Ag を測定した.
底質は各地点で水路底表面から 10cm を目安に採
取し,粒度分布及び Cd,Pb,Cr6+,As,Hg を測定
した.
10.00
8.00
6.00
4.00
2.00
0.00
0
100
200
300
400
施設からの距離(m)
図 2 施設からの距離に対する排水路内の DO の変化
残留塩素や総トリハロメタン濃度は処理水と S1 に
おいて微量(0.0001 mg/L)が検出されたものの,そ
れより下流では検出限界以下であった.全地点で検
出限界以下であった Cr6+ 以外の底質の重金属濃度
(Cd,Pb,As,Hg)は下流に向かって増加傾向を
示したため,処理水の影響ではなく,農地からの排
水の影響であると考えられる.これらの濃度による
個体数や種数への影響は見られなかった.
3. 結果と考察
水質について,S9 での値を除外してみると,ORP,
OP,TP,TN には減少傾向がみられ,DO,pH には
増加傾向が見られた.図 2 に施設からの距離に対す
る DO の変化を示す.DO が増加傾向を示したのは,
処理水が水路を流下する過程で光合成や大気との接
触の影響を受けたためと考えられる.その他の項目
については,施設からの距離に対する特徴的な傾向
は確認できなかった.粒度は下流になるにつれて細
粒分が増加する傾向が見られ,特に S9 の水路底に
は石礫は確認されなかった.
次に,底生生物の出現状況を表 1 に示す.種数及
び多様度指数は下流になるにつれて増加傾向を示し
た.また,蜻蛉目は全地点で確認され,コオイムシ
は上流側に,カワニナ科やタニシ科は下流側に偏っ
て確認された.個体数は地点によってばらつきがあ
ったが,比較的多くの生物が確認された地点のうち,
S2,S4,S7,S8 の水路底には落葉や植物が確認され
ており,植生の存在が個体数に正の影響を及ぼして
いることを示唆している.
一方,S1 においても落葉が確認されたが,ここで
は 5 体しか確認されなかった.この原因の一つとし
て,S1 では DO が他の地点に比べて低く,さらに有
機物が堆積していたことから,S1 の底質は還元状態
となり,底質に生息する生物は酸素不足になってい
たことが予想される.また,下流に向かって種数が
増加したことも,流下する過程で DO が上昇し,よ
り多くの種が生息できるようになったのではないか
と考えられる.
生物に対する影響が懸念される物質である水,底
質中の重金属濃度は非常に低かった.また,水中の
4. 結論
今回調査した排水路では,処理水は水質(特に,
DO)に影響を与え,上流部の底生生物の種数や個体
数を減少させていたが,その影響は処理水が流下す
る過程で小さくなると考えられる.ただし,これは
処理水であることが必要条件とは判断できなかった.
つまり,処理水でない水であったとしても同様の傾
向を示す可能性がある.また,環境に対する影響が
懸念されていた残留塩素濃度や重金属濃度は非常に
低く,処理水が水質・底質・底生生物に影響を及ぼ
す可能性は極めて低いことがわかった.
今回は,1 カ所の農業集落排水施設について,1
回の調査を行って,排水路環境への悪影響が確認さ
れなかったが,複数施設や 1 年間にわたる数回の調
査も必要と考えられる.また,今回の生物調査より
も影響を受けやすいと考えられる微生物や小型の動
物に対する影響の有無についても確認が必要であろ
う.
謝辞:農業集落排水施設の選定に当たっては,滋賀県農政
水産部,滋賀県東近江市に大変お世話になった.ここに記
して感謝の意を表する.
2
画像処理による植物の葉の判別
Identification of the leaf by the image processing
Key words: Elliptic Fourier, Image processing, leaves
フィールドロボティクス分野
1.緒言
1.1 テラグリーンネットワーク
「テラグリーンネットワーク」というプロジェクト
は,立命館大学の Park 氏が中心となって運営してい
る.目的は,世界中の植生マップを作ることである.
その手法として,スマートフォンで撮影した樹木の
葉の画像を位置情報とともにサーバに送ってもらい,
その画像を解析することで種類を判別し,結果をユ
ーザに提供すると同時に情報を蓄積することで植生
マップを作成する,という方法を用いる.葉の画像
から種類を判別する方法として,葉の形状を解析し,
おおよその分類をした後,葉脈を解析することで種
類を判別するという形式をとる.
1.2 葉の形の分類について
葉の形は,単葉では主に披針形,長楕円形,楕円
形,卵形,倒卵形,心形,倒心形,ひし形,卵形,
円形などに分けられる.しかし,同じ種であっても
はっきりと割り切れない場合や同じ個体内でもいく
つかの形が共存することがしばしばある.また,裂
ける葉についても裂ける数は同じ個体内でも幅があ
る.よって,葉の形から植物の種類を判別するので
はなく,画像処理によって葉の形を判別することを
本研究の目的とした.
x(t) = � �𝑎𝑛 cos
𝑛=1
𝑁
y(t) = � �𝑐𝑛 cos
𝑛=1
2.1 開発環境
Python2.7,Pyscripter2.5.3,NumPy,OpenCV を用
いた.また,GIMP2 を用いてサンプル画像の編集を
行った.
2.2 サンプル
京都大学北部構内の葉を用いた.場所ごとに番号
付けを行い,一つの樹木から 1~3 枚の葉を採取した.
2.3 画像
スキャナ(EPSON 社製 GT-X820)を用いて取り込ん
だ,600dpi の葉の表面をスキャンした画像を使用し
た.サンプルの採取,画像の取り込みは,2012 年 10
月に行った.また,使用した画像の総数は,154 で
ある.
1
優里
2.4 解析方法
画像の解析方法として楕円フーリエ記述子,主成
分分析を,分類の精度を評価する方法として
K-means 法を用いた.まず,GIMP2 を用いて葉の画
像を一枚ずつの画像に分割し,画像の大きさを揃え,
葉 柄 を 消 す 編 集 を 行 っ た . そ の 後 , Python2.7 ,
Pyscripter2.5.3,NumPy,OpenCV を用いてすべての
葉について輪郭を抽出し,楕円フーリエ記述子を求
めた.その後,全ての葉について分裂があるかない
か,鋸歯があるかないか,よれや歪みがあるかない
か,どの形に属するかによって分類をした.その後,
様々な組み合わせで主成分分析を行い,その結果を
K-means 法で解析し,楕円フーリエ記述子での分類
の精度を評価した.
(1) 楕円フーリエ記述子
輪郭の分析を行う方法として,楕円フーリエ記述
子を用いた.楕円フーリエ変換では,輪郭を x,y 平
面に投影し,輪郭のなす曲面の x 座標と y 座標を,
それぞれ弧長の関数としてとらえる方法である.楕
円フーリエ変換を標準化した式は,
𝑁
2.材料及び方法
竹尾
2𝑛𝑛𝑛
2𝑛𝑛𝑛
+ 𝑏𝑛 sin
�
𝑇
𝑇
2𝑛𝑛𝑛
2𝑛𝑛𝑛
+ 𝑑𝑛 sin
�
𝑇
𝑇
(1)
(2)
となる.
このときの𝑎𝑛 ,𝑏𝑛 ,𝑐𝑛 ,𝑑𝑛 が楕円フーリエ記述子
である.また,N=1 のときにできる閉曲線を第 1 調
和楕円といい,これは楕円となる.このことを利用
し,楕円の半長軸を基準にサイズや向き,測定開始
点について標準化することができる.しかし今回は,
測定開始点を葉基にするため,半長軸を基準にした
後に必要なものは手動で修正を加えた.本研究では,
N=32,64,128 の 3 種類の波数で楕円フーリエ変換
を行った.一つの n に楕円フーリエ記述子 4 つが対
応しているため,N=32 のときは 128,N=64 のとき
は 256,N=128 のときは 512 の楕円フーリエ記述子
で葉の輪郭が記述されることになる.
(2) 主成分分析
惰円フーリエ記述子における形の評価は,一つの
輪郭を楕円フーリエ記述子による多次元空間中の一
つの点として表現するものである.それらの独立し
た形の特徴を主成分分析によって抽出した.なお,
累積寄与率が 99%になるまで主成分を算出した.本
研究では,全ての葉,楕円の葉,切れ込みのない葉,
切れ込みのある葉,楕円で全縁の葉と切れ込みのあ
る葉の 5 つの条件でそれぞれ主成分分析を行った.
また,全ての葉を対象としたもの以外では傷やよれ,
破れのある葉の画像は対象外とした.
(3) K-means 法
K-means 法とは,クラスタの平均を用い,与えら
れたクラスタ数 K 個に分類するデータの分布からデ
ータのある程度まとまったグループを求めるもので
ある.まずあらかじめ分類するクラスタの数を決定
しておき,ランダムにクラスタの代表点の座標を決
定する.次に,それぞれのデータがどのクラスタの
代表点に近いか調べ,最も近いクラスタに属させる.
それぞれのクラスタに属している,すべてのデータ
の中心点を計算し,新しい代表点にする.それぞれ
のデータがどのクラスタに属すのか調べ,すべての
データの属しているクラスタに変化がなくなるまで
続ける,という手順である.
本研究では,主成分分析を行った結果を K-means
法で解析した.分類するクラスタの数は,2~5 で行
った.この結果と本来の葉の形の分類を比較し,楕
円フーリエ記述子と主成分分析による分類が植物の
葉の形の分類として妥当かどうかの評価を行った.
全ての葉を対象に行ったときは分類が出来ず,楕
円の全縁の葉と切れ込みのある葉,という限られた
ものを対象にしたときに分類が出来たのは,切れ込
みのある葉の数とない葉の数に差がなくなったこと
で,主成分分析の際により明確な違いを主成分とし
て抽出することが出来たからだと考えられる.
4.結言
葉画像から葉の形を判別する手法として,楕円フ
ーリエ記述子を用いた.その結果として,切れ込み
のある葉とない葉についての分類は可能であるとい
う結果を得た.今後の課題として,楕円フーリエ記
述子の結果を正規化してから主成分分析を行うと結
果が変化するのではないかということが挙げられる.
正規化を行うことにより,波数の大きいものについ
ても考慮されるようになり,楕円の葉の縁の種類を
判別することが出来るようになる可能性がある.次
に,本研究ではサンプルの数が少なかったことによ
り,結果のばらつきが精度の悪さによるものなのか,
葉の個体差によるものなのかが分かりにくくなって
しまった.したがって,サンプル数を増やして解析
を行うことにより,より正確な結果が得られると考
えられる.
葉の種類の判別については,成長の度合いによっ
て葉の形が変化するものや同じ種類の葉であっても
個体差のある葉について考慮する必要がある.また,
針葉樹や複葉についてもどのように種類を判別する
のかを考慮する必要がある.
3.結果及び考察
全ての葉を対象にしたもの,楕円の葉を対象にし
たもの,切れ込みのない葉を対象にしたものは正確
に分類できなかった.切れ込みのある葉を対象にし
たものも,切れ込みの数によって分類することは困
難であったが,サンプル数を増やして解析を行えば
より精度の高い分類が期待できると考えられる.ま
た,楕円の全縁の葉と切れ込みのある葉を対象にし
たものは,切れ込みがあるかないかで分類すること
ができた.N=128 の楕円フーリエ記述子の結果を第
一主成分と第二主成分を軸としたグラフに示したも
のとクラスタ数 3 での K-means 法の結果を,図 1 に
示した.
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
8)
図 1 結果の比較
2
参考文献
Allen B. Downey (2012) : Think Python, Oreilly &
Associates Inc
Dalcimar Casanova, Jarbas Joaci de Mesquita Sa Junior,
Odemir Martinez Bruno (2009) : Plant Leaf Identification
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Fourier Features of a Closed Contour, COMPUTER
GRAPHICS AND IMAGE PROCESSING,18, 236-258
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http://www.ne.jp/asahi/blue/woods/index.html >
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円フーリエ記述子を用いたハゼノキ葉形変異の評価
方法の検討, 九州森林研究,56
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(基礎編)
「Rによる統計解析」
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b, Ashok K. Samal (2006) : Plant species identification
using Elliptic Fourier leaf shape analysis, 50, 121–134
木下武司(2013): 生薬、薬用植物(薬草)と身近な野
生植物(野草)
< http://www2.odn.ne.jp/had26900/index.htm >
WRF(Weather Research and Forecasting)モデルの利用方法
Methodology for using the WRF model
Key words: weather simulation, WRF model, Methodology
京都大学農学部 地域環境工学科 水環境工学分野
1.WRF モデルの基礎
田中
慶太
ータの入力元・出力先について編集する。編集終了
後、実行ファイル ARWpost.exe を実行すると表示用
ファイルが作成される。さらに、GrADS を起動し、
表示用ファイルを開く。表示したい領域、時間に合
わせて定義域を設定する。設定終了後、表示したい
変数を描画する。
WRF の基本的な利用プロセスである、気象・地形
データを入手するプロセス、データの前処理を行う
プロセス、シミュレーションを行うプロセス、結果
の表示を行うプロセス、について述べる。
1.1 使用するデータ
NCEP からの FNL データ気象データの入手方法に
ついて述べる。ウェブサイト「CISL Research Data
Archive 」に移動し、利用する年、月、日、時間を
選択する。ディレクトリ FNL に入手するデータの年、
月のディレクトリを作成し、データをダウンロード
し、解凍する。
USGS から GEOG データを入手する方法について
述べる。ウェブサイト「WRF Model Users Sites」に
移動し、ダウンロードを行うボタン[geographical data
in all available resolutions (30’’, 2’ 5’ and 10’)]をクリッ
クすると自動的にダウンロードされる。ダウンロー
ドしたデータを解凍する。
1.2 データの前処理
ディレクトリ WPS において行う。同ディレクトリ
内にあるファイル namelist.wps を、シミュレーショ
ン期間、格子の数・距離、場所(緯度・経度)につい
て編集する。編集終了後、実行ファイル geogrid.exe,
ungrib.exe, metgrid.exe を順に実行させると領域デー
タが作成される。
2.WRF モデルの特徴
WRF を様々な条件の下で利用する際に必要な技
術や知識についてまとめる。
2.1 予測精度を向上させる手法
計算時間短縮と予測精度向上の両立を図るための
手法としてネスティングがあり、<基礎編>での低
解像度の外部領域に加えて高解像度の内部領域を設
定し、外部領域の計算結果を内部領域の境界条件と
して用いる手法である。各ファイル namelist の編集
に変更・追加点があるが、実行ファイルの操作は<
基礎編>と同じである。変更・追加点は、領域数の
変更や内部領域に対するシミュレーション期間、格
子の数・距離、場所、シミュレーションを行う間隔、
データを出力する間隔、データの入力元・出力先な
どの追加がある。外部領域と内部領域の結果は別々
のファイルで出力される。そのため、ソフト GrADS
を起動後、外部領域(図 1)と内部領域(図 2)は個別に
表示用ファイルを開き、個別に表示する。
1.3 シミュレーション
ディレクトリ WRFV3 において行う。作成した領
域データ(1.2)を同ディレクトリにコピーし、ファイ
ル namelist.input を、シミュレーション期間、格子の
数・距離、シミュレーションを行う間隔、出力する
間隔について編集する。編集終了後、実行ファイル
real.exe, wrf.exe を順に実行させると予測データが出
力される。
1.4 シミュレーション結果の表示
ディレクトリ ARWpost において、ソフト GrADS
を利用して行う。作成した予測データを同ディレク
トリにコピーし、ファイル namelist.ARWpost を、シ
ミュレーション期間、出力されたデータの間隔、デ
図1
1
外部領域の描画
係数が割り振られている。これにより、各格子で土
地利用に対応した適切な係数でシミュレーションを
行うことが可能になっている。
2.5 様々な形式での結果の表示方法
ソフト GrADS を起動し、定義域を設定する際、経
度方向 X, 緯度方向 Y, 鉛直方向 Z, 時間 T の値を任
意に指定することで、地図形式(図 1, 2)だけでなく、
グラフ形式(図 3)やアニメーション形式などの描画
が可能になる。
図2
内部領域の描画
解析値と観測値の一致性向上を図るための手法と
してナッジングがあり、解析値を観測値で補正して
いく手法である。ファイル namelist.wps の編集で、<
基礎編>の編集に加えて、ナッジングの利用できる
ように設定し、出力ファイル名、ナッジングを行う
間隔などの追加を行う。しかし、ファイル
namelist.wps, ARWpost の編集と実行ファイルの操作、
ソフト GrADS の利用方法は<基礎編>と同じである。
2.2 気象庁の気象データ(MANAL)の利用
気象庁が保有し、気象業務支援センターが販売し
ている気象に関する「メソ客観解析データ」 (以下
MANAL データ)の利用方法について解説する。記録
媒体は DVD であり、WRF で利用できるデータの並
び方と違うため、スクリプト ns2sn.sh を実行し、デ
ータを並び変えて保存しておく。
デ ィ レ ク ト リ WPS に お い て 、 フ ァ イ ル
namelist.wps を MANAL データ用に書き換え、実行
ファイル geogrid.exe, ungrib.exe を実行する。次にフ
ァイル namelist.wps を FNL データ用に書き換え、実
行ファイル ungrib.exe を実行し、metgrid.exe を実行
する。ディレクトリ WRFV3 において、namelist.input
を MANAL データ用に書き換える。残りの操作は、
<基礎編>と同じである。
図3
グラフ形式の描画
2.6 結果の出力方法
シミュレーションの結果を GrADS の画面ではな
く、テキストファイルに出力する方法について解説
する。ソフト GrADS を起動し、バイナリ形式のフ
ァイルに出力するように設定することで、<基礎編>
と同じように値を出力させると GrADS の画面では
なく、バイナリ形式のファイルに値が出力される。
GrADS を終了し、実行ファイル grd2txt を利用して
バイナリ形式のファイルをテキスト形式のファイル
に変更する。
参考文献
1)
2.3 モデルスキーム
WRF には物理過程オプション(モデルスキーム)が
数多く用意されており、行う研究や目的に応じて適
切なオプションを選択する必要がある。
代表的な物理過程として、雲物理過程、長波放射
過程、短波放射過程、接地境界層過程、陸面過程、
大気境界層過程、積雲過程がある。それぞれの過程
には、さらに簡潔で計算に時間がかからないモデル
スキームや精巧で計算に時間がかかるモデルスキー
ムなど複数のスキームが用意されている。
2)
2.4 モデルパラメータ
モデルパラメータは各モデルスキームの微分方程
式の係数のことであり、WRF には土地利用ごとに各
2
Wei Wang, Cindy Bruyère, Michael Duda, Jimy Dudhia,
Dave Gill, Michael Kavulich, Kelly Keene, Hui-Chuan
Lin, John Michalakes, Syed Rizvi, Xin Zhang (2012) :
ARW Version 3 Modeling System User’s Guide,
Mesoscale and Microscale Meteorology Division,
National Center for Atmospheric Research, 3-1-3-66,
5-1-5-79, 9-29-9-35
William C. Skamarock, Joseph B. Klemp, Jimy Dudhia,
David O. Gill, Dale M. Barker, Michael G. Duda,
Xiang-Yu Huang, Wei Wang, Jordan G. Powers (2008) : A
Description of the Advanced Research WRF Version 3,
Mesoscale and Microscale Meteorology Division,
National Center for Atmospheric Research, 55-85
農村地域住民の幸福度の規定要因に地域属性が与える影響
How Characteristics of Living Place Influence on Subjective Well-Being of Residents
Key words: Subjective Well-Being, Rural area, Regional comparisons
農村計画論分野
田中
里奈
1.研究の背景と目的
近年、先進国を中心に経済成長が必ずしも人々の幸福度の向上につながっていないという認識が高まって
いる。そのため国内外で人々の幸福度の測定方法や幸福度の規定要因などの議論が活発になっている。人々
の幸福度の自己評価である「主観的幸福度(Subjective Well-Being)」
(以下 SWB)は、経済学を中心に研究が進
められてきた。しかしデータの制約等から多くの研究は国家間比較や大規模な統計データに基づく評価が中
心で、具体的な政策・施策の形成に必要な人々の生活基盤である地域社会の特性までを十分に把握できてい
ない。そこで本研究では京都府南丹市を事例地区とし、旧村単位での地域特性が SWB およびその規定要因に
与える影響を、地理情報の分析と居住者へのアンケート調査をもとに検証する。
2.研究方法
2.1 対象地域の概要
京都府南丹市は旧園部町・八木町・日吉町・美山町の4町が 2006 年に合併して誕生した市であり、市街化
が進む地域や山間部の集落など様々な特性を持つ地域を擁することが特徴である。人口は 2010 年時点で
35,214 人、そのうち 65 歳以上の割合が 29.7%であり、山間部を中心に人口減少と高齢化が進んでいる。
2.2 アンケート調査の概要
表 1 アンケートの質問項目
1)、2)
調査票は日本国内の先行研究
を
大分類
具体例
被説明変数
主観的幸福度、生活満足度
参考にし、地域に関するオリジナルの
幸福度の相対評価
周囲の人と比べた幸福度
項目を追加して作成した(表 1)
。調査
自然環境
身の回りの自然環境
票は南丹市の旧町の人口比率に合わせ
交流・つながり
人との交流頻度、相談相手の有無
て部数を調整し、それぞれの旧町から 先行研究
社会的行動
選挙やボランティア活動への参加等
無作為抽出した住所の世帯に郵送した。
個人の価値観
考え方、重視すること等
配布部数は 6098 部、回答数は 1017 部
他者への信頼
人をどの程度信頼するか
で回答率は約 17%であった。
個人属性
性別、年齢、健康状態等
2.3 結果の分析方法
アンケートの回答はすべて統計処理
ソフトの SPSS に入力し、分析した。
それぞれの回答者をケースとし、各質 オリジナル
問項目に対する答えを説明変数、SWB
の評価値を被説明変数とする重回帰分
析を行った。この際、質的変数はダミ
ー変数化して量的変数と同様に扱った。
仕事
移動手段
生活基盤
通信機器の使用
地域での不安
地域との関わり
各種施設への所要時間
地域への評価
地域への愛着
仕事の有無、仕事への評価
主な移動手段等
上下水道の整備、ゴミ収集等
携帯電話やコンピュータの使用頻度
買い物や医療環境への不安等
自治会活動や行事への参加等
診療所、学校、日用品店への距離等
暮らしやすい、栄えている等
特別な場所だ、大事である等
項目数
2
2
1
7
4
19
4
22
5
3
10
2
14
13
16
9
22
3.結果
3.1 全体での幸福度の規定要因
まず、全ケースを対象に個人属性と SWB の関係を調べた。個人属性のうち、先行研究において SWB に影
響を与えると指摘されている「相対所得」、
「健康状態」
、
「学歴」
、
「婚姻状況」、
「子の有無」
、
「性別」、
「年齢」
を説明変数とし、SWB を被説明変数とする重回帰分析を行った。その結果①相対所得が高いほど SWB も高
い、②健康状態・精神的な健康状態が良いほど SWB が高い、③学歴は中学校卒が最も SWB が高い、④婚姻
状況では既婚者が最も SWB が高い、
⑤男性より女性の方が SWB が高い、
という5つの結果が有意となった。
1
学歴を除くすべての項目で今回の結果は先行研究 1)、2)と整合的である1)。
3.2 地域間の比較
地域間の比較にあたり、回答者の居住地区の類型化を行った。回答者の居住地は旧村単位で把握していた
ため、この旧村を GIS により求めた地理条件(標高・傾斜・土地利用別面積割合等)および社会条件(人口・
事業所数・従業者数等)の統計データを用いてクラスター分析により3類型に分類した。各類型は統計デー
タの傾向と実際の位置関係により①中心部②近郊部③山間部と名付けた。中心部は1旧村で n=221、近郊部
は5旧村で n=227、山間部は 11 旧村で n=551 であった。以下の表2~4にそれぞれの類型における SWB の
規定要因とその係数の正負を示す。なお、ここで有意というのは重回帰分析において有意確率が 10%以下で
あったことを指し、正負はその変数の標準化偏回帰係数の符号の正負を指す。また「不安」は強いほど、
「各
種施設までの所要時間」は長いほど表の符号の影響を与えるよう分析時の符号を反転させている。
表2
有意に正
有意に負
自然環境、困ったときの相談相手がいる、周囲の人の幸福度、家族の重要度、家族への信頼、
隣近所への信頼
文化の認知
表3
有意に正
有意に負
有意に負
有意に負
近郊部居住者の SWB の規定要因
生活排水処理、就業、職場へのアクセス、運転ができる、タクシー・自転車・徒歩で移動、
人生は思い通りに動かせる、人生目標は自分で決める、その他の知り合いへの信頼、医療環
境への不安、自然環境への誇り、総合病院・中心市街地までの所要時間
水洗トイレ、買い物への不安、診療所までの所要時間
表5
有意に正
中心部居住者の SWB の規定要因
ゴミ収集、仕事の効率性、バスで移動、政治の重要度、周囲の人を助けるのが大事、自然環
境への誇り、今後も同じ地域に住み続けたい
電話回線、ケーブルテレビ回線、子育て環境への不安、地域の存続への不安、近所づきあい
への不安、市役所支所までの所要時間、自営業、専業農家・林家
表4
有意に正
全類型に共通する SWB の規定要因2)
山間部居住者の SWB の規定要因
隣近所との交流、友人知人との交流、仕事の安全性、職場へのアクセス、人生は思い通りに
動かせる、誇りの重要度、礼儀正しく振る舞うことが大事、人への鳥獣害の不安、今後も同
じ地域に住み続けたい
安全に暮らすことが大事、周囲の人を助けるのが大事、冒険やリスクが大事、間違っている
と言われる行動を避けるのが大事、家のあととりへの不安、近所づきあいへの不安
4.考察・まとめ
同一自治体というきわめて小さいスケールの中でも、地域の類型ごとに住民の SWB の規定要因に差が出
ることが明らかになった。仮説では他の地域に比べて劣る(平均値が低い)項目ほど SWB に負の影響を与
えていると考えていたが実際の結果はより複雑であった。例えば山間部において「各種施設への所要時間」
の平均値は他の地域より大幅に長いにも関わらず、これらは SWB に有意な影響を与えていなかった。理由
として、住民の幸福度は主に同一地域内における他者との比較によって規定されており、同一地域で一様に
不足しているものや反対に充足しているものは SWB の判断基準として意識されない可能性が考えられる。
これらの規定要因や住民の価値判断の構造については農村計画学の観点からもより詳細に研究していく必要
がある。
参考文献
1)
2)
1)
2)
京都大学、上智大学、九州大学、農林水産政策研究所、名古屋学院大学(2012):持続可能な発展のための新しい社会経済システム
の検討と、それを示す指標群の開発に関する研究 最終研究報告書(http://www.env.go.jp/policy/keizai_portal/F_research/f-14-04.pdf),
1-86
大竹文雄・白石小百合・筒井義郎(2010):日本の幸福度,日本評論社,p.1-p.73
学歴は先行研究 1)、2)では教育年数が長いほど SWB が高い傾向にある。
隣近所への信頼は中心部と山間部で正、近郊のみ負
2
弾完全塑性有限要素法を用いたため池堤体の地震時挙動の解析
Elastic-Perfectly Plastic Finite Element Analysis
for Seismic Behavior of Earth Dam Embankments
Key words: Earth dam, Seismic behavior, Finite element analysis
施設機能工学分野
靍井
翔平
1. はじめに
標準モデル
ため池は一般的に高さ 15 m 未満のフィルタイプ
の土堰堤を指す.全国に 21 万個存在するといわれ,
我が国の食糧供給基盤を支えている.しかし,現存
するほとんどのため池は築造年数が古く,経験に基
づいて築造されたものも多いため,整備が必要なた
め池は 2 万個に及ぶと言われている.
耐震設計がなされていないため池を含め,多くの
ため池堤体では,地震によって沈下とともに天端に
軸方向の亀裂が入ることが多い.そのメカニズムは
設計で考慮されているせん断破壊によるすべり現象
とは異なる可能性が高く,その原因を解明しなけれ
ば,震災後に効果的な改修や補修を行うことが難し
い.そのメカニズムの解明を目的に,堤体横断面の
詳細な挙動を可視化できる室内実験が行われ,内部
に引張応力が鉛直方向に分布することが確認されて
いる 1).
本文では,上記のメカニズムを数値解析の面から
検証し,地震時のため池堤体における動的挙動の定
性的な把握を目的とする.
0.545
Large モデル
36.5 mm
1
70 mm
1.5
1
150 mm
200 mm
520 mm
図 1 堤体モデル形状
本研究では表 1 に示すように,
法面勾配 (Case 1),
ヤング率 (Case 2),単位体積重量 (Case 3)の変化に
よるせん断ひずみ分布と体積ひずみ分布の違いを検
証する.
表 1 解析条件
使用した
ヤング率
単位体積重量
モデル
E (kPa)
 (kN/m3)
5,000
19.5
標準
モデル
Case 1
Large
モデル
2. 解析手法
降伏関数に Mohr-Coulomb 式,塑性ポテンシャル
に Drucker-Prager 式を用いた弾完全塑性全応力有限
要素解析を行った.解析には「網子」 2)を基にした
プログラムを使用した.
加振条件については実験 1)と同様に,上下流方向
に振幅 12 mm,振動数 2.450 Hz の正弦波形で加振し
た.
標準
Case 2
モデル
1,500~4,000
(500 ずつ 6 段階
18.0
変化させる)
15.0~20.0
標準
Case 3
モデル
3,000
(1.0 ずつ 6 段階
変化させる)
その他の条件については,粘着力 c: 40 kPa (Case1),
15 kPa (Case 2,3),ポアソン比 : 0.3,内部摩擦角 :
35°,ダイレイタンシー角 : 35°とした.これは,
振動台模型実験での模型のパラメータを参考にした.
3. 解析条件
対象としたため池堤体のモデルは,図 1 のように
上面が 36.5 mm,底面が 200 mm,高さが 150 mm,
法面勾配が 0.545 のものを標準モデルとし,上面が
70 mm,底面が 520 mm,高さが 150 mm,法面勾配
が 1.5 のものを Large モデルとした.これは別途行
った実験 1)と同じである.
4. 解析結果
以下すべてのひずみ分布図は振動中の最大値が見
られる時刻のひずみ分布図を用いた.
1
4.1 法面勾配の違いによる検証 (Case 1)
(1)せん断ひずみ分布
標準モデルでは底面両端でひずみが最大となって
いるのに対し,Large モデルでは底面中央部でひず
みが最大となっている (図 2).
標準モデル
5. 振動台模型実験結果との比較
宮永ら (2012)1)によって行われた振動台模型実験
の結果と比較する.土のパラメータと加振条件が同
じ条件のもとで比較を行った.図 6 は振動台模型実
験の結果である.体積ひずみについては,ひずみが
縦に分布する傾向は再現できている.しかし,せん
断ひずみと体積ひずみのどちらも不均一なひずみ分
布を再現できていないという結果になった.
Large モデル
図 2 標準モデルと Large モデルでのせん断ひずみ分布
(2)体積ひずみ分布
標準モデルでは底面両端と天端付近でひずみが大
きくなっているのに対し,Large モデルでは法面で
ひずみが大きくなっている.また,全体的に標準モ
デルの方がひずみは大きい(図 3).
せん断ひずみ分布
体積ひずみ分布
図 6 振動台模型実験結果
6.まとめ
標準モデル
堤体法面の勾配を変えた解析では,最大ひずみの
位置とひずみの大きさから,斜面が急な方で堤体が
損傷しやすいことが示された.また,ヤング率が大
きくなるほど堤体が頑丈になり,単位体積重量が大
きくなるほど堤体が損傷しやすいことが推測される.
本解析では均質な堤体モデルを用いて振動台模型
実験の結果と比較したが,全体的な特徴は再現でき
ているものの,不均一な分布については再現できて
いない.この違いを生む要因としては,振動台模型
実験の模型が均質でないことが考えられる.具体的
には,振動台実験において模型底面が十分に固定さ
れていない可能性や,締固め時に模型の形状を原因
とした締固め度の不均一性の発生などが挙げられる.
今後は,このような不均一性を生む原因も考慮に入
れて,振動台実験で確認された引張応力分布を発生
させる要因について検討する.
Large モデル
図 3 標準モデルと Large モデルでの体積ひずみ分布
4.2 ヤング率の違いによる検証 (Case 2)
ヤング率が大きくなるにつれ,ひずみが小さくな
ることが示された(図 4).
2000 kPa
4000 kPa
図 4 ヤング率の変化によるせん断ひずみ分布の変移
4.3 単位体積重量の違いによる検証 (Case 3)
単位体積重量が大きくなるにつれ,ひずみが大き
くなることが示された(図 5).
1)
2)
3)
16 kN/m3
20 kN/m3
図 5 単位体積重量の変化によるせん断ひずみ分布の変移
2
参考文献
Y. Miyanaga, A. Kobayashi and A. Murakami: Seismic
behavior of irrigation tank by shaking table tests using
image-processing technique, SEAGS-AGSSEA Geotechnical Journal (Accepted).
地盤工学会 (2003):地盤技術者のための FEM シリー
ズ③ 弾塑性有限要素法をつかう.
地盤工学会 (2003):地盤技術者のための FEM シリー
ズ② 弾塑性有限要素法がわかる.
クリノスタットが生み出す回転が鶏胚に成長に及ぼす影響
Effects of Clinostat Rotation on Development of Chicken Embryos
Key words: Clinostat, Chicken egg, Erythrocyte
農産加工学分野
1.緒言
中島
周作
せることで,平均的に重力を打ち消す装置である.
低速で回転させるため,遠心力が働くことはなく,
これまでに宇宙実験の装置として使用されてきた.
本研究では,鶏卵を回転させることができる CL
を作製し,インキュベータ内に設置した(図 1).生
存率の計測には,LED を光源とし近赤外光の透過率
から非破壊で計測可能な孵化途中卵検査装置(株式
会社ナベル社)を用いた.
近年世界的に,高品質な鶏肉の需要が拡大してい
る.肉質向上の 1 つの手段として雄の生殖器官を取
り除く去勢が挙げられる.去勢鶏は脂肪が増加し,
肉質が柔らかくなるため商品価値が上がることが知
られているが,去勢の問題点の 1 つとしてストレス
により体重が減少してしまうことが挙げられる.
かつて,孵卵開始直後の鶏の種卵(以下:卵)に
クリノスタット(以下:CL)で回転を加えると,CL
処理区 (CL により回転を受けた卵) では,対照区
(無処理) と比較して始原生殖細胞数の減少が確認
された 1).つまり孵卵初期段階の卵への CL 処理は
生殖器官の発達を抑制する可能性があり,これは去
勢と類似した効果を持つという仮説立てができる.
CL により去勢鶏を作出できれば、上記のストレスに
関する課題を解決できる可能性がある.ただしこの
先行研究では,生殖細胞以外の生体への CL が与え
る影響は明確にされておらず,さらに現在までに,
卵一個体に CL 処理を施し生体への影響を調べた報
告例はほとんどなされていない.そのため、CL 処理
を行った卵内の胚が成長し,去勢鶏が生まれるかを
明らかにした研究事例はない.
そこで本研究では,CL 処理による去勢の可能性を
明らかにすることを目指し,まず鶏胚に対する同処
理が生殖細胞以外へ及ぼす影響を明らかにすること
を目的とする.計測項目として,生存率,鶏胚の体
重,骨格の発達の指標となり 4 本の趾の中で最長の
第 3 趾の長さ,胚発生に伴い増加を続け個数の変化
が観察しやすいと考えられる赤血球に着目し,CL
処理の影響を検討する.CL 処理区と対照区で,これ
らの計測項目を比較することで,CL が鶏胚の成長に
どのような影響を及ぼすかを調べた.
図 1 使用したクリノスタット:矢印の方向に回転
4. 実験方法
予備加温として,CRB-14(日立空調システム)を
用い 28℃で 6 時間,30℃で 10 時間孵卵した後,
SSH-02 型孵卵機(昭和フランキ社)に卵を移し,温
度 37.4℃,湿度 60%で孵卵を開始し,この時点を 0
日目とする.以下の図 2 に示すように,7 グループ
に異なる 1 日間の CL 処理を与え,それぞれをグル
ープ A~G とする.例えば,グループ B では 0~1
日および 2 日目以降は通常の孵卵を,1~2 日のみ
CL 処理を与える.
割卵前に,孵化途中卵検査装置で生存の有無を計
測し,死亡卵は計測から除外する.割卵後,鶏胚は
臍帯部で切断し,電子天秤とノギスで体重と第 3 趾
長をそれぞれ計測する.
次に卵黄嚢血管の中で最も太い静脈を切断し、湧
出する血液をシリンジおよび毛細管ピペットで採取
する. 採取した血液を PBS で希釈した後,トーマ盤
に流し込み,デジタルマイクロスコープ VHX-1000
(キーエンス社)で赤血球数の観察を行う.
2.対象物
株式会社ヤマモトから購入したチャンキー種(英
語名:Ross)の種卵 68 個を対象とした.
3.実験装置
CL とは,試料を低速で回転させ重力方向を分散さ
1
5.2 体重と第 3 趾長
CL 処理区と対照区で,体重に違いは見られなかっ
た.鶏胚は卵黄の栄養を消費し成長していくため,
CL は胚の栄養吸収や代謝に影響を与えない可能性
が高い.また第 3 趾長も違いが見られず,これは微
小重力が鶏の骨格の発達に影響を与えないことを示
唆する結果であり,過去の宇宙実験の結果とも一致
している.
5.3 赤血球
以下の図 3 に各グル―プの赤血球数を示す.C,E
では対照区と比較して赤血球数が減少した.この結
果は,CL の回転が造血機構を抑制する可能性を示し
ているが,C,E のみ特異的に赤血球数が減少した理
由は明らかにできていない.サンプル数も少ないた
め赤血球数計測は再実験が必要であると考えられる.
図 2 各グループに与えたクリノスタット処理
5.実験結果および考察
5.1 生存率
表 1 クリノスタット処理による鶏胚の生存率 2)
生存率(生存胚/
赤血球数/1μL(×103)
グループ
全ての胚)
A(0~1) 7/8(87.5%)
B(1~2) 7/8(87.5%)
C(2~3) 8/8(100%)
CL 処理区
D(3~4) 6/8(75%)
E(4~5) 1/8(14.3%)
2000
1800
1600
1400
1200
1000
800
600
400
200
0
A
F(5~6) 0/8(0%)
B
C
D
G(6~7) 3/8(37.5%)
対照区
10/12(83.3%)
E
G
対
照
区
図 3 1mL の血液に含まれる赤血球数 2)
6.結言
表 1 に CL 処理による鶏胚の生存率を示す.孵卵
開始から時間が経過するにつれ,生存率は減少して
いき,F では生存率が 0%を示した.微小重力が鳥類
の発生に与える影響を調べた宇宙実験は過去に報告
されており,孵卵開始直後の胚は微小重力環境下で
は生存できないと結論づけられている.しかし本研
究の結果は異なり,表 1 が示すように,初期胚(A,
B,C)にとって微小重力は致死的な作用を及ぼさな
いことを示唆する結果が得られた.また E,F,G の
生存率が低下したことから,5 日目前後の胚の成長
には重力が必要であると言える.通常,3 日目に尿
膜が膨張し始め,殻の内部に付着し,5 日目前後に
漿尿膜が形成される.漿尿膜は外部からの酸素の取
り込みと卵殻からの Ca 吸収を担う.CL の回転によ
り尿膜が殻の内部に付着できず,漿尿膜の形成が阻
害され,生存率が低下したと考えられる.また全て
の生存胚において,奇形胚は確認されなかった.
本研究では,去勢に代わる技術として CL の養鶏
産業への導入を目指し,その基礎研究として孵卵中
の鶏卵に CL 処理を与え,生体への影響を調べた.
上記の実験から,鶏胚に異常や形態の変化が生じな
い可能性が高いため,CL により去勢鶏を作出できる
可能性が見込まれる.今後,孵化率と生まれた雛の
生殖能力を調べ,鶏卵への CL 処理が、去勢に代わ
る手法であるか検討する予定である.
参考文献
1) Li Z. et al. (2002) : Influence of Simulated Microgravity on
Avian Primordial Germ Cell Migration and Reproductive
Capacity, Journal of Experimental Zoology, 292 (7),
pp.672-676
2) 中島周作他 (2013) : クリノスタットが鶏胚に及ぼす影響, 農
業機械学会関西支部報掲載予定
2
琵琶湖周辺の水田地区排水路の底泥に含まれる炭素の空間把握および分解特性
Spatial Study and Characteristics of decomposition of Carbon in the Sediments in Drainage Canal
in a Paddy-field District around Lake Biwa
Key words: Drainage Canal, Sediment, Carbon
水環境工学分野
1. はじめに
永井
智久
表 1 調査地点概要
環境に対する意識が高い現代社会において,健全
な水環境を実現するために農地や都市などの面源か
ら排出される栄養塩類や有機物などの排出負荷の削
減が重要になってきている.特に我が国においては,
水田は栄養塩や有機物の主要な面源の一つである.
灌漑用水として多量の水を必要とする水田は,一般
に河川や湖沼の周辺に広がっており,水田地区から
排出されるそれらの排出負荷物質は,下流域の河川
や湖沼の水質形成に大きな影響を与えている 1).
かつて排水路は排水機能を重視した設計がなされ,
水田から排出された排出負荷物質は排水とともに下
流域に流されていた.近年,環境に配慮した営農や
農地整備が求められるようになり,排水路のコンク
リート三面張りから二面張りへの変更などが行われ
た.その結果,排水路の排水能力は抑制され,水田
から流出した排出負荷物質が排水路内に堆積しやす
くなった.
既往の研究より,水田地区から排出される汚染物
による負荷量が水田圃場の負荷量に必ずしも一致し
ないと示唆されている 2).この原因として,水田か
ら流出した栄養塩類や有機物を含む土壌が排水路中
に底泥として堆積し,底泥が排出負荷物質のシンク
またはソースとして働いたことが考えられる.しか
し,河川や湖沼,海洋に比べ,水田地区の排水路底
泥の水や底泥に含まれる炭素に関する研究はまだ少
ない.したがって,排水路に存在している炭素量お
よび動態を把握する必要がある.
そこで,本研究では,琵琶湖周辺の水田地区で調
査し,灌漑期・非灌漑期において排水路底泥に含ま
れる炭素量と形態を空間的に明らかにすることを目
的とした.また,底泥の培養試験を行い,炭素の経
時変化を明らかにした.
A
B
C
D
E
F
位置
姉川上流
姉川下流
日野川上流
日野川下流
安曇川上流
安曇川下流
用水源
河川水
湖水
河川水
湖水
河川水
河川水
コンクリート舗装
二面張り
二面張り
二面張り
二面張り
二面(一部三面)張り
舗装されていない
集水面積
9.4ha
8.5ha
8.3ha
5.4ha
9.1ha
52.5ha
2.2 培養試験
前述の 6 地点から 2 地点(B,D 地点)を選出し,
以下の 3 種類の方法で底泥の培養を行った.底泥の
採取は 2012 年 11 月行った.
不撹乱試料(N 試料)
:乱さずに採取した底泥 10cm
に 3cm 湛水させて培養した.培養後は上層,中層,
下層に分けた.ふるい分け試料(S 試料)
:湿潤状態
の底泥を 2mm ふるいにかけた後,底泥 30g に対し
100mL の蒸留水を加えて培養した.乾燥再湿試料
(Rh 試料)
:底泥を 40℃で 2 時間乾燥後,元の湿潤
状態に戻し,30g に対し 100mL の蒸留水を加えて培
養した.
培養は,25℃の恒温室において,1,3,5,7,14,
21,28 日間行った.培養終了後,直上水を採水した.
直上水の一部を 0.45m PTFE フィルターでろ過し,
溶存態試料とし,残りの未ろ過の試料を懸濁態試料
とした.
2.3 分析
底泥および水田土壌試料は,冷蔵庫で低温乾燥後
に 125m ふるいにかけた.分析項目は,TCS:全炭
素,TOCS:全有機態炭素,WEOCS:易溶性有機態
炭素,全窒素:TNS である.WEOCS は,底泥の水抽
出液を 0.45m PTFE フィルターでろ過して得られた
ろ液の TOC を計測したものである.
水試料の直上水の分析項目は,全有機態炭素:
TOCW,溶存態有機態炭素:DOCW である.
2. 材料・方法
3. 結果と考察
2.1 現地調査
琵琶湖周辺に位置する水田地区 6 地点を選出し,
調査地点とした.調査地点の概要を表 1 に示す.調
査では,月に一度の頻度で,各地点で水田土壌と底
泥(上層:0~1cm,中層:1~5cm,下層:5~10cm)
を採取した.また,田面水,用水および排水が存在
した場合にはそれらも採取した.
3.1 炭素の空間分布
各地点における 6 月,11 月の水田土壌と底泥各層
に含まれる TCS の平均値をそれぞれ図 1,図 2 に示
す.6 月における水田土壌(P)の TCS の平均値は
20.3gC/kg,底泥上層(U)は 16.1gC/kg,中層(M)
は 13.7gC/kg,下層(L)は 12.2gC/kg であった.11
月では,
P は 21.0gC/kg,U は 22.0gC/kg,M は 13.6gC/kg,
L は 12.3gC/kg であった.また,6 月,11 月の C/N
1
比の平均値はそれぞれ,P は 12.7,13.4,U は 14.1,
15.6,M は 16.1,19.7,L は 17.8,17.6 であった.
水田土壌より底泥の方が TCS の地点間のばらつき
が大きかった.これは,水田土壌は地区によらず同
様な稲の栽培管理の影響を受けるのに対して,排水
路は地点ごとに勾配の大きさや植生の違いによって
底泥の堆積の仕方が異なるためと考えられる.
水田土壌,底泥上層の C/N 比は同程度の値のため,
底泥上層の堆積物は主に水田土壌由来と示唆される.
TCS は,底泥上層から下層にかけて小さくなった.
主に排水路に流出した水田土壌が底泥として堆積し,
分解作用を受ける間に,新しい底泥が上層に堆積し
ていくと推察される.底泥中層,下層の TCS と C/N
比は同程度で,季節変動が小さかった.中層,下層
では有機物の分解が十分に進んでおり,難分解性の
有機物が大部分を占めていると考えられる.
灌漑期(6月)
上水に含まれる TOCW は 4.3gC/kg から 21.4gC/kg に
増加した.上層の TCS,TOCS と直上水の TOCS,DOCS
の間には負の相関が見られた.底泥に含まれる炭素
は,主に上層で分解され,直上水に溶出していくと
示唆される.
非灌漑期(11月)
P
P
図3
U
U
化(D 地点)
M
M
L
L
0
10
20
TCS (gC / kg)
30
0
10
20
TCS (gC / kg)
N 試料の底泥に含まれる TCS の経時変
30
図 1 水田土壌,底泥各層の
図 2 水田土壌,底泥各層
全炭素(6 月)
の全炭素(11 月)
3.2 炭素の経時変化
B 地点の N 試料の底泥に含まれる TCS は,U は 27.2
±1.7gC/kg,M は 27.7±1.7gC/kg,L は 29.0±2.7gC/kg
であった.28 日目の TCS は,1 日目の TCS の 97~100%
であり,TCS はどの層も大きな経時変化は見られな
かった.S 試料,Rh 試料の TCS はそれぞれ 16.1±
1.1gC/kg,16.4±1.8gC/kg であった.28 日目の TCS
はそれぞれ 1 日目の TCS の 91%,96%であり,大き
な経時変化は見られなかった.
B 地点の直上水に含まれる TOCW の最大値は,N
試料,S 試料,Rh 試料の順に 8.3mgC/L,4.1mgC/L,
16.7mgC/L であった.N 試料,S 試料の直上水への
炭素の溶出は,Rh 試料より少なかった.これは,B
地点の排水路は常に湛水されているため,底泥が還
元状態にあり,炭素の分解が緩慢になったからと考
えられる.一方,Rh 試料は,一度乾燥され好気状態
になったため,炭素の溶出量が増加したと考えられ
る.
D 地点の N 試料の底泥各層,直上水に含まれる炭
素の経時変化をそれぞれ図 3,図 4 に示す.
底泥に含まれる TCS は,U は 40.5±8.6gC/kg,M
は 31.6±7.5gC/kg,L は 28.2±6.3gC/kg であった.上
層の TCS は減少傾向が見られ,培養期間において
49.1gC/kg から 32.0gC/kg に減少した.対照的に,直
図4
N 試料の直上水に含まれる
TOCW,DOCW の経時変化(D 地点)
4. 結論
水田から排出された炭素は,排出時に近い濃度で
排水路底泥に堆積する.底泥の堆積しやすさなどに
より地点ごとに炭素量は異なるが,炭素は上層で分
解され,排水に溶出するとわかった.また,排水路
が長期間湛水され底泥が還元状態である場合には,
炭素は分解されにくいことが示唆された.
1)
2)
2
参考文献
史秀華,浮田正夫,樋口隆哉,今井剛,関根雅
彦(2002):面源負荷としての土壌の富栄養化
ポテンシャルに関する研究,水環境学会誌,25
(2)
,112-118
田淵俊雄,黒田久雄,稲葉昭,川野宏明,海老
名保孝,堀角京美(1991):非灌漑期の農業集
水域からの流出水の窒素濃度と負荷,農業土木
学会論文集,154(8)
,45-53
土中の侵食進展解析を目指した Level Set 法の応用
Level Set Method Oriented toward Erosion Analysis within Soil
Key words: Level Set Method, Piping, Advection equation
施設機能工学分野
夏目
皓介
1. はじめに
ここに, v n は法線方向の移流速度を表す.移流方程
フィルダムやため池等の土構想物は浸透流による
土の侵食が発生する恐れがある.この現象の代表的
なものとしてはパイピングが知られている.パイピ
ングは土内部に水みちや空洞を発生させ,土構造物
の劣化,崩壊へとつながる.そのため,パイピング
に代表される侵食現象の挙動を予測することは重要
な課題である 1).
そこで,土内部の水,土界面の移動を解析するた
めの手法として,Osher, Sethian らによって提案され
た Level Set Method2),3)(以下,
「LSM」という)を
考える.LSM は領域の分離,結合が可能な界面移動
追跡手法として開発され,現在では移動体追跡,画
像処理などさまざまな用途で使用されている.
本研究では土中の侵食解析の境界追跡手法として
LSM の適用を検討した.LSM の精度をいくつかの
形状で検証することで,パイピング等の複雑な界面
移動問題への適用可能性を考察した.
式は式(2)から変形され,式となる.

 v n   0
t
補助関数は符号付距離関数であるので,式(5)の
ような性質をもつ.
  1
(5)
式(5)を式(4)に代入することで,式(6)のように移流
方程式を簡単化できる.

 vn  0
t
2.2 再初期化
LSM は検出界面に対して一次元高い空間に補助
関数を定義し,そのゼロ等高面を検出界面と考える.
については境界からの符号付距離(内側は負,外側
は正)を与え,界面の識別を行う.
つまり,以下のような条件が成立する.
(1)
2.1 移流方程式
一般的な移流方程式は,式(2)のようである.

 v    
t


式(6)を数値的に解く場合,更新とともに数値誤差
が積算する.そのため,安定な解を得る目的で,一
定回数更新ごとにの再初期化処理を行う.本研究で
は倉爪らの参照マップを用いた手法を採用した.
この手法では,別途中心からの距離を値にもつ参照
マップを作成し,境界上において局所的にこの参照
マップを適用することで,簡単に補助関数の再初期
化処理を行う.また,この手法では再初期化処理に
ついて境界からの距離が一定以内のグリッドに限定
する参照マップを用いることで数値解析の効率化を
図ることができる.この領域をバンド(band)と呼び
境界上のグリッドから再初期化するグリッド幅を任
意に決定する.本研究では境界がバンド内の一番外
側に到達したときに再初期化処理を行う.
3. 数値解析結果
(2)
複雑な界面移動に対する解析手法として,LSM の
有効性を検証する.そのため,以下の二種類の形状
において数値解析を行った.解析結果①,②におい
ては参照マップのバンドを 30 グリッドとした.
ここに,v は移流速度を表す.またパイピング等の
土の侵食現象は主に界面に対して垂直な方向に進む
と考えられるので,移流速度 v について式(3)が成立
する.
v  vn
(6)
なお,式(6)の時間項については,離散化手法として
前進オイラー法を用いる.
2. 数値解析手法
  x, y )  0 x, y   境界の内側

  x, y )  0 x, y   境界
  x, y )  0 x, y   境界の外側

(4)
3.1 解析結果①
(3)
曲線の表現のため円形状の界面を用いて,数値解
析を行った.解析条件は 500×500 の固定メッシュ
1
50
計算値
45
理論値
40
初期値
近における結果とその理論値を図 2 に示すが,解析
結果①と同様に誤差は見られなかった.
3.3 数値誤差
解析結果①,②について計算領域であるバンドの
大きさを変えながら Sun ら 5)の Error norm の計算手
法に従って誤差を計算した.その結果を表1に示す.
解析結果①,②ともに数値誤差である Error norm は
空間ステップ dx よりも小さい値となった.このこと
からある程度の数値精度の解析が実現したと確認で
きる.また,バンド幅を変更しても統一的な傾向は
見られないことから,最適なバンド幅については境
界の形状に応じて設定する必要があると考えられる.
35
y
30
25
20
15
10
5
表 1 Error norm の評価
0
0
バンド幅 (グリッド)
10
20
30
5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
x
解析結果①
0.053896
0.038530
0.056708
解析結果②
0.042594
0.057990
0.058499
図 1 解析結果①
4. まとめ
本論ではパイピング等の侵食現象に対する境界追
跡の手法として LSM を検討し,簡単な形状により
精度を検証することで導入の可能性について考察し
た.解析の結果,高い数値精度の解析を実現でき,
LSM の有効性を示した.しかし,最適な計算条件に
ついてはそれぞれの解析ごとに検討しなければなら
ず,更なる検証が必要である.また実際の侵食問題
への適用を行うことで,パイピング等の現象のシミ
ュレーションを既往の手法と比較し有用性などを評
価していく必要がある.
25
20
15
y
計算値
理論値
10
初期値
5
1)
0
20
25
x
30
2)
図 2 解析結果②
3)
に対し,dx=0.1,dt=1,v=1 とし,初期設定を半径
100 の円とした.
初期値と 100 ステップ後の数値解析結果とその理
論値の一部を図 1 に示すが,大きな誤差は見られな
かった.
4)
5)
3.2 解析結果②
次に,直線の直交により生じる特異点の検証のた
め 2 つの直線にて直角を表現したものについて,数
値解析を行った.解析条件は 500×500 の固定メッシ
ュに対し,dx=0.1,dt=1,v=1 とし,傾き 1 と-1 の直
線を交差させた.初期値と 100 ステップ後の直角付
2
参考文献
藤澤和謙,村上 章,西村伸一 (2011): 微分方程式
で解く土中の侵食,地盤工学会誌,第 59 巻,第 3 号,
pp.24-27.
Sethian, J. (1999): Level Set Methods and Fast Marching
Methods: Evolving Interfaces in Computational Geometry,
Fluid Mechanics, Computer Vision, and Science,
Cambridge University.
Osher, S. and Fedkiw, R. (2003): Level Set Methods and
Dynamic Implicit Surfaces, Springer.
倉爪 亮 (2006):レベルセット法とその実装法につ
いて,情報処理学会,研究報告,pp. 133-144.
Sun, Y. and Beckermann, C. (2007): Sharp interface
tracking using the phase-field equation, Journal of
Computational Physics, Vol.220, pp. 626-653.
農村再生事業における大学の役割
―京都府「ふるさと共援活動支援事業」を事例に―
A University Role in Rural Regeneration Project
-A Case Study in “The Project of Kyoto Prefecture”Key words: Regional Contribution, Manpower, Local Initiatives, Regional Vitalization
農村計画学分野
原田
龍一
1. 研究の背景と目的
近年、農村部では過疎化・高齢化の進行の影響を受け、集落活動等の停滞による地域の活力の低下や担い
手不足によって、地域住民の力だけでは将来に向けた村づくりなどの集落の再生の取り組みを進めることが
難しいところも見られるようになった。そこで京都府では平成20年度より、高齢化・過疎化が進んだ農村
集落と、大学や企業、NPO 法人等の地域外の協力者で構成する「ふるさと共援組織」
(以下、共援組織)を農
村集落再生事業の活動主体とする「ふるさと共援活動支援事業」
(以下、共援事業)を行ってきた。本事業は
現在までに13地区で実施され、大半が大学を共援者として活動を行っており、1つの共援組織が行う活動
に対しては3ヵ年の継続補助が認められている。また事実上の延長事業として「ともに育む「命の里」事業」
(以下、命の里事業)がある。本事業の特徴として共援者としての取組主体が大学のゼミや研究室単位であ
ることが多く、加えて行政の関与が最低限に抑えられ活動内容が共援組織に一任されているため、事業実施
地区で比較しても活動内容は異なるものとなっている。本研究では特に共援者としての大学に焦点を当て、
比較的自由度のある大学の地域連携活動という先進的な事業の活動内容を把握するとともに、本事業におけ
る成果や課題を明らかにし、共援組織の在り方について検討する。
2.研究の方法
表1
本研究では、事業主体である地域の代表者及び共援
者である大学の教員、加えて京都府を対象にヒアリン
グ調査を行った。対象地の選定は、①共援事業中もし
くは以後に命の里事業へ移行していないこと、②既に
共援事業が終了していること、の2つを条件とした。
本研究では共援事業期間終了後の共援組織の形態が焦
点であると考え、事実上の延長事業である命の里事業
へ移行した地域及び共援事業実施中の地域は対象地か
ら省いた。調査項目は、団体の規模、事業取組の経緯、
取組の内容、事業の構想、連携者・行政への評価、事
業の成果と課題、である。ヒアリング調査対象地区は、
①京丹後市甲坂、③京丹後市矢畑、⑥舞鶴市松尾、⑦
京丹波町長瀬、⑧南丹市福居、⑨福山市大原、⑩南丹
市四ッ谷・佐々江の7地区である。京都府へのヒアリ
ング調査では、事業制度、事業の狙い、事業の成果、
事業の課題の4つを調査項目とした。
3.考察
共援事業実施地区
No.
地区名
共援者
活動状態
①
京丹後市甲坂
龍谷大学
活動継続中
②
京丹後市上山
京都大学
命の里事業
③
京丹後市矢畑
立命館大学
活動継続中
④
宮津市世屋
京都府立大学
命の里事業
⑤
宮津市日ヶ谷
京都府立大学
命の里事業
⑥
舞鶴市松尾
京都大学
活動継続中
⑦
京丹波町長瀬
近畿大学
活動終了
⑧
南丹市福居
佛教大学
活動継続中
⑨
福知山市大原
佛教大学
活動終了
⑩
南丹市四ッ谷・佐々江
立命館大学
活動継続中
⑪
京丹後市野間田中
同志社大学
命の里事業
⑫
京丹波町下大久保
京都学園大学
活動中
⑬
京丹後市箱石
(株)日進製作所
活動中
3.1 共援組織に関する考察
調査の結果、調査対象地を「大学をマンパワーとして捉える地域」と「大学をアドバイザーとして捉える
地域」に2分化することができた。前者は学生が労働力となるのを目的とし事業に取り組む地域のことであ
1
り、後者は大学の意見を目的とし事業に取り組む地域のこ
とである。大学及び行政は共援組織の主体を地域と考える
中、前者は地域が主体となって活動を行なっているのに対
し、後者は地域が受身になり大学が主体となりがちなため、
地域を主体と考える大学と共援組織内で意向のミスマッチ
が発生し活動が停滞するケースも見られた。
3.2 事業に関する考察
事業の成果として、①学生が地域に入ることによる賑わ
い、②地域が外部との繋がりをもつことによる影響、③活
動を通じた学生の変化が挙げられた。一方で課題として、
①困難な継続性、②事業初期段階における意思疎通の不足、
③活動内容に対する調査データの反映不足、④学生の受入
や活動内容に対する地元の負担、⑤地区間における情報共
有の場の不足、⑥事業の制度設計の限界が挙げられた。
4.共援組織の在り方
図1
事業実施地区の分布 1)
以上を踏まえた上で共援組織の在り方について考察していく。先に述べたように、主に地域は「大学をマ
ンパワーとして捉える地域」と「大学をアドバイザーとして捉える地域」に分類される。後者の地域では、
大学をアドバイザーとして捉えて活動を行うということ=「大学主体」に陥りやすく、
「地域主体」の意向を
持つ大学と齟齬が発生し、結果として事業がうまく進行しない事態が生じるケースが見られた。こういった
事態を避けるために、事業初期段階において大学側の意図をしっかりと地域に伝えることが大切である。一
方で、必ずしも大学をアドバイザーとして捉えるということが問題というわけではなく、初めから自分達で
活性化活動を行う力を持ってはいるが、明確なビジョンを持っていないために地域活性化という課題に対し
どういったアクションを起こすのか不明瞭であり行動に移せない地域も多い。このような地域では、大学は
可能な限り地域が独立して行える規模の活動を提案するのが望ましい。何故ならば、大学が共援組織から離
脱した場合も活動が地域単独で継続可能であるようにするためである。もう1つの理由として活動が地域の
負担となっては本末転倒だからである。またその際に、これらの提案はアンケート調査や聞き取り調査で取
得したデータを反映した地域の実情を鑑みた内容でなくてはならない。また、行政の役割は活動にあまり関
与しないことが重要である。行政はあくまで地域と大学を繋げる橋渡し的な存在であり、広報等で活動を世
間に広め、時に地域の勉強会の斡旋や事業の提案をするといった縁の下の力持ち的な存在であるのが望まし
い。何故ならば、可能な限り地域と大学が独立して活動を継続し、事業期間である3年を目途に共援組織が
独立するのが理想であるからだ。しかし実際にはほとんどの地域が共援事業終了後に行政の他の事業へと移
行している。主な原因は大学側の地元までの交通費で、交通費の捻出が事業を継続する上で非常にネックと
なっており、行政の補助金に頼らざるを得ない地域がほとんどというのが現状である。一方で、行政から独
立して活動を行なっている地域では大学がこれらの交通費を負担しており、大学がこれら交通費等の経費の
負担を行うというのは行政から独立する際には必要不可避な事ではないかと考える。ただし先にも述べた、
明確なビジョンが形成されていないだけで地域単独でも十分に活動が可能である地域に関しては、事業期間
内にワークショップの開催等による地域ビジョンの形成が首尾よく遂行されれば、事業期間である3年をも
って活動を終了するというのは至って自然な流れであり、必ずしも事業終了後も共援組織という形態の継続
性を図ることが重要というわけではない。
5.おわりに
事業の課題として浮上したものに、地区間における情報共有の場の不足と事業の制度設計の限界があっ
た。前者においてはメーリングリスト等のネットワークの形成による情報共有の簡易化を提案する。後者に
関しては「本事業が企業を対象としたものであること」と「対象地が基本的に単一集落であり企業を相手に
するのは困難であること」の矛盾を解決することは容易ではない。企業をいかにして農村再生事業に巻き込
んでいくかが今後の課題である。
参考資料
1)
京都府農林水産部農村振興課(2011):ふるさと共援組織の状況
2
リモートセンシングによるダイズ群落の地上部乾物重の測定法に関する検討
Examination of Measurement Methods of Remote Sensing for Soybean
Key words: Soybean, Remote sensing, NDVI, Hand-held device, Aerial imagery
フィールドロボティクス分野
1.緒言
近年、食の安全と安心が強く求められており、こ
れらは農産物に対する重要な付加価値となっている。
そのための環境評価、精密農業管理のための画的変
異の把握、生育状況の把握等のために、リモートセ
ンシングを中心とする空間情報技術をより実践的に
活用することが強く期待されている 1)。
植物の特性として、緑葉は可視光、特に赤の光を
より強く吸収し、近赤外の光はより強く反射する。
植被率が増加すると、全体として近赤外の反射率が
増加する。その特性を利用した植生指数として、正
規 化 植 生 指 数 (NDVI: Normalized Defference
Vegetation Index)をがある。NDVI は、作物群落から
の R と NIR の反射率の差を両者の和で除したもので
あり、葉面積指数や乾物重などの推定に有用とされ
ている。
またダイズ栽培をめぐる事情に関してであるが、
ダイズは台風等の気象の影響を受けやすく生産が不
安定であり、実需者からは均質化、大ロット化、安
定生産が求められている 2)。
先行研究によると、ダイズでは、収量への環境の
影響は主に、発芽から子実肥大始期(生育段階 R5)ま
での乾物重の蓄積への影響を通じて働いているので、
開花期と子実肥大始期における全乾物重は最適収量
の有望な予測子である(Board ら、2005)3)。そのた
め、地上部乾物重を植生指数で推定することができ
れば、植生指数によってダイズにおいても収量を予
測できると考えられる。そこで本研究では、リモー
トセンシングを用いて収量を予測することを最終目
標とした上で、その前段階である乾物重予測をテー
マとした。
またリモートセンシングには、衛星画像や航空画像
を用いる方法や携帯式生育量測定装置を用いる方法
がある。本研究においては航空画像と携帯式生育量
測定装置を用いて研究を行った。
2.携帯式作物生育量測定装置による調査
2.1 実験方法
(1) 実験対象および圃場
対象はダイズ(品種:サチユタカ)で、奈良県桜
1
日田
早織
井市の圃場にて実験を行った。実験用に栽植密度を
変えた 4 試験区 4 反復(大西地区)と、一般農家で
栽培している 14 圃場から 2 反復(大泉・大泉出屋敷
地区)データを調査した。
(2) 実験装置
携帯式作物生育量測定装置(株式会社荏原電産)
を用いた。太陽光を光源とし、測定対象からの R,G、
NIR の反射率を測定することができる。
(3) 実験手順および日程
ダイズは水稲に比べて条間が広いので、水稲と同
一の高さから測定すると、測定できる株数が減る。
そのため測定範囲をより広くするために、測定する
高さを変えて測定を行った。測定した方法をまとめ
ると、以下の(i)~(iv)である。
(i)測定器の仕様通りの高さで、条と条の間の真上か
ら測定した(以下、マーカロッド・条間)
(ii)測定器の仕様通りの高さで、条の真上から測定し
た(以下、マーカロッド・条上)
(iii)群落から 2m の高さで、条と条の間の真上から測
定した(以下、群落より 2m 上から・条間)
(iv)群落から 2m の高さで、
条の真上から測定した(以
下、群落より 2m 上から・条上)
平成 24 年 7 月 26 日から、生育段階にあわせて計
6 回測定を行った。
2.2 実験結果および考察
生育段階 V9(今年度においては 8 月 4 日)の
時点で葉が群落を覆いつつあり、R5 においては土
壌部分はほとんど見えていない。このように、葉
が群落を覆い、土壌部分が見えなくなると NDVI
の値が飽和してしまい、図 1 を見てもわかるよう
に、NDVI が 0.65 を越えた辺りからは乾物重が増
加しても NDVI の値がほとんど変化していない。
そのためか、4 通りの測定方法を用いてもほぼ同
じ NDVI の値を示した。
が 0.65 を越えたあたりからは、携帯式は測定方法を
変えても同様の値になったが、航空画像だけはより
高い NDVI の値を示した。
図1
4 つの測定方法による NDVI と乾物重の関係
次に 4 通りの測定方法を、NDVI から乾物重を予
測するにはどの測定方法がふさわしいかという視点
から、比較した。乾物重を予測する回帰式を作るに
あたって、大西地区で得られたデータのみを用い、
累乗近似、指数近似、双曲線近似を試した。そうし
て得られた回帰式に大泉・大泉出屋敷地区で得られ
たデータを当てはめて検証した結果、累乗、指数、
双曲線のどの近似方法を用いても、
「マーカロッド・
条間」の測定方法が最も精度よく乾物重を予測でき
た。このことから、4 つの測定方法の中では「マー
カロッド・条間」が最もよいと結論づけた。その回
帰式とは、x を NDVI の値、y を単位面積当たりの乾
物重とすると指数近似で得られた y = 1.59e7.99x で、
決定係数は 0.875 であった。
図 2 航空画像から得られた NDVI と乾物重
4.結言
本研究では、リモートセンシングによってダイズ
の地上部乾物重を推定することを目指した。携帯式
作物生育量測定装置についての研究では、4 通りの
測定方法で測定を行い考察した。測定方法間で、生
育初期においては少々NDVI の値に差はあるものの、
後半はほぼ同じ値を示しており、全体としてもほと
んど同じ値をとっていた。ダイズでは開花期(今年度
においては 8 月 5 日)の時点で葉がほぼ群落を覆いは
じめ、土壌部分が見えなくなると NDVI の値が飽和
してしまう。NDVI が 0.65 を越えた辺りからは乾物
重が増加しても NDVI の値がほとんど変化していな
い。
また、航空画像を用いての分析も行った。生育段
階の後半までは、携帯式測定装置と航空画像ではそ
れほど変わらない結果となった。NDVI の値が 0.65
を越えたあたりからは、携帯式は測定方法を変えて
も同様の値になったが、航空画像だけはより高い
NDVI の値を示した。
3.航空画像による調査
3.1 実験方法
(1) 実験対象および圃場
2.1 の(1)に述べたものと同様である。
(2) 実験装置
パスコ株式会社に依頼して、マルチスペクトルカ
メラを搭載した航空機で、航空画像を撮影した。ま
た 航 空 画 像 の 解 析 ソ フ ト と し て 、 ENVI
(Environmental for Visualizing Images, Exelis VIS 株
式会社)を用いた。ENVI はリモートセンシングデ
ータ(航空画像など)に特化した画像処理システム
の統合アプリケーションである。
(3) 実験手順および日程
平成 24 年 8 月 4 日と 9 月 7 日に奈良県桜井市上空
から撮影を行った。航空画像からは R,G,B と NIR の
反射率を読み取った。
1)
2)
3)
3.2 実験結果および考察
x 軸に NDVI の値、y 軸に単位面積あたりの乾物重
をとりグラフにしたところ、図 2 のようになった。
生育段階の後半までは、携帯式測定装置と航空画像
ではそれほど変わらない結果となった。NDVI の値
2
参考文献
秋山侃・石塚直樹・小川茂男・岡本勝男・斎藤元也・
内田諭 編著:農業リモートセンシングハンドブック
(2006)
農林水産省発行:「大豆をめぐる事情」
(平成 24 年 9
月)
James E. Board and Harikrishna Modali : Dry Matter
Accumulation Predictors for Optimal Yield in Soybean,
Crop Science 45:1790-1799 (2005)
レーザレンジファインダによる定位のための特徴量選択に関する研究
Study on Choosing Feature values for Localization using Laser Range Finder
Key words: Laser Range Finder, Localization, Feature
フィールドロボティクス分野
1.諸言
屋外での自律走行のためのツールとして GPS が
しばしば用いられる。しかし、GPS には十分な数の
衛星が補足できない場所で精度が低下し、また障害
物の有無が判定できないという問題がある。そのた
め、GPS が機能しない場所でのナビに役立てるよう、
人工的なマーカを設置せずに位置を把握する方法を
考える。そこでレーザレンジファインダ(LRF)を
用いた定位手法を提案する。LRF は周囲の対物まで
の距離と方向を図るセンサである。LRF で周囲を計
測した場合、屋外環境では一般に周囲にランドマー
クになりうるものがあると考えられるので、異なる
場所において異なる計測結果が期待できる。そうし
た点在する樹木などをランドマークとして扱うため
には、任意の位置から LRF によって得られる距離
と方向のデータによって、そのオブジェクトを安定
して認識できるように特徴量を設定して抽出する必
要がある。本論文ではそれらから、LRF による農機
定位のために、環境中の特徴をランドマークとして
用いることを考えたとき、どのような特徴が安定し
て検出できるランドマークとなるか、また具体的に
どのように検出するかについて考察、手法の提案を
行う。以上を踏まえて LRF を用いて作成したマッ
プ上に、別の場所で計測したときの位置を表示させ
る実験を屋内、屋外で行った。
杏里
2.3 実験方法
まずランドマークに使えそうなオブジェクトが複
数 検 出 範 囲 に 入る よ う な位 置 で 三 脚 に 固定 し た
LRF で計測し、
それを標準マップとする(例 図 1)。
次に標準マップから特徴点を抽出し、その中からラ
ンドマークとして用いる 3 点を決める。今回はまば
らな樹木のある環境を想定しているので、ひとつ前
の測定点から一定以上の距離近づいた点と一定以上
の距離離れた点を特徴点として抽出した。さらに別
の場所で計測し、その計測結果(図 2)からも同様
に特徴点を抽出し、さらにそれらの点の位置関係か
ら標準マップでランドマークとして選んだ 3 点と同
じ点を決定する。そしてその決定した 3 点と標準マ
ップの 3 点との比較から現在位置を標準マップ上に
表す(図 3)
。定位精度を確かめるために、あらかじ
め標準マップを作る際に、別の測定地点に棒を立て
て LRF で検出した位置をその測定地点の真の値と
した。そして上記の定位手法で出した標準マップ上
の座標と比較し誤差を出した。
y[m]
6
1
-10
2.実験装置と方法
藤崎
-5
x[m]
0
5
-4
2.1 実験装置
実験は三脚(GITZO 社;GT3340L)に固定した
LRF(北陽電気株式会社;UTM-30LX)で計測した。
LRF は室内実験ではデスクトップパソコンで、屋外
実験ではノートパソコンで制御した。プログラムの
開 発 環 境 は Microsoft 社 の Visual Studio 2010
Professional、プログラミング言語は C++を使用し
た。
図 1 室内実験の標準マップ
8
6
y[m]
4
2
-10
2.2 実験場所
実験は屋内実験を京都大学農学部総合館 S257 室
で、屋外実験を京都大学北部キャンパス内の中庭で
行った。
-5
0
-2 0
x[m]
5
-4
図 2. 室内実験
1
別の地点での計測データ
た場合は室内実験と同じように定位を行うことがで
きた。しかし前述の理由から同定できない点も多か
った。
15 y[m]
5
-15
-5
-5
5
15
x[m]
-15
屋外場所 1
標準マップ
20 y[m]
図 3. 定位の幾何学的表現
10
3.実験結果と考察
-20
3.1 室内実験
標準マップとは別に 3 か所で測定したところ、
𝑥座
標 の 偏 差 が 28mm~53mm, 𝑦 座 標 の 偏 差 が
4mm~47mm となり、最も誤差が大きかった時でも
運用には耐える範囲に収まったと言える(表 1 に結
果をひとつ示す)。このことから、3 点をしっかり選
んで同定することができれば十分な精度で定位がで
きることがわかる。
角棒の座標[mm]
x
-4214
-4249
y
774
778
θ
117.1°
-10
0
x[m]
20
-20
屋外場所 2
標準マップ
4.結言
室内実験により、3 つのランドマークから標準マ
ップ上に現在位置を表示させることに成功した。各
座標の偏差は 100mm 四方に収まる程度であった。
これは十分実用可能な範囲と考える。しかし、屋外
実験では同様に行ったところ、安定した定位を行う
ことができなかった。この問題に対処するには、ま
ずランドマークを設定する際に、ほかの似たような
位置関係を持つオブジェクトがないものに限るよう
にすること、ランドマークを発見できなかった際に
対応できるよう 3 つ適当な点が見つからなかったと
きに検出範囲や抽出範囲を拡張したり、ランドマー
クの準候補として点を記録して用いたりすることな
どが考えられる。また、オブジェクトの形状による
誤差に関しては、近似方法の改良や誤差が大きくな
るようなランドマークを選ばないことで対処できる
と考える。こういったことを踏まえて、よりパター
ンの違う環境で実験する必要があると考える。これ
らを今後の研究課題としたい。
表 1. 定位点 1 実験結果
定位手法により求めた座標[mm]
0
3.2 屋外実験
まず屋外では 2 つの場所実験を行った。屋内より
も特徴点が多く複雑で、ランドマークの同定が室内
実験よりも困難だった。初めに行った樹木が比較的
密集している、枝の生えた樹木が多い、孤立した気
が少ない場所では特にランドマークの同定はできな
かった。原因としては、オブジェクトが密集してい
る所ではランドマークが陰に入る形で死角に入って
しまったことや、ランドマークと似たようなほかの
オブジェクトとの位置関係を持つ特徴点をご認識し
てしまったことなどによる。また、1 つ目の場所で
は 3 点が正しく同定できた場合にも𝑥座標の偏差が
206mm、𝑦座標の偏差が 95mm であり室内実験より
誤差が大きかった。これは複雑な形のオブジェクト
を点としてとらえたことによると考えられる。ほか
の比較的樹木が孤立して散逸しているような地点で
は同定できる点と同定できない点があり、同定でき
1)
2)
2
参考文献
T. Coen, A. Vanrenterghem, W. Saeys, J. De
Baerdemaeker. (2008). Autopilot for combine
harvester. Computers and Electronics in
Agriculture, 63, 57–64.
Vijay Subramanian , Thomas F. Burks a, A.A. Arroyo.
(2006). Development of machine vision and laser radar
based autonomous vehicle guidance systems for citrus
grove navigation. Computers and Electronics in
Agriculture, 53, 130–143.
画像処理による水稲倒伏検出手法の開発
Detection of rice plant lodging using image processing
Key words: plant lodging, image processing
フィールドロボティクス分野
1.緒言
1
藤本
𝑁−1
𝐹(𝑢, 𝑣) = ∑𝑁−1
𝑥=0 ∑𝑦=0 𝑓(𝑥, 𝑦) exp �−
𝑁
現在の日本の慢性的な農業人口の減少を受けて,
フィールドロボティクス研究室ではロボットコンバ
インの研究がおこなわれている.しかし稲の倒伏が
ある場合,上手く刈り取れなかったり,機械の故障
の原因となってしまう.そのため,倒伏の有無の検
出が必要となる.
これまでの研究 1)では,レーザーレンジファイン
ダによる倒伏の有無の検出 ,USB カメラ画像と
Gabor Filter による倒伏方向の検出が可能になった.
しかしレーザーレンジファインダと USB カメラ
の併用ではなく,USB カメラからの画像のみで倒伏
の有無を検出できるようにしたい.
真士
𝑗2𝜋(𝑢𝑢+𝑣𝑣)
𝑁
�
今回用いた画像は,2011 年 10 月 10 日に京都府南
丹市八木町でヒノヒカリを取得したものである.撮
影はデジタルカメラ(SONY 社,DSC-W170)で,高さ
2250mm から鉛直下向き方向に行われている.その
内訳は,倒伏 50,不倒 40 で,画像サイズは 640×480
である.
鉛直下向きに画像を取得した場合,倒伏がないと,
稲はカメラから近くに大きく映るので,画像中で葉
の作る縞模様の間隔は大きくなる.倒伏があると,
稲はカメラから遠くに小さく映るので,画像中で葉
の作る縞模様の間隔は小さくなる.この違いを以下
の方法で検出しようと試みた.なお,今回使用した
開発言語は Microsoft Visual Studio 2010 / C++ で,画
像の処理には Open CV ver2.3.1 を用いた.
2 次元フーリエ変換では画像内の各空間周波数成
分の強さを求めることができる.
(3)検出手法
水稲が倒伏している場合と,していない不倒の場
合では,稲の葉が作る縞模様の間隔が異なると考え
た.画像内の空間周波数が大きければ,縞模様の間
隔は小さく,倒伏であると判定し,空間周波数が小
さければ,縞模様の間隔は大きく,不倒であると判
定することで,倒伏の有無を検出できると考えた.
まず各画像に対して 2 次元 Fourier 変換を行った.
振幅の値は 0~255 に標準化された.次に空間周波数
を 0.08,0.17,0.25,0.33,0.42,0.50 [1/pixel]の 6 通りの閾
値で 2 つの領域に分ける.各領域において,最大の
振幅値をとる点の割合,及び最大振幅値又は 2 番目
に大きな振幅値をとる点の割合を求めた.倒伏,不
倒の画像それぞれ 10 枚ずつに対して行った.
(4)結果と考察
各空間周波数領域の,最も大きい振幅値をとる点
の割合と 2 番目に大きい振幅値をとる点まで含めた
場合の割合を図1,図 2 に示す.
図 1,図 2 のグラフにあるように,倒伏,不倒の
違いは見受けられなかった.高空間周波数が多く含
まれると考えていた,不倒画像にも多くの低空間周
波数が含まれるため,倒伏画像と不倒画像を区別で
きる差は生じなかった.
2 次元 Fourier 変換では画像全体を占める空間周波
数の大きさを考えていた.そこで次に,パターンの
特徴をより局所的に考える手法を開発する.
2.1 手法①「2 次元 Fourier 変換」
(1) 使用画像
原画像を,480×480 にトリミングし,240×240 に
圧縮したものを使用した.いくつかの画像サイズで
処理を行ったところ,圧縮しても画像内の縞模様の
特徴は捉えることができた.したがって,画像処理
を行う負担を減らすために,圧縮したものを使用し
た.
(2) 2 次元 Fourier 変換
2 次元 Fourier 変換を離散化したものは,次の式で
与えられる.
図 1 最も大きい振幅のみの場合
2.材料および手法
1
近いかを考えることで,比較する.
2 つの基準ヒストグラムベクトルとのユークリッ
ド距離を求め,より近い方に分類することで,倒伏
の検出を行った.
(4)結果と考察
画像の分割前,分割後の計画像数 430 枚の検出の
正解率を表1に記す.
表1
図2
全
可
不可
%
不倒
190
161
29
84.7%
倒伏
240
187
53
77.9%
計
430
348
82
80.9%
2 番目に大きい振幅までの場合
2.2 手法②「Local Binary Pattern」
(1) 使用画像
原画像を 480×480 にトリミングし,240×240 に圧
縮したものを使用した.また,画像データの数を増
やすため,240×240 の画像を 4 分割し,120×120 の
画像も用意した.
(2) Local Binary Pattern
Local Binary Pattern(以下 LBP)とは,ある注目画素
に対して近傍画像との輝度値の大小関係から 0/1 の
ビットを作成し,コード化する方式である.LBP の
特徴としては,濃度変化に対して不変な特徴量を求
めることができ,また計算コストが少ないといった
メリットがある.
LBP の計算には 3×3 画素領域内の画素値が使わ
れる.中心画素値とその周辺画素値の大小を比較し,
周辺画素値が中心画素値より大きければ 1 を,小さ
ければ 0 を割り当てる.各周辺画素に割り当てられ
た 0,1 の値に,中心画素から見て左上から順に 20,
21,22,23,24,25,26,27 をかけ,足し合わせて求
まる値を中心画素に割り当てる.この値を LBP 値と
いう.
(3)検出手法
LBP の処理を画像内の各画素に対して行うと,画
像内にどの LBP 値がどれだけ含まれているかがわ
かる.LBP 値は 256 段階であり,256 個のビンを持
つヒストグラムとして表わすことができる.
このようにして,各画像にヒストグラムを制作し
て,この違いを検出することで倒伏の検出を行った.
検出を行うためにまず倒伏,不倒ともに 10 画像ず
つ選び,それらを足し合わせ,倒伏・不倒の基準ヒ
ストグラムとした.新しい画像(テスト画像)を判別
するために,基準ヒストグラムとスケールが同じに
なるよう,テスト画像の LBP ヒストグラムの値を
10 倍して使用した.
比較方法は,各ヒストグラムを 256 次元のベクト
ルと考えて行う.テスト画像のヒストグラムベクト
ルが,2 つの基準ヒストグラムベクトルのどちらに
LBP の正解率
倒伏の検出率は 80.9%となった.今回の検出方法
では倒伏の向きを考慮していないが,LBP の手法で
は近傍画素値との位置関係よって値が変わる.つま
り,同じ模様・同じ縞の間隔であっても,向きが変
われば別の LBP 値を返している.そのため不倒より
倒伏の検出精度の方が悪くなったと考えられる.
3.結言
今回提案した 2 つの手法のうち LBP を用いた手法
では 80.9%の検出率となった.しかしながら実用化
に向けてはさらに検出率を向上させていく必要があ
る.
また本研究は,ロボットコンバインの走行の際,
倒伏の検出を行うというものであるので,水稲の品
種の違いによる影響についても調べなくてはならな
い,また,どの程度の範囲で検出できるかについて
も,研究していくべきであろう.加えて先行研究か
らの課題であった倒伏の角度だけでなく,倒伏の方
向の検出も今後の課題である.
1)
2)
3)
4)
5)
2
参考文献
Masuda, R., Nomura, K., Iida, M., Suguri, M. (2012):
Detection of rice plant lodging using camera and laser
range finder Proceedings of International conference of
agricultural engineering CIGR-AgEng2012, Valencia,
Spain, July, C-1888, 2012
OpenCV.jp : http://opencv.jp/
Fourier Transform 2D: http://cs.haifa.ac.il/hagit /courses/
ip/Lectures/Ip09_FFT2D.pdf
橋本雄幸(横浜創英短期大学):
画像再生構成に用いる各種フィルタの意味
http://fri.fujifilm.co.jp/med/support/images/examination/p
ack/pdf/fri_images_ex01_lecture04.pdf
画 像 特 徴 の 計 算 と 応 用
:
http://compsci.world.coocan.jp/OUJ/2012PR/pr_15_a.pdf.
愛知川扇状地における地表水と地下水の水質と農業排水の反復利用の関係
The Relationship between Surface and Ground Water Qualities and Reuse of Agricultural
Drainage Water in the Echi River Fan
Key words: Agricultural water management, Water quality, Water reuse
水環境工学分野
藤原
雅人
1.はじめに
滋賀県の愛知川扇状地は近江米の主産地であるが,
昔から農業用水不足に悩まされている.これを補う
ために農業排水の反復利用や地下水利用が行われて
いるが,実際にどの程度水不足が生じ,どれだけの
量の水が何回反復利用されているのかは把握されて
いない.反復された水は施肥や水田土壌により影響
を受けるため,当然反復されていない水に比べて水
質が異なってくるので,愛知川扇状地において水管
理を適切に行うためにはこういった反復利用の実態
を把握することが重要である.また,扇状地からの
流出水の濃度は琵琶湖への負荷量と密接に関連する
が,反復利用によって,流出水の濃度にどのように
影響するかを明らかにすることも大切である.
これを知る手掛かりとして,流域の水質に着目す
る.農業の影響を受ける水質項目は反復利用の程度
と関連する可能性があり,実際に農業の影響を受け
る水質項目は複数考えられるが,どの水質項目がど
のように関連しているかは明らかになっていない.
そこで,扇状地内の様々な水の水質からその地域
での反復利用の程度を推察するに向けて,本論文で
はその評価指標としてどのような水質項目がどのよ
うに利用できるのかを考察する.
2.方法
2.1 調査地域
滋賀県東近江市及び愛知郡愛荘町内の愛知川扇状
地を対象地域とした.この地域ではダムで取水され
た用水が主水源となっているが,堰と揚水機による
反復利用システムや複数の集水渠や揚水機などの補
助的システムが併存している.2012 年 8 月の灌漑期
後期に図 1 に示す 81 地点(地下水 10 地点,用水 20
地点,排水 32 地点,田面水 12 地点,暗渠水 5 地点,
湧水,調整池各 1 地点)において各 1 回採水を行っ
た.
2.2 採水および化学分析
採水時に,水温,電気伝導度,pH を測定し,実験
室にて主要な元素(Na,K,Mg,Ca,F,Cl,NO3,
1
図 1 採水地点
SO4,NO2,Br,PO4)をイオンクロマトグラフ法に
より測定した.また,主要元素,微量元素(Li,B,
Al,Si,Fe,As,Sr,Cd,Pb,Ba,Cs)を誘導結合
プラズマ質量分析法,および酸素・水素安定同位体
比を波長スキャンキャビティリングダウン分光法に
よってそれぞれ測定した.
3.結果と考察
3.1 反復利用程度との相関が考えられる水質項目
農業の影響を他の要因よりも大きく受ける項目が反
復利用の程度と関連すると考えられるが,ここでは,
①田面水や暗渠水において他の区分よりも高い値で
ある,②上流部では小さく下流ほど高い値である,
の 2 つを満たすことが農業の影響を相対的に大きく
受けていると判断した.
①については,他の区分の水に比べて,Ca,EC,
HCO3 が暗渠水で濃度が高く,K,F,値,As,TOC,
TP が暗渠水と田面水の両方において高い値を示し
た(図 2)
. Ca については,アルカリ土類金属元素
が肥料などの酸の影響により土壌から溶出すること
が示されている 1)ことから,これが原因であると考
えられる.同じアルカリ土類金属の Mg,Sr および
これらと高い相関にあった EC も暗渠水で高濃度で
あったが,同様に地質の影響を受ける地下水におい
ても濃度が高かったため,反復利用による水田土壌
からの溶出の影響は相対的に小さくなると考えられ
る.なお,アルカリ土類金属は HCO3 と高い相関が
あったことから HCO3 塩由来であると考えられるが,
この相関は地下水よりも暗渠水の方が高かったため,
HCO3-については水田土壌からの溶出による寄与が
大きいと考えられる.値については圃場に湛水され
る際に蒸発の影響を受けるため 2)であり,K,TP,
TOC については水田を通過することにより濃度が
上昇したもの 3),4)と考えられる.特に,
田面水で PO4-P
濃度が高かったことから,この一帯ではリン酸肥料
を使用していると考えられる.フッ素が高濃度を示
したのも,不純物としてフッ素を含むリン酸肥料の
施用のためである可能性が高い.また,ヒ素につい
ても,リン酸によってヒ素の可溶性が増加すること
が示されている 5)ことから,リン酸肥料の施用が原
因となっていると考えられる.
Ci ,採水地点 i-1 から i までの間における集水域を
Ai 及びその面積を Si,Ai における物質の負荷量を Li
とする.地点 i-1 での負荷量に Li が加わって地点 i
での負荷量となることから,
が成り立つ(図 3).したがって Ai の単位面積あたり
の負荷量 Xi は
で表される.採水地点での濃度からこの値を算出す
ることで,反復利用の程度を検討することができる
と考えられる.
図 3 単位面積当たり負荷の概念
4.まとめ
反復利用と関連する可能性のある水質項目,およ
びその水質項目を用いて実際に反復利用の程度と結
び付ける指標の可能性を示した.項目としては,K,
Ca,F,HCO3,値,TOC,PO4-P について反復利用
の程度と関係していることが推察された.また,集
水域の単位面積当たりの負荷量を反復利用回数の指
標とすることにより,より信頼度の高い相関が得ら
れると考えられる.
図 2 主な水質項目の特徴
②については, ①を満たす項目の中では,As,
OP が農業活動の少ない扇状地最上流部でも比較的
大きい値を示したため農業の影響を明瞭に表しにく
いと考えられる.
①,②を考慮すると,K,Ca,F,HCO3,値,TOC,
PO4-P が反復利用の程度と関連している可能性が高
い.
1)
2)
3)
3.2 反復利用の程度の指標化
水質濃度はあくまでも採水地点での状態を表すもの
であり,負荷量も集水域の面積に依存するため,そ
の近辺の圃場の反復利用の程度を直接表現するもの
ではない.そこで,ある水田ブロックの反復利用の
程度の指標として,以下のような集水面積あたりの
負荷量を考えることができる.
排水路に沿った採水地点 i での流量を Qi ,濃度を
4)
5)
2
参考文献
Nakano, T., Tayasu, I., Yamada, Y., Hosono, T., Igeta, A.,
Hyodo, F., Ando, A., Saitoh, Y., Tanaka, T., Wada, E.,
Yachi, S. (2008) : Effect of agriculture on water quality of
Lake Biwa tributaries, Japan, Science of the Total
Environment, 389, 132-148.
濱田洋平,薮崎志穂,田瀬則雄,谷山一郎(2004):
田面水の水素・酸素安定同位体比とそれに及ぼす蒸
発の影響,日本水文科学会誌,34(4),209-216.
宮崎成生,亀和田國彦,岩崎慎也(2005):水田を通
過する農業用水の水質変化の実態,栃木農試研報,55,
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金木亮一(1991)
:反復利用水の水質 と水田による水
質浄化効果,農業土木学会誌,59, 1275-1280.
Peryea, F. J., R. Kammereck(1995)
:Phosphate enhanced
movement of arsenic out of lead arsenate contaminated
topsoil and through uncontaminated subsoil, Water, Air,
and Soil Pollution, 93, 243 -254.
空気タイヤへの適用を目標としたタイヤのたわみ計測に関する基礎実験
On Distance Measurement Aiming for Detecting Deflection of a Rolling Tire
Key words: Distance measurement, Spot projection method, Laser sensor, Tire
農業システム工学分野 前田史名
2. 2 計測原理
1. はじめに
タイヤは地面と接触するとき,接触応力が生じ,
タイヤを変形させる.空気圧が低下すると,タイ
ヤのたわみが大きくなり,過度の発熱がタイヤに
損傷を与える.よって,タイヤには,空気圧とと
もにたわみのモニタリング機能が望まれる.
走行時のタイヤのたわみ計測には,無線でひず
みを計測できる SAW センサ [1] とコンデンサを
用いたセンサ [2] がある.しかし,SAW センサは,
タイヤ表面に直接貼り付けるため,タイヤの変形
に影響することなどの課題がある.計測精度を重
視すると,非接触で計測できるスポット光投影法
[3] が優れていると考えられる.
本研究では,平岡ら [3] のスポット光投影法に
よる研究を参考に試作したたわみ計測装置を用い,
変位を計測する基礎実験を行い,実験結果とレー
ザ変位計による計測結果を比較し,精度を確認す
ることを目的とする.将来的に,装置の取り付け
条件と装置の計測可能条件の関連付けという調整
作業は最小限に抑えたい.これらを考慮し,計測
結果がカメラの撮影方向に依らない方法を試みた.
2. 実験装置と実験内容
2. 1 実験装置
試作した計測装置は,図 1 に示すようにアル
ミ板,4 個の赤色レーザ発光モジュール(円筒
型)
(WEN TAI ENTERPRISE CO., LTD,LM-101A2)と USB カメラ (ELECOM, UCAM-DLN130T
series) から構成される.
スポット光を 640 × 480pixel の画像として撮影
し,255 段階のグレースケール画像に変換後,一
定の輝度値以上のスポット光を認識する.画像上
のスポット光の位置としてピクセル座標を得る.
画像の中央のピクセル座標は(320, 240)であ
り,スポット光のピクセル座標を(x,y) とすると,
画像中央からスポット光までの距離 r0 は,次式で
表される.
√
r0 = |320 − x|2 + |240 − y|2
(1)
ここに,r0:対象物の画像上の初期位置である.
変位後の距離 h0 + dh は,次のように表される.
r0
h0 + dh = h0
(2)
r
ここに,h0:レンズから対象物までの距離, dh:
対象物の変位, r:変位後の対象物の画像上の位置,
各スポット光につき,(2) 式を用い変位を算出
し,各スポット光における変位と平均変位を得た.
隣り合う二つのスポット光によって得られる距
離の差を用いて,二つのスポット光を結んだ直線
方向の傾きを補正した距離 h は,次式で表される.
3.5
h1 + h2
(3)
h= √
×
2
2
(h1 − h2 ) + 12.56
ここで,一つのスポット光による距離を h1 , も
う一つのスポット光による距離を h2 , そして隣り
合うスポット光の距離を,装置製作時に設定した
3.5 cm とする.幾何学的な計算の際,三平方の定
理より,3.5 の二乗である 12.56 を用いた.
たわみ計測用の画像処理には,ノートパソコ
ン(ASUS Eee PC 1000HE) を使用した.プログ
ラムの作成には,Microsoft Visual C++ 2008 と
OpenCV2.0 を使用した.
2. 3 実験内容
図 1 計測装置に取り付けたレーザモジュールと
カメラ
ゴムシートを電動スライダで移動させ,ゴム
シート表面から計測装置のレンズまでの距離を計
測した.較正として画像上の対象物の初期位置を
装置の計測プログラムに入力するため,ゴムシー
トとレンズとの距離を 12 cm に設定し,画像処理
でピクセル座標を得た.表 1 に示した各実験条件
の下でそれぞれ 3 回ずつ計測を繰り返して実験を
–1–
行った.
表 1 実験条件
条件
1
2
3
4
5
6
7
8
移動速度
(mm/s)
1
5
10
20
40
5
5
1
変位
(mm)
10
50
50
50
50
50
50
100
角度
( °)
0
0
0
0
0
5
10
0
また,レーザ変位計も供試し,ゴムシートと装
置間の距離を同時に計測した.
3. 実験結果と考察
図 2 は,条件 1 でのレーザ変位計による結果と
計測装置による結果を比較したものである.図 3
は,条件 7 での計測装置のみによる結果である.
が増加している.理論値は,120 mm から 1 mm/s
で推移している値を示す.計測装置の結果の変位
速度を,他の二つと比較したとき見られる誤差は,
計測装置の加工精度が,理論値とレーザ変位計に
よる変位の誤差は,レーザ変位計の取り付け及び
実験機器の寸法の誤差が原因と考えられる.
図 3 では,変位速度は,4.68 mm/s で推移した.
撮影角度を補正すると,4.73 mm/s であった.変位
は補正後の結果が小さくなったが,変位速度には
有意差が見られなかった.ここには示していない
が,条件 7 と傾き以外において同様の条件である
条件 2 の結果を比較すると,四つのレーザのうち
一つのレーザにおいて条件 2 による結果が上回っ
た.これは明らかな誤差であり,変位速度に有意
差の見られなかった原因であると考えられる.
また,実験結果の平均値と補正値から撮影角度
を逆算した.条件 7 では,撮影角度は 10 °に設定
したが,逆算した結果は,最大で 12.7 °で最小で
8.5 °となった.初期位置で最小値をとり,シリン
ダの移動と共に角度が増加したのは,個々のレー
ザの取り付け誤差によるもので,平均して 10.3 °
となった.
4. さいごに
図 2 条件 1 でのレーザ変位計と計測装置の距離
の比較
スポット光投影法を用いて,ゴムシートとカメ
ラが平行,またゴムシートに対してカメラの撮影
方向を傾けた場合の変位計測実験を行った.前者
は比較的精度の高い結果が得られたが,後者では,
十分な結果が得られなかった.今後,計測精度を
向上させるため,製作方法や実験方法を検討する
必要がある.
参考文献
1) Alfred Pohl, Reinhard Steindl, and Leonhard Reindl:
The ’Intelligent Tire’ Utilizing Passive SAW SensorsMeasurement of Tire Friction, IEEE Trans. Instrum.
Meas., vol.48, pp.1041-1046, Dec. 1999.
2) 松崎亮介,轟章,小林英男,島村佳伸:タイヤの
電気容量と電磁誘導変化を用いたひずみ無線パッ
シブモニタリング,日本複合材料学会誌,30,4,
157-164,2004
3) 平岡直樹,松崎亮介,轟章:デジタル画像相関法
を用いたタイヤの面内ひずみ・面外変位同時測定,
日本機械学論文集 (A 編),74 巻 746 号,2008
図 3 条件 7 での計測装置を用いた距離
図 2 に示すように,両者の結果は,時間の経過と
ともに徐々に差が開いている.初期位置では 1.39
mm の誤差があり,50 秒後には 7.24 mm まで誤差
–2–
メタン発酵消化液の液肥利用に関する研究
Study on Utilization of Methanogenic Digestate as a Liquid Fertilizer
Key words: Methane Fermentation, Digestate, Genetic Algorithm, Optimization
農業システム工学分野
1.はじめに
メタン発酵は水分が多いバイオマスから直接エネ
ルギーを得るための唯一の方法として知られており,
近年注目されている再生可能エネルギーである.メ
タン発酵プロセスで生成される消化液は液肥として
農地還元されるか固液分離や脱窒処理を施して河川
放流されているが,両者に大きな問題点があり,メ
タン発酵普及の大きな障害となっている 1).地域資
源循環の観点から,消化液取扱い方法はエネルギー
を用いた河川放流ではなく液肥利用とすることが極
めて重要であるが,成功例は少なく,確立した施用
手法は存在しない.また,消化液散布には施肥を行
う改良型スラリースプレッダ(以下,
「散布車」)と
液肥輸送を行うバキュームトラック(以下,
「運搬車」)
が必要であり,費用の問題も存在する.
現在京都府宮津市ではメタン発酵施設設置を検討
しているが,宮津市は市域が広いことに加えて施肥
適期も非常に限られているという特徴を持つ.また,
消化液は肥料成分が薄く大量の消化液輸送を伴うた
め,必要機器を最小限に抑えた効率的な施用手法を
考案する必要がある.そこで本研究では宮津市を研
究対象とし,最適なメタン発酵消化液肥散布スケジ
ュールを考案した.
2.方法および結果
本研究では,宮津市に圃場の集まる 8 つの地区を
作成し,GIS (Quantum GIS) を用いて宮津市に存在
する圃場データの管理を行った.消化液輸送量を大
幅に減少させるため,消化液を貯留する仮想の施設
(以下,
「貯留槽」
)を各地区の地区連絡所に設置し,
貯留槽の必要数検討のために 6 つのシナリオを作成
し比較を行った(表 1).
表1
シナリオ
2.1 最適運搬車台数と圃場作業時間の算出
散布車の施肥効率を最大とすることが最適化の条
件であるため,消化液補給のために運搬車を待つ時
間が存在しないような台数(以下,「最適台数」)の
運搬車を 1 台の散布車に組み合わせるとした.各圃
場の最適台数を計算するため,散布車の散布方法を
規定することにより,宮津市内に存在する全ての圃
場毎に消化液散布シミュレーションを行った.その
際,各圃場における作業時間の計算も同時に行った.
本研究で用いた散布車は前後両方に吐出口を備え付
けたものとした.
距離に依存した最適台数が得られたが,圃場形状
が最適台数に及ぼす影響も無視できるものではなか
った.本シミュレーションの結果として,貯留槽・
圃場間の距離と,最適台数との大まかな関係を表 2
に示した.
表 2 貯留槽・圃場間の距離と最適台数の関係
最適台数
2
3
4
≥5
距離[m]
< 1900
< 4400
< 7100
≥ 7100
2.2 圃場グループ化
散布車の必要台数を計算するため,1 台の散布車
が任意の 1 日(7 時間)で施肥を行う最適台数が同
じ圃場群をグループ化した.その際,栗田地区を 3
地区に分け,簡易化を図った.また,最適台数が 5
台以上の圃場は施肥を行わないとした.
本研究では遺伝的アルゴリズムを用いて圃場グル
ープ化を行った.コーディングは,遺伝子長を圃場
数,それぞれの遺伝子をグループ番号とした.
ある個体𝑖の𝑗グループの作業時間の総和を𝑡[𝑗]時
間,総グループ数を𝐺とすると,時間に関する評価
関数𝑓𝑡 [𝑖] は,
𝑓𝑡 [𝑖] = 1 + ∑ 𝑤𝑗
貯留槽数
A
宮津
1
B
シナリオ A+日置
2
C
シナリオ B+栗田
3
D
シナリオ C+由良
4
E
シナリオ D+養老
5
F
シナリオ E+吉津+府中
7
茂大朗
𝐺−1
6 つのシナリオ
使用可能な貯留槽がある地域
宮原
(1)
𝑗=0
7 − 𝑡[𝑗]
(𝑡[𝑗] < 5)
(5.5 ≤ 𝑡[𝑗] ≤ 7.15)
𝑤𝑗 = { 0
𝑡[𝑗] − 7
(𝑡[𝑗] > 7.15)
(2)
とした.また,ある個体𝑖の𝑗グループに所属してい
る圃場の圃場数を𝑛𝑢𝑚,圃場番号を𝑘,圃場番号𝑘𝑎 か
ら𝑘𝑏 への距離を𝑑𝑖𝑠𝑡𝑗 [𝑘𝑎 ][𝑘𝑏 ] とすると,距離に関す
1
る評価関数𝑓𝑑 [𝑖] は,
散布車による消化液の施肥量や施肥シナリオを決定
するが,その考慮材料となる指標を表 4 とした.
𝐺−1 𝑛𝑢𝑚−1 𝑛𝑢𝑚
𝑓𝑑 [𝑖] = ∑ ∑
𝑗=0
∑ 𝑑𝑖𝑠𝑡[𝑘𝑎 ][𝑘𝑏 ]
𝑎=1
(3)
表 5 シナリオ B のスケジュール
𝑏=𝑎+1
散布車番号
とした.これらの要素を用いて,個体𝑖の最終的な評
価関数を𝑓𝑖 とすると,
𝑓𝑖 = 1 ÷ (𝑓𝑡 [𝑖] × 𝑓𝑑 [𝑖])
(4)
とした.
最終的な結果として,各地区の最適台数毎のグル
ープ数をシナリオ毎に計算し,全体の合計として,
宮津市全域の結果を算出した(表 3).
ス
ケ
ジ
ュ
ー
ル
(
作
業
日
表 3 各シナリオの最適台数毎のグループ数
A
B
C
D
E
F
2
6
22
30
38
42
53
3
12
19
36
37
40
39
4
18
21
13
11
11
8
最適
台数
合計
39
62
79
86
93
)
シナリオ
1
作業
地区
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
2
最適
台数
3
府中
作業
地区
栗田2
3
最適
台数
4
4
栗田1
作業
地区
3
最適
台数
2
4
日置
宮津
3
2
栗田3
4
3
宮津
4
空き
2
運搬車
台数
9
9
9
9
8
9
9
9
9
9
9
9
9
9
9
9
9
9
9
9
6
表 6 シナリオ D のスケジュール
散布車番号
100
2.3 最適散布スケジュール作成
表 3 を用いて最適散布スケジュールの作成を行っ
た.作業適期を 25 日と設定し,その中で散布車と運
搬車の必要台数が最小限となるスケジュールを組ん
だ.散布車の長距離移動を避けるため,各地区にお
いて各グループに作業順番を定めた.また,地区移
動が最少となるようなスケジュールとした.
結果として,シナリオ毎の圃場面積と散布車台数,
運搬車台数,貯留槽数との関係を表 4 に示した.な
お,値は全て作業日 1 日の平均とした.また,シナ
リオ B, D, F のスケジュールを示した(表 5, 6, 7)
.
ス
ケ
ジ
ュ
ー
ル
(
作
業
日
)
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
1
作業 最適
地区 台数
2
作業 最適
地区 台数
4
栗田3
3
3
宮津
4
栗田2
3
栗田1
2
空き
2
3
4
運搬車
作業 最適 作業 最適
台数
地区 台数 地区 台数
11
11
11
11
2
由良
10
10
10
10
2
3
11
日置
11
3
11
11
11
宮津
11
11
2
11
10
3
10
3
11
11
栗田2 2
府中
4
11
空き
6
表 7 シナリオ F のスケジュール
表 4 シナリオ毎の圃場面積と必要機器の関係[ha]
シナリオ
A
B
C
D
E
F
総圃場面積
875
135
156
172
185
202
散布車台数比
2.19
2.15
1.95
1.95
1.93
2.02
運搬車台数比
0.63
0.72
0.71
0.71
0.70
0.73
貯留槽数比
87.6
67.7
51.9
43.0
37.0
28.8
散布車番号
ス
ケ
ジ
ュ
ー
ル
3.おわりに
(
作
業
日
)
宮津市内で 1 年間に生成される消化液は 8,000[t]
であると推定されているが,その全量を散布車によ
って圃場へ散布するにはシナリオ F で使用される機
器(散布車 4 台,運搬車 11 台,貯留槽 7 基)が必要
である.しかし,メタン発酵事業の初期段階では少
ない機器での運用が必要となる可能性がある.また,
本研究では基肥のみの施肥としたが,用水と同時に
消化液を流し込む追肥や,肥培灌漑による施肥もメ
タン発酵消化液の別の利用方法として検討されてい
る.それらの方法を総合的に評価することにより,
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
1
2
3
4
運搬車
作業 最適 作業 最適 作業 最適 作業 最適
台数
地区 台数 地区 台数 地区 台数 地区 台数
11
3
府中
2
11
4
11
11
3
10
9
栗田3
2
養老
9
2
9
3
2
9
日置
3
11
3
11
10
宮津
10
10
由良
10
3
2
10
3
11
3
11
栗田2
11
10
10
栗田1 2
10
吉津
2
2
10
4
10
府中
2
吉津
2
10
参考文献
1)
岩下幸司,岩田将英 (2010) :メタン発酵消化液の
液肥利用マニュアル,社団法人地域資源循環技術セ
ンター,p.14.
2
ロボットコンバインのための方位センサの性能比較
―GPS コンパス,地磁気センサ,ジャイロコンパス―
フィールドロボティクス分野
1. 緒言
農業の高齢化や就業人口の減少に対応するために
農業機械自動化が求められる.本研究室では,自動
で稲の収穫を行うロボットコンバインの開発を進め
ている.これは位置や方位の特定を,RTK-GPS 受信
機や地磁気センサ,ジャイロコンパス,加速度セン
サを内蔵した AGI-3 を用いて行っていた.しかし,
AGI-3 に内蔵された航法センサのみでは高精度な自
律走行を実現できないと判断したため,GPS コンパ
スを追加した.その結果高精度な稲の自動刈取に成
功したが,AGI-3 のみで自動刈取を行う手法を確立
できれば,今後新たに農業機械の自動化の研究を立
ち上げる際の費用や労力の削減につながる.したが
って本研究では,AGI-3 に内蔵された各方位センサ
と GPS コンパスの性能を比較し,AGI-3 に内蔵され
た RTK-GPS 受信機,地磁気センサ,ジャイロコン
パスのみで位置や方位を特定する高精度な自律航法
を開発する.
3. 実験結果
3.1 手動走行による方位センサの性能比較実験
各時間における GPS コンパスと地磁気センサ,ジ
ャイロコンパスの測定方位角の相関関係を図 1 と図
2 に示す.
-90
0
90
180
y = 1.0078x - 10.375
R² = 0.9996
-90
-180
図1
GPS コンパスと地磁気センサの相関関係
コ ジ 180
ンャ
パイ
ス ロ 90
°
]
2.3 GPS コンパスを用いない航法での自律走行実験
直進時はジャイロコンパス,旋回時は地磁気セン
サで測定した方位角を用いて操舵を行う.ただし,
直進を開始してから 4.0mは方位角を用いず位置情
報だけで方位角を決定する.これは,旋回直後はジ
GPSコンパス[°]
[
2.2 自律走行による方位センサの性能比較実験
ロボットコンバインを実際に稲の収穫を行う場合
と同じように 0.5m/s で自律走行させ,その精度を評
価する.
地 180
磁
気
セ 90
ン
サ
0
°
]
-180
各方位センサを比較し,GPS コンパスを用いずに
自律走行をさせるために,以下の 3 つの実験を行っ
た.
2.1 手動走行による方位センサの性能比較実験
各方位センサで方位を測定しながらロボットコン
バインを手動で左に 1 周以上旋回させる.測定した
方位データから各センサの性能を比較し,特性を検
証する.
裕貴
ャイロコンパスの測定方位角が不安定である傾向が
見られるため,ロボットが蛇行するのを防ぐためで
ある.また,旋回中にロボットが後進をする前後で
の位置情報からロボットの方位を求め,地磁気セン
サの測定方位角と比較する.その差が 5°以上の場合,
その次の直進時はその差を補正した方位角で操舵を
行う.
[
2. 実験方法
望月
GPSコンパス[°]
0
-180
-90
0
-90
90
180
y = 0.9784x + 23.055
R² = 0.9936
-180
図2
GPS コンパスとジャイロコンパスの相関関係
3.2 自律走行による方位センサの性能比較実験
表 1 に各実験の各直進過程における横偏差の RMS
と最大値,表 2 に各旋回過程終了直後の横偏差と方
位偏差を示す.
表 1 実験 2.2 の直進精度[m]
GPS コンパス
地磁気センサ
ジャイロコンパス
RMS
最大値
RMS
最大値
RMS
最大値
1
0.025
0.062
0.038
0.096
0.024
0.056
2
0.043
0.138
0.060
0.192
1.377
1.580
3
0.032
0.080
0.028
0.062
0.651
1.245
4
0.043
0.102
0.050
0.084
1.043
1.136
表 2 実験 2.2 の旋回精度[m,°]
GPS コンパス
地磁気センサ
より約 7°小さい値を示すが,角度の変化の傾向は
GPS コンパスとほぼ一致する.自律走行実験ではし
ばしば直進過程で蛇行が見られた.それに対してジ
ャイロコンパスは,手動走行実験では走行時間が長
くなるほど GPS コンパスとの測定の差が大きくな
り,自律走行実験では最初の直進の精度は良いが旋
回の精度が低くそれ以降はまともな走行ができなか
った.これらの結果を考慮して 2.3 のように航法セ
ンサとして直進時はジャイロコンパス,旋回時は地
磁気センサを用いる航法を開発した.目標速度を
0.5m/s とした実験では従来の GPS コンパスを用いた
航法と同程度の精度で走行させることができたが,
速度を 0.7m/s に上げると,誤差を積算するというジ
ャイロコンパスの特性により走行時間が長くなると
大きな誤差が見られた.
5. 結言
ジャイロコンパス
横偏差
方位偏差
横偏差
方位偏差
横偏差
方位偏差
1
-0.138
-6.820
-0.192
-4.830
-1.506
-4.83
2
0.027
-5.300
-0.021
-1.280
-1.177
11.86
3
0.032
-7.130
0.060
-5.340
-1.057
12.5
4
0.836
-16.734
-0.155
-8.400
-2.073
19.19
AGI-3 に内蔵された各方位センサの性能を比較し,
それらを組み合わせたロボットコンバインの航法を
開発したが,従来の GPS コンパスを用いた航法を比
較すると精度が低い.更に精度を向上させるために
は,ジャイロコンパスが積算する誤差を補償するこ
とが必要である.
参考文献
3.3 GPS コンパスを用いない航法での自律走行実験
1)
表 3 に各直進過程における横偏差の RMS と最大
値,及び旋回過程終了直後の横偏差と方位偏差を示
す.
ア,No. HEM-MNL-V100UG-0002
2)
3)
横偏差
方位偏差
杉本末雄,2010,GPS ハンドブック,朝倉書院,
289-290
4)
旋回
三菱コンバイン取扱説明書レセルダ VY446,三菱農機
株式会社,No. 040909-3628831003
表 3 実験 2.3 の直進精度と旋回精度[m,°]
直進
V100 / V110 取扱説明書 Rev.B1,株式会社ヘミスフィ
元木靖,2006,食の環境変化
日本社会の農業的課
題,古今書院,13-16
RMS
最大値
1
0.049
0.124
2
0.082
0.198
-0.198
-7.980
3
0.076
0.150
-0.150
0.380
4
0.118
0.168
-0.168
-2.790
Unmanned Mobile Robot in Urban Areas, Proceedings of
5
0.144
0.308
-0.210
9.060
the 2011 IEEE International Conference on Mechatronics
6
0.216
0.320
-0.202
-1.830
7
0.108
0.200
-0.198
-3.830
8
0.127
0.149
-0.116
3.570
a robot platform in a sugar beet field ,BIOSYSTEMS
9
0.101
0.230
-0.131
0.650
ENGINEERING 109 (2010) 357-368
5)
J. Backman, T. Oksanen, A. Visala, Navigation system for
agricultural machines: Nonlinear Model Predictive path
tracking, Computers and Electronics in Agriculture 82
(2012) 32-43
6)
Autonomous
Navigation
for
an
Tijimen Bakker, Kees van Asselt, Jan Bontsema, Joachim
Muller, Gerrit van Straten, Autonomous navigation using
8)
実験 2.1 と 2.2 から各方位センサの特性が検証され
た.まず地磁気センサは常に GPS コンパスの測定値
Zhang,
and Automation (2011) 2243-2248
7)
4. 考察
Jisheng
総務省統計局,“グラフで見る日本の統計”
< http://www.stat.go.jp/data/nihon/g1507.htm >
肉牛の個体別自動瞳孔画像計測装置の研究
Automated Image Capture of Individual Cattle Pupil
Key words: Beef cattle, Automatic image capturing, Identification
農産加工学分野
1.研究背景
森迫
龍也
3.自動画像撮影
牛脂肪交雑基準(BMS)の値が高い肉は霜降りと呼
ばれ市場価値が高い.このような牛肉を生産するた
めに,肥育中期の牛の血中ビタミン A(Vit. A)濃度を
制限する手法が採られている.血中 Vit. A 濃度が低
ければ脂肪細胞の分化が促進され,BMS が高くなる
ことが知られているが 1),過剰に血中 Vit. A 濃度を
低くしてしまうと肉牛の健康を損なう.きめ細かな
栄養管理を行い,Vit. A 欠乏症のリスクを低減する
ためには,適切な Vit. A 測定ツールが必要となる.
従来の血中 Vit. A 濃度測定法は高速液体クロマト
グラフィー(HPLC)を用いる血液検査であるが,時間
とコストを要し侵襲的であるので代替法が期待され
ている.これに対し本研究グループでは牛の瞳孔の
画像を用いる手法を提案している.牛の瞳孔画像に
おいて,瞳孔の色と眼球表面の光反射強度と瞳孔収
縮速度のそれぞれが血中 Vit. A 濃度と相関を示し,
これらの 3 要素を組み合わせた迅速かつ安価で非侵
襲な Vit. A 推定法の研究が進められている.しかし
現状の瞳孔画像による推定法は推定精度と画像取得
の作業コストに課題がある.
3.1 実験方法
画像入力装置は 2 台のウェブカメラ(C920,ロジク
ール製)を持ち,うち 1 台のみ PL フィルムを取り付
けた.光源の 4 個の LED (ASMT-MxE0,AVAGO
TECHNOROGIES 社製)にも PL フィルムを取り付け
ている.また牛の水飲み場への入場を検出する距離
センサ(GP2Y0A21YK0F,SHARP 製),およびそれら
を取り付けるアルミ板を有する.牛舎の水飲み場横
にこの自動画像撮影装置を設置する.実験装置の設
置の様子と各部の寸法を図 1 に示す.距離センサに
より牛の頭部の水飲み場への挿入を検出し,光源の
点灯と同時に撮影を開始する.実験は 2012 年 11 月
29 日から 2013 年 1 月 24 日にかけて行われた.
2.研究目的
上記の課題の解決のために自動画像撮影装置を導
入する.先行研究では画像取得に手間がかかるため,
一ヶ月に一度しか牛の画像を取得していない.自動
撮影を導入することで画像取得を省力化し,毎日行
うことができる.さらにそれらのデータの移動平均
をとることで推定法の高精度化が期待できる.
Vit. A 推定のための自動画像撮影装置に必要な性
能は 3 点ある.1 点目は作業面でコストを抑えるた
めに自動制御で画像を撮影することである. 2 点目
は Vit. A 推定に必要な情報(瞳孔の色,眼球表面の光
反射強度,瞳孔収縮速度)を含む画像を取得すること
である.そして 3 点目が撮影した画像がどの牛のも
のか分かることである.これは画像から解析された
Vit. A のデータが肉牛の個別管理に利用されるため
である.本研究の目的はこの 3 点を踏まえた試作機
を作成し,自動画像撮影と個体識別について実験で
その精度を確かめることである.
図1
自動撮影装置の設置の様子と各部の寸法
3.2 実験結果
自動撮影は飲水の多い給餌後で 1 時間に 100 回程
の頻度で行なうことができた.撮影した画像のうち
2 割ほどが瞳孔部分が写っている画像で,それ以外
は牛が飲水していないときに画像入力されていた.
これは画像入力のトリガが距離センサのみであり,
牛の飲水行動とタイミングがずれることによる.こ
ため瞳孔収縮の速度測定において散大した瞳孔部分
が観察できなかった.瞳孔収縮は明順応なので,観
測するためには LED 点灯時にカメラに瞳孔が写っ
ていなければならない.さらに瞳孔が写っている画
像のうち,瞳孔領域があいまいで解析に不向きな画
像について,主な原因を表 1 にまとめた.
1
の牛について合計 27 回の飲水を感知し,そのとき水
飲み場にいる牛の個体識別に成功した.水飲み場の
近くにいるだけで飲水していない牛を読み取る例が
見られたが瞳孔画像との対応付けという目的のうえ
では問題はない.図 4 に示すような複数頭の牛が水
飲み場の近くにいるときが 4 回あったが,飲水中の
牛を識別できた.
表1 瞳孔画像取得の成否にかかわる課題
項目
課題(上段)と対策(下段)
照明と対象との距離が変化し明るさがばらつく.
光
量
距離センサーに A/D 変換器を付加し
画像入力時に距離を対象までの測定する.
ま
つ
毛
飲
み
方
ぶ
れ
まつ毛が瞳孔にかかり,瞳孔部分が暗くなる.
まつ毛を切る.カメラの光軸角度を上向きにする.
舌ですくいながら飲む場合に顔の位置が不安定.
舌を使わず吸い込みで飲む場合のみを使用する.
牛が前後運動を繰り返し,ぶれが見られる.
シャッタースピードを 1/30 秒より速くする.
瞳孔の色と眼球表面の光反射については先行研究
の手動による画像と似た傾向の画像が得られた.瞳
孔領域は色相と彩度によって二値化することができ,
Vit. A 推定に供することができると考えられる.瞳
孔が写っている画像とその二値化の例を図 2 に示す.
図4
水飲み場近くに複数の牛がいる場合
しかし 22 日以降の長期間の個体識別については
タグの損耗により失敗した.タグが読み取りに成功
した牛の頭数を表 2 に示す.タグが損耗した原因は
湿気,汚れ,折り曲げなどと推測される.電子回路
がプラスチックに封入されたタグ等を利用し,より
長期にわたる個体識別の実証をする必要がある.
表2
個体識別に成功した頭数
12 月
図2 得られた画像例(左)と瞳孔部分の二値化(右)
1月
日付
21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 1 2 3 4 5 6 7
4.個体識別
頭数
4.1 実験方法
図 1 に示すように水飲み場横に RFID リーダ
(UP-100(f)-J2,ソーバル株式会社製)を設置した.図
3 に示す電波の受け手となるタグ(TFU-TL87x,富士
通フロンテック株式会社製)は牛の左耳標に貼った.
予備実験から 20 cm 以内を有効な読み取り範囲であ
ると定め,飲水中の牛のみ耳標が読み取り領域に入
るように位置を決定し個体識別を行った.個体識別
機能が動作するか確かめるために 2012 年 12 月 21
日 13 時から 15 時までの 2 時間,個体識別と同時に
ビデオ映像で水飲み場に来た牛の耳標の番号を撮影
し,RFID による個体識別を検証した.またビデオ映
像なしでその後も個体識別を続け,2013 年 1 月 7 日
まで計 18 日間継続した.
図3
7 3 3 2 3 1 2 1 2 2 1 3 2 2 2 1 1 2
(頭)
5.結論
高品質牛肉生産における Vit. A コントロールシス
テムの測定ツールとして,牛の目の画像を自動的に
撮影する装置を試作し,個体識別と自動画像計測に
ついて性能を検証した.画像計測において瞳孔が写
っていたのは全体の 2 割ほどだった.瞳孔領域の明
確な画像が得られ,そうでない場合の課題を明らか
にすることができた.個体識別についてはタグの頑
健性の影響で 1 日以上の長期的な有効性を検証でき
なかった.ただし RFID リーダの読み取り範囲をも
とに設置場所を調整することで,周囲の牛の集団と
誤ることなく飲水中の牛の識別できる可能性が示さ
れた.より耐環境性の高いタグで長期間の個体識別
を実証することが期待される.
1)
使用した RFID タグ
4.2 実験結果および考察
ビデオ撮影した 2 時間において,対象にした 7 頭
2)
2
参考文献
A. Oka et al.: Influence of Vitamin A on the Quality of
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森迫龍也:肉牛の個体別自動瞳孔画像撮影装置の研
究,農業機械学会関西支部報,2013 掲載予定
近接照射による植物工場の電力コスト削減に関する研究
Study on Energy-Saving Method using Spotlight System for Plant Factory
Key words: LED, Plant Factory, running cost,
農業システム工学分野
安井
伸太郎
こととした.図1にそれぞれの光源を示す.LED1
個,LED3個のものは試作し,ライン LED は市販品
(シバサキ㈱製)である.また,図2に移植後の1
LED での栽培の様子を示す.
1. 背景
昨今,植物工場が新しい食料生産システムとして
注目されている。植物工場とは,閉鎖空間において
温湿度などの環境を調節して,人工光を用いて植物
を栽培するもので,栽培エリアが外界から遮断され
ているので,気候の影響を受けず野菜の周年栽培が
可能で,安定した収量を得ることができ,害虫や病
原菌の心配がないため無農薬栽培が可能である。
しかしながら,露地野菜にと比較して生産コスト
が高いことが植物工場の普及・発展を妨げる大きな
要因となっている。完全制御型植物工場における野
菜の生産コストのうちランニングコストの占める割
合が約 30%となっており,これを低減することが課
題となっている。ランニングコストの内訳をみると,
照明に要する電気代が大きな割合となっており,効
率的な照明方法の開発が必須となっている。
従来の植物工場では全栽培期間を通して栽培パネ
ルに均一な光を照射する方法が採用されており,移
植直後の植物が小さいときには,植物を照射されて
いる割合よりも栽培パネルに照射されている割合が
多い。
そこで本研究では,LED とレンズを用いて照射範
囲を絞り,植物が存在している空間のみに光照射す
ることでランニングコストを削減する放射方法を開
発することを目的とする。
図1
2. 実験材料及び方法
移植後の栽培に使用した LED
図2 1LED での栽培の様子
供試植物はリーフレタス( Lactuca sativa L.
“Greenwave” )を用いた。培養液は大塚化学 A 処方
とし,肥料管理機(セムコ,らくらく肥料管理機)
により pH6.0,EC1.2 に調整した。栽培環境は,温度
23℃,湿度 70%に設定した.グリーンウェーブはウ
レタン培地に播種し LED 光源下で1週間育苗した
のち,本圃の水耕装置に移植した。
移植後の光源には成長ステージに応じて照射範囲
を増加させるため,全ステージを3つの区(初期,
中期,末期)に分け,初期にはリーフレタス1個体
あたり LED1個(以後,1LED と呼ぶ),中期には
LED3個(同,3LED),末期はライン LED を用い
ることを想定し,それぞれの光源で移植後何日まで
正常な生育が可能であるのかを実験により確認する
ライン LED は RGB のマルチチップで,各色の出
力を独立に調節できる。今回は各色を同量出力し,
白色光を照射した。このライン LED は照射範囲が広
いため,栽培パネル面に占めるレタスの面積が大き
くなる栽培末期の均一な光条件を実現する光源とし
て用いた.
栽培実験では,1LED 区,3LED 区,ライン LED
区でそれぞれリーフレタスを栽培した。週に数回レ
タスの生体重を測定し,レタスを栽培するのに十分
な光強度を有するライン LED のみを利用して生育
した場合の生体重の経時変化を理想値として,1
LED 区および3LED 区のリーフレタスの生体重が
ライン LED 区での生体重に近づくように調節した。
1
具体的には,1LED 区および3LED 区での生体重が
ライン LED 区の生体重よりも小さくなったら,レタ
ス個体全体に十分な光が照射されていないと判断し,
光源の高さを高くすることで照射範囲を拡げた。こ
れに伴って光強度が弱くなるので,キャノピーレベ
ルで約 500mol m-2 s-1 の光合成光量子束密度が得ら
れるように電流を調節した。
3. 結果および考察
それぞれの実験区における生体重の経時変化を図
3に示す。この結果から,15 日目付近までは 3 種類
の光源において非常に似通った成長推移が観察され,
また 25 日目付近までは3LED とライン LED で同様
の成長推移が得られた。そこで,1LED とライン
LED および3LED とライン LED における生体重の
標準偏差を計算した結果を図4に示す。この結果,
1LED とライン LED の間では 15 日以降に標準偏差
が急激に増加しており,また3LED とライン LED
では 24 日以降に増加していることが判明した。した
がって,1LED の光源のもとでは移植後 15 日目ま
ではライン LED とほぼ同様の成長が可能で,3LED
の光源のもとでは 24 日目までライン LED のもとで
の成長とほぼ同様であることが明らかとなった。
このことから,0 日目から 15 日目までは 1 スポッ
ト LED で照射し,16 日目から 24 日目までは 3 スポ
ット LED で照射し,26 日目から 30 日目まではライ
ン LED で照射することで,ライン LED のもとでの
成長と同様の成長をしつつ,栽培パネルへの照射な
ど無駄な照射を無くし照明に要する消費電力を劇的
に低減することが期待できる。
次にこの近接照明装置を使用することによる電力
削減効果を検討する。従来の植物工場のようにライ
ン LED を 30 日間使用した場合の 1 株当たりに要す
るの消費電力は 19410.0Wh である(ただし本実験で
使用したライン LED の場合)。これに対し,15 日間
1 スポット LED で照射し,その後 10 日間 3 スポッ
ト LED で照射し,最後にライン LED で 5 日間照射
した場合の消費電力は,4422.4Wh であった。つまり,
近接照明装置を導入することで約 77%の照明電力
を削減することが可能となる。
4. 結言
本研究により人工光型植物工場の照明に要する消
費電力を大幅に削減することが可能であることが判
明した。栽培ステージによって光源が異なることを
現場レベルで実現するには,DFT などの水耕栽培で
長い栽培ベッドを設置し,片側で移植を行い,毎日
栽培パネルを移動させ反対側で収穫するような方法
を採用すれば,成長ステージに合致した光源を設置
することができる。人工光型植物工場のコスト削減
は喫緊の課題であり,本研究ではこれを実現するた
めの具体的な方法を提案できたと考える。
1)
図3
3 種の光源のもとでの生体重の経時変化
2)
3)
4)
5)
図4 1LED とライン LED および3LED とラ
6)
イン LED における生体重の標準偏差
2
参考文献
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森 康裕,高辻 正基,安岡 高志:白色 LED パルス光
がサラダナ生育に及ぼす影響,.
植物工場学会誌,Vol.14,No.3;p.136-140(2004)
森林流域からの渓流水に含まれる放射性セシウムのモニタリングと負荷量の推定
Monitoring concentration of radiocesium and estimating its load in stream water
from a mountainous catchment area
Key words: Radiocesium, Rainfall, Load, Catchment
水環境工学分野
山本 直輝
1.
背景と目的
の吸着態セシウム濃度(水中の SS 付着性放射性 Cs
濃度,Bq‧L-1)を②と④から計算した.採取した渓
流水を濾過・凝縮させ,SS 濃度を算出し,ゲルマニ
ウム半導体検出器を使用したガンマ線分光分析によ
って溶存態と吸着態の各放射性セシウム放射能量を
測定した.採水は,低水時はマニュアルで,降水時
には自動採水器を用いて行った.なお,採水地に近
接した地点で降水量を計測した.
2011 年 3 月 11 日,東北地方太平洋沖地震とその
後に発生した大津波によって,福島第一原子力発電
所で爆発事故が起こり,放射性セシウムなどの放射
性物質が大気中に放出された.そのうち,セシウム
134(134Cs)とセシウム 137(137Cs)の半減期はそれ
ぞれ約 2.1 年と約 30.2 年と長く,それらが地面など
に沈着していることによって周辺地域では今もなお
比較的高い空間線量が観測されている 1).1986 年 4
月 26 日に発生したチェルノブイリ原子力発電所の
爆発事故以来,放射性セシウムに関する研究が世界
中で為され,様々な環境中における放射性セシウム
の動態が解明されてきた.例えば,放射性セシウム
は水に溶けやすく,粘土鉱物に吸着されやすい 2).
そのため,集水域からの 137Cs 輸送と集水域内での
137
Cs 再分配は主に細粒な鉱物土壌粒子への吸着態
で発生する 3).また,河川流量の増大が集水域から
流れる渓流水中の放射性セシウム濃度の増加に強く
影響を与えていることが解明された 4), 5).日本は年
間降水量が比較的多い気候であり,福島県は冬にな
ると降雪があるため,降水と雪解けによる河川流量
増大が考えられる.福島県では灌漑水を主に山地集
水域からの河川水に依存しており,生活用水として
も利用するため,山地からの渓流水中の放射性セシ
ウム濃度をモニタリングし,その濃度や負荷量を定
量化することは必要不可欠である.したがって,本
研究では,福島県内のある山地集水域から流出する
渓流水をモニタリングすることにより,降水時と低
水時(無降水時)における渓流水中の放射性セシウ
ム濃度を明らかにするとともに,放射性セシウムの
流出負荷量を推定することを目的とした.
2.
3.
結果と考察
低水時(計 4 回)に採取した渓流水中の放射性セ
シウム濃度(溶存態+吸着態)の測定結果は 0.15~
0.32 Bq/L となった.厚生労働省が 2012 年 4 月に新
しく設定した飲料水中の放射性物質の基準値は 10
Bq/L であるため 6),これは非常に低レベルの放射性
物質濃度であることがわかる.
降水時での観測イベント(計 4 回)のうち,2012
年 7 月 23 日の降水イベントにおける観測項目の経時
変化を例として図 1 に示す.降水により流量が増加
し,水中 SS 濃度,水中の SS 付着性放射性 Cs 濃度,
SS の放射性 Cs 濃度に大きく影響していることがわ
かる.
降水時(計 4 回)の降水量と放射性 Cs 負荷量の
関係を図 2 に示す.図 2 より,降水量と放射性 Cs
負荷量には密接な関係があることがわかる.この関
係性を 4 つの近似曲線で場合分けし,2012 年 6 月 8
日から 2012 年 12 月 1 日までの期間(計 177 日間)
の降水時における放射性 Cs 累計負荷量を推定した
(表 1)
.また,低水時の計 4 回の測定結果のうち,
最高値の 0.32 Bq/L と最低値の 0.15 Bq/L を用いて,
同期間中の低水時における放射性 Cs 累計負荷量の
最低値と最高値を推定し,降水時と比較した(表 1)
.
表 1 より,低水時の最高値と最低値,降水時の核
種近似式での平均値を考慮すると,約半年の期間中
に流出した放射性 Cs 累積負荷量の約 85~92 %が降
水時の負荷量であることが推定された.しかし,低
水時の水中放射性 Cs 濃度を測定したのは 4 回のみ
であり,降水時における観測項目の実測も同じく 4
回のみであるため,より正確な負荷量を推定するた
めには観測項目の測定回数を増やし,降水イベント
の様々な規模的条件を考慮する必要があると考えら
れる.負荷量の推定結果より,降水イベントが放射
材料・方法
2012 年 3 月,福島第一原子力発電所から北西約 40
km に位置する集水域から流出する渓流において観
測を開始した.集水域はほぼ山地であるが,一部耕
作放棄も含まれている.観測項目は集水域末端での
①流量,②渓流水中の懸濁物質(SS)濃度(mg‧L-1),
③水中溶存態放射性セシウム濃度(Bq‧L-1),④懸濁
物質への吸着態放射性セシウム濃度(SS の放射性
Cs 濃度,Bq‧kg-1)である.また,水中の懸濁物質へ
1
70
降水時累積Cs負荷量(Bq/m2)
降水量(mm)
15
10
5
0
10
20
30
40
50
60
60
50
40
30
20
10
0
2012年7月23日0:00からの経過時間(h)
0
20
40
60
80
降水量(mm)
100000
1
図 2 降水時における降水量と放射性 Cs 負荷量の関係
0.9
10000
0.8
1000
0.7
0.6
100
0.5
10
0.4
0.3
1
0.2
0.1
0.1
0.01
0
10
30
流量(mm/10min)
SS(mg/L), Cs(Bq/L), Cs(Bq/kg)
SS濃度(mg/L)
水中のSS付着
態放射性Cs濃
度(Bq/L)
表 1 2012 年 6 月 8 日~2012 年 12 月 1 日の低水時と
降水時における放射性 Cs 累積負荷量(Bq m-2)
SSの放射性Cs
濃度(Bq/kg)
低水時
溶存態放射性
Cs(Bq/L)
降水時
最低値
最高値
線形近似式
(1)
28.07
59.89
297.34
流量
(mm/10min)
線形近似式
(2)
対数近似式
(3)
累乗近似式
(4)
473.01
295.07
276.04
平均 335.37 Bq/m2
50
2012年7月23日0:00からの経過時間(h)
図 1 降水イベント(2012 年 7 月 23 日)の降水量,河川
流量,渓流水中の SS 濃度,SS 付着性放射性 Cs 濃度,
溶存態放射性 Cs 濃度,SS の放射性 Cs 吸着濃度
性 Cs 負荷量を増大させていることは明らかである
ため,降水時の渓流水利用には十分な注意が必要で
ある.また,負荷量が小さいと推定された低水時の
渓流水でさえも,安易な長期利用は避けるべきであ
る.
溶存態放射性 Cs 濃度は低水時に 0.03~0.06 Bq/L
であり,2012 年 9 月 4 日の降水時には 0.24 Bq/L に
まで上昇した.溶存態放射性 Cs の起源は渓流に沿
った場所に堆積した落葉などの有機物からの溶出で
はないかと考えられる.溶存態放射性 Cs は作物に
吸収されやすいため,濃度が低いとはいえ,これに
対する対策も考慮しなければならない可能性がある.
性物質負荷量の他地点での精密な定量化も必要とな
ろう.
謝辞:福島県内の調査地区の関係諸氏および共同研究者で
ある産業技術総合研究所に感謝申し上げる.
1)
2)
3)
4)
4.
まとめ
本研究により,調査対象の山地集水域からは放射
性 Cs によって汚染された渓流水が常に流出してい
ることがわかった.とくに,降水時に流出する渓流
水の汚染度は低水時に比べて高く,放射性 Cs の再
分配と汚染拡大の危険性は考慮すべきと考えられる.
長期的にみれば低水時における放射性 Cs 累積負荷
量も無視することはできない.
福島県の農業再建と継続的な住民生活を保障する
には,相当な議論が必要となるだろうが,その判断
材料として,渓流水の長期的なモニタリングと放射
2
5)
6)
引用文献
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パルス光照射がリーフレタス(Lactuca sativa L. “Greenwave”)
の成長に与える影響に関する考察
Study on Effect of Pulse Light on Growth of Leaf Lettuce (Study on Effect of Pulse Light on
Growth of Leaf Lettuce (Lactuca sativa L. “Greenwave”) L. “Greenwave”)
Key words: Photosynthetic rate, Growth, Pulse, LED
農業システム工学分野
1.背景
吉田
豊
射で純光合成速度は有意に高くならなかった.
昨今はニュースなどでも植物工場が取り上げられ,
今後のより一層の拡大が期待されている.その理由
として,一年中 4 定(定時,定量,定質,定価格)が
実現できる,栽培不適地等の有効活用が可能,無農
薬栽培により消費者の安心,安全志向のニーズに応
えることができる,などが挙げられる.
しかしながら,植物工場産レタスの価格は露地物
に比べ一般に高価である 1).また,現在稼働してい
る植物工場のうち 6~7 割が赤字という報告 2)もあり,
生産の効率化による低価格化が欠かせない.そこで
本研究では,LED を一般の連続光照射ではなくパ
ルス光照射にすることで,生産量の増大やコスト
ダウンが可能かどうかを検証することを目的と
した.
図 1 パルス周期がサラダナの成長率に与える影響 4)
3.実験材料および方法
供試植物としてリーフレタス (Lactuca sativa L.
“Greenwave”)のグリーンウェーブ(タキイ種苗株式
会社)を用いた.光源として,赤・青色 LED(Philips
Lumileds, LUXEON Rabel, LXML - PD01-0040・LXML
- PB01-0023)を用い,集光レンズ(Carclo, Opticselect)
を使用した.
栽培実験では,環境は温度 23℃,湿度 70%に設定
した.培養液は pH=6,溶液濃度 EC=1.2[mS/cm]であ
る.播種初日はトレイにラップでふたをして冷蔵庫
に入れ,2 日目は冷蔵庫から取り出し,ふたをした
まま薄暗いところに置く.3 日目はラップを外し,
赤青緑のマルチチップ LED から構成される LED 下
に移動させ 7 日間置いて発芽させた.その後,各実
験区下へ移し 4 週間(28 日間)栽培を行った(写真 1).
光源は赤色 LED2 つ,青色 LED1 つの計 3 つを 1 セ
ットとしたものを用い,Duty 比は 50%とした.
2.既往の研究
パルス光照射の植物栽培への適用は,蛍光灯を利
用していた頃から試みられてきた.池田ら 3)は周期
10ms(明期 5ms,暗期 5ms)のパルス光照射と商用周
波数(60Hz)の蛍光灯照射による岡山サラダナの生育
比較実験を行い,パルスによるワット当たりの生体
重量の増加が約 20%増えたと報告した.
LED によるパルス光照射に関する実験において
は,森ら 4)によるものがある.彼らは光合成の反応
経路における明反応と暗反応に着目し,明反応系に
おける律速因子として光化学系Ⅱの反応中心クロロ
フィル P680 の還元時間が 200μs であることから,そ
れを周期の中心としサラダナの成長率と光合成速度
の比較を行った.そして Duty 比 50%固定で,パル
ス周期 400μs のとき連続光と比較して成長率が約
23%増大することを発見した(図 1).光合成速度にお
いても,成長率と同様の結果となった.
また地子ら 5)も白色 LED を使用してコスレタスの
純光合成速度の比較実験に関する報告をしている.
結果は,Duty 比 25%のパルス光および Duty 比 50%
かつ周波数 0.8kHz 以下のパルス光照射下で連続光
照射下と比較して純光合成速度は低く,パルス光照
写真 1 栽培実験の様子
1
光 合 成 速 度 測定 実 験 では 光 合 成 蒸 散 測定 装 置
(LI-6400,LI-COR)を用いた.チャンバの温度 20℃,
CO2 濃度 400ppm と設定し,光源の種類や PPF は各
実験に応じて電流や電圧を変化させ調整した.光源
は赤色 LED2 つ,青色 LED1 つの計 3 つを 1 セット
としたものを,4 セット用いた.Duty 比は 50%であ
る.測定は LI-6400 の AutoLog プログラムを使用し
て 10 秒ごとに測定,30 分に一度マッチを行った.
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
4.結果及び考察
4.1 栽培実験
全 5 回の実験を行った.そのうち地子ら(2012)の
研究を参考に,連続光とパルス光:10kHz(100μs),
0.5kHz(2ms)の 3 実験区で実施した 5 回目の実験結果
について示す.図 2 は単位光量子束密度あたり生体
重増加の推移を表すグラフである.なお,横軸は移
植後の日数,縦軸は単位光量子束密度あたりの生体
重[ g / (μmol/m2s) ]を表す.
図 3 パルス光の周波数を変化させたときの光合成速度
特定のパルス光の周波数で光合成速度の増加は見
られなかった.なお,他 8 回の実験では,栽培実験
に合わせた周波数に設定したり,赤色 LED のみや青
色 LED のみなどを光源にしたりと様々な条件下で
光合成速度の測定を行ったが,同様にあるパルス光
の周波数での光合成速度の増加は観測されなかった.
0.25
4.3 考察
森ら 4)のような結果が得られなかった理由として,
品種や光源の違いが考えられる.品種によっては,
パルス光照射の方が連続光照射に比べて有意に成長
するという報告があるようだ.また,栽培実験にお
いては地子ら 5)の報告から予想された低周波数での
成長率の減少は見られなかった.これに関しては,
光合成速度と異なり栽培には非常に長い日数を要す
るため,植物がそれに合わせて形態形成を変化させ
たことが考えられる.その他にも植物のエネルギー
蓄積や熱放散への影響など様々な要因が考えられる
が,既報 3)にもあるように,現地での生産を考える
場合には,消費電力,さらにはパルス波発生装置の
初期投資なども含めたトータルでのコスト面からど
ちらが優位か考える必要がある.
0.2
0.15
連続光
0.1
10kHz
0.05
0.5kHz
0
-0.05
図 2 単位光量子束密度あたり生体重増加の推移
グラフからも分かるように,連続光とパルス光で
はほぼ差が無いことが分かる.この他にも,最大葉
長,葉枚数,茎長,乾物率の値を計測し,個々のば
らつきを考慮した一元配置の分散分析を行ったが,
連続光とパルス光間で有意差は認められなかった.
第 1~4 回の実験では,森ら 4)の報告を踏まえてパル
ス光周波数(周期)は 2.5kHz(400μs)や 5kHz (200μs)な
どで設定したが,同様に連続光とパルス光において,
全ての値で有意差が認められるような特定の傾向は
見られなかった.
1)
2)
4.2 光合成速度測定実験
全 9 回の実験を行った.そのうち,PPFD 約 450
μmol/m2s,播種後 25 日のレタスに 4.0kHz のパルス
光を約 30 分,2.5kHz のパルス光を約 1.5 時間照射し
て環境に順化させた後,1.0kHz→7.0kHz→1.0kHz
(1 分で 0.1kHz,10 分で 1kHz)とパルス周波数を連続
的に変化させて行った実験結果を示す(図 3).なお,
横軸は経過時間,縦軸は光合成速度[μmolCO2/m2s]
を表す.
3)
4)
5)
2
参考文献
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地子智浩,富士原和宏,西野恭平,木村圭佑,松田怜,
谷野章「パルス光照射が植物の純光合成速度に及ぼす
影響に関する考察」 日本生物環境工学会 2012 年東
京大会 50 周年記念大会 講演要旨 344-345,2012 年
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